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2016年9月 1日 (木)

法人企業統計に見る企業活動は停滞を示すも賃上げの余地あり!

本日、財務省から4-6月期の法人企業統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で、3期連続の減収減益を記録し、売上げは前年同期比▲3.5%減の307兆3674億円、経常利益は▲10.0%減の18兆2639億円でした。ただ、設備投資は製造業が牽引して前年同期比で+3.1%増の9兆3145億円と増加を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、設備投資3.1%増 4-6月期、経常益減少も過去2番目水準
財務省が1日発表した4-6月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比3.1%増の9兆3145億円だった。伸び率は1-3月期(4.2%増)から鈍化したが、13四半期連続で増えた。非製造業は13四半期ぶりに減ったが、製造業が2ケタ伸び補った。ただ今回は過去2番目の高水準だったが、前年同期は過去最高益で経常利益は3四半期連続の減益となった。原油価格下落や円高進行も響いた。
産業別の設備投資動向は製造業が11.1%増と、8四半期連続で拡大した。輸送用機械で新型車製造などでの設備投資が増えた。化学ではスマートフォン(スマホ)や自動車向けの部材の生産能力を増強する投資が目立った。非製造業はサービス業の娯楽業や純粋持ち株会社などで前年の大型投資の反動が出たほか、情報通信機械で基地局の通信設備投資が減ったことなどが響き1.3%減だった。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は、季節調整済みの前期比で0.5%減にとどまった。マイナスは3四半期連続。内訳は製造業が2.0%増で、非製造業は1.9%減だった。
経常利益は前年同期比10.0%減の18兆2639億円だった。製造業が22.4%減だった。円高進行が響いたほか、輸送用機械で熊本地震や燃費不正問題による生産停止が影響した。情報通信機械ではスマホ部材の生産調整も重荷になった。非製造業は3.1%減った。卸売業で原油価格の下落により販売価格の低下した。小売業では婦人衣料の売れ行きが鈍かったほか、インバウンド消費の客単価が減った。
全産業の売上高は、前年同期比3.5%減の307兆3674億円にとどまった。スマホの生産調整により電子部品の売り上げが減った。原油価格下落で石油関連製品の販売価格低下が響いた。建設業では前年同期の大型案件の反動が出た。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や収益動向を集計。今回の4-6月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフにプロットしたように、季節調整済みの系列で見た企業活動については、昨年終わりの2015年10-12月期ころから円高の進展に伴って企業活動に陰りが見え始めた、とこのブログで指摘し、今年に入って2016年1-3月期の統計を見ても同様の停滞が伺えたんですが、基本的に、企業活動の停滞が続いていると私は受け止めています。売上高も経常利益も2014年10-12月をピークに、売上高は6四半期連続で減少を続ける一方で、経常利益は2015年4-6月期に続いて最新データで2016年4-6月期にも増加を示しています。少し前まで「増収増益」で歴史的に過去最高の売上げや経常利益を記録していた企業も少なくなかったんですが、現在では売上げが伸びないながらも収益は確保する企業行動に移行しつつあるように見受けられます。そのあおりを受けているのが設備投資と人件費だったりするので、決して拡大均衡を目指す方向としては好ましくないような気もしますし、合成の誤謬ではないかとさえ思ってしまったりするんですが、それにしても、経常収益が増益に戻って、「過去最高」を連発したリーマン・ショック前をも超える利益水準を達成している点は、何らかの企業の社会貢献を考える上ではそれなりの重要性を持つと考えるべきです。要するに、設備投資を縮小させつつ、賃上げにも消極的で、ひたすら内部留保として溜め込んでいるだけでいいのかどうか、ということです。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。いずれも、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しまし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞が続いており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。どちらも、最近時点でやや反転の兆しを見せていますが、為替相場との関係で経常利益などの企業収益の先行きに不安が残るものの、これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないかと私は期待しています。

本日公表された法人企業統計などを盛り込んで、4-6月期のGDP統計2次QEが来週9月8日に内閣府から公表される予定となっています。設備投資が下方修正されるんではないかと私は予想しています。また、日を改めて2次QE予想として取りまとめたいと思います。

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