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2016年2月29日 (月)

鉱工業生産指数と商業販売統計はともに冴えない結果に終わる!

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数商業販売統計が公表されています。生産は季節調整済みの前月比で+3.7%の増産となった一方で、小売業販売は季節調整していない原系列の前年同月比で見て▲0.1%減を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の鉱工業生産、3.7%上昇 基調判断は「一進一退」
経済産業省が29日発表した1月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比3.7%上昇の99.8だった。3カ月ぶりの上昇となり、QUICKがまとめた民間予測の中央値の3.3%上昇も上回った。半導体製造装置や自動車、スマートフォン用電子部品などで生産が伸びた。
もっとも2月の予測指数は5.2%の低下となり、経産省は生産の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。2月はトヨタ自動車が国内工場の稼働を停止した影響が出るほか、電子部品などでも減産が見込まれている。
1月の業種別では15業種中12業種で生産が伸びた。はん用・生産用・業務用機械が7.3%上昇となり、輸送機械も2.9%上昇だった。国内向けを中心に出荷も好調で、出荷指数は3.4%上昇の97.9となった。
在庫指数は0.3%低下の112.0、在庫率指数は2.1%低下の113.6だった。経産省では在庫について「機械関連で在庫調整が進む一方、鉄鋼やパルプなど素材関連の業種では調整が遅れている」としている。
1月の小売業販売額、前年比0.1%減 基調判断を引き下げ
経済産業省が29日発表した1月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比0.1%減の11兆4790億円だった。マイナスは3カ月連続。季節調整済みの前月比では1.1%減った。
経産省は小売業の基調判断を「弱含み傾向」とし、前月の「一部に弱さがみられるものの横ばい圏」から引き下げた。業種別では、原油安の影響が続き燃料小売業が前年同月から11.4%減と落ち込んだ。一方、自動車や飲食料品の増加は小売業販売額を下支えした。
百貨店とスーパーを含む大型小売店の販売額は2.1%増の1兆6915億円。既存店ベースでは1.0%増で、うちスーパーは2.4%増、百貨店は1.5%減だった。コンビニエンスストアの販売額は4.9%増の8849億円だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、2つの統計の記事を並べるとそれなりのボリュームになります。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は次の雇用統計とも共通して景気後退期です。

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まず、鉱工業生産ですが、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比で+3.3%の増産でしたから、これを上回っていることは確かなんですが、先月の統計公表時点での製造工業生産予測調査では1月は+7.6%の増産でしたから、かなりの下振れと私は受け止めています。しかも、下振れしやすい傾向にある製造工業生産予測調査で見て、2月▲5.2%の減産の後、3月はリバウンドも弱く+3.1%増ですから、先行きもジグザグの動きを繰り返しつつ、決して回復軌道に乗ることが確実というわけでもなさそうです。特に、広く報じられた通り、2月の生産は鋼材メーカーの事故に伴うトヨタ自動車の生産ラインの停止の影響が何らかの形で現れると覚悟すべきです。では、どうして1月が+3.7%の増産になったかといえば、単に中国の春節効果と考えられ、サステイナビリティはなさそうです。他方、製造工業生産予測調査は先行きで下振れすることがかなり確実なんですが、この伸び率をそのまま鉱工業生産指数に当てはめると、1-3月期は私の計算では+1.1%の増産になります。来週3月8日に昨年2015年10-12月期の2次QEが内閣府から公表された後、足元の1-3月期はほぼゼロかわずかにプラス成長と私は予想していたんですが、今日発表の生産統計を見て、何人かのエコノミストは1-3月期も2四半期連続でマイナス成長の可能性が出て来た、と主張し始めていたりします。そうかもしれませんが、私はまだうるう年効果に期待してプラス成長を見込んでおきます。

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次に、商業販売統計です。これも生産統計と同じようにふるわない結果に終わりました。すなわち、季節調整していない原系列の小売業販売が3か月連続でマイナスを記録し、季節調整済みの前月比でもマイナスを続けていますので、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省では基調判断を前月の「一部に弱さがみられるものの横ばい圏」から「弱含み傾向」に引き下げています。特に1月が月前半の暖冬で季節商品などの国内消費が伸び悩んでいる一方で、昨年末からいわゆるインバウンド消費も一服感が出始めています。例えば、百貨店協会の統計によれば、店舗数調整後の季節調整していない百貨店売り上げの前年同月比で見て、昨年は10月の+5.7%増まで割合と順調に売り上げを伸ばしていたんですが、11月に▲1.4%減を示し、12月は+1.3%増となったものの、今年1月は▲1.9%減と落ち込んでいます。2月はうるう年と春節のダブル効果でプラスとなる可能性もありますが、昨年10月までのペースを考えれば、中国経済の低迷と為替動向により、インバウンド消費にブレーキがかかった可能性も否定できません。

先行きの日本経済を考えるポイントは従来からこのブログで主張している通り2点あり、いずれも膨大に積み上がった企業のキャッシュフローをいかに経済活性化につなげるかがカギになります。ひとつは賃上げ動向です。国内消費を喚起するには、企業が内部留保で溜め込んだキャッシュを従業員に還元する必要があります。もうひとつは設備投資です。日銀短観などのソフトデータに示された設備投資マインドがホントに維持されているのかどうか、私はまだ確信が持てませんが、もしも企業経営者のアニマル・スピリットが委縮していないのであれば、年度内はムリとしても、まだ設備投資が出る余地は残されているんではないかと期待しています。ただし、囚人のジレンマに陥っている可能性もあります。すなわち、賃上げにせよ設備投資にせよ、ヨソの会社がやってくれて、自社がやらなければフリーライドできる可能性があります。そこまで日本企業経営者のアニマル・スピリットがダメージを受けているのだとすれば、悲しい結果に終わる可能性も否定できません。

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2016年2月28日 (日)

週末ジャズはコルトレーン「至上の愛」を聞く!

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今まで取り上げていなかったんですが、とうとう、ジョン・コルトレーン「至上の愛」John Coltrane, A Love Supreme です。というのは、私はまだ買っていませんし、今のところ買うつもりもないんですが、この「至上の愛」の新発掘音源を収録した「至上の愛 - コンプリート・マスターズ」 A Love Supreme Coplete Masters というCD3枚のアルバムが昨年2015年11月にリリースされていますので、改めて思い出した次第です。まず、アルバムの曲構成なんですが、オリジナルの「至上の愛」の収録曲は以下のdisk 1の最初の1-4曲目までで、「コンプリート・マスターズ」ではdisk 1の5曲目以降とdisk 2と3が付け加えられています。

  • disk 1
    1. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement
    2. A Love Supreme, Part II - Resolution
    3. A Love Supreme, Part III - Pursuance
    4. A Love Supreme, Part IV - Psalm
    5. A Love Supreme, Part III - Pursuance (Original Mono Reference Master)
    6. A Love Supreme, Part IV - Psalm (Original Mono Reference Master)
  • disk 2
    1. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Vocal Overdub 2)
    2. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Vocal Overdub 3)
    3. A Love Supreme, Part II - Resolution (Take 4/Alternate)
    4. A Love Supreme, Part II - Resolution (Take 6/Breakdown)
    5. A Love Supreme, Part IV - Psalm (Undubbed Version)
    6. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Take 1/Alternate)
    7. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Take 2/Alternate)
    8. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Take 3/Breakdown with Studio Dialogue)
    9. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Take 4/Alternate)
    10. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Take 5/False Start)
    11. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Take 6/Alternate)
  • disk 3
    1. Introduction (Live in Juan-les-Pins, France/1965)
    2. A Love Supreme, Part I - Acknowledgement (Live in Juan-les-Pins, France/1965)
    3. A Love Supreme, Part II - Resolution (Live in Juan-les-Pins, France/1965)
    4. A Love Supreme, Part III - Pursuance (Live in Juan-les-Pins, France/1965)
    5. A Love Supreme, Part IV - Psalm (Live in Juan-les-Pins, France/1965)

2003年に Rolling Stone 誌で、雑誌媒体としては大きなバイアスあるものの、かなり大量の対象に対して 500 Greatest Albums of All Time なる投票結果が明らかにされたことがあります。クラシックなどがほとんど入っておらず、ロックないしポップス曲に偏重した結果だったんですが、ジャズにカテゴライズされるアルバムとしては、12位の Miles Davis, Kind of Blue に続いて、47位に John Coltrane, A Love Supreme が入っています。500の中のジャズのアルバムは数えたことがないんですが、おそらく10あるかないかだろうと思います。また、ジャズの名盤として名高い Sonny Rollins, Saxophone Colossus とか、Curtis Fuller, BLUES-ette とかが入っていないので、ホントのジャズ・ファンにはそれほどの信頼性はないとは思いますが、「至上の愛」がジャズのみならず、音楽全般を通して名盤であることは明らかです。考古学的な趣味以外に、「コンプリート・マスターズ」にどういった意味があるか、私には疑問なんですが、おそらく、私は引き続きコンプリートでなくても「至上の愛」を聞き続けることと思います。

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2016年2月27日 (土)

今週の読書は現代経済に対する方向性を示す『私たちはどこまで資本主義に従うのか』ほか計8冊!

今週の読書は、現代経済に対する方向性を示すミンツバーグ教授の『私たちはどこまで資本主義に従うのか』ほか、米国の大統領選挙の年に合わせて、というわけではないものの、リバタリアン大富豪に関するノンフィクション、あるいは、フィクションの小説も何冊か加えて計8冊、以下の通りです。先週と今週はかなり大量に読みましたので、少しペースダウンしたいという気がしないでもありません。

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まず、ヘンリー・ミンツバーグ『私たちはどこまで資本主義に従うのか』(ダイヤモンド社) です。著者はカナダの経営学者であり、マネジメントを専門とする著名な大学教授です。原書の原題は上の表紙画像に見られる通り、Rebalancing Society であり、2011年に出版されています。原題からも明らかな通り、経済社会を構成する3者のバランスを取り戻すことに主眼を置いています。そして、その3者とは、政府セクター、経済=民間セクターと社会=多元セクターであるとしており、かつてのソ連型の共産主義では政府セクターが強力であり過ぎ、現在の米国などの先進国では経済=民間セクターが強すぎる、と主張しています。本書でもしつこく繰り返されている点は、決して第3の多元セクターを中心にした経済社会の運営を示唆しているわけではなく、3つのセクターの間で原題通りのリバランスを図り、バランスいい経済社会の運営を目指そうとしています。その典型的な姿が p.113 の図3に示されています。繰り返しになりますが、政府セクターが強いとかつてのソ連型の共産主義社会やナチスのような全体主義国家になりかねませんし、かといって、自然人と同じ基本的人権のようなものを法人に認めてしまった米国社会では経済=民間セクターが強くて、収奪的な資本主義社会となる可能性が高く、そして、社会=多元セクターが強いと排他的なポピュリズムに陥りかねないと本書の著者は警告しています。あくまで3つのセクターの間のバランスを重視し、どこか1つのセクターが突出することを避けるべきとの立場です。非常に共感できるし、判りやすい主張であり、邦訳書で200ページ足らずの手軽なパンフレットのボリュームに収めていますから、決して学術書のような難解な主張ではありませんが、ボリュームの観点からか、誠に残念ながら、制度設計というか、プラクティカルな実践の指針は本書にはありません。ただ、随所に、例えば、p.101 のサンアントニオの例のように、決して投票を通じた平和的な方法論に終止するだけでなく、アラブの春などに見られたように、実力行使的な方法論を排除しているわけではないんだろうと思わせる部分があります。また、私の従来の主張と同じで、間接民主主義の下で選挙で選ばれて議会を構成する代表が、ポピュリスティックな民衆の意見を代表するだけでなく、必要な場合は一般大衆の意見を選挙で選ばれた代表が「歪める」といった方法論も支持されるケースがあり得るんではないかと考えないでもありません。

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次に、ダニエル・シュルマン『アメリカの真の支配者 コーク一族』(講談社) です。著者は左派系メディアをホームグラウンドにするジャーナリストです。ですから、本書が対象としているリバタリアンのコーク兄弟は目の敵にされているんではないかと予想して読み始めたんですが、かなり冷静な事実関係の分析に終始しています。コーク一族が依拠しているコーク・インダストリーズは本書でも指摘されている通り、穀物会社のカーギルに続いて全米第2位の非公開会社、いわゆる一族支配の下にある会社としては、売上11兆5000億円、従業員数10万人以上という規格外の規模を誇っています。また、この企業グループが取り扱う製品は石油や石油化学製品から始まって、M&Aで多角化が図られた結果として、ガソリン、ステーキ肉、窓ガラスから肥料にまで及ぶため、米国で生活していれば日々何かのコーク社製品を使用していることになる、といわれています。そのコーク一族は強烈なリバタリアンであるだけでなく、財力をテコとして強力な政治力を発揮しようとしています。すなわち、私が知る範囲でも、米国大統領選挙は選挙区が広大な全米でなあり、政党レベルの予備選挙から本選挙にかけて、地理的広さと時間の長さのため、総額で10億ドルを超えるともいわれている巨額の選挙資金が必要なわけですから、コーク一族のような大口の政治資金提供者は、ある意味で、それなりの影響力を持つことになりかねません。直接的な政治献金以外にも、政治・経済分野はいうに及ばず芸術や学術分野でも、本書でも取り上げているケイトー研究所などのシンクタンクも含め、ティー・パーティー的な右派政治勢力への支援姿勢を明らかにしつつ、米国世論の右傾化に大きな影響力を持っています。ただ、コーク一族はいわゆるリバタリアンですから、同性婚を許容している旨の本書の記述に見られる通り、宗教的な傾向をはじめとして、一方的に国民の自由を制約するような方向性は持たないという点には注意すべきです。ただ、本書はかなり歴史的・分析的にコーク一族を解明しようと試みていますが、私が注目しているのはコーク社の経営に携わっている次男チャールズと三男デイビッドの兄弟だけであり、彼らの政治的な動向です。世間一般として、長兄フレデリックと末弟ウィリアムについては関心がどこまであるか疑問があり、ここまで詳細に文字通りコーク一族をほぼ平等に取り上げたり、その遺産相続に端を発する裁判沙汰を含む内紛を明らかにする必要がどこまであるか、にはやや否定的です。とても時間をかけて読み切っただけに、そのあたりの記述を省略してしまってもいいんではないか、という気がしないでもありませんでした。

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次に、ポール・ジョンソン『ソクラテス われらが時代の人』(日経BP社) です。著者は英国のジャーナリストなんですが、歴史家・評論家としてノンフィクションというか、エッセイも数多く、私は文庫版の『インテレクチュアルズ』を読んだことがあり、副題は『知の巨人の実像に迫る』とされていて、私が読んだ講談社学術文庫ではルソー、マルクス、イプセン、サルトルなどを取り上げていましたが、おそらく単行本の半分くらいまで絞り込んでいたんではないかと思います。ですから、私は『インテレクチュアルズ』と同じで本書でもソクラテスのネガな面を強調する仕上がりではないかと想像していたんですが、決してそうではありませんでした。ということで、西洋文明の中で巨大な足跡を残し、哲学の祖として知られるソクラテスの生涯を追った評伝であり、素直な伝記に仕上がっています。ソクラテスが生きた古代ギリシャの時代背景を丹念に描きながら、アテナイとスパルタとのポリス間でのペロポネソス戦争をはじめ、ギリシアとペルシャの戦争も含めて、その当時の時代精神を明らかにしつつ、ソクラテスの哲学、思想のみならず生きざまにまで迫っています。でも、本書でも指摘されている通り、現在まで伝わるソクラテスの学問や人物像は、実は、これまた著名な哲学者にして、ソクラテスの弟子であるプラトンの著作を通じてもたらされており、それなりのバイアスは免れない可能性があります。また、ソクラテスは本書でも述べられている通り、おそらくアテナイの全盛期から下り坂に向かういわば爛熟期に活躍していますので、それも何らかのソクラテスの哲学に影響を及ぼした可能性を否定できません。という意味で、訳者あとがきでは「おそらくそうであっただろうソクラテス像を描きだすことに成功している」との評価が下されているのももっともだという気がします。加えて、副題にもあるように、ソクラテスの思想が現代において有している意味についても、それなりに説得力のある議論を展開しています。冗談のような『インテレクチュアルズ』と違って、真っ当なソクラテスの伝記です。

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次に、海堂尊『スカラムーシュ・ムーン』(新潮社) です。著者は『チーム・バチスタの栄光』でデビューした医療ミステリ作家であり、ご本人もお医者さんではなかったかと記憶しています。私はこの著者の作品は大好きで、『チーム・バチスタの栄光』から始まって『アリアドネの弾丸』で終るシリーズとか、その派生作ともいえる桜宮サーガのシリーズはほとんど読んでいます。また、本作は桜宮サーガにも登場する彦根医師が重要な役割を果たし、『ナニワ・モンスター』の続編となっています。ですから、2009年に世界でパンデミックになったブタ・インフルエンザではなく、ラクダに由来するインフルエンザである「キャメル」を巡る医療ミステリです。前作『ナニワ・モンスター』では、彦根医師を策士としつつ、浪速府知事を頂点に厚生省検疫所の技官や関西方面の医師会医師などが、キャメルが弱毒性であることを国民の間に明らかにして、浪速府に対する霞が関官僚からの経済戦争を勝ち抜く、というストーリーだったんですが、本作ではそれに続いて、厚生労働省がしかけたワクチン戦争に対して、加賀県の養鶏農家から良質の有精卵を大量に調達して、ワクチン不足解消に取り組むというストーリーです。いろんな読み方のできる小説ですが、私の好きな青春小説としてもいいセン行っています。すなわち、ワクチン製造のための有精卵の調達において、加賀県での養鶏農家や有精卵の輸送において、幼なじみの大学院生が起業して対応し、成功裏に導くというストーリーです。もちろん、小説ですから現実離れした設定は随所に見られますが、そういった点を割り引いても、いつも私の趣向によくマッチしたこの作者の作品ですから、本作もなかなかの出来に仕上がっているんではないかと思います。どうでもいいんですが、この作品か前の『ナニワ・モンスター』か忘れましたが、インフルエンザ予防にうがいはホントに効果ないんでしょうか?

