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2016年6月30日 (木)

久保投手になすすべなく完封され横浜に完敗!

  HE
横  浜110100000 390
阪  神000000000 030

横浜の久保投手になすすべなく完封負けでした。まったくのお手上げで、タイガース先発の岩崎投手は6回3失点のQSの範囲内だったんですが、打線は若手投手の好投に応えられませんでした。わすか2時間半足らずのスピード試合でした。

ツキがかわったナゴヤドームは、
がんばれタイガース!

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大きな減産を示した鉱工業生産の今後のゆくえやいかに?

本日、経済産業省から5月の<鉱工業生産指数が公表されています。ヘッドラインとなる生産指数の季節調整済みの前月比は▲2.3%の大きな減産を示しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の鉱工業生産、2.3%低下 化粧品や業務用機械で減産
経済産業省が30日発表した5月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比2.3%低下の95.0だった。低下は3カ月ぶり。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前月から横ばいだった。4月に好調だった化粧品やはん用・生産用・業務用機械などで生産が減少した。
15業種のうち11業種が前月から低下した。経産省は生産の基調判断を「一進一退で推移している」に据え置いた。化粧品などの化学工業は7.5%低下した。はん用・生産用・業務用機械は納期の後ずれなどにより、2.2%低下。電子部品・デバイスやエアコンなどの電気機械も前月を下回った。電子部品は輸出が低調だったことが響いた。一方、自動車などの輸送機械は0.7%上昇した。
出荷指数は2.3%低下の93.8となり、在庫指数は0.3%上昇の113.7だった。在庫率指数は1.3%上昇の117.2となった。
同時に発表した製造工業生産予測調査では6月が1.7%上昇、7月は1.3%上昇を見込む。予測調査が実績より上振れする傾向にあることを考慮すると、経産省は6月の鉱工業生産は0.5%程度の上昇になると試算している。予測調査では6-7月は輸送機械などの上昇を見込む。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは横ばいでしたし、先月の統計発表時の製造工業生産予測調査では何と5月は+2.2%の増産との見込みでしたので、ずいぶんと実績統計値は下振れした印象があります。さらに、出荷も生産と歩調をそろえて▲2.3%減となっており、反対に在庫が積み上がっていたりします。業種別に見て、化学工業、金属製品工業、非鉄金属工業などの素材業種に加え、はん用・生産用・業務用機械工業や電気機械工業などの加工業種も減産であり、熊本地震からのいわゆる挽回生産と見られる輸送機械工業や情報通信機械工業の増産は軽く打ち消された形となっています。財別に見ても、上のグラフの下のパネルに見られる通り、全般的な消費の停滞から耐久消費財の出荷が回復しそうもありません。先行きについても、製造工業生産予測調査では6月+1.7%、7月+1.3%のそれぞれ緩やかな増産を見込むものの、さすがに、実勢より高めに出るバイアスについては、統計作成官庁である経済産業省も認めたようで、引用した記事の書き振りが印象的です。

この先、消費や生産は底入れから反転の時期を探ることとなりますが、少なくとも、私の直観ながら、生産は年内底入れしないよいうな気がします。輸出が多くを望めませんし、むしろ、消費の方が生産よりも先に底入れしそうな印象です。それとも、財政によるテコ入れはあるんでしょうか。繰り返しになりますが、何の根拠もない私の直観です。

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2016年6月29日 (水)

商業販売統計に見る消費は冴えないながらもそろそろ下げ止まるか?

本日、経済産業省から5月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売業販売は季節調整していない前年同月比で▲1.9%減の11兆5430億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の小売業販売額、1.9%減 デジカメやパソコンが低調
経済産業省が29日発表した5月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.9%減の11兆5430億円だった。3カ月連続で前年実績を下回った。デジタルカメラやパソコンなどの販売が低調だった。季節調整すると前月比横ばいだった。
経産省は小売業販売の基調判断を「弱含み傾向」に据え置いた。原油安による燃料小売業の減少や、かき入れ時である土曜日が前年より1日少なかったことも響いた。自動車や医薬品・化粧品の販売は前年から増加した。
大型小売店の販売額は百貨店とスーパーの合計で前年比1.9%減の1兆5979億円だった。百貨店の既存店販売は4.8%減と低迷した。主力の衣類や高額商品の販売がふるわなかった。スーパーの既存店販売は0.8%落ち込んだ。
コンビニエンスストアの販売額は2.6%増の9593億円だった。

いつもながら、コンパクトかつ包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。

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消費の回復が引き続き思わしくありません。統計のヘッドラインとなる季節調整していない原系列の小売販売額で前年同月比▲1.9%減ですから、明後日に公表される5月の消費者物価上昇率が日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの▲0.4%の下落としても、実質で▲1%超のマイナスということになります。従って、統計作成官庁である経済産業省による基調判断は「弱含み傾向」で据え置かれています。ですから、消費の冴えない先行きを私は予想しがちなんですが、毎月勤労統計に見るように、そろそろ実質賃金が下げ止まり、商業販売統計に見る消費も季節調整済みの系列を見る限り、5月の前月比がゼロだったこともあって、消費も下げ止まりが見えて来たように実感しています。少なくとも、熊本地震の影響は限定的でしたし、あとは、英国のEU離脱、すなわちBREXITの影響なんですが、少なくとも消費に関しては株価からの資産効果、というか、逆資産効果についてはリスクあるものの、それほど明確ではありません。むしろ、夏季ボーナスを含む賃金・所得動向とマインドに注目したいと思います。

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2016年6月28日 (火)

6月調査の日銀短観の予測やいかに?

今週金曜日7月1日の発表を前に、シンクタンクや金融機関などから6月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと大企業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画は今年度2016年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、今年度2016年度の設備投資計画に着目しています。ただし、三菱総研だけは設備投資計画の予想を出していませんので、適当に取っています。それ以外は一部にとても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、html の富士通総研以外は、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
3月調査 (最近)+6
+22
<▲0.9%>
n.a.
日本総研+4
+19
<+5.9%>
2016年度の設備投資計画は、全規模・全産業で前年度比+1.0%と、前回調査対比+4.7%の上方修正を予想。円高などを背景に、企業収益の下振れ懸念は高まっているものの、既存設備の老朽化などを背景に、維持・更新投資の需要は堅調。また、人手不足下で、省力化・合理化などに向けた投資も期待可能。低金利や潤沢なキャッシュフローのもと、設備投資の腰折れは回避される見通しで、例年に比べ勢いに欠けるものの、上方修正は維持の公算。
大和総研+5
+20
<+3.4%>
2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年比▲1.1%と、前回(同▲4.8%)から上方修正されると予想する。6月日銀短観の設備投資計画には、中小企業を中心に上方修正されるという「統計上のクセ」がある。今回は、昨年後半以降の内外需の停滞や、円高進行の影響により、例年の修正パターンに比べて上方修正幅が幾分小さくなると想定した。なお、通常、日銀短観の設備投資計画は、為替レートの短期的な変動に大きく左右されることはなく、緩やかな修正に留まる傾向にある。このため、足下で急速に進んだ円高によるマイナスの影響は今回調査では限定的なものに留まり、9月日銀短観以降、徐々に顕在化すると考えている。
みずほ総研+4
+20
<+7.0%>
2016年度の設備投資計画(全規模・全産業)は、前年比+1.6%と、3月調査(同▲4.8%)から上方修正されると予測する。4-6月期の法人企業景気予測調査によれば、2016年度の設備投資計画(ソフロウェア除き、土地含む、全規模・全産業)は、前年比+0.5%と1-3月期調査(同▲10.9%)より上方修正されており、設備投資の緩やかな増加計画は維持されるとみている。製造業では輸送機械などを中心に増加、非製造業では小売業が堅調な投資を続けるとみている。しかしながら、昨年同時期の計画と比べると、業種毎の好調・不調の差は生じるだろう。昨年高い伸びを示した製造業は、昨年後半以降の企業業績の悪化や為替の円高推移などにより、伸び幅が縮小するだろう。一方、非製造業は、交通インフラをの整備やインバウンド需要を見込んだ運輸業や小売業、宿泊業などを中心に、堅調な伸びを維持するとみられる。全体としてみると、昨年度対比では製造業の減速から小幅な伸びにとどまるとみている。
ニッセイ基礎研+2
+19
<+4.9%>
16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、15年度比で0.4%増と前回調査時点の4.8%減から上方修正されると予想。例年、3月調査から6月調査にかけては、計画が固まってくることに伴って、大きく上方修正される傾向が強いが、今回は例年に比べて上方修正が抑制的となり、水準としても6月調査としては5年ぶりの低水準に留まりそうだ。円高の進行などから製造業を中心に足下の収益が圧迫されており、先行きの不透明感が強いことが企業の様子見スタンスに繋がっていると考えられるためだ。なお、非製造業は人手不足感が極めて強く、省力化投資需要が一定程度期待されるため、製造業より上方修正幅が大きくなりそうだ。
第一生命経済研+3
+17
<+5.1%>
これまでの短観の設備投資計画は、比較的堅調であった。筆者の6月調査予測も、堅調シナリオに基づいて数字を作っている。しかし、もしかすると、収益面での慎重さを反映して、この段階で弱い動きが表れることを警戒しておくことは必要だろう。
最近、よく耳にするのは先行きの不透明感が強いという意見である。英国のEU離脱の投票、米利上げ、米大統領選挙と、次々に大型イベントが先行きの見通しに立ち塞がる、これらのイベントが通り過ぎれば晴天の空が見渡せるかといえば、そうではなかろう。
企業の設備投資計画には、そうした弱気のセンチメントが何かしらのかたちで表面化するのではないかと警戒している。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+5
+18
<+7.7%>
16年度の設備投資計画は、大企業・中小企業ともに上方修正が見込まれる。ただし、大企業で比較的高めの上方修正幅が予想されるのに対し、中小企業の上方修正幅は、6月調査としては小幅にとどまる見通しである。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+3
+20
<+7.2%>
2016年度の設備投資計画は、大企業・製造業は前年比+11.3%、非製造業は同+5.1%と、例年どおり上方修正されたと見込まれる。将来に向けて国内需要の急速な拡大は見込めず、新興国など海外へ投資先を移す流れに大きな変化はないが、引き続き設備の維持・更新への投資が行われるほか、生産(販売)能力の拡大や効率化を進めるための前向きな投資も行われると予想される。中小企業については、例年通り前年比マイナスの計画から開始し、徐々に上方修正されていくパターンが続くと予想される。
三菱総研+4
+21
<n.a.>
製造業の業況判断DI(大企業)は、+4%ポイント(前回調査から▲2%p低下)と予測する。素材業種では、新興国での需要減速などが業況悪化要因となる。加工業種は、企業の想定為替レートを上回る円高進行による採算の悪化、新興国向け輸出の低迷、消費の不振、自動車の燃費不正問題の波及などにより業況悪化を予想する。
富士通総研+4
+19
<+5.4%>
2016年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年度比0.4%と、3月調査から上方修正されると見込まれる。維持更新や省力化投資に対する企業の意欲は、依然、根強いが、円高進展による企業業績の悪化や世界経済の先行き不透明感から、上方修正の度合いは過去2年のペースを下回ると見込まれる。中小企業も上方修正されるが、修正度合いは緩やかにとどまると予想される。昨年度は設備投資の意欲(計画)が強い状態が続く一方、なかなか実績に結びつかなかったが、今年度は、現時点においては計画自体がやや慎重化する可能性が高い。

