輸出の減少が続く貿易統計をどう考えるべきか?
本日、財務省から7月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で見て前年同月比▲14.0%減の5兆7284億円、輸入額は▲24.7%減の5兆2149億円、差引き貿易収支は+5135億円の黒字でした。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
7月の輸出14%減、6年9カ月ぶり減少幅
貿易収支は黒字
財務省が18日発表した7月の貿易統計速報によると、輸出額は5兆7284億円と前年同月に比べ14.0%減少した。落ち込み幅は2009年10月(23.2%減)以来、6年9カ月ぶりの大きさとなった。英国の欧州連合(EU)離脱決定に伴う円高の進行で、米国向けの自動車などが減少した。原油安で輸入額も大きく減り、差し引きで貿易収支は2カ月連続の黒字を確保した。
輸出額が前年同月を下回るのは10カ月連続。7月の通関ベースの為替レートは1ドル=103円14銭で、前年同月と比べ16.2%の円高だった。輸出数量は2.5%減となっており、円高が輸出額を大きく押し下げた。
地域別に見ると北米や欧州、アジアなど主要地域全てで輸出額が減少した。北米は11.8%減、アジアは13.9%減(うち中国は12.7%減)だった。品目別では特に北米向けが落ち込んだ自動車(11.5%減)や、船舶(52.9%減)の減少が目立った。
輸入額は24.7%減で、09年10月(35.5%減)以来の落ち込み幅だった。7月の原粗油の単価(通関ベース)は前年同月と比べ37.3%下落と、原油安が押し下げ要因となった。品目別では原粗油が42.6%減、液化天然ガス(LNG)が43.2%減だった。
輸入の減少額が輸出の落ち込みより大きかったことで、貿易収支は5135億円の黒字となった。財務省は「英国のEU離脱決定に伴う英国向け輸出への影響は特に表れていない」としているが、世界経済の減速傾向が続くなか、輸出が伸びにくい状況が続くとの見方が多い。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
上の貿易統計の推移のグラフ、特に下のパネルの季節調整済みの系列のグラフを見れば明らかですが、輸出も輸入も減少傾向にあって、縮小均衡となる中で輸入の減少の傾きの方が大きくて、結局、貿易収支としては黒字化している、というのが正しい見方ではないかと思います。引用した記事では、輸出の減少幅が大きいことに着目していますが、輸出額の前年同月比▲14.0%の落ち込みのうち、数量は▲2.5%にとどまっており、ほとんどが価格効果であるといえます。ただ、同じことが、さらに強調される形で輸入についても、輸入額や輸入価格については、為替の影響だけでなく国際商品市況の石油価格の下落も効いてきますので、より大きな減少の傾き、すなわち、グラフのスロープが急峻=スティープになっているわけです。その結果が貿易黒字ですから、大昔にあった「よいデフレ、悪いデフレ」ではないですが、シンクタンクや証券会社などから私が受け取っているニューズレターの中には、「よい貿易黒字」とはいえない、との論評や報道もあったりしました。
輸出のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、下のパネルはよく似たグラフなんですが、同じく原系列の輸出額の前年同月比の伸び率をアジア、北米、EUその他の4地域別の寄与度分解しています。そもそも、輸出の過半はアジア向けですから、このところの輸出の減少の寄与度も過半はアジアに起因しています。例えば、6月の輸出額の前年同月比▲7.4%のうちアジアの寄与は▲5.7%、直近の7月も▲14.0%のうちアジアが▲7.4%の寄与となっています。ただし、輸出額の大きな落ち込みの直接の原因は円高であり、すなわち、円高になっても短期的にドル・ペッグ諸国との競争圧力などから、外貨建て価格の引上げが出来ず、結局、円建ての受取りが減少している企業の価格行動が現れているのかもしれません。
最後に、初めてプロットしてみましたが、上のグラフは通関における輸入原油価格指数の推移です。季節調整値は公表されていませんし、直近の統計も6月までしか明らかではありませんが、とてもユニバリエイトな分析ながら、そろそろ輸入原油価格も底を打って上昇に転じつつあるような気がします。
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