3か月振りに赤字を記録した貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から8月の貿易統計が公表されています。季節調整されていない原系列の統計で、輸出額は前年同月比▲9.6%減の5兆3163億円、輸入額は▲17.3%減の5兆3350億円、差し引き貿易収支は▲187億円のわずかな赤字となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
8月の貿易収支、3カ月ぶり赤字 187億円
財務省が21日発表した8月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は187億円の赤字だった。貿易赤字は3カ月ぶり。QUICKがまとめた市場予想は2000億円の黒字だった。円高の影響で輸出入ともに減少が続いていることに加え、8月はお盆休みなどによる工場の稼働停止の影響から輸出額が落ち込んだ。
輸出額は前年同月比9.6%減の5兆3163億円にとどまった。減少は11カ月連続。8月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=103.24円と、円が対ドルで前年同月と比べて16.8%上昇したことが響いた。
米国向けの自動車、鉄鋼で韓国向けの鋼板製品が減った。地域別では米国が14.5%減、中国を含むアジアは9.4%減だった。
輸入額は17.3%減の5兆3350億円と20カ月連続で減少した。サウジアラビアからの原粗油、カタールからの液化天然ガス(LNG)などの減少が目立った。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
上のグラフを見ても明らかな通り、季節調整していない原系列の統計では、まだ時折貿易収支が赤字を記録するものの、トレンドに沿った季節調整済みの系列ではほぼ貿易黒字が定着したように見受けられます。もちろん、まだ、国際商品市況の石油価格安に起因した輸入額の落ち込みによる貿易黒字であり、その意味で、どこまで持続性があるかは不安なしとしませんが、中国を除く地域別・国別や財別の貿易動向を見る限り、リーマン・ショック前までいかないとしても、震災以降の貿易赤字からは脱したと考えるべきです。ただ、引用した記事にもある通り、輸出も輸入も数量ベースでは前年同月比で増加を示しているにもかかわらず、為替が円高に振れた影響で輸出額と輸入額がマイナスを記録しています。円高は企業収益に悪影響をもたらし、物価の下押し圧力となり、もちろん、貿易にも自国通貨建てで見て縮小効果をもたらします。インフレ目標とともに、金融政策当局には為替も視野に入れた政策運営が求められるのはいうまでもありません。
輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、BREXITによる公表取りやめが解除され、OECD先行指数との対比も復活しました。円高の価格効果への悪影響はまだ残るものの、所得効果の基となる海外需要は最悪期を脱しつつあるのが見て取れると思います。特に、中国については急速に回復する可能性を示しています。繰り返しになりますが、地域別・国別や財別の貿易動向を詳細に検討して、そろそろ我が国の輸出数量も増加する局面に達しつつあると私は考えています。
最後に、日銀は金融政策決定会合にて、ビミョーなレジーム・チェンジを行い、金融政策の操作目標をマネタリーベースから、長期金利の低め誘導によるイールドカーブ・コントロールへシフトしました。というか、シフトではなく、マイナス金利と同じく操作目標が追加されたということのようです。バーナンキ議長のころの米国連邦準備制度理事会(FED)もいわるゆるツイスト・オペレーションによって長めの金利を低め誘導しようと試みましたが、意図としては同じではないかという気がします。ただ、国債のストックが急速に減少するという意味で、量的緩和が長期戦に適さないので、色々と考える必要がありそうです。
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