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2016年3月31日 (木)

5時間かかってヤクルトと引き分け!

 十一十二 HE
阪  神200000300010 6100
ヤクルト200010200010 6131

ヤクルトと引き分けでした。延長12回5時間かかって勝ち負けなしでした。阪神から見れば0.5敗くらいでしょうか。また、見方によっては面白いかもしれないんでしょうが、締まりのない試合にも見えました。もう少し采配の妙は見られないもんでしょうか。マテオ投手は3回も投げさせるんですかね。12回に横田選手に代打は?

明日の横浜戦は、
がんばれタイガース!

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明日公表の3月調査の日銀短観予想やいかに?

明日4月1日の発表を前に、シンクタンクや金融機関などから3月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと大企業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画は昨年度2015年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、昨年度2015年度の設備投資計画に着目しています。ただし、三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所だけは2015年度の言及がないので2016年度を取っていますし、三菱UFJリサーチ&コンサルティングは両方だったりします。いずれにせよ、とても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、html の富士通総研以外は、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
12月調査 (最近)+12
+25
<+10.8%>
n.a.
日本総研+6
+21
<+7.0%>
2015年度の設備投資計画(土地投資額含み、ソフトウェア投資額を除く)は、全規模・全産業ベースで、前年度比+5.5%と、前回調査対比▲2.1%の下方修正を予想。内需の低迷が長期化し、国内経済の成長期待が高まらないなか、年明け以降の金融市場の混乱も加わり、大企業・製造業を中心に設備投資の先送りが広がる公算。中小企業は例年の修正状況同様、上方修正が見込まれるものの、修正幅は例年に比べ小幅にとどまる見込み。
大和総研+9
+23
<+9.3%>
大企業全産業は前年比+9.3%と、前回(同+10.8%)から下方修正されると予想する。業種別には、大企業製造業が前年比+12.0%となり、過去の修正パターンに比べて幾分低い結果になると見込む。これまでの高水準の企業収益を背景に、効率化や維持・補修のための設備投資が出ているとみられる一方、輸出の停滞や円高進行を背景に、設備投資を先送りする企業が増えていることがマイナスに作用すると想定した。他方、非製造業は前年比+8.0%と、例年の修正パターンよりやや高い結果になるとみている。海外経済減速の影響を受けやすい製造業とは異なり、非製造業は堅調な企業収益を背景に、前回から大きく下振れすることはないと考えている。
みずほ総研+10
+25
<+10.5%>
2015年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年比+8.0%と、12月調査(同+7.8%)からやや上方修正されると予想する。法人企業景気予測調査の1-3月調査結果と同様に、大企業・製造業が下方修正される一方、中小企業が上方修正される見通しだ。月次指標を確認しても、1月の機械受注(船舶、電力除く民需)が、特殊要因を除くと横ばい傾向であるのに対し、中小企業の設備投資の先行指標と言われる代理店向け機械受注が増加傾向にあり、相対的に中小企業が好調であることがみてとれる。
ニッセイ基礎研+8
+23
<+9.4%>
15年度設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比で8.0%増と、前回調査時点の7.8%増から小幅に上方修正されると予想。例年、3月調査では計画が固まってくることに伴って、中小企業で上方修正される傾向が強く、今回も大企業における下方修正の影響を穴埋めしそうだ。
さすがに経営環境の悪化を受けて一部先送りの動きも出ていると考えられ、昨年3月調査での上方修正幅(0.8%ポイント)には及ばないと思われるが、直近までの設備投資関連指標は底堅く、下方修正は避けられると見ている。とりわけ、労働集約的側面が強い非製造業では人手不足感が強く、省力化投資を進める動機付けになっているとみられる。
第一生命経済研+7
+23
<+9.3%>
マクロ動向を鳥瞰すると、明るい動きが目立つのは設備投資指標に限られる。GDP統計では、2四半期連続のプラスであり、2016年1-3月の「法人企業景気予測調査」(財務省・内閣府)は2015年度の設備投資計画が全産業で前年比8.8%まで上方修正されてきた。企業収益は製造業を中心にして下方修正含みであるが、潤沢なキャッシュフローの中で設備投資に回っていく余力は小さくない。中長期の設備投資需要は緩やかに改善してきているのが実情である。短観でも、2015年度の実績見込み(実績が6月調査で確定する手前)で10%近くの伸び率に着地できるかどうかを確認したい。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+10
+26
<+9.9%>
16年度の設備投資計画は、大企業・中小企業とも、3月調査としては比較的高めの伸び率が示される見通しである。金融市場が徐々に落ち着きを取り戻す中、16年度も引き続き、生産・販売用設備の能力増強投資が活発化する見込みである。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+9
+24
<+9.8%>
2015年度の大企業の設備投資計画は、製造業(前年比+12.0%)、非製造業(同+8.8%)ともに前年比プラスで着地したと見込まれる。15年8月の中国株価下落による海外経済の先行き不透明感の高まりを受けて一時的に投資を手控える動きがあったものの、堅調な企業業績を背景に年末にかけて持ち直し、最終的には前年度を上回る結果になったと考えられる。中小企業についても、業績の改善や金利の低下などを受けて、製造業(前年比+1.9%)、非製造業(同+2.0%)とも増加したと見込まれる。
三菱総研+8
+25
<n.a.>
n.a.
富士通総研+9
+23
<+9.9%>
2015年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年度比7.5%と、12月調査からやや下方修正されると見込まれる。維持更新や人手不足に対応するための省力化投資に対する企業の意欲は強いが、先行指標である機械受注は伸び悩んでいる。大企業製造業や中堅企業製造業は、円高進展による企業業績の悪化や世界経済の不透明性の高まりの影響もあり、下方修正されると考えられる。中小企業は、過去のパターンと同様、上方修正されるが、修正度合いは緩やかにとどまると予想される。今回調査から発表される2016年度の設備投資計画は、慎重な計画(前年度比-5.4%)からスタートすると見込まれる。

見ての通りで、少なくとも3月調査の足元までは景況感はそれほど悪化していないと見込まれています。ただ、不確定要素があまりに多いのでテーブルには取りませんでしたが、各機関とも先行きについては景況感の悪化の方向が示されるのではないかと予想しているようです。さらに、設備投資計画については、2015年度は大企業では下方修正されるものの、中堅企業や中小企業の増加とある程度は相殺される、むしろ増加する可能性もありえる、と見込まれているようです。また、これもテーブルには取りませんでしたが、2016年度は、表現がおかしいかもしれないものの、ややマイナスの「標準的な水準」から始まる、と見通している機関が多かった印象があります。
下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから (図表6) 設備投資計画 (全規模全産業) を引用しています。ただし、下のグラフは全規模全産業であり、上のテーブルに取った大企業全産業とはベースが異なります。

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2016年3月30日 (水)

ヤクルトにボロ負けも最終回の追い上げが明日につながるか?

  HE
阪  神000100003 450
ヤクルト01010510x 8140

ヤクルトにボロ負けでした。ヤクルト今季初勝利に貢献かもしれません。先発岩田投手が中盤までに打ち込まれ、打線も外国人選手のホームラン2本をはじめとする5安打に抑え込まれましたが、9回の反撃が明日につながることを期待します。でも、シーズン序盤からローテーション5人で大丈夫なんでしょうか?

明日はカード勝ち越し目指して、
がんばれタイガース!

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大きなマイナスを記録した鉱工業生産指数をどう見るか?

本日、経済産業省から1月の鉱工業生産指数が公表されています。生産は季節調整済みの前月比で▲6.2%の大きな減産を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の鉱工業生産6.2%低下 トヨタ減産も影響
経済産業省が30日発表した2月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比6.2%低下の93.6だった。2カ月ぶりのマイナスとなり、指数は12年11月以来の低水準となった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は6.0%低下だった。愛知製鋼の工場爆発事故を受け、トヨタ自動車が国内工場の稼働を停止したことが響いたほか、アジア向けのスマートフォン用電子部品も大きく落ち込んだ。
経産省は生産の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。予測指数は3月が3.9%上昇、4月は5.3%上昇となった。輸送機械などで生産の回復を見込んでいる。もっとも3月の予測指数をもとにすると、1-3月は前期比0.7%低下になり、経産省では「1-3月は相当高い確率で前期比マイナスになる」としている。
2月の業種別では15業種中13業種で生産が低下した。自動車などの輸送機械は前月から10.2%低下した。電子部品・デバイスは14.7%の低下となった。2月は春節(旧正月)で中国や東アジアの工場の稼働が止まったほか、需要の低迷も響いた。半導体製造装置などはん用・生産用・業務用機械も7.3%低下した。経産省は「自動車の計画減産がなくても、指数が前月を上回ることはなかっただろう」とみている。
出荷は4.6%低下の93.5、在庫は0.1%低下の112.0となった。在庫率は0.5%上昇の114.1だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は次の雇用統計とも共通して景気後退期です。

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まず、先月の統計公表時点における製造工業生産予測調査でも2月は▲5.2%の減産と見込まれていましたし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは▲6.0%の減産で、予測レンジも▲7.0%から▲4.0%でしたから、表面上は大きな減産ながら市場では織り込み済みなのかもしれません。特に、中華圏の春節が2月だった影響は季節調整では除ききれなかった可能性もあります。トヨタの工場閉鎖も特殊要因です。ですから、かなり大きな減産にもかかわらず、ほぼ予想通り、ないし、計画通りの減産と受け止める向きが多いように私は感じています。そして、下振れするケースが多いんですが、製造工業生産予測調査では2月の▲6.2%をカバーするように、3月+3.9%、4月+5.3%の伸びを見込んでいます。これも引用した記事にある通り、1-3月期は前期比でマイナスがほぼ確定しましたが、逆に見て、1-3月期を底として生産の先行きは回復に向かう可能性が高いと見込むエコノミストは少なくありませんし、私もその1人です。大雑把な感触として、産業別では、自動車をはじめとする輸送機械は堅調ですし、電気機械もほぼ底入れの兆しが見え始め、国際商品市況の石油価格に依存しつつも一般機械も上向く気配があります。需要先別では、外需はまちまちながらも米国経済の堅調ぶりを反映して回復に向かい、賃上げを受けた国内の消費も上向くとすれば、総合的に見て、生産は最悪期を脱して回復に向かう可能性が高いと私は予想しています。
繰り返しになりますが、1-3月期の生産はマイナスになる可能性が極めて高く、設備投資や消費の動向も考え合わせて、1-3月期のGDP成長率はうるう年効果を含めてもプラスかマイナスか、きわどいところではないかと私は受け止めています。もしも、1-3月期が昨年10-12月期に続いてマイナス成長を記録すると、2四半期連続のマイナス成長という形でテクニカルなリセッションに陥ったこととなり、何らかの金融追加緩和や財政などの経済対策がアジェンダに上る可能性が出るかもしれないと私は見ています。

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なお、本日、アジア開発銀行(ADB)から「アジア開発見通し」 Asian Development Outlook 2016: Asia's Potential Growth が公表されています。新興国・途上国アジアの成長率は、2015年の実績+5.9%から2016-17年の両年は▲0.2%ポイント下振れして、+5.7%にとどまると予想されています。この成長率は15年振りの低さだそうです。上のグラフはリポート p.4 から 1.1.1 GDP growth outlook in developing Asia を引用しています。クリックすると、1枚だけの pdf ファイルの見通し総括表が別タブで見られると思います。

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2016年3月29日 (火)

最終回の小さな波乱を乗り越えてヤクルトに完勝!!

  HE
阪  神020030100 672
ヤクルト000100001 281

先発藤浪投手の力投で9回ツーアウトまでこぎつけながら失点し、最後はマテオ投手の救援を仰いだものの、まずは東京ヤクルトに完勝でした。打ってはスタメン捕手に座った梅野選手の先制タイムリー、1点差に追い上げられては主砲ゴメス選手のスリーランで突き放し、7回にもゴメス選手の犠牲フライで止めを刺しました。

明日も、
がんばれタイガース!

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雇用統計にみる完全雇用状態はなぜ賃金を押し上げないのか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、経済産業省の商業販売統計がそれぞれ公表されています。失業率は先月から0.1%ポイント上昇して3.3%を記録し、有効求人倍率は前月から横ばいの1.28倍となっています。一方、商業販売統計では季節調整していない原系列の小売業販売額は前年同月と比べて+0.5%の増加を示しています。まず、日経新聞のサイトから雇用統計の記事を引用すると以下の通りです。

2月の失業率3.3%に上昇 求人倍率は横ばいの1.28倍
厚労省「雇用情勢、引き続き改善傾向」

総務省が29日発表した2月の完全失業率(季節調整値)は3.3%で、前月から0.1ポイント上昇した。良い条件の仕事を求めて自ら離職した人が増えたことが主因で、同省は「雇用情勢は引き続き改善傾向で推移している」と分析した。厚生労働省が同日発表した2月の有効求人倍率(同)は1.28倍で、24年1カ月ぶりの高水準を記録した前月から横ばいだった。
完全失業率は働ける人のうち職に就かずに仕事を探している完全失業者の割合を示す。2月の完全失業者数(季節調整値)は前月比4万人増の216万人。内訳をみると、より良い条件の仕事を探す理由などで自発的に離職した人が3万人増えて88万人となった。
こうした離職者が就職に結びつかなかったため、2月の失業率は前月より小幅悪化したが、3%台前半で推移する傾向が続く。就業率も15-64歳で73.5%(前年同月比0.8ポイント増)と48カ月連続で上昇した。
有効求人倍率は全国のハローワークで仕事を探す人1人あたり何件の求人があるかを示す。倍率が高いほど求職者は仕事を見つけやすく、企業にとっては採用が難しい。
雇用の先行指標とされる新規求人数(原数値)は前年同月より9.6%増の96万6486人だった。業種別にみると、訪日外国人客の増加などを背景に、宿泊・飲食サービス業(23.3%増)や卸売・小売業(11.6%増)などで求人数の伸びが目立った。

いずれも包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、雇用統計については、以下のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は商業販売統計とも共通して景気後退期です。

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労働市場については、ほぼ完全雇用水準に近づいており、引き続き堅調な推移を見せていると考えてよさそうです。ただし、1月から2月にかけての季節調整値を見ると、労働力人口が▲53万人減少したうち、就業者数が▲58万人減少して、失業者数が+4万人増加ですから、また、就業者のうちの雇用者数も▲14万人減少しており、先月1月の大幅な改善からの反動とともに、引用した記事にあるように、4月の新卒の就職や定期異動を前に、よりよい条件の職を探して自発的に離職したケースもあったのかもしれません。私自身は、日銀のインフレ目標+2%を達成するためには、従来構造ながら、フィリップス曲線を基に考えると、失業率は3%をかなり割り込んで2%に近づかないと、達成は困難な可能性があると考えていましたが、少なくともユニバリエイトで見る限り、失業率が3%を割る動きは見出せません。あくまで従来構造を前提にするならば、という意味では、賃金がさらに上昇し、また、インフレ率が2%近い水準に達する失業率には到達しそうもない気がします。

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ということで、従来は日本の労働市場は量ではなく価格、すなわち賃金により調整される部分が大きい、例えば、雇用保蔵が働いて景気後退期にレイオフが発生するよりは、ボーナスで賃金が柔軟に対応する、といった調整が主流だったんですが、フォーマルな定量分析ではないものの、簡単に労働供給について上のグラフを書いて考えてみました。上のグラフは、総務省統計局が公表している性別年齢階級別の就業率から、特にここ数年で上昇の大きい男性の65歳以上と女性の35-44歳を取り出してプロットしています。色分けは凡例の通りです。季節調整していない原系列の統計ですのでジグザグが激しいんですが、一定の傾向は読み取れると思います。すなわち、失業率は、リーマン・ショック直後の2009年半ばの5%台半ばから一貫して低下を続けている一方で、上のグラフで見る通り、2011-12年から男性高齢層と女性中年層の就業率が目に見えて上昇しています。要するに、失業率の低下、というか、人手不足に従って、価格である賃金が上昇するのではなく、比較的就業率の低かった性別年齢別の層、団塊の世代の男性と団塊ジュニアの世代の女性、が労働市場に参入して供給を押し上げている姿が見て取れるわけです。供給が増加して供給曲線を右にシフトさせていることから、賃金引上げにつながっていないと見ることも出来ます。私が地方大学に出向していた際に、リーマン・ショック後のいわゆる「派遣切り」や「雇い止め」に直面して、2009年に「我が国における労働調整過程の変容」と題する紀要論文を取りまとめ、VARプロセスから得られるインパルス応答関数を基に、ボーナスなどの賃金や残業で対応して雇用者数の変動を抑える日本的な労働調整過程に大きな変容は見られない、と結論したんですが、その後、2011-12年ころから、いわゆる団塊の世代の男性と団塊ジュニアの世代の女性の動向をはじめとして、何らかの変化を見せ始めている可能性があります。もっとも、ここ2-3か月の足元では、これらの層でも就業率が低下を見せています。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。なお、影を付けた部分は雇用統計と同じで景気後退期です。消費に関する月次の統計は2種類あって、総務省統計局の家計調査と経済産業省の商業販売統計なんですが、このブログでは後者の統計を信頼性の観点から取り上げています。でも、2月の統計については両者にやや整合性のない結果が示されました。すなわち、いずれも季節調整していない原系列の前年同月比で見て、家計調査は名目で+1.6%増を示した一方で、商業販売統計のうちの小売業販売は+0.5%増にとどまりました。先月2月は4年ぶりのうるう年で29日あり、それなりの伸びを示すと私は予想していましたが、1世帯当たりの消費支出を示す家計調査は伸びを示した一方で、店舗売り上げを集計した商業販売統計はほぼ横ばいに終わりました。上のグラフの通り、季節調整済みの系列でも商業販売統計は前月比でマイナスを続けています。品目や業種別でもやや違いが出ており、商業販売統計では自動車や機械器具などの耐久消費財でマイナスを示しています。1月の正月休みが短かった一方で、2月はうるう年と中華圏の春節が重なるなど、カレンダー要因かもしれませんが、私にはよく理解できません。消費について回復の兆しを見せたとのエピソードは接していないことから、引き続き、商業販売統計の方に信頼を置くべきなのかもしれませんが、ここまでうるう年の効果が小さいのも意外です。疑問を残しつつも、来月以降の統計を見たいと思います。

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2016年3月28日 (月)

読書感想文の番外編は鳥谷敬『キャプテンシー』(角川新書) を読む!

