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2016年2月 8日 (月)

本日公表の景気ウオッチャーと毎月勤労統計と経常収支から何が読み取れるか?

本日、内閣府から1月の景気ウォッチャーが、厚生労働省から12月の毎月勤労統計が、また、財務省から12月の経常収支が、それぞれ公表されています。景気ウォッチャーのうちの現状判断DIは前月から▲2.1ポイント低下して46.6を示し、毎月勤労統計のうちの現金給与総額の前年同月比は+0.1%上昇し、経常収支は季節調整していない原系列のベースで9607億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1月の街角景気、現状判断は2.1ポイント低下 株価下落など響く
内閣府が8日発表した1月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数は前月比2.1ポイント低下の46.6となった。悪化は2カ月ぶり。飲食などを中心に家計動向が低下したほか、企業動向や雇用関連も前月から低下した。年明けからの株価下落などが影響した。季節調整値も2.0ポイント低下の48.5となり、節目の50を下回った。
調査では「年明けからの株価低迷が客の消費意欲を減退させている」(南関東の通信会社)、「中国経済の影響で輸出が伸び悩み、思ったほどの荷動きが期待できない」(北陸の輸送業者)といった声が聞かれた。内閣府は基調判断を「中国経済に関わる動向の影響などがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」に据え置いた。
2-3カ月後について聞いた先行き判断指数は1.3ポイント上昇の49.5だった。改善は4カ月ぶり。ただ、季節調整値では1.7ポイント低下の49.4となった。街角では「中国の経済環境の悪化から、中国進出企業や輸出企業の採算性低下の懸念が出てきている」(北陸の金融業者)との声があった。内閣府は先行きについて「中国経済や株価等の動向への懸念がある」とし、「懸念要因がマインドの基調に与える影響に留意する必要がある」との見方を示した。
実質賃金、12月は0.1%減 毎勤統計 15年通年は0.9%減
厚生労働省が8日発表した2015年12月の毎月勤労統計調査(速報、従業員5人以上)によると、現金給与総額から物価変動の影響を除いた実質賃金指数は前年同月比0.1%減となり、2カ月連続で減少した。名目賃金の上昇分を消費者物価指数(CPI)の伸びが上回ったことが響いた。賞与などの特別給与の減少で名目賃金の伸びは小幅にとどまった。
従業員1人当たり平均の現金給与総額(名目賃金)は0.1%増の54万4993円だった。基本給などの所定内給与は0.7%増の24万38円だった。特別給与は0.4%減の28万4647円だった。パートタイム労働者の比率が上昇していることや前の年から調査対象を入れ替えたことが影響した。
同時に発表した15年通年の実質賃金は0.9%減で、4年連続の減少となった。年間でもCPIの上昇が名目賃金の伸びを上回った。月間平均の現金給与総額は前年比0.1%増の31万3856円だった。2年連続のプラスとなったが、賞与などの特別給与は0.8%減だった。その一方、パートタイム労働者の時給は1069円と調査を開始した1993年以降で最高の水準となった。
15年の経常黒字、16兆6413億円 5年ぶり水準 12月は9607億円の黒字
財務省が8日発表した2015年12月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は9607億円の黒字(前年同月は2259億円の黒字)だった。黒字は18カ月連続。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値は1兆20億円の黒字だった。貿易収支は1887億円の黒字、第1次所得収支は1兆122億円の黒字だった。
併せて発表した15年通年の経常収支は16兆6413億円の黒字(14年は2兆6458億円の黒字)となった。経常収支の黒字幅は東日本大震災が起きる前年の2010年以来5年ぶりの高水準で、震災前の水準をほぼ回復した。
原油価格の下落で輸入額が前の年に比べ10.3%減少したことが寄与した。輸出額は同1.5%増だった。その結果、貿易収支の赤字幅が6434億円と前の年より9兆7582億円縮小した。
訪日外国人の増加で、海外からの旅行者が日本で支出した額から日本の旅行者が海外で支出した額を引いた旅行収支が黒字に転換した。旅行収支は日本人の海外旅行人気などを背景に長年赤字が続いていた。また知的財産権の収支の黒字幅が大きく増えた。