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次に、樋口毅宏『ドルフィン・ソングを救え!』(マガジンハウス) です。著者については私は知りません。雑誌「BRUTUS」連載の小説が単行本化されています。小説の舞台は近未来の2019年に始まって、45歳結婚経験なし子どもなしのフリーターのトリコが、人生に絶望して睡眠薬をまるごとひと瓶飲んで自殺を図ったところ、30年前の1989年バブル期まっただ中の渋谷にタイムスリップし、10代半ばの青春時代に好きだったバンドドルフィン・ソングの解散を阻止すべく、さまざまな努力を積み重ねる、というもので、著者も十分に意識していて、p.67 に出て来るようにスティーヴン・キング『11/22/63』と同じテーマです。また、バブル期に戻るという点では、広末涼子主演の映画「バブルへGO!! タイムマシンはドラム式」と同じ趣向です。p.104 に「伊武雅刀によく似た金融局長」という表現で、これも著者に意識されていることが明らかです。主人公のトリコは未来の情報を持っていますから、ある意味でオールマイティであり、ミリ・ヴァニリの口パクを世界でもっとも早く明らかにして音楽関係の雑誌メディアに注目され、対象となるドルフィン・ソングに対するインタビューで該博な音楽関係の知識を披露して、一気にドルフィン・ソングの2人に接近します。しかし、長らく付き合って来ていた元同棲相手の男性と、タイム・スリップ先でも同棲するうちに、主人公本人が1年間の長きにわたって意識を失って入院したりして、最後の方は私の印象ではかなりグチャグチャになって、きちんとした結末らしきエンディングが明確ではないんですが、主人公が逃避して何となく終わります。音楽、特に、J-POPに関する薀蓄を傾けた作品であり、それ以外には何といって小説らしくもなく、青文字系の女性や青文字系の女性に好感を寄せる男性などに評価されそうな気もしますが、私にはよく判りません。ミリ・ヴァニリなどのように実名の歴史的事実として現れる音楽史に関する知識も盛り込まれていますが、もちろん、タイトルのドルフィン・ソングとか、現実の音楽史に基づかない架空のフィクションも少なくなく、私のようなモダン・ジャズのファンでPOPミュージックに強くない人間には、この実在と架空の境界が判然としない恨みもあります。また、途中から登場する黒木羊音なる女性が、小説の中では何の役割も果たしません。この点もよく判りません。評価の難しい小説です。

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次に、城山真一『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』(宝島社) です。著者は金沢をホームグラウンドとするミステリ作家であり、本書は宝島社などが主催する『このミステリーがすごい!大賞』の2016年第14回大賞受賞作です。なお、大賞はもう1作あり、一色さやか『神の値段』なんですが、まだ図書館の予約が回って来ません。ということで、まず、本書を取り上げると、主人公は本当に資金を必要とする人に冷たいメガバンクのあり方に失望して退職した後、石川県庁で金融関係の苦情相談を受ける公務員となった若者で、義兄の金策の過程で「黒女神」との異名を持つ二礼茜と出会い、公務員をしつつ彼女の助手として活動します。黒女神は株取引に超人的な能力を有し、彼女が提示する報酬や要求に誠実に応じれば、希望した金額を手にすることができる、とされ、過大投資となった社屋建設費用の借金に苦しむ老舗和菓子屋社長、あるいは、人気歌手で死亡した娘の真の死因が薬物中毒であることを隠そうとする父親、などの依頼を着実にこなした上で、国政進出をもくろむ元高級官僚の裏切りにあいます。そこから、ストーリーが一挙にパワーアップするというか、個人レベルの小さな物語から国政レベルの大きな物語に転化し、紆余曲折を経て、いろんな意味で、というのは金融的な意味も含めて、でも決して完全ではないながら、私のような一般国民でも支持されうるという意味で、それなりの「正義」が実現される、というストーリーです。ほぼデビュー作に近い段階の作品としてはよく仕上がっていて、もちろん、黒女神の現実離れした株式運用テクニックの習得方法など、昨年2015年10月31日付けの読書感想文で取り上げた榎本憲男『エアー 2.0』と比較しても貧弱で、とても現実離れして説明不能な部分も少なくないんですが、今後の活躍を期待させるに十分で、「このミス大賞」にふさわしい作品であろうと思っています。

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次に、降田天『女王はかえらない』(宝島社) です。著者はエラリー・クイーンみたいに2人で作品を書くミステリ作家であり、本書は宝島社などが主催する『このミステリーがすごい!大賞』の2015年第13回大賞受賞作です。ここ数年は「このミス大賞」受賞作品はほとんど読んでいるんですが、直近の受賞作である上の『ブラック・ヴィーナス 投資の女神』を図書館に予約した際に、ひとつ前の受賞作であるこの『女王はかえらない』を読み忘れていたことに気づいて、大慌てで借りて読みました。このあたりがムリに読書量が増えている原因のひとつかもしれません。ということで、ストーリーは北関東の田舎町の小学校を舞台に進みます。第1部では「クラスの女王」の座を占めていた地元の女の子が東京からの転校生により追い落とされ、夏祭りで悲惨な事故が起こるまでを、第2部では20年後の同じ小学校を舞台に少女が失踪したりする事件を中心に、それぞれ進み、最後の第3部で真相が明らかにされます。と書けば淡々としたカンジなんですが、最近映画化された乾くるみの『イニシエーション・ラブ』とか、古くは我孫子武丸『殺戮にいたる病』と同じく、いわゆる叙述トリックで構成されています。すなわち、故意に読者をミスリードし混乱させて、真実に到達するのを作者自らが妨げているわけです。私はシラッとネタバレで書いてしまいましたが、第1部と第2部は、素直な読者が読めば20年の間隔が空いた物語ではなく、連続した同じ小学校を舞台にしている、と読めるように工夫されています。というか、多くの読者はそう読むんだようと思います。作品発表から1年余りを経過して、有名な賞を授賞された作品ですので、私もそれなりの予備知識があって、作者にミスリードされない読み方をしましたが、それでも、第3部で明らかにされる第1部の事件というか、事故の最後の最後に語られる真相には驚かされました。ですから、第1部と第2部の間に20年の間隔があるというネタバレくらい明らかにされても、それでもこの作品を読む価値はあるんだろうという気がします。昨年2015年12月12日付けの読書感想文で取り上げた堀裕嗣『スクールカーストの正体』の実体が出ているような気もする一方で、「女性は小さいころから底意地が悪い」と性差別を助長しかねない危うさは感じました。

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最後に、金子勝・児玉龍彦『日本病』(岩波新書) です。この著者2人は2004年に同じ岩波新書から『逆システム学』という共著を出版しているそうです。公共経済学分野を専門とする経済学の研究者と医学の研究者の2人による日本経済に関する分析であり、コテンパンに現在の日本経済を批判しています。抗生物質に対する耐性の概念から、金融政策の量的緩和の効果が薄れるというのは、それなりに理解しやすい気がしないでもありませんが、財政における国債残高の累増については私ですら理解できませんでした。p.199 にある通り、最終的に被害者となるのが若者であるという点には私も賛成ですが、残念ながら、著者の既得権者に対する姿勢が理解できませんでした。何度かTPPに対する反対論が表明されており、現在までの米国大統領選挙においても、民主党のサンダース候補やクリントン候補をはじめとして、リベラルな姿勢を示そうと努力している向きには、どうもTPPに批判的な態度をとるのがファッショナブルに見えているようで、TPPについては関税を引き下げた上で必要な補償を実施するというのがメインストリーム経済学の考えであり、TPPに反対するのは既得権者擁護としか見えないんですが、既得権のない若者に対する理解と既得権を手放そうとしない農業者に対する態度の間に整合性が見られず、既得権の有無にかかわらず、すなわち、既得権を持っている人も持っていない人も、誰に対しても手厚く保護して、すべてがうまくいくと言い出しかねない姿勢はどうも理解に苦しみます。現政権やその前の1980年代からの中曽根政権、あるいは、今世紀初頭の小泉政権などを批判するのは、私も大いに同意する部分が少なくなく、特に格差に関する本書の批判は鋭いものがありますが、単なる批判に終わらずに建設的な経済政策のあり方についての議論があれば、なおよかったような気がします。

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2016年2月26日 (金)

前年比で横ばいを記録した消費者物価上昇率の先行きやいかに?

本日、総務省統計局から1月の消費者物価(CPI)が公表されています。生鮮食品を除くコアCPI上昇率は前年同月と比べて横ばいとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

全国消費者物価、1月は横ばい 市場予想と一致、12月から鈍化
総務省が26日発表した1月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きの大きな生鮮食品を除く総合が102.6と、前年同月比では6カ月ぶりに横ばいとなった。QUICKの市場予想(横ばい)と一致した。同指数は15年10月に0.1%下落後、12月までは2カ月連続で0.1%上昇していた。原油安で灯油やガソリン、電気代などエネルギー関連品目が下振れし、前月から物価上昇の勢いが鈍った。
1月の食料(生鮮食品除く)価格は2.1%上昇した。ただ前年同月に外食をはじめ幅広い品目でみられた値上げに一巡感も出てきたといい、物価の勢いは12月よりやや鈍った。家庭用耐久財では、暖冬で需要が高まらなかったルームエアコンの値引きセールの影響もあったという。食料・エネルギーを除く「コアコア」の指数は100.9で0.7%上昇し、12月(0.8%)から伸びが縮小。生鮮食品含む総合は横ばいだった。
先行指標となる東京都区部のCPI(中旬速報値、10年=100)は、2月の生鮮食品除く総合が101.3と、前年同月から0.1%下落した。下落率は15年12月と同じで、2カ月連続のマイナスとなった。原油価格の下落でエネルギー関連が軒並み下がった。一方、コアコアCPIは0.5%上昇し、前月から伸び率が拡大。宿泊料や外国パック旅行が値上がりした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが2月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスではコアCPI上昇率は横ばいとされていましたので、ジャストミートしました。コアCPI上昇率の大きな鈍化は国際商品市況における石油価格の下落に伴うものです。例えば、グラフは示しませんが、財サービス別のCPI前年同月比上昇率を見ると、1月では財が▲0.5%の下落を示した一方で、サービスは+0.4%の上昇を記録しています。すなわち、石油価格下落の影響が大きい財価格が下落を示している一方で、人手不足の影響を受けやすいサービス価格は上昇を記録している、ということになります。さらに、物価の先行きについて考えると、コアCPI上昇率は早ければ来月公表の2月統計から再びマイナスになり、年央から夏場にかけて最大で▲1%近い下落を見せる可能性があると私は受け止めています。というのは、たとえ国際商品市況における石油価格がこの先2-3月でバレル30ドル近辺で底を打つと仮定しても、電気代・都市ガス代の改定は制度上1-2四半期遅れるため、消費者物価に反映される国内のエネルギー物価は少なくとも年央ないし夏場くらいまでは下落幅が拡大しかねないからです。現時点では、コアCPI上昇率がゼロを示す中で、上のグラフに見える通り、私の計算に従えば、1月の寄与度ベースでエネルギーは▲0.99%、生鮮食品を除く食料が+0.48%、それ以外のいわゆるコアコア部分が+0.51%となっており、このエネルギー部分がコアCPI上昇率に対してマイナス寄与を拡大すると考えられます。加えて、先行きで円高が進めばCPI上昇率がさらに下振れする可能性も否定できません。例えば、毎年の Byron Wien による The Ten Surprises of 2016 では米国連邦準備制度理事会(FED)の利上げペースが2016年中は1回にとどまるとのサプライズ予想もあったりしますので、為替相場の動向は不透明です。

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最後に参考まで、上のグラフは勤労者世帯の所得分位別で見た消費者物価上昇率の推移をプロットしています。ただし、もっとも所得の低い第Ⅰ分位と逆にもっとも所得の高い第Ⅴ分位だけを抜き出してプロットしています。なお、総務省統計局の解説に従えば、第Ⅰ分位と第Ⅱ分位の境界は年間所得で430万円、第Ⅳ分位と第Ⅴ分位の境界は919万円です。上のグラフを見れば明らかなんですが、2011-12年くらいまではともかく、2014年の消費税率引上げから最近時点まで、所得の高い第Ⅴ分位の消費バスケットに対する消費者物価上昇率が所得の低い第Ⅰ分位の物価上昇率を上回って推移しているようです。

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2016年2月25日 (木)

設備投資が大きい企業ランキング!

とても旧聞に属する話題なんですが、2月1日付けで東洋経済オンラインにおいて「初公開!『設備投資額が大きい』トップ500社」が明らかにされています。いろいろあって、今夜はブログのアップが遅くなりましたので、東洋経済オンラインのサイトからテーブルの画像を引用して今夜のブログ記事としたいと思います。

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まあ、当然でしょうが、名だたる大企業が並んでいる気がします。

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2016年2月24日 (水)

企業向けサービス物価はプラス圏内で推移も上昇率は鈍化!

本日、日銀から1月の企業向けサービス価格指数(SPPI)が公表されています。ヘッドラインの前年同月比上昇率は+0.2%と、前月の+0.4%からやや上昇幅を低下させています。また、国際運輸を除くコアPPIの前年同月比上昇率は+0.4%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業向けサービス価格、前年比0.2%上昇 人件費転嫁の動き鈍る
日銀が24日発表した1月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)は102.5と、前年同月に比べ0.2%上昇した。前年比の上昇は31カ月連続だが、伸び率は2015年12月確報値の0.4%から0.2ポイント縮小し、指数は15年2月以来11カ月ぶりの低水準になった。前月比では0.6%下落した。
品目別では広告価格が上昇した。企業業績の改善でテレビ広告の出稿が活発だったほか、インターネット広告も不動産関連を中心に上昇した。一部銀行で口座振替手数料の引き上げがあったほか、月刊誌の定期購読料の値上げも全体を押し上げた。
一方、「昨年に比べ人件費の上昇分を価格転嫁する勢いが鈍った」(調査統計局)という。税理士サービスで値下げの動きがあったほか、事務職を除く労働者派遣サービスで値上げがなかったことも響き「諸サービス」が全体を押し下げた。円高で輸入複写機の価格が下がったため、リースも価格を押し下げた。
宿泊サービスの上昇も鈍化した。上昇は47カ月連続だが、中国経済の減速や株式相場の下落などを背景に予約がやや落ち着いた動きになっているという。年始の連休が短かった影響で、国内航空旅客輸送は前月の横ばいから下落に転じた。
上昇品目は61で、下落は51。上昇品目と下落品目の差は10と、前月の14から縮小した。上昇品目が下落品目を上回るのは13年10月以来28カ月連続となった。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引されるサービスの価格水準を示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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昨年2015年3月で一昨年の消費増税の物価への影響も一巡し、ヘッドラインSPPIの前年同月比で見て昨年年央の7月+0.6%、8月の+0.7%から徐々に上昇率は鈍化し始め、今年2016年1月の速報値では+0.2%を記録しています。2月の前年同月比上昇率への寄与を見ると、広告が+0.03%、金融・保険と情報通信がともに+0.01%のプラスの寄与を示している一方で、機械修理や法務・会計サービスといった諸サービズが▲0.07%、また、リース・レンタルも▲0.05%のマイナス寄与となっています。上昇率が鈍化していますのでマイナス寄与に着目すると、リース・レンタルについてはサービスとはいっても、貸し出す方の機械器具の建設機械などが石油価格の下落により価格を下げていますので、国際商品市況における石油価格下落の影響をかなり受けているといえます。しかし、諸サービスについては石油価格下落の影響はおそらく限定的であり、人手不足の影響の方が強いんではないかと私は受け止めているわけで、やや理解に苦しむところです。引用した記事を見る限り、確定申告の時期を前にして税理士サービスの値引き競争があったよう印象を私は受けたんですが、全般的な人手不足が解消に向かっているという統計的なエビデンスはなく、よく判りません。単に、一時的な要因なのかもしれません。もう少し物価の推移を見守る必要がありそうな気もします。ですから、先週2月16日から日銀の追加緩和としてマイナス金利が実施されていますが、当面はこの緩和策の影響を見つつ、物価が日銀のインフレ目標に届かないようであれば、さらなる追加緩和を模索するという金融政策動向になるんではないかというのが常識的なエコノミストの見方ではないかと受け止めています。

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2016年2月23日 (火)

賃金構造基本統計調査の結果の概況に見る賃金格差やいかに?