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いつもは土曜日の定番である読書感想文ですが、番外編で週末に読んだ鳥谷敬『キャプテンシー』(角川新書) を取り上げます。
何と言っても、鳥谷遊撃手は阪神のキャプテンであり、現時点では「ミスター・タイガース」にもっとも近い存在であることは確かです。そして、ひとつの特徴は能見投手と同じように、何があっても表情を崩さず体で表現せず、ポーカーフェイスを保ち続けるところです。その疑問に応える第1章から始まって、アマチュアのころを振り返った第2章、プロ入りしてからのパーソナル・ヒストリーを語った第3章、連続出場の意味を考える第4章、大リーグ挑戦と結果としての生涯タイガースの選択を明らかにした第5章、そして、最終章でキャプテンの意味を鳥谷選手なりに解釈した上で、勝つキャプテンがいいキャプテン、と結論しています。

阪神ファンは必読です。必ず読んでおくべきです。我が家では私が読んだ後、上の倅に渡しておきました。

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2016年3月27日 (日)

1点差を必死に逃げ切って開幕カードは勝ち越し成功!!

  HE
中  日000220000 4100
阪  神12100100x 5110

今日は懐かしの藤川投手の先発で、序盤から得点も入って大いに盛り上がりました。それにしても、中日の新外国人ビシエド選手に打たれまくって同点にされながら、我が阪神も新外国人ヘイグ選手の勝ち越しタイムリーが出て、最後は必死の継投で逃げ切り、開幕3連戦は2勝1敗で勝ち越しました。
「超変革」の旗印の下、試合展開を見ていると、選手はやや疲れが溜まりそうな気がしないでもありませんが、鳥谷選手の『キャプテンシー』によれば、野球が仕事なんですからがんばって行きましょう。

次のヤクルト戦も、
がんばれタイガース!

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週末ジャズはマル・ウォルドロン Left Alone を聞く!

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週末ジャズはマル・ウォルドロンの Left Alone です。このアルバムも、モダン・ジャズの名盤ベスト10はともかく、ベスト100くらいであれば、余裕で入る1枚ではないかと私は考えています。ただ、日米で評価が異なり、ジャズの本国である米国では日本ほど評価されていないとも聞き及んでいます。それから、いいジャズを収録したアルバムは、ジャケットのデザインもすぐれているといわれているんですが、上の画像の通り、このアルバムについては、私はさほどのセンスは感じません。でも、ビリー・ホリデイの背後霊を背負ったマル・ウォルドロン、というか、ジャケットにある通り、her former pianist and his trio がビリー・ホリデイのムードでピアノを弾いているわけです。曲の構成は以下の通りですが、最後にインタビューが4分ほど入っています。

  1. Left Alone
  2. Catwalk
  3. You Don't Know What Love Is
  4. Minor Pulsation
  5. Airegin

マル・ウォルドロンのピアノをジュリアン・ユーエルのベースとアル・ドリアースのドラムスがサポートしています。1曲目のみジャッキー・マクリーンのアルトサックスが入っており、印象的なテーマを奏でています。3曲目と5曲目が有名なスタンダード曲である以外は、リーダーのマル・ウォルドロンの作曲となっていて、わずか5曲でインタビューを除けば40分足らずのアルバムですが、ハズレの曲はありません。むせび泣くようなマクリーンのアルトサックスの絶唱も大いに聞きごたえがあります。なお、先頭曲はビリー・ホリデイが歌ったわけで、ご本人が歌詞をつけています。歌詞は以下のサイトにあります。ご参考まで。

このアルバムも夜遅くに聞いたいところなんですが、タイガースの試合が始まってしまいましたので、取り急ぎ、書き上げてアップします。

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2016年3月26日 (土)

今週の読書は『分断社会を終わらせる』のほか計8冊!

今週の読書は、勤労国家レジームを打破して受給対象の拡大を提唱する井手英策・古市将人・宮﨑雅人『分断社会を終わらせる』のほか、以下の通り計8冊です。

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まず、井手英策・古市将人・宮﨑雅人『分断社会を終わらせる』(筑摩選書) です。著者たちは大学の研究者であり、専門分野は大雑把に財政学や公共経済学と考えてよさそうです。例えば、井手教授の著書については、3年ほど前の2013年1月12日付けのエントリーで『財政赤字の淵源』を取り上げ、我が国の租税抵抗感について、徴収した税を社会保障で国民に還流させる北欧のような福祉国家ではなく、土建国家として公共事業で還流させたため、手厚く処遇される集団とそうでない集団が生じてしまい、不公平感が根強くて増税に抵抗感が大きい、との紹介をしています。また、古市講師は2015年3月8日付けのエントリーで紹介した『租税抵抗の財政学』の共著者だったりします。ということで、本書では我が国の財政についての分析を行い、井手教授の『財政赤字の淵源』で提唱した土建国家レジームを勤労国家レジームと呼び換え、特定の困っている人や社会階層に対する給付という発想を捨てて、副題にあるような「だれもが受給者」という財政戦略を明らかにしています。例えば、特定の貧困層などに対する生活保護などの限定給付ではなく、中間層も給付対象に取り込んで再配分の罠を乗り越え、教育などでは自己負担ではなく社会で教育を担ったり、あるいは、疾病などのリスクを分担したりすることにより自己責任の罠から脱出し、教育や医療・福祉といった国民生活に必要な公共サービスをライフスタイルに従ってバランスよく配分することにより必要ギャップの罠を解消する、と位置付けています。今まで財政とは誰かから徴収した税を、特定の困っている誰かに再分配することにより機能して来ましたが、それでは徴収される人と給付される人の間で分断が生じることから、租税徴収についても給付についても幅広い対象を設定することにより、例えば世代間の不公平などの見方を克服しようとする意見であろうと受け止めています。そして、大きな反論としては、租税徴収と給付を幅広く行えば、現状の日本の小さな政府ではなく大きな政府になり、効率性が阻害されたり成長が低下したりする意見がある可能性に配慮し、決して、大きな政府が効率や成長を阻害するわけではないし、現に小さな政府の我が国では成長が停滞している事実を指摘しています。私はこういった方向には大賛成ですし、本書もスラスラと読めますので、多くの方が手に取ることを願っています。これは、私の最大の評価のひとつです。

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次に、逢沢明『失敗史の比較分析に学ぶ 21世紀の経済学』(かんき出版) です。なかなか楽しいキワモノ書です。著者は表紙画像には「数理エコノミスト」となっていますが、私のような読者のレベルを考慮してか、数理経済学はほとんど展開されていません。『国債パニック』という著書があるようで、本書の中だけでも財政破綻について何度か言及されていますが、信用創造の阻害が経済停滞の元凶であるとしつつも、リフレ派経済学には無理解なのは、私にはまったく理解できません。とはいうものの、GDPから政府の公債発行を差し引いて考えるべきではないか、といった興味深くも正統派の経済学では考えられないようなアイデアも満載です。1929年の米国株式市場の暴落に端を発する世界恐慌はいうに及ばず、ナチスや戦前の旧日本軍までいろいろと持ち出してデフレ経済を考えるのは、正統派エコノミストと同じように歴史を省みていて、とてもいいことではないでしょうか。また、バブルについてもオランダのチューリップ・バブルから解き明かして、合理的なバブルを認識しているのは、私も同意するところです。でも、合理的なバブルとそうでないバブルのどちらもが弾けるのはどうしてかも考えて欲しかった気がしないでもありません。最後に、ピケティ教授の『21世紀の資本』から、何かと「21世紀の」をつけると売行きがよくなるというか、私のように借りてみたくなる度合いが強くなるのは確かなのかもしれませんが、フランス代表はピケティ教授の『21世紀の資本』、英国代表はこのブログでも取り上げたアトキンソン教授の『21世紀の不平等』にして、現時点までの日本代表が「失敗史の比較分析に学ぶ」という枕詞がついているもののこの『21世紀の経済学』というのは、少し考えさせられるものがあります。というか、大いに考えさせられます。それとも、私がほかの「21世紀の」日本代表を知らないだけなんでしょうか?

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次に、ピーター・ゼイハン『地政学で読む世界覇権2030』(東洋経済) です。著者は容易に想像できるように地政学の専門家で、民間情報機関ストラトフォーの出身らしいです。原書は2014年に刊行され、英語の原題は The Accidental Superpower です。ということで、本書は、貿易パターンの変化、人口の反転、シェール革命などのエネルギー・パターンの激変に起因して、近く先進国が大規模な危機に陥ると予告した上で、エジプトから人類文明の歴史を地政学で解き明かしつつ、実際の国々のこの先の見通しを明らかにしようと試みています。他の類書と異なる大きな点は、先行き見通しをあいまいにすることなく、極めて大胆に予言していることです。ハッキリいって、驚くほど率直というか、極めて嘘くさい気すらする読者もいそうな気がします。それにしても、エコノミストの観点からすれば、戦後のブレトン・ウッズ体制を米国市場への無制限のアクセスと米国海軍による海上輸送路の安全確保、それに対する見返りとして、参加国の市場開放と捉え、その意味で、まだブレトン・ウッズ体制は続いているとする見方には、やや驚きつつも、何となく受け入れられる気がしないでもありませんでした。大航海時代から20世紀初頭の帝国主義の時代まで、必要な原料と市場は武力で奪いに行くものであり、交易で入手するという選択肢は限られていたのかもしれませんが、戦後、それが主流になったのは事実です。ただ、エコノミストの多くは1970年代前半に固定為替相場制が崩壊した時点で、ブレトン・ウッズ体制は終焉したとするのが多数派のようです。しかし、デモグラフィックな少子高齢化と人口減少、それに、シェール革命に代表されるエネルギー・パターンの激変については、私も同意しますが、作者の言う意味での自由貿易体制としてのブレトン・ウッズ体制の終焉には、どうも疑問が残ります。ただ、米国が世界への影響力を低下させているという点について、多くの論者は米国自身にそのパワーがなくなった、との見方を取っているのに対して、本書の著者は、シェール革命によるエネルギー自給に伴って、米国が世界戦略に対して興味を失ったのが原因、との見方を示しています。そうかもしれないと思わせるものがあります。もっとも、8章までの論理構成に比して、9章からの現実の諸国の先行き見通しは、かなり大胆としても、やや的外れな部分も含むような気がします。例えば、10章で日本は攻撃的な方向を志向して、エネルギーを求めてサハリンを侵略するそうです。多くの日本人は疑問を持つことと思います。ですから、本書の結論である11章で欧州回帰が予言されても、やや眉に唾をつけてしまいかねません。しかも、14章で中国の派遣はハッキリとリジェクトされています。要するに、米国は世界展開や世界戦略に興味を失うんですが、回帰先の欧州と孤立する米国以外の国はすべてダメという結論です。でも、今週の読書ではもっとも面白かったです。

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次に、ルイス・ドフリース『食糧と人類』(日本経済新聞出版社) です。著者はコロンビア大学の研究者で、経済・進化・環境・生物学部、いわゆるE3Bの所属です。原書は2014年に出版され、表紙画像は見にくいんですが、英語の原題は The Big Rachet となっています。ということで、本書の出だしがふるっています。すなわち、人類が自然条件を克服して繁栄、というか、人口増を成し遂げた、と考えるのか、あるいは、人類が地球をやりたい放題に収奪し、かえって人類や地球の将来を危うくしているのか、という問いを立てています。もちろん、数百ページの本で議論が尽きて結論を得られるようなわけには行きません。そして、本書はその議論の一助となるべく、食料生産に関する歴史を延々とひもといています。その過程で注目すべきは、私は肥料とエネルギーだという気がしました。特に肥料については南米のグアノはいいとしても、日本でいうところの干鰯などの肥料についてスルーされているのは理解できませんでした。一足飛びに硫安系の化学肥料に飛んでいます。また、基本は農業とそれに付随する酪農・畜産でいいとは思うんですが、水産業で水揚げされる魚類にも触れて欲しかった気はします。レイチェル・カーソンの『沈黙の春』は触れざるをえないんでしょうが、まあ、これくらいの軽い扱いで終わるんだろうなという気はします。どうして邦訳のタイトルを「食糧」にして、「食料」にしなかったのかは理解できませんが、大きく括った文明史として農村などにおける食料生産と都市での消費を視野に入れつつ、ごく現代に近い時代のみ加工食品を視野に入れています。最後に、最初の本書の問い建てに戻ると、本書にやや近い読後感を持つジャレド・ダイヤモンド教授の本は後者の人類が地球を破壊しつつある、というトーンだと記憶していますが、私自身は圧倒的に前者の人類が自然条件を克服して繁栄を極めた、という史観に近い気がします。特に、20世紀の人口爆発と絶大なる生産性の向上の背景には緑の革命 Green Revolution による食料生産の大きな増加が欠かせないと理解しています。

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次に、マーク・マゼッティ『CIAの秘密戦争』(早川書房) です。著者はエコノミスト誌などの記者を経て、現在はニューヨーク・タイムス紙のジャーナリストです。本書は初めての著書といいます。原題は The Way of the Knife であり、2013年に出版されています。本書の冒頭に米国などでの書評が一気に並べられていますが、邦訳の冒頭がこういった形になるのはやや違和感があります。内容は当然ながら、タイトル通りに、インテリジェンス機関である米国のCIAが、いわゆる「テロとの戦い」において、情報の収集・分析だけでなく実力行使という軍隊の領域まで踏み込んだ活動を繰り広げている実態を明らかにしています。ただ、逆もまた然りであり、軍の方でもインテリジェンス活動に乗り出して来たりしている事実もあります。基本的に、インテリジェンス機関は文官から成っていて、情報を収集し、かつ、それを分析して政府のトップ、米国では大統領、日本では総理大臣に報告するのが役割であり、その情報を基に政府で然るべく判断を下して軍隊の行動に結びつける、というのが文民統制の基本であり、情報収集・分析と軍事行動が同じ機関によって担われると、情報が歪められるおそれが大きくなりかねません。もちろん、実態としてはインテリジェンス機関であっても軍人が情報収集や分析に当たっている場合もあるでしょう。例えば、フィクションですが、英国MI6に所属するジェームズ・ボンドはオックスフォード大学卒業後、海軍に入って中佐の階級で退役し、私が昨年暮れに見た007シリーズ最新映画「スペクター」では上司に命じられてメキシコまで暗殺に赴きます。007はともかく、本書に戻ると、インテリジェンス活動と軍事活動が、かなりクロスオーバーするようになった実態を明らかにするとともに、「テロとの戦い」において予算が潤沢になり、国家組織だけでなく、民間インテリジェンス会社や民間軍事組織、例えば、このブログで一昨年2014年10月18日に取り上げたジェレミー・スケイヒル『ブラックウォーター』で明らかにされている活動などにも焦点が当てられています。私のような専門外のエコノミストなんぞが読むと少し混乱してしまいかねない出来事も少なくありませんし、事実であろうとはいうもののドタバタと出来の悪いスパイ映画のような部分もあったりします。必ずしもリベラルな立場からのインテリジェンス機関や軍に対して批判的な内容ではないんですが、少なくとも本書に収録されているような事実に対するアクセスが図られるのは、もっとも重要なジャーナリズムの使命のひとつと考えるべきです。

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次に、姫野カオルコ『謎の毒親』(新潮社) です。私はこの作者の作品はかなり読んでいるつもりで、この作品は作者の自伝的な要素を含む小説ではないかと直感的に受け止めています。何かのサイトで、根拠不明ながら、エピソードはすべて著者の実体験に基づいていると見たような記憶があります。ということで、この作品は書店の壁新聞「城北新報」の「打ち明けてみませんか」と題するコーナーに、その昔に書店の顔なじみだった女性から相談のお便りを出す形で話が進んで行く相談小説のスタイルをとっています。投稿による相談に、壁新聞の編集をしている書店主などが回答するわけです。ただし、相談者は常に同じなんですが、回答者は書店主の妻とか、時々交代もします。投稿者の女性は、最初こそ小学校でのイジメっぽい事件を相談するものの、そのうちに、ずっと胸に溜め込んでいた幼いころに両親から受けた不可解な仕打ちを相談し始めます。例えば、ヘッセの小説の題名をいって父親に怒られたり、鼻の病気だと父や母から別々にミョーな不幸の予言をされたり、無一文でレストランに一人置いて行かれたり、などです。回答者サイドも混乱し理解に苦しむ親の言動や行動は、心が痛むエピソードの連続ですが、投稿者は回答を励みに心に長々と暗い影を落とし続けている「毒親」と向き合い、陰鬱な感情を昇華させます。最終章で両親に投げかける言葉が胸に響くかもしれません。でも、ヘンな親で子供がイヤな思いをするわけですから、相談の中には微笑ましいものも少なくないんですが、必ずしも読後感は決してよくない気がします。また、私自身が男で、子供も男の子しかいませんので、女の子の相談小説に対する理解が進まない部分もあります。加えて、タイトルが少し「引く」感じがするので、そこまで自信を持って強気で出版したとすれば、かなりのもんだという気がします。私はこの作者のファンですから、大いに応援していますが、直木賞受賞を経ていよいよ大作家への道が開けて来たんでしょうか?

