貿易統計は米国の利上げからどのような影響を受けるのか?
本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない現系列のデータで前年同月比▲3.3%減の5兆9814億円、輸入額は▲10.2%減の6兆3611億円、差し引き貿易赤字は▲3797億円となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
貿易収支、11月は2カ月ぶり赤字 市場予想より少なく
財務省が17日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支が3797億円の赤字となった。中国の景気減速でアジア向け輸出が振るわず、輸出額がマイナスとなった。原油安に伴う輸入減は続いたが補えず、2カ月ぶりの貿易赤字に転じた。昨年の同時期はスマートフォンの「iPhone(アイフォーン)」向けの部品輸出が活発だった反動も出たという。
ただ赤字幅はQUICKが事前にまとめた市場予想(4800億円の赤字)より小さく、前年同月(8898億円の赤字)からも縮小した。
輸出額は3.3%減の5兆9814億円で、2カ月連続のマイナスだった。減少率は2012年12月(5.8%減)以来の大きさ。11月の対世界の輸出数量指数は3.1%下がった。供給過剰が続く鉄鋼市況の低迷などでアジア向けの価格が下がり、対世界の輸出価格は0.3%低下した。台湾向けの鉄鋼半製品や、プラスチック原料となる中国向けの有機化合物などの輸出が低調だった。米国向けは自動車などの伸びで増勢が続いたが、伸び率は2.0%と、14年4月(1.9%)以来の低水準だった。一方、前月比の季節調整値でみると世界向けの輸出額は0.5%増えた。
輸入額は前年同月比10.2%減の6兆3611億円と、11カ月連続のマイナス。原粗油の輸入額は4割超減った。原油安の影響で、サウジアラビアからの原粗油や、マレーシアの液化天然ガス(LNG)などの輸入額が減少。中国からの携帯電話の輸入も減った。一方、欧州連合(EU)地域からは輸入は単月で過去最大となった。C型肝炎向けの医薬品を中心に輸入額が増えた。
なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

まず、全体として、我が国の輸出に対する所得要因たる海外需要については、ほぼ最悪期を脱した印象があります。上のグラフのうちの季節調整済みの系列をプロットした下のパネルを見ても、直近の輸出は9月がボトムとなっており、10-11月と2か月連続で増加を示しており、これも季節調整済みの系列では、貿易収支はまだ赤字ながらも▲33億円とほぼゼロにまで戻っています。これには輸入の減少も寄与しており、季節調整していない原系列の輸入は11か月連続で前年同月比でマイナスを続けています。もちろん、国際商品市況における石油価格の下落の効果が大きく、引用した記事にもある通り、石油だけでなく液化天然ガス(LNG)などのエネルギー価格全般が低下しています。加えて、やや「不都合な事実」かもしれませんが、春先ないし年央くらいからの我が国の景気の踊り場的な減速も輸入の減少をもたらしている一因といえます。いずれにせよ、11月における貿易赤字の▲3797億円は日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスである▲4800億円よりもやや赤字幅が縮小していることは事実ですし、前月の貿易統計公表時の11月19日付けのブログで書いたように、引き続き、当面の貿易収支はゼロ近傍の横ばい圏内で推移する可能性が高いと私は考えています。

上のグラフはいつもの輸出の推移をプロットしています。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、輸出数量は相変わらず伸び悩んでいるんですが、この輸出の停滞もほぼ最終ステージに入ったんではないかと私は考えています。さらに、米国連邦準備制度理事会(FED)がFF金利引上げをとうとう開始し、来年からさ来年にかけてさらに毎年1%ポイントの幅で利上げが実施されるとの観測がもっぱらとなっています。私は従来からこのブログでも主張している通り、決してISバランスだけで対外均衡が決まると考えているわけではありませんが、為替が円安に振れても貿易収支が黒字に振れる動きを示すとは限らないという意味で、いわゆる弾力性ペシミズムの立場に近いんですが、輸出の数量はともかく、輸出額を円ベースで引き上げるのは事実だろうと考えています。その意味で、日銀が追加緩和に踏み切らなくても、米国金利が引き上げられ、日米で金利差が拡大することに基づく為替の減価は、いくぶんなりとも輸出には追い風だと考えています。
最後に、先週公表された7-9月期の2次QEでは外需寄与度がプラスを記録し、1-3月期と4-6月期の2四半期続いたマイナス寄与を脱しています。GDPへの寄与は貿易収支ではなく経常収支なんですが、単純に考えて、10-12月期がこのまま推移すると外需寄与度のプラス幅は拡大しそうです。
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