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2016年4月16日 (土)

今週の読書は経済書と専門書・教養書に小説を含めて計7冊!

今週の読書はやや物足りなさの残った『介護市場の経済学』と『ドキュメント銀行』といった経済書に加えて、十分な理解は進まなかったものの、『ダークマターと恐竜絶滅』などの専門書・教養書にミステリ小説に純文学までを含めて計7冊、以下の通りです。なかなかペースダウンできません。

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まず、角谷快彦『介護市場の経済学』(名古屋大学出版会) です。著者はシドニー大学で博士号の学位を取得した名古屋大学特任准教授の肩書を持つ研究者です。本書は、競争市場を通じたヒューマン・サービスの供給はいかにあるべきか、を題材にして、一定の成果を上げている日本の介護市場を事例として取り上げ、国際的視野でその政策モデルを検証することにより、ケアの品質向上と効率性の両立を可能にする社会システムを領域横断的に示して、理想の介護市場モデルを包括的に描き出すことを目的としています。介護などのヒューマン・サービスの供給については、長らくオストロムのように行政が最適という考えが支配的でしたが、病院の例を見るまでもなく行政ではないとしても非営利法人が経営に当たる例の方が支配的でしょうし、介護については株式会社などの営利法人も参入を認められています。本書では、特に第4章で以下の3つの仮説に対する定量分析を行い、各仮説が成立しないことを確認しています。3つの仮説とは、介護サービス供給者が非営利団体であるか、株式会社などの営利法人であるかといった供給主体をサービスの質の目安として捉える契約の失敗仮説、さらに、介護市場における競争がむしろ質の低下を招くメディカル・アームス・レース仮説、さらに、市場の新規参入がサービスの質の向上に貢献しない佐竹・鈴木仮説です。ただ、この第4章の分析は査読付きジャーナルに掲載された論文を基にしているというものの、現代的かつ標準的な経済学の定量分析から考えて、それほどレベルの高いものではなかった気がします。また、海外事例との比較対象はほとんどが米国のメディケアだったりしますので、やや不満も残ります。最後に、終章で本書の分析がヒューマン・サービス一般、例えば、明記されているのはチャイルド・ケアとホームレス支援なんですが、ほかの医療や教育・職業訓練などにも適用可能であるかのような記述があるところ、これは著者が本気で書いているのか、それとも、書き進むうちについつい気が大きくなって筆が滑ったのか、極めて疑問が残ります。それなりの水準の専門書なんですが、学術書としての水準がどこまで満たされているか、エコノミストによってはあまり高く評価しない人もいそうな気がしないでもありません。

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次に、前田裕之『ドキュメント銀行』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) です。サブタイトルが『金融再編の20年史 - 1995-2015』となっていて、ここ20年の銀行の再編や浮沈について、日経新聞をホームグラウンドとするジャーナリストらしく、ていねいな取材に基づいて説き起こしています。はじめに、において、「銀行業とは何か」、「銀行は安全なのか」という疑問を設定しており、これらの疑問に答えつつ、これから銀行とどう付き合うべきかを考えるヒントを提供するのが本書の狙いと著者自身が表明しています。第1章では大和銀行から始めて、その再編先の仕上がりであるりそな銀行までの軌跡を追い、すでに亡くなった細谷元頭取の功績にも触れています。第2章では興銀を中心に長信銀を追跡し、興銀がみずほ銀行に再編された上で、長銀と日債銀が国有化を経て売却され消滅したという事実を取材により跡付けています。第3章ではメガバンクを三菱銀行系を中心に追跡し、第4章ではいくつかの代表的な地銀を取り上げ、最後の第5章で最初の問いである「銀行業とは何か」などを考察しています。なお、日本では証券会社の位置づけが与えられている投資銀行についても幅を広げています。私の基本的な見方では、銀行や電力、あるいは、その昔の国鉄なんかは、ハッキリ言って、私の勤務する役所以上の「殿様商売」であって、いろいろと考えさせられる事実も多く提示されているんですが、基本は、その昔の護送船団方式から、現在の too big to fail まで、規制にあぐらをかいた歪んだビジネスという見方が否定できない側面を有していると受け止めています。スティグリッツ教授の示唆するように、もしも too big to fail なのであれば、分割するくらいの行政側の姿勢がないと、そして、それをサポートする国民の意見表明がないと、この産業はどうしようもない可能性が残る点は忘れるべきではありません。特に、職業としてのジャーナリストとは、今年のアカデミー賞作品賞を受賞した「スポットライト」ではないんですが、かなり無条件に権力に対する反抗心のようなものを持って欲しい気がします。銀行や金融機関の提灯持ちをするようなジャーナリストの存在意義は私には意味不明です。