いずれも包括的によく取りまとめられた記事ですが、さすがに、3つの統計の記事を並べるとかなりのボリュームになり、これだけでおなかいっぱいというカンジかもしれません。次に、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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景気ウォッチャーは現状判断DIが前月から低下した一方で、先行き判断DIは上昇しました。それぞれのコンポーネントを見ても、現状判断DIではもっとも大きく下がったのが家計動向関連のうちの飲食関連とサービス関連なんですが、逆に、先行き判断DIでもっともおきく上がったのもこの2項目でした。調査回答の基準日に最終週の積雪を含むかどうか確認していないんですが、やはり、年明け早々の株式市場の大きな下げがマインドに影響しているようで、統計作成官庁である内閣府の景気の現状に対する基調判断は「緩やかな回復基調」としつつも、「中国経済に係る動向の影響等」を明示的に織り込んでいます。ただし、企業動向関連でも、製造業の小幅の下げに対し、非製造業の下げ幅の方が大きく、もちろん、引用した記事にあるように、輸送業者が中国経済の停滞で影響を受けるといった関係もあるとはいえ、中国経済の影響だけでなく、賃金が上がらずに国内需要が冴えないことも大きな要因のひとつと私は受け止めています。先週2月3日に取り上げた消費者態度指数も1月は下げましたので、年明けから続落した株式市場の影響や中国経済などの新興国経済の低迷といった海外要因は決して小さくないものの、それだけではなく、実体経済として需要が振るわないという点を忘れるべきではないと私は考えています。もっとも、景気ウォッチャーの先行き判断DIに示されているように、マインドは全体として決して下向きではなく上向きのモメンタムの方がより強い、という点は見逃せません。最後に、どうでもいいことながら、景気ウォッチャーについて引用した記事には盛んに季節調整値が上げられています。そろそろ、季節調整に耐えるだけのサンプルが集まりつつあるのかもしれません。でも、統計作成官庁の内閣府の公表文では季節調整値への言及はほとんどありません。

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次に、毎月勤労統計のグラフは上の通りです。順に、上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、まん中のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の前年同月比伸び率である就業形態別の雇用の推移を、それぞれプロットしています。影をつけた期間は最初の景気ウォッチャーのグラフと同じで景気後退期です。まん中のパネルの賃金動向に着目すると、12月賃金は季節調整していない原系列の統計の前年同月比で見て、わずかに+0.1%増にとどまりました。所定内賃金は+0.7%増を示していますので、インプリシットにボーナスが前年から減少したということを示唆しています。私なんかから見れば、とても意外な結果であり、毎月勤労統計のサンプル替えの影響による過小推計との見方も根強い一方で、ホントに非正規雇用の増加などにより雇用者全体として1人当たりの平均ボーナス額が減っている可能性を指摘する意見もあります。私自身は確信ないながら前者の要因、すなわち、毎月勤労統計の欠陥ではないかと考えないでもないんですが、他方で、もちろん、大型の耐久消費財などはボーナスとの連動性が決して小さくはないものの、消費との相関が大きいのはいわゆる恒常所得であり、毎月勤労統計においては所定内給与、もしくは、所定内と所定外を合わせた「きまって支給する給与」ではないかとも考えると、上のグラフで太線でプロットした所定内給与の伸びが緩やかながら上昇しているのは評価すべきであると受け止めています。消費者物価で実質化しても前年比でプラスとなっています。いうまでもなく、背景には人手不足があり、量的な雇用の増加が質的な賃金引き上げや正規雇用の増加に結び付きやすくなっていると考えるべきです。

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最後に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれませんが、経常収支についてもかなり震災前の水準に戻りつつある、と私は受け止めています。ただし、経常収支のうちの貿易収支はほぼ収支トントンのゼロ近傍にあり、以前のようにモノで稼ぐのではなく、第1次所得収支、その昔には投資収益収支と呼んでいたカネで稼ぐ構造に変化しつつあるのかもしれません。加えて、いわゆる「爆買い」も含めて、以前は恒常的な赤字項目だったサービス収支も黒字化に向かっており、特に旅行収支は黒字化しつつありますので、モノからカネやヒトに稼ぐ力が移行しているのかもしれません。もっとも、経常収支はいわゆるISバランスの裏側で決まる面もあり、メディアなどでよく使われる「稼ぐ力」という表現がどこまで適切なのかは、疑問が残りますので、ここでは問わないこととしたいと思います。

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