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2016年5月28日 (土)

今週の読書は強い感銘を受けた最高の経済書『この経済政策が民主主義を救う』ほか計7冊!

今週の読書は、感銘を受けた最高の経済書『この経済政策が民主主義を救う』をはじめとして、計7冊です。まったくペースダウンできません。

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まず、松尾匡『この経済政策が民主主義を救う』(大月書店) です。著者は立命館大学の研究者です。本書には私はとても感銘を受けました。ジャカルタから2003年に帰国して以来、ここ十数年で読んだうちの最高の経済書でした。まさに、私が考える経済政策の要諦を余すところなく指摘してくれている気がします。今までは、痛みを伴う構造調整による景気拡大でなければ「ホンモノ」ではなく、金融緩和による「まやかし」の成長は歪をもたらすので、増税で財政再建を進め、デフレや円高を容認して、その分、構造改革を進めるべし、といったウルトラ右派的かつ新自由主義的な経済政策観が幅を利かせる一方で、現在のアベノミクスの基礎をなしているリフレ的かつケインジアンな政策に対する世間一般の理解が進まず、とても絶望的になった時期もあったんですが、ようやく、左派的あるいはリベラル派の経済政策観が現政権に近づいた気がします。とても望ましいと私は受け止めています。不況で困るのは格差の下の方にいる国民であり、大金持ちは少しくらい所得が減少しても、少なくとも生活に困らないのに対して、もともと所得の少ない階層はさらに所得が減ったりしたら、たちまち生活が立ち行かなくなってしまいます。その低所得層の不安を煽るような構造改革なんて、私は避けられれば避けるべきだと従来から考えています。金融緩和の財政ファイナンスにより得た資金を福祉・医療・教育・子育て支援などに回し、ホントに完全雇用家でインフレになりそうだったら、そこはインフレ目標の発動により金融引締めに転じたり、あるいは、それこそ、消費増税に踏み切ればいいだけのお話で、まだまだ景気回復が緩やかな現状で構造改革や消費増税やといった議論は笑止千万です。しかも、ここは私はよく理解できないところなんですが、本書の指摘するように、現在の安倍政権が改憲を目論んで、そのために2/3多数を確保するために経済政策を操作すれば、ホントに実現しかねないのは、本書の東京都知事選の分析で示されているように、「ひょっとしたら」と思わせるものがあります。左派・リベラル派に今一度 "It's the economy, stupid." を思い出して欲しいと思います。

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次に、ペネロピ・フランクス/ジャネット・ハンター[編]『歴史のなかの消費者』(法政大学出版局) です。著者編者は内外の経済史の研究家であり、日本を専門分野とする学者も含まれています。明治維新の少し前から2000年くらいまでの我が国の消費の歴史をひも解いていますが、大雑把に中心は戦後の昭和と考えてよさそうです。英語の原題は Historical Consumers ですから、邦訳タイトルそのままであり、2012年に出版されています。そして、一般向けの教養書というよりも学術書と考えた方がよさそうです。まず、第1部の3章で生産と消費における女性の役割を明らかにし、例えば、ミシンの役割についてファッションとの関係で論じています。第2部では伝統的な消費から、砂糖の使用、洋装の定着、健康サービスにおける西洋薬と漢方薬の役割分担、などを論じ、最後の第3部で消費を空間の広がりで捉え、鉄道、郵便、通信販売などを取り上げています。日本経済は漠然と生産や供給サイドの論理で動いているような印象がありますが、家庭の主婦をはじめとする消費者側の論理も経済を動かしてきた大きな要因のひとつであることは間違いなく、家庭において和装で日本食を食べる、といった消費スタイルから、旅行先で洋装で洋食を食べる、といった消費スタイルに変化した歴史がよく描き出されています。私は統計局で消費統計を担当した経験もありますが、統計に表れるマクロの消費だけでなく、マイクロな家計や個人レベルの消費に流行を感じます。消費は常々所得とマインドの掛け算だと私は考えていますが、本書では所得の観念ないものの流行に乗ったマインドの変化は感じ取れます。GEのCEOだったジャック・ウェルチではないんですが、家電製品などはGDPの伸びの尻馬に乗るんではなく、その昔の三種の神器のようにGDP成長を牽引したヒット商品も見られた歴史を感じます。学術書とはいっても、それなりに国民生活の身近なところの流行や変化を捉えていますので、それなりの教養書としても楽しめるかもしれません。