ということで、業況判断DIについては、3月調査からある程度は低下するものの、少なくとも大企業のレベルではまだプラスを維持するものとの予想が多数といえます。そして、今年度2016年度の設備投資計画については、予想にややばらつきが見られるものの、胆管の統計としてのクセを含めて、少なくとも3月調査から上方修正されると多くのシンクタンクなどでは考えているようです。ただ、業況判断DIにせよ、設備投資計画にせよ、6月23日投票のBREXIT前の企業マインドですから、その後、大なり小なり下振れしていることは確かです。ひょっとしたら、すでに「過去の数字」扱いされる危険もあるかもしれません。
下のグラフはニッセイ基礎研のリポートから引用した全規模前産業の設備投資計画の推移です。

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2016年6月27日 (月)

サイバーエージェントによる10代有権者の意識調査結果やいかに?

先週6月23日付けで、アメーバ・ブログを運営するサイバーエージェントから10代有権者の意識調査の結果が公表されています。グラフを引用して、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、「候補者や政策に関する情報を入手する上で、活用したいと思うもの」を聞いたところ、最も多かったのは「インターネット」で67%に上りました。以下、「テレビ」(62%)、「新聞」(33%)、「選挙ポスター・チラシ」(25%)、「街頭演説」(19%)と続きます。伝統的なマスメディアよりもインターネットが1番というのも特徴的かもしれません。そのインターネットの中でも、SNSの活用についての結果が上のグラフの通りです。61%という過半数ながら、私の実感としてはこの数字はビミョーであって、少なくとも決して高くないと受け止めています。それなりに、ディスカウントして解釈すべきと考えている10代有権者が少なくないような気もします。さて、実際の選挙結果やいかに?

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2016年6月26日 (日)

9回に岩貞投手が打たれて広島に3タテをされる!

  HE
阪  神002000010 380
広  島010010002x 440

交流戦明けのリーグ戦再開で、タイガースは藤浪投手、能見投手、岩貞投手とベストの3人を広島向けに立てましたが、結局、広島に3タテされて3連敗でした。リリーフ陣がまったく信頼出来ないため、岩貞投手が100球を超えて最終回も続投しましたが、最後はエラーでサヨナラ負けでした。超変革も賞味期限を大きく過ぎて、そろそろタイガースは優勝戦線から脱落なんでしょうかね?

横浜戦は、
がんばれタイガース!

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2016年6月25日 (土)

今週の読書はかなりペースダウン!

今週の読書は小説を基本にかなりペースダウンしました。これくらいでちょうどいいような気がします。

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まず、門井慶喜『家康、江戸を建てる』(祥伝社) です。物語は天正18年1590年夏、小田原の北条攻めの陣中で徳川家康が豊臣秀吉から北条家の旧領地関東8か国への移封を打診される場面から始まります。全体として歴史小説のようですが、読み進むうちに壮大なプロジェクトをテーマにした歴史ノンフィクションのような雰囲気もあります。前半の3章では、利根川の向きを変更して江戸から海にそそぐのではなく、現在の鹿島・銚子付近に流れを変えて、湿地だった江戸の地盤を改善する土木事業、小判の鋳造という通貨発行にまつわる上方と江戸との確執を見事に描き出した通貨発行の事業、現在の井の頭池から江戸の上水道を引く事業、などのいわゆる技官もしくは文官による民政事業を取り上げ、後半では武官的な観点から、江戸城大手門の石垣積み、秀吉に対抗するための白一色の江戸城天守の建築に焦点を当てています。繰り返しになりますが、いわゆる時代小説というよりもノンフィクションの歴史物語のようで、あるいは、ビジネスマンのマネジメントの観点から読みこなす人もいそうです。なお、4月23日付けの読書感想文で取り上げた伊東潤『天下人の茶』とともに、直木賞候補作に上げられています。

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次に、万城目学『バベル九朔』(角川書店) です。久し振りの長編です。私はこの著者の作品は、デビュー作の『鴨川ホルモー』や『鹿男あをによし』、『プリンセス・トヨトミ』などなど、ほとんど読んでいると思います。『鴨川ホルモー』と『プリンセス・トヨトミ』については映画も見ました。ただし、私の好きな女優さんの1人である深田恭子が出演しているにもかかわらず、『偉大なる、しゅららぼん』の映画はまだ見ていません。ということで、私は万城目ファンだといえると自任しているわけですが、この作品はかなりいいです。典型的な万城目ワールドであり、時代小説ではなく現代を舞台にしており、本人が自覚していない能力を備えた主人公が超自然的かつ破滅的な現象に巻き込まれて行きます。その意味で、超自然現象に巻き込まれるという意味では『鹿男あをによし』に似ており、明示されないものの、そのパワーの源泉が八郎潟に由来しているという点では『偉大なる、しゅららぼん』にも共通点があります。パラレル・ワールドが崩壊して行くという点については『ネバー・エンディング・ストーリ』にも敬意が払われているような気がします。ラストがとても印象的です。

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次に、七月隆文『ぼくは明日、昨日のきみとデートする』(宝島社文庫) です。これは2014年8月に出版された本なんですが、このたび昨年2015年11月に第3回京都本大賞に選ばれ、そのせいかどうか、来月7月にはマンガ化されるともに、福士蒼汰と小松菜奈の主演で映画化されて年末に封切られるそうです。一言でいえば、SF恋愛小説なんですが、SFよりは恋愛の方に重点がありそうな気がします。舞台はもちろん京都で、しかも、京都南部の伏見区の丹波橋周辺だったりします。私は近鉄沿線で育ちましたが、近鉄と京阪が交差する乗換駅です。私は近鉄から京阪の乗り換えて京都大学に通学していました。この小説よりも30年以上も前の時代ですから、京阪は出町柳まで延伸しておらず、三条止まりでしたので、そこから歩いて通学していましたが、3年生からは自動車で通学していました。この作品のSF部分でやや難ありなのは、パラレル・ワールドのアチラの世界が常にコチラの世界を優越している点です。アチラからコチラには来られても、コチラからアチラには行けないようですし、かつてのウルトラ・セブンの宇宙人のように地球人とはかけ離れた特殊能力を持っている世界を示唆しているような気がします。まあ、それは「ハリー・ポッター」でも同じことかもしれませんが、少し気にかかります。でも、私のような中年のオッサンではなく若い人を対象とした本なんではないかという気がします。東京を舞台にこのストーリーが展開されることはあり得ない、という意味で優れた京都本だと受け止めています。

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最後に、マーシャ・ガッセン『完全なる証明』(文春文庫) です。少し判りにくいタイトルかもしれませんが、ポアンカレ予想を証明したロシアの数学者ペレルマンの人となりを追ったルポルタージュです。ポアンカレ予想そのものは別の書物のほうが専門的によく説明されているそうですが、私にはどうせ理解できないと思ったので、数学者を中心に据えた本にチャレンジしてみました。この本の出版は単行本が2009年で私のようだ文庫本は2012年刊です。ということで、米国出張で読んだ本のうちの1冊です。ほかに、宮尾登美子『宮尾本 平家物語』全4巻とか、桜庭一樹編『江戸川乱歩傑作選 獣』と湊かなえ編『江戸川乱歩傑作選 鏡』などでした。米国出張のしょっぱなに例のオーランドの事件がありましたので、ほとんど夜歩きも手控えて読書に勤しんで来ました。

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2016年6月24日 (金)

企業向けサービス物価上昇率はプラスながら膠着状態が続く!

本日、日銀から5月の企業向けサービス価格指数(SPPI)が公表されています。ヘッドラインの前年同月比上昇率は+0.2%と、かろうじてプラスを維持しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

企業サービス価格、5月0.2%上昇 ソフト開発が好調
日銀が24日発表した5月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)速報値は103.0となり、前年同月に比べ0.2%上昇した。35カ月連続のプラスとなる。ソフトウエア開発の需要が好調だったほか、訪日客が増加する一方で供給が少ない大都市部の宿泊施設での価格上昇を反映した。ただ全体の上昇率は4月確報(0.3%上昇)から縮んだ。
内訳をみると、ソフトウエア開発は1.6%、宿泊サービスは5.9%それぞれ上昇した。事務所賃貸も2.0%上がった。東京や名古屋での上昇が目立つ。新聞広告も好調で5.1%のプラスとなった。
5月全体の上昇率は4月より鈍った。リース業で価格低下が続いている。宿泊サービスの上昇率は訪日客数がやや伸び悩んでいる傾向を映して4月より狭まった。調査147品目のうち上昇から下落を差し引いた値はマイナス3で、13年9月以来の低水準となった。
日銀は「サービス業全般で人手不足による価格上昇圧力は続いている。その波及度合いを左右する訪日客動向などの影響を注視していく」と説明している。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、引き続き、物価情勢に大きな変化はなく、引用した記事にもある通り、不動産、情報通信、広告、さらに、宿泊サービスを含む諸サービスが前年同月比で上昇した一方で、運輸・郵便は下落を示しています。結局、国際商品市況における石油価格の下落の影響をモロに受けた運輸サービスや財価格が低迷している一方で、人手不足のインパクトの方が大きいサービス価格は前年比でプラスを続けている現状は大きくは変わりありません。このところ、繰り返しているように、物価は膠着状態が続いています。でも、人手不足に起因するサービス価格は、おそらく、消費者物価を下支えしているような気がします。

いずれにせよ、世間は物価よりも英国のEU離脱の方に注目していることはいうまでもありません。現段階で為替を通じた影響以外は私のレベルでは理解が及びません。どうなるのか、今後とも注目したいと思います。

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2016年6月23日 (木)

日本気象協会「梅雨に関する大調査」の結果やいかに?

