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2016年11月30日 (水)

鉱工業生産指数(IIP)は底入れしていよいよ増産局面に入ったか?

本日、経済産業省から10月の鉱工業生産指数(IIP)が公表されています。鉱工業生産は季節調整済みの系列で前月比+0.1%の増産と、3か月連続の前月比プラスを記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、10月は0.1%上昇 電子部品好調で3カ月連続上昇
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比0.1%上昇の98.5となり、3カ月連続で上昇した。伸び率はQUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(0.1%)と同じだった。スマートフォン(スマホ)向けにメモリや液晶向けの電子部品が好調だったうえ、公共事業向けに鉄骨など建設関係の金属製品も伸びた。経産省は生産の基調判断を3カ月連続で「緩やかな持ち直しの動き」に据え置いた。
10月の生産指数は15業種のうち6業種が前月から上昇し、9業種が低下した。電子部品・デバイス工業が4.6%上昇。金属製品工業も3.2%上昇した。一方ではん用・生産用・業務用機械工業が1.6%、電気機械工業も2.9%低下した。
出荷指数は前月比2.2%上昇の98.5だった。在庫指数は2.1%低下の108.6、在庫率指数は0.9%低下の113.9だった。
11月の製造工業生産予測指数は前月比4.5%の上昇となった。企業の設備投資は堅調ではん用機械や電気機械工業の生産が伸びる見込み。予測指数は計画値での集計のため上振れしやすい。経産省では実際の上昇率は1.7%程度になると予想している。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも+0.1%の増産でしたから、とってもピッタリとジャストミートしたと受け止めています。生産も出荷も底を打って、ようやく増産局面に達した気がします。少なくとも、10-12月期はかなり高い確率で増産になるものと私は予想しています。上のグラフから見て取れるように、資本財と耐久消費財の出荷も上向きを示しています。産業別に少し詳しく見ると、我が国のリーディング産業である輸送機械と電機がともに底入れして生産・出荷ともに上向きに転じていますし、先行きについても、引用した記事にもある通り、製造工業生産予測調査では+4.5%の増産の後、12月は▲0.6%の減産との結果ですが、これは大きくディスカウントして考える必要あるものの、先行きもそれなりに堅調ではなかろうかと受け止めています。グラフはお示ししませんが、ここ数か月で在庫率がかなり低下して在庫調整も進んでいます。特に、典型的な在庫変動を示す電子部品・デバイス工業では、在庫率が7月の159.2から8月126.8、9月116.0、そして、10月は113.1と、着実に在庫調整が進んでいる事実が統計でも裏づけられています。
他方、何といっても、生産の先行きリスクはトランプ次期米国大統領の経済政策が上げられます。現時点では、5500億ドルのインフラ投資などを受けて為替市場で米ドルのほぼ独歩高が進んでおり、円安という面では我が国の生産には追い風ですが、同時に、米国大統領就任日にTPPを即時脱退すると明言しており、「米国の雇用を守る」という米国大統領選挙戦での公約に即した貿易制限的な政策が志向される可能性が高く、私自身は具体的な情報を持ち合わせていないものの、我が国の輸出に何らかのマイナスの影響が出るものと覚悟する必要がありそうです。

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2016年11月29日 (火)

OECD「経済見通し」は世界の経済成長率を上方修正!

昨日2016年11月28日、経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し」 OECD Economic Outlook, November 2016 が公表されています。Chapter 1 の General assessment of the macroeconomic situation だけがpdfでアップされています。ヘッドラインとなる世界の成長率見通しは9月時点の予測に比べ+0.1%ポイント引き上げて3.3%に上方修正され、新たに予測した2018年は+3.6%と見込んだ一方で、今年2016年は2.9%で据え置いています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