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次に、嶺里俊介『星宿る虫』(光文社) です。作者は50歳超ながらほぼ新人らしく、この作品は昨年2015年の第19回日本ミステリー文学大賞新人賞の受賞作です。物語は長野県から始まります。すなわち、長野県の新興宗教「楽園の扉」の施設が燃え、不審な遺体が多数発見され、また、同じころ、静岡県山中で見つかった老婆に見える遺体が発見され、いずれも光を放つ虫の大群に覆われ、内部から未知の虫に食われて内臓が食いつくされており、流れ出す血液は黄色に変色し、遺体周辺では讃美歌のような響きが聞こえる、という、とてつもなく非日常的で不気味なところからストーリーが始まり、警察は獣医であり法医昆虫学者の御堂玲子に米国から帰国して調査に当たるよう依頼し、また、妹を虫に食い殺された大学生の天崎悟も伯母の御堂玲子とともに、真相解明に当たる、という展開となります。もちろん、この2人が主人公です。途中から虫なのか、ウィルスなのか、私は読み飛ばしてしまったのかもしれませんが、老化が極端に早く進む病気だか現象だかが原因と突き止められ、最初に書いた静岡県山中で見つかった老婆に見える遺体は天崎悟の妹と判明したりします。ミステリですから、結末は書きませんが、おぞましい方法による虫被害の回避策は発見されたものの、私から見て、結局、謎は解明されなかったような気がします。ですから、単なるホラー小説と受け止める読者もいそうです。私の読書の範囲内で考えれば、虫関係ですから、このミス大賞の安生正『生存者ゼロ』とか、線虫まで入れればホラーの貴志祐介『天使の囀り』などに近いセンといえます。あるいは、わけの分からない不治の病気という点では久坂部羊の『第五番』に似ていて、病気が解決されないという点も同じです。特に、ホラー小説『天使の囀り』と同じで、このままストーリーを進め切れば人類が滅亡するんではないかという方向に進みそうな気もします。でもまあ、エボラ出血熱も封じ込められたんですから、この虫被害も平定されるのかもしれません。ただ、タイトルにはやや不満があり、主人公の大学生の属する研究室では「虫宿る」がとてもいい意味で使われているにもかかわらず、このタイトルに持って来たのは理解できません。賛美歌と天使の囀りの類似性も気にかかります。少し疑問を残しつつ、読後感も決してよくなかったといえます。

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最後に、楠木新『左遷論』(中公新書) です。著者は人事管理の部門が長く、関西系の大手生保を定年退職した人物だそうです。タイトルは鎖線ですが、基本的に人事一般を論じている新書です。最初に、能力などの人事評価については事故評価は3割増しといいますし、米国では自分の自動車運転は平均以上であると自己評価するのは8割に上るとすら言われています。ですから、私なんぞが典型なんですが、能力なく人事評価が低い場合には、極めて不満が噴出しやすく、高過ぎる自己評価と人事部門の評価の差に憤慨したりするわけです。ただ、本書でも左遷を期にいい方向に転換した例が豊富に収録されていますが、おそらく、本書の例は極めてまれな少数に過ぎず、実は、左遷により人生が沈んで行った人がほとんどなんではないかと私は想像しています。ただ、昔の日本の社会のように会社が人生のすべてというわけでもなくなり、水曜日に取り上げた新社会人の動向のようにプライベートな生活を重視する方向が大きくなり始めていますから、会社の中で左遷され人事で冷遇されても、会社以外のプライベートな生活で人生をエンジョイできれば、決して悪くはない、という考えも主流になりつつあるような気がします。私のように、人事評価の被害者だと自負している人間の読むべき本ではなく、人事評価で加害者になっている人の言い訳の本ではないかという気がしないでもありません。

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2016年3月25日 (金)

金本新監督のシーズン開幕戦は黒星でスタート!!

  HE
中  日000111110 5131
阪  神100010000 252

いよいよシーズン開幕です。今季は金本新監督を迎えて、大いに期待が盛り上がります。
でも、試合内容は昨シーズンと同じで、サッパリ打てません。走塁だけは見るべきものがあり、ヒット・エンド・ランも決まりましたし、西岡選手やメッセンジャー投手まで走り回っていた印象があります。でも、塁上を賑わしても5安打では勝てません。明日は打線の奮起を期待します。

明日は、
がんばれタイガース!

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前年同月比横ばいの消費者物価指数とかろうじてプラスの企業向けサービス価格指数から何を読み取るべきか?

本日、物価指標が2つ公表されています。すなわち、総務省統計局から消費者物価指数 (CPI)が、また、日銀から企業向けサービス物価指数 (SPPI)が、それぞれ公表されています。いずれも2月の統計です。前年同月比上昇率で見て、生鮮食品を除くコアCPIは2か月連続で横ばいを記録した一方で、SPPIは+0.2%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

全国消費者物価、2月は横ばい 3月都区部はマイナス幅拡大
総務省が25日発表した2月の全国消費者物価指数(CPI、2010年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く総合が102.5と、前年同月と比べ横ばいだった。横ばいは2カ月連続で、QUICKの市場予想(0.1%上昇)には届かなかった。一方、先行指標となる3月の東京都区部のCPI(中旬速報値、生鮮食品除く)は0.3%下落し、2月(0.1%下落)からマイナス幅が拡大した。
2月の全国CPI(生鮮食品除く)は、原油安の影響で電気代や都市ガス代の下落幅が1月より拡大。エネルギー関連の品目が引き続き軒並み値下がりした。一方、生鮮食品除く食料や外国パック旅行などの物価は上昇した。2月は外国為替市場で円高・ドル安が進んだものの「現下の物価動向に大きく影響したとは見ていない」(総務省)という。
食料・エネルギーを除く「コアコア」の指数は101.1で0.8%上がり、上昇率は1月(0.7%上昇)からやや拡大し。生鮮食品を含む総合は前月の横ばいから0.3%の上昇へ変わった。総務省は「エネルギーの下落の影響を除けば、緩やかな上昇基調」との見方を変えなかった。
東京都区部の3月のCPI(生鮮食品除く)は3カ月連続でマイナスとなった。年初からの原油相場の一段安を受け、電気代や都市ガス代、ガソリン代の下振れ圧力が強まった。一方で「コアコア」のCPIは0.6%上がり、上昇率は2月から0.1ポイント拡大した。併せて発表した東京都区部の15年度のCPI(生鮮食品除く)は前年比で横ばいだった。
2月の企業向けサービス価格、前年比0.2%上昇 前月から伸び鈍化
日銀が25日発表した2月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)は102.5と、前年同月に比べ0.2%上昇した。外国人観光客向けサービスは引き続き好調だが、原油安による輸送費の下落などの影響で伸び率は1月の確報値(0.3%上昇)から鈍化した。前月比では横ばいにとどまった。
前年比での上昇は32カ月連続。ただ伸び率は13年10月以来の低水準となった。
品目別に前月と比較すると、前年の大型企画の反動などでテレビ広告が大きく上昇幅を縮小した。外航貨物輸送も燃料価格の一段安や円高の影響で下げ幅を拡大した。一方でアジア方面を中心に好調だった国際航空旅客輸送は上昇した。
日銀は「国内需給の改善による値上げは緩やかに続いている」(調査統計局)との見方は変えていない。ただ国際商品市況の先行きや、4月の価格改定の動向は注視が必要としている。
上昇品目は61、下落品目は54。上昇品目と下落品目の差は7と、1月確報値の5からは拡大した。
日銀は今回、14年9月以降の数値を見直した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。東京都区部の統計だけが2月中旬値です。いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。

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繰り返しになりますが、2月のコアCPI上昇率は1月に続いて2か月連続で前年比横ばいでした。2月統計では宿泊料や外国パック旅行などの押し上げ要因によりゼロだったですが、私を含めて多くのエコノミストは先行きはマイナスに転じるものと予想しています。早ければ3月統計からマイナスになる可能性も十分あります。実際に、東京都区部コアCPIの3月中旬速報値では前年同月比で▲0.3%であり、3か月連続でマイナスを記録しています。引用した記事にもある通り、食料とエネルギーを除いたコアコアCPI上昇率は+1%を切っているとはいうものの、まだプラスなんですが、これもエネルギー価格が川下に浸透するにつれてプラス幅を縮小させると考えるべきです。要するに、足元の物価動向は日銀のインフレ目標+2%から遠ざかっているわけです。もちろん、先行きCPI上昇率がマイナスになるとしても、ほぼすべてエネルギー価格と円高による輸入物価の下落の影響であり、上のグラフで見ても2月統計でもエネルギーの寄与度はほぼ▲1%あります。加えて、今春闘は3年連続でベースアップがあったものの、安倍総理が「もう少し期待をしていた」と発言していたように、やや物足りない結果に終わりそうですから、日銀においても4月の金融政策決定会合で「展望リポート」の物価見通しを1月時点での2016年度+0.8%から下方修正する可能性が高く、これと合わせて追加緩和に踏み切るんではないか、と予想するエコノミストも少なくありません。

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続いて、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。2月のSPPI前年同月比上昇率は+0.2%とプラスを維持したものの、前月からプラス幅は縮小しています。単月の動きながら、2月統計で上昇幅が縮小したのは広告の寄与が大きく、これは企業収益が停滞している影響ではないかと私は危惧しています。もちろん、国内の人手不足による人件費コストの上昇に比較して、国際商品市況の石油価格の下落を上回った影響も無視できません。ここ数か月でSPPI上昇率はほぼ膠着した状態にありますが、人手不足による人件費上昇の影響と石油価格下落の直接なしい間接の影響の綱引きになる点は変わりないものと考えてよさそうです。

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2016年3月24日 (木)

「スマホゲーム市場に関する調査結果 2015」やいかに?

かなり旧聞に属する話題ですが、矢野経済研究所から3月14日に「スマホゲーム市場に関する調査結果 2015」が明らかにされています。私が電車の中などで見かける限り、少し前まではスマホを操作している人はほとんどゲームをしているような印象があったんですが、最近ではスマホゲームもかなり下火となり、むしろ、SNSの方が多いんではないかとすら見えます。直感的には、スマホを操作している人の半分以上はゲームかSNSのような気がしないでもありません。

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ということで、矢野経済研究所のリポートから 図1. 国内スマホゲーム市場規模推移と予測 を引用すると上の通りです。やっぱり、というか、何というか、昨年2015年あたりからスマホゲームの伸びはかなり急ブレーキがかかって伸びが鈍化しているような印象です。ですから、リポートでも、「今後は、有力な現地法人と協業したゲームアプリを含め、様々な日系企業のスマホゲームが海外へ展開されていくものと考える。」と海外展開の必要性を強く示唆して報告を締めくくっています。

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2016年3月23日 (水)

新社会人の働き方に関する意識やいかに?

先週水曜日の3月16日付けで、フリーキャリア総研から1億総活躍社会の実現に向けて、 新社会人の働き方に関する意識調査の結果が発表されています。図表を中心に簡単に紹介しておきます。

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3枚の図表を一気に縦につなげているんですが、上から順に「社会人になったら、どのような働き方を希望しますか?」とその理由、そして、「10年後の日本はどのような働き方を実施すべきと考えますか?」となっています。当然ながら、「会社員として企業で働き続ける」がもっとも多くて62%、次いで「会社員の他に別分野での活動をする」27%となっています。その理由は真ん中のテーブルにあり、「安定した仕事をしたい」66.9%がもっとも多く、保守的な傾向があること伺えます。「会社員として企業で働き続ける」の理由になっているのかもしれません。他方で、「プライベートの時間を大切にしたい」30.9%、「自分のスキルを活かしたい」28.1%、などが「会社員の他に別分野での活動をする」の理由でしょうし、続く「常に新しいことにチャレンジしたい」20.9%、が上のグラフの「独立し、自分の会社を立ち上げる」の基になっていそうな気もします。最後の一番下のテーブルでは、「10年後の日本はどのような働き方を実施すべきと考えますか?」との問いに対して、1位は「残業しない風土作り」48.2%、続いて「仕事と家庭を両立しやすい環境」37.4%など、仕事一辺倒ではないプライベートの充実も確保できる仕事環境に対する問題意識が現れているような気がします。

調査対象が1993年4月2日から1994年4月1日生まれですから、基本的に大卒新社会人ではないかと思いますが、いかんせん、サンプルがたったの139名のようですから、大きな誤差も含まれていそうな気もします。また、年度が明ければ大規模な新社会人に関する調査を取り上げたいと思います。

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2016年3月22日 (火)

お花見に訪日する中国人観光客の動向やいかに?

東京では昨日にサクラの開花が発表されたところですが、そろそろお花見シーズンを迎え、また、今週末はイースターですし、訪日外国人観光客の動向も気にかかるところです。イースター休暇とは関係ないものの、「爆買い」の流行語になった中国人観光客のお花見動向について、先週木曜日の3月17日付けでトレンドExpressが提供しているレポートサービス「図解中国トレンドExpress」から、中国のSNS上のクチコミを基に、今年のお花見に訪日する中国人客の傾向や需要の分析結果が「訪日中国人のお花見需要」として発表されています。図表を引用して簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、上のグラフは日本のサクラに関する注目度の代理変数として、年別の「日本の桜」に関連した書き込み件数と実際に行く予定があるユーザーの割合を取ってプロットしてあるようです。SNS上の書き込みだけでなく、中国メディアの「日本の花見」に関連した報道数も大幅に上昇しており、今年は昨年以上にお花見のために訪日する中国人が増えると予想される、と結論しています。

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次に、上のグラフは中国のSNS上で「日本に桜を見に行く」と言及していた書き込みについて、場所に注目し分析した結果がプロットされています。1位京都、2位東京、3位清水寺、4位大阪と続き、清水寺は京都の部分集合という気もしますが、京都・東京・大阪などの大都市のサクラの名所が念頭にある訪日中国人観光客が多いことが伺われます。もちろん、サクラの花見だけでなく買物や観光などもセットになっているんでしょうから当然です。

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2016年3月21日 (月)

今春のサクラの開花予想やいかに?

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やや旧聞に属する話題ですが、ちょうど1週間前の3月14日にウェザーマップからさくら開花予想2016が発表されています。さくら開花前線は上の画像の通りで、東京は3月18日ころの予想です。
昨年の11月から今年1月半ばにかけて気温が高い状態が続き、記録的な暖冬となりましたが、暖冬はサクラの花芽が休眠から目覚めにくく、開花が遅くなる要因となる一方で、1月末以降も気温が高い日が多く、3月中旬ころから再びかなりの高温傾向となる見込みのため、暖冬による影響を考慮しても平年よりも早い開花となるところが多い、との予想となっています。
なお、同時に各地の見ごろ予想も明らかにされています。以下の通り、東京では3月26日から4月3日ころとの予想です。

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2016年3月20日 (日)

週末ジャズはソニー・クラーク、Cool Struttin' を聞く!

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週末ジャズはソニー・クラークの Cool Struttin' です。このアルバムも、ソニー・ロリンズの Saxophone Colossus やカーティス・フラーの BLUESette などと並んで、モダン・ジャズの名盤ベスト10に余裕で入る1枚ではないかと私は考えています。それから、いいジャズを収録したアルバムは、上の画像の通り、ジャケットのデザインもすぐれています。想像するに、軽くスリットの入ったタイト・スカートにパンプスを履いたキャリア・ウーマンらしき女性が、さっそうとマンハッタンを闊歩している雰囲気がよく出ています。

  1. Cool Struttin'
  2. Blue Minor
  3. Sippin' at Bells
  4. Deep Night
  5. Royal Flush
  6. Lover

リーダーはピアノのソニー・クラークなんですが、これもジャケットに見える通り、ホーンはトランペットのアート・ファーマーにアルトサックスのジャッキー・マクリーン、リズムセクションはベースのポール・チェンバースとドラムスのフィリー・ジョー・ジョーンズです。1曲目と2曲目と5曲目とがソニー・クラークのオリジナル曲のほか、3曲目はマイルス・デイビスの作曲ですし、他はスタンダードに近い曲と考えてよさそうです。ハード・バップのベスト・アルバムのひとつであり、1958年の録音でブルー・ノートからリリースされています。クラークのピアノもいいですし、マクリーンのアルトもとてもいいです。夜遅くに聞きたい1枚です。

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2016年3月19日 (土)

今週の読書は橘木教授の『貧困大国ニッポンの課題』など計7冊!

今週の読書は、格差問題に詳しい橘木教授の『貧困大国ニッポンの課題』など、以下の通り、計7冊です。

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まず、橘木俊詔『貧困大国ニッポンの課題』(人文書院) です。著者はおなじみのエコノミストであり、本書の主張もそうなんですが、成長よりも分配を重視する経済学者です。本書はいろんな機会に著者が公表してきた論文やエッセイを取りまとめたものですが、第Ⅰ部が格差と貧困、第Ⅱ部が福祉、第Ⅲ部が教育の3部構成となっています。あとがきに沿って内容を要約すると、まず日本では貧困で苦しんでいるのは誰か、ということを明らかにした上で、なぜそれらの人が貧困に陥ったかを、社会学と経済学の視点から解釈を施し、さらに、社会に用意された諸制度の効果との関連を明らかにし、特に重点的に記述した分野は、家族の変容の効果、不況の下で支払い能力を低下させた企業の役割、年金、医療などの社会保障制度、人がどこまで受けられるかという教育制度、そして労使関係や最低賃金といった労働制度ということになります。これらの諸制度は日本から貧困者を削減することに寄与するわけですから、どのような制度が望ましいのか、そしてそのような制度にするにはどのような政策を施せばよいかを論じています。私は基本的に著者の立場に賛同するものであり、特に、第Ⅲ部の教育については公費負担の増額による格差是正がもっとも強く求められていることを主張しておきたいと思います。ただ、第Ⅱ部を中心としてやや古い論文が多く、後に取り上げる『日本 呪縛の構図』で解き明かされているような現政権の方向性、すなわち、政治外交や安全保障政策ではかなり右派的な方向を主張しつつも、経済面では賃上げや同一労働同一賃金などを経済界に迫る姿勢の解明などが出来ていません。まさか、意図的に避けているんではないでしょうから、現在の安倍政権に関する著者の新しい認識を知りたい気がしてなりません。

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次に、イエンス・ベルガー『ドイツ帝国の正体』(早川書房) です。著者はドイツのジャーナリストであり、本書の副題が「ユーロ圏最悪の格差社会」となっている通り、ドイツの経済社会の格差について告発する本となっています。ただし、原書の出版は2013年ですから、少し翻訳まで間隔が空いた印象かもしれません。ということで、ドイツといえば、いっしょに手を組んで戦争に負けたのは大昔のお話としても、英仏と並んで欧州バリバリの先進国であり、医学をはじめとして科学技術も最先端で、経済的にも良好なパフォーマンスを示している、という印象があったんですが、本書ではそのドイツ経済の歪みを格差の観点から明らかにしようと試みています。特に、資産格差の大きさを主張し、企業規模に従った格差や自営業者の貧困を取り上げるとともに、税制などの格差容認制度を明らかにしています。世界的な経済格差拡大の始発点として、英米でサッチャー政権とレーガン政権という新自由主義的な保守政権が成立した1980年ころを境に、ドイツでも経済的な格差が拡大し始め、累進税率の引き下げや法人税の軽減、しかし、消費税率の引き上げなどにより富の集積を促進したと主張しています。こういった1980年ころを起点とする格差の拡大については、英米だけでなく、日本やドイツにおいてもまったく同じ歩みと見なすべきでしょう。著者はジャーナリストであって、エコノミストではないんですが、最終章で格差是正のための16の提言を明らかにしています。まず、富裕層に対する統計調査を実施して実態を把握しつつ、資産税の再導入、優遇税制の撤回、高税率の累進課税の導入、外国所得への課税強化などの必要性を指摘しています。制度的にドイツ特有の要因も少なくありませんが、日本をはじめとして世界的に共有できる格差是正の方向性も打ち出されています。それなりに、精度の違う国への適用は慎重であるべきかもしれませんが、格差是正の必要性やその方向性については大いに同意できると私は受け止めています。