先週木曜日2月18日に厚生労働省から「平成27年賃金構造基本統計調査」の結果の概況が公表されています。年1回調査され、「賃金センサス」とも呼ばれている大規模調査で、もちろん、pdfの概況リポートもアップされています。実は、昨年5月に私が書き上げたディスカッションペーパー「ミンサー型賃金関数の推計とBlinder-Oaxaca分解による賃金格差の分析」は過去のこの調査の個票データを分析したものです。私の研究成果の宣伝はともかく、調査結果の概況によれば、フルタイムの一般労働者の月額賃金は男女計で304,000円の前年比+1.5%増、うち男性335,100円+1.7%増、女性242,000円+1.7%増で、それぞれ前年を上回っており、特に、女性の賃金は過去最高を記録しています。また、パートタイムの時給も男性1,133円前年比+1.2%増、女性1,032円+2.0%増で、いずれも過去最高となっています。なお、賃金センサスの調査対象は5人以上の常用労働者を雇用する民営事業所なんですが、先週公表された結果の概況は10人以上事業所について集計しています。主として賃金格差に着目してグラフを引用しつつ簡単に紹介しておきたいと思いますが、用語の定義や統計の詳細については厚生労働省のサイトに情報があります。

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まず、概況リポートの p.5 第2図 性、年齢階級別賃金 は上の通りです。男女別の格差は歴然です。すなわち、女性の場合は昇給が緩やかなのか、男性に比較して賃金カーブがかなりフラットで、しかも、年齢階級別で見たピーク時の賃金で大きな差があることが見て取れます。この差は平均値の差よりも大きくなっています。

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次に、概況リポートの p.6 第3図 学歴、性、年齢階級別賃金 のうちの男性のグラフは上の通りです。大学・大学院卒と高専・短大卒と高校卒の3分類の比較なんですが、容易に想像される通り、通常考えられる見方に従って学歴が高いほど賃金カーブが上方にあり、ピーク時賃金が高くなっています。注目すべきは、高専・短大卒と高校卒の間の格差よりも、大学・大学院卒と高専・短大卒の間の格差の方が大きい点です。グラフは引用しませんが、この点は女性も同じです。

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次に、概況リポートの p.7 第4図 企業規模、性、年齢階級別賃金 のうちの男性のグラフは上の通りです。このリポートでは、常用労働者1,000人以上を「大企業」、100-999人を「中企業」、10-99人を「小企業」に区分していますが、見れば明らかな通り、企業規模が大きくなるほど賃金カーブは上方に位置しています。なお、グラフの引用は割愛しますが、第6図の産業別賃金について、男性の年齢階級別の月額の賃金ピークを見ると、金融業・保険業645.1千円、教育・学習支援業554.4千円、医療・福祉521.7千円、製造業411.7千円、サービス業(他に分類されないもの)336.0千円、宿泊業・飲食サービス業326.9千円などとなっています。

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次に、概況リポートの p.11 第6図 雇用形態、性、年齢階級別賃金 のうちの男性のグラフは上の通りです。何かと注目の集まっている正規・非正規の格差ですが、上のグラフで一目瞭然です。正規雇用が昇給などにより平均月額400万円を超える賃金を受け取る年代がある一方で、非正規雇用では賃金カーブがほとんどフラットで平均月額は250千円にも達しません。現政権は「同一労働同一賃金」を目指すと明言していますが、労働内容が異なるので賃金格差が存在するのか、それとも、似たような労働内容なのに雇用形態の起因して賃金格差が生じているのか、この調査結果だけでは明らかではありませんが、後者であるならば、同じ労働で同じ賃金を受け取れるのは正しい方向への改革ではなかろうかと私は思っています。なお、雇用形態間賃金格差については、概況リポートの p.12 に企業規模別主要な産業別などの詳細な情報を含むテーブルが掲載されています。

グラフは引用しませんが、最後に、都道府県別に見た地域別の賃金格差について、概況リポートの p.15 第9図 都道府県別賃金 から数字だけ拾うと、全国の男女計の月額賃金が304.0千円なんですが、これを上回っているのは東京都をはじめとする7都府県だけです。すなわち、月額賃金の多い順で、東京都383.0千円、神奈川県335.1千円、大阪府327.1千円、愛知県315.2千円、京都府308.8千円、千葉県306.0千円、埼玉県304.4千円です。地域間の賃金格差については、この事実だけをお示しすればコメントは不要かと思います。

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2016年2月22日 (月)

帝国データバンク「2016年度の賃金動向に関する企業の意識調査」の結果やいかに?

先週金曜日2月19日に取り上げた産労総合研究所による「2016年 春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」に続いて、これまた見逃していて、かなり旧聞に属する話題かもしれませんが、ちょうど1週間前の2月15日に帝国データバンクから「2016年度の賃金動向に関する企業の意識調査」が公表されています。まず、帝国データバンクのサイトから調査結果について4点引用すると以下の通りです。

調査結果
  1. 2016年度の賃金改善が「ある」と見込む企業は46.3%。前回調査(2015年度見込み)を2.0ポイント下回り、リーマン・ショックで大幅減を記録した2009年調査(2009年度見込み)以来7年ぶりの減少。また、2015年度は3社に2社が賃金改善を実施
  2. 賃金改善の具体的内容は、ベア35.5%(前年度比1.2ポイント減)、賞与(一時金)26.0%(同1.4ポイント減)。2013年度以降3年連続で上昇していたベアは4年ぶりに低下
  3. 賃金を改善する理由は「労働力の定着・確保」が73.8%で過去最高を記録。また「同業他社の賃金動向」の割合も過去最高を更新するなか、「自社の業績拡大」は3年連続で減少。改善しない理由は、「自社の業績低迷」が61.5%で最多となる一方、「同業他社の賃金動向」「人的投資の増強」は前年調査より3ポイント以上増加
  4. 2016年度の総人件費は平均2.49%増加する見込み。従業員の給与や賞与は総額で約3.4兆円増加と試算される

金曜日に取り上げた産労総合研究所による「2016年 春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」は実施時期やサンプル数がやや物足りない印象でしたが、今夜の帝国データバンクの調査は2016年1月18日から31日に実施され、調査対象は全国2万3,228社、有効回答企業数は1万519社の回答率45.3%となっています。加えて、賃金に関する調査は2006年1月以降、毎年1月に実施し、今回で11回目となりますので、かなり信頼性があるんではないかという気もします。ということで、pdfの全文リポートからグラフを引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、上のグラフはリポートから、ここ3年の 賃金改善の具体的内容 を引用しています。ベースアップも賞与もどちらも減少しているんですが、実は、リーマン・ショック前の2008年1月に実施された同じ調査ではベースアップが40.0%、賞与が22.1%だったんですが、その後、ベースアップがジリジリと低下し、逆に、賞与がジワジワと上昇してきていたところ、ごく最近では、この動きにも歯止めがかかり、2013年調査から3年連続でベースアップが上昇していたところ、2016年調査では低下してしまいました。経済動向について考えると、賞与のような一時金ではなく、消費へのインパクトの大きい恒常所得の増加が必要です。

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次に、上のグラフはリポートから、ここ3年の 賃金を改善する理由 を引用しています。合計が100%を超えますが、複数回答です。労働力の定着・確保の割合が高く、しかも、ここ3年で急ピッチで上昇しています。人手不足の深刻さが伺えます。他方、2番めの理由は業績拡大ながら、ここ3年でジワジワと低下してきています。物価動向は今年2016年調査では大きく下げました。消費増税に伴う物価上昇が一巡した上に、国際商品市況での石油価格の低下の影響が大きいから当然といえます。なお、グラフは引用しませんが、賃金を改善しない理由も同様に質問しており、自社の業績低迷が圧倒的にトップ回答となっています。

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最後に、上のグラフはリポートから、業界別と従業員数別のそれぞれの 2016年度の総人件費の増加見通し を引用しています。少し判りにくいんですが、棒グラフは金券比画像化すると回答した企業の割合で、折れ線グラフは平均の人件費上昇率を示しています。業界によってマチマチの上昇なんですが、規模別では、厚生労働省が毎月勤労統計で調査しない5人以下企業も調査が行き届いていて興味深い結果が示されています。すなわち、通常、規模の小さい企業ほど人手不足が深刻となっていて、従業員確保のために人件費の上昇率が高いと考えられているんですが、それはあくまで毎月勤労統計の調査対象の5人以上企業であって、零細企業の5人以下企業では決して人件費上昇率が高いわけではない、という結果が明らかにされています。1000人超の大企業では、もともとのベースとなる人件費が割高な上に、安定的な賃金支給条件をテコに人件費の上昇率は低く抑えられているような印象です。結果として、帝国データバンクでは、2016年度の総人件費は前年比で平均2.49%増加すると見込まれ、総額で約4.3兆円、そのうち従業員への給与や賞与は約3.4兆円増加するとの試算結果を示しています。私の大雑把な計算では、限界消費性向が50%とすれば、年間のGDP成長率を約0.3%押し上げる可能性があります。ここ数年の企業収益の増加を考慮すれば、私のように、やや物足りない気がするエコノミストも少なくないかもしれません。

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2016年2月21日 (日)

週末ジャズは上原ひろみ Spark を聞く!

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今週の週末ジャズは上原ひろみ Spark です。トリオ・プロジェクトの4枚目のアルバムです。4枚目にして、リリースからもっとも早く私が手に入れた記念すべきアルバムかもしれません。上のジャケットはまさにスパークしている、という雰囲気なんでしょうか。リズム・セクションのサポートは、アンソニー・ジャクソンのベースとサイモン・フィリップスのドラムスです。まず、アルバム収録曲の構成は次の通り、すべて上原ひろみのオリジナルです。

  1. Spark
  2. In a Trance
  3. Take Me Away
  4. Wonderland
  5. Indulgence
  6. Dilemma
  7. What Will Be, Will Be
  8. Wake Up and Dream
  9. All's Well

随所で広告文句ながら、トリオの火花散る演奏とか、トリオ・プロジェクトの最高傑作、なんてのを見かけましたが、私の印象だけで判断すると、アルバムとしては直前の ALIVE の方が出来がいいような気もします。別のいい方をすれば、ALIVE から発展させたルートに乗っている、というよりも、Voice とか Move のラインに戻った気がします。もちろん、だからどうだというわけではありません。何枚かトリオのアルバムを聞いて来て、決して、型にはまった気もしませんし、堅苦しいというわけではないんですが、もっとピアノは自由な音楽表現をできる楽器だと私は考えており、少なくとも上原ひろみはさらに進化するような気がします。でも、相変わらず、心地よい緊張感をもたらしてくれる貴重なジャズ・ミュージシャンです。Indulgence という曲がとても不思議な響きを持っています。アルバムの中で一番好き、とかではないんですが、なぜか耳に残って気にかかる曲です。それから、オマケのDVDはなかなかヒマがなくてまだ見ていません。

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2016年2月20日 (土)

今週の読書は経済書も小説もありで計10冊!

今週はなぜか大量に読みました。経済書だけでも数冊あり、エラリー・クイーンの越前新訳になる国名シリーズなどの小説や同僚からもらった新書も含めて、以下の通り、10冊です。このブログで読書感想文を書き始めて以来、10冊を一挙に登場させるのは初めてかもしれません。

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まず、西村豪太『米中経済戦争 AIIB対TPP』(東洋経済) です。著者は東洋経済のジャーナリストであり、特に、中国情報の専門家です。AIIBはアジアにおけるインフラ整備のための国際金融機関であり、TPPは太平洋圏における自由貿易協定ですから、まったく性質の異なる両者なんですが、それを米中のグローバルな経済戦略の文脈の中で捉え、先進国主導の既存の国際秩序に対する新興国からのチャレンジとも考えられる、という点から本書はスタートします。その上で、私は不勉強にして知らなかったんですが、中国の一帯一路政策の一部としてAIIB設立を位置づけています。ただ、それにしては、陸路の一帯一路はともかく、海上の真珠の首飾りの方は本書には出現しません。私にはよく判りません。それはともかく、AIIBは中国からシルクロードなどに沿った西方拡張路線であり、過剰生産に陥った中国の工業製品を西方の途上国・新興国に輸出するためにインフラ整備と解明しています。それに対して、TPPは先々中国を取り込む際にかなり大幅な貿易自由化を迫るテコのような存在として描き出されています。中国の将来については、政治的に自由化や民主化が進むかどうか、とともに、経済的に成長が続いて先進国並みの豊かさを実現できるかどうか、の両面が注目されていて、米国などではかなり楽観的に自由化や民主化が進んで豊かになる、というシナリオが支持されているようですが、自由化や民主化が進まない一方で中所得国の罠に陥って成長が停滞する、こともあり得ますし、もちろん、自由化や民主化が進まないながら豊かになっていく可能性もあります。ただ、自由化や民主化が進む一方で経済が停滞するという可能性は排除されているように見受けられます。長い世界の歴史の中で、資源に頼らず工業化により先進国の仲間入りをしたのは欧米諸国を除けば日本だけです。他方で、日本人の印象とは違って、新興国や途上国からは中国はとても好意的に受け止められています。タイトルから理解される通り、経済面が中心になる本ですが、今後の中国について理解し、隣国としていかにお付き合いするかを考える上で参考になった気がします。

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次に、阿部顕三『貿易自由化の理念と現実』(NTT出版) です。著者は大阪大学経済学部の研究者であり、貿易と環境問題が専門分野のようですが、不勉強にして私はこの著者の研究書や論文は初めて読みました。先週の読書感想文で取り上げた『新々貿易理論とは何か』とは違って、新古典派的な、というか、リカード的な古典的貿易理論を基にしつつ、それでもなぜか「比較優位」というテクニカル・タームをいっさい使わずに貿易自由化の理念を展開した上で、GATT/WTO体制による多角的貿易交渉、地域貿易協定(RTA)や自由貿易協定(FTA)などの展開、農業をはじめとして輸入増によりダメージを受ける産業の保護、貿易自由化と環境や安全性の問題などを取り上げて論じています。基本的に伝統的な貿易理論に立脚していますが、何点かとんでもない謬論を展開している部分もあります。物足りないのは、p.63-64で貿易自由化では譲許関税率を交渉対象とし、実効関税率との間に水(water)が空いている、という点を指摘しているものの、さらに詳細に関税率引き下げ交渉の論点を整理して欲しかった気がします。また、GATT/WTOの価格的貿易交渉が行き詰まって、いわば仲のいい有志国間のRTA/FTA交渉が現在の主流になった背景についても、極めて重要なポイントですので、さらに深い分析が必要ですし、GATT/WTOの多角的貿易交渉とRTA/FTAとの比較やメリット・デメリットなども論じるべきではないでしょうか。私が特に唖然としたのは、p.127の図4-7であり、最適関税率の議論においてかつてのラッファー。カーブのような非線形の曲線を想定していて、ほとんどブードゥー・エコノミクスの世界に入りかけているような気がします。また、貿易自由化では「生産工程や生産方法は考慮しない」(p.168)として、貿易自由化と環境や安全性の問題を論じるのであれば、チャイルド・レーバーも議論すべきです。最後に、かつてのウルグライ・ラウンド対策費の6兆円余りの使途について論じる際に(p.191-92)、「自由化の対策費は競争力を付けるための施策に用いられるべき」というのは理解不能です。貿易自由化は本書でも指摘しているように、セクター別に利益と不利益が生じますから所得の再分配をもって補償する必要があります。ウルグアイ・ラウンド対策費はこの補償の概念に近く、農業の競争力を高める対策費ではないと理解すべきです。ここに示したごとく、とんでもない謬論が本書に含まれることを理解した上で読み進むことが必要かもしれません。

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次に、セバスチャン・ルシュヴァリエ『日本資本主義の大転換』(岩波書店) です。著者はフランス社会科学高等研究院(EHESS)の研究者であり、日本経済の研究を専門としています。最近では、今年2016年2月11日付けの日経新聞の経済教室に「日本型資本主義の課題 企業間格差拡大、停滞招く」と題して、技術革新の移転を論じています。本書はフランス語の原書が2011年に出版された後、英語の翻訳が2014年に刊行され、邦訳版は英語を底本としているようです。ピケティ教授の『21世紀の資本』と同じ構図ですが、要するに、後に出版された英語版ではフランス語版の一部を修正・追加してあるので、新しい方を底本とする方が好ましいという著者の意向とされています。原題はフランス語も英語も日本語も同じです。基本的にレギュラシオン学派の理論に基づいた学術書に近い内容ながら、一般読者も対象に想定されているようです。それでも、レギュラシオン理論のせいかのか、私の不勉強のせいなのか、なかなかに難しい内容を含んでいます。なお、本書の分析対象はあくまで「日本資本主義」であって、私が地方大学で教えていたような「日本経済」ではありません。この点を理解して念頭に置きつつ読み進むべきです。ということで、前置きが長くなりましたが、本書では1980年代以降の日本経済を跡付け、バブル崩壊以降の停滞した局面の解明を試みています。いわゆるワシントン・コンセンサス的な新自由主義的構造改革が実行されたものの、結果が思わしくない現状について、むしろ、本書では新自由主義的な改革のために危機が発生ないし悪化した可能性を指摘しています。すなわち、こういった構造改革は新たな制度間の調整メカニズムを提供することに失敗しており、システムとして非整合な結果に終わった、という見方です。従って、歴代の政権がチャレンジした経済政策のいくつかの柱、例えば、経済の金融化によってのみもたらされる成長は幻想であるとか、日本のイノベーション・システムをシリコンバレー型に収斂させれば競争優位を持ち得るというのも幻想である、などと結論しています。資本主義にしても、イノベーションにしても、より多様なシステムを許容する必要性を強調する一方で、リビジョニスト的な「日本特殊論」も排しており、日本の資本主義を多様な資本主義のひとつと位置付けながら、決して特殊性を強調する立場に与していません。何よりも斬新な視点は、海外要因からもたらされるグローバリズムの進展に対応した新自由主義的な改革、という視点を転倒させて、グローバリズムの進展を背景に、あるいは、もっといえば、グローバリズムをテコとして新自由主義的な構造改革を推し進めようとして失敗した結果、日本の不平等が拡大した、という見方です。どこまで妥当性があるかどうか、現時点では何ともいえませんが、あり得る仮説だと受け止めるエコノミストもいそうな気がします。通常、多くのエコノミストが考えるマイクロ経済とマクロ経済の間にメゾスコピックなレベルの経済を考え、例えば、その昔の通産省が産業政策を進めるひとつのツールとして業界団体による調整を活用したような、通常の経済学では最適化行動のレベルで無視されているようなメゾなレベルの調整にも目を向けているのも、レギュラシオン理論に基づく本書のひとつの特徴かもしれません。第5章の教育論は本書に必要かどうか疑問ですが、最後に、私の不勉強で理解できなかったのは、レギュラシオン学派の賃金労働関係で重要な役割を果たす「社会的和解」です。マルクス主義的な階級対立概念を含めた緊張関係をひとつの要素とする労使関係のことなのだと理解していますが、ネットで調べても理解がはかどりません。グラムシの用語になる「フォーディズム」というのはレギュラシオン学派の論文などでよく見かけるものですし、これに対応するというか、何というか、親戚筋に当たる「トヨティズム」という用語も、その存在は私も知っていたんですが、大学構内の立て看板とかでなく、名のある出版社の出版物である本書で実際に使われているのを初めて見ました。感激しました。そのうち、「ボルボイズム」もどこかでお目にかかりたいと思ってしまいました。