世界の成長率を上方修正 OECD予測、17年3.3%に
経済協力開発機構(OECD)は28日、2017年の世界経済の見通しを上方修正した。世界経済は「低成長のわな」に陥っているが、各国の財政政策で成長率が高まると分析した。実質国内総生産(GDP)の伸び率は、9月時点の予測に比べ0.1ポイント引き上げて3.3%、新たな予測を出した18年は3.6%とした。16年は2.9%で据え置いた。
米国は17年に2.3%、18年に3.0%と成長が加速する姿を描く。トランプ次期大統領が公約した5500億ドルのインフラ投資を予測に織り込んだ。
消費や投資が活発になり、世界経済にも波及するとみている。米国の財政拡大による世界経済へ押し上げは、17年が0.1ポイント、18年は0.3ポイントになると試算した。
16年に6.7%成長を見込む中国は、17年が6.4%、18年が6.1%と減速する。過剰生産の解消に取り組むことが影響する。財政政策が下支えするため、大幅な減速は避けられるとみている。
日本は事業規模28兆円の経済対策の効果が出て、17年の成長率を1.0%と0.3ポイント引き上げた。18年は財政健全化の取り組みが優先するため、0.8%成長に減速する。
OECDはG20諸国で実施している貿易制限策が増えていることに警鐘を鳴らした。保護主義的な政策は成長の阻害要因になるとした。

やや長くなったものの、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、プレス公表資料から主要国の成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。

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最新の11月時点での見通しと前回の9月時点での見通しが並べられていますが、成長率の水準は低いものの、もっとも大きな上方修正があったのは我が日本のようです。今年2016年は+0.3%ポイント、来年2017年は+0.2%ポイント、それぞれ上方修正されています。我が国の成長率そのものは2016年+0.8%、2017年+1.0%、2018年+0.8%ですから、上のテーブルに示された先進国の中でもほぼ最低水準に近いんですが、まずまず安定的に+0.5%から+1%くらいと見られる潜在成長率近傍の成長を実現するものと見込まれています。なお、現時点で消費税率が10%に引き上げられるのは2019年10月と予定されていますので、この見通し期間中の消費税率引き上げは織り込まれていません。逆に、トランプ次期米国大統領がすでに表明している5500億ドルのインフラ整備などは前提条件として盛り込まれているようです。また、引用した記事にもある通り、日本の事業規模28兆円の経済対策の効果も入っています。

さらに、プレス公表資料では、Key Issues として以下の4点を指摘しています。

  • The global economy remains in a low-growth trap, but more active use of fiscal policy will raise growth modestly
  • Policy uncertainties and financial risks are high
  • Fiscal, structural, trade policies need to be interwoven for gains
  • Collective action enables greater gains at lower political cost

ということで、特に財政政策と構造政策と貿易政策を重視し、トランプ次期米国大統領の政策も見据えつつ、貿易制限的な措置に関しては特に警戒感をあらわにしている一方で、財政政策についても過度の財政再建策の適用につき好ましくない場合があるとの態度を明らかにしています。国別財政政策スタンスにより、2016-17年の財政政策を評価している表 Most countries are moving toward the right fiscal stance, but many could do more をプレス公表資料から引用すると下の通りです。表を見れば明らかな通り、オレンジ色の国々は2016年度から2017年度にかけて財政政策のスタンスを拡張的な方向で変更したわけです。日本については2016-17年度と2年連続して中立的なスタンスを維持していると評価されています。

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また、本日は総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、経済産業省の商業販売統計が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計ですが、失業率は前月と同じ3.0%を、また、有効求人倍率はさらに上昇して1.40倍を記録した一方で、小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で見た前年同月比で▲0.1%減と、引き続き冴えない結果に終わりました。いつものグラフは下の通りです。上から順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数、ここまで季節調整済みの系列で、以下、商業販売統計のうちの小売業販売額の季節調整していない原系列の前年同月比伸び率と季節調整指数です。

