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2015年11月30日 (月)

2か月連続の増産を示す鉱工業生産指数と増加を示した商業販売統計から何が読み取れるか?

本日、経済産業省から鉱工業生産指数商業販売統計が公表されています。いすれも10月の統計です。生産指数は季節調整済みの前月比で+1.4%の増産を示し、商業販売統計のうちヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の前年同月比で+1.8%の増の11兆5710億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月鉱工業生産、1.4%上昇 基調判断は据え置き
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比1.4%上昇の98.8だった。2カ月連続で上昇した。自動車や半導体製造装置などが好調だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は1.9%上昇だった。
もっとも前年同月比では3カ月連続でマイナスとなり、経産省は生産の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。11月の予測指数は0.2%の上昇、12月は0.9%の低下となった。
10月の生産指数は15業種のうち7業種が前月から上昇し、7業種が低下、1業種が横ばいだった。はん用・生産用・業務用機械が5.8%上昇したほか、輸送機械も4.0%上昇した。
出荷指数は前月比2.1%上昇の98.8だった。在庫指数は1.9%低下の111.4、在庫率指数は3.0%低下の112.0だった。国内向けなどで出荷が伸び、在庫水準が低下した。
10月小売販売額、前年比1.8%増 2カ月ぶりプラス
経済産業省が30日発表した10月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.8%増の11兆5710億円だった。プラスは2カ月ぶり。織物・衣服・身の回り品や飲食料品など幅広い業種で販売が上向いた。
例年より気温の低い日が多く、秋冬物衣料の販売が好調。織物・衣服・身の回り品は8.1%増と、伸び率が最大だった。小売業販売額は季節調整済みの指数で前月比1.1%上昇。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」とし、前月の「一部に弱さがみられるものの横ばい圏」から引き上げた。
百貨店とスーパーを含む大型小売店の販売額は4.0%増の1兆6072億円だった。既存店ベースでは2.9%増。既存店のうち、百貨店は4.2%増、スーパーは2.3%増だった。
コンビニエンスストアの販売額は6.1%増の9484億円となった。

いつもながら、網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は商業販売統計とも共通して景気後退期です。

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鉱工業生産については2か月連続の増産となりました。伸び率が日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスをやや下回ったものの、9-10月の生産の伸びが+1.1%と+1.4%であった一方で、出荷の伸びは+1.4%と+2.1%を記録して生産を上回り、結果的に在庫の調整につながっている点は見落とせません。引用した記事にもある通り、製造工業生産予測調査によれば11月は+0.2%の増産、12月は逆に▲0.9%の減産と、基調判断通りの「一進一退」の動きながら、先行きトレンドの予想としては基本的に回復基調に戻る可能性が高いんではないかと期待しています。家計部門については次の商業販売統計に示されているように、実質所得改善の効果が現れつつありますし、企業部門についても設備投資意欲はまだ強いものと見られます。この点については、来々週公表予定の日銀短観の設備投資計画も注目です。ただ、輸出については目先で好転する兆しがなくはないものの、米国経済だけが好調を維持する一方で、欧州中央銀行(ECB)による量的緩和の効果が欧州経済の浮揚につながるにはまだ時間を要し、中国経済についても預金準備率や金利による金融緩和策が実体経済に改善をもたらすまでラグがあるものと考えられます。輸出の本格回復にはもう少し時間が必要かもしれません。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は同じく景気後退期です。ということで、このブログでは取り上げませんでしたが、先週金曜日に発表された総務省統計局による10月の家計調査では、季節調整していない原系列の前年同月比で実質▲2.4%の減少を示した一方で、今日発表の経済産業省の商業販売統計では小売業は+1.8%を記録しています。もちろん、家計調査に比べて商業販売統計は観光客によるインバインド消費を含んでいる可能性が高いんですが、この差を見れば、いずれかの調査が外しているわけで、そうなると家計調査のサンプリングにやや疑問が残るという見方もエコノミストの間では根強くあります。また、商業販売統計の小売販売額は季節調整済みの系列の前月比も+1.1%増を示し、これまた統計としての信頼性にやや不安の残る毎月勤労統計でも給与総額は徐々にプラスを示すようになっていることから、所得環境は着実に改善を示していると見られます。実態上で所得は改善しつつも、ただ、家計調査などの統計で消費の改善が確認されていないという形でしたが、この小売販売額の増加は逆から見て所得環境の改善を裏付けているともいえます。季節なりに進んだ衣料品の販売や自動車の売行きも順調なようですし、実質所得に見合った消費の伸びが確認される可能性が高くなったと考えるべきです。

最後に、GDPベースの消費支出の外数になりますが、インバウンド消費に対するパリでのテロ事件の影響については、誠に残念ながら、私にはまったく分かりません。世界中で海外旅行全般が下火になるとすればマイナスの影響でしょうし、逆に、欧州を避けて日本に来る観光客も少なくないような気がしないでもありません。いずれにせよ、中国をはじめとする東アジアからの観光客の日本におけるインバウンド消費へは限定的な影響しかなさそうな気がします。常識的な見方ですが、特に根拠はありません。

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2015年11月29日 (日)

fox capture plan「COVERMIND」を聞く!

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7月に発売された fox capture plan 「COVERMIND」を聞きました。でも、最新アルバムである4枚目の「BUTTERFLY」はすでに11月4日に発売開始されていたりします。なお、このグループのアルバムの数え方ですが、デビューの「trinity」がファーストの1枚目、2枚目が「BRIDGE」で、3枚目が「WALL」、ここまではいいんですが、その次の「UNDERGROUND」は今年2015年8月16日にこのブログでも取り上げましたが、DVD付きながらミニ・アルバム扱いで数に入れず、今日取り上げている「COVERMIND」もこれまたカバー・アルバムであって数に入れず、4枚目は11月4日発売の「BUTTERFLY」、と数えるようです。参考まで。
「COVERMIND」の収録曲は以下の通りです。カッコ内はオリジナルのミュージシャンです。ジャズのオリジナル曲ではありませんので、私はほとんど知りません。このグループのリーダーでピアニストの岸本亮によるライナー・ノートを参考に聞いています。

  1. Born Slippy (Underworld)
  2. Right Here, Right Now (Fatboy Slim)
  3. Basket Case (Green Day)
  4. Tonight, Tonight (The Smashing Pumpkins)
  5. Carnival (The Cardigans)
  6. Buddy Holly (weezer)
  7. Wonderwall (oasis)
  8. Paranoid Android (radiohead)
  9. Stinkfist (Tool)
  10. Freak on a Leash (korn)
  11. Teardrop (Massive Attack)
  12. Californication (Red Hot Chili Peppers)
  13. Hyperballad (björk)
  14. Don't Look Back in Anger (oasis)

今までのアルバムにも収録されている曲もあります。すべて1990年代の曲だそうです。カバーの意図としては、ライナー・ノートに何点か上げてあるんですが、曲の力でバンドのポテンシャルを上げるとか、スタンダード曲を演奏するジャズをヒントにジャズバンド的な側面を提示するとか、ご本人たちが考える可能性についてもいろいろとあるんでしょうが、私自身としては、ホーンを含まないピアノ・トリオによる表現力の可能性が追求されていると感じています。私は従来からボーカルはほとんど評価しないんですが、なぜかというと、言葉でストレートに表現するのであれば文学という方法がもっともふさわしいと考えているからです。文字を使った文学でなく、何かと縛りの多い音楽、特にジャズで表現することの可能性を求めるのであれば、もっともシンプルなのはピアノ・ソロかもしれませんが、ビッグバンドのような形式ではなく、少人数のピアノ・トリオか、せいぜいツー・ホーンくらいまでのコンボでの演奏がどこまで表現できるかを考えるのもひとつの手だと思います。やや脱線しますが、もっともシンプルと私のいうピアノ・ソロについてはキース・ジャレットがかなりいいセンまで来ている、という点については衆目の一致するところではないでしょうか。それにしても、すでに発売されているこのグループの最新アルバムも早めに聞きたいと思います。
下の動画はアルバムに収録されている1曲めです。

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2015年11月28日 (土)

今週の読書は経済書・教養書に小説や新書とバランスよく7冊!

今週は、経済書・教養書に小説や新書と、バランスよく以下の通りの7冊です。

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まず、フィリップ・コトラー『資本主義に希望はある』(ダイヤモンド社) です。著者は私ごときがいうまでもないくらいに有名で、マーケティングを専門とする経営学者です。著者紹介を見て1931年生まれと知り、私の父親と1歳違いですが、まだご存命のようです。専門外ながら私ですら知っている経営学者も何人かいて、現役で有名なのはマイケル・ポーター教授、もう引退したものの大御所として有名なのは経営史のチャンドラー教授とマーケティングのコトラー教授、すなわち、本書の著者です。そのコトラー教授がシーマン・ショックに続く金融危機や大景気後退 Great Recession を経た現在の資本主義について論じています。学術書に近いんですが、さすがに引用などは雑で、原著論文を示すんではなく、論文を紹介した新聞や雑誌の記事を明記して済ませているものも少なくありません。本書はとてもリベラルな経済の見方を示しており、ピケティ教授的な格差の問題から始まって、環境破壊の問題、市場の暴走の問題、ロビー活動に先導される政治に歪められる経済、最後は幸福論や生活充足論、すなわち、ハピネスやウェル・ビーイングに光を当てる見方を示してい締めくくっています。本書などで示された資本主義に対する改良主義的な見方、あるいは、我が国の講座派マルクス主義の観点からすれば2段階革命のうちの社会主義革命に先立つ第1段階の革命ということになるのかもしれませんが、こういった何らかの民主主義的な市場への政府規制が必要な段階に達したと私なんかは理解しています。スミス的な初期資本主義の「見えざる手」が経済社会全体の調和をもたらした時代とは異なり、本書でも論じられているような外部経済や公共財供給や独占の発生など、古典的な資本主義からは離れた現代的な問題が発生している現段階の市場には政府による民主的な関与が必要です。すなわち、このブログでもかねてより主張している通り、1人1票の原則で運営される民主主義は購買力で計られる資本主義経済における影響力とは、親和性あるものの必ずしも同じ尺度で論じることは出来ず、資本主義経済よりも民主主義が優先するとすれば、市場経済に対して政府から民主的な規制が及ぶべきであると私は考えています。しかしながら、現状ではその逆になっていて、超リッチ層が金に物を言わせて民主主義を歪めていると私は考えています。その意味で、本書とも講座派とも私の考えの根本的な発想は同じであると理解しています。もっとも、先方からは異論あるかもしれません。

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次に、キシニョール・マブバニ『大収斂』(中央公論新社) です。著者はインド系のシンガポール人であり、長らくシンガポールを代表する職業外交官として国連大使も務めています。前著は邦訳2010年発行の『「アジア半球」が世界を動かす』です。本書は原題もそのままで、原書は2013年の発行です。前著も本書も、徹底的にアジアに軸足を置いて欧米批判の先頭に立っています。本書では、現在のグローバル化はインターネットやICT機器などの技術面で進行しており、もはや止めることの出来ない時代の流れとして捉え、その上で、内戦や国家間の戦争・戦闘行為が過去に比べて大きく減少したのはアジアをはじめとする途上国や新興国で中産階級が激増した結果であると結論しています。中産階級とはブルッキングス研究所のホミ・カラスの研究結果を引いて、購買力平価で均した1日1人当り支出で10-100ドルと定義しています。そして、収斂の柱は環境、経済、テクノロジー、熱望を上げています。途上国における法の支配、特に所有権の保障を重視しているのはいいんですが、収斂の障壁のひとつとしてイースタリーの研究などを根拠として、途上国への開発援助を先進国の国益に基づく途上国の利益にならない阻害要因としているのには、少なくとも一定の事実を含んでいることは、私もジャカルタで援助の現場を経験して理解したものの、開発経済学の立場から反論がないわけでもありません。また、私は専門外ながら、著者が長らくシンガポールを代表して国連大使を務めた経験から、国連というマルチの機能や機構の重要性とか、国連改革についても、傾聴すべき見方が示されていそうな気がします。でも、グラフが多いからなのかどうか、3200円は少し高いような気がします。

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次に、高階秀爾『日本人にとって美しさとは何か』(筑摩書房) です。著者は私が知る限りでも我が国随一の美術史研究者であり、第一人者といえます。本書は最近時点までの講演をはじめ、雑誌やあメディアなどで収録された論文やエッセイを編集しています。言葉とイメージ、日本の美と西洋の美、日本人の美意識はどこから来るか、の3部構成であり、本書のタイトルからすれば第3部に重点がありそうな気もしますが、第3部は短いエッセイばかりで読み応えもなく、むしろ、第2部の西洋との対比における我が国の美についての解説に私は重点を置いて読んだ気がします。日本画と洋画の手法や構成の違いを基に、それなりの解説が加えられています。それほど新しい観点が提供されているわけではなく、学術的な解明が主眼となっているわけでもありませんが、現時点での日本と西洋の美の対比はそれなりの価値が有るような気もします。ただ、中国や朝鮮半島との比較の観点も欲しかった気がしますが、書き下ろしを避けて既発表の論考を中心としたエッセイ集ということになれば、こういう構成になったんだろうと思います。図版も少なくないのでやや高価な本ですし、私の分類からすれば買って読むほどではないんではないでしょうか。図書館には置いてある気がします。

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次に、小針誠『<お受験>の歴史学』(講談社選書メチエ) です。著者は京都にある同志社女子大学で教育学を専門とする研究者です。私立学校に関する研究をライフワークにしているといった記述があったように記憶しています。ということで、本書のタイトル通りに、明治維新の直後までさかのぼって<お受験>の歴史についてひも解いています。当然ながら、近代に入って高給取りの勤め人が子弟を公立小学校ではなく、特に、いわゆるエスカレータ式に大学まで上がれる私立の小学校に入学させ始めたわけで、学校教育の多様化の一環ではないかと私は考えているんですが、教育学は専門ではないのでついつい実体験に傾いてしまいます。例えば、同じ業界のとても高給取りの金融機関勤務のエコノミストが少し前に「お受験」を目指していたんですが、その理由は、少子化が極まって近くの小学校がとうとう1クラスになったためだと聞き及びました。すなわち、本書でも出てくる親の立場からすれば「玉石混交」の極みということになります。ただ、「玉石混交」を持ち出す場合、持ち出した人は自分の子供が玉であって、その他大勢の子供が石だと考えている場合が少なくないような気もします。ただ、そのときに聞き及んだ話としては、その方はとても高給取りだったんですが、いわゆる年俸制でしたので、私立小学校の側としては、高給取りよりも年俸制の不安定性に目が行くようで、むしろ、私のような公務員の方が受け入れる私立小学校としては望ましい場合も少なくない、と聞かされた記憶があります。ホントかどうかは知りません。なお、我が家は<お受験>はしていません。というのは、上の倅が入学した小学校はジャカルタ日本人学校の初等部だったからです。すなわち、海外生活中に上の倅が学齢期に達してしまい、2歳しか違わない下の倅だけ<お受験>もあるまい、という結論に達したわけです。もっとも、倅達2人が卒業したのはそれなりの小学校であす。映画化もされた中島京子の直木賞受賞作『小さいおうち』で主人公の家政婦さんがお仕えする奥様時子夫人の姉が、時子夫人の子供である恭一の教育に関して東京の名門小学校を4-5校ほど上げるんですが、そこには入っていました。小説の舞台である昭和初期には存在していましたので、我が家の倅2人が在学中に設立100週年を迎えた記憶があります。最後に本書に戻って、著者のライフワークが私立学校の研究だそうですから仕方ありませんが、関西圏や首都圏のような大都市部はともかく、地方圏では名門小学校は教員養成大学の付属校だという場合が少なからずありそうな気がします。エスカレータ式になっていないものの、それなりに要件は満たしているような気もして、本書のスコープ外ながらやや気にかかります。

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次に、青山七恵『繭』(新潮社) です。作者はご存じ芥川賞作家で、私のもっとも好きな作家のひとりです。もっとも、私のもっとも好きな作家は25人くらいいたりします。また、前作の『風』は昨年2014年6月14日の読書感想文で取り上げています。『風』は短篇から中編くらいの長さでしたが、本書は本格的な長編です。ただし、どう呼んでいいのか分かりませんが、前半と後半と言ってもいいんですが、あえて第1部と第2部と呼称すると、それぞれの主人公である「わたし」が異なっています。第2部は明らかにp.205から始まります。主人公は第1部・第2部ともいずれも女性で、しかも生年月日まで同じ30代半ばの女性であり、第1部の主人公の舞は美容師、第2部の希子は旅行代理店のキャリアウーマンで、しかもしかもで、2人は同じマンションに住んでいて、やや人為的に友人となります。というのは、舞の夫であるミスミも美容師なんですが、希子を結婚前から見知っており、ミスミから希子に依頼して舞の友人になってもらうわけです。舞は時折ミスミに対してDVに及びます。希子は得体の知れないテレビ業界の男性と恋に落ちます。決して、サスペンスフルではないんですが、息もつかせぬ展開で一気に読ませます。私は本書は恋愛小説だと受け止めているんですが、決して甘いだけのラブストーリではありません。p.286-88にかけて、付き合う男女が対等かどうか、舞の血の出るような質問が希子に訴えられかけます。マンションの部屋の鍵の交換も、とても暗示的であり、私のようなシロートにはどう解釈していいのか、少し迷うところがあります。ということで、私はこの作者の代表作は『かけら』であって、代表長編はまだない、と思っていたんですが、ひょっとしたら、本書が代表作なのかもしれません。ただ、メンタルが病んでいる系の女性が前半の主人公ですから、異論は大いにありそうな気がします。