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次に、黒川清『規制の虜』(講談社) です。著者は基本的に医学者なんですが、学術会議会長なども歴任し、本書では、福島第一原発の震災の際の事故に関して、国会事故調査委員会の委員長として調査に当たった記録の側面もあります。タイトルの「規制の虜」は本書でもシカゴ大学のうはエコノミストでありノーベル賞も受賞したスティグラー教授の考え方を踏襲しており、政府が市場の失敗などを是正するために企業あるいは産業の規制に乗り出しても、むしろ、政府よりも当該企業や産業の方が情報的に優位にあって、むしろ政府が規制されている企業や産業に取り込まれてしまう状況を指します。最後にリファレンスを置いてあります。ということで、しごく真っ当な主張なんですが、どうしてもこの年代の年配のエスタブリッシュされた方が本を書くと、ほとんどが自慢話になってしまいます。少なくとも第1部は著者の黒川先生がいかにして調査委員会設立を各方面に売り込んだかの自慢話です。私から見て、主張が真っ当であって読むべきなのは、第2部の冒頭です。第2部の第1章と第2章です。この30ページほどの主張については、まさに公務員である私も同意する部分が多いと受け止めています。第2部の第9章などはほとんど著者のパーソナル・ヒストリーに終始していて、本書のタイトルである「規制の虜」とは何の関係もなさそうに思えるのは私の読解力に問題があるからなのでしょうか。いずれにせよ、私自身は、何らかの調査を行う際には、科学的に事実が解明されていることが最重要と考えるんですが、そのためには政府の公務員に取り込まれることのないようにする仕組みが必要な場合もありますし、調査結果の公表などの際には、メディアとの付き合い方なども考えさせられる記述は少なくなかったです。最後に、本書でもごく簡単に触れられているシカゴ大学のスティグラー教授の規制の経済理論に関する論文へのリンクは以下の通りです。なお、どうでもいいことなのかもしれませんが、スティグラー教授はシカゴ学派に属する右派エコノミストであり、もう亡くなっています。よく似た名前のスティグリッツ教授もノーベル賞を受賞していますが、リベラル派のエコノミストであり、格差問題などへの鋭い発言に私は感銘を覚える時もあります。間違えないように注意が必要かもしれません。

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次に、稲泉連『豊田章男が愛したテストドライバー』(小学館) です。著者はノンフィクション小説のライターのようですが、私はよく知りません。タイトルの豊田章男とはいうまでもなく我が国を代表するビッグビジネスのひとつであるトヨタ自動車の社長であり、同時に創業者の孫に当たります。本書でも「3代目」と呼ばれていたりします。そして、その豊田章男に愛されたテストドライバーとは数年前に亡くなった成瀬弘です。本書でスポットを当てられている主人公は彼です。臨時工のメカニックからトヨタでのキャリアを始め、67歳で事故死するまでの人生を本書では振り返っています。私はまったく自動車業界というか、テストドライバーの世界には不案内なんですが、320ページほどの本書の200ページ過ぎまで成瀬はドライバーというよりはメカニックとしてレースに参加します。私の読解力不足かもしれませんが、メカニックからテストドライバーになった時点というのは明確ではないような気がします。レースに参加するチームの一員として、市販自動車の改造やチューンナップに参加しているうちに、自ら運転するようになったようです。そして、自動車会社の創業者家出身経営者として豊田章男も、よく知られた通り、国際C級ライセンスを持ちドライバーとしてレースに参加しています。現地現物を重視し、数字、特に金額に表れないものづくりの原点のようなものを感じさせるに足る1冊でした。ただ、エコノミストとしては、ものづくりの製造者のみがクロースアップされ、製品に磨きをかけるのはテストドライバーであって消費者ではない、と言わんがごとき本書の視点は、やや傲慢に感じる場合もありました。サプライヤのブリジストンを登場させるのであれば、消費者とまで言わすとも、ディーラーくらいは登場させてもいいような気がしないでもありませんでした。

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次に、リサ・ランドール『ダークマターと恐竜絶滅』(NHK出版) です。著者は理論物理学者であり、ハーバード大学物理学教授として素粒子物理学および宇宙論を専門とする研究者です。かなり前に『ワープする宇宙』がベストセラーになって、私も読んだ記憶があるんですが、中身はまったく覚えていません。原書は2015年の出版で、英語の原題は Dark Matter and the Dinosaurs ですから、ほぼそのままです。ということで、本書は3部構成となっており、第1部は私が読んでも理解できる部分も散見されるくらいのスタンダードな宇宙物理学の入門編です。ダークマターやダークエネルギーもインフレーションとともに的確に解説されています。第2部では宇宙やもっと身近な太陽系の誕生と生命の起源、さらに、恐竜の絶滅までを簡潔に取り扱っています。そして、最後の第3部で著者の新理論であるダブルディスク・ダークマター、二重円盤のモデルが解説され、アクシオンやニュートリノなどのダークマターの正体の候補についてそれぞれの候補としての長所と短所が議論されています。ハッキリ言って、私には理解出来かねる部分が少なからずあって、本書を十全に理解したというつもりはありません。高校のころに電気の三相交流についてとうとう理解できずに理系進学を諦めた私ですから、物理学については自信がありません。でも、本書でも指摘されているように、宇宙があまりにも密度低い、というか、スカスカなのは不思議に思いますし、従って、ダークマターやダークエネルギーが実際にあるハズ、という主張も理解する一方で、見えない物質あるいは物体を導入しなければ相対論的な宇宙論が完結しない、というのには一抹の不安、というか、うさん臭さを感じるのも事実です。著者と私という読者の物理学や宇宙論に関する理解度の差が激しく大きいので、何とも言えませんが、こういった専門外の教養書を時に読むのもそれなりの知的刺激を受ける場合もありそうな気がします。でも、数週間ほどですっかり頭から抜けて忘れてしまいそうな予感もあります。