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次に、榊原英資・水野和夫『資本主義の終焉、その先の世界』(詩想社) です。本書のあとがきで著者自身が書いているように、その昔の『エコノミスト・ミシュラン』において、リフレ派から「とんでも経済学者・エコノミスト」に上げられたワーストの1位と2位という取り合わせの著者です。私自身もリフレ派のエコノミストですから、特に第1部の水野教授の担当部分は相互に矛盾も散見され、バックグラウンドとなるモデルが非常に適当なご都合主義で、その場その場の論旨に適合するように整合性なく選択されている可能性を危惧します。ただ、本書もタイトルは「資本主義」であり、その資本主義を定義することなく、その場その場の雰囲気で議論を進めていますので、理解が飛んだりするんですが、マルクス主義的に G-W-G' のサイクルが崩れる、ということをもって、ですから、ラムゼイ・モデル的な成長率と金利の同一視をもってすれば、ゼロ金利というのは、本書のタイトルとなっている「資本主義の終焉」と呼べるのではないかと私は理解しておきました。ただし、その場合に、どうしてゼロ金利=ゼロ成長となるのかといえば、本書でも指摘されているように、もしも消費の飽和といった需要サイドにおける限界効用の極端な低下とともに、供給サイドの限界費用の大きな低下、1月23日付けの読書感想文で取り上げたリフキン著による『限界費用ゼロ社会』のような現象が併せて生じているのだとすれば、少なくとも経済面からは社会主義ないし共産主義にかなり近いといえます。また、資本主義に特有とまではいいませんが、イノベーション=革新については本書ではまったく考慮されて今異様に見受けられますので付言しておきます。しかし、ここから私の理解が混乱するんですが、ゼロ成長をもって中世的な世界に逆戻りするかといえば、そうではないと私は考えます。本書でも、歴史の歯車を逆回転させるのはムリ、という趣旨の記述とともに、前例がないなら過去を参照するという主張もあり、決して矛盾するわけではないと強弁することもできますが、どうもハッキリしない、というか、矛盾しかねない混乱を生じているような気がしてなりません。それから、何となくの反論なんですが、サブタイトルに見られる『「長い21世紀」が資本主義を終わらせる』のではなく、あくまで可能性としてのお話ですが、資本主義が終わるから21世紀は「長い21世紀」になるのであろうと私は理解しています。16世紀が長かったのは資本主義が始まったからだということは、著者に理解されていないのかもしれないと心配になります。主として、水野教授の論考に対する批判的な見方を示しましたが、どうでもいいことながら、榊原教授はもともと古い本ながら、Beyond Capitalism: The Japanese Model of Market Economics といった出版物もありますし、資本主義を越えた経済モデルに関する見識もありそうな気がしないでもありません。また、将来見通しに関して PwC の The World in 2050 が何度か引用されているんですが、私が昨年2015年12月のアジア開銀研究所(ADBI)で開催された ADBI-JDZB-GIGA Symposium on Post-Crisis Restructuring of Trade and Financial Architecture: Asian and European Perspectives の Session 1: Growth Perspectives in Europe and Asia において、プレゼンをした際にも活用せていただいた記憶があります。

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次に、小林至『スポーツの経済学』(PHP研究所) です。著者は東大卒業生としては3人目のプロ野球選手となった後、ソフトバンクの球団経営に携わり、また、現在は大学でスポーツ経営論を研究している研究者です。主として、プロスポーツのビジネスとしての収益や経営についての分析や事例紹介なんですが、いわゆるNCAA、すなわち、米国の大学スポーツについても取り上げています。まず、スポーツのビジネスとしての歴史を振り返り、いわゆるアマチュアリズムに立脚していたオリンピックのビジネス化への契機となった1984年ロサンゼルス・オリンピックを紹介し、テレビの放送権ビジネスやスポンサーなどからの権利収益により、開催都市の負担なくオリンピックが黒字化した背景を探ります。この時点で、スポーツのイベントは中央政府や地方政府からの財政資金の持ち出しによるコスト要因ではなく、ビジネスとして独立に収益を得ることの出来るチャンスとなったわけです。さらに、典型的なプロスポーツのリーグとして、閉鎖的で参入障壁が高く、チーム戦力均等化により優勝争いを面白くしようとの傾向のある米国の大リーグ野球を片方の代表としつつ、他方は開放的で下位リーグと間の昇格・降格を制度的に保証するという意味で参入障壁はほとんどなく、チームや選手個人の努力の成果がそのまま結果に出る欧州サッカーを典型として取り上げて、さまざまなメリット・デメリットを論じています。ほかに、大きな収益源となっている放送権料の役割、米国大リーグ野球やアメリカン・フットボールなどのようにスタジアムを地方政府が負担することの是非、また、これら欧米のスポーツ・ビジネスを日本でも導入するための方策などを、さまざまなケーススタディによる実例に基づきつつ、かなり詳細に論じています。確かに、日本ではスポーツはプロによる興行という形態のビジネスというよりも、アマチュアリズムの影響が強い精神論的な部分が残されており、相撲の精神性や教育の一環としての高校野球など、スポーツのビジネス性を欧米のように明けっ広げに認めるのにまだまだ抵抗があるような気がします。ビジネスとしてのスポーツを考えるのには、大きな外圧がかかるか、あるいは、もう少し時間が必要なのかもしれません。

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次に、間野義之『奇跡の3年 2019・2020・2021 ゴールデン・スポーツイヤーズが地方を変える』(徳間書店) です。著者は早稲田大学の教授であり、専門はスポーツ科学とかスポーツ政策のようです。さらに、三菱総研の研究員が10人余り執筆協力者として名を連ねています。タイトルにある3年、すなわち、2019・2020・2012年に何があるかといえば、2019年のラグビーのワールドカップはほのかに記憶にある人もいそうな気がします。昨年2015年の英国大会では五郎丸選手などの活躍が思い出されますし、にわかラグビー・ファンになった人も少なくなかったような報道もありました。また、2020年は東京オリンピックです。これはかなり多くの、というか、ほとんどの日本人が認識しているように私は受け止めています。しかし、2021年に何があるかといえば、不勉強にして私は知りませんでした。関西ワールドマスターズゲームズ2012だそうです。そもそも、こおワールドマスターズゲームズというのを知りませんでしたが、ネットの情報によれば「ワールドマスターズゲームズは、国際マスターズゲームズ協会(IMGA)が4年ごとに主催する、30才以上の成人・中高年の一般アスリートを対象とした生涯スポーツの国際総合競技大会」ということらしいです。詳細はホームページをご覧ください。私には今日見の感じられない年配者のアスリート画像があったりします。それはさて置き、この3年をタイトルのようにゴールデン・スポーツイヤーズとして、スポーツ施設の整備に際しては、単に、これらスポーツのイベントを開催するだけでなく、その後の活用も視野に入れたレガシーとしての政策立案を提案し、そのレガシー創出のためにイベント・レバレッジをかける、というのは私には理解不能でしたが、こういったスポーツのイベントとその後の施設の活用、さらに、海外との関係強化を含めて、地方の活性化にスポーツを通じて取り組もうとする意図で本書は編集されています。いかにもコンサル的な視点で訴求力があるといえますが、レバレッジを効かせている分、コケたら惨めな結果に終わりそうな気がしないでもありません。少なくとも、すべての地方自治体に単純にそのまま応用可能な方策というのはなさそうな気もします。いかがなものでしょうか?

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次に、円城塔『シャッフル航法』(河出書房新社) です。この本と次は小説です。著者はいうまでもなく、「道化師の蝶」で芥川賞を受賞した売れっ子SF作家です。東北大学理学部出身で、博士号も持っています。東北大学の同じくらいの世代に瀬名秀明、伊坂幸太郎などの俊英がいます。先週の読書感想文でも同じ作者の『プロローグ』を取り上げています。ということで、本書は表題作のほか、「内在天文学」、「イグノラムス・イグノラビルス」、「Φ」、「つじつま」、「犀が通る」、「Beaver Weaver」、キュービック・アトラスと読ませる「(Atlas)3」、「リスを実装する」、「Printable」の10編の作品を収録する短編集です。初出については、SF専門誌またはSFアンソロジー集NOVA7編、文芸誌が2編、Kindleから1編となっています。私のような単純な頭には読みやすくて面白い短編が多かったような気がします。いくつか特記しておくと、「内在天文学」では文明の衰退した世界で夜空を見上げながら議論が交わされ、まあ、認識論なんでしょうね。「イグノラムス・イグノラビルス」の直訳は「我々は知らない。知ることはないだろう」ですから、ある種の不可知論なのかもしれません。「(Atlas)3」では自分に見える世界と他人に見える世界の間で事件が起きたりしますが、私にはもっとも印象的でした。でも、作品としては「Φ」の完成度が高い気がします。「Printable」はこの作者の原点ともいえるようなシンプルな視点が提供されます。私にとって一番不可解だったのは生まれてこない息子のことを描いた「つじつま」ですが、いつもながら、どうしてこのタイトルを著者が選択したのか判りません。なお、どうでもいいことながら、本書の奥付にある著者のプロファイルに「芥川賞受賞」の5文字が見えません。編集者の意向なのか、著者の好みなのか。何年たっても「芥川賞作家」をカンバンにしている作家もいますし、映画「Always 3丁目の夕陽」では茶川先生が芥川賞を目指しますし、小説家には大きな勲章だと思うんですが、いかなる趣旨でこうしたのか興味あります。最後に、いくつか新聞の書評を以下にピックアップしておきます。

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次に、エラリー・クイーン『スペイン岬の秘密』『中途の家』(角川文庫) です。越前新訳による国名シリーズ最終の2巻です。とはいうものの、『スペイン岬の秘密』は読み出して気づいたんですが、どうも読んだ記憶があります。しかも、最後まで通読して、この新訳の角川文庫で読んだ気がしてなりません。犯人も手口もかなり鮮明に記憶に残っています。しかしながら、ブログの記事をMTでバックアップを取って検索しましたが、読んだ記録の最期は『チャイナ蜜柑の秘密』となっていて、本書は現れませんでしたので、何かの都合によって故意に書き漏らしたのを忘却しているのか、あるいは、そもそもブログに読書感想文として書きとめておくのを忘却したんだろうと思います。また、厳密には国名シリーズではないんですが、『中途の家』はクイーンのミステリの中でも傑作とされている作品です。どちらも、主人公のクイーンが出張った出先で解決に当たる作品ですので、父親のクイーン警視はほとんど、もしくは、まったく登場の機会がありません。ジューナも右に同じです。その点は、この2人のファンには残念に受け止められる可能性があります。でも、論理の冴えは相変わらずで、実に見事に犯人を解明します。やや動機の点が弱いのは、その後の我が国における新主流派のミステリにも、ある意味で影響を及ぼしている気がしないでもありません。すなわち、殺せるチャンスのある人が殺している、という印象で、『スペイン岬の秘密』では女性を恐喝するハンサム男が殺され、『中途の家』では重婚で二重生活を送る上流階級の男が殺されますので、殺されるのは「殺される理由のある悪人」といういい方ができるかもしれません。なお、角川文庫ではないんですが、ハヤカワ・ミステリ文庫から『災厄の町』と『九尾の猫』が、同じ翻訳者の越前敏弥さんの訳で一昨年から昨年にかけて、新訳版が出版されています。国名シリーズではありませんが、探偵役はエラリーですので、特に『災厄の町』は傑作との評判も高く、私もそのうちに図書館から借りてヒマを見つけて読みたいと思っています。新刊書の読書ではありませんが、このブログの読書感想文で取り上げそうな気がします。そうしないと忘れるからです。その昔は、図書館で借りずに本を買っていた時期もあり、在チリ大使館に赴任した際には、『老人と海』が4冊ありました。これは読んだのを忘れたからというよりも、読みたいが部屋が乱雑で手近に見つからないため、ついつい倹約意識よりも読書意欲が勝って買ってしまった、ということなのだろうと思います。重複をいとわずに好きな本を読むという姿勢を大事にしたいとは思いますが、ムダを排した効率的な読書も重要だという気がします。

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最後に、朝日新聞経済部『ルポ 老人地獄』(文春新書) です。同僚エコノミストからちょうだいして読みました。統計データなしのケーススタディだけなんで、かなり暗い内容に仕上がっており、それが著者の意図なんだろうと理解しています。私はタイトルを見た瞬間は、老人があふれかえった社会で非老人≒若年層を含む中年以下の勤労世代が老人を養うために、あるいは老人の介護などに振り回されて、いわゆる「地獄を見る」という趣旨だと理解してしまったんですが、どうもビミョーに違っていました。いわゆる「老後」といわれる年代に達して、ご本人が「地獄を見る」という意味のようです。でも、繰り返しになりますが、ジャーナリストが接したケーススタディですので、統計的にマクロの把握を行ったわけではありませんから、何とでもピックアップできるんではないかという疑問は残りますし、特に、本書に集約された経済問題は老後の世代に特有な問題ではなく、世代を超えた貧困の問題として解決策が考えられるべきだと私は理解しています。我が国で医療や介護などの社会保障を論じる際に、年齢によるグループ分けがなされて、老齢世代が所得がないと見なされて、なぜか「弱者」に分類されてしまう点に私は大きな疑問、というか、恣意的な歪みを感じてしまいます。逆に、子どもが所得のある勤労世代を保護者に持つと見なされて、例えば、教育にかかる費用負担が家庭に過重にのしかかっているように思えてなりません。子どもに対する福祉が保護者、多くの場合は親の自己責任で済ませられるのに対して、一定の年齢に達した高齢者はパーソナル・ヒストリーをきれいさっぱりと清算されて、「弱者」に分類されて手厚い保護を受ける、それを世代別人口や投票率などに基づくシルバー・デモクラシーがサポートし、市場による資源配分を政府が歪める、という結果につながっているような気がします。本書でも、かつてはメディアで大いに批判された「後期高齢者」という表現が、高齢者に対する福祉ニーズを正当化する年齢の線引きとして用いられているのには、私も戸惑ってしまいました。高齢者の貧困を記事にする、あるいは、出版物にするというビジネスも、社会福祉法人の転売ほどではないにしても、かなり先行き有望なのかもしれません。最後に、木曜日2月18日付けの毎日新聞の記事へのリンクを示しておきます。子どもの貧困問題はビジネスに乗らないので、こういった意識の高い研究者にお願いするしかないのかもしれません。下の画像も同じく毎日新聞のサイトから引用しています。

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2016年2月19日 (金)

産労総合研究所による「2016年 春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」の結果やいかに?

とても旧聞に属する話題かもしれませんが、2月5日に産労総合研究所から「2016年 春季労使交渉にのぞむ経営側のスタンス調査」の結果が発表されています。いくつか結果を紹介すると、今春に賃上げを実施予定の企業は6割弱の58.9%、自社の賃上げ率の予測としては2015年と同程度が6割となっています。また、2016年の年間賞与額は、2015年と比べてほぼ同額が30.1%に上るものの、同時に、現時点ではわからないが41.1%と上回っています。さらに、非正社員の処遇見直し状況では、2015年に非正社員の「賃金を増額した」企業は53.4%に達しています。今春闘での賃上げは我が国の景気の先行きにとっても大きな影響を示すことが考えられますので、私のこのブログでもリポートからグラフを引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、リポートから 図表2 2016年の自社の予想賃上げ率 のグラフを引用すると上の通りです。賃上げを実施する予定の58.9%の企業だけを対象にした結果ですので、かなり偏りはあることと思いますが、見れば明らかな通り、前年並みという回答がもっとも多くなっています。ただし、企業規模別では1000人以上の大企業と300-999人の中堅企業と299人以下の中小企業の3階級だけなんですが、昨年2015年を上回るのは大企業よりも中小企業の方が割合が高く、逆に、下回るは中小企業よりも中堅企業、さらに、中堅企業よりも大企業で割合が高く、規模の小さな企業で人手不足が深刻なために賃上げに頼る構造になっている可能性がうかがわれます。

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次に、リポートから 図表5 企業業績が向上した場合の配分 のグラフを引用すると上の通りです。半分強の55.5%の割合で賞与に回すというスタンスで、約4社に1社の24.7%が賃上げと賞与にバランスよくというスタンスを示しています。企業業績が向上しても、賃上げにも賞与にも回さないという企業が5.5%ありますが、過剰債務などの何らかの事情があるものと勝手に推測しています。

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続いて、リポートから 図表6 2016年の年間賞与の見通し のグラフを引用すると上の通りです。現時点では不明なのが4割を超えており、何とも評価しがたい結果です。なお、この調査は昨年2015年11月に実施され、今年の年明け以降の金融市場の動揺が織り込まれておらず、上場企業等を中心に3000社に送付して146社の回答だそうですから、信頼性の点ではかなりの幅を持って見る必要があるのかもしれませんが、相変わらず、企業業績が上がっても恒常所得の毎月の賃上げに充当する企業の割合が低いように私には感じられてしまいます。さらに、年明け以降の金融市場の動揺などの不透明感を加えて、実際の春闘などではどのような賃上げ結果が得られるのでしょうか。大いに注目しています。

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2016年2月18日 (木)

赤字に戻った貿易統計から何が読み取れるか?