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次に、赤坂治績『江戸の経済事件簿』(集英社新書) です。江戸文化研究家、演劇研究家ということで、本書のタイトルは「事件簿」となっているんですが、幅広く江戸の経済事情や経済に関係のない文化まで含めて紹介されています。というか、経済事件だけではボリュームが不足したのかもしれないと、私は下衆の勘繰りをしていたりします。ということで、江戸の物価や庶民の暮らしについて、貨幣制度の金・銀・銭の換算や越後屋=三井の興隆などを解き明かしています。ただし、落語の「文七元結」や近松門左衛門とか井原西鶴とかの小説から当時の庶民の暮らしや経済的な考え方を引き出そうとするには、ホーガンのSF小説である『星を継ぐもの』から人類誕生の物語を紡ぎ出すとまではいいませんが、ややムリがあるような気がしないでもありません。それと、京都出身のエコノミストからすれば、政治の運びはともかく、経済や物流、さらに、文化の中心は江戸ではなく、京や大阪などの上方ではなかったのか、という気がしないでもありません。後の世代の後付の江戸遊異論のような気がします。まあ、華美を極めた商人の衣装比べなどを支配階級の武士が闕所・所払いして、ついでに借金も棒引きにしてしまったり、あるいは、近松門左衛門の『曽根崎心中』で徳兵衛が詐欺で金を騙し取られたのは経済事件だったかもしれません。それなりに面白い知識が身につきそうな本ではないかと思わないでもありません。

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最後に、上杉和央『地図から読む江戸時代』(ちくま新書) です。著者は京都にある大学の研究者であり、歴史学、特に地図の歴史を専門としているようです。そして、本書は主として日本地図を題材に、著者のいう「日本像」を明らかにしようと試みたものであり、行基の時代から説き起こしていますが、タイトル通りに主たる時代背景は江戸時代にあります。江戸時代の地図といえば、高校の日本史で習った伊能忠敬を思い浮かべがちなんですが、本書では地図を正確さの観点からの科学性だけでなく、実用性、機能性、芸術性、思想性まで含めて、「日本像」の解明の手がかりとしていますので、伊能忠敬の名は最後の最後にしか出て来ません。むしろ、高校の社会科では出てこなさそうな石川流宣なる人物の「旅のお供」としての地図、というか、旅行ガイドブック的な指南書を中心に論じた第3章が本書の眼目とさえいえそうな気がします。第3章では科学的な正確性よりも意匠性や芸術性を重視し、旅のお供的な地図を広めた石川流宣に焦点を当て、第4章では科学的な正確性を追求した地図を紹介し、その極みとして第5章では長久保赤水の地図を取り上げ、この第5章の中で伊能忠敬の測量にもスポットが当てられています。琉球や当時の蝦夷地としての現在の北海道の位置づけをはじめ、また、江戸幕府の北方重視の地政学的な関心のあり方も含め、地図から得られる歴史観や日本像といった興味深い論点を著者は解き明かしています。

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2015年11月27日 (金)

堅調な雇用統計とマイナス続く消費者物価から何を読み取るか?

本日は月末最後の閣議日で政府経済統計がいろいろと公表されています。すなわち、総務省統計局の失業率厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局の消費者物価指数(CPI)が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。失業率は前月の3.4%から3.1%に低下し、有効求人倍率は前月と同じ1.24となり、生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率も前月と同じ▲0.1%を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

完全失業率、10月は前月比0.3ポイント低下の3.1% 20年ぶり低水準
総務省が27日発表した10月の完全失業率(季節調整値)は3.1%で、前月比0.3ポイント低下した。改善は3カ月ぶりで、1995年7月以来、20年3カ月ぶりの低水準だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は3.4%だった。非製造業を中心に雇用が拡大し、2011年9月以来、4年1カ月ぶりの大幅な低下になった。
就業者数(原数値)を業種別でみると、医療・福祉は26万人増、宿泊・飲食業が13万人増など、非製造業の雇用の伸びが目立った。製造業は4万人減少と8カ月連続で減ったが、減少幅は9月の42万人から縮小した。15-64歳の就業率は74.0%、女性では65.5%と、比較可能な1968年以降での最高を更新した。
完全失業率(季節調整値)を男女別にみると、男性が0.2ポイント低下の3.4%だった。女性は0.4ポイント低下の2.7%で、1993年9月以来、22年1カ月ぶりの低水準にある。10月は男女ともに失業者が減少し、完全失業率の大幅な低下につながった。総務省は雇用情勢について「引き続き改善傾向で推移している」と分析している。
完全失業者数は206万人で22万人減少した。うち勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は3万人減、「自発的な離職」は7万人減、「新たに求職」している人は12万人減だった。
就業者数は6396万人で、前月比3万人減少した。雇用者数は12万人増加しており、自営業者の減少が要因。仕事を探していない「非労働力人口」は4469万人と26万人増えた。
全国消費者物価、3カ月連続マイナス 10月0.1%下落
総務省が27日発表した10月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合(コアCPI)が103.5と前年同月と比べ0.1%下落した。下げ幅は8、9月と同じで、3カ月連続のマイナスとなった。下落幅はQUICKがまとめた市場予想(0.1%下落)と一致した。原油安の影響で電気代やガス代、灯油やガソリンなどエネルギー品目の価格下落が引き続き全体の押し下げ要因になった。昨年に自動車保険が値上げされた反動も出たという。
半面、食料(生鮮食品除く)の上昇傾向が続いたほか、新製品の投入効果があったテレビなどの娯楽用耐久財や訪日客の増加の影響が続いた宿泊料も値上がりした。品目別では上昇が342、下落は135、横ばいは47。
食料・エネルギーを除いた「コアコアCPI」は101.7と、0.7%のプラスだった。耐久消費財に加え、家具や衣料品などの価格も上がった。ただ9月(0.9%)から勢いは鈍り、春先からの伸び率の拡大傾向は一巡した。QUICKの市場予想(0.8%上昇)も下回った。総務省は物価動向を巡り「エネルギー関連を除けば上昇基調にある」との見方を変えなかった。
先行指標となる11月の東京都区部のCPI(中旬速報値、10年=100)は、生鮮食品を除く総合が102.0で前年同月と同水準だった。6月(0.1%上昇)以来、5カ月ぶりにマイナス圏を脱した。コアコアCPIは0.6%上がり、10月(0.4%上昇)から伸び率が広がった。教養娯楽用耐久財や外国パック旅行などが押し上げ要因となった。

いずれも網羅的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、2つの統計の記事を並べるとそれなりのボリュームになります。これだけでお腹いっぱいかもしれません。続いて、雇用については、以下のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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有効求人倍率こそ前月と同じ1.24倍でしたが、失業率はとうとう3%に近づいて来ました。私の直感で、その昔のフィリップス曲線の理論からすれば、経験的には失業率が3%を切るのがインフレ率2%の条件のひとつではないかと考えないでもありませんでしたが、その後の高齢化などの経済社会の構造変化を含めても3%くらいが完全雇用水準ではないかと考え直しつつあり、この先も人手不足が続くようであれば賃金から物価の上昇に転化する可能性を十分に含ませているような気がします。もっとも、賃金と物価の上昇はお互いにインタラクティブな関係にあり、賃金から物価への一方的な時系列の流れだけではなく、そう単純な構造ではありません。いずれにせよ、失業率の低下などの量的な雇用の改善が進んで、緩やかながら賃金の上昇や正規雇用の増加などの質的な雇用の改善が進む段階になりつつあると、私は考えています。ですから、例えば昨日11月26日の官民対話に提出された経団連会長の資料で賃金上昇の容認が明らかにされたのは、決して安倍総理などの政府からの圧力に屈してだけが理由ではなく、経済合理性に基づくひとつの選択であったんではないかと考えられなくもありません。

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次に、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが10月中旬値です。これまた、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。ということで、物価に対する基本的な見方は、私も総務省統計局も日経新聞も変わりないような気がしますが、あえて付け加えるのであれば、CPI上昇率はプラスに転じるかどうかはともかく、11月か12月のCPI上昇率はマイナスを脱するんではないかと多くのエコノミストは予想しています。根拠の一つは、東京都区部の消費者物価動向であり、2015年11月の東京コアCPI(中旬速報値)上昇率は前年比で保合いと10月の▲0.2%から5か月振りにマイナス圏から脱しています。逆から見て、この3か月連続の▲0.1%の全国ベースの下落は国際商品市況における原油価格動向から見ても、物価上昇率のボトムであった可能性が高いと私も感じています。もっとも、その後、我が国経済が力強くデフレ脱却を果たして、グングンと日銀目標のインフレ率に近づくかどうかは別の問題であり、少なくとも私はインフレ率はゼロ近傍からわずかなプラス領域で膠着する可能性が高いと考えています。従って、米国の金融政策動向とともに、日銀の追加緩和についても注目していますが、来週公表予定の鉱工業生産指数や商業販売統計も参考にしたいと思います。

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2015年11月26日 (木)

来年2016年度阪神のチームスローガンとチームロゴが発表される!

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よく知らなかったんですが、さる11月21日に阪神球団から来年度2016年度のチームスローガンが公表されています。上の通りです。なお、このスローガンのデザイン、というか揮毫は、シーズンロゴとしても展開するそうです。以下は阪神球団のサイトからの引用です。

2016年チームスローガンについて
ものすごい変革、変革を超える変革、「超変革」を、闘志「Fighting Spirit」を込めて成し遂げたい。
球団が一丸となり、ファンと一緒に「超変革」を実現したい。
そうした強い思いをスローガンに表現しています。

来年こそは優勝と日本一を目指して、
がんばれタイガース!

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2015年11月25日 (水)

企業向けサービス物価上昇率はプラス幅を縮小させつつも前年比で上昇が続く!

本日、日銀から10月の企業向けサービス価格指数(SPPI)が公表されています。ヘッドライン上昇率は+0.5%と先月と同じでした。また、国際運輸を除くコアSPPI上昇率も+0.6%で先月と同じでした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業向けサービス価格、前年比0.5%上昇 広告価格が上昇
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)は102.9で、前年同月比で0.5%上昇した。伸び率は9月確報値の0.5%から横ばいだった。前月比では0.1%上昇した。
品目別に見ると、広告価格が上昇した。検索連動型広告の価格上昇を背景にインターネット広告価格が前年比プラスに転じたことなどが寄与した。宿泊サービスは、中国などの観光需要を背景に前年比11.7%上昇し、9月に続いて前年比の計算が可能な06年1月以来最大の上げ幅を更新した。
外航貨物輸送料金はマイナス幅を拡大した。燃料価格の下落を受けて外航タンカーの長期契約価格の下落が続いた。ただ足元の市況を反映するスポット価格や不定期船は燃料安の影響が一巡し、下げ止まった。リース料率と物件価格の下落でリース価格も下落した。
価格が上昇した品目は61、下落した品目は49だった。上昇と下落の品目数の差は12で、9月確報の16から縮小した。品目数で上昇が下落を上回るのは25カ月連続だった。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引されるサービスの価格水準を示す。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、企業向けサービス物価上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルはサービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしています。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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グラフを見れば明らかなんですが、青い折れ線で示した財貨の国内企業物価(PPI)上昇率が国際商品市況における原油価格の下落とともに大きく上昇率を低下させてマイナスにまで低下している一方で、企業向けサービス物価(SPPI)とコアSPPIは底堅くプラスで推移しており、消費増税の影響が一巡した今年2015年4月以降も、ほぼ+0.5%から+1.0%近くのレンジ内の上昇率を示しています。ただ、10月の上昇率はこのレンジの下限かもしれません。このブログで何度か指摘した通り、国際商品市況や原油価格に連動して物価が下落する財貨の国内企業物価と人手不足を反映した人件費アップに連動する割合の高いサービス物価の違いが現れていると考えるべきです。
品目別に細かく見ると、引用した記事にもある通り、広告の前年同月比上昇率がヘッドライン上昇率への寄与が大きくなっています。新聞広告こそマイナス寄与ですが、テレビ広告やインターネット広告がプラスの寄与を示しています。ただ、リース・レンタルがマイナス寄与を記録しています。注目は、中国経済の減速でバルチック指数が大きく下落して500に近づいており、日経新聞の記事などでも「海運不況」が指摘され始めているところ、コアSPPIからは除かれるものの、ヘッドラインでは国際運輸は1000分の10.1を占め、この比率が高いか低いかは議論あるでしょうが、国際運輸は日本経済の需給ギャップではなく新興国の景気がそれなりの影響を及ぼす項目だという意味で攪乱要因となっていることは認識しておくべきかもしれません。

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2015年11月24日 (火)

上の倅の大学祭の写真!

昨日までの3連休は上の倅の大学祭でした。私は出かけませんでしたが、倅に何枚か写真を撮ってもらっています。サークル活動では、引き続き、中学高校のころと同じような模型を作っています。一番下の写真がその作品のひとつです。10年近くも前、小学生のころに買い与えたガンプラが、ここまで生き残るとは思っても見ませんでした。
子育ての記録にとどめておきたいと思います。

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2015年11月23日 (月)

Japan's GDP

エコノミスト誌の記事です。
Economic and financial indicators >> Japan's GDP

Japan's GDP
Japan's economy is in its second recession since Shinzo Abe took office in late 2012.
GDP contracted at an annualised pace of 0.8% in the third quarter of this year, after also falling in the previous quarter. Weak business investment and shrinking inventories were behind the fall. The figure is not as bad as it seems, however. Consumption is in perkier shape. The real potential growth rate in Japan is probably only a little above zero, thanksto the country's shrinking workforce. And critically, Japan's nominal GDP (the sum of realGDP plus inflation) rose in the third quarter and has grown by 3.1% over the past year. That sort of growth in nominal GDP represents a banner performance by Japan's recent standards.
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2015年11月22日 (日)

世界経済フォーラムの The Global Gender Gap Report 2015 やいかに?

いくつかのメディアでも報じられましたが、11月19日に世界経済フォーラムから The Global Gender Gap Report 2015 と題するリポートが公表されています。もちろん、pdfフォーマットの全文リポートもアップされています。145国を対象にした調査結果において、我が国は101位とふるいませんでした。完全に不平等な0から、逆に完全に男女平等な1の間のスコアも0.670でした。まあ、こんなもんかという気もします。

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上のグラフはリポート p.212 の我が国のカントリー・スコアから引用しています。経済、教育、健康、政治の4分野の個別スコアとともに、同じ所得グループの国の中での我が国の男女平等度合いを示しています。教育と健康はともかく、経済と政治、特に政治における男女間の不平等が大きいように見えます。

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2015年11月21日 (土)

今週の読書は経済書から小説まで大量に9冊を読破!

