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2016年3月12日 (土)

今週の読書はマルクス主義経済学の専門書など計8冊!

今週の読書はわが母校の京都大学経済学部の教授だった本山先生の『人工知能と21世紀の資本主義』ほか、計8冊、以下の通りです。経済書は2冊なんですが、なぜか、2冊とも著者のホームグラウンドはマルクス主義経済学だったりします。

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まず、本山美彦『人工知能と21世紀の資本主義』(明石書店) です。著者は私が大学に進学した時には、京都大学経済学部の中でももっとも若手の助教授の1人でしたが、とっくに京都大学は退職し、その後、大阪産業大学の学長も務めましたが、それも退いています。時の流れが速いというか、私も長らくエコノミストをしてきたもんだと、改めて感じさせられました。本書は3部構成であり、第Ⅰ部は「サイバー空間の現在」と題され、雇用の歴史などに焦点を当てて、労働の尊厳を維持しつつ、コンピュータ利用の負の側面を考察しています。また、いわゆるSNSの問題点については多数派への同調圧力を強調しています。第Ⅱ部は「サイバー空間の神学」と題され、タイトルがそもそも神学的な印象なんですが、サイバー・リバタリアンの新自由主義思想を分析しています。同時に、シカゴ学派をはじめとする新自由主義思想を、おそらく、マルクス主義の観点も含めて、大いに批判しています。最後の第Ⅲ部は「サイバー空間における情報闘争」と題されていて、暗号、盗聴、スノーデン・ショックなどを取り上げています。最後に、人間社会の連帯=アソシエの倫理がコンピュータや人工知能による人間労働の置換の悲劇から世界を救う唯一の道であると主張していますが、著者ご本人も甘い考えであることは認識しているようです。基本的には、著者にこれまでの研究人生を振り返ったエッセイなんだと認識していますが、人民銀行とともに、ややプルードン的というか、あるいは、空想的な夢の世界で、実務家の世界からは少し違和感を持って見られる可能性があるかもしれません。

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次に、佐々木憲昭『財界支配』(新日本出版) です。著者は長らく共産党の代議士を務め、一昨年2014年に引退した論客です。本書は上の表紙画像を見れば判ると思いますが、「日本経団連の実相」と副題されています。同じ著者が2007年に出版した『変貌する財界』、コチラは「日本経団連の分析」という副題でしたが、その続編のような位置づけです。ただ、私は前著を読んでいませんので、よく判りません。経団連を財界の代表として取り上げ、会長・副会長を輩出している企業の巨大化や多国籍企業化、あるいは、その資本構成などから外資比率の高まり、などを明らかにしつつ、政策要望という圧力団体としての活動や政府審議会への参画と政治献金などを通じた政治支配の現状を分析しています。とても説得的な好著・良書であり、私の考える方向性とも共通する部分があるんですが、何点か補足的な事項を並べると、第1に、最先端技術を目指す企業の集合体として、軍需産業だけでなくそれを補完する通信分野などについても分析が欲しかった気がします。第2に、本書ではかなりバランスを失して財界⇒政治というルートに着目しており、それが本書のスコープであるといわれればそれまでなんですが、財界と政治のインタラクティブなかかわりについて、より突っ込んだ分析が欲しい気がします。第3に、これも本書のスコープ外だという気はしますが、政治献金の分析です。財界からの政治への最大のアプローチは私は政治献金だと考えています。そして、政治献金はかなり透明性が確保されており、金銭単位のデータを得やすい情報源ではないかと想像しています。もちろん、これだけ精力的な政治活動をしている共産党にしてまだ本格的な分析がなされていない政治献金の分野ですから、途方もない労力を必要とするんでしょうが、本格的に政治献金をデータベース化して定量分析を加える段階に達したのではないかと私は想像しています。もっとも、門外漢の私が知らないだけで、すでにかなり定量分析が行われているのかもしれません。そうだとすれば、エコノミストとして私も大いに興味をそそられます。

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次に、畠中恵『まったなし』(文藝春秋) です。私はこの作者のシリーズはいくつか読んでいて、有名なのはしゃばけのシリーズで、妖がいっぱい出て来たりするんですが、このまんまことのシリーズは妖出て来ません。江戸は神田の町名主高橋家の跡取り息子にしてお気楽者の麻之助が、幼なじみで町名主を継いでいるイケメン八木清十郎と、堅物の同心にしてすでに婿入りしている相馬吉五郎とともに、さまざまな謎ともめ事の解決に挑む短篇シリーズの第5弾です。いつもの通り、6話収録されています。そして、出版社のサイトにある情報によれば、本書の隠されたテーマは「女難」だそうで、これを念頭に読み進めば面白さ100倍、なのかもしれません。しゃばけシリーズが割とサザエさん的で、それほど時間の進みを感じないのに対して、このまんまことシリーズはしっかりと時間が進んで、主人公の麻之助はすでに1回祝言を上げて嫁を迎えたものの、出産の際に子供も女房も亡くしてしまったんですが、本書では八木家の跡をすでに取っている清十郎の嫁取り話が進み、最終話で祝言を上げます。謎解きも鮮やかです。