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次に、R. ターガート・マーフィー『日本 呪縛の構図』上下(早川書房) です。著者は日本在住が長く、外資系の投資銀行勤務の後に現在は筑波大学において日本や東洋に関する研究者をしています。でも、本書は本格的な研究保・専門書というわけではありません。また、著者はやや「遅れて来たリビジョニスト」であり、本書でも明確に日本異質論に立脚しています。もっとも大きなポイントは明確に戦後日本の対米従属を認め、日本の政治経済外交などを動かしているのは主権在民の下の国民ではなく、ひょっとしたら、日本人ですらないワシントンDCの米国政府高官かもしれない、と示唆しています。2013年7月19日付けのこのブログで取り上げた白井聡『永続敗戦論』(太田出版) と同じ主張であり、とても講座派的な見方ではないかと受け止めています。でも、おそらくは、講座派というよりも米国的な陰謀論の系譜につながるのかもしれません。本書は上巻の第1部で我が国の歴史をひも解き、下巻の第2部で政治経済文化などを解き明かしています。第1部では、日本人の特性のひとつの損切りが出来ずにズルズルと行ってしまう原因を埋没原価に求めています。私は無謬論だと思いますが、実は同じなのかもしれません。そして第2部では、対米従属のコンテキストの中で、中国の台頭などを受けた世界情勢の変化を踏まえ、いつまでも兄貴分としての米国の善意を前提とした日米同盟は、この先についてはサステイナブルではなく、アジアから米国が撤退した後の日本の孤立を解消するためには、かつての明治期の「脱亜」の反対の「入亜」が必要だと結論しています。私は専門外なのでよく判りませんが、最近の論調で「米国の撤退」が盛んに取り上げられていますが、どこまで米国が撤退するのか、大西洋からの撤退、太平洋からの撤退、はあり得ても、西半球というか、米国大陸からの撤退はあり得ないわけでしょうし、とてつもなく長い先の米国のアジア太平洋からの撤退を前提として日本の進むべき道を考えるには、私の認識や知識は本書にはまったく及びません。

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次に、マリアノ・リベラ/ウェイン・コフィー『クローザー マリアノ・リベラ自伝』(作品社) です。マリアノ・リベラは野球ファンなら誰でも知っているニューヨーク・ヤンキースので活躍した投手であり、MLB記録の652セーブを上げた史上最高のクローザーです。定冠詞を付けてのクローザーというタイトルの本を出せる投手経験者の最右翼といえます。リベラ自身はパナマの出身ですが、まさに、米国のサクセス・ストーリーの代表といえます。まるでファンタジーのような成功物語ですが、リベラ自身がとても敬虔なクリスチャンでもあり、随所に聖書を引用し神を称える姿勢が伺えます。勝負の世界に生きるクローザーですから、もっと勝ち気で燃えるような闘争心を予想する向きもあるかもしれませんが、この自伝ではまったく逆の淡々と与えられた仕事をこなすシンプルで真っ当、そして、勝負相手に対するリスペクトを忘れず、芸術家というよりは職人的な投手イメージが描き出されています。野球人、職業人としてだけではなく、妻を愛し家族を大切にするという意味で、神ならぬつましい人間像です。しかし、クローザーとしてはパナマの片田舎の漁村から花のニューヨークに来て、ヤンキースのフランチャイズ・プレーヤーとして約20年、トーリ監督の下でキャプテンであるデレク・ジーターらとともにチームの第2期黄金時代に貢献します。少しは大げさに誇張してある部分も少なくないんでしょうが、まるでファンタジーのような夢物語です。特に、レギュラー・シーズンもさることながら、ポストシーズンのゲームで無類の勝負強さを見せた投手ですから、1990年代後半のワースド・シリーズに勝ちまくった折のストーリーが印象的です。9割近くがカットボールだったそうですが、判っていても打てないんですから、相手打者もどうしようもなかったんでしょう。その意味で、我が国でリベラというか、この本に匹敵する自叙伝は、江夏を取り上げた『左腕の誇り』ではないかという気がします。また、リベラの翌年にはジーターが引退しましたので、そのうちに、定冠詞付きの「キャプテン」と題する自伝が出版されるのかもしれません。写真集は出ているようですが、自伝も出るような気がします。なお、もしもジーターの自伝『キャプテン』が出版されれば、それに対抗するのは鳥谷敬『キャプテンシー』(角川新書) をおいて他にはあり得ません。3月10日発売です。そのうちに読んでこのブログでも取り上げたいと思います。

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次に、佐藤亜紀『吸血鬼』(講談社) です。作者はいわゆるファンタジー作家なんですが、平野啓一郎が「日蝕」で芥川賞を授賞された折に、平野=新潮社連合とトラブルがあった点でも有名です。詳しくは Google にでもは聞くとよいでしょうが、私は平野=新潮社に道理があったと認識しています。ということとは別にして、この作品の舞台は19世紀半ばのポーランドです。吸血鬼といえばトランシルバニアではないかと思うんですが、オーストリアのハプスブルク家支配下のポーランドの片田舎で、血液が抜き取られているのではないかと疑われるような死亡事例が何人か出ます。主人公は中央から派遣された官吏ゲスラーとその妻エルザ、また土地の大地主である詩人アダム・クワルスキなども重要な役割を果たします。不審死があった場合、キリスト教以前の土着の迷信で死体を壁の穴から出して、その穴をふさいで戻って来ないようにしたり、「ウピール」と呼ばれる吸血鬼が墓から蘇らないように、首をはねるなどの風習に愕然としつつ、他方で、オーストリア帝国からの独立を目指すとしつつも、実は百姓一揆とそれほどレベルの違いのない騒動があり、その中で官吏の妻のエルザも流産で死にます。大地主のクワルスキの家に皇帝家の紋章のある旧式の銃が持ち込まれたり、それが蜂起に重要な役割を果たしたりと、いろいろな舞台回しがあります。でも、私は少し違和感が残り、どこといって具体的に指摘することかできませんが、本来の、というのおかしなことですが、何か吸血鬼のストーリーにしては「違う」と感じるものが残りました。キリスト教以前の土着の迷信と近代的な農奴解放からさらに進んで19世紀半ばの社会主義革命も視野に入れた近代的な世界を目指す民衆と、この作品ではこういった相矛盾する2つの民衆像を描き出そうと試みていますが、成功しているかどうかは読者の読み方次第かもしれません。結局、私の疑問は場所がポーランド、ということなのかもしれません。

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最後に、増田寛也編著『東京消滅』(中公新書) です。同じ著者と出版社で2年前に『地方消滅』という新書が話題になりました。私も少し遅れて読んだんですが、このブログでは取り上げませんでした。その『地方消滅』では、いわゆる「生産年齢」の女性、すなわち出産に適した年齢の助成が大きく減少する地方自治体の存在をクローズアップしていましたが、本書では東京における高齢化の進展とその高齢者の地方での受入れについて論じています。すなわち、人口が減少して高齢化が進む日本の中でも、東京だけはどこ吹く風で若者が集まり、華やいだ街、そんなイメージはもう成り立たなくなる可能性を強く示唆しています。2015年から25年にかけて、いわゆる1都3県の首都圏では75歳以上の高齢者が約175万人増加し、本書では1人あたり医療密度なる指標を推計した上で、東京圏での医療・介護施設の不足から、近い将来に、介護施設を奪い合う事態が発生するとし、また、地方の介護人材がさらに首都圏に集中すれば、「地方消滅」に拍車がかかるため、ひとつの解決方法として、本書では地方における東京からの高齢者の受入れ、あるいは、地方への移住を含めた解決策を提言しています。もちろん、高齢者を押し付けられる地方からすれば、高齢者よりも若者の移住を望む声が出る可能性に配慮しつつも、さまざまな可能性を考慮した上で、東京圏からの高齢者を地方で受け入れることの利点を主張しています。違った視点に基づく違ったロジックでは違った結論も出そうな気がしますが、ひとつの見識として参考になるような気もします。それにしても、本書は前著の『地方消滅』ほどには話題になっていないような気がするのは私だけでしょうか?

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2016年3月18日 (金)

我が国企業が模倣被害を受けた国はどこか?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週3月10日に経済産業省から「2015年度 模倣被害調査報告書」が公表されています。模倣被害社数及び模倣被害率の推移については、ここ数年で横ばいないしやや減少傾向が認められるようです。もちろん、知的財産権について、私は特に詳しいわけでもないんですが、我が国企業が模倣品に被害について、どの国で被害にあっているかについては興味があり、ザッと目を通してみました。

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ということで、上のグラフは経済産業省のリポートの p.4 から (図7) と (図8) 海外において模倣被害を受けた国・地域 を引用しています。上の (図7) を見ると、中国での被害社率が最も高く(2014年度:64.1%)、次いで韓国(18.9%)、アセアン6カ国(18.8%)、台湾(18.0%)と続いています。その他の地域では、欧州(14.7%)、北米(14.1%)となっており、アジア地域での模倣被害が引き続き深刻な状況となっているようです。なお、傾向は前年度から変わらないとリポートされています。やっぱり、模倣品被害は中国に集中しているようです。

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2016年3月17日 (木)

貿易黒字は定着するか?

本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない現系列のデータで前年同月比▲4.0%減の5兆7034億円、輸入額は▲14.2%減の5兆4606億円、差し引き貿易収支は+2428億円の黒字を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の貿易収支、2カ月ぶり黒字 2428億円 輸出5カ月連続減
財務省が17日発表した2月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2428億円の黒字(前年同月は4260億円の赤字)だった。円安効果がなくなり、輸出額の減少が続いた一方、原油安の影響で輸入額も減った。貿易黒字は2カ月ぶり。QUICKがまとめた市場予想(3871億円の黒字)より黒字幅は少なかった。
輸出額は前年同月比4.0%減の5兆7034億円と、5カ月連続で減った台湾向けの鉄鋼半製品や、中国向けの液晶デバイスなどの輸出額が減少した。円相場が2月平均で1ドル=117.36円と、前年同月比で3年7カ月ぶりの円高に転じたことも重荷となった。財務省は為替相場が貿易収支に与える影響について「輸入の方が外貨建ての比率が高く、為替変動時は輸入額の変化が大きくなりやすい」と説明している。
対中輸出額は7カ月ぶりに増加した。今年は春節(旧正月)が昨年より早かった影響で、アジア向けの輸出を手控える動きが1月からあった。中国の景気減速の影響が薄れたかは「季節的な要因もあり、一概には言えない」(財務省)という。中国向けの輸出数量指数は15.6%上昇。低下傾向にあった対世界の同指数も0.2%上がった。
輸入額は14.2%減の5兆4606億円だった。減少は14カ月連続。原油安の影響が続き、カタールの液化天然ガス(LNG)やサウジアラビアの原粗油などの輸入額が減った。一方、医薬品は輸入額の増勢が続き、欧州連合(EU)からの輸入額は2月として過去最大だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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上のグラフを見れば明らかな通り、最近数か月では輸出も輸入も減少傾向にあって、その差額として貿易赤字が解消しつつある、というか、少なくとも季節調整済みの系列では昨年2015年11月に黒字転換してから、4か月連続の貿易黒字を記録し、徐々に黒字幅が拡大している印象です。しかし、現状では国際商品市況における石油価格の下落に伴って、いわば、カッコ付きの貿易の「縮小均衡」が生じている段階であり、この先、輸入サイドに影響を及ぼす国際商品市況の動きは見通しがたいものの、輸出サイドでは輸出先の景気回復が見込める段階に達しつつあるように感じています。

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その輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同期比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、輸出先での景気回復の動きについては、米国経済は連邦準備制度理事会(FED)が量的緩和を終えて利上げを開始する段階まで回復していますし、特に、米国の家計部門は雇用統計に表れているように底堅い動きとなっています。欧州についても緩和的な金融政策の下で持ち直しの動きも出始めています。また、中国でも預金準備率引き下げや利下げなどによる実体経済の底上げが確認され始めていますし、我が国から中国への輸出に関しては、1-2月は春節によるややイレギュラーな動きを示しているものの、上のグラフのうちの一番下のパネルに見られる通り、OECD先行指数でもそろそろ底を打った気配が感じられます。ただし、、年明け以降の金融市場を見れば明らかな通り、為替動向や株安などから一直線に輸出の増加や、ましてや、景気回復が望める段階にはなく、相応の時間を要する可能性が高いのではないかと受け止めています。

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2016年3月16日 (水)

政府観光局の訪日外客統計ほか、雑感をいくつか手抜きで!

本日、政府観光局(JNTO)から2月の訪日外客数が公表されています。中国の景気停滞が広く報じられる一方で、今年2月は中華圏の春節と重なりましたので、私は少なからず注目していましたが、2月の訪日外客数は季節調整していない原系列の前年同月比で見て+36.4%増の1,891.4千人に上りました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の訪日外国人、36.4%増の189万1400人 過去2番目
日本政府観光局(JNTO)が16日発表した2月の訪日外国人客数(推計値)は、前年同月比36.4%増の189万1400人だった。2月として過去最高を記録したほか、単月でも2015年7月の191万8356人に次いで過去2番目の数値となった。アジア地域で旧正月の休暇中に訪日旅行需要が増加したほか、航空路線の拡大や為替の円安基調による割安感の定着なども寄与した。
国・地域別では中国が最も多く、38.9%増の49万8900人となった。2月として過去最高を記録したものの、学校の冬休み期間の変動から1月に旧正月休暇の前倒し需要が発生し増加幅はやや限られた。次いで多かったのが韓国で、52.6%増の49万800人だった。2月として過去最高となり、年初からの累計ではいち早く100万人を超えた。
その他の国・地域では台湾(25.7%増の34万9000人)と香港(38.8%増の15万1800人)が続いた。ロシアを除く米国やタイなどの全主要市場で2月として過去最高を記録した。
JNTOは3月の動向に関して、イースター休暇や桜の見ごろを迎えることから「訪日旅行需要の増加が期待される」との見通しを示した。

いつもながら、簡潔のによく取りまとめられているという気がします。次に、主要な国別の訪日外客数の伸び率の推移のグラフは以下の通りです。赤い折れ線グラフが合計の訪日外客数増減率の推移を示しており、他は凡例の通り色分けされた国別です。

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引き続き、訪日外国人観光客は順調に増加しているようですし、3月も政府観光庁では「訪日旅行需要の増加が期待」と報じられています。ご同慶の至りかもしれません。
本日は他に2つのトピックに注目しました。いずれも大きな手抜きなんですが、日経新聞のサイトからの記事の引用で手早く済ませておきたいと思います。ひとつは春闘の集中回答であり、もうひとつは総理官邸での国際金融経済分析会合で、スティグリッツ教授が招待されています。以下の通りです。なお、来週の国際金融経済分析会合はクルーグマン教授と調整しているとも報じられています。

ベア、トヨタ1500円 ホンダ1100円 電機大手も慎重
トヨタ自動車の2016年春季労使交渉は15日、月給を一律に上げるベースアップ(ベア)を1500円とすることで決着した。15年実績の4割弱の水準で、トヨタと同額の日立製作所など電機大手は半分となる。3年連続のベア実施だが、新興国経済の失速や円高など景気の不透明感が強く、伸びは小幅にとどまる。デフレ脱却を探る日本経済に影響を与えそうだ。
トヨタは北米での販売好調を背景に16年3月期の連結営業利益が2兆8千億円と過去最高を更新する見通し。だが、物価上昇に乏しく、円安効果も薄れてきている。新興国経済の減速も重荷のなか、経営側は高水準のベア実施に慎重な姿勢を示してきた。
一方、足元の収益を色濃く反映する一時金は基準内賃金の7.1カ月分(昨年は6.8カ月分)の要求に満額で応じる。金額換算で約257万円(同246万円)で08年のリーマン・ショック以降、最高水準となる。ホンダのベアは15年実績の3割強の1100円で回答する。
電機大手5社も3年連続のベア実施となるが、水準は低い。中国経済の減速などが響いてパナソニックなどで業績下方修正が相次ぎ、経営側はベアに慎重な姿勢を崩さなかった。
三菱重工業、川崎重工業、IHIなど造船重機大手7社の労組はベア4千円を要求していたが、経営側は1500円を回答する。資源安の影響でブラジル事業見直しを迫られるなど先行き不透明感が台頭している。厳しい交渉が続き、電機などと同じ水準で決着した。NTTは15年より900円少ない1500円前後で調整している。業種を超えて16年労使交渉はベア1500円がひとつの基準となりそうだ。
企業の賃上げについては、菅義偉官房長官が「賃上げの流れを続け、雇用・所得の拡大を通じた経済の好循環を実現する」と訴えるなど、政府は何度も大幅な賃上げを要請していた。だがトヨタの回答を受けて政府関係者は15日、「一時金は良かったが(ベアは)厳しい数字だ」と指摘した。
政府が企業に賃上げを本格的に要請し始めて3年目。政府内では安倍晋三首相が掲げる名目国内総生産(GDP)600兆円の実現には、3%の賃上げが必要との声が出ていた。今回、交渉をリードするトヨタの回答がそれに届かず、消費底上げは限定的になるとの見方もある。足元の消費はさえず、実質消費支出は1月まで5カ月連続で減少した。1月の実質賃金は前年同月比0.4%増にとどまっている。
スティグリッツ教授、来春の消費増税見送り提言 国際金融経済分析会合 「世界経済は低迷」
政府は16日午前、世界経済について有識者と意見交換する「国際金融経済分析会合」を初めて開いた。講師として招いたノーベル経済学賞の受賞者であるジョセフ・スティグリッツ米コロンビア大教授は、世界経済は難局にあり「2016年はより弱くなるだろう」との見解を示した。「現在のタイミングでは消費税を引き上げる時期ではない」と述べ来年4月の消費税率10%への引き上げを見送るよう提言した。
菅義偉官房長官は16日午前の記者会見で「スティグリッツ氏から税制について、総需要を喚起するものではないとの観点から、消費税引き上げはいまのタイミングではないとの趣旨の発言があった」と説明した。
分析会合の終了後、安倍晋三首相とスティグリッツ氏のほか、首相の経済政策のブレーンを務める浜田宏一、本田悦朗両内閣官房参与を交え意見交換した。スティグリッツ氏は首相官邸で記者団に「首相は(消費増税先送りを)恐らく、確実に検討するだろう」と述べた。
首相は分析会合の冒頭で「伊勢志摩サミットの議長の責任を果たすため、世界の経済・金融情勢について率直な意見交換をしたい。アベノミクスに関しても、意見を頂きたい」とあいさつした。
スティグリッツ氏は分析会合で「世界経済は低迷している」との認識を表明。「日銀の金融政策だけでは限界がある。次に財政政策をとることが重要だ」と強調した。

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2016年3月15日 (火)

ピュー・リサーチによる労働力の自動化の将来見通しやいかに?