今週はかなり読みました。経済書、ノンフィクションに加えて、小説も読み、9冊と大量ですので、短めのコメントにしたいと考えていますが、ついつい興が乗って長くなるかもしれません。その時は、悪しからず。

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まず、ポール・オームロッド『経済は「予想外のつながり」で動く』(ダイヤモンド社) です。著者は英国出身のエコノミストであり、実業よりはややアカデミックな世界に近いんだろうと私は理解しています。原書は Positive Linking というタイトルで2012年に出版されています。現在の主流派のマイクロな経済学が仮定しているように、合理的な経済人が他とは独立にインセンティブに従って選択を行うことを否定し、サイモン教授の意志決定理論やワッツ教授のネットワーク理論を応用しつつ、意志決定がネットワークに基づいて決まることを強調しています。ただ、社会や経済のネットワークは「頑健だが脆弱」であるとし、正規分布よりもべき乗分布が当てはまる場合を念頭に置きつつ、スケール・フリー、スモール・ワールド、ランダムの3種のネットワークを考えて、そこに収穫逓増や限定合理性を考慮したネットワークでの意志決定モデルを構築しようとしています。そして、合理的選択よりも「人まね」が最重要の戦略となることを指摘し、その「人まね」が正のフィードバックを持つことから、累積的な格差の発生・拡大と集中の可能性、さらに、ターンオーバーの確率などに考察を進めています。また、我々の実生活でも単なる「人まね」ではなく、有名人のまねというのもよく見かけます。女優さんと同じ化粧品やアクセサリがよく売れたり、著名なIT企業の人事管理方法を解説した本が売れたりするわけです。同じ化粧品を使っても女優さんのようなルックスになれるわけではなく、人事管理方法を真似ても同じような売上げの伸びが期待できるわけでもないんでしょうが、戦略としては間違っていないんでしょう。こういった意味も含めて、実にクリアで、伝統的な正統派マイクロ経済学に対して極めて説得力ある反論を展開していると私は受け止めています。ただし、惜しむらくは政策的なインプリケーションが弱い点で、それは著者本人も認めていたりします。また、マイクロな経済学だけでなく、マクロ経済学へのネットワーク理論の応用も今後の課題になるかもしれません。いずれにせよ、今年読んだ経済書の中でもマイ・ベストに近いと考えています。第6章のネットワーク理論が特に読みごたえありますが、全体としてもとってもオススメです。ただ、少し翻訳の問題はあります。たとえば、3種類のネットワークのうち、「狭い世間のネットワーク」の翻訳も悪くはないんですが、ワッツ教授らの6次の隔たりなどの言い振りからして、「スモール・ワールドのネットワーク」そのままでいいような気がします。

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次に、軽部謙介『検証 バブル失政』(岩波書店) です。著者は時事通信をホームグラウンドとする著名な経済ジャーナリストです。ただ、本書の目的はハッキリしないんですが、どうも、1980年代後半の日本におけるバブル経済の発生と崩壊の原因を明らかにする作業のようです。ただし、紙幅のボリューム的には圧倒的に前者のバブル発生に重点が置かれており、全8章のうち6章が発生を見極め、最後の方の2章で崩壊を跡付けています。バブル発生には1985年のプラザ合意からの円高不況があり、これを緩和する目的とともに、為替が円高に振れても価格効果だけでは貿易黒字・経常黒字の削減が進まなかったことから、内需振興による所得効果の重視も併せて追及された結果です。ですから、バブル発生はほぼルーズな金融政策の責任とされているんですが、日銀に対する当時の大蔵省や国内政治からの圧力、さらに米国などからの外圧、加えて、1987年のブラック・マンデーで引締め策の発動がムリになったり、銀行の自己資本に関するBIS規制に翻弄されたり、といった事情で、いつもの我が国メディアの「日銀擁護論」に終始している印象があります。そして、バブル崩壊の引き金は大蔵省の土地融資に対する総量規制で締めくくられていますので、徹底した日銀擁護と大蔵省バッシングの論調が支配的な仕上がりとなっています。もちろん、当時の我が国における中央銀行の独立性の観点から、大蔵省主導という見方も成り立つことは当然ですから、あり得る見方ではあろうと思います。ただ、最後にひとつだけ指摘しておくと、もしも本書がバブル発生の防止に重点を置くのであれば、例えば、バブル発生防止を最重要視するような政策運営は決して難しいことではありません。白川総裁のころまでの日銀の金融政策、すなわち、徹底したデフレ政策を推進すればいいだけです。日本経済を常にマイナスの需給ギャップにあるような不況に位置させ、場合によってはマイナス成長を追求し、失業率を高止まりさせ、物価の下落をもたらせばいいわけです。現状の日本経済においては、実質金利を5%くらいに保てばいいわけですから、決して日銀には難しい政策運営ではありません。でも、経済政策運営の要諦がバブル発生防止にあると国民的な合意が得られているのかどうか、私には疑問です。最後の最後に、やはり意識していたであろう「ベスト・アンド・ブライテスト」というコンセプトが出て来ています。本家ハルバースタムは米国のベトナム戦争を舞台としていましたが、本書は我が国のバブル経済です。かなりスケールが違うと感じざるを得ませんでした。

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次に、ティモシー F. ガイトナー『ガイトナー回顧録』(日本経済新聞出版社) です。著者は言わずと知れた経済人であり、リーマン・ショック時の米国のNY連銀総裁からオバマ政権第1期目の財務長官を務めています。私はリーマン・ショックやその前後の金融危機に関するノンフィクションは何冊か読んでおり、『リーマン・ショック・コンフィデンシャル』上下は文庫になってからですが一応読みましたし、『ポールソン回顧録』も目を通しています。ついでながら、「グリーンスパン回顧録」とも言える『波乱の時代』上下も読んでいたりします。ただ、いずれも新刊書の枠から外れた時期に読みましたので、このブログでは取り上げなかったと記憶しています。ということで、『ポールソン回顧録』ではリーマン・ショックに立ち向かったのは、当時のポールソン財務長官とバーナンキ連邦準備制度理事会(FED)議長とガイトナーNY連銀総裁の3人となっているんですが、この『ガイトナー回顧録』ではバーナンキ議長に加えて、コーン副議長も出て来ます。当時は上司だったんだろうと思いますが、それほど重要な役割を果たしているわけではありません。いずれにせよ、米国人の当事者から見たリーマン・ショックは、英国ダーリング蔵相の指示によりバークレイズが下りたのが主因、といった論調であることは確かです。別の観点ながら、ポールソンにせよ、ガイトナーにせよ、あの危機の真っただ中ですら早起きしてトレーニングにいそしんでいるのでびっくりです。当然ながら、私にはとてもムリだと感じました。

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次に、橘木俊詔『日本人と経済』(東洋経済) です。著者は著名なエコノミスト、経済学者であり、格差や貧困問題などに造詣深く、リベラルな論調を展開していることは衆知の通りだと思います。本書はそんな著者が日本経済に関するエッセイを取りまとめていますが、国民の視点から、すなわち、労働者として所得を稼ぎ出し、そして、その所得を消費する生活者として、という意味で、労働と生活の両面から日本経済を考えています。ただ、基本、著者は労働経済学が専門ですので、マクロ経済の観点ではなくマイクロ経済を積み上げているだけに見えるところもあったりします。さらに、現在の日本経済を論じたいわけですから、過去の日本経済と歴史的に比較するのか、現在の先進諸国と横断的に比較するのか、どちらかの視点にならざるを得ませんが、とても中途半端だったりします。戦後の占領軍による土地開放、財閥解体などとともに教育改革も取り上げていますが、戦前日本と戦後の断絶と連続についてはそれなりに目配りされています。戦前の日本経済は本書が指摘する通りに女性就業率のM字カーブは観察されないだけでなく、戦後のような終身雇用でも、メイン・バンク制の間接金融でも、男性のみの片働きでもなかった、という点は強調されていいんではないかと思います。なお、マルクス主義経済学の講座はと労農派まで解説が及んでいるのは少しびっくりします。また、pp.66-67における2009年の政権交代から3年余りの民主党政権に関する評価は極めて妥当な気がします。ただ、第9章冒頭で「日本は福祉国家ではない」と高らかに宣言しつつも、土建国家で税金を公共事業で土建業から滴り落ちる構造を取って来たとまで突っ込んだ議論はしていませんし、教育への公費投入に対応する高齢者の社会保障経費の削減や世代間不公平までは踏み込んでいませんし、とても、中途半端で月から財政リソースが降ってくるような優雅な議論に終始しているようにも見受けます。また、著者自身が福祉国家を目指しべきとしつつも、エスピン-アンデルセン流の福祉国家の分類にも触れずに、規模だけで「中負担中福祉」を持ち出す姿勢には少し疑問を感じます。いずれにせよ、パーツ・パーツで論点ごとにバラバラな印象があり、評価できる部分とそうでない部分の落差を感じました。

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次に、清武英利『しんがり』(講談社+α文庫) です。なお、私が読んだのはこのデザインの表紙の本だったんですが、書店ではドラマ出演者の表紙になった本が並んでいました。その昔の中学生だか高校生だかのころに読んだ『グレート・ギャッツビー』が、1974年に映画化された後は表紙デザインがロバート・レドフォードとミア・ファローに変更され、タイトルまで『華麗なるギャッツビー』に変更されたのを記憶しています。その時はカッコ悪いと感じた私のティーン時代でした。2-3年前にディカプリオ主演で映画化されてから、やっぱり表紙デザインは変更されたんでしょうか。私はフォローしていません。それはともかく、本書は単行本で2013年に出版され、2014年度の講談社ノンフィクション賞を受賞しています。今年になって文庫化されました。著者は読売新聞出身のジャーナリストであり、2011年に解任されるまでジャイアンツ球団の代表だか、社長だかを務めていました。解任の理由はコンプライアンス違反に関する内部告発ではないかとご本人は主張しているようです。ということで前置きが異常に長くなってしまったんですが、本書はジャイアンツや読売新聞などとは関係なく、1997年に自主廃業した山一証券の経営破綻の原因を追究し、清算業務に就いた一群の、主として業務監理部に勤務する社員の動向を取りまとめたノンフィクションです。9月からWOWOWでドラマ化されているのはよく知られている通りです。損失補填や総会屋との癒着など、古い体質を残したままの我が国証券会社に対する大いなる批判とともに、「しんがり」として自主廃業した会社の後始末を担当した社員の働きぶりや心情を、ジャーナリストの目から余すところなく収録しています。私の属するエコノミストの業界でも山一証券出身の方は何人かいますが、逆に、本書で取り上げられているような自殺した人などの極端な場合を別に考えても、会社が廃業したらサラリーマンではなくなるわけで、そのまま社会の荒波に沈んだ人も少なくなかったんではないかと勝手に想像しています。いわゆる「親方日の丸」の役所に勤務する私のような公務員には理解できないのかもしれません。

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次に、円城塔『エピローグ』(早川書房) です。作者は言わずと知れた人気作家で、私は、はるか昔の芥川賞受賞作「道化師の蝶」を読んだ感想文を2012年2月26日付けのエントリーにアップしています。「道化師の蝶」ではパートごとに視点を提供する話者の「わたし」が異なっていて、実験的かもしれませんし、前衛的かもしれないと評価しています。本作品『エピローグ』では、まさに、最終章のエピローグの最初の数パラでそういった「わたし」に関する記述があったりします。そして本作品はまぎれもなくSF小説です。最初に、孫娘が祖母に機械的、生物的、情報的のいずれなのかを問うていますから、そういった存在が登場しますが、主要には、生物たる人類とチューリング・テストを軽くクリアするという意味でOTC(Over Turing Creature)とも呼ばれ、また、一般にエージェントとも呼ばれる人工知能体とが登場します。そして、ややミステリ仕立てのストーリーなんですが、現実宇宙を掌握しているエージェントの構成物質であるスマート・マテリアルを入手すべく、戦技研の命を受けて行動する特化採掘大隊(スカベンジャーズ)の朝戸連と支援エージェントである相棒のアラクネを中心に、並行する宇宙で起こった連続殺人事件の謎を刑事の椋人(クラビト)が解明すべく捜査し、とても意外な結末にたどり着きます。SFでありつつ、とても硬質なラブストーリーが展開されています。メタ・フィクションな構成も取り入れられており、さらに、かなりペダンティックな趣向も満足させてくれそうですが、私の専門外なので理解が及ばない部分も少なくなかった気がします。以下にリンク先を引用した日経新聞の書評に私自身がやや引きずられているかもしれませんが、とても上質な純文学のようなSFであり、私は高く評価しています。ただ、タイトルをどういう趣旨でこうしたのか、とても興味ありますが、どこかに著者インタビューのようなものがあったりするんでしょうか?

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次に、畠中恵『なりたい』(新潮社) です。私はこの作者のしゃばけのシリーズは、外伝の『えどさがし』も含めて、すべて読んでいて、これが最新刊第14巻です。いつもの通り連動する短編が5話収録されています。妖になりたい、人になりたい、などです。もうすっかり忘れてしまったんですが、このシリーズの鳴家は式神であり、万城目学のデビュー作『鴨川ホルモー』の魑魅魍魎である小鬼と同じような気もするんですが、『鴨川ホルモー』では人間とは言葉が違っていて、意思疎通のために言葉を勉強するところから始まっていたような気がします。まあ、どうでもいいんですが、実は、この直前の第13巻『すえずえ』を読むのを忘れていて、『なりたい』の直前に読むことになってしまいました。この『なりたい』では他のシリーズ既刊よりもやや謎解きの趣味が濃いような気がします。それにしても、「猫になりたい」での長崎屋の若だんな一太郎の裁き、さらに、最後の「親になりたい」や「りっぱになりたい」での真相究明というか、謎解きなどはそれなりに論理的で読みごたえがあります。でも、本格の推理ではもちろんあり得ません。妖がかかわると何でもアリになるのは当然です。なお、本作品以外はすべて図書館で借りましたが、この『なりたい』だけは、私と同じくこのしゃばけシリーズのファンである同僚から借り受けました。

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最後に、下村敦史『叛徒』『生還者』(講談社) です。この著者の江戸川乱歩賞受賞作であるデビュー作の『闇に香る嘘』はほぼ1年前の昨年11月14日付けの読書簡素武運のブログで取り上げてあります。最新作の『生還者』を図書館で借りようとしたところ、2作目の『叛徒』を発掘してしまったので、『叛徒』と『生還者』の順で読みました。『叛徒』は警視庁新宿署に勤務する中国語を専門とする通訳捜査官を主人公とし、養父であり妻の父親という義父でもある先輩通訳捜査官の罪を正義感で告発したために自殺に追い込んでしまい、家庭が崩壊して1人息子の中学生も家出してしまいます。他方、我が国の中小企業で酷使される中国研修生とその送り出し機関、さらに中国マフィアや出入国管理官が絡んで、複雑怪奇な犯罪となり、この家出した中学生が犯行に及んでいる雰囲気を醸し出しつつ、最後はそれなりの結末を迎えます。中国人や中国マフィアの絡んだ犯罪ですから、ほぼ何でもアリなんで意外性はほとんどないんですが、それなりに人情の機微というものも感じられます。私は英語とスペイン語を理解する一方で、通訳を務められるほどの語学力はありませんが、翻訳や通訳次第で事実が歪むという現象は見逃せませんでした。そして、『生還者』は兄と同じ山岳部出身の主人公が、ヒマラヤ山脈東部のカンチェンジュンガで大規模な雪崩により命を落とした兄の死の真相に迫るストーリーで、実は、この事故からの生還者が2名いて、その2人が真逆のことを発言する中で、主人公が週刊誌編集者の女性とともに謎解きに挑戦します。結果、その2人がカンチェンジュンガまで容疑者(?)を追い詰めて、最後の最後に大きな謎が整合的に解けるという結末が明らかにされます。殺人事件が起きて犯人を明らかにするという古典的な推理小説ではなく、なかなか趣向があるとともに、いくつか疑問がないでもないものの、それなりに出来のいいミステリではないかという気がします。

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2015年11月20日 (金)

ピュー・リサーチによる気候変動に関する世界世論調査結果やいかに?

とても旧聞に属する話題ですが、私がいつも参照している世論調査機関である米国のピュー・リサーチから去る11月5日に Global Concern about Climate Change, Broad Support for Limiting Emissions と題する世論調査結果のリポートが公表されています。もちろん、pdfフォーマットによる全文リポートもアップされています。ISによるテロの標的となったパリで今月末の11月30日からCOP21が開催されるのを受けて、世界各国で地球環境問題に関する世論調査を実施した結果を取りまとめています。とても遅くなりましたが、調査結果の図表を引用しつつ概観しておきたいと思います。

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まず、上のグラフはピュー・リサートのサイトから、気候変動に関する地域別の関心度の高さを表したグラフ Latin America, Africa More Concerned about Climate Change Compared with Other Regions を引用しています。タイトルから明らかなように、ラテンアメリカやアフリカで関心が高くなっています。

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次に、上の世界地図はピュー・リサートのサイトから、気候変動に関する地域別の関心度の高さを表した最初のグラフを国別に表したものです。ブラジルでもっとも関心が高く、中国などでもっとも関心が低くなっています。国別のグラフもあるんですが割愛していますので、簡単に数字を上げて見ておくと、ブラジル86%、ブルキナファソ79%、チリ77%、インドとウガンダがともに76%がもっとも高く、逆に、中国18%とポーランド19%が低くなっています。日米はなぜか45%で同じパーセンテージを示しています。

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次に、上のグラフはピュー・リサートのサイトから、気候変動に関する地域別の関心度の高さについて、5年前の2010年と今年2015年を比較したもの Some Publics Are Less Intensely Concerned than Five Years Ago です。日米で同じ45%とはいいつつも、日本は大きく関心を低下させて、米国はやや関心を盛り上げて、の45%ですから、今後は違いが生ずる、あるいは、大きくなる可能性もあります。なお、中国については5年前も関心が低かったうえに、さらにこの5年間で関心度合いが下がっているわけです。

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次に、上のグラフはピュー・リサートのサイトから、気候変動の結果の関心について地域別に問うた結果を引用しており、干ばつがもっとも関心が高い Drought Tops Climate Change Concerns across All Regions との結果を示しています。ただ、我が国については干ばつよりも洪水や台風などの気候災害 Severe Weather の関心が45%でもっとも高くなっています。また、かつては注目された海面上昇 Rising sea levels がトップの関心事項になった国は調査対象国の中では存在しませんでした。

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次に、上のグラフはピュー・リサートのサイトから、気候変動の防止や抑制のためには生活や政策を変更する必要があるかどうかを問うた結果 Many Say Changes Needed to Lifestyle, Policy を引用しています。一番上の温室効果ガスの排出削減はほぼ全世界的なコンセンサスがあるように見受けられます。真ん中のパネルでは気候変動問題の解決のためには、技術進歩による解決という楽観的な見方よりも、ライフ・スタイルを変更すべきという意見が多数を占めているのが見て取れます。しかし、下のパネルでは、先進国がより負担を分担すべきか、途上国もある程度の負担を負うべきかについては、先進国にやや偏っていますが、途上国の責任も見逃されているわけではないと考えるべきです。

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最後に、上のグラフはピュー・リサートのサイトから、気候変動防止・抑制のための時間的な余裕について問うた結果を国別に表した結果であり、ラテン・アメリカやヨーロッパでは即時の対応の必要性が認識されていること Immediacy of Climate Change Worries Latin Americans, Europeans Most が示されています。我が国もアジアの中で「即時派」の先頭に立っているようです。

最後の最後に、下は今月11月30日からパリで開催されるCOP21のロゴです。大きな成果が上がることを私は期待しています。

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2015年11月19日 (木)

