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2016年2月18日 (木)

赤字に戻った貿易統計から何が読み取れるか?

本日、財務省から1月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない現系列のデータで前年同月比▲12.9%減の5兆3516億円、輸入額は▲18.0%減の5兆9976億円、差し引き貿易収支は▲6459億円の赤字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易収支、1月は赤字6459億円 アジア向け輸出低調、春節も影響
財務省が18日発表した1月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6459億円の赤字(前年同月は1兆1737億円の赤字)だった。円安効果が薄まったのに加え、中国の景気減速などを背景に輸出額が前年同月比12.9%減少。2015年12月(1403億円の黒字)から2カ月ぶりの貿易赤字に転じた。2月上旬からの春節(旧正月)を前に、アジア向け輸出を手控える動きも影響したという。原油安で輸入額の減少は続いたものの、補えなかった。赤字幅はQUICKがまとめた市場予想(6802億円の赤字)よりやや少なかった。
1月の輸出額の減少率(12.9%)は09年10月(23.2%)以来、6年3カ月ぶりの大きさだった。台湾向けの鉄鋼半製品や、中国向けに繊維原料となるパラキシレンなどの輸出額が減った。地域別では、中国を含むアジア向けが17.8%減少。米国、欧州連合(EU)向けの輸出額も減った。対世界の輸出数量指数は9.1%下がり、13年2月(12.8%低下)以来の下げ幅だった。アジア、米国、EU向けのいずれも輸出数量が減った。一方、前月比の季節調整値の輸出額は0.6%増えた。対ドルの為替レートは119.57円と、前年同月と比べ0.3円の円安にとどまった。
輸入額は前年同月比18.0%減の5兆9976億円だった。マイナスは13カ月連続。原油価格の下落でマレーシアの液化天然ガス(LNG)やサウジアラビアの原粗油などの輸入が減った。医薬品の輸入増が続いたEUからの輸入額は1月として過去最大だった。

なかなかコンパクトに取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、輸出入を通じて前年割れですから、世界経済・日本経済ともに景気に下押し圧力がかかっているのは事実で、年明け以降の金融市場の動揺も相まって、2016年は冴えない経済動向で始まったといえそうです。例えば、米国のサマーズ教授も2月15日付けの Foreign Affairs 誌に "The Age of Secular Stagnation" と題する論文を寄稿していたりします。ただし、輸出入の差額である貿易収支については、1月統計では赤字に戻った、という趣旨の報道ばかりでしたが、上のグラフに見られる通り、季節調整済みの系列では昨年2015年11月から貿易黒字に転じて、緩やかながら黒字幅を拡大しています。もちろん、国際商品市況における石油価格の下落に従って輸入額が減少しているのが大きな要因です。他方、輸出が1月統計では冴えない結果に終わりましたので、月曜日に公表された1次QEで10-12月期のマイナス成長に続く足元の1-3月期はプラス成長に転じるとの期待がやや後退したとの見方もあり得ますが、成長や景気は輸出もさることながら、貿易収支や経常収支の差額で効きますので、縮小均衡的な色彩はあるものの、輸出以上に輸入が減少していれば景気にはプラス、という見方も成り立ちます。

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その輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、一番上のパネルの輸出額を見ると、1月統計まで減少を続けており、特に赤い部分の積上げ棒グラフの数量の減少の寄与が大きいんですが、一番下のパネルを見ると、そろそろ、中国向け輸出は底を打つタイミングに向かっているとも考えられます。しかし、真ん中のパネルに見られる通り、先進国であるOECD加盟国の需要についてはまだ期待できそうもありません。いずれにせよ、それほど単純な構図ではありませんし、指標を読むエコノミストの見方次第でややバイアスのかかるデータではないかと受け止めています。

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