さる6月15日に日本気象協会から「梅雨に関する大調査」の結果が公表されています。簡単にアンケート調査結果のグラフを引用して紹介しておきたいと思います。

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まず、Q.梅雨は好きですか? の回答結果は上のグラフの通りです。「嫌い」が75%です。当然でしょう。なお、グラフは引用しませんが、嫌いな理由の1位は「蒸し暑い」が選ばれ、「洗濯」や「カビや食中毒」が続いています。7番目には「自転車に乗れない」が入っており、私はこれに強く同意しました。

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次に、というか、最後に、Q.雨の日のマナーで具体的に気になったことは? の回答結果が次のグラフの通りです。「周りを気にせず傘の水滴を払う」が1位、ほとんど票数は変わらず「傘の先端を後ろ向きにして持ちながら歩く」が2位、「人とすれ違うときに傘を傾けない」が3位と、梅雨の時期の必需品である傘の扱いを多くの人が意識していることが見受けられます。気を付けたいものです。

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2016年6月22日 (水)

地震調査研究推進本部による「全国地震動予測地図2016年版」やいかに?

さる6月10日に地震調査研究推進本部から「全国地震動予測地図2016年版」が公表されています。140ページにわたるpdfの全文リポートの各ページで日本列島の各地点における確率論的地震動予測地図が明らかになっています。専門外なのよく判りませんが、「今後30年間に震度6弱以上の揺れに見舞われる確率」の地図を概要資料から引用すると以下の通りです。我が家の住まう東京は26%超の地域に当たっているようです。

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今夜の帰宅が遅く、専門外の話題ですので、これにてお終いなんですが、「『今後30年間に震度○○以上の揺れに見舞われる確率』が0.1%、3%、6%、26%であることは、ごく大まかには、それぞれ約30000年、約1000年、約500年、約100年に1回程度震度○○以上の揺れが起こり得ることを意味しています。」との注釈が見えます。ご参考まで。
これも無理矢理に経済評論のブログに分類しておきます。

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2016年6月21日 (火)

国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)による「グローバル・トレンズ2015」やいかに?

昨日6月20日は1974年に「アフリカ統一機構難民条約」が発効したことを記念する「世界難民の日」World Refugee Day であり、ここ何年か国連難民高等弁務官事務所(UNHCR)から「グローバル・トレンズ2015」 Global Trends 2015 が公表されています。今夜は帰宅が遅くなりましたが、国際機関のリポートを取り上げるのはこのブログの特徴のひとつでもあり、簡単に画像なりとも示しておきたいと思います。

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上の画像はUNHCRのサイトにあるインフォグラフィックのひとつです。2015年末時点で家を追われた人の数は6530万人と初めて6000万人を超え、2014年末のは5950万人からかなり増加していますが、6530万人のうち先進諸国で庇護申請を行なったのは320万人、難民は2130万人、国内避難民は4080万人であったことが上のインフォグラフィックから判ります。

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続いて上のグラフは、pdf の全文リポートから p.06 Fig.1 Trend of global displacement & proportion displaced を引用しています。年々の難民の推移なんですが、2012年ころから増加が加速しているのが見て取れます。
やや強引ながら「経済評論のブログ」に 分類しておきます。

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2016年6月20日 (月)

4か月振りの赤字を記録した貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から5月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲11.3%減の5兆910億円、輸入額も▲13.8%減の5兆1317億円で、差引き貿易収支は▲407億円の赤字を記録しています。4か月振りの赤字です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易収支、5月は赤字407億円 輸出低迷、4カ月ぶり赤字
財務省が20日発表した5月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は407億円の赤字(前年同月は2153億円の赤字)だった。貿易赤字は4カ月ぶり。円高やスマートフォン(スマホ)需要の一巡でアジア向けの輸出が振るわなかったうえ、熊本地震で一部の工場が生産を停止した影響が出た。QUICKがまとめた市場予想は265億円の黒字だった。
輸出額は前年同月比11.3%減の5兆910億円と、8カ月連続で減った。米国向けの鉄鋼や、ベトナム向けの半導体等電子部品などが減少した。財務省は「世界的なスマホ需要の一巡が電子部品などの輸出に影響した」と説明している。4月の熊本地震により、自動車メーカーの部品工場が生産を停止した影響も一部残ったという。地域別では、米国向けが10.7%減、中国含むアジアは13.0%減だった。
対ドルの円相場は税関長公示レートの平均値で108.97円と、前年同月と比べ8.8%の円高だった。対世界の輸出数量指数は2.4%低下し、3カ月連続でマイナスとなった。
輸入額は13.8%減の5兆1317億円と、17カ月連続で減少した。原油安でアラブ首長国連邦(UAE)からの原粗油やマレーシアの液化天然ガス(LNG)などの輸入額が減った。原粗油の輸入数量は2カ月ぶりに増加した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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貿易収支の赤字化はさほどでもない気がしますが、貿易については輸出入とも減少を続け、いわば「縮小均衡」的に差し引きたる収支が小幅に動いています。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは黒字だったんですが、いずれにしろ、小幅の変動の中で5月の貿易収支は赤字に振れました。市場の事前コンセンサスでも300億円足らずの小幅な黒字との予想でしたから、ほぼ収支均衡に近い印象ではないかと思います。ただし、上のグラフを見ても明らかな通り、季節調整済みの系列では昨年2015年11月に黒字化してから、今年2016年2月に黒字幅としてはピークを付けた後に3か月連続で黒k時は縮小していますが、依然として、長期とはまでいなわいものの、そこそこの期間の傾向を反映する季節調整済みの系列で見た貿易収支はまだ黒字を維持しています。そして、減少を続けてきた輸入額も、これも季節調整済みの系列で見ると、5月は底入れして前月比で増加に転じています。大きな傾向に変化を生じつつある転換点という印象があるわけではありませんが、石油などの商品市況の反転とか、円高進行の為替相場とか、徐々に貿易黒字縮小ないし赤字化を促進する変更への動きが進行しつつあるような気もします。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、季節調整していない原系列の輸出額の前年同月比で見て、輸出額は昨年2015年10月から8か月連続で減少を記録しています。特に、ここ2か月、すなわち、2016年4月と5月は2桁マイナスです。ただし、これは基本的に為替の円高進行に伴うものであり、例えば、本日公表の直近5月統計では輸出額は▲11.3%減である一方で、一番上のパネルに見えるように貿易指数による要因分解では、価格要因が▲9.0%減、数量要因が▲2.6%となります。価格要因で輸出額の減少がもたらされているといえます。もう一方の需要要因については、OECD加盟国に代表される先進国、中国に代表される新興国とも、これまた前年同月比ではまだマイナスを続けていることが、2番目と3番目のパネルから読み取れます。ただし、このマイナス幅は縮小に転じつつあり、輸出の最大のマイナス要因は為替と考えるべきです。6月の米国雇用統計などから、なかなか利上げに踏み切れない米国連邦準備制度理事会(FED)に対して、これまた追加緩和にためらいがあるように見受けられる日銀と、金動向が膠着している中で為替は円高が進行し、輸出へのダメージが懸念されます。ただ、大きな傾向に変化を生じるような貿易動向や国際情勢の動きは見出しがたく、貿易はしばらく膠着した動きを続ける可能性があります。

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2016年6月19日 (日)

米国出張から帰国する!

先週1週間は経済モデルGTAPの理事会と年次総会に出席するため、米国出張でした。GTAPは米国のパーデュー大学がメンテしている経済モデルで、かなりジェネリックなCGEモデルです。会議は首都のワシントンDCにある世界銀行で開催されました。米国出張は10年振りくらいで、TSAロックを装備したスーツケースを買い求めたりして、昨年のメルボルン出張に比べて準備がタイヘンでした。
以下は初夏のワシントンDCの写真です。1週間に渡る理事会と年次総会とはいえ、学会の総会みたいなものですから、割合と時間的な余裕がありました。ですから、本来の出張とはとくに関係もなく、上から定番のホワイトハウス、ワシントンDCのバイクシェア、自転車レーン、なぜか自動車の右折レーンと交差しています、最後に、ジャズの名曲にもその名を取られたデトゥアー・アヘッドの工事標識です。

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無理やりながら、経済評論のブログに分類しておきます。

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2016年6月11日 (土)

今週の読書は『アリエリー教授の人生相談室』のほか計5冊にちょっぴりペースダウン!

諸般の事情により、今週の読書はちょっぴりペースダウンして、『アリエリー教授の人生相談室』のほか以下の通り5冊で済みました。来週はもっとペースダウンするつもりです。というか、そもそも、来週はほとんど新刊書の読書はしないような気もします。

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まず、ダン・アリエリー『アリエリー教授の人生相談室』(早川書房) です。著者はデューク大学の経済学研究者であり、特に行動経済学に詳しく、私も『予想どおりに不合理』など何冊か読んでブログでも取り上げたことがあります。本書はウォールストリート・ジャーナルに掲載されていた Ask Ariely =アリエリーに聞いてみよう、というコラムを書籍化したもので、英語の原題は Irrationally Yours、すなわち、「親愛なる不合理な君へ」とでもいうことになろうかと思います。2015年の出版で、アリエリー教授のサイトでは最新の相談記事を読むことも出来ます。なお、英語の原書は本書の中で数多く掲載されているのと同じ趣きのマンガが表紙を飾っています。ということで、「転職したら幸せになれる?」、「頼まれごとはどう断ればいい?」、「食べ放題は何から食べるべき?」、「オークションで高く売るには?」、「ダイエットはどう続ければいい?」などといった悩みや人生相談の質問に対して、心理学ないし行動経済学の観点も踏まえながらアリエリー教授が回答を寄せています。もっとも、学術書でも何でもないので、まったくのジョークもあったりします。私が感銘を受けた質疑を2点だけ上げると、p.51 で市場取引ではモラルが直接的に失われる可能性を示唆する学術論文が紹介されていたり、p.186 でどの車を買うのか決められないとの質問に対して、迷ったら基本的に等価であると考えられるのでコイントスで決めて差し支えないといったものです。それから、アリエリー教授の基本的な思考パターンに強く同意するのも2点あり、p.173 でスーツにネクタイをウザい服装だと考える場合に、民族衣装に対しては周囲の反発は小さい、というのは大きく同意しますし、p.244 で人間は自由意思よりも環境に左右されるかもしれないが、その環境を自由意思で変えることが重要、といった点です。スラスラと読める本ですし、エコノミストでなくても、経済学の基礎知識がなくても十分楽しめると思います。