先週木曜日の3月10日にピュー・リサーチ・センターから労働力の自動化に関する将来見通し Public Predictions for the Future of Workforce Automation についての世論調査結果が公表されています。今年2016年1月7日付けの記事で野村総研の試算により、人工知能やロボット等による労働の代替確率が日本では49%に上る、との結果を紹介していますが、同じような文脈で、米国国民の世論がどのような見方をしているかの調査結果です。まず、調査のサマリーをピュー・リサーチのサイトから引用すると以下の通りです。

Public Predictions for the Future of Workforce Automation
A majority of Americans predict that within 50 years, robots and computers will do much of the work currently done by humans - but few workers expect their own jobs or professions to experience substantial impacts

ということで、極めて簡潔に取りまとめてあります。次に、その根拠となるグラフを同じくピュー・リサーチのサイトから引用すると以下の通りです。

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上のグラフは "Two-thirds of Americans expect that robots and computers will do much of the work currently done by humans within 50 years …"、下は "... but more workers expect that their own jobs will exist in their current forms in five decades" とそれぞれタイトルされています。見ての通りです。野村総研の試算結果では、10-20年後の時点において、日本の49%とほぼ同じ水準の47%の労働代替率が米国でも見込まれていますが、米国国民の将来見通しはかなり異なっているようです。ロボットとコンピュータがかなり多くの仕事において人間労働を代替するとはいうものの、80%は彼ら自身の職が維持されると見込んでおり、職が失われる18%に比較して圧倒的に多い結果となっています。しかも、野村総研試算の10-20年後ではなく、もっと将来の50年後における見通しです。私は将来見通しをもっとも不得手とする経済学を専門分野とするエコノミストであり、何ともいえませんが、普通はこの間のどこかに正解がありそうな気もします。また、図表は引用しませんが、従業員の勤務先別で分類すると少し違いがあり、大企業と中小企業との間には大きな差はないものの、政府・教育機関・非営利組織の勤務者については、ロボットとコンピュータによる人間労働の代替はより起こりにくく、50年後でも職は失われない、と考えているようです。50年後まで私の寿命は続かないでしょうから、この目で確かめるのは不可能だと思いますが、果たしてどうなりますことやら?

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2016年3月14日 (月)

1月の機械受注はイレギュラーな大型案件で大幅増!

本日、内閣府から1月の機械受注が公表されています。船舶と電力を除くコア機械受注は季節調整済みの系列で前月から+15%増加して9347億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、1月は前月比15.0%増 大型案件寄与、判断は据え置き
内閣府が14日発表した機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の1月の受注額(季節調整値)は、前月比15.0%増の9347億円だった。プラスは2カ月連続。伸び率は比較可能な2005年度以降で最高だった。受注額はリーマン・ショック前の08年6月(9571億円)以来の高水準。鉄鋼業からの大型受注が寄与し、製造業が41.2%増と大きく伸びた。
一方、官公庁や外需を含む受注総額では8.8%減の2兆586億円と、2カ月ぶりにマイナスだった。製造業の受注増について「大型案件の影響を除けば12月と同程度の水準」(内閣府)という。機械受注の基調判断は前月と同じ「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
製造業の受注額は4625億円で、3カ月ぶりにプラスとなった。鉄鋼業で火水力原動機と化学機械に大型案件があった。船舶や航空機などの受注も伸びた。非製造業(船舶・電力除く)の受注額は1.0%増の4818億円と、2カ月連続で増えた。金融業・保険業や不動産業などから受注が伸びる一方、通信業や卸売業・小売業は減った。
内閣府は1-3月期の受注額(船舶・電力除く民需)が前期比6.4%増えると予測している。1月の受注額が高めの水準となり、2月と3月はそれぞれ前月比4.8%減より高い水準で見通しを達成する。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。さすがに、景気敏感指標ですので、暦年統計への注目度はかなり低いようです。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも、一応、2%程度の小幅なプラスが予想されていましたが、引用した記事にもある通り、鉄鋼業でイレギュラーな大型案件があり、季節調整済みの系列で見たコア機械受注は前月比で大幅増となったものの、記事にある内閣府からの情報に従えば、実態は12月と同水準とのことらしいです。ということで、昨年年央から企業の設備投資に対するマインドを表すソフトデータには大きな変化はないと考えている一方で、まったく同様に、本日公表の機械受注や資本財出荷などに見られるハードデータとの乖離もまだ残されていると受け止めています。ただし、先週3月11日に公表された法人企業景気予測調査や4月に公表予定の日銀短観などの設備投資計画より、今年に入ってからの金融市場における為替動向や株安などを目にすると、直感的にはハードデータに現れている設備投資動向が、企業のマインドを暗黙裡に表わしていて、それは例えば、法人企業景気予測調査で示された景況感に見られる通りである、というような気がしています。そうなると、現在進行形の春闘における賃上げに影響が波及し、人手不足にもかかわらず賃上げが進まず、しかも、消費動向にストレートに影響が現れると仮定すれば、拡大的な経済の好循環が実現されない可能性があるんではないかと危惧しています。

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2016年3月13日 (日)

週末ジャズはデクスター・ゴードン GO! を聞く!

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週末ジャズはデクスター・ゴードン、GO! です。力強く男性的なテナー・サックスが朗々と鳴り響きます。サイドを固めるのはピアノにソニー・クラーク、ベースにブッチ・ウォレン、ドラムスにビリー・ヒギンスが配されています。ソニー・クラークはすべての曲でソロを取っています。まず、曲の構成は以下の通りです。1曲目だけがゴードンご本人のオリジナルで、4曲目は有名なスタンダード曲です。

  1. Cheese Cake
  2. Guess I'll Hang My Tears Out to Dry
  3. Second Balcony Jump
  4. Love for Sale
  5. Where Are You?
  6. Three O'Clock in the Morning

デクスター・ゴードンは、1923年に生まれて1990年に亡くなったテナー・サックスの巨匠ですが、デビューした1940年代のビパップ全盛期に、チャーリー・パーカー、ディジー・ガレスピー、バド・パウエルらと共演して、Dexter Rides Again などのアルバムでいくつかヒットを飛ばした後、1950年代はドラッグの影響などにより不調の時期が続きましたが、1960年代に入って欧州での演奏を始め、また復活しています。このアルバムは1962年の録音ですし、その翌年1963年に吹き込んだ Our Man in Paris はバド・パウエルとの共演ということもあって、かなりの売上げを記録したとされています。でも、どちらかといえば、私は Our Man in Paris よりも、この GO! の方が好きです。というのは、冒頭に Cheese Cake が入っているからだったりします。少し人を食ったような曲なんですが、ジャズ・ファンでなくても、何となく耳に残る曲であり、ホントはそうでなくても、以前に聞いたような謎の経験が残っていたりする不思議な曲です。下の動画はその曲です。

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2016年3月12日 (土)

今週の読書はマルクス主義経済学の専門書など計8冊!

今週の読書はわが母校の京都大学経済学部の教授だった本山先生の『人工知能と21世紀の資本主義』ほか、計8冊、以下の通りです。経済書は2冊なんですが、なぜか、2冊とも著者のホームグラウンドはマルクス主義経済学だったりします。

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まず、本山美彦『人工知能と21世紀の資本主義』(明石書店) です。著者は私が大学に進学した時には、京都大学経済学部の中でももっとも若手の助教授の1人でしたが、とっくに京都大学は退職し、その後、大阪産業大学の学長も務めましたが、それも退いています。時の流れが速いというか、私も長らくエコノミストをしてきたもんだと、改めて感じさせられました。本書は3部構成であり、第Ⅰ部は「サイバー空間の現在」と題され、雇用の歴史などに焦点を当てて、労働の尊厳を維持しつつ、コンピュータ利用の負の側面を考察しています。また、いわゆるSNSの問題点については多数派への同調圧力を強調しています。第Ⅱ部は「サイバー空間の神学」と題され、タイトルがそもそも神学的な印象なんですが、サイバー・リバタリアンの新自由主義思想を分析しています。同時に、シカゴ学派をはじめとする新自由主義思想を、おそらく、マルクス主義の観点も含めて、大いに批判しています。最後の第Ⅲ部は「サイバー空間における情報闘争」と題されていて、暗号、盗聴、スノーデン・ショックなどを取り上げています。最後に、人間社会の連帯=アソシエの倫理がコンピュータや人工知能による人間労働の置換の悲劇から世界を救う唯一の道であると主張していますが、著者ご本人も甘い考えであることは認識しているようです。基本的には、著者にこれまでの研究人生を振り返ったエッセイなんだと認識していますが、人民銀行とともに、ややプルードン的というか、あるいは、空想的な夢の世界で、実務家の世界からは少し違和感を持って見られる可能性があるかもしれません。

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次に、佐々木憲昭『財界支配』(新日本出版) です。著者は長らく共産党の代議士を務め、一昨年2014年に引退した論客です。本書は上の表紙画像を見れば判ると思いますが、「日本経団連の実相」と副題されています。同じ著者が2007年に出版した『変貌する財界』、コチラは「日本経団連の分析」という副題でしたが、その続編のような位置づけです。ただ、私は前著を読んでいませんので、よく判りません。経団連を財界の代表として取り上げ、会長・副会長を輩出している企業の巨大化や多国籍企業化、あるいは、その資本構成などから外資比率の高まり、などを明らかにしつつ、政策要望という圧力団体としての活動や政府審議会への参画と政治献金などを通じた政治支配の現状を分析しています。とても説得的な好著・良書であり、私の考える方向性とも共通する部分があるんですが、何点か補足的な事項を並べると、第1に、最先端技術を目指す企業の集合体として、軍需産業だけでなくそれを補完する通信分野などについても分析が欲しかった気がします。第2に、本書ではかなりバランスを失して財界⇒政治というルートに着目しており、それが本書のスコープであるといわれればそれまでなんですが、財界と政治のインタラクティブなかかわりについて、より突っ込んだ分析が欲しい気がします。第3に、これも本書のスコープ外だという気はしますが、政治献金の分析です。財界からの政治への最大のアプローチは私は政治献金だと考えています。そして、政治献金はかなり透明性が確保されており、金銭単位のデータを得やすい情報源ではないかと想像しています。もちろん、これだけ精力的な政治活動をしている共産党にしてまだ本格的な分析がなされていない政治献金の分野ですから、途方もない労力を必要とするんでしょうが、本格的に政治献金をデータベース化して定量分析を加える段階に達したのではないかと私は想像しています。もっとも、門外漢の私が知らないだけで、すでにかなり定量分析が行われているのかもしれません。そうだとすれば、エコノミストとして私も大いに興味をそそられます。

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次に、畠中恵『まったなし』(文藝春秋) です。私はこの作者のシリーズはいくつか読んでいて、有名なのはしゃばけのシリーズで、妖がいっぱい出て来たりするんですが、このまんまことのシリーズは妖出て来ません。江戸は神田の町名主高橋家の跡取り息子にしてお気楽者の麻之助が、幼なじみで町名主を継いでいるイケメン八木清十郎と、堅物の同心にしてすでに婿入りしている相馬吉五郎とともに、さまざまな謎ともめ事の解決に挑む短篇シリーズの第5弾です。いつもの通り、6話収録されています。そして、出版社のサイトにある情報によれば、本書の隠されたテーマは「女難」だそうで、これを念頭に読み進めば面白さ100倍、なのかもしれません。しゃばけシリーズが割とサザエさん的で、それほど時間の進みを感じないのに対して、このまんまことシリーズはしっかりと時間が進んで、主人公の麻之助はすでに1回祝言を上げて嫁を迎えたものの、出産の際に子供も女房も亡くしてしまったんですが、本書では八木家の跡をすでに取っている清十郎の嫁取り話が進み、最終話で祝言を上げます。謎解きも鮮やかです。

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次に、畠中恵『明治・金色キタン』(朝日新聞出版) です。これまた、同じ作者の別のシリーズで、明治期の銀座の交番を舞台にした第2弾です。第1弾の『明治・妖モダン』も同じ出版社から出ていて、私のこのブログでは2年と少し前の2013年12月14日の読書感想文で取り上げています。このシリーズに登場するのは妖ばかりで、普通の人間の方が少ないくらいですが、妖としての特別のパワーというか、何というかは、死なないのと、しゃばけのシリーズと同じで、やや感覚が人間と異なって集中力が高い、くらいで、他はほとんど特別なパワーは発揮しないので、読み進むに当たって気にする必要はありません。繰り返しになりますが、明治21年の銀座の交番を舞台に、巡査の滝と原田を主人公として話は進みます。今回は、おそらく架空の甫峠という旧藩、土地を背景に、廃仏毀釈で打ち壊された甫峠寺とか、そこのご本尊の仏像とか、東京の別院などを巡って、謎が持ち上がって解決されます。単なる謎の解決だけでなく、当時の風俗、例えば、女学生美人くらべや上野の競馬場での社交など、が取り上げられ、いろんな色彩を添えています。

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次に、柚月裕子『孤狼の血』(角川書店) です。先に「つまをめとらば」に授賞された直木賞の候補作になっていました。1988年の広島県警暴力団担当部署を舞台に、新任刑事がヤクザとの癒着を噂される先輩刑事とともに、暴力団系列のヤミ金融会社の社員が失踪した事件の捜査を担当し、警察の暗部を目にしつつ事件を解決に導くものの、先輩刑事の死により、その表には出せないような資産を相続する、というストーリーです。主人公の立ち位置は読んで行けば明らかになるので、それほど意外ではないんですし、やっぱり、暴力団と担当刑事との癒着とか、警察官としての正義感とか、ややプロットが平板で直木賞は苦しいかな、という気がしました。暴力団壊滅を目標にしながら暴力団と癒着するというのは、一般社会では公開会社の総務部と総会屋との関係を示唆するところがあって許容範囲と私は考えますが、正道のヤクザと外道のヤクザを設定したりするのは私には理解できません。そのあたりは正義に関する社会的な許容度に作者と私に差があるということなんだろうと思います。この作者は佐方貞人シリーズ『最後の証人』でデビューし、『検事の本懐』などはとてもよかったんですが、その後は伸び悩んでいる気がします。デビュー作が最高傑作というのは湊かなえなどの例にもありますが、好きな小説を書いてくれるだけに、私はもう一段の成長を望んでいます。

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次に、エラリー・クイーン『災厄の町』『九尾の猫』(ハヤカワ・ミステリ文庫) です。どちらも、角川文庫の国名シリーズの新訳を担当した越前敏弥さんによる新訳です。角川文庫が1000円を切るのに対して、ハヤカワ・ミステリ文庫の方は1000円を超えて、やや価格付けが強気な気がしないでもありませんが、私のような図書館で借りる派には関係なような気もします。いずれもクイーン作品の中でも名作に位置づけられるミステリであり、特に『災厄の町』は最も高く評価されている作品のひとつであるとともに、1942年という戦争中の作品で、ライツヴィルを舞台にしたシリーズの第1作です。1949年の作品である『九尾の猫』も犯人が特定されかかって、現在からすればかなり強引な捜査が行われたりするんですが、最後の最後に大きなどんでん返しが用意されています。国名シリーズと比較して、時代背景のせいかもしれませんが、やや暗い印象がありますが、クイーンらしい論理の冴えは見事で、ミステリとしての面白さが凝縮された作品だと評価できます。

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最後に、小説トリッパー編集部[編]『20の短編小説』(朝日文庫) です。テーマは「20」という数字で、原稿用紙20枚という制約がかけられているらしいです。恋愛、SF、ミステリーなど、エンターテインメント作品を中心に編みながら、ジャンルに収まり切らない作品も少なくありません。執筆陣も、上の表紙画像に見られる通り、朝井リョウ、阿部和重、伊坂幸太郎、井上荒野、江國香織、円城塔、恩田陸、川上弘美、木皿泉、桐野夏生、白石一文、津村記久子、羽田圭介、原田マハ、樋口毅宏、藤井太洋、宮内悠介、森見登美彦、山内マリコ、山本文緒、と豪華に20人の売れっ子作家を何気に50音順に並べていたりします。20篇すべてを取り上げるのもムリですので、印象的だった1篇だけにすると、芥川賞受賞後に大きくブレイクした羽田圭介「ウエノモノ」ですが、マンションの上の階の生活騒音が気になり、やんわりとあるいは強烈に抗議し何らかの接触を持つことで、都会における他人同士のお互いの理解が深まっていく過程が、短いながらも淡々と描写されていて、とても好感を持てる短編です。ほかにも、これだけの作者がそろっているんですから、作品は粒ぞろいです。今週の読書の中では唯一買って読んだ本です。というのは、価格が600円+税と、それなりに良心的だと感じたからです。図書館で借りたんではなく、買ったわけですから、倅にも読ませたいと思います。

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2016年3月11日 (金)

法人企業景気予測調査に見る企業マインドの低下と設備投資意欲やいかに?