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次に、米澤穂信『王とサーカス』(東京創元社) です。作者は売れっ子のミステリ作家であり、この作品はネパールを舞台として、新聞記者を辞めたフリーの女性ジャーナリストを主人公とする長編ミステリです。時代設定は2001年とされており、大きな意味はなさそうな気もしますが、実際にネパールで起こったナラヤンヒティ王宮事件と同じ年と設定されています。また、登場人物は作者の初期の作品『さとなら妖精』と同じ登場人物がいたりするそうですが、私は読んでいませんので詳細不明ながら、少なくとも独立した作品として読めるように工夫されているようです。ということで、ストーリーは、新聞社を辞めたばかりの太刀洗万智なる女性ジャーナリストが、知人の雑誌編集者から海外旅行特集の仕事を受け、事前取材のためネパールに入ったところ、現地で知り合った少年にガイドを頼み、穏やかな時間を過ごそうとしていた矢先、王宮で国王をはじめとする王族殺害事件が勃発したため、知人の月刊誌編集者と連絡を取りつつ、この事件の取材を開始します。そうすると、情報提供源と期待して接触した国軍将校が殺害され、「密告者」を意味する informer と皮膚を刻まれて女性ジャーナリストの目に入り、この写真を撮ったものの、どうするかを迷いつつ、この殺人事件の解決に当たる、というものです。謎解きはかなり厳密性に欠けるような気がしますし、ハッキリと登場人物が少ないので、謎解きは面白くもないんと感じてしまいました。この作者の作品は私はとても好きで、『満願』などの短編集も読んでおり、ほかにもいくつかアンソロジーで短編作品に接した記憶がありますが、作者の代表作のひとつである『折れた竜骨』を読んでいないので何とも言えないものの、長編ミステリのレベルは決して高くないのかもしれません。読む前の期待が高かった割にはやや失望を禁じ得ませんでした。

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最後も小説で、ガブリエル・ゼヴィン『書店主フィクリーのものがたり』(早川書房) です。作者は米国ハーバード大学卒で40歳前の米国の小説家であり、すでに何編かの長編も出版しています。本書の原書の英語の原題は The Storied Life of A.J. Fikry ですからそのままであり、2014年に発表され、「ニューヨーク・タイムズ」のベストセラーリストに4か月にわたってランクインし、全米の図書館員が運営する Library Reads のベストブックにも選ばれたそうです。インド系でクリスチャンではなく、ニュー・イングランドのアリス・アイランドで唯一の書店を経営するフィクリーは少し前にアリス・アイランド出身の妻ニックを自動車事故で亡くしたばかりです。その書店主フィクリーが大事にしていたポーの稀覯本を盗まれ、さらに、黒人の2歳の女の子マヤが書店に置き去りにされて、いろいろな経緯があって育て始めるというところから物語が始まります。島の警察署長のランビアーズ、ニックの姉のイズメイとその夫で小説家のダニエル、そして、小さな出版社の営業担当のアメリアなどとともに、マヤが高校生になるまでほぼ15年間ほど物語が進みます。ネタバレかもしれませんが、フィクリーはアメリアと結婚し、ダニエルの死後にイズメイとランビアーズはパートナーになり、さらに、フィクリーが脳腫瘍で早々に亡くなった後、イズメイとランビアーズの2人は書店経営を引き継ぎます。何とも、主人公で書店主のフィクリーをはじめとして、何人かがかなり年齢的に若年のうちに亡くなるのが不自然で困ってしまいますが、書店、というか、本を介して多くの人がつながり、助けあって生きて行く優しい物語です。各章の扉のページに短編小説の解説、フィクリーからマヤに対する解説が付されており、著者の見方とは必ずしも一致しない旨の断り書きがあったりします。もちろん、ほんの話題も豊富に収録されており、ある意味でペダンティックに仕上がった小説です。なお、私が週末に図書館で借りてから発表があったんですが、4月12日に本屋大賞の翻訳小説部門の第1位に選出されています。

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