本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない現系列のデータで前年同月比▲12.9%減の5兆3516億円、輸入額は▲18.0%減の5兆9976億円、差し引き貿易収支は▲6459億円の赤字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易収支、1月は赤字6459億円 アジア向け輸出低調、春節も影響
財務省が18日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6459億円の赤字(前年同月は1兆1737億円の赤字)だった。円安効果が薄まったのに加え、中国の景気減速などを背景に輸出額が前年同月比12.9%減少。2015年12月(1403億円の黒字)から2カ月ぶりの貿易赤字に転じた。2月上旬からの春節(旧正月)を前に、アジア向け輸出を手控える動きも影響したという。原油安で輸入額の減少は続いたものの、補えなかった。赤字幅はQUICKがまとめた市場予想(6802億円の赤字)よりやや少なかった。
1月の輸出額の減少率(12.9%)は09年10月(23.2%)以来、6年3カ月ぶりの大きさだった。台湾向けの鉄鋼半製品や、中国向けに繊維原料となるパラキシレンなどの輸出額が減った。地域別では、中国を含むアジア向けが17.8%減少。米国、欧州連合(EU)向けの輸出額も減った。対世界の輸出数量指数は9.1%下がり、13年2月(12.8%低下)以来の下げ幅だった。アジア、米国、EU向けのいずれも輸出数量が減った。一方、前月比の季節調整値の輸出額は0.6%増えた。対ドルの為替レートは119.57円と、前年同月と比べ0.3円の円安にとどまった。
輸入額は前年同月比18.0%減の5兆9976億円だった。マイナスは13カ月連続。原油価格の下落でマレーシアの液化天然ガス(LNG)やサウジアラビアの原粗油などの輸入が減った。医薬品の輸入増が続いたEUからの輸入額は1月として過去最大だった。

なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、輸出入を通じて前年割れですから、世界経済・日本経済ともに景気に下押し圧力がかかっているのは事実で、年明け以降の金融市場の動揺も相まって、2016年は冴えない経済動向で始まったといえそうです。例えば、米国のサマーズ教授も2月15日付けの Foreign Affairs 誌に "The Age of Secular Stagnation" と題する論文を寄稿していたりします。ただし、輸出入の差額である貿易収支については、1月統計では赤字に戻った、という趣旨の報道ばかりでしたが、上のグラフに見られる通り、季節調整済みの系列では昨年2015年11月から貿易黒字に転じて、緩やかながら黒字幅を拡大しています。もちろん、国際商品市況における石油価格の下落に従って輸入額が減少しているのが大きな要因です。他方、輸出が1月統計では冴えない結果に終わりましたので、月曜日に公表された1次QEで10-12月期のマイナス成長に続く足元の1-3月期はプラス成長に転じるとの期待がやや後退したとの見方もあり得ますが、成長や景気は輸出もさることながら、貿易収支や経常収支の差額で効きますので、縮小均衡的な色彩はあるものの、輸出以上に輸入が減少していれば景気にはプラス、という見方も成り立ちます。

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その輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、一番上のパネルの輸出額を見ると、1月統計まで減少を続けており、特に赤い部分の積上げ棒グラフの数量の減少の寄与が大きいんですが、一番下のパネルを見ると、そろそろ、中国向け輸出は底を打つタイミングに向かっているとも考えられます。しかし、真ん中のパネルに見られる通り、先進国であるOECD加盟国の需要についてはまだ期待できそうもありません。いずれにせよ、それほど単純な構図ではありませんし、指標を読むエコノミストの見方次第でややバイアスのかかるデータではないかと受け止めています。

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2016年2月17日 (水)

本日公表の機械受注は先行き設備投資の増加を示唆しているか?

本日、内閣府から12月の機械受注が公表されています。船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て前月比+4.2%増の8066億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、12月は前月比4.2%増 金融など非製造業がけん引
内閣府が17日発表した機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の2015年12月の受注額(季節調整値)は前月比4.2%増の8066億円だった。同年11月に14.4%減と大きく落ち込んだ反動が出て、2カ月ぶりにプラスとなった。製造業(3.4%減)が2カ月連続で減る一方、非製造業が8.5%伸びた。金融業・保険業や通信業から通信機や電子計算機の受注が増えた。機械受注の基調判断は前月と同じ「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
内閣府は3カ月ごとに、調査対象企業に受注額見通しを聞いている。
16年1-3月期の受注額は前期比8.6%増になる見通しで、四半期の伸び率の見通しとしては過去2番目となる。製造業は12.0%増、非製造業は5.5%増の見込みとなった。バスなどを含む道路車両や鉄道車両、原動機などの機種が伸びるとみている。
ただ内閣府は「製造業をここまで大きく押し上げるような背景は見当たりにくい」と説明。企業の見込み額を集計し、過去3四半期の達成率を計算に入れて見通しを出すため、製造業は4-6月期の達成率が記録的な高さだった影響も含まれているという。内閣府の見通しを達成するには、1月以降の単月の伸び率で前月比5.6%以上が必要になる。
15年10-12月期実績は前期比4.3%増の2兆4842億円となり、当初の内閣府見通し(2.9%増)を上回った。運輸業・郵便業や通信業といった非製造業がけん引した。当初見通しをどの程度実現したかを示す達成率は103.3%となり、7-9月期から上昇した。
15年暦年の受注額(船舶・電力除く民需)は前年比4.1%増の10兆891億円だった。08年以来、7年ぶりに10兆円を超えた。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。さすがに、景気敏感指標ですので、暦年統計への注目度はかなり低いようです。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスはコア機械受注の季節調整済みの前月比で+5.2%増でしたので、やや物足りない気がしないでもないものの、ほぼ市場に織り込み済みのレベルで着地したようです。また、コア機械受注の四半期データで見て、10-12月期は前期比+4.3%増で、うち製造業が+0.5%増、また、船舶・電力を除く非製造業は+6.9%増と、非製造業主導で増加を示し、さらに、先行き今年2016年1-3月期の見通しも前期比+8.6%増、うち製造業が+12.0%増、非製造業は+5.5%増と、今度は製造業主導の増加が見込まれています。ただし、四半期別では前期比で▲10.0%減を示した7-9月期からのリバウンドの要素が強く、上のグラフを見てもコア機械受注はようやく底入れしつつある段階だと私は受け止めています。1-3月期のコア機械受注の増加見通しをもって、日銀短観などで示されている設備投資計画に追いつくレベルにはまだまだ達しない、すなわち、ハードデータで見る設備投資とソフトデータで示された設備マインドにはまだ不整合が残っている、と考えるべきです。しかしながら、現在の人手不足は賃上げや正規職員増などの雇用における質の改善とともに、生産要素間の代替に伴う設備投資増も喚起する可能性が高く、短期の足元の動きはともかく、方向としては設備投資が増加するトレンドを示すものと見込まれます。

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四半期データが利用可能になりましたので、上のグラフの通り、コア機械受注の達成率をプロットしてみました。景気局面の転換に当たる90%ラインの上で推移しています。このところ、四半期の先行き見通しがやや上方バイアスを示し、実績は見通しから下振れする傾向がありましたが、10-12月期は達成率100%を超え、実績が見通しを上回る結果となりました。ただ、1-3月期のコア機械受注見通し前期比+8.6%増が超過達成されて達成率100%を超えるかどうかは、現時点では何ともいえません。ただし、コア機械受注が増加の方向にあることは確認できると受け止めています。もっとも、年明け以降の金融市場の動揺などに現れている外部環境の変化が設備投資マインドを冷えさせる可能性については考慮する必要があるかもしれません。

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2016年2月16日 (火)

楽天リサーチ調査による「バレンタインデーにチョコレートを欲しくない理由」やいかに?

一昨日2月14日は世間ではバレンタインデーでした。ということで、いくつかバレンタインに関するアンケート調査の結果が明らかにされていますが、とても旧聞に属する話題ながら、2月8日に楽天リサーチから「バレンタインデーに関する調査」結果が発表されていますので取り上げたいと思います。というのは、いくつかある中で、楽天リサーチの結果は、「バレンタインデーにチョコレートを欲しくない理由」を調査しているからです。その結果のグラフは以下の通りです。楽天リサーチのサイトから引用しています。

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実は、この問いの前段があって、今年のバレンタインデーにチョコレートは欲しいかどうかを問うています。「はい」の回答が44.6%、「いいえ」が42.1%とかなり拮抗しています。残りの13.3%は「わからない」です。ただし、「はい」は明らかに20代から60代に向かって比率を低下させている一方で、「いいえ」は逆に60代でもっとも多くなっています。という前提で、上のグラフはとても正直にバレンタインデーにチョコレートを欲しくない男性の気持ちを表していると受け止めています。まったく、私もこの楽天リサーチの調査結果の通りです。
バレンタインで「チョコを欲しくない」というと、酒飲みだからとか、甘いものが好きではない、といわれる場合もあるんですが、私は余り酒は飲まず、甘いもの、特にチョコは大好きです。でも、その昔に「義理チョコ」と称された慣習は、そろそろ廃れつつあるようで、今年の場合、バレンタインデーが日曜日だったから、という理由もあるのかもしれませんが、私のオフィスでは「義理チョコ」は配られませんでした。役所でも年賀状のやり取りがほぼなくなって久しいんですが、バレンタインデーの「義理チョコ」とホワイトデーの「お返し」も早く廃れて欲しい気がします。

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2016年2月15日 (月)

2015年10-12月期1次QEは前期比年率▲1.4%のマイナス成長!

本日、内閣府から昨年2015年10-12月期のGDP統計が公表されています。エコノミストの業界で1次QEと呼ばれているのは広く知られた通りです。季節調整済みの系列の前期比成長率で▲0.4%、前期比年率で▲1.4%のマイナス成長を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10-12月実質GDP、年率1.4%減 2期ぶりマイナス
消費・住宅投資が低迷

内閣府が15日発表した2015年10-12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.4%減、年率換算では1.4%減だった。15年7-9月期(年率換算で1.3%増)から下振れし、2四半期ぶりのマイナス成長に転じた。個人消費や住宅投資など国内需要が低迷した。
QUICKが12日時点で集計した民間予測の中央値は前期比0.3%減、年率で1.3%減だった。
生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.3%減、年率では1.2%減だった。名目でも2四半期ぶりのマイナスとなった。
実質GDPの内訳は、内需が0.5%分のマイナス寄与、外需は0.1%分のプラス寄与だった。
項目別にみると、個人消費は0.8%減と、2四半期ぶりのマイナスだった。前四半期(0.4%増)から減少に転じた。暖冬で冬物衣料などの売れ行きが鈍かった。円安による食料品の値上げなどで消費者の節約志向が根強く、実質賃金の伸び悩みも低迷の一因となった。価格上昇を背景に住宅投資は1.2%減で4四半期ぶりマイナス、過年度の補正予算の効果が一巡した公共投資は2.7%減で2四半期連続のマイナスだった。
一方、設備投資は1.4%増と2四半期連続のプラスとなった。底堅い企業収益から更新需要などがみられた。企業が手元に抱える在庫の増減を示す民間在庫の寄与度は、0.1%のマイナスだった。
輸出は0.9%減、輸入は1.4%減だった。輸出は減少したが、原油安を受けて輸入量が減少し、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスを確保した。GDPで個人消費ではなく輸出に計上されるインバウンド(訪日客)需要は輸出を下支えした。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス1.5%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.2%下落した。
2015年度の実質成長率が内閣府の試算(1.2%程度)を達成するには、16年1-3月期で前期比年率8.9%程度の伸びが必要になるという。
同時に発表した15年暦年のGDPは実質で前年比0.4%増、生活実感に近い名目で2.5%増となった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2014/10-122015/1-32015/4-62014/7-92015/10-12
国内総生産GDP+0.6+1.0▲0.3+0.3▲0.4
民間消費+0.6+0.2▲0.8+0.4▲0.8
民間住宅▲0.4+2.1+2.3+1.6▲1.2
民間設備▲0.0+2.8▲1.2+0.7+1.4
民間在庫 *(▲0.2)(+0.5)(+0.3)(▲0.2)(▲0.1)
公的需要+0.2▲0.4+0.9▲0.2▲0.1
内需寄与度 *(+0.3)(+1.0)(▲0.0)(+0.1)(▲0.5)
外需寄与度 *(+0.3)(▲0.0)(▲0.3)(+0.2)(+0.1)
輸出+3.2+2.1▲4.6+2.6▲0.9
輸入+1.1+1.9▲2.6+1.3▲1.4
国内総所得 (GDI)▲0.5+0.4+2.2+0.2▲0.3
国民総所得 (GNI)+0.7+2.0+0.1+0.4▲0.3
名目GDP+1.0+1.9▲0.0+0.6▲0.3
雇用者報酬 (実質)+0.1+0.8▲0.1+0.7+0.2
GDPデフレータ+2.3+3.3+1.5+1.8+1.5
内需デフレータ+2.1+1.4+0.0+0.0▲0.2

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2015年10-12月期の最新データでは、前期比成長率がマイナスに転じ、特に、赤い消費のマイナス寄与が大きい一方で、水色の設備投資と黒の外需がプラス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは年率▲1.3%でしたから、ほぼジャストミートしたと私は受け止めています。ですから、市場の反応は対GDP統計に関してはほぼインパクトはなかったのではないかと私は想像しています。主たるマイナス成長要因は消費であり、暖冬などのイレギュラーな天候要因による衣料品や暖房器具などの季節商品の売れ行き不振と考えられます。設備投資は7-9月期に続いて2四半期連続で前期比プラスとなりましたが、まだ、日銀短観などで示された設備投資計画とは差があると受け止めています。輸出入については、輸出・輸入とも減少したため、外需の寄与度はほぼゼロなんですが、輸入の減少の方が大きくて寄与度はプラスとなっています。先行きについては、10-12月期の経済の姿から見て、消費がどこまで回復するかに依存します。多くのエコノミストの基本的な見方としては、人手不足に加えて政府の音頭取りもあって、賃金が企業収益に合わせた形で緩やかに上昇し、所得要因の改善から消費が持ち直す方向であり、このまま本格的な景気後退に陥る可能性は小さいと私は予想しています。おそらく、足元の1-3月期は小幅のプラス成長に戻ると考えられますが、それは今年がうるう年である効果も含んでのことであり、賃上げによる所得増加の効果が実感できるまでには少し時間がかかる可能性があります。年明け以降の金融市場の動揺の影響で、家計の所得とともに企業の業績が不透明感を増しており、先行き見通しとともに設備投資の方向感も日銀短観などに示された設備投資計画から異なってくる可能性も否定できません。

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最後に、本邦初公開のグラフで、インバウンド消費、すなわち、GDP統計では消費ではなく輸出に計上されている訪日観光客による「非居住者家計の国内での直接購入」のグラフは上の通りです。物価上昇の影響を除去した実質の実額であり、季節調整済みの年率の額です。2013年ころまでは年1兆円のペースだったんですが、今では2015年10-12月期には年3兆円のペースを越えています。季節調整済みの系列で見て2015年の各四半期の前期比伸び率は、1-3月期+16.7%、4-6月期+6.7%、7-9月期+8.3%、10-12月期+10.1%を記録しています。「爆買い」と称される実態が統計的に確認できると思います。

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2016年2月14日 (日)

週末ジャズは片倉真由子 The Echoes of Three を聞く!

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今週の音楽鑑賞のブログで取り上げるアルバムは、片倉真由子 The Echoes of Three です。片倉真由子のサード・アルバムであり、彼女のピアノを中心とするトリオの演奏で、ベースは中村恭士、ドラムはカーマン・イントーレのサポートですが、ジュリアード音楽院時代の同窓生だそうです。まず、アルバムの曲の構成は以下の通りです。4曲目が「同窓生のトリオ」というカンジを出しているのかもしれません。

  1. Echo
  2. Into Somewhere
  3. A Dancer's Melancholy
  4. At the Studio (Reunion)
  5. Directions
  6. Serene
  7. Pinocchio
  8. You Know I Care
  9. A Barfly's Hope

アルバムに収録された上の9曲は基本的に片倉真由子のオリジナルが多くを占め6曲に上るんですが、6曲目の Serene はエリック・ドルフィーですし、7曲目のウェイン・ショーターによる Pinocchio と8曲目のデューク・ピアソンによる You Know I Care はかなり有名な曲ですから、私は別のアルバムでも聞いたことがあります。曲の構成はとてもよくて、演奏はかなり息の合ったところを見せています。特に、このピアニストは時として女性とは思えないほど攻撃的な弾き方をするんですが、このアルバムではそのいい面が出ているように思います。私はセカンド・アルバムの Faith をウォークマンに入れて聞いており、このアルバムもウォークマンに入れるつもりをしています。どうでもいいことながら、日本人の女性ピアニストとしては、実力的に文句なしの上原ひろみを別にすれば、私自身は最近の山中千尋や木住野佳子などよりも片倉真由子の方を評価していたりします。というのは、昨年2015年10月18日付けの音楽鑑賞のブログで取り上げた木住野佳子の Anthology はウォークマンに入れていませんし、実は、一昨年2014年11月16日付けで取り上げた山中千尋の Somethin' Blue を削除して、このアルバムを入れようとしているからです。どうでもいいことながら、寺村容子との比較はビミョーです。秋吉敏子は上原ひろみとは別の意味で別格です。
なお、上原ひろみの新しいアルバム Spark がリリースされます。ひょっとしたら、もう出ているのかもしれません。早く聞いて、このブログでも取り上げたいと思います。

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2016年2月13日 (土)

今週の読書はウォーラーステインの『知の不確実性』ほか6冊!