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次に、リチャード J. サミュエルズ『3.11震災は日本を変えたのか』(英治出版) です。聞き慣れない出版社ですが、著者はマサチューセッツ工科大学(MIT)政治学部の研究者であり、専門は日本の政治外交安保政策です。本書はタイトル通り2011年3月11日の東北震災が日本に何らかの変化をもたらしたのか、を問うています。思考の側面としては、自衛隊や米軍を対象に安全保障政策、主として原子力を対象にエネルギー政策、そして、道州制の進み方などの地方自治政策です。そして、方法論としては、私のようなエコノミストの数量分析とはまったく異なる方法で、インタビューや公開刊行物を渉猟し、極めて多種多様な情報から著者のセレクションにより思考を進めています。実は、本書冒頭のp.16に名前を出して構わないインタビュー対象者が列挙されているんですが、私が官邸スタッフをしていたころの上司の名が上げられていました。役所はそもそもそうですが、完全に黒子に徹するような縁の下の力持ち的な部署のボスだったので少しびっくりしました。それはともかく、とても大量の情報をコンピュータによる統計的な処理ではなく、個人の頭の中で方向性を見出すべく帰納的に処理しているように見えますので、とても私にはマネの出来ない情報処理だと驚きましたが、結論としては、震災から変化を加速するパワー、現状維持に止めようとするパワー、逆コースに立ち戻らせようとするパワー、の3者を理解した上で日本の政治外交安保を考えて、著者は何も変わっていない、と喝破しています。そうなのかもしれませんし、もしもそうだとすれば、政治家というよりも官僚の現状維持志向が一つの要因かもしれないと考えないでもありません。でも、震災処理が民主党政権、しかも、菅内閣という、さまざまな意味で、特殊な状況下だったもの考慮する必要があるような気もします。

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次に、デービッド・アトキンソン『国宝消滅』(東洋経済) です。この著者の本は、昨年2015年7月18日付けの読書感想文で『新・観光立国論』を取り上げましたが、基本的に本書も同一のラインに乗っていると考えてよさそうです。文化財を活用した観光業の振興により、人口減少に歯止めがかからず衰退一方の日本経済の成長を支え、社会保障などの原資をひねり出そうという意図からの政策提言の書という位置づけで著者は考えているようです。でも、まずそもそも、著者の意図が本書の中で大きく矛盾しており、やや読むに耐えない結論を引き出しているとしか言いようがありません。最初の方は文化財保護の財政負担が小さ過ぎるというお話で始まったように感じていたんですが、最後の方では職人が慢心して、あるいは、文化財保護の公的部局の勘違いが甚だしく、補助金はヤメにして市場原理で文化財を用いた観光業の振興を図るべし、といっているように見えます。私なんぞは口先三寸で丸め込まれてしまいそうな気がしますが、キチンと文化財や観光業のことを考えている有識者には読むに耐えない書物だという気がします。外国人観光客を本書のように「短期移民」と考えて、我が国経済の成長の原動力のひとつに仕立て上げようとするのは、理解出来ますし、それなりに可能性のあることだと思いますが、文化財がその中で果たすべき役割について、周辺諸国、例えば、中国や韓国と比べて、本書のように高い位置づけが出来るのかどうか、そもそもの原点を考える必要もあるような気がします。

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次に、木下昌輝『天下一の軽口男』(幻冬舎) です。著者は最近の時代小説の新たな作家として注目を集めてる小説家であり、私もデビュー作の『宇喜多の捨て嫁』は読みました。ただ、やや重厚な時代小説を狙い過ぎている印象があり、第2作の『人魚ノ肉』はまだ読んでいません。本書は江戸時代中期に実在した上方落語の祖と呼ばれる初代米沢彦八の一代記です。難波村に生まれ、江戸に下向し、大坂に立ち戻り、名古屋で最期を迎えます。難波村の幼なじみの女性との関係をいつまでも大切にするロマンチストであり、笑いで生計を立てようとする現実家でもあり、何よりも小咄程度の短い笑い話をそれなりの長さがあって最後に落ちがある落語まで発展させた功労者ともいえます。私は詳しくないんですが、一節によれば、本書はかなり史実に忠実な面があるものの、米沢彦七その人が決して歴史のかなで確たる足跡を残し、明確な年代記があるわけではありませんから、時代小説特有の史実と小説のフィクションのとても微妙なバランスを要求されるところです。その点で、本書はかなりいい出来だという気がします。史実に男女関係も含めた人間を浮かび上がらせ、しかも、落語の成立という必ずしも歴史に詳らかではない事実を入れ込んでいます。私は時代小説というと、江戸期の天下泰平の世の中で、絶対に揺るがない主家、場合によっては将軍家の盤石の体制の下で、家老などの高級武士が心ゆくまでお家騒動を繰り広げるのを王道の典型と考えて来ましたが、こういった庶民を中心に据えた時代小説も悪くないと思い始めています。第2作の『人魚ノ肉』は読んでいませんが、デビュー作にして直木賞候補となった『宇喜多の捨て嫁』よりもいい出来だと私は受け止めています。ただ、次回作は、私が王道と考えるような、江戸期の天下泰平を舞台に侍を主人公にした時代小説を書いて欲しい気がします。いずれにせよ、ひとりの時代小説ファンとして、この作者にはとても期待しています。

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最後に、住野よる『また、同じ夢を見ていた』(双葉社) です。この作者は『君の膵臓をたべたい』で20万部を売ったそうで、本書はデビュー2作目となります。おそらく小学高学年の小柳菜ノ花なる女子を主人公とし、「季節を売る」アバズレさん、廃墟の建物の階段でリスカする高校生の南さん、静かに余生を送るおばあちゃんの3人を主人公の小学生が放課後に黒猫とともに回るという趣向です。もちろん、小学校での子供足しい活動もあり、隣席のペアを組む男の子都の興隆や授業参観日の両親とのふれあいなども盛り込まれます。かなり強引なんですが、小学校の国語の授業で「幸せ」について考えるというのがあり、登場人物それぞれでヒントを出しあったりします。どこまであっているか自信はありませんが、以下ネタバレかもしれません。ようするに、菜ノ花が少し大きくなって高校生になると南さんになり、もっと大きくなって成人するとアバズレさんになり、そして、人生の最終盤ではおばあちゃんと呼ばれる老婆になるわけでしょう。要するに、この主要な4人の登場人物は同一人物ながら人生のステージの異なる時点で切り取られているんだと私は解釈してます。ですから、本書はファンタジーとして読むべきです。飛行機事故で両親が亡くなるのも同じ趣旨で受け止めるべきでしょう。小説の出来としてはデビュー作よりはいいかもしれませんが、平均スコアはクリアしている可能性があるものの、両作品とも私にはあまりピンときませんでした。もっといい小説が世の中にはたくさんあるような気がします。

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2016年6月10日 (金)

抑えに回った藤川投手が被弾して泥沼の5連敗!

  HE
阪  神010010020 4141
日本ハム000011102x 570

日本ハムの本拠地の札幌に乗り込みましたが、抑えに回った藤川投手が被弾して泥沼の5連敗でした。何とかリードして9回を迎えたんですが、最悪の結果でした。効率が悪いとはいえ、打線はそれなりに打って点を取りましたが、クローザーがザルでした。

明日は、
がんばれタイガース!

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下落幅の拡大に歯止めがかかった企業物価の先行きやいかに?

本日、日銀から5月の企業物価(PPI)が公表されています。ヘッドラインの国内物価は前年同月比で▲4.2%の下落と引き続き大きなマイナスを記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の企業物価指数、前年比4.2%下落 前月比は12カ月ぶり上昇
日銀が10日に発表した5月の国内企業物価指数(2010年平均=100)は前年同月比4.2%下落の99.4だった。前年同月を下回るのは14カ月連続。下落幅は市場予想の中央値と同じだった。原油価格の下落に伴う石油・石炭製品の値下がりや、円高が下落につながった。
一方、前月比では0.2%上がった。上昇は15年5月以来、12カ月ぶり。物価上昇をけん引したのは農林水産物。豚肉需要が学校給食や向けや、気温が高い時期を迎えてスタミナ料理用に増加。疫病で供給が減少したこともあり、値上がりにつながった。原油価格は前年比では落ち込んだものの足元では持ち直し傾向にあり、ガソリンや軽油、ジェット燃料の前月比での上昇も影響した。
円ベースの輸出物価は前月比で0.5%下落、前年同月比で11.1%下落した。輸入物価は前月比0.1%下落、前年同月比で20.1%下落だった。
企業物価指数は企業間で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち、前年同月比で上昇したのは251品目、下落は478品目となった。下落品目と上昇品目の差は227品目で、4月の230品目から縮小した。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは下の通りです。上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の、下のパネルは需要段階別の、それぞれの上昇率をプロットしています。いずれも前年同月比上昇率です。影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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まず、数字の上だけのお話かもしれませんが、ヘッドラインの国内物価の5月の下落率が4月と同じ▲4.2%と、下落幅の拡大に歯止めがかかっています。しかも、季節調整済みの系列ではないので、季節変動かもしれませんが、1年振りに前月比でプラスも記録しています。我が国における物価の下落は、国際商品市況の下落に伴う石油価格の下落から始まり、需要段階別では素原材料から中間財、そして最終財へと波及して来たわけなんですが、上のグラフでも見て取れるように、素原材料の前年同月比上昇率も5月はゼロを示し、まだ中間財と最終財は価格下落の波及の真っ最中で下落幅の拡大が続いているようですが、この物価下落局面も下落幅の拡大が最終段階に達しつつあるように見受けられます。でも、下落幅の拡大に歯止めがかかりつつあるだけで、物価下落そのものが止まってプラスに転じたわけでもなく、現状は国際商品市況の下落からの反転と円高の進行が拮抗して、物価下落幅の拡大が止まっただけであり、デフレ脱却はまだまだ先の長い展開になるような気がします。

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2016年6月 9日 (木)

4月の機械受注の大きな減少をどう考えるか?