本日、財務省から1-3月期の法人企業景気予測調査の結果が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況判断BSIは1-3月期▲3.2と3四半期ぶりにマイナスに転じ、4-6月期も引き続きマイナスで▲2.2を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1-3月の大企業景況感、3四半期ぶりマイナス 4-6月もマイナス
財務省と内閣府が11日発表した法人企業景気予測調査によると、1-3月期の大企業全産業の景況判断指数はマイナス3.2と、3四半期ぶりにマイナスとなった。前回の2015年10-12月期はプラス4.6だった。年初からの世界的な株安や円高・ドル安などを背景にした企業心理の悪化が鮮明になった。
1-3月期は大企業のうち製造業がマイナス7.9となり、10-12月のプラス3.8から大きく落ち込んだ。化学工業で原油価格の下落による販売価格の下落を懸念する声があったほか、食品業で販売競争の激化を指摘する声があった。
非製造業はマイナス0.7だった。金融市場の混乱による収益悪化懸念から、金融業・保険業の景況感が落ち込んだ。金融機関からは日銀が導入したマイナス金利の悪影響への懸念もあったようだ。
全産業の4-6月期の見通しはマイナス2.2だった。ただ7-9月期はプラス5.6となった。
16年度の全産業の設備投資は15年度と比べ6.6%減少する見通し。設備投資計画は当初の慎重な見通しが徐々に上方修正される傾向はある。15年度見込みは前年度比8.8%増となった。前回調査時点の7.5%増から上振れた。具体的にはスマートフォンや自動車向けの部品で生産能力を増強する動きがみられた。
今回の調査時点は2月15日。景況判断指数は「上昇」と答えた企業と「下降」と答えた企業の割合の差から算出する。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIをプロットしています。色が濃いのが実績で、4-6月期と7-9月期のやや薄いのが先行き予測です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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続いて、今回調査の売上高見通し、経常利益見通し、設備投資見通しのテーブルは以下の通りです。上半期と下半期は季節調整されていない原系列の統計の前年同期比の増減率を示しています。設備投資はソフトウェアを含み土地を含まないベースです。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で財務省の法人企業景気予測調査のサイトからお願いします。

  2015年度  2016年度  
   上期下期 上期下期
売上高見通し
 全産業▲0.4%+1.1%▲1.8%+0.1%▲0.6%+0.7%
 製造業▲0.3%+1.2%▲1.8%+0.3%▲0.5%+1.1%
 非製造業▲0.4%+1.0%▲1.8%▲0.0%▲0.6%+0.5%
経常利益見通し
 全産業+4.8%+14.6%▲4.3%▲2.4%▲10.1%+5.9%
 製造業+0.7%+16.5%▲13.6%+0.4%▲10.9%+13.5%
 非製造業+6.8%+13.8%+0.2%▲3.3%▲9.8%+3.3%
設備投資見通し
 全産業+8.8%+11.3%+6.8%▲6.6%+3.5%▲15.0%
 製造業+11.1%+13.5%+9.3%+1.7%+15.0%▲9.7%
 非製造業+7.6%+10.2%+5.5%▲11.3%▲3.1%▲17.9%

まず、大企業全産業の景況判断BSIに着目すると、引用した記事にもある通り、年初来の株安や為替動向などの金融市場の混乱から企業マインドがかなり低下したと私は受け止めています。ただし、1-3月期に3四半期ぶりにマイナスに低下した大企業全産業の景況判断BSIも、4-6月期まではマイナスを続けるものの、年央を過ぎて7-9月期にはプラスに回復するとの見込みです。それでも、7-9月期でようやく+5.6ですから、景況感の回復はかなり緩やかであると覚悟すべきです。かつてのV字回復ではなさそうです。もちろん、マインドは金融市場の混乱からだけもたらされているわけでは決してなく、上のテーブルに見られるように、売上高、経常利益とも見通しが厳しくなっています。ただ、売上高と経常利益については2015年度下半期から2016年度上半期にかけてがほぼボトムとなり、来年度2016年度下半期からは緩やかな回復に向かうとの見込みが示されています。でも、現在進行形の春闘は企業業績が悪化する見込みの中で、どのような賃上げ結果がもたらされるのか注目しています。また、設備投資は売上高や経常利益から少しズレて、来年度2016年度上半期まで増加の勢いを示しています。少なくとも、この調査を見る限り、企業の設備投資意欲が大きく損なわれているとは感じられず、投資計画などの企業マインドのソフトデータと資本財出荷や機械受注などのハードデータの間にまだ乖離が残っていると、私は感じてしまいます。

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2016年3月10日 (木)

企業物価の下落はいつまで続くのか?

本日、日銀から2月の企業物価指数(PPI)が公表されています。ヘッドラインの国内物価上昇率は前年同月比で▲3.4%と、消費増税の影響が一巡した昨年2015年4月から1年近く連続でマイナスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

2月の企業物価指数、前年比3.4%下落 前月比は9カ月連続下落
日銀が10日発表した2月の国内企業物価指数(2010年=100)は99.8で、前年同月比3.4%下落した。原油価格の下落が響き11カ月連続で前年割れとなった。市場予想の中心は3.3%下落だった。前年比での下落幅は前の月(確報値で3.2%下落)からわずかに拡大した。
前月比では0.2%下落し、9カ月連続で前の月を下回った。下落要因の内訳を見ると、寄与度が最も大きかったのは石油・石炭製品だった。原油価格下落の影響が出た。液化天然ガス(LNG)の通関単価の下落などで電力・都市ガス・水道も下げた。国際市況の低迷を背景に、化学製品や鉄鋼、非鉄金属も下落した。
ただ、前月比の下落幅は1月の確報値(1.0%下落)から大幅に縮小した。2月に入り、中国の景気対策への期待が浮上し銅価格など非鉄金属市況が持ち直しの兆しを示したことが指数を下支えした。日銀の調査統計局では、非鉄金属が先行きの指数の下げ止まりに寄与するとみている。一方、原油価格も下げ止まりつつあるが、国内の電力料金などに反映されるまでには時間がかかるため、なお指数の重荷になるもようだ。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち、前年同月比で上昇したのは287品目、下落は415品目となった。下落品目と上昇品目の差は128品目で、前の月の157品目から拡大した。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の、下のパネルは需要段階別の、それぞれの上昇率をプロットしています。いずれも前年同月比上昇率です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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日銀からの公表資料では前月比で下落した主要な類別・品目が明らかにされており、国内企業物価では前月比▲0.2%下落のうち、軽油、ガソリン、液化石油ガスなどの石油・石炭製品だけで▲0.16%の寄与度があります。また、契約通貨ベースの輸入物価の前月比下落率▲2.9%のうち、原油、液化天然ガス、液化石油ガスなどの石油・石炭・天然ガスだけで▲2.76%の寄与となっています。季節調整済みの系列ではないので、確定的なことはいえないかもしれませんが、もう、何度も言い古された表現ながら、国際商品市況における石油価格の下落に伴う物価下落がまだ続いており、モノで構成される国内企業物価が大きく下落し、サービスで構成されるサービス物価の上昇率は国際商品市況の影響を受けつつも、国内労働市場における人手不足に起因する賃金上昇のインパクトの方が大きく、最近時点までプラスを維持しているのとは対照的です。ただし、国内物価の前年同月比上昇率で見て、直近の1月から2月には下落幅がやや拡大しましたが、それでも、下落幅がもっとも大きかった2015年9月の▲4.0%からは、極めて緩やかながら下落幅は縮小を見せています。国際商品市況における石油価格の動向は私には見極め難いものの、方向としては物価安定に向かっている期待は持てるのかもしれません。

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2016年3月 9日 (水)

東京商工リサーチ調査に見るチャイナリスク倒産・破綻やいかに?

昨日、3月8日に東京商工リサーチから「チャイナリスク」関連倒産の2月分調査結果が公表されています。倒産件数は10件で、前年同月比では+8件、前月比で+7件、それぞれ増加しています。2014年1月の集計開始以降、2月としては最多を記録したとのことです。東京商工リサーチのサイトからグラフを引用すると以下の通りです。

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2月の倒産10件については、いわゆる新興国で起きている経済の減速や停滞の影響というよりは、中国国内の人件費高騰や為替変動による仕入費用の上昇などコスト高を要因としたものであると東京商工リサーチではリポートしています。また、負債総額は29億5,300万円で、前年同月比+25.6%増となりました。ただし、負債10億円以上の倒産はなく、また、29億600万円の負債となった(株)テラマチが集計された前月と比べて▲35.3%減と大幅に減少しています。最後に、倒産には集計されないものの、事業停止や破産準備中などの「実質破綻」は6件(前年同月はゼロ)発生し、倒産と実質破綻を合算したチャイナリスク関連破綻は16件となり、集計開始以来の最多を記録したとリポートでは指摘しています。

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2016年3月 8日 (火)

10-12月期2次QEは1次QEから上方改定されるもマイナス成長は変わらず!

本日、内閣府から昨年2015年10-12月期のGDP統計の改定値が公表されています。エコノミストの業界で2次QEと呼ばれているのは広く知られた通りです。先月公表の1次QEから上方改定され、季節調整済みの系列の前期比成長率で▲0.3%、前期比年率で▲1.1%のマイナス成長を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10-12月期GDP改定値、年率1.1%減に上方修正 設備投資など上振れ
内閣府が8日発表した2015年10-12月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.3%減、年率換算では1.1%減だった。設備投資や民間在庫の寄与度が小幅に上振れて、2月15日公表の速報値(前期比0.4%減、年率1.4%減)から上方修正となった。
QUICKが7日時点でまとめた民間予測の中央値は前期比0.4%減、年率1.4%減となっており、速報値から横ばいになると見込まれていた。石原伸晃経済財政・再生相は記者会見で「日本経済のファンダメンタルズ(基礎的条件)は良好で、変化があるとは認識していない」と語り、緩やかな回復基調が続いているとの見方を示した。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.2%減(速報値は0.3%減)、年率では0.9%減(1.2%減)だった。
実質GDPを需要項目別にみると、設備投資が1.5%増(1.4%増)と、小幅に上方修正された。法人企業統計でサービス業などで投資が活発だったことが反映された。個人消費は0.9%減(0.8%減)となった。テレビや白物家電などが小幅な下振れにつながった。民間在庫の寄与度はマイナス0.0ポイント(マイナス0.1ポイント)だった。原材料や仕掛かり品の在庫が速報値で仮置きしていた数値を上回った。公共投資は3.4%減(2.7%減)となった。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がマイナス0.4ポイント(マイナス0.5ポイント)だったほか、輸出から輸入を差し引いた外需はプラス0.1ポイント(プラス0.1ポイント)だった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期と比べてプラス1.5%(プラス1.5%)だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2014/10-122015/1-32015/4-62015/7-92015/10-12
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.5+1.1▲0.4+0.3▲0.4▲0.3
民間消費+0.7+0.2▲0.8+0.4▲0.8▲0.9
民間住宅▲0.4+2.1+2.3+1.6▲1.2▲1.2
民間設備▲0.1+2.9▲1.1+0.7+1.4+1.5
民間在庫 *(▲0.3)(+0.6)(+0.3)(▲0.2)(▲0.1)(▲0.0)
公的需要+0.3▲0.4+0.9▲0.2▲0.1▲0.1
内需寄与度 *(+0.2)(+1.1)(▲0.1)(+0.1)(▲0.5)(▲0.4)
外需寄与度 *(+0.1)(+0.3)(▲0.0)(▲0.2)(+0.1)(+0.1)
輸出+3.2+2.1▲4.6+2.6▲0.9▲0.8
輸入+1.1+1.9▲2.5+1.3▲1.4▲1.4
国内総所得 (GDI)+0.6+2.1+0.0+0.4▲0.3▲0.2
国民総所得 (GNI)+1.5+1.2+0.5+0.3+0.1+0.2
名目GDP+0.9+2.0▲0.1+0.6▲0.3▲0.2
雇用者報酬+0.1+0.8▲0.1+0.7+0.2+0.2
GDPデフレータ+2.3+3.3+1.5+1.8+1.5+1.5
内需デフレータ+2.1+1.4+0.0+0.0▲0.2▲0.2

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2015年10-12月期の最新データでは、前期比成長率がマイナスに転じ、特に、赤い消費のマイナス寄与が大きい一方で、水色の設備投資と黒の外需がプラス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは1次QEからほぼ変わらずでしたから、結果は少し上振れしたと受け止めるべきなんでしょうが、景気認識としては大きな変更はなく、引き続き、10-12月期も景気は踊り場で停滞していた、と考えるべきです。もちろん、消費や設備投資が上方改定されたのは事実なんですが、他方で、在庫の上方改定もあって、これは逆から見れば、在庫調整が進んでいないともいえます。さらに、上方改定されたものの、消費も輸出もマイナスのままですし、雇用者報酬もプラスではあっても上昇幅は大きく鈍化しています。設備投資を除いて、消費や輸出はいうに及ばず公共投資まで、最終需要項目が軒並み前期比マイナスというわけですから、決して順調な景気回復過程とは見なせないと考えるエコノミストが多そうな気がします。
先行きについては、年明け直後の金融市場の動揺の影響が見込みがたいんですが、基本は設備投資がプラスを続け、消費も10-12月期のようなマイナスにならずに横ばい基調を示し、輸出についても米国景気が堅調ですのでそれなりの回復を見せるとすれば、かなり仮定のお話が多いものの、このままマイナス成長が続くとは考えられず、緩やかながら回復軌道に戻るんではないかと私は見込んでいます。ただし、賃上げに支えられた消費と計画に近いラインで実行される設備投資がこの先の景気の牽引役になることを期待しつつも、新興国経済や為替動向など、下振れリスクがまだまだ残されているのも事実です。

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最後に、GDP統計を離れて、今日は、内閣府から1月の消費者態度指数景気ウォッチャーのマインド調査結果が、また、財務省から12月の経常収支が、それぞれ公表されています。いつものグラフは上の通りです。日経新聞のサイトの記事へのリンクだけ以下の通り示しておきます。

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2016年3月 7日 (月)

1月の景気動向指数はどこまで信頼できるか?

本日、内閣府から1月の景気動向指数が公表されています。ヘッドラインとなるCI一致指数が+2.9ポイント上昇して113.8を示した一方で、CI先行指数は▲0.4ポイント下降して114.7を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、1月2.9ポイント上昇 3カ月ぶりプラス、先行指数は低下
内閣府が7日発表した1月の景気動向指数(2010年=100、速報値)によると、景気の現状を示す一致指数は113.8となり、前月と比べ2.9ポイント上昇した。生産関連統計の持ち直しなどを受け、3カ月ぶりにプラスとなった。一致指数の基調判断は「足踏みを示している」に据え置いた。
前月と比較可能な8指標のうち、6指標が上昇に寄与した。土木関係の機械出荷が伸びた投資財出荷指数(輸送機械除く)の寄与度が最も高かった。春節(旧正月)前に増産の動きがあった影響でスマートフォン(スマホ)向け電子部品などの出荷が増え、鉱工業生産指数も一致指数の押し上げ要因となった。自動車向けのプラスチック製品が伸びた中小企業出荷指数(製造業)や、耐久消費財出荷指数も改善した。
一方、数カ月先の景気を示す先行指数は0.4ポイント低下し101.4となった。低下は3カ月連続で、12年12月(98.9)以来の低水準。年初から下落が続いた東証株価指数や、日経商品指数の下げが重荷となった。新規求人数(学卒除く)も先行指数のマイナスに影響した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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CI一致指数はここ数か月同じような傾向なんですが、ジグザグした動きでほぼ横ばい圏内の動きながら、1月については3か月振りの上昇で上昇幅もかなりありました。しかし、この上昇は。基本的に、鉱工業生産指数が春節効果で跳ねたのを受けており、どこまでサステイナブルかは疑問です。引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府でも基調判断は「足踏み」に据え置いています。また、CI一致指数が横ばい圏内ながら、CI先行指数については一致指数よりもやや下向き加減が強く表れているのがグラフから見て取れます。もっとも、CI一致指数の1月のジャンプが春節効果でサステイナブルではない一方で、CI先行指数の1月の低下も年明け後の金融市場の混乱を反映しており、東証株価指数と日経商品指数(42種総合)が大きなマイナス寄与を示していますので、コチラもまたいつまでもマイナスが続くわけではないような気がしないでもありません。他方、CI一致指数のプラス寄与は鉱工業生産指数の関係が多く、プラスの寄与度が大きい順に、投資財出荷指数(除輸送機械)、生産指数(鉱工業)、中小企業出荷指数(製造業)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数が並んでいます。景気動向指数は基調判断など、かなり機械的に計算すべき指標であり、逆から見て、それなりの信頼性は確保している指標だと考えるべきなんですが、1月統計だけは一致指数も先行指数もややイレギュラーな要因を含んでいるため、景気判断材料としては1回パスなんではないかという気がします。

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2016年3月 6日 (日)

先週の読書はバーナンキ回顧録『危機と決断』ほか計7冊!