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次に、ジョン・スカリー『ムーンショット!』(パブラボ) です。著者はペプシからアップルのCEOに転じた際に、ジョブスから "Do you want to sell sugared water for the rest of your life? Or do you want to come with me and change the world?" と、あまりにも有名になった殺し文句で誘われた人物です。1983年から93年まで約10年間、アップルのCEOを務めています。タイトルは英語の原典も同じで、「ムーンショット」とはシリコンバレーの用語で「それに続くすべてをリセットしてしまう、ごく少数の大きなイノベーション」のことをいうらしいです。マイクロプロセッサの発明はムーンショットでしたし、パーソナルコンピュータとして生まれたアップルIIもそうで、クリエイティブな人々に向けて初めて手頃な価格で販売された、デスクトップ・パブリッシング・システムとしてのMacもそうだったといえます。もちろん、ワールド・ワイド・ウェブ WWW も、グーグルのネクサス・ワンやアップルのiPhoneもムーンショットというべきです。でも、本書ではイノベーション全般ではなく、adaptive=適応的型のイノベーションに限って論を進めています。ですから、適応すべき技術的な変化を本書では4つ上げ、(1) クラウドコンピューティング、(2) モノのインターネット(IoT)、(3) ビッグデータ、(4) モバイル機器、にどう適応するかが問題なわけです。適応したイノベーションとしては、アマゾンやフェイスブックなどが上げられるのは、ほとんどの読者が合意できるのではないかと思います。他方、適応的でないイノベーションがどういうものかは、私はよく知らないんですが、クリステンセン教授の提唱する破壊的イノベーションなのかもしれません。違うかもしれません。まあ、イノベーションの型はともかく、本書では顧客重視といった従来から何度も聞き及びながら、実は徹底されていないコンセプトとか、さらに、チマチマしたイノベーションではなく、「ビリオンダラー・コンセプト」という考えの下に、10億ドル=1000億円超の規模のビジネスの立ち上げや運営戦略を論じています。公務員の官庁エコノミストである私なんぞには及びもつきませんが、確実なのは、本書がかなり啓発的で面白い、という事実です。企業家を目指すわけではない私にもそうですから、ひょっとしたら、かなりオススメの本なのかもしれません。

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次に、ラリー・ダウンズ/ポール F. ヌーネス『ビッグバン・イノベーション』(ダイヤモンド社) です。これもイノベーション、しかも、本書のタイトルとは裏腹に適合型イノベーションを取り上げています。著者は経営コンサルタントであり、本書の英語の原題は Big Bang Disruption、すなわち、訳者あとがきにあるように、直訳すれば「ビッグバン型破壊」だったりします。スカリーの著書と違うのは2点あり、まず、ビッグバン・イノベーションによる大儲け状態の後に、ビッグクランチ=大収縮が来て、これを乗り切らないとインーベーションによる儲けをすべて吐き出すどころか、さらに悲惨な破産・倒産にもつながりかねないと指摘しています。一連のイノベーションに伴う市場プロセスは、シャークフィン=サメのヒレのように大きく盛り上がった後、大きく落ち込む可能性があり、ビッグバン的なイノベーションに乗ってしまえばそれでお終い、というわけではなく、延々とイノベーションを続けなければ生き残れない、と説いています。ですから、かつての『エクセレント・カンパンー』は私も読んだ記憶がありますが、優良企業だけでなく、すでに倒産したり、かなり低迷していたりするコダックやシャープなんかの例も引き合いに出しています。そしてもう1点は、「ビリオンダラー・コンセプト」は該当しません。企業規模や市場規模に関係なくイノベーションの重要性を示しています。それはそうなのかもしれません。もちろん、スカリーの著書と同じラインにある主張も少なくなく、例えば、イノベーションの性質の変更を迫った事情はほぼ共通しており、IoT、ビッグデータ、ソーシャルメディア、モバイル・コンピューティングなどを上げています。いずれにせよ、私の実感としては、ハードウェアでムーアの法則が適用される限り、こういったイノベーションの方向は続く可能性があります。ムーアの法則が最初に示されたのは1960年代なかばだったんですが、当初は5年くらいは成立するだろうと考えられていたこの指数的な法則が、何と、50年の長きに渡って生き続けているんですから、そろそろという気もしますが、私の生きている間は廃れない可能性もある、とすら感じさせます。

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次に、トラヴィス・ソーチック『ビッグデータ・ベースボール』(角川書店) です。著者は「ピッツバーグ・トリビューン・レビュー」紙のジャーナリストであり、まさに、野球のパイレーツを担当しているそうです。英語の原題はそのままで、2015年の出版ですが、それまで20年以上に渡ってリーグでの負け越しを続けてきた大リーグ球団であるピッツバーグ・パイレーツが2013年にリーグ戦で勝ち越しを決め、さらに、ポストシーズンゲームであるプレーオフに進出した経緯を取材から明らかにしています。その秘訣は本書のタイトル通りにビッグデータの活用にあります。本書の邦訳者のあとがきだか、解説だかにもある通り、私も読んで、映画化もされた『マネー・ボール』が出版されたのが2003年で、出塁率の重視とか、本書で焦点を当てているビッグデータからすればかなり初歩的な統計を用いた戦略上のイノベーションだったんですが、本書では球団のGMと監督が一致協力してチーム力強化のためにビッグデータを活用し、それを守備に活かすことにより勝利につなげようとの試みです。すなわち、守備シフトとそれに対応してゴロを打たせるためのツーシームの多用、フレーミングによりストライクの判定を引き出せるキャッチャーの獲得、の3本の矢に加えて、投手の怪我の防止や新人選手の獲得や育成まで含めたデータの活用が取り上げられています。そして、私も『マネー・ボール』やマリアノ・リベラの自伝などの大リーグにまつわるノンフィクションを読んだりした中に、あまりお目にかからなかったのは試合経過の記述なんですが、本書では、第12章の後半を使ってポストシーズンゲームへの進出を決めた試合の実況中継のような試合経過が報告されています。それはそれで感動的なんだろうと私は受け止めています。私のような野球ファンには大いにオススメです。大リーグの選手に親近感があって、何人かのスタープレイヤーの名前を知っていたりすると、もっと面白いかもしれません。それにしても、内陸に位置するピッツバーグの大リーグ球団名がパイレーツというのは、私は昔から不思議に感じていました。なぜなのでしょうか?

