UNICEF "Fairness for Children" (Innocenti Report Card 13) に見る子供の格差やいかに?
今年2016年4月になってからだと思うんですが、UNICEF からInnocenti Report Card シリーズの第13号 "Fairness for Children" が公表されています。子供の格差について、所得、学力、健康、生活満足度の4つの指標から調査しています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、UNICEF のサイトから ABSTRACT を引用すると以下の通りです。
ABSTRACT
This Report Card presents an overview of inequalities in child well-being in 41 countries of the European Union (EU) and the Organisation for Economic Co-operation and Development (OECD). It focuses on ‘bottom-end inequality' - the gap between children at the bottom and those in the middle - and addresses the question ‘how far behind are children being allowed to fall?' in income, education, health and life satisfaction.
Across the OECD, he risks of poverty have been shifting from the elderly towards youth since the 1980s. These developments accentuate the need to monitor the well-being of the most disadvantaged children, but income inequality also has far-reaching consequences for society, harming educational attainment, key health outcomes and even economic growth. A concern with fairness and social justice requires us to consider whether some members of society are being left so far behind that it unfairly affects their lives both now and in the future.This Report Card asks the same underlying question as Report Card 9, which focused on inequality in child well-being, but uses the most recent data available and includes more countries.
やや長くなってしまいました。調査対象の所得、学力、健康、生活満足度の4つの指標のうち、日本は所得と学力しか統計を提出しておらず、健康、生活満足度については国際比較できないんですが、それでも、いくつか貴重な分析がなされています。国際機関のリポートを取り上げるのはこのブログの大きな特徴のひとつですので、リポートからグラフを引用しつつ、特に我が国の子供の格差について簡単に分析結果を紹介しておきたいと思います。
まず、リポート p.4 League Table 1 Inequality in income を引用すると上の通りです。所得階層の下から10%の子供が属する世帯の世帯所得を、中位(高校の数学でいうメディアン)と比較し、その比率として示した指標を Relative income gap (相対的所得ギャップ)として示し、その小さい順で調査対象の各国をソートしてあります。呼んでいます。日本に着目すると、相対的所得ギャップは60.21%ですから、所得階層の下位10%の子供の世帯所得は、中位の子供の世帯所得の4割ほどということになります。この格差の大きさは、調査対象の先進諸国41国の中で34番目、悪い方から8番目であり、日本は底辺の子供の格差がとても大きい国のひとつとなっていることが判ります。格差が大きいとされる米国ですら日本より貧困の度合いは浅くなっています。しかも、この下位10%と中位の間の格差は拡大しています。すなわち、相対的所得ギャップは1985年には49.08でしたが、1994年には51.07、2003年には54.05、そして、グラフにある2012年には60.21と着実に上昇していると報告されています。加えて、グラフの右の列に示されている子供の貧困率も日本では15.8%であり、先進国では1桁がめずらしくない中でかなり高くなっています。
次に、リポート p.6 League Table 2 Inequality in education を引用すると上の通りです。これも到達度について下から10%の子供の到達度を中位と比較した割合を成果ギャップとして算出して、これに従って各国をソートしています。日本について詳しく見ると、比較可能な37か国のうちで27番目と到達度の格差が大きくなっています。ただし、3教科の到達度で見てレベル2に達しない子供の割合はわずかに5.5%であり、エストニアや韓国に次いで平均的な学力としては高くなっています。その昔から、日本の子供達は学力は高いことが明らかにされており、このリポートでもその事実は裏付けられているんですが、平均的に高い学力達成がなされている反面、到達度で真ん中の子供に比べて大きく学力が下に乖離した子供達が存在している事実も示されているわけです。
そもそも、我が国におけるこういった子供の格差が社会的に許容できるかどうかを議論する必要があります。そして、本リポートのタイトルが「公正」となっていて、別の言い方をすれば正義の問題となります。正義についてはいろんな考え方があると私は認識していますが、例えば、サンデル教授の著書『これからの「正義」の話をしよう』で有名になったロールズの正義感では、もっとも恵まれない人々の状態が向上することをもって、ひとつの「正義」のあり方を示しています。下から10%がロールズ的な「もっとも恵まれない人々」なのかどうかは、これまた議論があるでしょうが、この UNICEF のリポートに示された見方もひとつの見識だと私は受け止めています。
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