先週の読書はかなり多彩な本を読みました。バーナンキ回顧録『危機と決断』上下のほか、直木賞を授賞された『つまをめとらば』や新書も含めて、以下の通り計7冊です。

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まず、ベン・バーナンキ『危機と決断』上下(角川書店) です。著者の紹介は不要と思います。リーマン・ブラザーズ証券の破綻にかかわった米国政府高官の回顧録については、このブログでは取り上げなかった『ポールソン回顧録』と昨年2015年11月21日付けの読書感想文で取り上げた『ガイトナー回顧録』がありますが、いよいよFED議長だったバーナンキ教授の回顧録です。ある意味で当然ながら、とてもていねいに金融経済学的な検知からさまざまな金融上のイベントを解説してあり、財務長官として危機対応に当たった『ポールソン回顧録』、NY連銀総裁だった『ガイトナー回顧録』とはビミョーに違っています。おもしろかったのは、サブプライム・バブル崩壊を「当てた」と称するエコノミストはいるかもしれないが、「危機が迫っている」と主張するエコノミストは、例えばジャkソン・ホール・コンファレンスなどでも少なくなく、インフレ高進とか、米国の貿易赤字からドル暴落などの「危機到来説」を主張するエコノミストは常にいるものですので、サブプライム・バブル崩壊やリーマン・ショックを「当てた」と称するエコノミストもいたのであろう、というか、ホントに「当てた」かどうかは疑わしい、という含みなんだろうと受け止めました。また、バブルに対する見識は相当なもので、バブルに対して金融政策で抑え込もうとするのは正しくないと強く主張しています。また、リーマン証券破綻前のベア・スターンズ証券の処理の際には、ジャンク債で破綻した1990年のドレクセル・バーナム・ランバート証券の前例、破綻させずに業界内で救済させた1998年のLTCMの例を参考にしたと明らかにしています。ただし、2008年9月のリーマン証券の破綻とAIGの救済については、前者の場合は救済する手法がなかったと主張し、『ポールソン回顧録』や『ガイトナー回顧録』と基本的に同じラインといえます。ただし、議会筋などから受けた風圧の違いか、救済したAIGのボーナス問題については、『ポールソン回顧録』よりもサラッとした記述にとどまっています。食生活上ではグルテンを摂取しないようにした、と書いてありますので、今年2016年1月16日付けの読書感想文で取り上げた『「いつものパン」があなたを殺す』を参考にしているのかもしれません。議会の公聴会などで政治家に金融機関救済を強く非難された後、「あれは有権者向けのポーズだった」などと電話で言い訳されるなどの政治家のジキルとハイド的な面を明らかにしていますが、私からすれば、間接民主主義でポピュリズムに陥らないための議員の見識ではないかという気もします。最後に、翻訳については、とてもていねいで好感が持てるんですが、日本語に訳し過ぎの部分も散見されました。「露出」とはたぶんエクスポージャーなんだろうなと思ったり、「変動」はボラティリティか、また、ツイスト・オペレーションで操作の対象となる「利回り曲線」はイールド・カーブだろう、とか英語の原書が想像されてしまいました。金融の本ですのでカタカナ英語そのままでもよさそうな気もします。また、私は1989年の冬にワシントンDCに長期出張し、米国連邦準備制度理事会で数量分析局のリサーチ・アシスタントを2か月ほど経験したんですが、その折には、本書のような "FRB" という省略形は内部では使わないと知りました。おそらく、冠詞なしの "Fed" か "FED" が勤務する職員の間で使われている省略形だと思います。リサーチ・アシスタント仲間で飲み会に行く時なんかは、"Leave Fed at 5:30!" みたいなメモが回って来た記憶があります。25年以上も昔ですからメールはありませんでしたし、パソコンはなくメインフレームでモデルをシミュレーションしてグリーン・ブックを作っていました。ファイル名は8文字までしか許されず、グリーン・ブック作業ファイルは "grnbook" か "greenbk" の7文字で表していました。最後の最後に、著者がクルーグマン教授のコラムに抗議しているのは以下のリンクの通りです。風刺画は見ておく値打ちがあるような気がします。

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次に、清水功哉『デフレ最終戦争』(日本経済新聞出版社) です。著者は日経新聞をホームグラウンドとするジャーナリストです。基本的に、黒田総裁が就任して異次元緩和を開始してからの日銀金融政策、特に、タイトルの通り、デフレ脱却に向けた金融政策に関するノンフィクションです。最初に著者自身が明記しているように、日銀旧来派にも現在のリフレ派にもくみせず、ジャーナリストとして中立の検知から淡々と事実を説き起こしています。ただし、どうしようもないタイミングの問題で、いわゆる「マイナス金利」まで踏み込んだ追加緩和は本書では取り扱われていません。昨年2015年暮れくらいまでに知り得た最新情報に基づくリポートとなっています。総裁と副総裁の執行部の交代により、ここまで日銀金融政策が大きく変更されるのはどうしてか、という点に関して、同時に中央銀行の独立性とその暴走の可能性まで含めて、第2章で詳しく論じています。国民生活に密接に関わる物価を政策のターゲットとする中央銀行は何らかの民主的なコントロールに服すべきである、という視点は私もまったく賛成です。では、政策決定に当たる審議委員についてはどうなのかというと、退任した審議委員経験者へのインタビューから、白河押す際の時の包括緩和ではデフレ脱却という結果が出なかったので、黒田総裁に交代した後の異次元緩和に賛成した、というもっともな態度が明らかにされています。また、旧来の日銀理論ではデフレは人口減少とか、中国の安価な輸入品とか、金融政策でコントロール出来ない要因によりもたらされているので金融政策での対応はムリ、という主張がまかり通り、逆に、私のようなリフレ派のエコノミストからはインフレやデフレは貨幣現象なのだから金融政策で対応すべし、との両者に平行線で交わることなく、やや不毛な議論があったんですが、黒田総裁の観点として、デフレの原因が何であれ、物価を政策目標とする金融政策として何でもやれることはやる、という真っ当な政策対応だと本書では主張されており、なるほどと思わせるものがありました。ただ、黒田総裁はバブル容認論である、というのはやや筆が滑った印象があります。

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次に、若林宣『帝国日本の交通網』(青弓社) です。著者は歴史・乗り物ライターということで、タイトル通り、明治期から終戦までの我が国の交通網、特に、国内だけでなく植民地経営を行ったサハリン、台湾、また、その昔の満州国や朝鮮だけでなく、戦時下で一時的に占領しただけの東南アジアや南洋諸島も含めています。その意味で、平時の交通網に関するノンフィクションではなく、むしろ、戦時や戦争遂行のための交通網の維持・建設という側面を色濃くにじませています。すなわち、第1章では朝鮮・台湾・樺太・満洲の交通網形成として、主として鉄道が取り上げられていて、ゲージが国内の狭軌と合わない標準軌だったり広軌だったりして、そもそも、まったく接続が無理だった可能性を議論しています。また、第2章と第3章では主として航空機の交通網を展開していますが、米国などと同じように航空郵便事業の展開の中で航空輸送が発達して行ったようすがよく理解できます。その後の第4章以下では、戦時下での南洋諸島、内モンゴル、中国や東南アジアの占領地域での交通網の展開を論じています。ただ、主として鉄道と飛行機に集約されており、船舶の交通網についてはほとんど触れられていません。さらに、交通網というよりも、例えば、その昔の満州国における満鉄などは、鉄道会社というよりも本書でも植民地経営全般に携わった国策会社としての面を強調していますし、本書における交通とは平時の旅行や製品輸送のロジスティックではなく、戦争遂行のための兵站としての面を強く打ち出しているという気がします。まあ、要するに最後はそういった兵站がまったく出来上がらないというか、出来た後もメンテナンスがなされずにブチブチに切れてしまい、非常にいい加減な戦争遂行計画であった可能性を示唆していると私は受け止めました。本書の副題の「つながらなかった大東亜共栄圏」もそれを表していると思います。また、交通網については観光などの旅客輸送ではなく、戦争遂行の兵站ながら、製品輸送という生産面からの捉え方に近い気がして、それなりの評価はできると私は感じました。すなわち、20年ほど前のインターネットの黎明期には、国民生活の利便性向上における活用が議論されていましたが、私はインターネットにせよロジスティックにせよ、生産活動における役割が重要と考えて来ました。また、現在の日本におけるコンビニの成功はロジスティックに負うところが大きく、輸送産業の果たす役割をもう一度見直す意味でも、本書はいい点を議論している気がします。最後に、本書の写真がほとんど著者所蔵の貴重品であるのは少しびっくりしましたが、出来れば、もっと地図を盛り込んで欲しかった気がします。位置関係が私には不明な部分が少なからず存在しました。

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次に、青山文平『つまをめとらば』(文藝春秋) です。紹介するまでもなく直木賞受賞作です。短編集となっていて、表題作が最後の短編として配置されているほか、「ひともうらやむ」、「つゆかせぎ」、「乳付」、「ひと夏」、「逢対」の6編の短編時代小説が収録されています。同じ趣旨の繰り返しになりますが、最後に置かれた短編を本のタイトルにしていて、男女の結婚にまつわるお話が中心なんですが、結婚まで至らない男女の関係も大いに含まれています。時代小説の王道として、時代は天下泰平の江戸時代、主人公は侍の男性です。ただ、『たそがれ清兵衛』のように、政治向きのお家騒動などはほとんどなく、ひたすら男女関係に焦点を当てています。高校なんぞの日本史で習うように、江戸時代の天下泰平の世の中で武断政治から文治政治に切り替わり、『たそがれ清兵衛』のように武士の表芸としての剣術を生業とする番方もまだ残っているものの、読み書き算盤のような役方の役人としての武士の生き方も決してめずらしくもなくなった時代に、一方で、政治に明け暮れて世襲で安泰なお家の藩主を差し置いて、家老以下がお家騒動に明け暮れる時代小説もあれば、本書のような色恋沙汰に重点を置いた時代小説もあります。ただ、私も決して嫌いではないんですが、髙田郁「みをつくし料理帖」シリーズのように、女性の料理人を主人公にした町場の時代小説はまだ少数かもしれません。6編のうちでは、やっぱり、というか、何というか、最初に置かれた「ひともうらやむ」と最後の「つまをめとらば」が印象的でした。「ひともうらやむ」は、本家の克巳と分家の庄平という縁戚関係にある同年代の侍の親友関係を中心に、男から見た妻という捉え難くミステリアスな存在を描こうとしています。いろいろな面を持ち、ある意味で強かな妻の一面は、とても怖いと感じてしまいました。また、「つまをめとらば」でも、幼なじみの省吾と貞次郎がほぼ隠居の年齢に達した50代後半からの生きざまを捉え、その昔の使用人の女性との関わりから、3人の妻と次々と結婚した省吾に対して、独身を貫いて養子に家督を譲った貞次郎が隠居してから結婚するという人生観のありようを描き出しています。他の短編もいい出来だと思いますが、取りあえず、印象に残ったのはこの2篇でした。

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次に、宮内悠介『アメリカ最後の実験』(新潮社) です。作者は『盤上の夜』、『ヨハネスブルグの天使たち』、『エクソダス症候群』と私が読み進んで来た新進気鋭のSF作家です。この作品は米国西海岸のグレッグ音楽院を舞台に、主人公のピアニスト櫻井脩が失踪した父親を捜し、その父親の残したシンセサイザ「パンドラ」と出会ったり、グレッグ音楽院の受験ではリロイと競ったり、ほかにマフィアの御曹司のザカーリという少年ピアニストなどが登場します。脩はジャズをホームグラウンドとするのピアニストなんですが、音楽とはゲームだと感じ、心の動きは無視するタイプのピアニストであり、その昔のテキスト・クリティークとの相似性を感じさせます。ということで、本書は著者本来のいわゆるSF小説ではなく、時代背景も現在もしくはせいぜい近未来くらいなんですが、「最初の実験」と称してグレッグ音楽院で殺人事件が起こり、次々とナンバー殺人が「実験」と称して連鎖します。他方、脩やザカーリの参加するグレッグ音楽院の入学試験は延々と2次試験から最終試験まで進みます。唯一SF小説的な要素があるとすれば、櫻井脩の父親である俊一が残した「パンドラ」と称するシンセサイザですが、ブルーノート、すなわち、ブルーズで半音落とす3度と5度と7度の落とし方を大きくすることが出来たり、純正律を奏でることが出来るという意味で、独特の音楽をもたらすというマシンとして描かれています。だからといって、何だという気もしますし、日本の友人のエンジニアにコピーを作らせたりするんですが、最後まで父親である俊一の役割が私には理解できませんでした。同じ道を進む父親と息子、しかも父親が行方不明という点では『エクソダス症候群』と同じ構成なんですが、医療と音楽というかなり異なる分野を舞台にしています。SF小説から離れて、作者の新しい境地を開いたことになる作品なのか、あるいは、単なる鬼っ子の作品なのか、現時点では評価が分かれると思います。

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最後に、島崎敢『心配学』(光文社新書) です。著者はなかなか興味深い経歴ながら、現在は交通事故や災害などに関する心理学の研究者です。タイトルはそのままなんですが、要するに、客観的な確率と主観的な確率のズレについて論じています。ただ、主観的な確率については、過大推計する場合と過小推計の場合があり、特に、得体の知れないリスクについてのバイアスについても詳しく解説しています。心理学的なリスクですから、経済学的なリスクとは異なります。すなわち、経済学ではシカゴ大学のフランク・ナイト教授の功績により、確率分布が事前に判っている場合はリスクと呼び、そうでない場合は不確実性と称する習わしになっていますが、本書ではすべてを「リスク」と称しているようです。その上で、何らかの不都合な事象が生ずる可能性をリスクと定義し、メディアで報じられるリスク事象については、間接的な情報取得であって、仲介者により情報が歪められている可能性を考慮する必要があると指摘しています。また、集団の中では極性化が生じて、いわゆる極論が形成されやすい事実を主張し、正体の知れないモノのリスクを過大推計する可能性があるとしています。第4章から第5章にかけてが読ませどころだと思うんですが、特に第5章の実際の確率の計算が実生活上の参考になるんではないかと思います。さらに、行き過ぎたリスク回避の危険も指摘し、危険な遊具をすべて公園から撤去すれば、逆に、危険回避行動の学習に支障を来す可能性を指摘することも忘れていません。原発についてもコスト・ベネフィットの勘案からバランスの取れたリスク回避の重要性を指摘し、闇雲にリスクを回避することが重要と考えるべきではないという立場を明らかにしています。とても感心したのは、どうでもいいことながら、第5章 p.167 から BSE に関する確率計算の部分で、牛丼の「吉野家」の最初の漢字をちゃんと「土+口」で表現していることです。通常のパソコンではフォントがなくて「士+口」になるハズで、吉野家のホームページでも画像はともかくテキスト部分は止むなくそうなっています。逆に、感心しない点として上げるべきは、ピンポイントの確率については詳しく論じていますが、確率分布については p.34 図1で簡単に触れているだけで、もう少し詳しく論ずるべきではないか、という気もしました。でも、全体として、とても興味深く読めました。

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2016年3月 5日 (土)

米国雇用統計は再び米国雇用と経済の堅調さを示す!

日本時間の昨夜、米国労働省から2月の米国雇用統計が公表されています。ヘッドラインとなる非農業部門雇用者数は前月から+242千人の増加した一方で、失業率は前月と同じ4.9%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから記事を最初の5パラだけ引用すると以下の通りです。

Jobs Report Shows Brisk U.S. Hiring in February
With anxiety about the economy bubbling up on Wall Street and at campaign rallies around the country, the government reported on Friday that employers added 242,000 workers in February, a hefty increase that highlighted the labor market's steady gains.
"We've got a real strong job market going," said Carl Tannenbaum, chief economist at Northern Trust. "It does suggest that fears about a U.S. recession have been greatly overdone."
Four years ago, at this point in the last presidential election cycle, the jobless rate was 8.3 percent and the economic recovery was in a relatively early stage. Then, worries centered on rising gas prices, deep consumer debt and government layoffs.
Now, the recovery is in its seventh year, the unemployment rate has dropped sharply to 4.9 percent and the private sector has chalked up 72 months of uninterrupted job gains, the longest streak on record. Oil prices may still be causing ulcers, but this time it is primarily producers who are feeling the pain, because prices have plunged.
The shadow on the otherwise positive Labor Department report was that wages fell 0.1 percent in February, a disappointment after January's promising 0.5 percent increase. That put the yearly growth in wages at 2.2 percent, only slightly ahead of the inflation rate. The average length of the workweek declined by 0.2 hours last month.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューが続きます。いつもよりやや長くなりましたが、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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まず、非農業部門の雇用者数に関する市場の事前コンセンサスは+200千人に届かないレベルでしたので、かなりこれを上回っています。しかも、直近の先月1月と先々月12月がいずれも上方改定されており、2月と合わせて直近3か月の雇用増は月平均で+228千人ですから、一応の目安とされる+200千人を上回っていると見なすことも可能で、1月はやや下振れしたものの、依然として米国の雇用はかなり堅調と考えるべきです。セクター別では石油などの資源価格下落の影響で鉱業が減少しているものの、やはり米国経済は個人消費が牽引していることを表していて、小売業やヘルスケアが増加を見せています。失業率も5%を下回る水準にあって、ほぼ完全雇用と考えてよさそうです。今月は米国連邦準備制度理事会(FED)が連邦公開市場委員会(FOMC)を15-16日にかけて開催しますが、昨年12月に再開した利上げを決定するするかどうかはビミョーなところです。毎年1%ポイントのFF金利引き上げのためには、25ベーシスの利上げを4回実施する計算になりますので、12月に続く利上げはそろそろ3月にも、と考えられなくもないんですが、中国などの新興国経済の低迷に起因する金融市場の動揺などの影響をFOMCがどのように判断するかが注目されます。私は1回パスではないかと考えているんですが、パスするべきではないという意見も聞こえてきます。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2016年3月 4日 (金)

毎月勤労統計に見る雇用の質の改善やいかに?