今週の読書は、社会学のウォーラーステインの『知の不確実性』や経済学の学術書である『新々貿易理論とは何か』をはじめ、芥川賞作家の円城塔の小説まで計6冊、以下の通りです。

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まず、イマニュエル・ウォーラーステイン『知の不確実性』(藤原書店) です。原書は2004年刊行で、原題はそのままです。本書の邦訳は初めてらしいです。いうまでもなく、著者は現代社会学の大家であり、「世界システム論」や「ジオカルチュア論」の提唱者としても有名です。米国人でありながら、歴史学の方法論としてはマルクス主義の影響をかなり受けているように私は感じています。ということで、本書では、物理学における不確定性原理のように、社会科学の中でもコアとなる経済学、政治学、社会学において確実性は終焉したと論じ、特に、時間との関係で不確定な未来の予想を論じています。アインシュタインのように「神はサイコロを振らない」というのは誤りであり、自然科学も含めて確率論的に展開する世界を解明することが科学に求められているわけで、その意味で、確実性は終わって、確率的に確定しない世界が目の前に広がっている、という印象かもしれません。その上で、p.217以降で社会科学の将来について3つのシナリオを示し、第1のシナリオとして、社会科学が自らの重さに耐えかねて崩壊するその日までその組織を繕いつづける現在の私たちが歩んでいる道、第2に、社会科学者自身にかわって社会科学を再組織する「機械じかけの神」の介入による再生、そして、第3の道として、史的社会科学の可能性を展開しています。第3の視シナリオから、個別科学(ディシプリン)について論じられ、より具体的な方法とは、「社会科学者自身が先頭に立って社会科学の再統一と再分割を行い、21世紀において知が意義ある進歩を遂げられるような、もっと知的な分業体制をつくりだす」ことと定義しています。歴史学の活用という点では、従来からのウォーラーステイン教授の方法論と整合的ですし、ブローデル教授の影響の大きさが伺える論理展開といえるかもしれません。でもさすがに、5年前の2011年に4部作として結実している『近代世界システム』と本書を比較すると、スケールが大きく違うのは無理ありません。ただし、本書は特に大学のあり方とも関連して論じられており、文部科学省発の「国立大学の文系学部再編」議論がアジェンダに上っている昨今の我が国で、ひょっとしたら、話題になりそうな気がしないでもありません。どうでもいいことんがら、誰にも貸し出されることなく、日比谷図書館の新刊の棚に置いてありましたので、私が借りて読んでみました。我が家の上の倅は、一時、社会学を大学で勉強したいといっていたんですが、私には経済学よりも社会学の方が難しく感じられた1冊でした。

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次に、田中鮎夢『新々貿易理論とは何か』(ミネルヴァ書房) です。著者は関西方面の大学に勤務する研究者ですが、最近まで長らく経済産業研究所(RIETI)の研究員をしていて、本書はそこでの「国際貿易と貿易政策研究メモ」が基になっています。上の表紙の画像にも右上に「RIETI」の文字が見えますから、何らかの出版補助のようなものが出ているのかもしれません。本書には新たな定量分析は収録されておらず、既存研究のサーベイ論文といえますが、ほぼ学術論文と考えるべきであり、出版社の方でも200ページに満たない本に税抜きで4000円の定価をつけています。やっぱり、経済学も難しいと感じさせられる1冊です。ということで、経済学における貿易論については、リカードの比較生産費説に基づき、ヘクシャー・オリーン定理などを含む古典派的な貿易理論に始まり、さらに、輸出のための初期コストを考えるという意味での規模の経済を導入し、消費者の多様性選好を踏まえて、多数の企業が差別化された製品を供給して産業内貿易を説明しうる新貿易理論が支配的でしたし、クルーグマン教授などは新貿易論でノーベル経済学賞を授賞したりしたわけですが、その後のメリッツ教授などをはじめとするハーバード大学グループなどの貢献によるメリッツ・モデルを本書では「新々貿易理論」と呼んで、主要な文献をサーベイしてコンパクトに紹介しています。すなわち、新々貿易理論とは、すべての企業が輸出するわけではないという点に着目し、輸出企業は生産性の高いごく一部の企業であり、さらに、貿易から直接投資(FDI)まで視野を広げて、FDIを行う企業はさらに生産性が高くてさらに限られた企業だけである、というポイントを理論的かつ実証的に解明しようと試みています。そして、この新々貿易理論によれば、従来の交易利得だけでなく、貿易により輸出やFDIを行う生産性の高い企業に資源が再配分される経済厚生の改善効果も見込める、と結論されています。加えて、本書では入門レベルのプログラムであるSTATAをはじめとする定量分析の方法論まで展開しています。また、貿易理論のメリッツ・モデルから離れて、TPPの経済効果試算などでも用いられているCGEモデルについても解説を加えています。ただし、そこは学術書ですから、一般のビジネスマンに容易に理解できるレベルではないことは覚悟しておくべきです。でも、ここまで広範なサーベイをしてくれているんですから、この分野の研究者は手元に置きたくなる誘因は大いにありそうな気がします。最後に、このメリッツ・モデルの基礎となった一般均衡型の貿易理論の原著論文が、何と、その著者であるメリッツ教授のハーバード大学のサイトにアップされていますので、以下にリンクだけ張っておきたいと思います。

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次に、イアン・ブレマー『ジオエコノミクスの世紀』『スーパーパワー』(日本経済新聞出版社) です。『ジオエコノミクスの世紀』の方は、これも近くの区立図書館で新刊棚に置かれて貸し出しもされていませんでしたので、私が興味本位に借りてみましたが、ボスコン日本法人社長との共著の扱いのようで、第3章さえ読めばそれでいいような気がします。日本のビジネス界という狭い対象しか頭にない人と、世界の国際関係や外交史の専門家とでは話がかみ合っていません。ですから、『スーパーパワー』の方に著者自身の勘定として「10年で5冊」出版した旨の記述がありますが、どうも、『ジオエコノミクスの世紀』は数に入っていないようです。ということで、基本的に、国際関係の中で「スーパーパワー」=列強たる米国の思考方法と行動様式について問うているのが本書『スーパーパワー』です。もちろん、その背景には冷戦の終了によりソ連との比較対比で米国の方がまだマシ、という議論が成り立ちにくくなり、他方で21世紀に入って中国がソ連的なイデオロギーなしで軍事的にも経済的にも台頭を始め、米国の「スーパーパワー」としての相対的な地位の低下が大きくなり始めている現状が背景となっています。しかしながら、著者は従来から「Gゼロ」の自説を展開しており、米中の「G2」とは見ていないことは頭に置いて読み進む必要があります。なお、この著者による『「Gゼロ」後の世界』は私も読んでいて、2012年11月1日付けの経済評論のブログで取り上げてあります。『スーパーパワー』で著者は、米国のあり方として、「独立するアメリカ」と「マネーボール・アメリカ」と「必要不可欠なアメリカ」の3つの選択肢を提示し、それぞれの長所と短所を、日本にも大きな影響を与えかねない中国の脅威、エネルギー、安全保障、TPP、サイバー攻撃など、地政学的リスクの観点から解き明かしています。第1の「独立するアメリカ」はかつてのモンロー主義に近くて、国益を優先し、安全と自由を確保する国内回帰の道であり、第2の「マネーボール・アメリカ」はコスと・パフォーマンスを外交の視点に入れつつ、米国の評価を上げ、国益も守る道であり、第3の「必要不可欠なアメリカ」は多くの意気盛んな政治家や学者に人気があり、世界を主導する米国のあるべき姿を提示していますが、何と、とても意外なことに、著者は第1の「独立するアメリカ」=国内回帰を支持しています。専門外の私にはなかなかむつかしい議論なんですが、この先の世界経済を見る上で参考になるのかもしれません。

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次に、本郷恵子『怪しいものたちの中世』(角川選書) です。著者は東大史料編纂所の中世史研究者であり、何冊か一般向けの著書もあるようですが、私は初めてでした。時代区分としては平安後期から鎌倉中期くらいで、著者の専門である『古今著聞集』からのトピックが多かったような気がします。現在のように、印刷技術やそれを基礎とする出版物はなく、電波で届くラジオやテレビも、もちろん、インターネットもなく、情報があふれてその取捨選択に苦労させられている状況とは異なり、情報が不十分な上に中央政府も地方政府もそれほど親切ではなく、というか、民衆をほったらかしにしていた時代にあって、流言飛語のたぐいであっても真実というよりも、誰かにとって都合のいい「怪しい情報」が飛び交って、一般大衆が何か信じられるものを探し求めていたわけですから、「怪しい情報」を流す「怪しいもの」もいっぱいいたと推察されます。それが本書の章立てでは、祈祷師や占い師、芸能者、ばくち打ちや山伏など、そのものズバリの怪しいものから、勧進聖、皇室に連なるご落胤などなどが取り上げられ、詐欺師まがいのホンモノの怪しいものについても、決して現代的な意味での「だましの手口」的な紹介ではなく、作者の中世に対する深い理解と愛情からの本書では、民衆の安心にもつながる社会安定化装置的な役割も同時に触れられています。もちろん、中央・地方政府の脆弱な中世においては勧進聖は寺社の建設などだけではなく、橋を架けたりトンネルを掘ったり道路を切り開いたりするという意味で、公共事業の一翼を担っていたと受け止めても大きな間違いではないかもしれません。その中でも、民衆の動揺を鎮め社会を安定化させるため、広い意味での宗教の果たした役割は特筆されるべきでしょう。本書の対象とする中世ころから、いわゆる国家鎮護のための仏教だけでなく、我が家の信奉する浄土真宗や浄土宗系の念仏や日蓮宗系の題目が民衆に広まったのも、こういった中世の時代背景を考え合わせると、理由のあることだという気がします。

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最後に、円城塔『プロローグ』(文藝春秋) です。まず、昨年2015年11月21日付けの読書感想文で同じ作者の『エピローグ』を取り上げた際に、「タイトルをどういう趣旨でこうしたのか、とても興味あります」と書いたところ、ここにエピローグに対応するプロローグがあったのだと、不勉強にして初めて知りました。ということで、この作品は『エピローグ』と対になっていますが、なぜか、早川書房刊の『エピローグ』の方が先に出版されて、私もそれを先に読み、文藝春秋刊の本書が後に出ています。何度か本文中で本書は「私小説」であるとの記述があり、確かに、部分的にはフィクションの小説というよりもノンフィクションのエッセイに近い印象を受けるかのようなパートも散見されます。もっといえば、作中の語り手が、あたかも人工知能(AI)のように小説を生成するプロセスを、場所を換え、新しい漢字を導入しつつ、描いたノンフィクションのエッセイような小説です。小説を生成するプロセスの小説というメタ表現で失礼します。対になる『エピローグ』よりは判りやすく、私のような単純な頭でもスンナリと入って来て、それなりにリラックスした雰囲気があって、淡々とストーリーが進みます。ただ、私はプログラム言語はBASICくらいしか理解しませんので、ソフトウェア開発的なエピソードについては理解不能な部分も少なくありませんでしたし、そういう読者は結構いそうな気もします。最後に、出版業界の事情に疎い私は『エピローグ』⇒『プロローグ』の順で読んでしまいましたが、逆の順で読めば『エピローグ』の読書感想文というか、読み方や感じ方が変わりそうな気がしないでもありません。誠に残念ながら、時間をさかのぼることが出来ませんので、私にはもうムリですが、もし、その順番で読んだ読書子がいれば、ご意見を知りたいように思います。

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2016年2月12日 (金)

2015年10-12月期1次QE予想はマイナス成長か?

来週月曜日の1月15日に今年2015年10-12月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。必要な経済指標がほぼ利用可能となり、シンクタンクや金融機関などから1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、先行きの今年1-3月期以降を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは、日本総研、大和総研、みずほ総研など、決して少なくなく、それらについてはヘッドラインを気持ち長めに引用してあります。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研▲0.3%
(▲1.4%)
2016年1-3月期を展望すると、中国経済の減速懸念や米利上げを巡る不透明感から、年初以降円高・株安が進行し、景気下振れリスクが高まる状況。もっとも、①良好な企業の収益環境、②高水準の収益と人手不足を背景とする所得雇用環境の緩やかな改善傾向、が続くなか、金融面での世界的な協調対応などを通じて金融市場が安定化すれば、景気が持続的に落ち込む事態は回避される見込み。ただし、回復ペースは緩やかなものにとどまる公算。
大和総研▲0.3%
(▲1.4%)
先行きの日本経済は基調として緩やかな拡大傾向へ復する公算であるが、海外経済の停滞・金融市場の混乱を起因とした下方リスクの高まりには警戒が必要である。
個人消費は緩やかながら拡大基調へ復すると見込んでいる。エネルギー価格の下落を通じた実質所得の押し上げ効果が続くことに加え、ベースアップ等による名目賃金の上昇が支えになるとみている。さらに、足下で消費者マインドが改善傾向にあることから、これまで手控えられてきた選択的支出への増加が期待できる。加えて、短期的な要因として、①1月の急激な気温の低下に伴う季節商材の動きの活性化、②うるう年によって1-3月期の対象日数が一日増加すること、といった要因が1-3月期の個人消費を押し上げる方向へ作用する。
みずほ総研▲0.4%
(▲1.5%)
2016年1-3月期以降の景気は、緩やかながらも回復基調に復するとみている。引き続き天候要因による下振れには警戒が必要だが、人手不足の高まりなどを背景に雇用者所得が堅調に推移していることから、個人消費は持ち直していくと予想している。設備投資も、企業収益が堅調な中で積極的な投資計画が維持されていることから、回復に転じると見込まれる。輸出については、年明け後の新型スマートフォン減産などによる下押しが見込まれるものの、欧米を中心とした海外経済の回復が下支えとなるだろう。ただし、年明け直後に金融市場が激しく変動したことから、円高・株安による輸出・個人消費の下押し、不確実性の高まりを受けた設備投資の先送りなどのリスクには注意が必要だ。
ニッセイ基礎研▲0.6%
(▲2.2%)
日本経済は消費税率引き上げの影響が和らぐ中、2014年度末にかけて持ち直していたが、2015年度に入ってからは一進一退となっており、2015年10-12月期の実質GDPは2014年度末(2015年1-3月期)を下回ることが予想される。日本経済は消費増税から2年近く経っても底離れできずにいる。
第一生命経済研▲0.7%
(▲2.8%)
このように、15年10-12月期は大幅マイナス成長が予想され、足元の景気が厳しい状況にあることを再確認させる結果になるだろう。個人消費や輸出、設備投資といった主要な需要項目がそろって低調に推移しており、景気は牽引役不在の状況にある。1-3月期についてもこの牽引役不在の状況が急に解消されるとは見込みがたく、目立った回復は見込めないだろう。景気に回復感が出るにはもうしばらく時間がかかるとみられる。
伊藤忠経済研▲0.2%
(▲0.8%)
原油相場の下落と中国経済の停滞が懸念材料であるが、前者は不確定ながら協調減産の可能性を受けて下げ止まりの兆しを見せている。中国経済は1月の製造業PMI指数が悪化するなど未だ出口は見えないものの、日本経済の底割れリスクは低下しつつあると言えよう。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.2%
(+0.7%)
15年10-12月期の実質GDP成長率を前期比年率0.7%と予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.5%
(▲2.1%)
2015年10-12月期の実質GDP成長率は、前期比-0.5%(年率換算-2.1%)とマイナス成長に転じたと見込まれる。ほとんどの需要項目で前期比マイナスとなっており、景気の下振れリスクが高まっていることを示す結果となろう。
三菱総研▲0.2%
(▲0.6%)
2015年10-12月期の実質GDPは、季節調整済前期比▲0.2%(年率▲0.6%)と予測する。消費を中心とする内需の落ち込みを背景に、再びマイナス成長となる見込み。

ということで、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所を除いて、軒並みマイナス成長を予想している中、私自身は、前期比年率成長率を丸めて▲1%前後のマイナス成長ではないかと考えており、その意味で、仕上がりの数字としては、日本総研、大和総研、伊藤忠経済研などがいいセン行っているんではないかという気がします。年率で▲2%を超える可能性もなくはないような気がしますが、その場合は在庫のマイナスが大きい、逆から見て、在庫調整が進む、ということでしょうから、決して悪くはないような気もします。例えば、上のテーブルの中では、第一生命経済研が前期比▲0.7%で前期比年率▲2.8%の大きなマイナス成長を予測しているんですが、前期比成長率の在庫の寄与度は▲0.3%とほぼ半分近くを占めます。日本総研の予測でも前期比▲0.3%のマイナスのうち、在庫の寄与が▲0.2%を占めます。その意味で、前期比年率▲2.2%のマイナス成長で、前期比▲0.6%のうち在庫の寄与が▲0.2%しかないニッセイ基礎研の予想は他の需要項目が弱過ぎるような気がしてなりません。ただし、ニッセイ基礎研も含めて、外需は押しなべてプラスの寄与度を予想されています。なお、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の予想がプラス成長となっているのは、ひとえに設備投資が強いと見ているからです。確かに、日銀短観などに示された設備投資計画が実現されるには、そろそろ設備投資が出始めないと帳尻が合わない気もします。もちろん、逆の目が出て、設備投資計画が最終的に下方修正される可能性も十分あり得ます。ヘッドラインで拾った1-3月期以降の見通しについては意見が分かれており、日本総研、大和総研、みずほ総研、伊藤忠経済研などでは、基本は緩やかな回復基調が続くと考えているものの、金融市場の混乱の影響も無視できないわけで、ニッセイ基礎研や第一生命経済研などのように先行きの回復感の遅延を強調するエコノミストも多そうな気がしています。
最後に、下のグラフは、私の実感に近いということで、日本総研のリポートから引用しています。

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2016年2月11日 (木)

今年のサクラの開花は平年並みか?

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とても旧聞に属する話題のような気がしますが、1週間あまり前の2月3日に気象協会から今年2016年桜開花予想が発表されています。今年第1回めの予想です。気象協会のサイトから引用した上の画像に見られる通り、東京都心の開花は平年並みの3月26日ころと予想されています。なお、昨年は3月23日だったそうです。
昨年段階では今冬は暖冬との長期予報だったんですが、1月末から寒波到来でとても寒くなり、東京都心でも雪が降りました。明日からこの週末は気温が上がるといわれているものの、今日のような寒い日には、春の到来やサクラの開花が待ち遠しいところです。

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2016年2月10日 (水)

企業物価上昇率は下落幅を縮小させつつも大幅マイナスが続く!