本日、内閣府から4月の機械受注が公表されています。設備投資の先行指標となり、電力と船舶を除く民需で定義されるコア機械受注は季節調整済みの系列で前月比▲11.0%減の7963億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、4月は前月比11%減 減少率1年11カ月ぶりの大きさ
内閣府が9日発表した4月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月と比べて11.0%減の7963億円だった。前年実績を2カ月ぶりに下回った。単月の減少率は2014年5月以来、1年11カ月ぶりの大きさだった。QUICKの市場予想(3.7%減)も大幅に下回った。
機械受注の基調判断は「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた上で「4月の実績は大きく減少した」とし、単月の落ち込みに触れた。内閣府は「3月に相次いだ大型案件の反動減が大きい」と指摘。中国の景気減速や円高進行も受注鈍化につながっているとの見方を示した。4月は民需のほか、官公需や外需、代理店を通じた受注額も減った。
製造業からの受注額は13.3%減の3329億円で、2カ月ぶりにマイナスとなった。業種別では非鉄金属からの原子力原動機や化学機械、造船業では内燃機関や火水力原動機などの受注が減った。非製造業は3.9%減の4750億円と、減少は2カ月連続。火水力原動機や航空機、電子計算機などの受注が減った。4月の熊本地震に関しては「大きな影響は見られていない」(内閣府)という。
内閣府による4-6月期の見通し(前期比3.5%減)を達成するには、5月以降に前月比8.0%以上の伸びが必要になるとしている。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは、引用した記事にもある通り、コア機械受注の季節調整済みの系列で前月比▲3.7%減を中央値とし、レンジの下限でも▲10.8%でしたから、▲11.0%減の実績は予想を大きく下回りました。統計作成官庁である内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられるものの、4月の実績は大きく減少した」と示しています。私もここまでブレが大きいと評価に苦しみます。4月単月の減少であって循環的な動きの中の回復過程における超一時的な突発事故なのか、それとも、新興国経済の停滞や円高の進行といった国際要因に消費低迷などの国内要因を合せて、回復過程にある循環を腰折れさせるような現象なのか、何とも現時点では判断できません。こんな時こそエコノミストの傾向的な考えが出るような気がします。すなわち、従来から楽観的な見方を示している私のようなエコノミストは、4月の機械受注の動きは単月の突発事項であり、循環的な回復過程を腰折れさせるものではないと考えるバイアスがありますでしょうし、逆に悲観的な見方を提供するタイプのエコノミストからは、回復過程を腰折れさせる可能性が高いとの分析結果が出そうな気がします。予測を行うに際しては、経済学が科学として未熟な学問体系であることから、確定的な結論を得るのが難しくなっているのは事実なんでしょう。私は判断をパスするもの一案かという気がします。

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2016年6月 8日 (水)

上方改定された1-3月期GDP統計2次QEほか世銀経済見通しなど

本日、内閣府から今年1-3月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比年率成長率は1次QEの+0.4%からわずかに上方改定されて、+0.5%となりました。設備投資の伸びはマイナスのままですが、1次QEから上方修正されています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

1-3月期GDP改定値、年率1.9%増に上方修正 設備投資上振れ
内閣府が8日発表した2016年1-3月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.5%増、年率換算では1.9%増だった。5月18日公表の速報値は前期比0.4%増、年率1.7%増から上方修正され、QUICKが3日時点でまとめた民間予測の中央値(前期比0.5%増、年率1.9%増)と同水準となった。法人企業統計など最新の統計を反映した結果、設備投資が上振れしたことが上方修正につながった。
実質GDPを需要項目別にみると、設備投資は前期比1.4%減から0.7%減に上方修正した。不動産や工作機械などで投資が鈍かったものの、化学や小売業などでは投資が伸びた。民間在庫の寄与度は速報値のマイナス0.0ポイントからマイナス0.1ポイントとなった。仕掛かり品の在庫が速報値で仮置きしている水準を下回った。
個人消費は0.5%増から0.6%増に上方修正となった。携帯電話や自動車などが速報値からの上振れに寄与した。公共投資は0.3%増から0.7%減となった。3月分の建設総合統計が低調だったことが響いた。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がプラス0.3ポイント(速報値はプラス0.2ポイント)となった。輸出から輸入を差し引いた外需はプラス0.2ポイントとなり、速報値から変わらなかった。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.6%増(0.5%増)、年率では2.4%増(2.0%増)だった。総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期と比べてプラス0.9%となり、速報値と同じだった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2015/1-32015/4-62015/7-92015/10-122016/1-3
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+1.3▲0.4+0.4▲0.4+0.4+0.5
民間消費+0.2▲0.8+0.5▲0.8+0.5+0.6
民間住宅+2.1+2.2+1.7▲1.0▲0.8▲0.7
民間設備+3.2▲1.2+0.8+1.3▲1.4▲0.7
民間在庫 *(+0.6)(+0.3)(▲0.1)(▲0.2)(▲0.0)(▲0.1)
公的需要▲0.2+0.8▲0.3▲0.1+0.6+0.5
内需寄与度 *(+1.2)(▲0.1)(+0.3)(▲0.5)(+0.2)(+0.3)
外需寄与度 *(+0.1)(▲0.4)(+0.1)(+0.1)(+0.2)(+0.2)
輸出+2.2▲4.8+2.6▲0.8+0.6+0.6
輸入+1.5▲2.5+1.7▲1.1▲0.5▲0.4
国内総所得 (GDI)+2.0▲0.1+0.6▲0.2+1.0+1.0
国民総所得 (GNI)+1.3+0.3+0.4+0.1+0.3+0.4
名目GDP+2.0▲0.2+0.8▲0.2+0.5+0.6
雇用者報酬+0.5+0.1+0.8+0.5+1.3+1.3
GDPデフレータ+3.2+1.4+1.8+1.5+0.9+0.9
内需デフレータ+1.4+0.0▲0.1▲0.2▲0.5▲0.5

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2016年1-3月期の最新データでは、前期比成長率がプラスに転じ、特に、うるう年効果により赤い消費のプラス寄与が大きい一方で、わずかながら水色の設備投資がマイナス寄与しているのが見て取れます。

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ということで、一昨夜に2次QE予想で取り上げた通り、ほぼ市場の事前コンセンサスに整合的なわずかに上方修正の結果となりました。設備投資が上方修正される一方で、在庫と公共投資が下方修正されています。設備投資については、法人企業統計に従って前期比プラスを予想する向きもあったんですが、大方の予想と同じで、GDP統計ではマイナスながら1次QEよりもマイナス幅が縮小するという形で上方改定されています。消費についてはやや上方改定されつつ、かなりのプラスなんですが、1次QE公表の際にも書いた通り、今年の2月がうるう年でしたのでその効果を含んでおり、うるう年効果を除いた実勢の消費はかなり弱いと考えるべきです。また、在庫のマイナス寄与については、当期にはマイナスかもしれませんが、先行きの景気動向に対してはわずかなりとはいえ在庫調整が進展したわけですから、決して否定的に受け止めるべきではありません。とはいえ、消費と併せて見て、足元の景気の実勢がかなり力強い回復からほど遠いのも事実です。
先行きの景気を考えると、まず最大のコンポーネントである消費は、少なくともGDP統計を見る限り、雇用者報酬は着実に増加を示しており、マインドの縮小志向による部分が少なくないと私は考えています。ですから、消費増税の先送りについては、それなりの効果を持つと思いますが、いうまでもなく、本格的に消費増税の取りやめと同じ効果を持つと考えるべきではありません。いつかの時点で、消費増税を実施するのか、取り止めるのか、政権の決断が求められる可能性はあります。設備投資については、キャッシュフローの面からはサポートされるんでしょうが、これまたマインドの点から円高進行の為替相場の影響がどこまで出るかによります。私がメディアなどの論調を見ている限りでは、円安が進んでも海外展開した工場が国内回帰するわけではなく、しかし逆に、円高が進むと設備投資マインドが冷える、といったように、為替の動向にはっ非対称でかつデフレ期のマインドが強く残っているような気がします。それだけ、かつての日銀の金融政策の罪深さを実感し、また、痛みを伴う構造改革だけを重視する根拠ない論調にも疑問を感じるんですが、消費者マインドも企業マインドも、それなりにpersistentであり、期待に働きかける政策は根気よく気長に続ける必要があることを改めて実感します。

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さらに、GDP統計を離れて、本日、内閣府から5月の景気ウォッチャーが、また、財務省から4月の経常収支が、それぞれ公表されています。いつものグラフを上の通りお示しするだけで済ませておきます。まず、景気ウォッチャーのグラフは上のパネルの通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。色分けは凡例の通りで、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。そして、経常収支のグラフは下のパネルの通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。

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最後に、世界銀行から Global Economic Prospects が公表されています。今年2016年の世界経済の成長率は1月の見通し時点の+2.9%から+2.4%に▲0.5%ポイントの下方改定となっています。上の画像はリポート p.4 の総括表 TABLE 1.1 Real GDP を画像化しています。クリックするとこのページだけを抜き出した pdf ファイルが別タブで開くようになっています。ご参考まで。

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2016年6月 7日 (火)

大きく上昇した景気動向指数は何を示唆しているのか?

本日、内閣府から4月の景気動向指数が公表されています。ヘッドラインとなるCI一致指数は前月から+2.0ポイント上昇して112.2を示し、CI先行指数も前月から+1.4ポイント上昇して100.5を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気一致指数、2.0ポイント上昇 4月、判断「足踏み」で据え置き
内閣府が7日発表した4月の景気動向指数(2010年=100、速報値)で、景気の現状を示す一致指数は前月比2.0ポイント上昇の112.2だった。上昇は2カ月連続。単月の伸び率としては15年4月(2.2ポイント上昇)以来、1年ぶりの大きさだった。内閣府は一致指数の基調判断を「足踏みを示している」で据え置いた。
生産活動の持ち直しなどを背景に、前月と比較可能な8指標のすべてが一致指数のプラスに寄与した。一致指数の押し上げに最も寄与したのは投資財出荷指数(輸送機械除く)。有効求人倍率や耐久消費財出荷指数、鉱工業生産財出荷指数など軒並み前月から改善した。内閣府は4月の熊本地震について「輸送機械の生産が一部滞るなどしたものの、景気全体への影響は限定的だった」(内閣府)と分析する。
数カ月先の景気を示す先行指数は1.4ポイント上昇の100.5だった。上昇は2カ月連続。新規求人数や最終需要財の在庫率指数、日経商品指数などが改善を示した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、CI一致指数は1年振りの大きな上昇幅を示しました。この4月単月の指数により、3か月後方移動平均も7か月後方移動平均もともにプラスに転じています。先行指数もそれなりのプラスですし、しかも、採用8系列がすべてプラス寄与しているんですが、基調判断は「足踏み」のままだったりします。3か月後方移動平均が3か月連続でプラスになれば、「改善」の基調判断に戻るんだろうと私は理解しています。前月差でプラス寄与が大きい採用系列を見ても、投資財出荷指数(除輸送機械)に有効求人倍率(除学卒)に耐久消費財出荷指数と、投資・雇用・消費とバランスよく並んでいたりします。さらに、熊本地震の影響は限定的ということですから、それなりに4月は単月で見ると景気は上向いた付きなのかもしれません。日本経済研究センターで算出している月次GDPでも、4月は+1.0%成長を記録しており、特に消費が+1.2%と伸びているとの結果を示しています。問題は先行きなんですが、CI先行指数も4月はそれなりのプラスを示していますが、熊本地震の影響が限定的であると仮定すれば、最大の懸念材料は円高の進む為替ということなのかもしれません。

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2016年6月 6日 (月)

明後日公表予定の1-3月期GDP統計2次QEはわずかに上方修正か?