本日、厚生労働省から1月の毎月勤労統計が公表されています。統計のヘッドラインとなる現金給与総額は季節調整していない系列の前年同月比で見て+0.4%上昇して消費者物価上昇率を上回り、景気に敏感な製造業所定外労働時間は季節調整済みの前月比で▲0.4%の低下を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質賃金、3カ月ぶりプラス 1月速報値0.4%増
厚生労働省が4日発表した1月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月より0.4%増えた。プラスは3カ月ぶり。ボーナスなどの特別給与の伸びが賃金の水準を全体に押し上げた。物価の伸びも横ばいだったため実質賃金が増えた。
基本給や残業代は伸び悩んでおり、実質賃金の増加傾向が続くかどうかは不透明だ。調査は従業員5人以上の事業所が対象。実質賃金がプラスだと、給与の伸びが物価上昇のペースを上回っていることを示す。
名目賃金にあたる1月の現金給与総額も前年同月比0.4%増の26万9725円だった。内訳をみると、ボーナスなど特別に支払われた給与は1万3114円と7.1%増えた。一方で、残業代などの所定外給与は1.3%減の1万9302円。基本給にあたる所定内給与も0.1%増の23万7309円と伸びは鈍かった。
産業別の特別給与では、情報通信業(前年同月比87.7%増)や飲食サービス業等(同66.7%増)などで伸びが目立った。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。順に、上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、まん中のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の前年同月比伸び率である就業形態別の雇用の推移を、それぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。

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グラフのポイントについて、順に上から見ていくと、まず、景気に敏感な製造業の所定外労働時間は季節調整済みの指数で昨年2015年11月から3か月連続で低下しています。ほぼ鉱工業生産などの企業活動に沿った整合的な動きと私は考えており、月曜日の2月29日に取り上げた鉱工業生産指数は1月こそ中華圏の春節効果などから前月比プラスを示しましたが、ここ3か月は弱い動きを続けている通りで、10-12月期の法人企業統計にもハッキリと現れている通りです。その一方で、火曜日の3月1日に公表された雇用統計では引き続き雇用が量的に拡大していることが明らかにされ、失業率は低下して有効求人倍率が上昇し、人手不足は深刻さを増していることから、雇用の質的な改善が進む方向にあることは明らかです。季節調整していない系列の前年同月比で見た現金給与総額の上昇、特に消費者物価上昇率を上回っての実質賃金の改善は人手不足を背景にしていることはいうまでもありません。ただし、10-12月期に企業活動の現況や年明け以降の金融市場の混乱などを考慮すれば、今春闘でのベースアップなどは昨年ほど期待できない気がしないでもないんですが、政府が「同一労働同一賃金」を目標に掲げていることもあって、非正規雇用の賃金などの待遇の底上げが図られる可能性は十分あるんではないかと私は期待しています。3男目の一番下のパネルについては、1月単月ですし、速報段階でのイレギュラーな統計の可能性もありますが、季節調整していない系列の前年同月比で常用雇用指数を見ると、フルタイムの一般労働者が+2.1%増に対して、パートタイムが+2.0%増と、フルタイム雇用の増加率がパートタイムを上回っています。確報段階で修正されるのかもしれませんが、雇用の質の改善に関しては、賃上げよりも正規雇用の増加の方が早く始まる可能性が示唆されているのかもしれません。

もうすぐ、米国雇用統計が公表される予定ですが、日を改めて明日にでも取り上げたいと考えています。

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2016年3月 3日 (木)

3月8日に公表予定の2次QE予想は1次QEから小幅修正か?

今週火曜日の3月1日に法人企業統計が公表され、その他の指標と合わせて、ほぼ必要な統計が出たことから、来週火曜日の3月8日に昨年2015年10-12月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定となっており、シンクタンクや金融機関などから2次QE予想がほぼ出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の今年1-3月期以降を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは、みずほ総研と第一生命経済研と伊藤忠経済研の3機関だけでした。それらについてはヘッドラインを気持ち長めに引用してあります。ただし、2次QEですから、アッサリした予測も少なくなかったのも事実です。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE▲0.4%
(▲1.4%)
n.a.
日本総研▲0.5%
(▲2.1%)
2015年10-12月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資が小幅下方修正、在庫投資、公共投資がそれぞれ下方修正の見込み。その結果、成長率は前期比年率▲2.1%(前期比▲0.5%)と1次QE(前期比年率▲1.4%、前期比▲0.4%)から下方修正される見込み。
大和総研▲0.4%
(▲1.6%)
10-12月期GDP二次速報(3月8日公表予定)では、実質GDP 成長率が前期比年率▲1.6%(一次速報: 同▲1.4%)となり、一次速報から下方修正されるとみている。
みずほ総研▲0.2%
(▲0.9%)
今後の景気を展望すると、2016年1-3月期については、IT関連需要の減退などが見込まれることから、景気の踊り場が続くと予想している。一方、4-6月期に入ると、国内生産の持ち直しとともに、景気は緩やかに回復基調に復するだろう。製造業部門の在庫調整は徐々に進捗しており、最終需要が底入れすれば、増産に向かいやすい状況にある。大手自動車メーカーが欧米向けの輸出用生産を増強する予定であることも、生産持ち直しの後押しとなるだろう。ただし、需要が下振れすれば、生産停滞が長期化するリスクも否定できない。特に、年明け後に金融市場が激しく変動したことから、円高・株安による輸出・個人消費の下押し、不確実性の高まりを受けた設備投資の先送りなどのリスクには注意が必要だ。
ニッセイ基礎研▲0.4%
(▲1.5%)
15年10-12月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比▲0.4%(前期比年率▲1.5%)になると予測する。1次速報の前期比▲0.4%(前期比年率▲1.4%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研▲0.4%
(▲1.4%)
最近公表された経済指標も冴えないものが目立つ。鉱工業生産では1-3月期の減産が示唆された上、1月の個人消費は下振れ、輸出もぱっとしない。牽引役不在の状況は未だ解消されておらず、1-3月期の景気も低調なものにとどまる可能性が高まりつつあるようだ。景気持ち直しが確認されるには今しばらく時間がかかるだろう。
伊藤忠経済研▲0.6%
(▲2.3%)
2016年に入ってからは、中国の株価や原油価格が一段と下落、米国経済の先行きに対する懸念が強まり海外金融市場が不安定化、国内では円高・株安が進行するなど、内外情勢はさらに悪化している。日銀が1月に導入を決定、2月16日から適用を開始したマイナス金利は、国内金利全般を押し下げたものの、海外景気の悪化懸念や円高進行により国内景気の刺激効果が大きく減殺されている。頼みの綱であった春闘も、要求段階で昨年実績を下回る例が目立っており、少なくとも賃金の上昇ペースが加速する兆しは見られない。日本経済はデフレからの脱却が危ぶまれる状況となりつつある。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券▲0.3%
(▲1.1%)
実質GDP成長率が、1次速報の前期比年率マイナス1.4%から同マイナス1.1%へと上方修正されると予想する。1次速報では、大半の需要項目が前期比マイナスとなる中で設備投資の堅調ぶりが目立ったが、2次速報でも同様の傾向が確認されるとみられる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング▲0.4%
(▲1.5%)
2015年10-12月期の実質GDP成長率(2次速報値)は前期比-0.4%と、1次速報値から変化はないと予想される(年率換算値では-1.4%から-1.5%に小幅下方修正)。けん引役が不在の中、景気が引き続き横ばい圏内にとどまっていることを確認することになろう。
三菱総研▲0.2%
(▲0.9%)
2015年10-12月期の実質GDP成長率は、季調済前期比▲0.2%(年率▲0.9%)と、1次速報値(同▲0.4%(年率▲1.4%))から上方修正を予測する。

ということで、上方改定と下方改定が相半ばしているように見えますが、私の見立てでは、一昨日のブログに書いた通り、ほぼ変更なしか小幅の下方修正と考えています。主因は法人企業統計に合わせた設備投資の下方改定であり、直感的には、大和総研かニッセイ基礎研あたりが近い印象です。また、足元の1-3月期から先行きについても見方が分かれており、みずほ総研では1-3月期は踊り場が続くとしても、4-6月期以降は緩やかながら回復基調に復すると見込んでいるのに対して、第一生命経済研と伊藤忠経済研では、「景気持ち直しが確認されるには今しばらく時間がかかる」ないし「デフレからの脱却が危ぶまれる状況」と見ています。みずほ総研ではそもそも10-12月期の2次QEで1次QEから上方改定と予想していますので、やや明るい方向で日本経済を見ている可能性があります。ですから、10-12月期の2次QEが上方改定か、下方改定かの違いはあるものの、私の先行き見通しはみずほ総研に近いものがあります。ただし、需要下振れのリスクは常にありますし、特に賃上げ動向には大いに関心をもっていたりもします。
下のテーブルの画像はニッセイ基礎研のリポートから引用しています。需要項目もGDPの仕上がりも私の実感にかなり近いと受け止めています。

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2016年3月 2日 (水)

帝国データバンク「人手不足に対する企業の動向調査」に見る人手不足やいかに?

昨日、1月の雇用統計が公表されたばかりですが、ちょうど1週間前の先週2月23日に、帝国データバンクから「人手不足に対する企業の動向調査」の結果が公表されています。一昨年2015年1月から半年おきに実施されている調査で今回は3回目です。業種別、規模別、正社員・非正社員別で人手不足の現状が明らかにされています。まず、帝国データバンクのリポートから調査結果(要旨)を引用すると以下の通りです。

調査結果 (要旨)
  1. 企業の39.5%で正社員が不足していると回答。業種別では「放送」が66.7%にのぼったほか、「情報サービス」や「医薬品・日用雑貨品小売」が6割を超えており、IT関連業界や専門知識・スキルを必要とする業種で人手不足が深刻となっている。とりわけ、「旅館・ホテル」「自動車・同部品小売」などで前回調査(2015年7月)より10ポイント以上増加しており、急激に人手不足感が拡大する業種もみられる。また、従業員数の多い大手企業ほど人手不足を感じる傾向があった。アベノミクスの恩恵が届きやすい大手企業において、人手が不足している状況がうかがえる
  2. 非正社員では企業の26.2%が不足していると感じており、特に「飲食店」「飲食料品小売」「旅館・ホテル」などで高い。また、人手不足を感じる企業が半数以上となる業種は51業種中9業種で前回調査(4業種)から5業種増えており、人手の不足している業種が広がりを見せている

ということで、帝国データバンクのリポートから、いくつか図表を引用して簡単に紹介しておきたいと思います。

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正社員と非正社員に分けて、従業員の過不足感を問うた結果が上のグラフの通りです。6か月ごとの調査で、正社員・非正社員とも大雑把に不足感が高まって、過剰感は低下している、という結果が読み取れます。リポートでは、企業からは、「システム開発案件が多く人材不足が深刻」(ソフト受託開発、東京都)とか、「ビジネスパートナー会社から人材が確保できなくなった」(ソフト受託開発、大阪府)など、情報サービス関連の人材不足が拡大するなか、人材紹介会社からの確保も難しくなってきている様子がうかがえるとともに、「消費税増税の影響が薄れ、一部大手メーカーで業績が回復するなど、変化の兆しが表れている」(情報家電機器小売、東京都)など、消費税率引き上げの影響が薄れてきたことを指摘する意見も表明されています。いずれにせよ、正社員の不足感が非正社員の不足感を上回っており、雇用の質的な改善が図られる環境が整いつつあることが見て取れます。

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次に、業種別と規模別の従業員不足感の大きい企業の割合は上の通りです。注目は規模別であり、規模の大きな企業ほど人で不足感が強くなってうます。リポートでは、企業の景況感は従業員数「1000人超」が「5人以下」を10%ポイント以上上回っていることから、アベノミクスの恩恵が届きやすい大手企業において、人手不足感が高まっている可能性を示唆しています。

いずれにせよ、今週火曜日に公表された雇用統計に見られる通り、我が国の労働市場はほぼ完全雇用の状態にあり、この先、量的な雇用拡大から賃金引き上げや正規雇用の増加などの質的な雇用改善の段階が始まることと私は予想しています。

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2016年3月 1日 (火)

本日公表の雇用統計と法人企業統計から何が読み取れるのか?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、財務省から法人企業統計が、それぞれ公表されています。雇用統計は今年1月、法人企業統計は昨年10-12月期の統計です。失業率・有効求人倍率ともに前月より改善を示し、それぞれ、失業率は0.1%ポイント低下して3.2%を記録し、有効求人倍率も+0.01ポイント上昇して1.28倍となっています。一方、法人企業統計では季節調整していない原系列のベースで、売上高は前年同期比▲2.7%減の331兆8402億円、経常利益は▲1.7%減の17兆7630億円、設備投資は+8.5%増の10兆5302億円となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

完全失業率、1月は前月比0.1ポイント低下の3.2% 「改善傾向続く」
総務省が1日発表した1月の労働力調査によると、完全失業率(季節調整値)は3.2%で、前月から0.1ポイント低下した。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値は3.3%だった。総務省は雇用情勢について「引き続き改善傾向で推移している」としている。
就業率は前年同月から0.8ポイント上昇し、57.8%となった。人手不足や女性の労働参加などを背景に、製造業や医療・福祉、運輸・郵便業などで就業者が増加した。
完全失業率を男女別にみると、男性が前月比0.2ポイント低下の3.4%、女性が横ばいの2.9%だった。完全失業者数は前月比9万人減の212万人となった。このうち、勤務先の都合や定年退職など「非自発的な離職」は1万人増、「自発的な離職」は6万人減だった。
就業者数(同)は6458万人で前月から61万人増加した。雇用者数も50万人増の5725万人となった。
法人企業統計、設備投資8.5%増 経常益は4年ぶり減 10-12月期
財務省が1日発表した2015年10-12月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比8.5%増の10兆5302億円だった。伸び率は7-9月期(11.2%増)から鈍ったものの、11四半期連続で増えた。製造業、非製造業とも投資が拡大した。一方、新興国の景気減速などが逆風となり、経常利益は4年ぶりの減益に転じた。
産業別の設備投資の動向は、製造業が10.2%増と6四半期連続で増えた。業種別ではスマートフォン(スマホ)や自動車向け電子部品の生産増強があった情報通信機械のほか、自動車で新型車向けの増強投資や研究開発などがみられた。非製造業は7.6%増で11四半期連続のプラス。卸売業の物流センター建設や、宿泊業でホテルの建設・改修などが寄与した。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は、季節調整済みの前期比で0.0%減だった。わずかながら、7-9月期(5.7%増)からマイナスとなった。内訳は製造業が0.1%増、非製造業が0.1%減だった。
経常利益は前年同期比1.7%減の17兆7630億円となり、東日本大震災後に企業収益が落ち込んだ11年10-12月期以来の減益に転じた。非製造業は12.7%伸びる一方で、製造業が21.2%減った。情報通信機械の中国向け電子部品の売り上げが振るわなかった。輸送用機械では人件費などの固定費増も重荷となった。ただ、経常利益額は統計データがさかのぼれる1954年4-6月期以降で過去3番目の高水準だった。
全産業の売上高は前年同期比2.7%減の331兆8402億円で、3四半期ぶりの減収だった。石油・石炭業で原油安に伴う販売価格の下落の影響が出た。鉄鋼業は鋼材の供給過剰による価格低下も収益を下押しした。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や収益動向を集計。今回の15年10-12月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

いずれも包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。しかし、昨日と同じように2つの統計の記事を一気に並べるとそれなりのボリュームになります。続いて、雇用統計については、以下のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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雇用統計については、失業率が低下し有効求人倍率が上昇していますので、雇用が改善しつつさらに人手不足が進んだ形になっていますが、中身が少し異なります。すなわち、総務省統計局の労働力調査の結果として公表される失業率については、昨年2015年12月から今年1月に向かって、供給サイドの労働力人口が増加し、企業側の需要サイドである雇用者や就業者がそれ以上に増加するという好循環の中で失業率が低下しています。雇用が改善したため非労働力人口から労働市場に参入し、かつ、雇用されたり就業したりする人もそれ以上に多かった、という内容です。他方、厚生労働省のハローワークなどで取りまとめている有効求人倍率は、企業からの需要サイドの求人数が減少しつつ、供給サイドの求職者数がさらに減少して、結果的に有効求人倍率が上昇しています。求職者数の減少は失業率の低下と方向性としては同じなんですが、求人数の減少は企業活動の水準低下を示しているのか、あるいは、人手不足で採用を諦めたのか、場合によっては人手から機械に代替する設備投資を考えているのか、詳しい情報はありませんが、必ずしも好ましい形での有効求人倍率上昇ではない可能性が示唆されていると私は受け止めています。特に、雇用の先行指標となる新規求人については、上のグラフの最後のパネルで示した通り、新規求人数は1月に減少しましたが、それ以上に新規求職者数が減っていますので、1月の新規求人倍率は2.07倍と12月の1.90倍から跳ね上がっています。ただ、単月の動きですので神経質になる必要性は低いともいえ、あるいは、季節調整要因とかのテクニカルな動きである可能性も排除できませんし、我が国労働市場はほぼ完全雇用に達したと多くのエコノミストは考えていますので、ノイズとはいわないものの、重視する必要のない細かな変動の範囲内かもしれません。いずれにせよ、量的な雇用の拡大はまだ続いていることが確認され、次には賃上げや正規雇用の増加などの質の改善の局面が遅からずやって来ることを私は期待しています。

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次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが上のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。また、影をつけた部分は雇用統計と同じで景気後退期を示しています。ということで、企業活動には少し翳りのようなものが見え始めた気がします。季節調整済みの系列が公表されている上のグラフの3指標、すなわち、売上げと経常利益と設備投資を見ると、売上高は4四半期連続で前期比減少を記録し、1-3月期▲0/9%減、4-6月期▲0.1%減、7-9月期同じく▲0.1%減の後、10-12月期は▲1.6%減を記録しています。経常利益も2四半期連続の前期比マイナスです。特に製造業の経常利益の落ち込みが大きくなっています。非製造業の経常利益は依然として過去最高に近い水準にあるんですが、製造業は過去最高益を記録した2014年10-12月期のレベルからは20%超の落ち込みを示しています。消費をはじめとして内需も冴えないんですが、中国をはじめとする新興国経済の低迷や円安効果がの一巡したことなどを受けて製造業の収益環境は厳しくなりつつあり、春闘をリードするのは製造業ですから今後の賃上げ交渉への影響などが懸念されます。設備投資については製造業・非製造業とも7-9月期からほぼ横ばいとなっています。先行き設備投資については、企業収益が不透明であり、需要項目として経済成長を牽引する期待がどこまでできるかについてはやや疑問が残ります。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。いずれも、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しました。また、最初にお示ししたグラフでは季節調整済みの設備投資はこの7-9月期にやや増加したものの、キャッシュフローとの比率で見れば設備投資は50%台後半で停滞が続いています。これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。経常利益などの企業収益の先行きに不安が残るものの、これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないかと私は期待しています。

本日公表された法人企業統計などを盛り込んで、昨年2015年10-12月期のGDP統計2次QEが来週3月8日に公表される予定となっています。需要項目の中では、季節調整済みの前期比で+1.4%増だった設備投資がやや下方修正され、その影響で成長率も下方修正されると考えられ、仕上がりの前期比成長率は▲0.4%から変更ないか、少し下方修正されるといったあたりではないかと私は予想しています。また、日を改めて2次QE予想として取りまとめたいと思います。

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今日は女房の誕生日!

今日は女房の誕生日です。誠にめでたい限りです。仕事に行って帰宅した際に忘れないように、早めにアップしておきます。
いつもの通り、我が家恒例のジャンボくす玉を置いておきますので、めでたいとお感じの向きはクリックして割ってやって下されば幸いです。

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