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2015年10月30日 (金)

堅調な雇用統計と石油価格により下落し始めた消費者物価をどう見るか?

今日は月末最終日の閣議日で、いくつか重要な政府統計が公表されています。すなわち、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI)が、それぞれ公表されています。いずれも、9月の統計です。失業率は前月から横ばいで3.4%であった一方で、有効求人倍率は前月からさらに上昇して1.24倍を記録しました。雇用統計はいずれも季節調整済みの系列です。また、消費者物価上昇率は生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率で見て、前月と同じ▲0.1%の下落となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

求人倍率上昇1.24倍 9月、23年8カ月ぶり高水準
雇用情勢の改善傾向が続いている。厚生労働省が30日に発表した9月の有効求人倍率(季節調整値)は1.24倍と前月から0.01ポイント上がった。1992年1月以来、23年8カ月ぶりの高水準になる。総務省が同日発表した9月の完全失業率は前月から横ばいの3.4%だった。人手不足が続くなかで労働者の雇用環境が安定し、新たに職を探す人が減っている。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人に対し、企業からの求人が何件あるかを示す。倍率が高いほど仕事を見つけやすくなり、企業からみれば採用が難しくなる。
雇用の先行指標とされる新規求人数(原数値)は86万5949人と前年同月よりも0.9%増えた。業種別にみると、教育・学習支援(同9.8%増)、医療・福祉(同4.5%増)などで求人が大幅に増えた。
就業率は58.1%。このうち64歳までの就業率が73.9%と1968年1月以来、過去最高水準になった。女性を中心に高齢者以外の就業の伸びが目立っている。
男女別の完全失業率は男性が3.6%(前月比0.1ポイント上昇)、女性が3.1%(同0.1ポイント低下)だった。完全失業者数(季節調整値)は228万人と同4万人増加。より良い条件の仕事を求めて自発的に離職した人が3万人増えた。総務省は「雇用情勢は引き続き改善傾向にある」とみている。
全国消費者物価、9月は前年比0.1%下落 2カ月連続マイナス
総務省が30日に発表した9月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く総合(コアCPI)が103.4となり、前年同月比で0.1%下落した。2年4カ月ぶりの下落に転じた8月(同0.1%下落)に続くマイナスとなった。原油価格の下落を受け、電気代やガス代、灯油やガソリンなどエネルギー品目の価格が総じて下がった。
ただ、QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(0.2%下落)よりマイナス幅は抑えられた。品目別では上昇が351、下落は124、横ばいが49だった。フライドチキンやチョコレート、ケーキといった食料(生鮮食品除く)を中心に価格が上昇。新製品の投入効果でテレビなどの耐久消費財も値上がりし、コアCPIを下支えした。
食料・エネルギーを除く「コアコアCPI」は101.6と、0.9%上昇した。8月(0.8%上昇)より上げ幅がやや大きく、プラス幅の拡大傾向が続いている。訪日客の増加による宿泊料の上昇などが背景。総務省は「エネルギー関連を除くと上昇傾向は変わらない」としている。生鮮食品を含む総合は前年比で横ばいとなり、13年5月以来の低水準となった。
先行指標となる10月の東京都区部のCPI(中旬速報値、10年=100)は、生鮮食品を除く総合が102.0と0.2%下がった。原油安で物価の下押し圧力が続き、4カ月連続でマイナスとなった。下落率は9月(0.2%)と同じだった。コアコアCPIは0.4%の上昇と、プラス幅は9月(0.6%)に比べ縮小した。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、2つの統計の記事を並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、雇用については、以下のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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まず、雇用統計については、失業率こそ下げ止まった感もありますが、引用した記事にもある通り、よりよい職を求めて自発的に離職した失業者が増加した要因が大きく、景気の悪化などによる非自発的な離職は減少していますので、失業率はほぼ完全雇用水準にあると考えてよさそうです。私は過去の実績に従ったフィリップス曲線から考えると、2%のインフレ目標のためには3%水準を下回る失業率の低下が必要と考えていましたが、かなり労働市場の構造は変化してきているようです。さらに、バブル崩壊直後の水準まで上昇した有効求人倍率には人手不足が反映されていると考えるべきです。そして、これらの量的な雇用の改善が進んだ結果として、緩やかながら賃金の上昇や正規雇用の増加などの質的な雇用の改善が進む段階になりつつあると、私は考えています。その意味でも、とても緩やかなものにとどまっている現在の景気回復を本格的な回復基調に早く戻す必要があります。

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次に、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが10月中旬値です。これまた、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。ということで、エネルギーのマイナス寄与は私の計算で▲1.2%近くに達し、この国際商品市況における石油価格の下落により消費者物価上昇率は先月からマイナスに転じていると考えるべきです。しかも、労働市場がかなりひっ迫しているにもかかわらず、広範な賃金上昇がまだ観察されていませんから、物価上昇の観点からは今年後半の現時点がほぼ底に近いと私は感じています。確かに現状は日銀のインフレ目標には届かず、デフレ脱却からほど遠い状況となっていますが、国際経済環境から、先行き不透明ながら国際商品市況が中国経済の回復とともに底を打ち、国内景気動向としては、完全雇用と人手不足から賃上げの条件が整えば、これら内外の経済社会環境が物価上昇をもたらす可能性が決して低くない、と私は考えています。

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なお、現在の消費者物価は食品などの生活必需品の値上げによりもたらされており、国民生活を直撃しているとの指摘があり、内閣府の「マンスリー・トピックNo.44 必需品価格の上昇が消費に与える影響について」では、結論のひとつとして、「必需品価格の上昇が消費に与える影響は平均的家計ではほとんど見られない一方、低所得者層では最初の3か月間消費を押し下げる効果が確認できる。」と指摘していることから、私の方でも所得分位別のウェイトを用いた物価上昇率をプロットしてみました。上のグラフの通りです。所得分位は5分位であり、第I分位と第II分位の境界所得は年間430万円、さらに、第IV分位と第V分位の境界は919万円となっています。境界所得は、いずれも、総務省統計局のサイトにある消費者物価に関する資料の P.31 脚注16 に基づいています。でも、少なくともデータを見る限り、昨年の消費増税後から今年にかけて、足元までは第I分位の物価上昇率は第V分位をかなり下回っている、という現状が示されていると考えています。理論的には、物価上昇に伴う実質所得のディスカウントは低所得者ほどダメージが大きいのは事実なんでしょうが、現状の物価上昇がどういった所得階層により大きな負担をもたらしているかも重要ではないでしょうか。

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統計を離れて、日銀は本日の金融政策決定会合で追加緩和を見送りました。というか、金融政策の現状維持を決定しました。上の画像は「展望リポート」の p.10 から引用した政策委員の大勢見通しです。7月時点の見通しから、2015-16年度についてはやや下方修正されています。

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