先週6月1日の法人企業統計で必要な統計が出そろい、明後日の6月8日に1-3月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定となっており、シンクタンクや金融機関などから2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の今年4-6月期以降を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは、みずほ総研だけでした。何と、足元の4-6月期だけでなく、7-9月期まで言及していましたので、長めに引用しています。ただし、2次QEですから、アッサリした予測も少なくなかったのも事実です。なお、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.4%
(+1.7%)
n.a.
日本総研+0.3%
(+1.4%)
設備投資が上方修正、在庫投資、公共投資がそれぞれ下方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+1.4%(前期比+0.3%)と1次QE(前期比年率+1.7%、前期比+0.4%)から小幅に下方修正される見込み。
大和総研+0.5%
(+2.2%)
公共投資、在庫投資が下方修正される一方、民間企業設備が大きく上方修正されることで、全体としては一次速報を上回る見通しである。
みずほ総研+0.4%
(+1.6%)
4-6月期の日本経済は、在庫調整圧力が残る中で、熊本地震による生産停止も下押しとなるため、景気の足踏みが続くとみられる。報道等によれば、自動車部品工場の被災によって大手自動車メーカーが全国的に工場を停止した影響で、自動車生産は9万台程度下振れした模様である。
7-9月期以降については、熊本地震に伴う消費者マインド低迷の長期化などに注意は必要だが、生産下振れ分の挽回生産が続くとともに、欧米を中心とした海外経済の緩やかな回復による輸出の持ち直しも見込まれることから、景気は緩やかに持ち直すとみている。
ニッセイ基礎研+0.5%
(+1.9%)
実質GDPが前期比0.5%(前期比年率1.9%)となり、1次速報の前期比0.4%(前期比年率1.7%)から若干上方修正されると予測する。
第一生命経済研+0.4%
(+1.7%)
設備投資の上方修正を、公共投資と在庫の下方修正が打ち消し、全体では変化なしとなる見込みだ。1次速報から景気認識に変更を迫るような結果にはならないだろう。
伊藤忠経済研+0.5%
(+1.9%)
設備投資が上方修正される一方、在庫投資や公共投資が下方修正される見込み。ただ、設備投資は横這い程度であり、企業業績の悪化が続けば前向きの循環が途切れる恐れ。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+0.6%
(+2.6%)
実質GDP成長率が、1次速報の前期比年率1.7%から同2.6%に上方修正されると予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.5%
(+1.9%)
この結果によって景気に対する見方が大きく変化することはなさそうであり、均してみれば景気は横ばい圏内での動きにとどまっていることを確認することになろう。
三菱総研+0.7%
(+2.6%)
2016年1-3月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.7%(年率+2.6%)と、1次速報値(同+0.4%(年率+1.7%))から上方修正を予測する。

大雑把なコンセンサスとして、2次QEでは1次QEから設備投資が上方修正される一方で、在庫投資と公共投資が下方修正され、小幅な改定にとどまる、との見方ではないかという気がします。私自身は上方修正と下方修正がキャンセルアウトして、わずかにプラスが残って上方修正と考えています。しかし、少なくとも在庫については下方改定されるという意味は、かなりゆっくりしたペースであるものの、在庫調整が進むという意味であり、1-3月期の成長率にはマイナス寄与する一方で、先々の景気回復にはプラスになると考えるべきです。また、足元の4-6月期以降の景気動向については、熊本地震の影響もさることながら、米国雇用統計が大きく減速して再利上げのペースがさらに鈍る結果、円高が進む方が影響が大きそうな気がします。6月1日公表の法人企業統計を見ても、企業活動がかなり減速していることは明らかですし、熊本地震や円高の影響を受けた6月調査の日銀短観が気にかかるところです。
下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。

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2016年6月 5日 (日)

延長12回で力尽きて西武に負ける!

 十一十二 HE
西  武101000000001 3111
阪  神100001000000 281

ロースコアで僅差の試合が延長戦となり、12回に力尽きて西武に敗戦でした。西武リリーフ陣の力投の前に打線は7回以降沈黙し、逆転はなりませんでした。決して強力とはいえないリリーフ陣はよく持ち堪えたんですが、12回を守り切ることは出来ませんでした。またまた5割に逆戻りです。

次のロッテ戦は、
がんばれタイガース!

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先週の読書は『プラハの墓地』や『ままならないから私とあなた』など小説を中心に計7冊!

先週の読書は本格的な経済の学術書などはナシで、教養書っぽい読書はありましたが、中身はそれほどでもなく、最近亡くなったウンベルト・エーコ『プラハの墓地』や朝井リョウ『ままならないから私とあなた』など小説が中心の以下の7冊でした。今週からはペースダウンします。

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まず、カビール・セガール『貨幣の「新」世界史』(早川書房) です。経済書と思って読み始めたんですが、ほとんど経済のお話ではなく貨幣にまつわる社会風俗的な教養書だという気がします。著者は長らく英国のJPモルガンに勤務した投資銀行家のようです。人的関係はよく判らないものの、冒頭にグラミン銀行でノーベル平和賞を受けたユスフ氏が巻頭言を寄せています。なお、英語の原題は Coined ですから、「貨幣」というよりは「硬貨」なのかもしれません。ということで、まず、生物界における共生関係から説き起こして、人間が社会生活を送るうえで貨幣流通が経済の動学的な移り変わりをスムーズにするという、余りにも当然な指摘から始まり、貨幣の起源としては債務説を取っているようです。すなわち、バーターの物々交換が不便なので社会的な発明品として貨幣が使われ出したわけではなく、債務の証文、すなわち、借用証が交換の場で通貨の役割を始めた、とする説です。歴史的な考証に委ねられるべきテーマですが、歴史を専門分野とするエコノミストの間でも決して少数派ではないような気がします。後は、南海バブルや19世紀末からの金本位制の成立、そして、第2次世界大戦後のブレトン・ウッズ体制下の固定為替制度などの国際通貨制度の記述が続き、特に目新しさは読み取ることが出来ませんでした。ビット・コインも取り上げられていますが、ほとんど「ご紹介」程度の扱いですし、金融危機やバブルの発生と崩壊などは歴史的な事実としてのみ取り扱われている、という印象です。高校生とか大学の教養部生とかの読書にはいいかもしれませんが、経済を専門とするエコノミストには少し物足りないかもしれません。ただし、キチンと原典が注として提示されており、著者の勝手な思い込みだけで成り立っている本ではないことは確認できます。その点は立派だと考えるべきでしょう。

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次に、横江久美『崩壊するアメリカ』(ビジネス社) です。トランプ候補が共和党の大統領予備選で過半数の代議士を生死、事実上、共和党の大統領候補となった中で、これらの現象を日本人としてどのように受け止めたり考えるべきかについての本といえますが、著者は私はよく知らないんですが、本書での肩書は元ヘリテージ財団の研究員となっていて、本書でも自分自身を称して、外国人として唯一ナントカ会議に出席していた、などと、完全に上から目線で、無知な日本人に対して教えを垂れる、というスタイルを取っています。中身がそれほどあるとは思えず、特に論拠も示さずに、著者が誰かからアクネドータルに聞いたお話なんだという気もしますが、とても大雑把です。最後の方は米国の政治外交姿勢の変化を世代論で論じようとしており、確かに、ベビーブーマーからX世代、さらにミレニアル世代への米国民の中心が移行していることは事実ですが、エコノミストの私から見て、世界的な分業体制の進化の中で、米国の占める位置が従来から大きく変化した点などが、まったく視野にも入っていないようです。トーマス・フリードマンなんか読まないんですかね。テレビドラマや音楽界や映画の嗜好の変化と、政治が以降の方向性の変化を同列に考えるのは、私としてはとても新鮮だったんですが、ややキワモノです。米国外交の方向として、ユーラシア・グループのブレマーの定義した「マネーボール」的な採算性を重視した方向に動くような指摘が本書で随所にありましたが、ブレマー的な孤立する米国については、本書の著者はどのように考えているんでしょうか。ご自分の考えを押し通そうとして他人の論評を広く把握することはしていないようです。どうも、本書というか、本書の著者について、情報を得るソースがとても狭そうな気がして、やや心配になります。でも、トランプ候補もそう情報収集のソースが限定的な気配があるので、そういった限られた情報で断定するのが流行りなのかもしれません。

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次に、小島道裕『洛中洛外図屏風』(吉川弘文館) です。16世紀半ばの戦国末期から織豊政権を経て、17世紀前半の江戸時代初期くらいにかけて描き続けられた洛中洛外図屏風について、作者の言い方を借りれば、芸術品として見るのではなく、歴史資料として読んだ結果を解説してくれています。まず、洛中洛外図屏風について、私も10や20くらいはあるんだろうと想像じていましたが、何と百数十も伝えられているとのことで、ややその数の多さにびっくりさせられました。そして、多くの作品は大雑把に京の南西から北東を見る角度で描かれており、当然ながら、細かくびっしりというわけにも行かないので、重要な部分は大きく描いて、その他の部分は金雲で覆ってしまう、という構成になっています。京は碁盤目状ですから、斜めから見れば、各ブロックは平行四辺形になります。ただ、本書では伝統的な日本の画法には触れられていません。すなわち、浮世絵なんかもそうなんですが、全体を俯瞰・鳥瞰する場合は斜め上からの視点を取り、しかし、人物の、例えば浮世絵の美人画なんかは真横からの角度を持った視点で描く、という手法です。洛中洛外図屏風もこの日本の伝統的な画法で描かれているように見受けました。本書では、単に描かれている建物だけでなく、京の風俗やかぶき者の乱暴狼藉などのバイオレンス、さらに、豊臣から徳川への権力の移行に伴ういろいろな変化を洛中洛外図屏風から読み取っています。そして、最後には粉本と呼ばれるお手本から書き写すだけで、写実的な意味を失ってアップデートされなくなるまでを追っています。本書の表現では、雛人形が誰がお内裏さまで誰がお雛様なのかを問わないように、洛中洛外図屏風もひとつの形式になった、ということなのかもしれません。それにしても、この豪華絢爛な屏風が嫁入り道具のひとつとして作成されたとは知りませんでした。私は洛中洛外図にすら入らないくらいの田舎の京都の片隅の出身ですが、大学時代に少し公爵めいたものを聞いた記憶はあるものの、それなりの勉強になった気がします。

