« 纐纈歩美「アート」を聞く! | トップページ | 帝国データバンク「最低賃金改定に関する企業の意識調査」の結果やいかに? »

2016年10月24日 (月)

黒字に戻った貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。ヘッドラインとなる輸出額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲6.9%減の5兆9684億円、輸入額は▲16.3%減の5兆4700億円、差引き貿易収支は4983億円の黒字となりました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の貿易収支、4983億円の黒字 上半期黒字額は「震災前」に
財務省が24日発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4983億円の黒字だった。貿易黒字は2カ月ぶりで、QUICKがまとめた市場予想の3729億円を上回った。輸出も落ち込んだが、円高の影響でドル建てで取引される原油などの輸入額が大幅に減少した。4-9月の貿易黒字は2兆4579億円と、期間中に東日本大震災が発生した10年10月-11年3月期の2兆5億円を上回り、震災前の10年4-8月期以来の水準に回復した。
9月の輸入額は5兆4700億円と、前年同月比16.3%落ち込んだ。減少は21カ月連続。9月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=101円85銭と、円は対ドルで前年同月から15.8%上昇。円高により円換算した石油製品の価格に下押し圧力が掛かった。数量ベースでも低迷し、黒字額が膨らむ要因となった。
輸出額は6.9%減の5兆9684億円と、12カ月連続で前年実績を下回った。米国向けが8.7%減、中国を含むアジア向けは8.4%落ち込んだ。
4-9月期の輸入額は31兆5629億円と、前年同期比19.1%減った。減少率は09年4-9月期以来の大きさ。輸出額は9.9%減の34兆209億円で、減少率は同じく09年度上半期以来の大きさだった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

photo

まず、引用した記事にも示されている通り、統計に見られる貿易黒字額は震災前の水準に戻りましたが、上のグラフにも示されているように、輸出も輸入もともに右肩下がりで減少していった中で、特に、国際商品市況における石油価格の下落の影響が大きく、我が国からの輸出の減少よりも輸入の減り方の方が大きいため、結果として差引き貿易収支が黒字になったわけですから、GDP成長率には経常収支が利くとはいえ、決して、経済的に望ましい拡大均衡の姿で震災前水準の貿易黒字に戻ったわけではないと考えるべきです。我が国に貿易黒字をもたらしている石油価格安は決してサステイナブルではありませんし、現に価格下落は一巡したと見るエコノミストも少なくありませんから、現在の貿易黒字水準を維持することがどこまで可能かどうかは輸出にかかっているわけです。でも、どうでもいいことかもしれませんが、日経センターのESPフォーキャストでは今年の5月を最後に、貿易収支が数年内に黒字基調に転換するかどうか、の質問をヤメにしてしまいました。

photo

輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。海外需要は最悪期を脱しつつあるのが見て取れると思います。特に、中国については急速に回復する可能性を示しています。繰り返しになりますが、地域別・国別や財別の貿易動向を詳細に検討して、そろそろ我が国の輸出数量も増加する局面に達しつつあると私は考えています。

私は経常収支た貿易収支といった対外収支については、基本的に弾力性ペシミストです。すなわち、為替は大きな影響力ない、との見方なんですが、ただし、2点だけ指摘しておくと、第1に為替の貿易への効果は非対称である可能性があります。すなわち、円高のダメージは大きいが、円安の恩恵は小さい可能性があります。しかしながら、第2に為替は財貿易には弾力性小さい可能性がありますが、それ以外の経常収支項目、特に、投資収益収支と旅行収支を通じて我が国経済への影響力がある可能性も否定できません。現在の1ドル100円くらいの水準の円高は、中国をはじめとするアジア諸国の海外渡航の制度要因とも相まって、「爆買い」に対するマイナス要因になっているのかもしれません。

|

« 纐纈歩美「アート」を聞く! | トップページ | 帝国データバンク「最低賃金改定に関する企業の意識調査」の結果やいかに? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 黒字に戻った貿易統計をどう見るか?:

« 纐纈歩美「アート」を聞く! | トップページ | 帝国データバンク「最低賃金改定に関する企業の意識調査」の結果やいかに? »