久し振りに黒字を計上した貿易統計から何が読み取れるか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比▲2.1%減の6兆5440億円、輸入は▲13.4%減の6兆4325億円、差引き貿易収支は+1115億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の貿易収支、1115億円の黒字 7カ月ぶり黒字
財務省が19日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1115億円の黒字だった。7カ月ぶりの貿易黒字に転じた。QUICKが事前にまとめた市場予想(2700億円の赤字)に反して黒字となった。原油安でエネルギーの輸入額が1割超減った影響が大きかった。前年同月は7417億円の赤字だった。ただ、中国の景気減速を背景にアジア向けの輸出は低迷。輸出額は円安の支えがありながらも14カ月ぶりにマイナスに転じた。
輸入額は13.4%減の6兆4325億円と、10カ月連続でマイナスだった。原油価格の下落で、中東地域から原粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減った。10月の原粗油の輸入額はほぼ半減した。昨年10月にiPhone(アイフォーン)関係の輸入額が膨らんだ反動もあった。欧州連合(EU)からの輸入額は10月としての最大を記録した。医薬品や航空機などの輸入が増えた。
輸出額は2.1%減の6兆5440億円。対世界の数量指数は4.6%下がった。中国向けは有機化合物や自動車部品などの輸出が減少。米国向けの自動車輸出などは堅調だったが、補えなかった。対ドルの為替レートは10月の平均値が1ドル=119.98円と、前年同月と比べ10.7%の円安だった。

なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲2700億円の貿易赤字でしたし、レンジで見ても▲5400から▲450億円でしたので、やや予想外の貿易黒字と受け止められているようです。でも、輸出も輸入もともに減少して、いわば「縮小均衡」的な対外貿易の中での黒字計上ですから、どこまで経済的にプラスなのかどうかは評価が難しいところです。すなわち、上の2つのグラフからも明らかなんですが、昨年2014年上半期くらいまでは輸出入ともに増加の傾向でしたが、その後、2014年後半から輸入がいち早く減少を見せ始めます。これは国際商品市況における原油価格の下落などに対応しているわけですが、この国際商品市況の動きの背景にある中国をはじめとする新興国経済の減速が今年2015年に入って現れ始め、輸出も減少傾向を示します。こういった貿易動向の中で、今年前半くらいから貿易収支はゼロ近傍で推移する動きを示し始めています。でも、日経センターのESPフォーキャストの11月調査までを見る限り、「数年内に黒字転換しない」がまだ過半を占めていたりします。もちろん、「黒字転換」の定義次第なんですが、年ベースの統計で貿易黒字に転換するのはそれほど先ではないように見ているエコノミストも少なくないような気が私はしています。もっとも、その昔の学生時代に習ったマーシャル・ラーナー条件が十分に満たされていないのか、引き続き、私は1980年代以来の弾力性ペシミズムを感じており、為替による貿易収支の改善には限りがあるように感じられてなりません。

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上のグラフはいつもの輸出の推移をプロットしています。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルは本邦初公開かもしれませんが、OECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っていますし、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、為替レートによる弾力性がペシミスティックに見えても、世界経済の所得増加による我が国からの輸出拡大については、かなり希望が持てそうな気がします。特に強い根拠はありませんし、中国の先行指標はまだ底ばっているようにも見えるんですが、中国をはじめとする新興国経済の減速も、先進諸国経済の停滞も、そろそろ底を打ちつつあるとの見方も、我が業界のエコノミストの一部から示され始めており、弾力性ペシミストの私も期待を持って見ています。

国際商品市況の動向とも関連して、本日の日銀金融政策決定会合では、景気判断を「緩やかな回復を続けている」に据え置いた上で、金融政策の追加緩和は見送られました。

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2015年11月18日 (水)

スリーエムによる「手帳活用に関する調査」やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、11月10日にスリーエムから「手帳活用に関する調査」の結果がPRTIMESのサイトで公表されています。実は、私も先週末に銀座に出かける機会があり、伊東屋で来年の手帳を買い求めて、12月から使えるものですから、早速、使い始めたりしています。毎年同じ赤い表紙の手帳を使っています。

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ということで、まず、PRTIMESのサイトから紙の手帳を使う理由を問うた回答結果のグラフを引用しています。まあ、この通りなんだという気がします。紙の手帳だと文字を自由に書けて、下線やマルをつけたりして、文字情報以外の強調も付加できます。ただ、パスワード保護などのセキュリティはムリですが、少なくとも私の場合はそれほどのセキュリティは必要としていません。ただ、日程管理の手帳と似て非なるものとして日記がありますが、私の場合はパスワードをかけてパソコンで日記をつけていたりします。いずれにせよ、紙の新聞とネットで見る新聞の違いと同じで、紙媒体の場合は一覧性が高いと私は考えています。アチコチのページに飛ばねばならない電子媒体との違いです。ただ、飛ぶ必要のない学術論文などでは、逆に、検索ができるという利点が生かせますので、紙媒体よりも電子媒体が有利な場合も少なくありません。

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次に、PRTIMESのサイトから紙の手帳を使う場合のストレスを問うた回答結果のグラフを引用しています。修正とスペースの不満が上位に来ているようです。下のグラフにある通り、ボールペンで手帳に記入している場合が多いようです。ただ、私の場合は、同じボールペンでも、いわゆる消せるボールペンを使っています。そうなると、最初の不満である修正については解消されます。また、職業や地域によって特殊なスペース配分を求める向きにはどうしようもありませんが、少なくとも不要スペースについては、かつての定型的な手帳に比べて最近では非常に合理的なスペース配分がなされているように感じます。ただ、不要スペースが出る点は仕方ないかもしれません。また、このアンケート実施の主体であるスリーエムはふせんメーカーであり、手帳のスペース不足にはふせんの活用をアピールしたいんだろうと受け止めています。

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一応、経済評論の日記に分類しておきます。特に根拠はありません。

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2015年11月17日 (火)

年末ボーナス予想やいかに?

今秋もシンクタンク4社から、先週の段階で、年末ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因ですので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研以外は国家公務員となっています。なお、いつものお断りですが、みずほ総研の公務員ボーナスだけはなぜか全職員ベースなのに対して、ほかは組合員ベースの予想ですので、従来から数字が大きく違っていたんですが、最近では国家公務員と地方公務員の違いも含め、大きな差は見られないようになっています。それでも、ベースがやや異なりますので注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.1万円
(▲1.3%)
72.9万円
(+5.4%)
今夏の賞与同様、雇用・所得環境は改善を続けるものの、支給水準の低い支給対象者の増加が平均値押し下げに作用。
具体的な押し下げ要因としては、第1に、5-29人事業所の支給対象者の増加。今夏賞与では5-29人事業所の支給対象者が前年比+4.5%増加した一方、30人以上事業所は同+0.9%。
5-29人事業所の一人当たり支給額(25.5万円)は前年比+0.8%増加したものの、平均支給額(35.7万円)と比べ約3割低いため全体を押し下げ。ちなみに、今夏の平均一人当たり支給額は、前年比▲2.8%減少したが、このうち5-29人事業所の支給対象者増加が▲1.3%ポイントの押し下げに作用。この動きが年末賞与でも続く見込み。
第2に、支給企業における支給水準が低い、または無い常用雇用者の増加。昨年来の雇用者増加は、女性、高齢者が中心。パートタイマー、高齢雇用延長制度対象者等が多く、支給のベースとなる月例給が低いほか、一部、支給のない雇用者もおり、総じて賞与支給は低水準。
第一生命経済研37.0万円
(▲1.5%)
n.a.
(+0.6%)
民間企業の冬のボーナスは減少が予想され、期待外れの結果に終わるものと思われる。所定内給与でプラスが定着しつつあることなど、賃金全体では緩やかに改善していることや、雇用者数が着実に増えていることなどを踏まえると、今後も雇用者所得が増加する可能性は高いと思われるが、ボーナスが弱い分、所得の増加ペースは緩やかなものにならざるを得ないだろう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング36.7万円
(▲2.1%)
71.5万円
(+3.4%)
2015 年冬のボーナスは「毎月勤労統計」ベースでは夏と同様に減少すると予測する。民間企業の一人あたり平均支給額は36万7458円(前年比-2.1%)と大幅減となるだろう。ただし、企業業績の改善やボーナスの算定基準とされる基本給の増加など、冬のボーナスを取り巻く環境は昨年冬並みに良好である。実際、経団連の発表によると、大企業の冬のボーナスは増加が見込まれている。15年冬のボーナスについては、「毎月勤労統計」だけでなく、経団連や連合など他の調査結果も踏まえたうえで総合的に判断する必要があるだろう。
みずほ総研36.9万円
(▲1.8%)
78.1万円
(+1.9%)
2015年冬の民間企業の一人当たりボーナス支給額を前年比▲1.8%と予測している。冬のボーナスとしては2年ぶりの減少となる見込みである。ただし、今冬のボーナスの減少は、2015年1月に実施された毎月勤労統計調査のサンプル替え(事業規模30人以上で実施)による統計上の押し下げが主因であり、実勢としては前年比+2.2%と増加する見通しである。

今月11月9日付けのエントリーで毎月勤労統計を取り上げた際にも触れましたが、統計のサンプル替えが結果に影響しているようで、みずほ総研のリポートでは上のテーブルにもありますが、「ボーナスの減少はサンプル替えによる影響も大きく、実勢としてはプラスとなる見込み。」と分析しています。もう、何がなんだかよく分かりません。私は出向で総務省統計局勤務の経験もあるんですが、経済分析のインフラとしての統計の重要性を改めて思い知らされました。
下の画像はみずほ総研のリポートから引用しています。サンプル替え要因の影響を除くベースでの予測も併せてプロットしています。ご参考まで。

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2015年11月16日 (月)

2四半期連続のマイナス成長を記録した7-9月期1次QEから何を読み取るか?

本日、内閣府から7-9月期のGDP速報1次QEが公表されています。ヘッドラインとなる季節調整済みの系列の前期比成長率は▲0.2%のマイナス成長となりました。4-9月期に続いて2四半期連続のマイナス成長でテクニカルな景気後退に入ったとの見方を示す報道もあります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月期実質GDP、年率0.8%減 2期連続マイナス
内閣府が16日発表した2015年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.2%減、年率換算では0.8%減だった。4-6月期(年率換算で0.7%減)から2四半期連続のマイナス成長となった。中国景気の不透明感などを背景に、企業の設備投資が低調だった。実質賃金の改善傾向が続く中で、前期に落ち込んだ個人消費は持ち直した。
QUICKが13日時点で集計した民間予測の中央値は前期比0.1%減、年率で0.3%減だった。
生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.0%増、年率では0.1%増だった。僅かながら、4四半期連続のプラスだった。
実質GDPの内訳は、内需が0.3%分のマイナス寄与、外需は0.1%分の押し上げ要因だった。
項目別にみると、設備投資は1.3%減と、2四半期連続のマイナスだった。企業収益は過去最高水準で推移しているが、設備投資への意欲は高まらなかった。企業が手元に抱える在庫の増減を示す民間在庫の寄与度は、0.5%分のマイナスだった。
個人消費は0.5%増と、前期(0.6%減)から2四半期ぶりに増加に転じた。公共投資は0.3%減と、2四半期ぶりにマイナスとなる一方、住宅投資は1.9%増と3四半期連続でプラスだった。
輸出は2.6%増、輸入は1.7%増だった。輸出の回復ペースは鈍かったものの、原油安などの影響で輸入の伸びも小さく、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスとなった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス2.0%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.2%上昇した。
2015年度の実質GDP成長率が内閣府試算(1.5%程度)を実現するためには、10-12月期、16年1-3月期で前期比年率4.7%程度の伸びが必要になるという。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2014/7-92014/10-122015/1-32015/4-62015/7-9
国内総生産GDP▲0.3+0.3+1.1▲0.2▲0.2
民間消費+0.2+0.4+0.4▲0.6+0.5
民間住宅▲6.8▲0.7+2.0+2.4+1.9
民間設備+0.3+0.0+2.4▲1.2▲1.3
民間在庫 *(▲0.5)(▲0.3)(+0.5)(+0.3)(▲0.5)
公的需要+0.7+0.2▲0.0+0.8+0.2
内需寄与度 *(▲0.3)(▲0.0)(+1.2)(+0.0)(▲0.3)
外需寄与度 *(+0.1)(+0.3)(▲0.0)(▲0.2)(+0.1)
輸出+1.6+2.9+1.9▲4.3+2.6
輸入+1.1+0.9+1.9▲2.8+1.7
国内総所得 (GDI)▲0.5+0.4+2.2+0.2▲0.3
国民総所得 (GNI)▲0.0+1.4+1.2+0.7▲0.4
名目GDP▲0.5+0.7+2.2+0.2+0.0
雇用者報酬 (実質)+0.1+0.1+0.6▲0.1+0.8
GDPデフレータ+2.1+2.3+3.5+1.5+2.0
内需デフレータ+2.3+2.1+1.5+0.0+0.2

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2015年7-9月期の最新データでは、前期比成長率が前期に続いてマイナスを示し、特に、灰色の在庫と水色の設備投資のマイナス寄与が大きいのが見て取れます。

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この2四半期、すなわち、4-6月期に続く7-9月期のマイナス成長をどう見るかについては、強気派も弱気派もエコノミストの間にはほぼコンセンサスがあり、2四半期連続のマイナス成長でテクニカルには景気後退かもしれないが、今回のマイナス成長は本来の、というか、NBER的な景気後退ではない、という点で一致しているように見受けます。理由は何点かあるんですが、第1に足元の10-12月期にプラス成長が見込めることです。中国などの新興国経済の減速に起因する先進国の景気低迷や我が国の踊り場も、ようやく終息に向かいつつあり、家計の実質所得の回復も含めて、10-12月期ないしは来年早々には徐々に本格回復に向かう動きが顕在化する可能性が高い、と考えるべきです。第2にマイナス幅が小さいことです。4-6月期は2次QEの段階では前期比▲0.4%のマイナスでしたが、▲0.2%に改定されていますし、7-9月期も同じ▲0.2%のマイナスです。ほぼ横ばいと見なすことが出来る範囲内ではないかと私も考えないでもありません。第3に7-9月期のマイナス成長が在庫調整によるものだからです。在庫が寄与度で▲0.5%に達しており、これを除けば年率1%ほどのプラス成長となります。景気の実勢がここまで強いか疑問がありますが、▲0.2%の前期比成長率ほど弱くないことも事実です。これら3点を合わせて、4-6月期から7-9月期にかけての景気の踊り場は duration も depth も景気後退と同定するに足りず、しかも、7-9月期については在庫調整の進展がマイナス成長の大きな要因です。加えて、足元の10-12月期か来年年明けからの景気回復を期待する見方も少なくないことから、2四半期連続のマイナス成長ながら、それほど悲観する必要もないんではないかという気もします。

というのが私の見方なんですが、何と、経団連の榊原会長は日経新聞の報道によると、2四半期連続のマイナス成長で政府に景気浮揚策を求めているらしいです。かつて、GEのCEOだったウェルチ会長は "GE would be the locomotive pulling the GNP, not the caboose following it" すなわち、「GEがGNPをけん引するのであって、GNPについて行くようなものには決してなろうとしない」と言い放ちましたが、賃上げに消極的で設備投資にも踏み切れない日本の企業経営者のアニマル・スピリットの一端を垣間見た気がします。

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2015年11月15日 (日)

2015年ユーキャン新語・流行語大賞の候補語やいかに?

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やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週11月11日に2015年ユーキャン新語・流行語大賞の候補語が50語ノミネートと発表されています。

爆買い / インバウンド / 刀剣女子 / ラブライバー / アゴクイ / ドラゲナイ / プロ彼女 / ラッスンゴレライ / あったかいんだからぁ / はい、論破! / 安心して下さい、穿いてますよ。 / 福山ロス (ましゃロス) / まいにち、修造! / 火花 / 結果にコミットする / 五郎丸ポーズ / トリプルスリー / 1億総活躍社会 / エンブレム / 上級国民 / 白紙撤回 / I AM KENJI / I am not ABE / 粛々と / 切れ目のない対応 / 存立危機事態 / 駆けつけ警護 / 国民の理解が深まっていない / レッテル貼り / テロに屈しない / 早く質問しろよ / アベ政治を許さない / 戦争法案 / 自民党、感じ悪いよね / シールズ (SEALDs) / とりま、廃案 / 大阪都構想 / マイナンバー / 下流老人 / チャレンジ / オワハラ / スーパームーン / 北陸新幹線 / ドローン / ミニマリスト / ルーティン / モラハラ / フレネミー / サードウェーブコーヒー / おにぎらず

私の知らない候補語も数多かったりしますが、いくつかは耳にする機会の多かった言葉だという気もします。大賞などの決定と発表は12月1日だそうです。

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2015年11月14日 (土)

今週の読書は経済書と専門書・教養書を合わせて小説なしで7冊ほど!