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次に、ウンベルト・エーコ『プラハの墓地』(東京創元社) です。作者は今年2016年2月に亡くなっています。イタリアの記号論の研究者であり、数本のベストセラー小説の作家でもあります。本書の訳者あとがきには、本書が6作目の小説であるとともに、邦訳されたのは5冊目、と紹介されています。私は邦訳されている小説、すなわち、『薔薇の名前』、『フーコーの振り子』、『前日島』、『バウドリーノ』はすべて読んでいます。ついでながら、映画「薔薇の名前」もDVDで見ていたりします。それはともかく、本書は2010年の出版であり、イタリア語の原題は Il cimitero di Praga ですから、邦訳そのままです。本書では、ナチスのユダヤ人ホロコーストの根拠のひとつともされた『シオン賢者の議定書』を偽書として作成した架空のシモーネ・シモニーニを主人公に据え、パリのモベール広場から入るややうらぶれた小路にあるアパルタメントで、この主人公が1987年3月から4月にかけて日記を書く、という体裁を取っています。もっとも、主人公以外の関係者の日記というか、メモ書きも混入します。時代背景が19世紀の世紀末ですから、ユダヤ人に関係する世界史的な大事件としてドレフュス事件が取り上げられますし、パリ・コミューン革命も話題に上ります。そして、本書に限らず、ユダヤ人問題、というか、ユダヤ人に対する偏見に関連して、カトリックの中でもイエズス会、さらに、典型的に、フリーメイソンと共産主義がほぼユダヤ人の陰謀と同一視されます。イエズス会はその布教活動が世界に及ぶということなんでしょうが、同じコンテクストで、ユダヤ人とフリーメイソンと共産主義は世界を視野に入れたインターナショナリスト、あるいは、コスモポリタンであり、しかも、やや偏見なんでしょうが、少し陰謀じみた活動に勤しんでいるんではないか、という点が共通していると私は理解しています。それ以外に特に思想的な背景や組織や活動に共通性はないように感じています。シモニーニがいろんな筆跡を真似できるというのは、宮部みゆきの『桜ほうさら』を思い出してしまいました。また、どうでもいいことなんですが、本書に当時のフランスでは統計局が情報部の中のひとつの局であるような発言が登場人物から出ます。どこまでホントかウソか知りませんが、マーク・トウェインが "There are three kinds of lies: lies, damned lies and statistics." といったのは有名ですが、このあたりに要因があるのかもしれません。

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次に、朝井リョウ『ままならないから私とあなた』(文藝春秋) です。著者はいうまでもなく、新進気鋭の直木賞作家です。この作品には、短編の「レンタル世界」と中編ないし長編の表題作「ままならないから私とあなた」の2編が、この順で収録されています。「レンタル世界」では、友人の少ない新婦の友人として結婚式に出席したり、別居中の妻の役割を演じたりするレンタル家族の仕事をする女性に対して、体育会系の営業担当社員が虚構の世界に対する違和感を感じるというストーリーであり、表題作の「ままならないから私とあなた」では、小学校からの友人の女性2人、すなわち、無駄なことに見向きもせずに、信じる道を突き進んで行く天才肌のプログラマ、そして、無駄なものにも人間としての暖かみが宿るとこともあると考える芸術家肌の作曲家を主人公に、2人の価値観が徐々に離れて行き、人生の大きな選択である結婚に際して、決定的に対立する瞬間を迎えます。両方の作品とも、決して交じり合うことのない2人の価値観が永遠に平行線をたどり、何となく私の直感では、年配の人が支持しそうな人間味のある方向性に対して、作者はバーチャルな世界もアリだという若い世代を代表する作家として、アンチテーゼを投げかけているような気がします。とても興味深い一方で、これまた永遠に結論の出そうもないテーマに取り組んだ作者の心意気を大いに評価したい反面、とても難しい問題を世間に投げかける問題作ではなかろうか、という気もしないでもありません。少なくとも、私は一方だけを無条件に肯定することが出来ませんでしたし、表題作で人間としての暖かさを選択する作曲家の心情に無条件で近いと考えたり、読後感がよろしくないと感じたりする人は、多分、精神的もしくは年齢的に人生の夕暮れ時に近づいているんではないか、という気もします。

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次に、白岩玄『ヒーロー!』(河出書房新社) です。作者は2004年に『野ブタ。をプロデュース』でデビューしたライト・ノベル作家です。『野ブタ。をプロデュース』はテレビでドラマ化され、それなりにヒットした記憶があります。私ですら、かなり遅れて読みました。もっとも、ドラマは見ていません。作者は12年前に二十歳そこそこだったように覚えていますので、まだ30代前半なんだろうと思います。ということで、本書は同じように高校を舞台にして、高校2年生の男女が主人公であり、イジメをテーマにしているところも共通しています。すなわち、高校でのイジメをなくす、もしくは、減らすため、ヒーローおたくの男子と演劇部の演出をしている女子が手を組み、さらに、何故か校長先生の理解も得て、休み時間にパフォーマンスを繰り広げ、それに、演劇部のシナリオ・ライターも乱入して、何と、パフォーマンス合戦となり、生徒たちの注意をパフォーマンスに引きつけてイジメに走る時間をなくそうというストーリーです。私はこのイジメ対策は、もちろん、根本的な対策にはまったくなっていませんが、少なくとも「臭いものにフタ」的な効果はあるんではないかというきはします。「元から絶たなきゃダメ」というのもひとつの見識ですが、例えば、いわゆる偏差値の高い進学校なんかでイジメが少ないのは、勉強に忙しくてイジメなんぞに走る時間が少ないのも、ひょっとしたら、多少なりとも効果があるかもしれない、くらいに考えています。小説に戻ると、『野ブタ。をプロデュース』では太った男子の転校生だったんですが、本書では超美少女の転校生がクラスに編入され、しかも、パフォーマーの側に立ってイジメ撲滅に立ち向かいます。私の記憶はかなり曖昧なものの、『野ブタ。をプロデュース』では、終わり方にやや不満が残ったんですが、本書では終わり方がそれなりに改善されています。でも、さらに一考の余地があるような気がします。終わり方で読後感にかなりの影響を及ぼしかねないので、今後の課題かもしれません。もっとも、私の場合、この作者は2作品しか読んでいないので、少し独断的な評価かもしれません。

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最後に、百田尚樹『カエルの楽園』(新潮社) です。ソクラテスなるアマガエルが主人公の小説なんですが、右派の傾向の強い著者らしく、左派や平和憲法を強く揶揄する内容に仕上がっています。ソクラテスがたどり着いたナパージュの王国が日本で、そこに住むツチガエルが日本人、ナパージュの「三戒」は憲法9条で、ナパージュを守る老いたる巨大なワシであるスチームボートが米国あるいは米軍で、ハンニバル3兄弟が自衛隊、尖閣諸島になぞらえられた南の崖を侵略するウシガエルは中国人なのかもしれず、エンエンという国からナパージュに来たヌマガエルは在日朝鮮人の雰囲気があり、ウシガエルがナパージュを制圧した後にヌマガエルはウシガエルの手先となってツチガエルを支配したりします。ナパージュにいたツチガエルはウシガエルによる侵略の後、食用奴隷に成り下がりますが、「三戒」を守って戦争を回避する平和主義的な左翼、もっといえば、おそらく朝日新聞になぞらえられたデイブレイクは食用にされずに、ウシガエル側の御用メディアになったりします。まあ、左翼の側でもかなり強烈というか、真実からかけ離れたとはいわないまでも、かなり事実を歪めて無理やり「教訓的」なストーリーを作り出したりすることがないとはいいませんし、プロレタリア文学といったジャンルもあったりするわけですが、この小説は作者が作者だけに十分な予備的知識を持って読んだ私のような人間から見ても、とても論争を呼びそうな内容に仕上がっています。もちろん、そういう方向を意図して書かれた小説であることは間違いなく、その意味で、作者は確信犯的といえます。それで商品として本屋さんの書棚に並ぶわけですから、ある意味では、米国大統領選挙のトランプ候補の発言に似ている気がしないでもありません。私はこの作者の作品をすべて読んでいるわけではありませんが、映画化もされた『モンスター』などの良い小説もありながら、こういった一定の思想傾向を明らかにしたプロパガンダ的な内容を色濃く有する小説については、いかがなものかと思わないでもありません。

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2016年6月 4日 (土)

序盤のリードをメッセンジャー投手が守って西武に勝利!

  HE
西  武000000100 163
阪  神20200001x 5110

先発メッセンジャー投手の好投で西武に勝利でした。7回を1失点と立派なピッチングでした。久し振りの勝ち星でした。ドリス投手と藤川投手もゼロでつなぎました。打つ方ではトップバッターに座った鳥谷キャプテンの復調が大きく、クリンナップを中心とする上位打線が活発に得点できています。

明日も、
がんばれタイガース!

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米国雇用統計は大きく減速し6月利上げは1回休みか?

日本時間の昨夜、米国労働省から5月の米国雇用統計が公表されています。金融政策動向と合わせて注目されていたところ、非農業雇用者数の増加幅はわずかに+38千人と前月から伸びが大きく減速した一方で、失業率は前月から▲0.3%ポイント低下して4.7%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから最初の2パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

Sharp Fall in U.S. Hiring Saps Chance of Fed Rate Increase in June
The government reported on Friday that employers added just 38,000 workers in May, a troubling sign that the economic recovery may have stalled, at least temporarily, and a sharp slowdown in hiring that is expected to push back a decision by the Federal Reserve to raise interest rates.
Despite the anemic job gains, the official unemployment rate, which is based on a separate survey of households, fell to its lowest point in nearly a decade, 4.7 percent from 5 percent in April. But the decline was primarily a result of Americans dropping out of the labor force rather than finding new jobs.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューが続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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ちょっとびっくりの米国雇用の急ブレーキでした。直前に明らかにされたADPの民間雇用は4月の+166千人に続いて5月は+173千人でしたから、私のような思考パターンの単純なエコノミストは、米国労働省の米国雇用統計でも4月から少し増加幅が拡大するものの、+200千人には届かない、といった予想をしており、市場の事前コンセンサスもこれに近いものだったと受け止めていたんですが、何と、わずかに+38千人増で、非農業民間部門に限れば+25千人増と限りなくゼロに近い印象の結果が出てしまいました。業種別の犯人探しが始まり、現時点では、情報産業の雇用が34千人も減となっていることから、米国通信大手ベライゾンの一時的なストライキの影響ではないかと指摘するエコノミストもいるようですが、それでも100千人単位の影響ではないので、マクロ的な景気の影響ではないかという意見も無視できません。失業率は低下したものの、米国雇用統計では失業率よりも雇用増の方が重視されますので、もっとも敏感に反応したのは為替市場であり、円ドル為替相場は2円ほども円高に振れてしまいました。市場の理解は、米国の連邦準備制度理事会(FED)の6月利上げは1回休み、ということなのかもしれません。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性は小さそうに見えます。

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2016年6月 3日 (金)

本日公表の毎月勤労統計の実質賃金上昇は物価下落によるものか?

