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2015年10月 6日 (火)

本日の雑感は雇用の正規・非正規と雇用の質について!

先週金曜日に失業率や有効求人倍率などの雇用統計が公表され、昨日の月曜日に毎月勤労統計が公表されており、現状は踊り場的な様相を呈している足元の雇用指標を大雑把に見つつ、改めて、ほぼ完全雇用に達した我が国の労働市場において、この先、人手不足や原油価格の低下などにより賃金上昇や正規雇用の増加などが進むんではないかとの期待を私は持っています。他方で、規制改革の一環として、雇用は医療や農業などともに「岩盤規制」と称して、正社員の非正規化などが進められようとしており、私はやや疑問に受け止めています。
ということで、雇用に関して、このところ私が考えている論点について、2点ほど自論を展開して見たいと思います。第1に正規雇用と非正規雇用について、私は正規雇用を圧倒的に重視していますが、その理由は、生産性を向上させるための教育訓練と将来展望を持った消費の安定的な支出を考慮すれば、圧倒的に正規雇用を重視すべきだからです。しかし、企業サイドの論理によって、最近の雇用流動化の政策について、まるで正規雇用まで非正規化に向かいかねないような勢いで、解雇をしやすくすれば雇用が増加するがのごとき論調がまかり通っていますが、私には大いに疑問です。雇用契約の解除、すなわち、解雇がしやすく定着率の低い非正規雇用や派遣労働などでは、企業の方で積極的なOJTやOffJTによる教育訓練のインセンティブが落ちます。ですから、正規雇用と非正規雇用では生産性に差がある場合がほとんどです。さらに、ですから、賃金に差が出ます。正規雇用でも解雇しやすいシステムとなれば、従業員に対する企業の教育訓練のインセンティブは大きく損なわれる可能性があります。従業員の方でスキルアップのために自腹で語学教室に通ったり、資格試験のための勉強をしたりすることが必要となれば、実質的な賃金ダウンにもなりかねません。それに、解雇しやすい雇用システムの下では、将来に及ぶ所得流列において不確実性が高まり、消費を圧迫する可能性が高いと見るべきです。現下の消費不振の原因のひとつも将来不安であることは明らかです。
第2の論点は、世界的に見ても高い日本人の生産性に比べて適切な賃金が支払われなければ、労働者の質が低下する可能性が大きいと私は考えており、そのごく一部ながら、いわゆる「バイトテロ」の遠因となっている可能性があるんではないかと考えています。「バイトテロ」とは、飲食店や小売店にアルバイトなどの非正規の形態で雇用されている従業員が商品、特に食品や器物を使用して悪ふざけを行う様子を写真に撮ってSNSなどに流す行為であり、対象となった店舗などでは大きなダメージを受ける場合が少なくありません。私は詳しくないんですが、犯罪行為に当たるものも少なくないといわれています。あくまで直観的ながら、日本人労働者は、特にサービズ業や接客業ではかなり質が高い印象が私にはあり、それを一般化して、いわゆる「おもてなし」と称する場合もあります。もちろん、逆の見方もあって、日本的な「おもてなし」の質を疑問視する向きもないではないんですが、その質の高い労働力に対して適正な賃金が支払われないなら、極めて長時間を経るとしても、再生産が保障されずに労働の質は低下していく可能性が高いと考えるべきです。質の高い非正規労働力を雇用して企業業績が向上したにもかかわらず、労働力の質の低下を招きかねない低賃金を継続すれば、生産性の低下や極端な場合には「バイトテロ」という形で企業自身に跳ね返りかねないんではないかと危惧しています。

従来から、このブログでも主張している通り、私は雇用を重視するエコノミストであり、国民が適切な職を得ることがひいては所得につながり、景気にも好循環をもたらすわけですから、経済の出発点としての雇用をマイクロな観点とともにマクロの観点から、日本経済全体に良好なパフォーマンスをもたらすような雇用の拡大を目指す必要があると考えています。

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