本日、日銀から1月の企業物価指数(PPI)が公表されています国内物価のヘッドライン上昇率は前年同月比で▲3.1%と、前月の▲3.5%からマイナス幅を縮小させているものの、まだまだ大幅なマイナスが続いています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の企業物価指数、前年比3.1%下落 前月比は8カ月連続下落
日銀が10日発表した1月の国内企業物価指数(2010年=100)は100.1で、前年同月比3.1%下落した。原油価格が一段安となったことが波及し、10カ月連続で前年割れとなった。市場予想の中心は2.8%下落だった。前月比では0.9%下落し、8カ月連続で前の月を下回った。
前年比での下落幅は前の月(確報値で3.5%下落)からやや縮小した。前月比での下落要因の内訳を見ると、寄与度が最も大きかったのは石油・石炭製品だった。原油価格下落の影響が出た。国際市況の低迷を背景に、化学製品や鉄鋼、非鉄金属も下落した。
足元の原油価格下落の影響は時間差で電力料金などに波及する。このため日銀調査統計局は、物価には当面下押し圧力がかかると見ている。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち、前年同月比で上昇したのは277品目、下落は427品目となった。下落品目と上昇品目の差は150品目で、前の月の116品目から拡大した。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の、下のパネルは需要段階別の、それぞれの上昇率をプロットしています。いずれも前年同月比上昇率です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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日銀からの公表資料では前月比で下落した主要な類別・品目が明らかにされており、国内企業物価では前月比▲0.9%下落のうち、ガソリン、軽油、C重油などの石油・石炭製品だけで▲0.48%の寄与度があります。また、契約通貨ベースの輸入物価の前月比下落率▲3.0%のうち、原油、液化天然ガス、原料炭などの石油・石炭・天然ガスだけで▲2.08%の寄与となっています。季節調整済みの系列ではないので、確定的なことはいえないかもしれませんが、もう、何度も言い古された表現ながら、国際商品市況における石油価格の下落に伴う物価下落がまだ続いており、加えて、国際商品市況では石油だけでなく、化学製品や鉄鋼、非鉄金属も下落していることから、取引される財のうち、モノで構成される国内企業物価が大きく下落し、サービスで構成されるサービス物価の上昇率は国際商品市況の影響を受けつつも、国内労働市場における人手不足に起因する賃金上昇のインパクトの方が大きく、最近時点までプラスを維持しているのとは対照的です。
他方、国際商品市況の下落の大きな原因となった中国などの新興国経済の低迷のゆくえが気にかかるところ、国内企業物価のうちの非鉄金属の前年同月比の下落幅が12月の▲12.6%から1月には▲13.8%になったことなどをもって中国経済の先行きのさらなる低迷を占う意見もあって、まだまだ先が長い話だという気もしますが、上の企業物価上昇率のグラフでも、国内物価の前年同月比上昇率で見て昨年2015年9月の▲4.0%の下落から徐々に下落幅を縮小させつつあるのも事実です。もちろん、最近時点での金融市場の動揺から円高が進んでいて、日銀のインフレ目標達成へのマイナス要因も見られますが、マイナス金利導入による追加緩和も実行され、時期は遅れるものの、日銀のインフレ目標に向かった方向感としては評価すべきではないか、と私は受け止めています。マイナス金利を含めて、日銀の異次元緩和に対する批判は根強いものの、逆から見て、これだけ強力な金融緩和をしなければ物価が上昇しないような経済状況を作り出し、そういった期待形成をしてしまった黒田総裁より前の日銀の金融政策の「罪と罰」も同時に問われるべきではないでしょうか?

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2016年2月 9日 (火)

世銀「世界開発報告2016」World Development Report 2016 の infographic!

私がボケボケしている間に、先月、世銀から今年の「世界開発報告2016: デジタル化がもたらす恩恵」World Development Report 2016: Digital Dividends が公表されています。もちろん、全文リポートもpdfでダウンロードできます。
末端会員ながら国際開発学会に所属し、開発経済学を専門分野のひとつとしているエコノミストとしては、早々に取り上げておくべき話題なんですが、毎年のように遅れてしまいます。今夜は帰宅が遅くなりましたので infographic だけをお示しして、お茶を濁しておきます。画像にリンクが貼ってあり、クリックすると引用元が別タブで開くようになっています。

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上の画像は Behind the Cover とタイトルが付けられている通り、リポートの表紙の画像を使っています。また、下の画像は From Digital Divides to Digital Dividends と名付けられており、まさに、少し前までデジタル・ディバイドといわれていた「デジタル化の格差」が、今では「デジタル化の配当」になっているのがデータなどで解き明かされています。どちらも少しだけ縮小をかけてあります。字が潰れていたりするわけではないと思いますが、少し見づらいかもしれません。悪しからず。

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2016年2月 8日 (月)

本日公表の景気ウオッチャーと毎月勤労統計と経常収支から何が読み取れるか?

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、厚生労働省から12月の毎月勤労統計が、また、財務省から12月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーのうちの現状判断DIは前月から▲2.1ポイント低下して46.6を示し、毎月勤労統計のうちの現金給与総額の前年同月比は+0.1%上昇し、経常収支は季節調整していない原系列のベースで9607億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、現状判断は2.1ポイント低下 株価下落など響く
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数は前月比2.1ポイント低下の46.6となった。悪化は2カ月ぶり。飲食などを中心に家計動向が低下したほか、企業動向や雇用関連も前月から低下した。年明けからの株価下落などが影響した。季節調整値も2.0ポイント低下の48.5となり、節目の50を下回った。
調査では「年明けからの株価低迷が客の消費意欲を減退させている」(南関東の通信会社)、「中国経済の影響で輸出が伸び悩み、思ったほどの荷動きが期待できない」(北陸の輸送業者)といった声が聞かれた。内閣府は基調判断を「中国経済に関わる動向の影響などがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」に据え置いた。
2-3カ月後について聞いた先行き判断指数は1.3ポイント上昇の49.5だった。改善は4カ月ぶり。ただ、季節調整値では1.7ポイント低下の49.4となった。街角では「中国の経済環境の悪化から、中国進出企業や輸出企業の採算性低下の懸念が出てきている」(北陸の金融業者)との声があった。内閣府は先行きについて「中国経済や株価等の動向への懸念がある」とし、「懸念要因がマインドの基調に与える影響に留意する必要がある」との見方を示した。
実質賃金、12月は0.1%減 毎勤統計 15年通年は0.9%減
厚生労働省が8日発表した2015年12月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、現金給与総額から物価変動の影響を除いた実質賃金指数は前年同月比0.1%減となり、2カ月連続で減少した。名目賃金の上昇分を消費者物価指数(CPI)の伸びが上回ったことが響いた。賞与などの特別給与の減少で名目賃金の伸びは小幅にとどまった。
従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は0.1%増の54万4993円だった。基本給などの所定内給与は0.7%増の24万38円だった。特別給与は0.4%減の28万4647円だった。パートタイム労働者の比率が上昇していることや前の年から調査対象を入れ替えたことが影響した。
同時に発表した15年通年の実質賃金は0.9%減で、4年連続の減少となった。年間でもCPIの上昇が名目賃金の伸びを上回った。月間平均の現金給与総額は前年比0.1%増の31万3856円だった。2年連続のプラスとなったが、賞与などの特別給与は0.8%減だった。その一方、パートタイム労働者の時給は1069円と調査を開始した1993年以降で最高の水準となった。
15年の経常黒字、16兆6413億円 5年ぶり水準 12月は9607億円の黒字
財務省が8日発表した2015年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は9607億円の黒字(前年同月は2259億円の黒字)だった。黒字は18カ月連続。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値は1兆20億円の黒字だった。貿易収支は1887億円の黒字、第1次所得収支は1兆122億円の黒字だった。
併せて発表した15年通年の経常収支は16兆6413億円の黒字(14年は2兆6458億円の黒字)となった。経常収支の黒字幅は東日本大震災が起きる前年の2010年以来5年ぶりの高水準で、震災前の水準をほぼ回復した。
原油価格の下落で輸入額が前の年に比べ10.3%減少したことが寄与した。輸出額は同1.5%増だった。その結果、貿易収支の赤字幅が6434億円と前の年より9兆7582億円縮小した。
訪日外国人の増加で、海外からの旅行者が日本で支出した額から日本の旅行者が海外で支出した額を引いた旅行収支が黒字に転換した。旅行収支は日本人の海外旅行人気などを背景に長年赤字が続いていた。また知的財産権の収支の黒字幅が大きく増えた。

いずれも包括的によく取りまとめられた記事ですが、さすがに、3つの統計の記事を並べるとかなりのボリュームになり、これだけでおなかいっぱいというカンジかもしれません。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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景気ウォッチャーは現状判断DIが前月から低下した一方で、先行き判断DIは上昇しました。それぞれのコンポーネントを見ても、現状判断DIではもっとも大きく下がったのが家計動向関連のうちの飲食関連とサービス関連なんですが、逆に、先行き判断DIでもっともおきく上がったのもこの2項目でした。調査回答の基準日に最終週の積雪を含むかどうか確認していないんですが、やはり、年明け早々の株式市場の大きな下げがマインドに影響しているようで、統計作成官庁である内閣府の景気の現状に対する基調判断は「緩やかな回復基調」としつつも、「中国経済に係る動向の影響等」を明示的に織り込んでいます。ただし、企業動向関連でも、製造業の小幅の下げに対し、非製造業の下げ幅の方が大きく、もちろん、引用した記事にあるように、輸送業者が中国経済の停滞で影響を受けるといった関係もあるとはいえ、中国経済の影響だけでなく、賃金が上がらずに国内需要が冴えないことも大きな要因のひとつと私は受け止めています。先週2月3日に取り上げた消費者態度指数も1月は下げましたので、年明けから続落した株式市場の影響や中国経済などの新興国経済の低迷といった海外要因は決して小さくないものの、それだけではなく、実体経済として需要が振るわないという点を忘れるべきではないと私は考えています。もっとも、景気ウォッチャーの先行き判断DIに示されているように、マインドは全体として決して下向きではなく上向きのモメンタムの方がより強い、という点は見逃せません。最後に、どうでもいいことながら、景気ウォッチャーについて引用した記事には盛んに季節調整値が上げられています。そろそろ、季節調整に耐えるだけのサンプルが集まりつつあるのかもしれません。でも、統計作成官庁の内閣府の公表文では季節調整値への言及はほとんどありません。

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次に、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。順に、上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、まん中のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の前年同月比伸び率である就業形態別の雇用の推移を、それぞれプロットしています。影をつけた期間は最初の景気ウォッチャーのグラフと同じで景気後退期です。まん中のパネルの賃金動向に着目すると、12月賃金は季節調整していない原系列の統計の前年同月比で見て、わずかに+0.1%増にとどまりました。所定内賃金は+0.7%増を示していますので、インプリシットにボーナスが前年から減少したということを示唆しています。私なんかから見れば、とても意外な結果であり、毎月勤労統計のサンプル替えの影響による過小推計との見方も根強い一方で、ホントに非正規雇用の増加などにより雇用者全体として1人当たりの平均ボーナス額が減っている可能性を指摘する意見もあります。私自身は確信ないながら前者の要因、すなわち、毎月勤労統計の欠陥ではないかと考えないでもないんですが、他方で、もちろん、大型の耐久消費財などはボーナスとの連動性が決して小さくはないものの、消費との相関が大きいのはいわゆる恒常所得であり、毎月勤労統計においては所定内給与、もしくは、所定内と所定外を合わせた「きまって支給する給与」ではないかとも考えると、上のグラフで太線でプロットした所定内給与の伸びが緩やかながら上昇しているのは評価すべきであると受け止めています。消費者物価で実質化しても前年比でプラスとなっています。いうまでもなく、背景には人手不足があり、量的な雇用の増加が質的な賃金引き上げや正規雇用の増加に結び付きやすくなっていると考えるべきです。

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最後に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれませんが、経常収支についてもかなり震災前の水準に戻りつつある、と私は受け止めています。ただし、経常収支のうちの貿易収支はほぼ収支トントンのゼロ近傍にあり、以前のようにモノで稼ぐのではなく、第1次所得収支、その昔には投資収益収支と呼んでいたカネで稼ぐ構造に変化しつつあるのかもしれません。加えて、いわゆる「爆買い」も含めて、以前は恒常的な赤字項目だったサービス収支も黒字化に向かっており、特に旅行収支は黒字化しつつありますので、モノからカネやヒトに稼ぐ力が移行しているのかもしれません。もっとも、経常収支はいわゆるISバランスの裏側で決まる面もあり、メディアなどでよく使われる「稼ぐ力」という表現がどこまで適切なのかは、疑問が残りますので、ここでは問わないこととしたいと思います。

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2016年2月 7日 (日)

先週の読書は『議会の進化』をはじめ期待外れに終わった直木賞受賞作『サラバ!』など6冊ほど!

先週の読書は、それらしい経済書はなしなんですが、最初に置いた『議会の進化』はほぼブキャナン・タロック的な公共選択論の系譜であり、経済学ではないにしても幅広い意味での社会科学の学術書・専門書といえます。ほか、長らく予約待ちをした直木賞受賞作『サラバ!』上下など、『サラバ!』上下で2冊と数えれば以下の通り6冊です。

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まず、http://www.keisoshobo.co.jp/author/a99862.htmlロジャー D. コングルトン『議会の進化』(勁草書房) です。著者は米国の公共選択論を専門とする研究者であり、ブキャナン教授やタロック教授の教え子に当たります。原書の出版は2011年であり、この翻訳書は原書の全訳ではなく、原書全20章のうちの12章から18章は割愛されています。国家の統治権というか、意思決定機関として、神から統治権を授かった王に始まって、王-評議会の枠組みを経て、幅広い参政権に支えられた国民主権に基礎を置く議会が参政権の拡張とともに進化するという見方で議論が進みます。もちろん、西欧民主主義的なシステムですので、対象としている国は英国、スェーデン、オランダ、ドイツ、日本、米国の6か国だけです。手法は基本的にゲーム論の利得行列や選好関数を用いていますので、方法論としてはほぼマイクロ経済学と同じです。ただ、私も知らないようないろんな方法が、特に何の注釈や断りもなく使われています。例えば、第6章p.143以降のクーン=タッカーの最大化関数とか、p.296の「小さなcのついた」保守主義者、とかです。理解を進めるためにはそれなりの基礎知識が必要なのかもしれません。3部構成を取っていますが、第1部の統治権の以上については私にはもっとも理解がはかどらない部分でしたが、第2部の西洋の民主的以降に関する歴史的証拠と第3部の社会科学としての分析的歴史学については、専門外の学術書ながら、かなりの程度に理解が進んだような気がします。国家の統治を行う王ないし議会を、企業における最高経営責任者(CEO)と取締役会ないし株主総会になぞらえている表現がいくつが出て来ますが、基本的に本書は統治権に移行先としての議会を歴史的に分析する学術書であり、かなりの高度な内容を含む、と考えるべきです。必要に応じて、随所に数式が展開されますし、価格も7200円+税というのは、普通では手が出ないと思いますし、学術書の値段ではないでしょうか。それなりの覚悟で読み始め、読み進む必要があります。繰り返しになりますが、理解を進めるためにはそれなりの基礎知識が必要なのかもしれません。ただし、p.351の推計結果については単位根検定がなされているかどうか不安が残りますし、非常に極端な例、例えば、1930年代のワイマール憲法下での授権法によるナチス独裁とか、共産党政権下でのプロレタリアート独裁における議会の統治権をどう考えるか、なども興味ありますが、戦争も含めた不連続的な歴史については本書のスコープ外なんだろうと考えています。

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次に、ダナ R. ガバッチア『移民からみるアメリカ外交史』(白水社) です。タイトルの通り、米国の移民と外交についての本で、原著は2012年に出版されています。作者は米国の移民史研究の第1人者であり、ミネソタ大学移民史研究センターの所長を務めた経験もあるそうです。ということで、数年前の本であって、現在進行形での中東難民が欧州に押し寄せている移民、というか、難民問題についての時代背景も地域も同じではありません。米国は新大陸であり、その昔に誤って「インディアン」と呼ばれていたネイティブ・アメリカンを別にすれば、基本的に、移民で成り立っている気もするんですが、その移民もピルグリム・ファーザーズとまではいわないものの、早い時期に到来した移民と米国が独立して国として確立した後の遅い時期とで扱いが異なるわけのようです。特に、私の目から見て新鮮に感じたのは、早い時期のいわゆるWASPのプロテスタントから、遅い時期になると肌の色の濃いカトリックなどが増加し、独立期の米国的な雰囲気を壊しかねないと受け止められていたという事実と、さらに、欧州から移民で米国に渡って来た後、故国に戻る例も、いわゆる出稼ぎだけでなく、決して少なくなかった、という点でした。確かに、英国の貴族の後継者がなくて、米国から英国に帰国して爵位を継いだ、という例もあったように記憶していますし、本書で取り上げられているように、イタリアからの移民がイタリアに帰国して、地方名望家層に対する態度が自由主義的であった、などはあり得るように感じました。先発の移民である初期の米国人からすれば、オクラホマ・ランドラッシュのような初期の移民歓迎の立場から、p.109にあるように、欧州諸政府が下層民を米国に送り込む政策を取っていたように見えるんだろうという気はします。特に、19世紀的な不況の時期が長かった時代には先発の米国人の職を奪う形で移民が流入したような被害意識を持つのは現代と変わりありません。そして、排外的な主張を持つポピュリスト政治家の人気が決して低くないのも、現在の米国大統領選挙を控えた各党の予備選を見ていると、ついつい同じような趣向を見て取ってしまいます。最後に、米国のジョークで、メキシコとの国境沿いにフェンスを作って移民が越えられないようにする、という手法について、「でも、いったい誰がフェンスを作るんだ」、というのがあります。すなわち、こういったフェンスを作る未熟練労働力は不法移民ではないのか、という含意です。