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次に、東山彰良『流』(講談社) です。広く知られた通り、昨年第153回直木賞の受賞作です。長らく待って、ようやく図書館から順番が回って来ました。このところ、芥川賞受賞作よりも直木賞受賞作の方をよく読んでいる気がし、例えば、この直後の青山文平『つまをめとらば』とか、直前の西加奈子『サラバ!』とか、その前の黒川博行『破門』とか、さらにその前の姫野カオルコ『昭和の犬』とか、しっかりと読んでいたりします。その昔は芥川賞受賞作をせっせと読んでいたにもかかわらず、最近は又吉直樹『火花』の前は2011年の円城塔「道化師の蝶」や田中慎弥「共喰い」までさかのぼらないと読了した芥川賞作品がないようになってしまい、年齢を感じるべきなのかもしれません。でも、時代小説が好きなのは昔からですし、年齢とともに私自身の読書の傾向がさらに高齢化したのかもしれません。それはともかく、本書は基本的に私の好きな青春小説です。著者が幼少期を過ごした台北の町が本書の舞台となっています。1975年で高校2年生の17歳ですから、ほぼ私と同じ世代の主人公で、逆に、著者からは10歳くらい年長になるんではないかと計算しています。祖父を殺され、替え玉受験で高校を退学になり、いろいろあって大学にも進学できずに、2年間の徴兵から帰ると恋人とは疎遠になり、結局、最後は大陸に渡って祖父を殺した意外な犯人と対面します。アチコチでけんかが起こり、友人よりさらに親密な「兄弟」という日本ではもうすっかり廃れた親友関係が濃厚に残る台湾で、しかも、大陸からの落ちのびて来た外省人と台湾土着の内省人との差別や対立も色濃く残り、私のように小さいころから核家族で育った日本人とは異なる環境の下の台湾での複雑な人間関係の下で、青春を過ごす主人公が羨ましい時もあれば、まあ、アホらしく感じないでもないケースもありました。青春小説としては、私は吉田修一の『横道世之介』をもっとも高く評価しているんですが、本書もなかなかのスケールで一気に読ませます。似てはいても、異なる文化の下での青春物語として、一定の評価が出来ると受け止めています。また、本書を読んでから、街頭で配布しているポケット・ティッシュを有り難くもらっておくようになりました。

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最後に、岡田尊司『マインド・コントロール 増補改訂版』(文春新書) です。2012年に単行本で出版された本を増補改訂して新書に収録しています。著者は精神科の医師です。タイトル通りのマインド・コントロールについて、男女間の恋愛や家族関係などの小さな物語から始まって、カルト宗教から大きな物語のファシズムや共産主義などの全体主義まで、いろいろと分析を加えています。特に、マインド・コントロールで支配しようとするファシズムや共産主義の支配層だけでなく、DV夫に尽くしまくる女性などの支配される側の分析も豊富であり、依存度の高いパーソナリティ、被暗示性の強さ、バランスの悪い自己愛、ストレスなどをその原因として上げていたりします。また、洗脳と脱洗脳の比較など、興味深い視点が提供されており、割合と最近読んだ『スタンフォード監獄実験』などとともに、私は、決して、個人レベルのパーソナリティだけでなく、社会レベルとまではいわないまでも、相対的な人間関係の中で役割分担に基づく支配もあるんではないか、という気がしていて、例えば、男女間の関係では男性が女性に対して支配的な地位に立ちやすい、などがありそうなんですが、本書ではあくまで個人レベルの精神科医的な視点で貫き通しています。もう少し心理学的、あるいは、社会学的な視点も欲しい気がしないでもありません。でも、人間の本姓に迫る部分にスポットを当てていて、とても興味深い本だと思います。いろんな自然科学、物理学や化学などの知識は善用もされれば、悪用もされます。それは、自然科学だけでなく、社会科学も同じなのかもしれません。研究者として心しておきたいと思います。

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