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2015年11月19日 (木)

久し振りに黒字を計上した貿易統計から何が読み取れるか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比▲2.1%減の6兆5440億円、輸入は▲13.4%減の6兆4325億円、差引き貿易収支は+1115億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の貿易収支、1115億円の黒字 7カ月ぶり黒字
財務省が19日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1115億円の黒字だった。7カ月ぶりの貿易黒字に転じた。QUICKが事前にまとめた市場予想(2700億円の赤字)に反して黒字となった。原油安でエネルギーの輸入額が1割超減った影響が大きかった。前年同月は7417億円の赤字だった。ただ、中国の景気減速を背景にアジア向けの輸出は低迷。輸出額は円安の支えがありながらも14カ月ぶりにマイナスに転じた。
輸入額は13.4%減の6兆4325億円と、10カ月連続でマイナスだった。原油価格の下落で、中東地域から原粗油や液化天然ガス(LNG)の輸入額が減った。10月の原粗油の輸入額はほぼ半減した。昨年10月にiPhone(アイフォーン)関係の輸入額が膨らんだ反動もあった。欧州連合(EU)からの輸入額は10月としての最大を記録した。医薬品や航空機などの輸入が増えた。
輸出額は2.1%減の6兆5440億円。対世界の数量指数は4.6%下がった。中国向けは有機化合物や自動車部品などの輸出が減少。米国向けの自動車輸出などは堅調だったが、補えなかった。対ドルの為替レートは10月の平均値が1ドル=119.98円と、前年同月と比べ10.7%の円安だった。

なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲2700億円の貿易赤字でしたし、レンジで見ても▲5400から▲450億円でしたので、やや予想外の貿易黒字と受け止められているようです。でも、輸出も輸入もともに減少して、いわば「縮小均衡」的な対外貿易の中での黒字計上ですから、どこまで経済的にプラスなのかどうかは評価が難しいところです。すなわち、上の2つのグラフからも明らかなんですが、昨年2014年上半期くらいまでは輸出入ともに増加の傾向でしたが、その後、2014年後半から輸入がいち早く減少を見せ始めます。これは国際商品市況における原油価格の下落などに対応しているわけですが、この国際商品市況の動きの背景にある中国をはじめとする新興国経済の減速が今年2015年に入って現れ始め、輸出も減少傾向を示します。こういった貿易動向の中で、今年前半くらいから貿易収支はゼロ近傍で推移する動きを示し始めています。でも、日経センターのESPフォーキャストの11月調査までを見る限り、「数年内に黒字転換しない」がまだ過半を占めていたりします。もちろん、「黒字転換」の定義次第なんですが、年ベースの統計で貿易黒字に転換するのはそれほど先ではないように見ているエコノミストも少なくないような気が私はしています。もっとも、その昔の学生時代に習ったマーシャル・ラーナー条件が十分に満たされていないのか、引き続き、私は1980年代以来の弾力性ペシミズムを感じており、為替による貿易収支の改善には限りがあるように感じられてなりません。

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上のグラフはいつもの輸出の推移をプロットしています。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルは本邦初公開かもしれませんが、OECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っていますし、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、為替レートによる弾力性がペシミスティックに見えても、世界経済の所得増加による我が国からの輸出拡大については、かなり希望が持てそうな気がします。特に強い根拠はありませんし、中国の先行指標はまだ底ばっているようにも見えるんですが、中国をはじめとする新興国経済の減速も、先進諸国経済の停滞も、そろそろ底を打ちつつあるとの見方も、我が業界のエコノミストの一部から示され始めており、弾力性ペシミストの私も期待を持って見ています。

国際商品市況の動向とも関連して、本日の日銀金融政策決定会合では、景気判断を「緩やかな回復を続けている」に据え置いた上で、金融政策の追加緩和は見送られました。

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