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2016年9月24日 (土)

今週の読書も盛り沢山にペースダウンできず!

今週の読書は、月曜日にアップした話題の小説3冊を別にしても6冊でした。経済書と教養書と小説と新書です。新書はなぜか、日本会議についてでした。月曜日にアップした3冊の小説を含めると計9冊になります。シルバー・ウィークでお休みが多いとはいえ、少しこれからはペースダウンしたいと思います。

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まず、藤井聡『国民所得を80万円増やす経済政策』(晶文社) です。現在の安倍総理は民主党政権から政権交代した際に、いわゆる「3本の矢」で有名なアベノミクスを提唱しましたが、昨年9月に自民党の総裁に再選された際、「新3本の矢」として、その最初に名目GDP600兆円を打ち出しました。その名目GDP600兆円を労働分配率などを無視して、国民1人あたりの所得で引き直すと、本書のタイトルのように1人当たり80万円の増加、ということになります。そのための提案として、本書冒頭のはじめにのp.7で5項目上げられています。すなわち、消費増税の延期、所得ターゲット政策、デフレ脱却、デフレ脱却までの財政拡大、デフレ脱却後の中立的な財政運営、の5点です。そして、昨年の国際金融経済分析会合に招かれたスティグリッツ教授とクルーグマン教授の説を援用しています。ほぼ金融政策が無視されていて、実物経済における財政政策だけが重視されているのがやや不思議ですが、かなりイイ線行っていると私は思います。本書でも指摘されているように、自国通貨建ての国債発行はかなり膨らんでも、ソブリン・リスクとしては破綻の懸念は極めて低いと私は考えています。その昔から、私は財政再建には否定的な財政に関しては能天気なエコノミストだったんですが、本書の指摘はこの点だけはかなり正しいと受け止めています。我が国が財政破綻するリスクは極めて小さいのは確かです。ただ、金融市場のボラティリティが急速に高まる場合もありますから、一定の収束点は追求する必要があります。いずれにせよ、デフレを実物経済現象に偏って分析している点が気になるものの、本書はかなり正鵠を得た政策提案ではないかと私は考えています。なお、今年2016年5月28日付けの読書感想文で立命館大学の松尾匡先生の『この経済政策が民主主義を救う』を取り上げましたが、基本的な主張は同じです。この経済政策を左派が実行して憲法改正を阻止しなければならない、というのが松尾先生の主張でした。

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次に、譚璐美『帝都東京を中国革命で歩く』(白水社) です。今年2016年5月8日付けの読書感想文で岩波新書の『京都の歴史を歩く』という歴史書を取り上げましたが、よく似た趣向だという気がします。でも、本書は地図こそ豊富に紹介していて、どうも著者自身はホントに歩いたような気配がうかがえるんですが、「歩く」ことは重視されていないようで、そういった本文中の記述はほとんどありません。ということで、明治維新の成功と日清・日露戦争の勝利という目をみはるような日本の躍進の一方で、1905年には中国で科挙制度が廃止され、こういった事情も手伝って、明治・大正の東京では中国から多くの亡命者や留学生を受け入れていたようです。特に、近代的な軍制を重視する中国ながら、欧米では軍学校、すなわち、陸軍士官学校や海兵学校に中国人を受け入れる日本が海外留学先として選ばれたようですが、本書では早稲田大学をはじめとする高等教育機関に受け入れた留学生や亡命者だけを取り上げています。解像度はかなり低くて、特に古い地図は同じようなのばっかりですが、かなり多くのカラー写真が取り込まれていますし、章ごとに関連する中国人留学生や亡命者の住まいの地図が示され、それなりにビジュアルに仕上がっています。でも、例えば、p.58の蒋介石の下宿先周辺地図など、どうも南北の上下が反対ではないかと疑わしい地図もあったりします。肩も凝らずに、気軽に読める教養書かもしれません。