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最後に、我が国の商業販売統計とも関連して、先週11月25日は米国などで感謝祭後の最初の金曜日、すなわち、いわゆる Black Friday だったんですが、CNNニュースなどでキャリーされている全米小売業協会(NRF)のサイトでリポートされているデータでは、今年2016年の客足は154百万人と昨年2015年の151百万人より増加したものの、1人当たり支出は$289.19と昨年の$299.60からわずかに減少しています。客足と単価をかければ支出総額が出るハズなんですが、私が勝手に計算すると前年比で▲1.6%と出ます。ただし、いわゆるミレニアル世代を中心に、昨日は、いわゆる cyber Monday だったところ、in-storeよりもオンラインでのショッピングが増加している事実も同時に報告されています。

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2016年11月28日 (月)

クレディ・スイスの The Global Wealth Report 2016 に見る世界の資産格差やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週の火曜日11月22日にクレディ・スイス証券から世界の富裕層の資産保有に関するリポート The Global Wealth Report 2016 がプレスリリースされています。薄給の公務員からは縁遠い世界なんでしょうが、世界で格差や不平等に関する関心が高まっているところ、クレディ・スイス証券のサイトから図表を引用して簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上の地図はクレディ・スイス証券のサイトから World Wealth Levels, 2016 を引用しています。見れば判る通り、資産により色分けがなされています。凡例にある単位がハッキリしないんですが、他の図表と照らし合わせると、成人(adult)1人当たりの資産額ではないかと思います。ストックの資産額ながら、大雑把に考えて所得も含めて富裕国の方が色が濃い、くらいの印象ではないかと思います。ですから、当然ながら、北米・欧州・日本などが濃い色に分類されています。逆に、サブサハラのアフリカなどの色が薄くなっています。常識的な結果ではないかという気もします。

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次に、図表の引用はしませんが、2015年から2016年にかけての世界の資産は+1.4%増加し、米ドル単位で3.5兆ドル増えて256兆ドルに達しています。そして、上のグラフはクレディ・スイス証券のサイトから資産格差の観点を含めて The Global Wealth Pyramid を引用しています。成人1人当たりの資産額について、1万ドル、10万ドル、100万ドルで区切ってその人口構成比と資産総額を示しています。一番上の階層、すなわち、成人1人当たり100万ドル以上の富裕層は人口33百万人、世界人口に占める構成比はわずかに0.7%にしか過ぎませんが、世界の総資産の半分近い45.6%、116.6百万ドルを保有しています。逆に、もっとも資産の少ない階層、成人1人当たり1000ドル未満の層は人口比では3,546百万人の73.2%を占めるにもかかわらず、世界総資産のわずかに2.4%、6.1百万ドルを保有しているに過ぎません。たぶん、ピラミッドの面積は人口構成比を表しているんでしょうが、横に逆ピラミッドとして総資産額を示せば、その対比が明らかになりそうな気もします。いずれにせよ、所得もそうなんでしょうが、特に、所得から累積された資産の格差の大きさには驚くべきものがあります。

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最後に、上のグラフはクレディ・スイス証券のサイトから国別で Wealth per Adult among Major Economies in Mid-2016 (in thousand USD) を引用しています。我が国は現れないんですが、最初の地図で成人1人当たり1万ドル以上のランクに入っていましたので、世界平均の2倍くらいなんでしょうか。もっとなんでしょうか。詳細は不明です。日本のように抜けている国も少なくないわけで、スイスの成人1人当たり資産額が世界で一番で米国が2番目ということでもないのかもしれませんが、それなりに理解しやすいグラフだという気もします。

最後の最後に、今どきのことですから、pdfの全文リポートもアップされているんですが、ダウンロードしようとするとセキュリティの警告が出てダメでした。pdfファイルをダウンロードすると個人情報の収集が始まるようなカンジでした。私は外資系証券会社からの勧誘はいまだかつて受けたこともなく、一度は経験してみたいと思わないでもないんですが、ヤメにしておきました。ご参考まで。

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2016年11月27日 (日)

上の倅の大学祭の写真

この週末は上の倅の通う大学の大学祭でした。私はさすがに出かけることは手控えて、倅本人に写真を頼んでおきました。以下の通りです。

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Sounds of BLUE GIANT を聞く!