今週の読書は経済書を中心に、専門書・教養書を合わせて7冊ほどです。誠に残念ながら、小説はありません。以下の通りです。

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まず、マーク・ブライス『緊縮策という病』(NTT出版) です。経済書の扱いで読書感想文の最初に置きましたが、著者はスコットランド生まれの国際政治学者であり、現在はアイビー・リーグのブラウン大学政治学部の教授を務めています。しかし、中身は経済書ですので、解説はリフレ派エコノミストの早大若田部教授が書いていたりします。原題はそのまま Austerity です。原書は2013年に刊行され、本書は2014年に「あとがき」を加えたバージョンが翻訳されています。エコノミストではないので理論的な正確性は少し雑な気がしますが、財政政策や金融政策における緊縮策=引締め政策に対する否定的な見解を歴史と理論の両面から取りまとめています。特に、ひとつの視点として緊縮策は経済社会の構成員に平等に引締め効果を及ぼすわけではなく、上位30パーセントには引締め効果が及ばず、経済の不平等化を促進するという視点があります。この点については私はやや疑問視していますが、ほかについてはほぼ賛同するばかりです。緊縮策のひとつの発現形態であるワシントン・コンセンサスも他のリベラルな論調と歩調を合わせて否定的な見方を提供していますし、その昔の金本位制下における各国の金融政策の独立性の否定にも私は大いに同調しています。また、現在の欧州における共通通貨ユーロの導入については、離脱する選択肢がないという意味で、金本位制よりもより緊縮的な効果を及ぼす可能性を指摘しています。リーマン・ショック後の金融危機において、緊縮策を取ったアイルランドと清算主義を取ったアイスランドの違いも明瞭です。また、今後の政策のあり方についても p.322 以下で明らかにしており、金融抑圧と高所得者層への累進的な課税を論じています。最後に、イタリアのボッコーニ学派のいわゆる非ケインズ効果の実証については、本書でも2010年10月の国際通貨基金(IMF)の「世界経済見通し」World Economic Outlook 第3章分析編における研究成果を紹介していますが、実は、このブログでもこの分析結果は取り上げており、2010年10月4日付けのエントリーで、財政再建について論じています。最後の結論は「先進国の中で財政破綻する確率が最も高い国のひとつは日本なのかもしれません。でも、需要不足の現在の日本にどこまで財政再建が必要かどうかは疑問なしとしません。私はそういうタイプのエコノミストです。」で締めくくっています。本書に極めて近いスタンスを感じ取っていただければ幸いです。

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次に、モルテン・イェルウェン『統計はウソをつく』(青土社) です。表紙に見える通り、副題は「アフリカ開発統計に隠された真実と現実」となっています。著者はノルウェイ出身で、英国で学位を取りカナダの大学で経済史の研究を行っている准教授だそうです。開発経済学に関するアフリカ経済統計、特にSNAとして知られるGDP統計や日本でいう国勢調査に当たる悉皆調査の人口統計、センサスなどを徹底的な「上から目線」でやり玉に上げています。ということで、アフリカ諸国政府の統計局で努力しつつも十分に精度の高い統計を作成できないでいる行政官やエコノミストからすれば、不愉快な主張かもしれませんし、ハッキリ言って、本書 p.194 で提示されている「数字の有用性を評価し、主張するためには質的研究の技術が必要」とか、p.210 「数字を解釈するのに統計以外の技術が必要」との解決策は極めてお粗末なものであり、統計の不正確さをあげつらっている本書のその他の部分における論調とは釣り合いません。読者からしても、前者のアフリカ諸国の努力に重点を置く人ならば不愉快な書と感じるでしょうし、後者の制度の低い統計に重点を置けば、あるいは、痛快な告発の書と受け止めるかもしれません。私は前者に近いんではないかと考えています。最近におけるハード・ソフトのコンピュータの技術進歩に伴って、軽量分析手法は大きく進んだんですが、それを用いる統計の信頼性が追いついていないというのは事実ですし、特に、発展途上国におけるマクロ統計の信頼性が高くないことは本書の指摘する通りですし、私がこのブログの2012年7月13日付けのエントリーで取り上げたバナジー/デュフロ『貧乏人の経済学』などでも、マクロ指標ではなくランダム化対照試行(RCT)によるマイクロな検証が可能な開発手法に注目が集まっているのは本書でも取り上げられている通りです。しかし、国連のミレニアム開発目標(MDGs)でも明らかな通り、マクロの定量的な開発目標は途上国の経済開発に大いに促進するものであり、本書の主張する解決策よりもすぐれて重要であると私は主張したいと思います。それから、学術書ではないかもしれないんですが、p.283 で翻訳者に得々とミスを指摘される本も困ったものです。私も明らかなミスを指摘すると、結論の p.202 のバローの論文として引用元が p.272 注の(19)で示されている "On the Mechanics of Economic Development" はルーカス教授の論文だであって、本文で引用されているアフリカにダミーを入れたバロー教授の論文は "Economic Growth in a Cross Section of Countries" だと思います。開発経済学にたずさわるエコノミストであれば、空で言えるような論文の著者名にミスがあるのは、本書全体の信頼性を損ないかねないので、それなりの注意が必要かもしれません。

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次に、日本経済新聞社[編]『こころ動かす経済学』(日本経済新聞出版社) です。国内の経済学者12人によってマイクロ経済学の観点から、倫理観や道徳、幸福度などについて取りまとめています。構成が巧みで、個人や家族の倫理観や幸福などから始まって、職場での仕事上の組織やモティベーションに進み、最後はメンタルヘルスで終わっています。なかなか鋭い実証分析結果が内外の研究成果からいくつか示されており、p.127 では女性を対象にした幸福度の研究結果から、結婚後の幸福度については結婚1年目がもっとも高く、その後は次第に低下することが明らかにされています。女性だけでなく、男性もそうではないかと勝手に想像しているんですが、低下の仕方についても興味があるところです。線形に低下するのか、ロジスティック曲線のような低下を見せるのか、あるいは、その昔にマリリン・モンローが主演した映画で「7年目の浮気」というのがありましたが、クリティカルに急に幸福度が下がる年次があるのかどうか、それは男女で違うのか同じか、などなど、といった点です。他方、私のような経済政策との接点がそれなりにあってマクロ経済を対象にするエコノミストから見て、本書のようなマイクロな経済研究の限界も露呈しているように見えます。すなわち、幸福度研究の最後の p.137 にありますが、「幸福度の高い社会を目指すには、個々人がしっかりと所得を得られる基盤が必要」と指摘されています。マイクロな選択の問題で、合理性を論じたり、実験経済学で限定的な合理性を分析することなども当然に必要ながら、合理的あるいは限定合理的な選択できるようなマクロ経済の環境整備の必要性を忘れるべきではありません。戦争や動乱のような異常事態では合理性もへったくれもないでしょうから、所有権を保証する治安が維持されていて、その上で経済的には、個人の能力意欲に従って安定した職を得て社会に参加し、個人もしくは家族の生活に必要な所得を得ることが出来て、しかも、社会全体として生産活動が活発に行われて個々人やそれぞれの家族に必要な物資が行き渡り、あるいは、医療活動などの健康維持にもリソースを回す余裕が社会にあり、同時に、むちゃくちゃなインフレで人生の将来計画の設計が不可能になったりすることない経済社会の基盤の上で、その上で初めて合理的あるいは限定合理的な選択の問題や幸福度の計測などを論じることが出来るのだということは忘れるべきではありません。決して、マイクロな経済学がマクロ経済学より些末な問題を扱っていると主張するつもりはありませんが、リーマン・ショックによって、マイクロな合理的選択の理論と市場の合理性の問題は大きな疑問さらされたことも事実であり、マイクロな経済社会の基盤としてのマクロ経済学の重要性も十分に認識しておく必要があります。

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次に、円堂都司昭『戦後サブカル年代記』(青土社) です。著者は文芸評論家、音楽評論家であり、本書の内容としてはタイトルそのままなんですが、実は、さかのぼっても1964年東京オリンピックまでであり、「戦後」とはいっても実体的に追えているのは1970年台からです。もっとも、副題に見える通り、「終末」と「再生」がテーマのようですから、終戦直後の再生はともかく、1960年代までの高度成長期には「終末」はサブカル的にはあり得ないのかもしれません。少なくとも「終末」については世界的に考えてもローマ・クラブの『成長の限界』が出版されたのが1972年、その直後に第1次石油危機が生じていますので、そのあたりからなのかもしれません。いくつか不満はあるんですが、ひとつは活字メディアを中心に追っており、音楽や映画は余り重きを置かれていません。ですから、ウルトラマン、ポケモン、ドラえもんといったテレビ文化は「終末」とも「再生」とも関係ないと判断されたのか、ほとんど触れられていません。音楽もほとんどありません。それから、サブカルとはあるいは知的でもいいんですが、もっと軽やかなムーブメントだと私なんかは捉えていたんですが、どうも、著者の目からすれば反戦平和とか反原発とかが重点になるようです。それにしては、山上たつひこの「光る風」が出て来ません。「光る風」に焦点を当てつつ、「がきデカ」を無視する、というのが本書の立場ではないかという気もしないでもありません。どうでもいいことながら、私は朝日ソノラマの『光る風』上下巻を今でも持っていたりします。いずれにせよ、反戦平和とか反原発というのは、サブカルではなくてメインストリームのカルチャー、日本的にいえばハイ・カルチャーではないかという気がします。それから、ネトウヨについても触れられていますが、総理大臣官邸近くを通ることも少なくない私の観察では、左翼的な集団と右翼的な集団では年齢の差があるような気がします。すなわち、少なくとも私が観察した総理大臣官邸周辺で何らかの政治的な表現をしている人々の平均年齢を見ると、右翼的な表現をしている人のほうが圧倒的に左翼的な表現をしている人よりも若いような気がします。サンプルに偏りがある可能性は残りますが、ひょっとしたら、そうなのかもしれないと思ったりもします。

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次に、ダン・ジュラフスキー『ペルシア王は「天ぷら」がお好き?』(早川書房) です。原書は昨年の出版で、著者はスタンフォード大学の言語学やコンピュータ・サイエンスの教授だそうです。私が本書を読む限り、著者本人はユダヤ人的な風習・風俗に詳しく、著者の配偶者は中国系の血を引いているという事実が強く示唆されているような気がしました。なお、英語の原題は The Language of Food すなわち、食事の言語学的な解明を試みた本だと言ってよさそうに思います。ですから、ケチャップが中国語に由来するという事実から解き明かし始め、ます。曰く、今ではケチャップはトマト味に決まっているのに、どうして「トマト・ケチャップ」というのか、すなわち、トマト以外の原料を用いたケチャップが歴史的な原点であるということなんでしょう。ほか、花の flower と小麦粉の flour あるいは、マカロンとマカロニの語源とか、宣伝文句としては否定表現を用いるのが、例えば、「天然素材使用」というよりも、「人工素材不使用」といった方が、他の製品では人工的な素材を用いているような印象を与えやすくて効果的とか、言語学的な食品に関するペダンティックな知識が満載です。極めつけは、p.215 以下で音象徴の現象から、前舌母音よりも後舌母音を用いたブランドや商品名の方が、大きく重厚で濃密などのイメージをもたれやすい、というのがあります。また、本書には随所に料理のレシピが掲載されており、私のようにキッチンには入らず料理はしないという不調法者よりも、実際にお料理を楽しんでいる人により説得力ある議論が展開されているのかもしれません。最後に、英語の中で翻訳しにくい語として、物知り顔で "serendipity" という人造語を上げる人がいますが、私は前々から "gastronomy" を上げていたところ、本書 p.196 では「料理学」の訳を当てていました。「食道楽」くらいかと私は思っていたんですが…

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次に、フィリップ・ジンバルドー『ルシファー・エフェクト』(海と月社) です。著者は知る人ぞ知るスタンフォード大学の心理学教授であり、心理学の実験としてはミルグラム実験とともに「残酷な心理学実験」として人口に膾炙したスタンフォード監獄実験の主宰者です。スタンフォード監獄実験が1971年ですから、本書の原書が2007年に刊行されているとはいえ、まだご存命だったとは知りませんでした。ということで、原注の手前までの本文750ページ余りの大ボリュームの書物ですが、そのうちの約420ページが11章構成でスタンフォード監獄実験に費やされています。このスタンフォード監獄実験については、かのエーリッヒ・フロムがジンバルドー教授からの資料提供を受けて1970年代半ばに『破壊 人間性の解剖』の中で論じています。そして、第12章と13章の2章で100ページに渡ってミルグラム実験などの他の悪をめぐる心理実験を取り上げ、第14-15章の2章170ページでイラク戦争後のアブグレイブ刑務所における米国軍人の残虐行為に焦点を当て、最後の1章60ページで本書を取りまとめ、悪につながらないための方策、英雄的行為などを論じています。主宰者としてのスタンフォード監獄実験の教訓については2点あり、「状況こそが重要」(p.350)と「状況はシステムによってつくられる」(p.373)ということです。要するに、個人の資質は否定されているわけで、状況やその基となるシステム次第で、どんな人も悪に染まる、ということです。そして、最終章ではそうならないための逆ミルグラム実験について論じられていたりします。また、悪を実行する場合、ブーバー的な用語を用いて「我-汝」ではなく、非人間的な「我-それ」から、「それ-それ」と非人間化が進むと p.368 で論じていますが、マルクス主義的にいえば疎外の問題だという気がします。殺人まで行かなくても、例えば、ポルノなどでは対象は人格を持たない、もしくは、否定された「モノ」化しているんですが、典型的なマルクス主義の疎外と言えます。ただし、疎外には有用な場合もあり、例えば、盲腸炎などの際に外科医が病巣を摘出するのは、少なくともその部位に人格の名残りを認めていない、とも考えられます。いずれにせよ、悪一般だけではなく、スタンフォード監獄実験について興味ある向きには、何せ、主宰者自らの著作ですので、それなりの知的好奇心が満たされる可能性があるんではないかと思います。

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最後に、玉木俊明『ヨーロッパ覇権史』(ちくま新書) です。著者は文学部の歴史学科を卒業して、現在では経済学部の経済史の研究者となっています。そして、タイトルからは判然としないんですが、本書では、欧州内部の覇権の歴史ではなく、というか、それも含むのかもしれませんが、世界史の中で欧州が覇権を握った理由について分析や考察を加えています。何度か、このブログで私が主張した通り、少なくとも20世紀初頭の第1次世界大戦の前においては、欧州が世界的な覇権を握っていたと言いつつも、せいぜい18世紀中葉からの産業革命の結果であり、その産業革命がどうして欧州の辺境の地であるイングランドで生じたかは、不明とは言わないまでも、多くの歴史家やエコノミストの同意を集める見方、あるいは、仮説はまだ提示されていない、といったところだろうと私は認識しています。そして、言うまでもなく、第1次世界大戦後から、より明確には20世紀中葉の第2次世界大戦後、世界の覇権は欧州から米国に移っており、現在でもパクス・アメリカーナが続いていると私は考えています。ところが、本書では極めて特異な見方が示されており、欧州が世界に覇を唱えたのは軍事革命の結果であるとの見方を提供しています。ですから産業革命は脇に追いやられており、例えば、「イギリスが輸入した綿花がイギリスで綿製品となり、産業革命を引き起こしたのは、例外的現象であった。」(pp.120-21)とか、「イギリスは、確かに世界で初めて産業革命を成し遂げた、世界最初の工業国家であった。しかし、イギリスが世界経済のヘゲモニー国家となったのは、おそらくそのためではない。」(pp.186)との主張が繰り返され、英国がヘゲモニーを握ったのは地方分権的なオランダと違って集権国家であったために財政基盤が堅固で戦争遂行に適していた点を上げています。本書はおそらく欧米中心史観ではなく、中国やアジアを視野に収めたという意味で、グローバル・ヒストリーの学派に流れをくむのだろうと私は受け止めていますが、それにしても、ここまで産業革命を軽視する史観には初めて接しました。しかも、大学の刑事ア学部で経済史を講義している研究者の著書なんですから、軍事革命による欧州の覇権確立なんて見方も初めてで、私はちょっとびっくりです。新たな刺激が欲しい読書子向けの新書かもしれません。トンデモ経済史の本なのかもしれません。

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2015年11月13日 (金)

来週公表予定の7-9月期GDP速報1次QEの予測やいかに?