本日、厚生労働省から4月の毎月勤労統計が公表されています。ヘッドラインとなる現金給与総額は季節調整していない原系列の前年同月比で見て+0.3%増の27万4984円となり、季節調整済みの系列による製造業の所定外労働時間は前月から+0.4%増を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質賃金、4月0.6%増 物価下落で
厚生労働省が3日発表した4月の毎月勤労統計調査(速報値)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月に比べ0.6%増えた。増加は3カ月連続。3月はほぼ横ばいだった消費者物価が4月に0.3%下落したことが実質賃金を押し上げた。
実質賃金の増加は物価よりも給与の伸びが上回っていることを示す。賃金は緩やかな上昇傾向にあるが、伸びは小幅にとどまっており、賃上げの勢いは力強さを欠く状態が続いている。
調査は従業員5人以上の事業所が対象。名目賃金にあたる現金給与総額は0.3%増の27万4984円だった。3カ月連続で増加した。現金給与総額のうち基本給にあたる所定内給与は0.2%増の24万3275円。残業代など所定外給与は1.0%増の2万432円、特別に支払われた給与は4.3%増の1万1277円だった。
業種別では電気・ガス業の現金給与総額が4.9%増と比較的高い伸びを示した。特別に支払われた給与の増加がけん引した。娯楽や理髪店などを含む生活関連サービス業は4.6%減少した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。順に、上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、まん中のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与の季節調整していない原系列の前年同月比を、下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用指数の推移を、それぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。

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一番上のパネルの製造業の所定外労働指数は、ほぼ鉱工業生産指数と同じ方向性の動きを示しています。鉱工業生産が4月に増産を示したわけですから、所定外労働時間指数も上昇を記録しています。次のパネルに見える賃金指数の上昇率はかなり明確にプラスに転じ、しかも上昇が加速を示し始めた、と私は受け止めています。しかしながら、引用した日経新聞の記事については、ややデフレ的なバイアスがあると私は考えており、すなわち、実質賃金の上昇が物価下落に負う部分が無視できないのは明らかとしても、例えば、名目でマイナスの上昇率が物価の影響でプラスに転じてしまう、というわけでもありません。名目でプラスですので雇用者・消費者の方にイリュージョンがあるわけでもなく、とてもわずかながら着実に所得が増加しているとの実感はあるものと考えるべきです。特に、グラフにはありませんが、フルタイムの一般労働者の所定内給与は1月+0.4%増、2月+0.7%増、3月も+0.7%増、4月は+0.5%増と着実に増加しており、一番下のパネルの一般労働者の増加率が上昇していることと相まって、かなり雇用の質的な改善が図られていると私は受け止めています。かつては、非正規雇用がさほど伸びないお給料で雇用されるケースがかなりあったんですが、昨今の人手不足により、正規雇用、しかも雇用の安定性だけでなくお給料もそれなりの伸びを示す正規雇用が増加し始めていると考えるべきです。パートタイム雇用の増加はまだフルタイムを上回っていますが、人手不足に伴って徐々にフルタイムへのシフトが進む可能性があるものと期待しています。何度か、このブログでも指摘して来ましたが、経済学の示すところに従えば、人手不足が続いたとしても、雇用の量的な拡大は完全雇用に達すれば停止する一方で、雇用の質的な改善につながると考えられ、本日公表の毎月勤労統計などの現実のデータを見る限りでは、賃金ではなく正規職員増という形での雇用の質の改善が進む可能性が十分あるんではないか、と私は考えています。

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2016年6月 2日 (木)

藤浪投手が楽天を1安打完封に抑えて連勝!

  HE
阪  神101010000 380
楽  天000000000 011

先発藤浪投手の1安打完封で楽天に連勝でした。やや三振が少ないものの、ちょうど100球のほぼ完璧なピッチングでした。打つ方では初回のツーベースと3点目のホームランで鳥谷キャプテンが気を吐きました。もう少し打って欲しいところではありますが、3時間足らずの理想的な試合運びだった気がします。今夜はオコエ選手の打席もしっかり楽しめました。

明日からの西武戦も、
がんばれタイガース!

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消費者態度指数は前月からほとんど変化なし!

本日、内閣府から5月の消費者態度指数が公表されています。前月から+0.1ポイント上昇と、わずかに改善して40.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

5月の消費者態度指数、0.1ポイント上昇 基調判断「足踏み」に据え置き
内閣府が2日発表した5月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.1ポイント上昇の40.9だった。「暮らし向き」など指数を構成する4つの意識指標とも前月から小幅な動きとなり、内閣府は消費者心理の基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いた。
4つの指標の内訳をみると、「耐久消費財の買い時判断」が前月から0.4ポイント上昇したほか、「暮らし向き」や「雇用環境」も0.1ポイント上昇した。「収入の増え方」は横ばいだった。同時に調査している「資産価値」の意識指標は1.4ポイント上昇した。
1年後の物価見通し(2人以上世帯)について「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月から3.4ポイント低下し、78.9%となった。消費者物価指数(CPI)が伸び悩んでいることなどが影響したとみられる。
消費動向調査は全国8400世帯が対象で、有効回答数は5480世帯(回答率65.2%)だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は、次の毎月勤労統計のグラフと共通して景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、消費者態度指数を構成する4つのコンポーネントのうち「耐久消費財の買い時判断」がやや大きな上昇を示した以外、他はほぼ前月並みと変化が少なく、統計作成官庁である内閣府の基調判断も「足踏み」で据え置きされています。なお、記事にある「資産価値」は消費者態度指数の構成要素には入っていません。ということで、供給サイドのマインド指標である景気ウォッチャーも見てみたい気がしますが、需要サイドの消費者態度指数はほとんど前月から変化なく、おそらく、熊本地震の影響も限定的だったのではないかと推測しています。でも、景気ウォッチャーも含めて5月のマインドよりも、来年4月の消費増税再延期を受けた6月のマインドの方向がとても気にかかります。このブログでも従来から主張している通り、GDPの大きな部分を占める消費は所得とマインドの掛け算に相関すると私は考えていますので、マインドの向上とともに消費が増加する方向にあることが確認できる可能性があるんではないかと期待しています。

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2016年6月 1日 (水)

交流戦第2戦は青柳投手が初登板初勝利で楽天相手にリベンジ!

  HE
阪  神010300100 570
楽  天000100200 371

ドラ5ルーキー青柳投手の初登板初勝利おめでとうございました。9時過ぎに帰宅したので、生中継のピッチングはまったく見ていませんが、次の登板機会は投球をしっかりと拝見したいと思います。また、オコエ選手が9回に先頭打者で打席に立ったのは見たんですが、アッという間に初球を打って、これまた見逃してしまいました。昨夜ボロ負けした楽天相手にリベンジして、またまた5割に戻しました。

明日も、
がんばれタイガース!

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法人企業統計に見る企業活動はやや下向きなるも設備投資は伸びる!

本日、財務省から1-3月期の法人企業統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で、2期連続の減収減益を記録し、売上げは前年同期比3.3%減の332兆874億円、経常利益は9.3%減の15兆8997億円でした。ただ、設備投資は前年同期比で+4.2%増の13兆6805億円と12四半期連続の増加となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

経常益9.3%減 1-3月法人企業統計、2期連続で減収減益
財務省が1日発表した2016年1-3月期の法人企業統計によると、全産業(資本金1千万円以上、金融機関を除く)の経常利益は前年同期比9.3%減だった。売上高も3.3%減で、減収減益は2期連続。設備投資額は4.2%増だったが、伸び率は鈍化した。企業の利益は高水準を維持したが、円高などが押し下げ要因となった。
経常利益を業種別にみると、製造業が20.4%減と大きく落ち込み、非製造業は4.5%減だった。製造業では自動車など輸送用機械が28.7%減。北米への車輸出台数ベースで好調に推移したが、1-3月期の為替レートは1ドル=115.32円と前年同期から約4円の円高となったことから利益を圧迫した。電気機械も60.7%減だった。
全産業の経常利益は減少したが、金額は1-3月期としては過去4番目の高さだった。
売上高は製造業で2.2%減、非製造業は3.8%減だった。資源安が響き、石油・石炭は30.2%減だった。
一方、設備投資は製造業、非製造業共に増え12四半期連続で増加した。輸送用機械では新型車向けの生産能力増強のため11.4%増だった。化学でも研究開発投資が増え20.2%増。非製造業ではオフィスビルなどの新設が進み、建設業で20.7%増となった。
内閣府が5月中旬に公表した1-3月期の国内総生産(GDP)では、実質設備投資が前期比1.4%減だった。8日に発表する改定値では、今回の法人企業統計の結果を反映する。SMBC日興証券の丸山義正チーフマーケットエコノミストは8日のGDP改定値で設備投資の前期比がプラスに転じると予測した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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前回の昨年10-12月期の統計が公表された際にも、企業活動には陰りが見え始めたと結論しましたが、基本的なラインは続いています。すなわち、季節調整済みの系列で見て、売上高では2014年10-12月期をピークとして5四半期連続で減収が続き、経常利益でも3四半期連続の減益となっています。売上げの方は製造業と非製造業で大きな違いはありませんが、経常利益では製造業の減益が大きくなっています。円高の影響をモロに受けた結果だと私は受け止めています。もっとも、減益というものの経常利益ではまだリーマン・ショック前の水準にあり、設備投資や人件費負担に耐える水準だと私は理解していますが、労使の力関係もあって賃上げが抑制されているのは事実かもしれません。特に、春闘をリードする金属労協などが企業収益に惑わされて賃上げを低く抑えられたのは、消費へのインパクトを通じて日本経済の悪循環を招きかねないことから、実に残念だったと私は考えています。また、下のパネルの設備投資については、人で不足などを背景にこのところやや上向き加減でしたが、1-3月期は新興国経済の低迷や円高進行などを受けて、上向きの角度が鈍っているのが見て取れます。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。いずれも、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しました。また、最初にお示ししたグラフでは季節調整済みの設備投資はこの7-9月期にやや増加したものの、キャッシュフローとの比率で見れば設備投資は50%台後半で停滞が続いています。これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。経常利益などの企業収益の先行きに不安が残るものの、これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないかと私は期待しています。

本日公表された法人企業統計などを盛り込んで、1-3月期のGDP統計2次QEが来週6月8日に内閣府から公表される予定となっています。需要項目の中では、引用した記事の最後のパラにもある通り、季節調整済みの前期比で▲1.4%減だった設備投資が上方修正されるんではないかと私は予想しています。また、日を改めて2次QE予想として取りまとめたいと思います。

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