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2016年5月18日 (水)

2四半期振りのプラス成長となった1-3月期1次QEの「実力」はほぼゼロ成長か?

本日、内閣府から1-3月期のGDP統計1次速報、いわゆる1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.4%で、前期比年率成長率で+1.7%となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1-3月期GDP、年率1.7%増 うるう年効果で
内閣府が18日発表した2016年1-3月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.4%増、年率換算では1.7%増だった。15年10-12月期(年率換算で1.7%減)から2四半期ぶりのプラス成長に持ち直した。
今回のGDPは、2月が例年より1日多いうるう年の影響を含んでいる。事前の民間試算によれば、うるう年効果で1-3月期のGDPは前期比0.3ポイント程度(年率1.2ポイント程度)押し上げられる。
QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比0.1%増、年率で0.3%増だった。
生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.5%増、年率では2.0%増だった。名目でも2四半期ぶりのプラス成長となった。
実質GDPの内訳は、内需が0.2%分のプラス寄与、外需は0.2%分のプラス寄与だった。
項目別にみると、個人消費は前期比0.5%増と、2四半期ぶりにプラスとなった。前四半期(0.8%減)から持ち直した。うるう年によって消費が押し上げられた。公共投資は0.3%増と、小幅ながら3四半期ぶりのプラス成長となった。
一方、設備投資は1.4%減と、3四半期ぶりのマイナスだった。前四半期(1.2%増)から減少に転じた。世界経済の減速懸念から、企業が投資を先送りする動きがあったとみられる。価格上昇などが響き、住宅投資は0.8%減と、2四半期連続でマイナスだった。民間在庫の寄与度は0.0%のマイナスだった。
輸出は0.6%増、輸入は0.5%減となり、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスを確保した。GDPで個人消費ではなく輸出に計上されるインバウンド(訪日客)需要は輸出を下支えした。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス0.9%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.5%下落した。
同時に発表した2015年度のGDPは実質で前年度比0.8%増と、2年ぶりのプラス成長となった。生活実感に近い名目では2.2%増だった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2015/1-32015/4-62014/7-92015/10-122016/1-3
国内総生産 (GDP)+1.3▲0.4+0.4▲0.4+0.4
民間消費+0.2▲0.8+0.5▲0.8+0.5
民間住宅+2.1+2.2+1.7▲1.0▲0.8
民間設備+3.8▲1.6+0.7+1.2▲1.4
民間在庫 *(+0.6)(+0.3)(▲0.1)(▲0.1)(▲0.0)
公的需要▲0.2+0.9▲0.3▲0.1+0.6
内需寄与度 *(+1.2)(▲0.1)(+0.3)(▲0.5)(+0.2)
外需寄与度 *(+0.1)(▲0.3)(+0.1)(+0.1)(+0.2)
輸出+2.2▲4.8+2.6▲0.8+0.6
輸入+1.5▲2.6+1.7▲1.1▲0.5
国内総所得 (GDI)+2.1▲0.1+0.6▲0.2+1.0
国民総所得 (GNI)+1.4+0.3+0.4+0.1+0.3
名目GDP+2.0▲0.1+0.7▲0.2+0.5
雇用者報酬 (実質)+0.5+0.0+0.8+0.5+1.3
GDPデフレータ+3.2+1.4+1.8+1.5+0.9
内需デフレータ+1.4+0.0▲0.1▲0.2▲0.5

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2016年1-3月期の最新データでは、前期比成長率がプラスに転じ、特に、うるう年効果により赤い消費のプラス寄与が大きい一方で、水色の設備投資がマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは年率+0.3%でしたから、やや上振れしたとはいうものの、力強い回復にはほど遠くて、数字の字面はともかく、実感としてはほぼジャストミートしたと私は受け止めています。要するに、公式答弁を一言でいえば「緩やかな回復」であり、もっと端的な表現を用いると、低迷とは言わないまでも、緩やかな回復のほか、力強さに欠けるとか、踊り場とか、一進一退とか、膠着状態、などで表現できそうな景気の現状です。
その主因である消費の停滞が、この1-3月期はうるう年効果でプラスに振れたわけですから、それなりの成長率を記録したと考えるべきです。逆に、消費が伸びれば全体の成長率の底上げになる可能性があります。という意味では、当面のカギは家計部門かもしれませんが、他方、企業部門では相変わらず先行き視界不良で設備投資がマイナスとなりましたし、在庫調整の進展もはかばかしくありません。家計部門を盛り上げるためにはそれなりの賃上げも必要なんですが、春闘の結果などを見る限り、厚生労働省の毎月勤労統計の信頼性を別にしても、やや力不足という感触を私は持っています。家計部門と企業部門が相互作用の中で停滞した状況にあるとすれば、この1-3月期は純輸出が成長にプラスに貢献したものの、中国をはじめとする新興国景気にまだ、これまた力強さが欠けるとすれば、政府部門で景気の底上げを図るしかない、というのが最近の安倍政権の方向性です。短期には理解できる論法ですし、それなりの現実的な効果も見込めますが、中長期的な政府債務のサステイナビリティの議論では疑問が残る手法と受け止めるエコノミストも少なくなさそうです。
先行きの日本経済については、財政・金融の政策主導での回復が図られるかどうかは未確定であり、財政出動があるとしても中長期的なマイナス要因と見なされる場合も決して可能性がゼロではないことから、このままけん引役不在で漂流する可能性も否定できないと私は考えています。。ただ、メインのシナリオとしては人手不足の労働市場から正規雇用の増加や賃上げが生じ、家計部門の消費が主導して回復が継続する可能性が高いんではないかと期待しています。もうひとつは、米国が年半ばに利上げを実施して日米間の金融政策スタンスの違いが明らかになることに伴い、円高が修正されて輸出の増加につながる可能性があります。いずれにせよ、画期的に景気を力強く上向かせる要因は少なそうな気がします。最後に、10-12月期のGDP統計でも示したインバウンド消費のグラフは以下の通りです。今後とも、参考指標かもしれません。

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