来週月曜日の11月16日に今年2015年7-9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。必要な経済指標がほぼ明らかにされ、シンクタンクや金融機関などから1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、先行きの今年10-12月期以降を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは日本総研、大和総研、みずほ総研、ニッセイ基礎研でした。それぞれ、長めに引用してあります。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.1%
(▲0.4%)
10-12月期を展望すると、①良好な企業の収益環境、②収益増と人手不足を背景とする所得雇用環境の緩やかな改善傾向持続、などにより、景気は持ち直しに転じ再び回復軌道へ復帰する見込み。もっとも、中国経済の減速を受けて同国向け財輸出や企業・消費者のマインドへの下振れ圧力が高まっていることから、回復ペースは緩やかなものにとどまる公算。
大和総研+0.0%
(+0.1%)
先行きの日本経済については、海外経済減速の影響が緩和する中で、良好な雇用環境や所得環境の改善を背景とする個人消費の回復などを受けて、「踊り場」局面から徐々に持ち直すと考えている。
みずほ総研▲0.3%
(▲1.1%)
今後の景気については、緩やかな回復基調に復するとみている。人手不足の高まりなどを背景に雇用者所得が堅調に推移していることから、個人消費は緩やかな持ち直しが続くと予想している。欧米を中心に海外経済の回復基調が維持される中で、年末にかけてスマートフォン向けの電子部品の出荷も支えとなることで、輸出の回復も続くだろう。設備投資は、当面様子見姿勢が続く可能性があるものの、企業収益が堅調な中で積極的な投資計画が維持されていることから、徐々に増加していくと見込まれる。ただし、在庫については、今回削減の動きがみられたが、まだ水準自体は高いため、引き続き景気回復の重しとなる可能性が高い。
ニッセイ基礎研▲0.0%
(▲0.2%)
現時点では、2015年10-12月期は前期比年率1%台のプラス成長を予想している。中国をはじめとした新興国経済の減速に伴う輸出の伸び悩みから外需による成長率の押し上げは当面期待できず、個人消費、設備投資を中心とした国内需要が経済成長の主役となるだろう。
第一生命経済研▲0.0%
(▲0.1%)
7-9月期のGDPについてはリスクは上下に均衡しており、プラス成長、マイナス成長ともにあり得る状況だ。特に読みにくいのは在庫。普通に考えれば大幅マイナス寄与になるはずだが、1-3月期、4-6月期とも事前予想を大きく上振れているだけに、今回どう出るか、正直言って自信がない。在庫による撹乱に注意したい。
伊藤忠経済研▲0.2%
(▲0.9%)
個人消費や輸出は下げ止まったものの、設備投資の減少が続き、在庫投資がマイナスに転じた。2四半期連続のマイナス成長は景気後退局面入りの可能性を示しており、今後の政策対応が注目される。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.1%
(+0.2%)
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所は、7-9月期の実質GDP成長率を前期比年率+0.2%と予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.2%
(▲0.7%)
2015年7-9月期の実質GDP成長率は、前期比-0.2%(年率換算-0.7%)と2四半期連続でマイナス成長となったと見込まれる。
三菱総研+0.2%
(+0/6%)
4-6月期に大きく減少した消費や輸出が持ち直すことで、2四半期ぶりのプラス成長となる見込み。

ということで、7-9月期はほぼゼロ成長の予想であり、直感的にはややマイナス成長との予測がプラス成長を上回っているような気がします。そして、私が注目した足元の10-12月期以降の先行きの成長予想については、緩やかながら回復に向かうとの見方が多いように見受けられます。ただし、中国などの新興国向けの輸出は当面期待できず、堅調な雇用を背景とした所得の伸びが消費を支えるとともに、設備投資が緩やかな増加に転じ、内需主導の回復との見方が多くなっています。ただし、在庫については一定の調整は進展したものの、まだ水準としては高止まっており、在庫調整の進展が成長率を下押しする可能性も否定できません。いずれにせよ、今年後半から来年2016年いっぱいは緩やかな回復が続き、2017年1-3月期に消費税率再引上げ直前の駆込み需要があって、2017年4月以降は消費増税に伴う景気低迷が始まる、というカンジなのではないかと私は予想しています。
下のグラフは、ほぼ私の実感通りの予想なので、ついついうれしくなってしまったニッセイ基礎研のサイトから引用しています。

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2015年11月12日 (木)

増加に転じつつある機械受注と下落幅を縮小する企業物価!

本日、内閣府から9月の機械受注が、また、日銀から10月の企業物価(PPI)が、それぞれ公表されています。機械受注のうちの船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は前月から+7.5%増加して8164億円を記録し、企業物価のうちの国内物価のヘッドライン上昇率は前月からやや下落幅を縮小させて▲3.8%となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、7-9月期10.0%減 5期ぶりマイナス、リーマン直後以来の下げ幅
内閣府が12日発表した機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の7-9月期の受注額(季節調整値)は前期比10.0%減の2兆3813億円だった。5四半期ぶりのマイナスに転じ、下落率はリーマン・ショック後の2009年1-3月期(11.4%減)以来の大きさだった。鉄鋼や電気機械、造船からの受注減で製造業が15.3%減った。金融業・保険業や農林漁業などの引き合いが弱かった非製造業は6.5%減だった。中国をはじめとする新興国の景気減速などを受け、企業が資金を設備投資に振り向ける動きはなお鈍い。
内閣府は3カ月ごとに調査対象企業に受注額の見通しを聞いている。8月時点では7-9月期に0.3%増えるとの見通しを示していた。当初見通しをどの程度、実現したかを示す達成率は93.3%と、4-6月期(111.3%)から大きく下振れし、14年4-6月期以来の低水準だった。
10-12月期の受注額(船舶・電力除く民需)は2.9%増の見通しとなった。製造業が6.0%、非製造業は2.5%増える見込み。前期と比べ、鉄道車両や道路車両などの受注増を想定している。
併せて発表した9月の受注額(同)は前月比7.5%増の8164億円だった。プラスは4カ月ぶり。QUICKの市場予想(4.3%増)を上回り、伸び率は14年3月以来、1年半ぶりの大きさだった。金融業・保険業や運輸業・郵便業などの発注が増えた非製造業が14.3%伸びた。一方、製造業は5.5%減。内閣府は機械受注の判断を「足踏みを示している」に据え置いた。
10月の企業物価指数、前年比3.8%下落 前月比は5カ月連続下落
日銀が12日発表した10月の国内企業物価指数(2010年=100)は101.5で、前年同月比3.8%下落した。比較の対象となる前年の物価が原油安の影響で下がっており、下落率は9月から0.2ポイント縮小した。前月比では0.6%下落と5カ月連続でマイナスとなった。
前月比で下落の大きな要因となったのは、電力・都市ガス・水道と石油・石炭製品だった。電力価格は夏季の割増料金がなくなった。石油価格は今年度に入ってからの一段の原油安を反映した。鉄鋼や非鉄金属も下落した。今後の動向について日銀は国際商品市況の動向次第で読みにくいものの「大きな下落はないだろう」(調査統計局)とみている。
前年同月比での下落率は縮小した。原油価格の急落を受けて前年の秋ごろから企業物価指数が大きく下がり始めたためだ。このため前年比のマイナス幅は当面は縮小傾向となりそうだ。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち、前年同月比で上昇したのは295品目、下落は395品目となった。下落品目と上昇品目の差は9月確報から縮小した。

いずれも、よく取りまとめられた記事だという気がします。でも、機械受注では9月統計よりも7-9月の四半期統計にやや注目が偏った印象ですし、また、別の観点から、2つの経済指標を一気に並べるとやや長くなってしまいました。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、まん中は需要者別の機械受注を、下は四半期データで達成率を、それぞれプロットしています。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。景気後退期のシャドーについては企業物価上昇率も同じです。

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中国をはじめとする新興国の景気減速に起因する世界経済の低迷から、我が国の設備投資とその先行指標である機械受注ないしコア機械受注は、引用した記事にもある通り、4-6月期に大きくブレーキがかかってしまい、下のパネルの達成率で見ても、エコノミストの経験則による景気転換点である90%にかなり近づきました。しかしながら、今日発表の統計を見る限り、単月の統計から見てほぼ下げ止まったようですし、コア機械受注のベースの10-12月期の受注見通しも+2.9%増ですから、機械受注は先行き増加に転じ、GDPベースの設備投資も回復に向かう可能性が高いと私は受け止めています。ただ、どのくらいの反転増加かというと見方は分かれそうです。日銀短観などで示されている今年度の設備投資計画に沿った増加であれば、ものすごい急回復で増加する可能性があるものの、10-12月期の受注見込みですら+3%程度で、しばしば実績はこの受注見込みを下回ることもありますから、今後の回復も緩やかと見るエコノミストも少なくありません。私はどちらかと言えば後者の緩やか回復派に近いと考えています。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の、下のパネルは需要段階別の、それぞれの上昇率をプロットしています。いずれも前年同月比上昇率です。ヘッドラインの国内物価上昇率は、今年4月統計で昨年の消費増税の影響が一巡して▲2.1%を記録してから、月を追うごとに下落幅を拡大して、5月▲2.2%、6月▲2.4%、7月▲3.1%、8月▲3.6%、9月▲4.0%から、今日発表の10月統計では▲3.8%と、マイナス幅を縮小させています。とはいっても、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲3.5%でしたので、縮小度合いは物足りないと考える向きがあるかもしれません。もちろん、国際商品市況における石油や金属などの価格下落に伴う物価低迷であり、さらに国際商品市況の下落の背景には中国をはじめとする新興国の景気の強烈な減速があるわけで、引用した記事にもある通り、国際商品市況に伴う物価下落もほぼ一巡し、前年同月比のマイナス幅は先行き縮小する可能性が高いと見込まれています。これも、どこまで縮小するかで見方は分かれますが、私はゼロからプラスまで半年から1年で戻る可能性も小さくないと受け止めています。ただし、その後には2017年4月からの消費税率の再引上げが待っていたりもします。

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2015年11月11日 (水)

経済協力開発機構(OECD)の「経済見通し」Economic Outlook やいかに?

今週の月曜日11月9日に経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し」 Economic Outlook No.98 が公表されています。まず、記者発表資料から成長率見通しの総括表 Summary of OECD projections for G20 countries を引用すると以下の通りです。

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中国をはじめとする新興国の景気減速にともなって、世界経済の成長も今年は+2.9%に低下するものの、来年以降は中国の経済活動がスムーズにリバランスされ、先進国経済における投資がより一層活性化されることなどから、世界経済の成長率は2016年の+3.3%から2017年の+3.6%に徐々に高まると予測されています。しかし、9月の「中間評価」では世界経済の成長率は、2015年+2.9%、2016年+3.3%でしたので、やや下方修正されていることも事実です。我が国については、2015年には中国などの新興国からの需要が急減速したことや停滞する国内消費などが原因となり+0.6%にとどまるものの、来年2016年には+1.0%に加速すると見込んでいます。しかし、2017年は4月から予定されている消費税率引き上げの影響から再び+0.5%に減速すると予想されています。

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OECD「経済見通し」から、成長率だけでなく、我が国で伸び悩んでいる設備投資と賃金について、我が国だけでなく米欧の見通しも含めて少し詳しく見ると、まず、上のグラフは記者発表資料から Real investment exhibits sluggishness and mixed projected improvement を引用しています。リーマン・ショック直前の2008年1-3月期を100とする実質設備投資の系列を、2017年までの見通しを含めてプロットしています。米国ですらリーマン・ショック前の水準に戻るのに2014年までを費やしているのが見て取れます。日欧については、レベルとしては欧州の投資がまだ小さくて、日本の方がほぼリーマン・ショック前の水準に近づきつつあるものの、最近時点でのモメンタムとしては、欧州が上向きなのに対して、我が国の設備投資がもたついている印象があります。

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次に、上のグラフは記者発表資料から Tighter labour markets and new policies should yield healthier wage growth, but haven't yet を引用しています。左のパネルは失業率を、右は賃金上昇率を、それぞれ、これも2017年までの見通しを含めて示してあります。失業率については、米国では5%を下回ったあたりで、また、日本についても3%くらいの水準で、それぞれ改善は打ち止めというカンジなんですが、欧州だけはまだ改善が続きます。というか、現在の足元の失業率がまだまだ改善の余地あり、ということなんだろうと言う気がします。そして、気になる賃金動向なんですが、タイトな労働需給を反映して賃金は着実に上昇すると見込まれています。特に、わが国の賃金は2016-17年にかなり大幅な上昇率に達するとOECDでは予測しています。ホントですかね、というカンジで見ているエコノミストも少なくなさそうな気がします。

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今日は結婚記念日!

今日は私たち夫婦の結婚記念日です。大学生と高校生の倅がいて、もう20年余りも夫婦をしていることになります。特段、私はめでたいとは思わなくなってしまったんですが、このブログをご覧になった方で、めでたいとお感じの向きは、我が家恒例のジャンボくす玉を置いてありますので、クリックして割って下されば幸いです。

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2015年11月10日 (火)

ほぼ下げ止まった景気ウオッチャーと黒字が定着する経常収支!

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーは代表的な供給サイドのマインド調査ですが、10月の現状判断DIは前月から+0.7ポイント上昇して48.2を、また、先行き判断DIは前月と同じ49.1を記録しています。また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で1兆4684億円の黒字となりました。まず、それぞれの統計のヘッドラインを報じた記事を日経新聞のサイトから引用すると以下の通りです。

10月街角景気、現状判断指数3カ月ぶり改善 判断は据え置き
内閣府が10日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、足元の景気実感を示す現状判断指数は前月比0.7ポイント上昇の48.2となった。改善は3カ月ぶり。家計と企業動向の指数が前月から上昇した。ただ、現状判断指数は好況の目安となる50は下回った。内閣府は景気判断について「中国経済に関わる動向の影響などがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」との見方を変えなかった。
家計動向は小売りと飲食、サービスと住宅の全項目が改善した。家計に関して「今月(10月)は天候に恵まれ、台風の影響もなく、久しぶりに来客数が増加し、売り上げも順調である」(四国のスーパー)との声がある一方、食料品の値上げで消費者の節約志向が強いとの見方も出た。旭化成建材の杭(くい)打ち工事によるマンション傾斜問題の影響で「問い合わせがあっても、安全性に関する話ばかりで、マンションへの購入意欲が低下していると実感する」(東海の建設業)との指摘もあった。中国の景気不安に対するコメントも根強く見られた。
2-3カ月後の景気を占う先行き判断指数は、前月から横ばいの49.1だった。家計動向が改善する一方、企業動向と雇用関連の指数は低下。設備投資を巡り「案件は増えてきているが、建設コストが上がっているため投資への金額が予算超過になることが多く、不調の案件も増えている」(南関東の建設業)との声があった。内閣府は先行きについて「冬のボーナスへの期待などがみられるものの、中国経済の情勢や物価上昇への懸念などがみられる」と指摘した。
経常黒字、4-9月は8兆6938億円 5年ぶり高水準
旅行収支が黒字に

財務省が10日発表した2015年度上半期(4-9月)の国際収支状況(速報)によると、モノやサービスなど海外との総合的な取引状況を表す経常収支は8兆6938億円の黒字だった。黒字額は前年同期(2兆8億円)と比べて大幅に増え、4-9月としては5年ぶりの高水準だった。原油をはじめとする資源価格の下落で輸入額が減ったうえ、旅行収支が黒字になった。企業が海外の子会社や投資先から受け取る第1次所得収支も、円安を背景に85年以降で過去最大になった。
欧米向けの自動車輸出が伸び、輸出額が37兆2189億円と、前年同期に比べて2.8%増えた。一方、原油安で輸入額は37兆6386億円と7.4%減った。第1次所得収支の黒字は18.1%増の10兆8342億円となった。
サービス収支の赤字額は7976億円(前年同期は1兆8025億円)だった。統計上でさかのぼれる1996年以降で赤字幅は最小になった。旅行収支の黒字や特許収入が拡大した。旅行収支は1996年以来赤字が続いていたが、訪日客の急増によって上半期は6085億円の黒字になった。自動車などを海外生産した際に得られるロイヤルティー収入も最大だった。
財務省は今後について、中国経済の減速や原油価格の動向が貿易収支や旅行収支に与える影響を注視したいとしている。
同時に発表した9月の経常収支は1兆4684億円の黒字(前年同月は9780億円の黒字)と、15カ月連続で黒字だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値(2兆2273億円の黒字)を下回った。貿易収支は823億円の黒字(同7112億円の赤字)、第1次所得収支は1兆6694億円の黒字(同2兆393億円の黒字)だった。

2つの記事を引用したのでやや長くなったものの、いずれも、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、景気ウォッチャーのグラフは以下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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現在の我が国景気の踊り場的な状況は、中国などの新興国の経済低迷に端を発していると私は受け止めているんですが、少なくとも、供給サイドのマインド調査の代表である景気ウォッチャーにすいては、ほぼ下げ止まった気がします。後は上がるだけと言いたいところですが、少なくとも10月については気候にも恵まれて、家計部門が堅調に推移したと想像されますが、企業部門か家計部門か、どちらが景気をけん引するかについてはまだ明らかではなく、その意味で、方向感は現状では定まっているとは言い難く感じています。現状判断DIは家計部門がプラスで、先行き判断DIも家計部門がプラスの一方で、雇用や企業部門はマイナスでしたので、マインドが向上するとしても緩やかな動きにとどまる蓋然性が高いと私は考えています。毎月勤労統計に見る賃金動向がやや統計の信頼性に疑問が残るものの、また、日銀の物価目標からは遠ざかるとはいえ、物価が前年比で下がり始めているのは家計の所得を実質価値で押し上げる効果があると考えるべきですから、現状で設備投資に慎重な姿勢が崩れない企業部門よりは家計部門が先に回復軌道に戻る可能性が高そうな気もします。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列であり、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基いているため、少し印象が異なるかもしれませんが、経常収支についてもかなり震災前の水準に戻りつつある、と私は受け止めています。ただ、経常収支ベースですから通関統計と違って数量指数などがなく、私の直感ながら、輸入についてはまだ数量ベースでは原油や天然ガスの輸入数量は決して減少したわけではなく、エネルギー輸入に関する価格指数が国際商品市況にともなって大きく下落した結果として、輸入額が減少していると考えるべきです。輸出が勢いを取り戻しているというわけではないようです。ただし、引用した記事にもある通り、季節調整していない原系列の統計ながら旅行収支が黒字化しつつあり、正確な表現ではないかもしれませんが、いわゆる「稼ぐ力」を取戻つつあるのは事実だろうと私は考えています。加えて、そんなにすぐに効果が出るわけではありませんが、TPP合意により中長期的に輸出が増える方向にあることも確かです。

昨日11月9日、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し」Economic Outlook が公表されています。諸般の事情により、日を改めて取り上げたいと思います。

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2015年11月 9日 (月)

毎月勤労統計に見る不可解な夏季ボーナスの減少をどう考えるのか?