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次に、石毛直道『日本の食文化史』(岩波書店) です。著者は我が母校の京都大学出身の大先生であり、国立民族学博物館の館長を経験し、本書のテーマではまずは我が国の第1人者です。今西錦司先生や梅棹忠夫先生の系譜に連なる研究者であり、また、日本国内のみならず、アジア各国でも同様の研究をしているように記憶しています。もう80歳くらいなんではないんでしょうか。ということで、本書のタイトルの分野の権威になる大先生の本ですから、それなりに興味深く読みました。有史以前の我が国の食文化から始まって、やっぱり、ハイライトは織豊政権から徳川政権くらいまでに完成した和食や茶道の文化、それに対して、明治期になって洋食が入ってハイブリッド化した食文化、典型は私はカレーライスだと思っていますが、さらに、太平洋戦争の終戦後にいっそうの米国化が進んだ食文化、という、どうしても近現代に目が行きがちです。私のような専門外の読者には仕方ないような気もします。いずれにせよ、家庭内の食文化の歴史といわゆる外食の食文化の歴史がとても理解しやすく展開されており、諸外国からの影響、すなわち、我が国の古典古代といえる時代においては中国や朝鮮からの食文化の輸入、中世以降はそれに加えて欧米の食文化の導入が進み、特に、第2次世界大戦の直後は国内の食材供給がかなり細った結果として、もちろん、被占領下における政治や経済も含むさまざまな影響力も含めて、米国由来の食文化が後半に我が国に広まったという事実が明らかにされます。基本的には、いわゆる「食事の文化」であって、飲酒やいわゆる茶の湯の文化などの例外を除いて、お菓子などの歴史については極めてわずかしか紙幅が割かれておらず、少し残念な気もします。専門外のエコノミストの目から見て、経済的なゆとりが出来るに従って、それに正比例以上の相関をもって食文化が豊かになるような気がしています。

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次に、西加奈子『サラバ!』上下(小学館) です。いうまでもなく、直木賞受賞作であり、延々と図書館の予約を待たされて、ようやく読むことが出来ました。それにしては、読後感にビミョーなものがあり、待たされた分の期待が大きかっただけに、少し期待外れという部分も少なからずありました。主人公の男性がテヘランで左足から逆子として生まれた時から、時折、数年を飛ばしつつ、小学校入学やエジプトの首都カイロでの海外生活、帰国しての大阪での小学校高学年以降から中学・高校のころ、東京の私大に入学してから30歳代の半ば後半の現時点までの波乱万丈に飛んだ半生を描き出しています。ただ、文章がかなり荒っぽく、上巻と下巻で矛盾する部分も散見され、小説としては直木賞受賞作かね、という気にもさせられましたが、特に下巻に入ってからのスピード感豊かな展開は何物にも替えがたく、一気に読み切ることが出来ます。ただ、最後は2010年の時点で小説のスピードがとても緩慢になりますので、これも震災小説かと思わないでもなかったんですが、以外な面からアラブの春につながるとは思いもしませんでした。主人公の父親は後に出家して山にこもりますし、母は幸福を追い求めてジコチューな行動を繰り返し、その母と衝突を続けてきた姉は最後にはユダヤ教徒と結婚して平穏な生活を得たりと、家族のキャラが異様な気がしますし、母方の親戚やカイロから帰国した際のアパートの管理人で、背中の彫り物に特徴があるおばちゃんとか、主人公の中学・高校・大学の友人、特に高校の友人と大学の女友達が結婚したりと、あり得ない通常では考えられないようなご都合主義的な展開も数多く見られます。文体も一定せず、細やかな情感は持ちようもありませんが、一貫しているのはスピード感です。一気に読んで細かい点は気にしないというのがこの作品の読み方ではないかという気がします。時に、「xxへんくない?」という否定疑問文が頻出するので、私の同僚エコノミストの灘高・東大ご出身の堺出身者に聞いてみたんですが、「???」というカンジでした。評価の分かれそうな小説ですが、私自身もこの小説の主人公家族と同じように途上国での幼い子供を連れての駐在員生活も経験して入るものの、直木賞が授賞されるほどの小説か、という気もしています。他方で、スピード感を高く評価する読者がいそうな点も理解します。ただ、宗教的な色彩を読み取るべきではないような気がします。最後に、「サラバ!」というタイトルなんですが、その昔の映画「セーラー服と機関銃」のテーマソングの「サヨナラは別れの言葉じゃなくて、、、」というのを思い出してしまいました。3月に橋本環奈主演で映画「セーラー服と機関銃 -卒業-」が封切られるそうなので、ついつい思い出してしまいました。

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最後に、吉本ばなな『ふなふな船橋』(朝日新聞出版) です。朝日新聞で連載されていた小説が単行本化されています。タイトルから理解できるように、船橋のローカル小説であり、表紙の画像から想像できる通り、梨の妖精のマスコットであるふなっしーが大いに活躍します。といっても、あのハイテンションでおしゃべりする着ぐるみのゆるキャラではなく、グッズとして売り出されているぬいぐるみなどです。すべての船橋にあるのであろうと推測される飲食店などが実名で登場しますので、知り合いの船橋在住者に貸して読んでもらったところ、「半分くらいは知っている」という回答でしたので、ほぼ実在のお店なんではないかと私ながらに想像していたりします。でも、私は松戸に在住していた時に、一家で新京成線に乗ってごくまれに船橋のららぽーとに行った記憶があるくらいで、ほとんど船橋を知りません。2011年7月24日のエントリーにある通り、この作家の別のローカル小説である『もしもし下北沢』も読みましたが、自殺ないし心中がストーリーに一定の重みで登場するものの、この『ふなふな船橋』の方がとてもリアルに亡くなったハズの幽霊が、夢の中とはいえ、主人公と詳細な会話を交わしますので、見方によれば、現実とのかい離が大きくて、「おどろおどろしさ」が増しているような気がします。バブル真っ盛りにデビューし、『アルゼンチンババア』を典型として生活感のない小説を書き続けて来た作者ですが、とうとう「ご当地ソングに頼る演歌歌手」のような小説家になったのかもしれません。なお、ほぼ真ん中のp.119で第1部と第2部に分かれるんではないか、というのが私の読み方なんですが、それで正しいんでしょうか?

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2016年2月 6日 (土)

1月の米国雇用統計はやや物足りない数字か?

日本時間の昨夜、米国労働省から1月の米国雇用統計が公表されています。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は前月から+151千人の増加にとどまった一方で、失業率は前月から0.1%ポイント低下して4.9%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから記事を最初の5パラだけ引用すると以下の通りです。

Wages Rise as U.S. Unemployment Rate Falls Below 5%
Is the American worker finally getting a raise?
After years of scant real gains despite steadily falling unemployment and healthy hiring, wages picked up significantly last month, a sign the job market could be tightening enough to force companies to pay more to attract and retain employees.
The half a percentage point increase in average hourly earnings in January was the brightest spot in a generally positive Labor Department report on Friday, which showed job creation slowing from the white-hot pace of late 2015 even as the unemployment rate fell to an eight-year low of 4.9 percent.
The last six months were the best extended period for employee paychecks since the recovery began six-and-a-half years ago.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューが続きます。タイトルに見られるように、量的な雇用拡大よりも質的な賃金上昇に重点を置いた記事ですが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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米国連邦準備制度理事会(FED)の金融政策の方向を占う判断材料のひとつとなる米国の雇用者増は12月の262千人から1月は151千人と急激に減速しています。日本でもお正月明け早々の株式市場が連日大きく下げましたし、中国をはじめとする新興国の景気減速や国際商品市況における石油価格下落などを受けて、我が国だけでなく米国景気も減速を示しているようです。1月の雇用統計ばかりでなく、先週1月29日に米国商務省から公表された昨年2015年10-12月期のGDP成長率も年率で+0.7%にとどまったのは広く報じられたとおりです。FEDは今年から来年にかけて、年4回25ベーシスずつの金利引き上げで、年間を通じて100ベーシス、すなわち、1%の金利引き上げを予定していると多くのエコノミストに考えられていると私は理解していますが、3月15-16日の連邦公開市場委員会で利上げするのか、それとも4月27-27日になるのか、さらにその先の6月14-15日になるのか、景気の現状からは見通し難く不透明感が残ります。ただし、景気減速一本槍と見るのが正しいかどうかも疑問が残ります。例えば、米国労働省統計では12月の雇用増+262千人から1月は+151千人へと大きく減速しているように見えますが、労働省統計の先行指標となるADP統計では12月+267千人から1月+205千人ですから、それほど大きな減速とは考えられません。また、業種別に見て、サービス部門の一時雇用者が減少していることをもって雇用調整が始まったように受け止めているエコノミストもいるようですが、小売業や飲食業などが雇用を増加させているのは個人消費の底堅さを反映しているのではないかと私は理解しています。もっとろ、このようにややビミョーな部分が残るものの、もちろん、GDP成長率も雇用統計も米国景気の減速を示していることは事実でしょう。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2016年2月 5日 (金)

下降を続ける景気動向指数は景気後退を示唆するのか?

本日、内閣府から12月の景気動向指数が公表されています。ヘッドラインとなるCI一致指数は前月から▲0.7ポイント下降して111.2、同じくCI先行指数も▲1.2ポイント下降して102.0を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、12月は2カ月連続低下 判断「足踏み」で据え置き
内閣府が5日発表した2015年12月の景気動向指数(2010年=100、速報値)によると、景気の現状を示す一致指数は111.2で前月から0.7ポイント下がった。中国の景気減速の影響などで生産や消費関連指標が低調。2カ月連続のマイナスとなった。直近数カ月の平均値などから機械的に判断する基調判断は、前月までの「足踏みを示している」に据え置いた。
前月と比較可能な8指標のうち、5つがマイナスに影響した。資本財と建設財がともに低調だった投資財出荷指数(輸送機械除く)のほか、電子部品やデバイス工業が振るわなかった鉱工業用生産財の出荷指数が下振れした。鉱工業生産指数や商業販売額(卸売業・小売業)の悪化も響いた。一方、有効求人倍率(学卒を除く)や中小企業出荷指数(製造業)の改善は一致指数を下支えした。
数カ月先の景気を示す先行指数は1.2ポイント低下の102.0だった。低下は2カ月連続で、13年1月(101.6)以来の低水準。原油安の影響を受けた日経商品指数や東証株価指数の下落などが先行指数の重荷となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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鉱工業生産指数と同じでジグザグした横ばい圏内の動きながら、CI一致指数、CI先行指数とも基調判断的に「足踏み」が続いており、12月指数は2か月連続で下降を示しています。特に、12月の月次の経済指標は雇用関係を例外として、生産から販売までほぼ軒並み悪化を示した指標が多く、各種経済指標をいわば「合成」した景気動向指数が下降したのは当然といえば当然かもしれません。引用した記事にもある通り、中国経済の減速や国際商品市況での石油価格の低下など、海外要因の景気停滞を私は感じていますが、それだけ、日本が相対的に小国になったことの証拠のような気がしてなりません。CI一致指数のうち前月からの寄与度の絶対値で±0.1以上の系列としては、引用した記事にも上げられている通り、プラスでは有効求人倍率(除学卒)と中小企業出荷指数(製造業)がある一方で、マイナスには投資財出荷指数(除輸送機械)、鉱工業用生産財出荷指数、生産指数(鉱工業)、商業販売額(卸売業)(前年同月比)の4系列が並んでいます。日銀のマイナス金利導入による追加緩和も、為替相場で判断する限り、賞味期限は決して長くなかったようですし、先進国でとびぬけて大きな財政赤字を抱える日本としては、海外経済の持ち直しを待つしかないんでしょうか?

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2016年2月 4日 (木)

連合総研 「連合の春闘結果集計データにみる賃上げの実態」やいかに?

今週の月曜日2月1日に、連合総研から「連合の春闘結果集計データにみる賃上げの実態」と題するリポートが公表されています。on-going の2016年春闘ではなく、昨年2015年春闘の賃上げ結果を取りまとめた分析結果ですが、一昨日2月2日と昨日の2月3日の日経新聞の経済教室で取り上げられていたように、今年の経済の動向を占ううえでも賃上げのゆくえは極めて重要であり、昨年の賃上げ結果とはいえ、このリポートから、いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、リポートから定昇とベアの合計金額の賃上げの分布状況のグラフを引用すると上のグラフの通りです。単純集計ベースでは5000円以下も少なくないんですが、組合員数ベースでは6000-6500円に山があるように見えます。単純集計よりも組合員数の加重平均の方が分布が右寄りにシフトしているのは、明らかに、組合員が多い、すなわち、従業員規模の大きい企業の方が賃上げ額が大きくなっているためと考えるべきです。

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ということで、次に、リポートから組合員ベースで定昇とベアの合計の賃上げについて、規模別賃上げ動向を引用すると上のグラフの通りです。明らかに、規模の大きい企業ほど賃上げ額も大きい、との結果が示されており、また、中央値と平均値の差は余りありません。ただ、規模別で同じセグメントであっても第1分位と第3分位で1.5倍近い差がある場合も散見されます。また、グラフの引用はしませんが、業種別賃上げ動向を見ると、アベノミクス下で為替の円安化などの恩恵を受けている製造業が平均を上回る賃上げ額を達成しています。

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最後に、リポートから組合員ベースで定昇とベアの合計の賃上げについて、地域別賃上げ動向を引用すると上のグラフの通りです。地域別でありながら、「その他」というのはやや不明なんですが、「複数の都道府県で企業活動を行い特定の都道府県に属さない企業」という定義らしく、賃上げ額も大きくなっていますので、規模の大きな企業ではないかと想像しています。その「その他」を別にすれば、やはり、東海、関東、近畿といった都市部の比率の高い地域の賃上げが大きい、との結果が示されています。また、グラフは引用しませんが、北海道・東北、九州、四国ではベアゼロ企業の割合も高くなっています。

連合の昨年2015春闘の賃上げデータから、いくつかグラフを引用しましたが、引用したグラフなどから明らかな通り、規模別では大企業ほど、また、地域別でも都市部ほど賃上げが大きいという傾向が見られ、賃金引上げが中小企業や地方に波及するかどうかも今春闘の眼目となっています。加えて、テーブルは引用しませんが、リポート p.14 表5 賃上げの格差の動向 では、2014春闘より2015春闘の方が賃金引上げにおける格差が拡大している、との結果が示されています。賃金引き上げ幅の大きさとともに、規模別や地域別をはじめとする格差是正も今春闘の大きな注目点のひとつかもしれません。

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2016年2月 3日 (水)

1月の消費者態度指数は4か月振りの低下を示す!

本日、内閣府から1月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲0.2ポイント低下して42.5を記録しています。新年大発会からの株価の影響のためか、消費者態度指数を構成する意識指標ではありませんが、資産価値が大きく低下していたりします。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の消費者態度指数、0.2ポイント低下の42.5 株価下落で
内閣府が3日発表した1月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.2ポイント低下の42.5だった。4カ月ぶりに前月を下回った。年初から日経平均株価が急落したのに加え、国内の経済指標が低調な状況が続いていることが影響した。
内閣府は消費者心理の基調判断を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」に下方修正した。4つの意識指標のうち、「収入の増え方」と「雇用環境」、「暮らし向き」の3つが前月から低下した。同時に調査している「資産価値」の意識指標は株価の下落を受けて4.5ポイント低下した。
1年後の物価見通しについて「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月から1.8ポイント低下し、79.3だった。2013年に現行の郵送方式としてからは初めて80%を下回った。原油安によるガソリン価格の低下が影響した。
調査基準日は1月15日。全国8400世帯が対象で、有効回答数は5469世帯(回答率は65.1%)だった。

いつもながら、簡潔によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期です。

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昨年春先の3-4月くらいから、1年近くに渡って消費者態度指数はややジグザグな動きを示しつつ、ほぼ横ばいの圏内ながら、ここ3か月は緩やかなプラスを示していましたが、1月指数では4か月振りに低下しました。新年明けの大発会から連続して株価が下落した影響と報じられていますが、統計作成官庁の内閣府では統計の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直しのテンポが緩やかになっている」に下方修正しています。マインドを調査したソフトデータですので、何かの拍子に大きくスイングする可能性もあり、ハードデータに裏付けられた足元の景気も回復しているように見えても、その動向は極めて緩やかな回復ですから、消費者マインドの先行きに関しては何とも見通しがたいところです。特に、年末ボーナスについては、どうやら数字的には増加したような気がしているんですが、消費のデータにはその影響が現れておらず、国民の受け止めとしてはボーナスの増加は消費に反映させるほどのマグニチュードは持たなかった、ということなのかもしれません。ということであれば、なおのこと、今春闘での実感できる賃上げがマインド向上と消費喚起のために必要となりそうです。

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2016年2月 2日 (火)

昨年末のボーナスはどうだったのか?

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先週後半の政府統計を見ていて、特に、経済産業省から1月28日に公表された商業販売統計の小売販売とか、総務省統計局から1月29日に公表された家計調査とか、消費関連指標がとても冴えない結果を示しました。このため、10-12月期のGDP成長率はせいぜいゼロか、マイナスではないかと考えているところ、このブログにもハッキリと書きましたが、好調だったとウワサされている年末ボーナスがどこに行ったのか、とても気にかかっています。でもその前に、そもそも、ボーナスは増えたのかどうかについて、いろいろと探していると、先週1月29日にマイナビから「2015年冬の賞与に関する実態調査」が公表されていました。冬のボーナスを見て減額されていると転職意向が強くなる、などの転職意識についてはともかく、業種分類が荒っぽいながら、【前年と比較した賞与額】のグラフを引用すると上の通りです。このグラフにあるどの業界を見ても、「増加した」が「減少した」を上回っています。厚生労働省の毎月勤労統計を待ちたいと思いますが、どうも、ウワサ通りに年末ボーナスは増加しているように見受けられます。今夜は遅くなりましたので、取り急ぎ、画像とともにアップしておきます。

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2016年2月 1日 (月)

プロ野球各チームがキャンプイン!

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球春!
いよいよ今日からプロ野球12球団がキャンプ・インしました。我が阪神タイガースは金本新監督の下、今月いっぱい沖縄中部の宜野座でキャンプを張ります。なお、上の画像は日刊スポーツのサイトから引用しています。

今年こそリーグ優勝と日本一目指して、
がんばれタイガース!

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