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次に、エドワード O. ウィルソン『ヒトはどこまで進化するのか』(亜紀書房) です。著者は米国の生物学者であり、ドーキンス教授やグールド教授などとともに、現在正靴学界でももっとも影響力の大きい大先生ではないかと思います。生物学の世界は私の大きく専門外ですので、実はよく知らないんですが、この3人くらいは私もご尊名を存じ上げています。物理学会のホーキング教授やかつてのカール・セーガン教授などと同じランク、と私は考えています。本書は The Meaning of Human Existence の原題で2014年に出版されており、本書には長谷川眞理子先生の解説が付け加えられています。なお、著者のウィルソン教授は社会生物学の創始者とされており、本所でも狭い意味の生物学にとどまらず、人文科学も視野に入れた議論が展開されています。例えば、最近の心理学などの知見からは、人類が進化したのは、社会的知能を身体的能力とともに進化させ、集団の生存率を高めたためだといわれており、要するに、人間は人間に魅力を感じるからこそ、物語やゴシップやスポーツを好むということになります。ですから、同族意識があるからこそ仲間内で協力もするが、その同族意識は集団外への攻撃、つまり現在も頻発するテロや紛争の源泉ともなる可能性があるというわけです。それを難しい生物学の用語で表現すると、包括的適応度の限界から、データ本位の集団的遺伝が取って代わるべきである、ということになります。補遺に収録されているPNAS論文はそれを明らかにしており、原著論文へのリンクは以下の通りです。

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次に、門井慶喜『ゆけ、おりょう』(文藝春秋) です。作者は前作の『家康、江戸を建てる』が第155回直木賞候補にもなった新進気鋭の時代小説作家です。この作品はタイトルから判る通り、おりょうを主人公にしていて、そのおりょうとは坂本龍馬の妻なわけです。もちろん、上の本書の表紙画像から連想される通り、有名な日本で初めてのハネムーンとか、京での寺田屋事件なども詳しく取り上げられています。ただ、おりょうが主人公ですから、龍馬との出会いの前から、軽くおりょうの人生が振り返られており、まるで、終盤に差しかかったNHK朝ドラ「とと姉ちゃん」のように、気丈に家族や幼い弟妹を守る姿が描かれています。おりょうはいうまでもなく京女なんですが、その昔の男についていくタイプの女性としては描かれていません。たぶん、東山彰良だと思うんですが、何かの小説で「中国の女性は気が強い」といった旨の評価を見た記憶があるんですが、その東山流の「中国女性」のような気の強さをおりょうは見せています。口が達者で、ものすごく酒に強く、したたかに生きる幕末の女性がここにいます。龍馬に対するおりょうの評価は厳しく、最初のころは頼りないと思いつつも結婚した龍馬が、実は、日本を動かす英雄と成長していく中で戸惑いながらも、自分なりのやり方で龍馬を愛し、また、夫を支える姿は共感を呼ぶんではないでしょうか。最後に、おりょうと龍馬が結婚していた期間はそう長くはないわけで、龍馬が死んだ後の落魄したおりょうの後半人生についても著者は温かい目で描き出しています。でも、残念ながら、デビュー作を超えるものではありません。

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最後に、菅野完『日本会議の研究』(扶桑社新書) と山崎雅弘『日本会議』(集英社新書) です。急に思い立ったわけでもないんですが、日本会議に関する新書を2冊ほど読みました。日本会議とは現内閣を支える勢力のひとつであり、憲法改正や靖国神社問題などでウルトラ右派の活動を続けている団体です。私は明確に自分を左派だと認識していますので、こういった団体には馴染みがなく、それなりに新鮮な情報が多かった気がします。『日本会議の研究』はほぼ人脈情報に限定して情報収集している雰囲気なんですが、何といっても扶桑社からの出版というのに驚きます。扶桑社とはメディアの中でももっとも右派的なフジサンケイ・グループの出版社です。集英社の方は人脈や組織を始めとして、広範な情報を網羅していますが、全体的にやや薄い気がしないでもありません。ということで、前にもこのブログで私の考えを明らかにしたことがあるような気がしますが、保守主義とは歴史の進歩に棹さす勢力であり、フランス革命の前後では民主主義を否定して王政を擁護し、社会主義・共産主義に進もうとするマルクス主義を否定します。ですから、保守主義の反対は進歩主義であり、もっとイってるのが急進主義です。逆に、歴史の進歩を否定するだけでなく、逆行させようとするのが反動ないし懐古主義・復古主義です。日本会議はこの最後のカテゴリーかと受け止めています。もう少し踏み込んで、人脈だけでなく、金脈、というか、資金源なども明らかにして欲しいところです。

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