本日、厚生労働省から9月の毎月勤労統計の結果が公表されています。ヘッドラインとなる現金給与総額は季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比+0.6%増、うち所定内給与も+0.4%増となり、また、景気に敏感に反応する製造業の所定外労働時間は季節調整済みの系列で前月比+0.2%増を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質賃金、9月は0.5%増 3カ月連続増 名目は0.6%増 毎勤統計
厚生労働省が9日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、現金給与総額から物価変動の影響を除いた実質賃金指数は0.5%増だった。7月に2年3カ月ぶりにプラスに転じた実質賃金は、3カ月連続で増加し、増加傾向が確認できる内容だった。
従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は前年同月比0.6%増の26万5527円だった。増加は3カ月連続。ベースアップ(ベア)によって基本給が増えている。残業代など基本給以外の給与も増加し、賃金を押し上げた。
基本給や家族手当にあたる所定内給与は0.4%増の24万538円だった。7カ月連続で増加した。残業代など所定外給与は1.4%増の1万8997円、ボーナスなどの特別給与は14.0%増の5992円。厚労省は「主要な項目が全て増加しており、堅調に伸びている」としている。
所定外労働時間は1.8%減の10.7時間。製造業の所定外労働時間は1.2%増の16.0時間だった。
同時に発表した2015年夏(6-8月支給分)の1人あたり平均賞与は前年同期比2.8%減の35万6791円だった。昨年は2.7%増と23年ぶりの高い伸び率を記録したが、2年ぶりに減少した。従業員が5-29人の事業所では0.8%増えた一方、従業員が30人以上の事業所で3.2%減と大幅に減少したことが響いた。厚労省は2-3年に一度、調査対象の全3万3000事業所の約半数にあたる「30人以上の事業所」を入れ替えている。相対的に賃金が高いとされる「30人以上の事業所」を今年1月に入れ替えたことが影響しているとの指摘がある。

いつもの通り、とてもよくまとまった記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、下のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、それぞれプロットしています。いずれも影をつけた期間は景気後退期です。

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まず、上の所定外労働時間の動きについて、先々週公表された鉱工業生産指数の季節調整済みの前月比は+1.0%増でしたから、所定外労働時間が前月比でプラスを記録したのと整合的なんですが、やや幅が小さい気もしないでもありません。最近2-3か月をならしてみる必要があるんでしょう。いずれにせよ、方向感の定まらない景気の踊り場ですので、月単位の統計ではあり得る動きかもしれないと受け止めています。賃金の動向については、特に、太線の所定内賃金の前年同月比は緩やかながら徐々に上昇幅を拡大しており、6月の現金給与総額が所定外給与の変動によって一時大きく落ち込んだ要因はいまだに不明ながら、いわゆる恒常所得部分である所定内賃金は着実に増加を示しています。人手不足から労働力確保のためにベアの実施をはじめとする雇用条件の改善が進む方向にあるといえます。ただし、足元の景気はかなり踊り場的な様相を呈しており、来週公表予定の7-9月期のGDP成長率も4-6月期に続いて2四半期連続のマイナスを見込むエコノミストも少なくない中で、量的及び質的に急激な雇用の改善が進行するとは私は考えていませんが、少なくとも、量的にはほぼ完全雇用となっている中で雇用の増加の足取りは落ち着きを見せる可能性が高い一方で、質的には賃金上昇や正規雇用の増加などが徐々に進むものと期待しています。

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さらに、今夏のボーナスについては上のグラフの通りです。上から順に、前年比伸び率の時系列推移、産業別支給額、産業別伸び率をそれぞれプロットしています。一番上のパネルを見れば明らかな通り、何と、大方の予想や経団連の集計に大きく反して、今年の夏季ボーナスは前年から減少との統計でした。しかも、5人以上事業所では▲2.8%減、30人以上では▲3.2%減と、規模の大きい事業所の方が減少率が大きく、産業別の額と前年比のグラフも書いてみましたが、昨年からの反動減の可能性もなくはないとはいうものの、現時点では極めて不可解な結果と受け止めています。引用した記事の最後のパラでは、統計のサンプル替えが結果に影響している可能性を示唆していますが、それはともかく統計が正しいと仮定すれば、企業収益がかなり伸びている中で、ボーナスは減少し設備投資も盛り上がらないわけですから、我が国企業の行動パターンは私には理解が難しいと言わざるを得ません。

実は、去る11月4日の経済財政諮問会議に提出された民間議員ペーパー「経済統計の改善に向けて」において、厚生労働省の毎月勤労統計は総務省統計局の家計調査や財務省の法人企業統計季報とともに、改善を要する3つの統計として明確に名指しで取り上げられていたりしますので、改めて信頼性に疑問が生じているところなんですが、他に代替する政府統計もなく、賃金動向や残業時間などについては毎月勤労統計に頼らざるを得ません。

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2015年11月 8日 (日)

先週の読書は楽しく読めた『日本経済 黄金期前夜』ほかミステリも含めて計7冊!

昨日土曜日のブログに米国雇用統計が割り込みましたので、いつもの「今週の読書」ではなく、「先週の読書」になってしまいましたが、楽しく読めた『日本経済 黄金期前夜』ほかミステリも含めて計7冊、以下の通りです。

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まず、永濱利廣『日本経済 黄金期前夜』(東洋経済) です。タイトルだけ見ると、とても能天気な経済書に見えますが、中身もそのままだったりします。著者は第一生命経済研というシンクタンクのエコノミストです。私は官庁エコノミストですが、エコノミストには大きくわけて3種類あり、大学や研究機関で働くアカデミックなエコノミスト、シンクタンクや証券会社をはじめとする金融機関などで働くマーケットを主たる対象とするエコノミスト、そして、その中間である私のような官庁エコノミストです。著者はマーケット・エコノミストに分類されそうな気がしますが、例えば、本書のように、将来に渡ってご自分のポジションも含めたシナリオが書けて、必要に応じて営業活動にも使える、という能力を必要とします。官庁エコノミストにも似たような能力は必要なんですが、営業活動の対象は政治家だったりする場合があります。大学などのアカデミックなエコノミストは、もちろん、それなりのポジションに立つ場合も少なくありませんが、将来に渡るシナリオもさることながら、過去のデータに基づいた数量分析を基に学術論文を書いたりします。もちろん、官庁エコノミストもこういった能力は必要で、私も今年の5月には「ミンサー型賃金関数の推計とBlinder-Oaxaca分解による賃金格差の分析」という学術論文を仕上げています。もちろん、アカデミックな世界の大学教授などのエコノミストが将来シナリオに無関心であるとか、マーケットを主たる分析対象とするシンクタンクなどのエコノミストが学術論文を書かないと主張するつもりは毛頭ありませんが、主たる活動の場を誤解を恐れず大胆に特定してしまえば、こういった例示が分かりやすいんではないかと私は考えないでもありません。というわけで、本書では2014-15年の足元の日本経済が、原油価格の下落や金融緩和など、バブル経済直前の1986-87年にかなり似通っていると主張し、しかも、かつてのようにバブルに突入する可能性が低いと結論しています。もしも、とてもお忙しい向きには、決してオススメするわけではありませんが、最後の pp.196-97 の枠囲みの中の太線部分で示された日本のベストシナリオだけを読むのもひとつの手かもしれません。

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次に、中川雅之『ニッポンの貧困』(日経BP社) です。著者は日経新聞のジャーナリストで、経済誌である日経BPに出向中に取りまとめたようです。私の知る限り、新聞には政治面と経済面と社会面と文化面ほかがあり、本書のテーマである貧困問題は社会面で取り扱うような気がする一方で、経済誌は言わば経済面しかないわけですから、やや読者の興味や関心とズレを生じる可能性があるような気もします。まあ、それはともかく、貧困問題の本質はすぐれて経済ですから、経済書と考えてもよさそうに私は受け止めています。本書では最初につかみで、日本全国で貧困者数を2000万人とか、2400万人とか、近いうちに3000万人に達する可能性がある、などと、決して取るに足りないネグリジブルな問題ではないと主張しつつ、倫理や道徳の面からのみ貧困を考えるのではなく、特に、若者の貧困については必要な投資を行うことにより、社会保障財源を給付する先から税や社会保障保険料を負担する就業者になれる、と主張しています。表紙に見える副題の「必要なのは『慈善』より『投資』」にそれが現れています。まったく私も同感です。先週2015年10月31日付けの読書感想文のブログで、池上彰[編]『日本の大課題 子どもの貧困』を取り上げた際にも、児童施設の子どもを「良き納税者」に育てる重要性が指摘されていましたが、本書も同様の視点を共有しているようです。その意味で、本書第5章の「貧困投資」はペイする とのタイトルで取材された内容で、ゴールドマン・サックスが貧困に投資する一方で、「困窮支援をするのは外資ばかり」(p.185) という取材結果も示されており、賃上げに消極的で、設備投資にも腰を上げず、貧困投資も目が向かない我が国企業家のみすぼらしい姿が浮き彫りになったような気がします。経済産業省に行政指導してもらわなければ、企業は何も出来ないなんて思いたくありませんから、我が国企業家の奮起を望みたいと思います。

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次に、田中修『世界を読み解く経済思想の授業』(日本実業出版社) です。いくつかの参考文献から経済思想の歴史を紹介しています。単にそれだけの本で、原典をどこまで読んでいるかは不明なんですが、まあ、それなりに便利な本だという気はします。著者は財務省の研究所の副所長ですから、基本的には公務員なんですが、なぜか、マルクス主義まで取り上げています。また、必ずしもマルクス主義ではないものの、フランスのレギュラシオン学派についてもかなり詳しく解説しています。それにしては、リカードゥがスッポリ抜け落ちているのは理解できませんが、適当な参考文献がなかったのかもしれません。今を去ること30年余り昔、私の就活時の役所の採用面接で、大学生活では古典を読んでいるとアピールし、スミス『国富論』、リカードゥ『経済学及び課税の原理』、マルクス『資本論』、ケインズ『貨幣、利子及び雇用の一般原理』を読破したと自慢したんですが、少なくとも当時の私はマーシャルよりはリカードゥの方が経済学史の上で重要であると認識していました。第1章で主流派経済学について、第2章で異端派について、それぞれ取り上げた後で、第3章と第4章でマルクス主義やレギュラシオン学派も含めて、資本主義に対する見方を披露した後で、なぜか、第5章では日本の商人道のような道に迷い込んで江戸時代にまで言及しています。よく理解できません。それから、フランスのレギュラシオン学派については、私はボワイエの著作をパラパラと読んだだけで十分な知識はないんですが、かなりがんばればソーカル事件張りのニセ論文が書けそうな気もします。もっとも、できないかもしれませんし、私の認識が間違っているのかもしれません。

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次に、ジョセフ S. ナイ『アメリカの世紀は終わらない』(日本経済新聞出版社) です。著者は米国ハーバード大学をホームグラウンドにする安全保障の専門家であり、民主党クリントン政権下では国防次官補を務め、現在のオバマ政権下でもケリー国務長官のスタッフをしているそうです。「ソフト・パワー」なる概念の提唱者としても有名です。なお、原題は Is the American Century Over? という修辞疑問文となっていて、著者の回答は言うまでもなく NO です。ということで、私の専門外の外交や安全保障に関する米国民主党主流派からの見方が示されています。結論を先取りしているのが「日本語版序文」であり、p.5 には楽観論者の主張ほど米国が世界に影響力を持っていたことは歴史的にもなく、しかし、悲観論者の警告ほど米国の指導力が低下しているわけでも、今後低下するわけでもない、ということになります。私もそうだと思うんですが、結論としては消去法的な演繹によっているような気もします。すなわち、前週の読書感想文で取り上げたダイアン・コイル『GDP』の主張と同じであり、他に代替案がなくて経済指標としてGDPが政策目標とされているように、米国も世界に他の代替国がないため引き続き世界のスーパーパワーの役割を引き受けている、というようにも見えます。現時点で米国に最も近い存在は中国であろうと見なされているような気がするものの、単にGDPで計測した経済規模で米国に次ぐ世界2位であるというだけであり、おそらく、専門外の私から見て「おそらく」でしかないんですが、世界のスーパーパワーとして安全保障面で米国に取って代わる意図も能力も欠けているように見受けます。ただ、米国もかつてのようにユニラテラルにスーパーパワーの役割を果たせるわけではなく、同盟国の協力を必要としています。ですから、日本では集団的自衛権が大きな議論を巻き起こしていますし、韓国が中国に接近し過ぎるのを牽制して日韓の間を取り持ったりしているんではないか、と私は解釈しています。違っているかもしれません。十分な自信はありません。

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次に、東理夫『アメリカは食べる。』(作品社) です。これも米国の本だったりします。食の面から米国を考えているんですが、まあ、学術的というよりは国民生活に根ざした風俗的な面からのおはなしです。しかし、米国というのはネイティブのインディアンを別にすれば、基本的に移民で成り立っている国ですので、食文化もいろいろと入ってきていることは確かですし、本書でもイングランドや他の英国の食とともに、アイルランド、ドイツ、イタリアなどから米国に入ってきた食も大いに取り上げています。それにしてはフランスの影響が少ないような気もします。いずれにせよ、食文化はフランスも含めたラテン国にとどめを刺す、というのが著者の見方であり、私も大いに同意しています。米国の食というのはいわゆる「大味」であり、量は多いかもしれないが日本食のような繊細さに欠ける、という評価が一般的ではないかという気がします。私は日本のバブル経済末期の1989年初頭に計量モデルのワークショップに参加するため、連邦準備制度理事会(FED)に2か月ほど長期出張していたことがあるんですが、年齢的に若くて量を食べられたことから毎日のようにTボーンやポーターハウスなどのステーキを食べ続けて、かなり太った記憶があります。本書は700ページ余りの及ぶ大作なんですが、第2部はややテーマを外れた部分もあって不要とも見えますし、作家で音楽の造詣も深い著者にしては、p.228 の「チャーリー・パーカーのトランペット」なんて、ジャズファンからすれば噴飯物の間違いも散見され、さらに、米国の食を取り上げつつも肥満の問題にはほとんど触れていないなど、もう少し編集者の方で何とかならなかったのかという気はします。著者がお歳だから編集者も抑えが効かなかったんだろうとは思いますが、やや私が期待したレベルには達しない内容と言わざるを得ませんでした。

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次に、貴志祐介『エンタテインメントの作り方』(角川書店) です。人気作家によるエッセイで、「語りおろし」だそうです。聞き手が気になるところです。6章構成で、アイデア、プロットから始まって、キャラクター、文章作法、推敲、技巧と続きます。基本的に、『黒い家』、『天使の囀り』、『青の炎』、『悪の教典』、『ダーク・ゾーン』などの解説といった要素もあり、私はこの著者の作品はデビュー作の『13番めの人格 ISOLA』以外はほとんど読んでいるので、本書もとても楽しんで読むことができました。その上で、できればこういった要素もあればさらにいいんではないか、ということで、ペダンティックな要素を小説に盛り込むことについて作者の見方を知りたかった気がします。「ペダンティック」とは少し違いますが、音楽の取り上げ方も興味あります。例えば、村上春樹『1Q84』ではヤナーチェクの「シンフォニエッタ」が話題になりましたし、本書でも『悪の教典』の「モリタート」を取り上げています。脱線しますが、私はソニー・ロリンズの「サキソフォン・コロッサス」で十分にこの曲を聞いていたので知っていましたが、下の倅にせがまれてエラ・フィッツジェラルドがこの曲を歌っているアルバムを図書館で借りてきて2人で聞いた記憶があります。それはともかく、エンタメを読んで楽しんだ上に、何らかの付加的なお得感が得られるわけですから、ペダンティックな要素を盛り込むのも有効ではないかという気もします。でも、やり過ぎると嫌味になるかもしれません。それにしても、私は小説は書きませんが学術論文や仕事のリポートなどは大量に書いています。キャリアの国家公務員なんですから当然です。でも、小説に限らず文章を書くというのは、それなりの知的な作業であり、万人に向いているというわけではありませんから、こういった解説書や指南書のたぐいはそれなりに面白く読むことができそうです。なお、本書 p.67 で『新世界より』が引用されていて、1000年後の日本にある政府庁舎の名前が出てくるんですが、実は、私は現在そこで勤務していたりします。ちなみに、エコノミストの部隊が多い13階に私は勤務しています。『新世界より』は読んだ記憶があり、それなりに印象に残っているんですが、私の勤務している政府庁舎が登場しているとは知りませんでした。

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最後に、小説しかもミステリ小説で、有栖川有栖『鍵の掛かった男』(幻冬舎) です。作者はいわずと知れた新本格派のミステリ作家です。ミステリですから、ストーリーの最初の方だけになりますが、大阪市中之島の古き良きプチホテル「銀星ホテル」で70歳前の1人の男性が死に、警察は自殺による縊死と断定したところ、同じホテルを大阪での定宿にしている大御所女流作家の景浦浪子が自殺とは納得できないと、有栖川有栖を通じて火村准教授に私的な捜査を依頼するところから物語が始まります。ホテルで死んだ男性は5年以上に渡ってスイートルームに住み続け、ホテルの支配人をはじめとする従業員や常連客からも愛され、しかも2億円を超える預金が残されていたことから、自殺するはずがなく他殺なのではないかと景浦は直観したわけです。しかし、火村が大学の入学試験ですぐに行動できないために、まずは有栖川有栖が単独で調査を進めたところ、さまざまな事実が浮かび上がり、最後に火村の登場を待って一気に真相が明らかにされる、ということになります。この死んだ男性の人生の運びについて、ややムリがなくもないんですが、そこはフィクションのミステリですから、細かいことは気にすべきではありません。私はアガサ・クリスティの『オリエント急行殺人事件』の変型判で、ホテルの従業員と宿泊客の全員ではないにしても、多くが関与しているのではないかと想像していましたが、新本格派にありがちな動機の弱さと機会主義に陥ることなく、堂々の論理展開を見せます。どうでもいいことながら、本書のp.218で有栖川有栖が「このスマホと略される機械はいつまで現役でいてくれるのだろうか? たちまち過去の遺物になりそうに思えて小説で書きにくい」と独白しています。100年後にも作品を残そうとする著者の強い意気込みとともに、スマホそのものに対する私の疑問と共通する部分があり、とても共感できました。

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2015年11月 7日 (土)

アッとびっくりの改善を示した米国雇用統計から米国の利上げを考える!