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次に、畠中恵『明治・金色キタン』(朝日新聞出版) です。これまた、同じ作者の別のシリーズで、明治期の銀座の交番を舞台にした第2弾です。第1弾の『明治・妖モダン』も同じ出版社から出ていて、私のこのブログでは2年と少し前の2013年12月14日の読書感想文で取り上げています。このシリーズに登場するのは妖ばかりで、普通の人間の方が少ないくらいですが、妖としての特別のパワーというか、何というかは、死なないのと、しゃばけのシリーズと同じで、やや感覚が人間と異なって集中力が高い、くらいで、他はほとんど特別なパワーは発揮しないので、読み進むに当たって気にする必要はありません。繰り返しになりますが、明治21年の銀座の交番を舞台に、巡査の滝と原田を主人公として話は進みます。今回は、おそらく架空の甫峠という旧藩、土地を背景に、廃仏毀釈で打ち壊された甫峠寺とか、そこのご本尊の仏像とか、東京の別院などを巡って、謎が持ち上がって解決されます。単なる謎の解決だけでなく、当時の風俗、例えば、女学生美人くらべや上野の競馬場での社交など、が取り上げられ、いろんな色彩を添えています。

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次に、柚月裕子『孤狼の血』(角川書店) です。先に「つまをめとらば」に授賞された直木賞の候補作になっていました。1988年の広島県警暴力団担当部署を舞台に、新任刑事がヤクザとの癒着を噂される先輩刑事とともに、暴力団系列のヤミ金融会社の社員が失踪した事件の捜査を担当し、警察の暗部を目にしつつ事件を解決に導くものの、先輩刑事の死により、その表には出せないような資産を相続する、というストーリーです。主人公の立ち位置は読んで行けば明らかになるので、それほど意外ではないんですし、やっぱり、暴力団と担当刑事との癒着とか、警察官としての正義感とか、ややプロットが平板で直木賞は苦しいかな、という気がしました。暴力団壊滅を目標にしながら暴力団と癒着するというのは、一般社会では公開会社の総務部と総会屋との関係を示唆するところがあって許容範囲と私は考えますが、正道のヤクザと外道のヤクザを設定したりするのは私には理解できません。そのあたりは正義に関する社会的な許容度に作者と私に差があるということなんだろうと思います。この作者は佐方貞人シリーズ『最後の証人』でデビューし、『検事の本懐』などはとてもよかったんですが、その後は伸び悩んでいる気がします。デビュー作が最高傑作というのは湊かなえなどの例にもありますが、好きな小説を書いてくれるだけに、私はもう一段の成長を望んでいます。

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次に、エラリー・クイーン『災厄の町』『九尾の猫』(ハヤカワ・ミステリ文庫) です。どちらも、角川文庫の国名シリーズの新訳を担当した越前敏弥さんによる新訳です。角川文庫が1000円を切るのに対して、ハヤカワ・ミステリ文庫の方は1000円を超えて、やや価格付けが強気な気がしないでもありませんが、私のような図書館で借りる派には関係なような気もします。いずれもクイーン作品の中でも名作に位置づけられるミステリであり、特に『災厄の町』は最も高く評価されている作品のひとつであるとともに、1942年という戦争中の作品で、ライツヴィルを舞台にしたシリーズの第1作です。1949年の作品である『九尾の猫』も犯人が特定されかかって、現在からすればかなり強引な捜査が行われたりするんですが、最後の最後に大きなどんでん返しが用意されています。国名シリーズと比較して、時代背景のせいかもしれませんが、やや暗い印象がありますが、クイーンらしい論理の冴えは見事で、ミステリとしての面白さが凝縮された作品だと評価できます。

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最後に、小説トリッパー編集部[編]『20の短編小説』(朝日文庫) です。テーマは「20」という数字で、原稿用紙20枚という制約がかけられているらしいです。恋愛、SF、ミステリーなど、エンターテインメント作品を中心に編みながら、ジャンルに収まり切らない作品も少なくありません。執筆陣も、上の表紙画像に見られる通り、朝井リョウ、阿部和重、伊坂幸太郎、井上荒野、江國香織、円城塔、恩田陸、川上弘美、木皿泉、桐野夏生、白石一文、津村記久子、羽田圭介、原田マハ、樋口毅宏、藤井太洋、宮内悠介、森見登美彦、山内マリコ、山本文緒、と豪華に20人の売れっ子作家を何気に50音順に並べていたりします。20篇すべてを取り上げるのもムリですので、印象的だった1篇だけにすると、芥川賞受賞後に大きくブレイクした羽田圭介「ウエノモノ」ですが、マンションの上の階の生活騒音が気になり、やんわりとあるいは強烈に抗議し何らかの接触を持つことで、都会における他人同士のお互いの理解が深まっていく過程が、短いながらも淡々と描写されていて、とても好感を持てる短編です。ほかにも、これだけの作者がそろっているんですから、作品は粒ぞろいです。今週の読書の中では唯一買って読んだ本です。というのは、価格が600円+税と、それなりに良心的だと感じたからです。図書館で借りたんではなく、買ったわけですから、倅にも読ませたいと思います。

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