日本時間の昨夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は前月から+271千人増加し、失業率は前月から▲0.1%ポイント低下して5.0%を記録しています。ちょっとびっくりの雇用増でした。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから記事を最初の3パラだけ引用すると以下の通りです。

Strong Growth in Jobs May Encourage Fed to Raise Rates
Hiring at American companies shifted into higher gear in October, helping to lift wages and clearing the path for the Federal Reserve to raise interest rates next month.
The 271,000 jump in payrolls reported by the Labor Department on Friday was much more robust than expected and suggested that economic growth had enough momentum to allow the central bank to begin its move away from the ultra-low, crisis-level interest rate policy it has been following for nearly eight years.
While there is still a possibility the Fed could hold back, the underlying economic solidity evident in the latest jobs report will strengthen the hand of monetary policy hawks who have long favored an increase in short-term rates. At the same time, it should reassure Janet L. Yellen, the chairwoman of the Federal Reserve, and a majority of her colleagues at the central bank that the economy can handle modestly higher borrowing costs without stress.

この後にエコノミストなどへのインタビューが続きます。やや長く引用してしまったものの、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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市場の事前コンセンサスでは、非農業部門雇用者数の前月からの伸びは、いわゆる雇用回復の目安とされる+200千人増を下回って、+180千人増くらいとされていましたし、しかも、先行指標とされるADP統計でも+182千人増でしたから、米国労働省の政府統計で+271千人増は、ちょっとびっくりの雇用の堅調さを示したと受け止めています。さかのぼっての修正についても、9月分は下方修正して+137千人増になったものの、8月は逆に上方修正して153千人増となっており、今年に入って10か月の平均増加数は軽く200千人を上回っています。失業率も低下して、とうとう5%にタッチしました。失業率が6.5%に低下するまで緩和を続けると、バーナンキ議長のころに連邦準備制度理事会(FED)が設定したのが遠い昔の話のようです。
どこまでこの雇用統計の結果を予測していたのか、していなかったのか、私が接した限りなんですが、統計発表の前の時点ですらFED高官からは強気、というか、タカ派の発言が多かったような気がします。例えば、日経新聞のサイトでは「『米利上げ、12月の可能性』 FRB高官が相次ぎ言及」などと、イエレン議長、フィッシャー副議長、NY連銀ダドリー総裁らの発言が報じられています。次回の連邦公開市場委員会(FOMC)は12月の15-16日の開催ですから、12月4日公表の雇用統計もにらみつつ、利上げに向けた市場との対話を進めるんではないかと私は予想しています。この雇用統計を見れば、当然、市場も違和感なく着々と利上げを織り込むんだろうと考えられます。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や少し前の欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2015年11月 6日 (金)

本日公表の景気動向指数に見る景気の方向感やいかに?

本日、内閣府から9月の景気動向指数が公表されています。ヘッドラインとなるCI一致指数は前月から▲0.3ポイント下降して111.9を、CI先行指数も▲2.1ポイント下降の101.4を、それぞれ記録しています。一致指数・先行指数ともに3か月連続の下降となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、9月は3カ月連続低下 先行は13年1月以来の低さ
内閣府が6日発表した9月の景気動向指数(2010年=100、速報値)は景気の現状を示す一致指数が111.9と、前月に比べ0.3ポイント下がった。消費増税後に景気が低迷した14年4-6月以来の3カ月連続マイナスとなった。内閣府は直近数カ月の平均値などから機械的に判断する景気の基調判断を5月以降と同じ「足踏みを示している」に据え置いた。
一致指数を構成する10指標のうち5指標が悪化した。自動車部品などの輸送機械やプラスチック製品工業向けが振るわなかった中小企業出荷指数(製造業)が下振れした。薄型テレビや携帯電話などの出荷が低迷した耐久消費財出荷指数や、商業販売額(小売業・卸売業)も悪化した。一方、鉱工業生産指数や投資財出荷指数(輸送機械除く)は持ち直し、一致指数を下支えした。
数カ月先の景気を示す先行指数は前月比2.1ポイント低下の101.4だった。低下は3カ月連続。東証株価指数の下落が重荷となり、指数は13年1月以来、2年8カ月ぶりの低水準に落ち込んだ。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を5月からの「足踏み」で据え置いています。内閣府から公表されている「景気動向指数 平成27(2015)年9月分 (速報) の概要」の2ページ目に従えば、景気が悪化していく方向で考えて、「足踏み」の後は「下方への局面変化」なんですが、当月の前月差の符号がマイナスであることを前提として、7か月後方移動平均(前月差)の符号がマイ ナスに変化し、マイナス幅(1-3か月の累積)が1標準偏差分以上と定義されています。CI一致指数の7か月後方移動平均は、すでに、先月からマイナスに転じており、今月は2か月連続のマイナスを示しているところです。ですから、来月も前月差マイナスを記録し、3か月の累積でマイナス幅が1標準偏差を越えれば、基調判断は「下方への局面変化」となります。すなわち、その時点から数か月前ですから、今年2015年春ころに景気転換点を迎えていた可能性が示唆されるわけです。もっとも、というか、何というか、「下方への局面変化」の次の段階の「悪化」は3か月連続で3か月後方移動平均が下降する、と定義されていますから、実は、すでにこの基準は「クリア」していたりします。ただし、海外経済動向などを見る限り、この10-12月期で現在の景気の踊り場が反転する可能性があり、少なくとも、私はそういう気が強くしていますので、数か月前に景気転換点を同定するかどうかはビミョーなところかもしれません。
なお、9月のCI一致指数の構成系列のうち、プラスに寄与したのは、鉱工業用生産財出荷指数と生産指数(鉱工業)と投資財出荷指数(除輸送機械)などであり、逆に、マイナスに寄与したのが、中小企業出荷指数(製造業)と商業販売額(卸売業)(前年同月比)と耐久消費財出荷指数と商業販売額(小売業)(前年同月比)などとなっています。9月のCI一致指数を見る限り、生産や投資財出荷などの企業部門がプラスに寄与し、耐久消費財出荷や商業販売などの家計部門がマイナスに寄与した、という内容になっています。ただし、ほぼ完全雇用に達したこともあり、雇用や労働の動きが少なくなっているのかもしれません。

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2015年11月 5日 (木)

OECD 未就学児童の教育に関するリポートに見る極めて低い日本の公費負担!

先月10月終わりに経済協力開発機構(OECD)から乳幼児ケアに関する Starting Strong IV: Monitoring Quality in Early Childhood Education and Care というタイトルのリポートが公表されています。このテーマでは第4回目のリポートであり、最初の2001年から2006年、2011年と約5年おきに報告されています。

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私はpdfで入手して、250ページ近い英文のリポートですので、とても早々には読み切れないんですが、取りあえず、目についたところで、リポートの p.31 から上のグラフ Figure 1.2. Share of cost to parents and state of early childhood education and care を引用しています。幼稚園や保育園などの就学前教育における家庭と政府の負担割合を示しています。上から1/3くらいのところに日本があり、上の段はいわゆる保育園、下は幼稚園です。いずれも中央政府及び地方政府の負担に不足する家庭=両親の負担は40%ないし50%くらいに達しています。灰色で示されている部分です。スロベニアなどの一部の例外はあるものの、未就学児童に対する教育としては、この表に現れる国の中で日本がとても高い比率を示していることが明らかに読み取れます。
今年2015年8月20日付けの読書感想文のブログでも取り上げたヘックマン教授の『幼児教育の経済学』でも、就学前の幼児期の教育投資が米国経済の不平等の解決などに有効であるとの研究成果が明らかにされており、我が国と米国をまったく同列・同等に考えるのは正しくないかもしれませんが、基本的な精神は同じだと私は受け止めており、不平等や貧困の解決には教育、さらに未就学児童への教育が有効であることは当然であろうと考えられます。しかし、このグラフに見る通り、未就学児童の教育の家庭負担割合が日本では極めて高く、不平等や貧困が世代を超えて連鎖しやすくなっている構造となってしまっています。

未就学児童や家庭に対する社会保障が不足がちになっている背景として、我が国の財政状況とともに、余りにも手厚い高齢の引退世代への社会保障給付があると私はこのブログでも何度か主張してきているところです。世代間の不公平を是正し、不平等や貧困問題を解決し、将来の日本の生産性を高めるため、高齢の引退世代に余りに優し過ぎる現在の日本の社会保障制度の見直しが必要です。

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2015年11月 4日 (水)

本日公表された消費者態度指数をどう見るか?

本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。ヘッドラインの消費者態度指数は前月から+0.9ポイント上昇して41.5となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の消費者態度指数、0.9ポイント上昇の41.5 判断は据え置き
内閣府が4日発表した10月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.9ポイント上昇の41.5だった。「暮らし向き」や「耐久消費財の買い時判断」など4つの意識指標が全て上昇し、2カ月ぶりに前月を上回った。食料品などの値上げが一服していることやガソリン価格の下落などが消費者心理の支えとなった。
方向感のない動きが続いていることを受け、内閣府は消費者心理の基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いた。意識指標では「耐久消費財の買い時判断」が1.2ポイント上昇したほか、「雇用環境」も1.0ポイント上昇した。
1年後の物価見通しについて「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月から5.3ポイント低下し、81.0だった。現行の郵送方式での調査を始めて以降では最大の低下幅となった。9月下旬に発表された8月の全国消費者物価指数(CPI)で、生鮮食品を除いたコアCPIが2年4カ月ぶりに前年同月から低下したことなどが影響したとみられる。
調査基準日は10月15日。全国8400世帯が対象で、有効回答数は5502世帯(回答率は65.5%)だった。

いつもながら、簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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消費者態度指数を構成する各消費者意識指標のコンポーネントを前月差で見ると、プラス幅が大きい順に、耐久消費財の買い時判断が+1.2ポイント上昇し40.3、雇用環境が+1.0ポイント上昇し45.9、暮らし向きが+0.8ポイント上昇し39.6、収入の増え方が+0.6ポイント上昇し40.0と、すべてのコンポーネントがプラスに振れています。7月には▲1.4ポイント低下、8月には逆に+1.4ポイント上昇、9月には▲1.1ポイント上昇、そして、直近の10月には+0.8ポイントの上昇と、振幅は落ち着きを取り戻しつつも、ならしてみてほぼ横ばい圏内の動きながら、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府では基調判断は「足踏み」で据え置いています。今しばらく日本経済の踊り場は続くのかもしれません。
基本的には、消費者態度指数のコンポーネントのうちでも雇用や暮らし向きが特に前月からのプラス幅が大きくなっており、少なくとも9月から10月にかけては雇用や賃金に端を発したマインド改善の可能性が考えられます。しかし、実は、先月の9月時点では雇用や賃金がマイナス寄与が大きく、この2項目は消費者態度指数の中でも振れの大きい項目なのかもしれません。政府は政労使会議で設備投資増加の旗を振っていますが、設備投資計画は高く掲げつつも実行面ではいまだに様子見の企業が少なくないなか、賃金や雇用の待遇も画期的な改善は見られず、我が国企業部門の委縮したマインドやアニマル・スピリットの欠如が、実需面の海外景気の停滞と相まって、日本経済はなかなか景気の本格的な回復軌道に乗り切れません。

私の直感で見て、7-9月期はほぼゼロ成長か、少しマイナス気味というカンジなんですが、そろそろシンクタンクなどから1次QE予想が出始めています。さ来週月曜日の公表を前に、来週中には取りまとめたいと予定しています。

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2015年11月 3日 (火)

今ごろ気づく、先週で終わっていたクールビズ!

実に、すっかり忘れていたんですが、先週でクールビズは終わりでした。昨日はかなり冷え込んで寒かったので、私は思わずフリースの上着を引っかけて出かけたんですが、今日の文化の日はネルシャツと薄いウィンドブレーカに戻りました。
ここ何年かは天候不順か地球温暖化か、専門外の私には原因は分かりませんが、春や秋の過ごしやすい気候の時期がとても短く感じられ、夏の後にいきなり冬が来て、冬からすぐに梅雨を経て夏を迎える、といった季節感だったような気がしました。でも、今年は、今がそうなんでしょうが、ちゃんと秋があって過ごしやすいいい気候で、しかも秋晴れの日が多いように感じています。ただ、私の同僚に言わせれば、夏がなかった、と言うか、猛暑の後に普通の夏がなくて秋が来た、というのも、そうかもしれないと聞いていたりします。
私は公務員ながら、情けないことに、大きくエリートコースというものを外れており、しかも研究職ですので、大臣・副大臣などの政務のエライさんは言うに及ばず、事務次官などの事務のエライさんともお会いする機会が少なく、さらに、統計局に勤務していた時のように毎月の記者会見もありませんから、オフィス務めのサラリーマンというよりも研究者の服装になってしまっていて、時折、これから先の季節でもノーネクタイで出勤することがあります。ただ、研究所長とかのエライさんと顔を合わせる際にはネクタイを締めたりしますので、もちろん、ネクタイは職場に置いてありますし、急遽、ネクタイを着用に及んでも違和感ない服装は心がけています。

日本気象協会の長期予報に従えば、12月から1月にかけては晴れ間は少なく降水量はやや平年より多めながら気温もやや高め、と言った感じでしょうか。何とか冬を乗り切りたいと思います。

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2015年11月 2日 (月)

就活に関するアンケートから採用活動時期のルール変更は学生からどう見られているのか?

先週は日銀や政府統計の経済指標の公表が目白押しでしたので、ついつい取り上げるのが遅くなりましたが、今年から後ろ倒しにされた大学生の会社説明会や採用選考のスタート時期について、またまた見直しの議論が起こって、来週くらいから経団連では会員企業向けの指針を決めると報じられています。私が見た範囲で、日経新聞と朝日新聞の報道は以下の通りです。

ということで、前置きが長くなり、また、とても旧聞に属する話題ですが、マイナビから来年2016年3月卒の学生を対象にした「2015年度新卒採用・就職戦線中間総括」が10月22日に明らかにされています。下のグラフに示す通り、「どちらかといえば」を含めて、全体の約8割の79.3%の学生がマイナスの影響が大きかったと捉えているようです。その主な理由としては、「暑い時期の活動」や「卒業年次の学業の妨げ」などが上げられています。また、グラフなどはありませんが、理系学生を教える教員の8割超の83.4%が就職活動の時期変更で悪い影響があったと回答したと指摘されています。

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経団連での議論に学生諸君や大学教員などのこういった意見が反映されることを強く願っております。また、マイナビのサイトではインターンシップの時期や内々定のタイミングなどのアンケート調査結果が明らかにされていますが、このブログ記事では割愛します。悪しからず。

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2015年11月 1日 (日)

週末ジャズは山中千尋「シンコペーション・ハザード」を聞く!

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週末ジャズは山中千尋「シンコペーション・ハザード」を聞きました。ピアノ・トリオによる演奏で、3月の収録で7月のアルバム・リリースです。スコット・ジョプリンなどのラグタイムの曲を数多く収録しています。ということで、収録曲は以下の通りです。スコット・ジョプリンの曲は2、3、4、6、7、9と過半に及んでいます。

  1. Syncopation Hazard
  2. The Entertainer/Ritual
  3. Maple Leaf Rag
  4. The Easy Winners
  5. Dove
  6. Reflection Rag
  7. Sunflower Slow Drag/Ladies in Mercedes
  8. New Rag
  9. Heliotrope Bouquet
  10. Uniformity Rag
  11. Graceful Ghost Rag

山中千尋のトリオ編成によるメジャー・デビュー10周年の記念作品だそうです。19世紀初頭にアメリカで流行したスコット・ジョップリンなどの有名曲を中心に、ラグタイム特有のシンコペーションを追求しています。いろいろと寄り道をしてきたピアニストですが、最近の数枚のアルバムの中ではまずまずの出来だという気がします。トラディショナルな楽譜どおりのラグタイムもあり、最先端のセンスでアレンジされたナンバーもありと、それなりに工夫も凝らされています。
このピアニストは何をやらせても80点のオールラウンダーであり、その昔のオスカー・ピーターソンばりのテクニックもそれなりにあると私は考えています。ですから、ホーンを入れたり、レーベルに特化した曲を取り上げたり、ビートルズの曲をカバーしたりと、いろいろとやって来ましたが、メジャーのヴァーヴに移籍した2005年の最初のアルバム「アウト・サイド・バイ・ザ・スウィング」か、その直前、すなわち、マイナー・レーベルから出した最後の2004年の「マドリガル」あたりが、このピアニストのアルバムの中では私は一番好きです。逆に厳しくいえば、ジャズを弾かせれば、この10年で進歩がないのかもしれません。

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