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『ビッグコミック』にて絶賛連載中の石塚真一によるジャズを題材としたマンガ「BLUE GIANT」にまつわる名曲を集めたオムニバスのアルバム「Sounds of BLUE GIANT」を聞きました。昨年2015年7月のリリースです。ついでながら、2013年にはコミックと同名の同じようなコンピレーション・アルバムもリリースされています。また、コミックの方は今年2016年9月か10月から主人公の宮川大の海外進出に伴って、「BLUE GIANT SUPREME」として継続しています。なお、海外進出先はドイツでミュンヘンに降り立った、らしいです。また、すでに発売されている2枚のCDを単純に組み合わせただけのCD2枚組アルバムも発売されているようです。まず、アルバムに収録されている曲の構成は以下の通りです。

  1. Olive Refractions/Johnny Griffin
  2. I'm a Fool to Want You/Dexter Gordon
  3. Moment's Notice/John Coltrane
  4. A Night in Tunisia/Sonny Rollins
  5. Moanin'/The Jazz Messengers
  6. Well, You Needn't/Thelonious Monk
  7. Cherokee/Clifford Brown & Max Roach
  8. Countdown/John Coltrane
  9. Time Was/John Coltrane
  10. Maiden Voyage/Herbie Hancock

ジャケットの画像から明らかな通り、コミック主人公の宮川大はテナー・サックス奏者ですから、当然、テナー・サックスの名曲が収録されています。4曲目まではリーダーがテナー奏者ですのでそのままなんですが、ライナー・ノートにしたがえば、5曲目のメッセンジャーズの名曲のテナーはベニー・ゴルソンですし、6曲目はモンクのオールスターバンドでテナーはコルトレーンとコールマン・ホーキンスだそうです。7曲目のクリフォード・ブラウンとマックス・ローチのクインテットの当時のテナーはハロルド・ランド、最後のハービー・ハンコックのクインテットのテナーはウェイン・ショーターです。どうでもいいことながら、最初のジョニー・グリフィンの曲はアルバム「リトル・ジャイアント」に収録されており、「ジャイアント」つながりが意識されているのかどうか、面白いところかもしれません。小柄だったグリフィンに比べて、2曲目のデクスター・ゴードンはとても大柄だったといわれています。
私はマンガの方は読んでいないので何ともいえず、どうしても、コルトレーンが多くなってしまうのは判る気もしますが、モダン・ジャズ全盛期のテナー奏者として、ハンク・モブレーやボビー・ジャスパーなんかも収録して欲しかった気がしないでもありません。もっとも、2013年の1作目のオムニバス・アルバムを聞いていないので何ともいえません。それから、このアルバムに収録された10曲のうち4曲までがモノラル録音です。大雑把に1950年代半ばにはステレオに移行しているハズですので、60年以上前の曲も多く収録されていることになります。ですから、決して音質はハイレゾではあり得ません。その点も注意が必要かもしれません。もっとも、私の好みのモダン・ジャズです。それは間違いありません。

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2016年11月26日 (土)

今週の読書も経済書をはじめ10冊!

今週も10冊を読み切ってしまいました。新書が3冊含まれているのが多読の原因ではないかと想像しています。来週こそペースダウンしたいと思います。

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まず、ベンジャミン・パウエル[編]『移民の経済学』(東洋経済) です。編者はテキサス工科大学の経済学教授であり、移民に関する研究の第1人者です。英語の原題は The Economics of Immigration ですので、邦訳のタイトルはそのままです。基本は、チャプターごとに専門の著者が執筆している学術書です。しかし、必ずしも経済学的な観点からの分析ばかりでもなく、加えて、なぜか、移民に対する賛否も分かれていて、必ずしも移民に賛成とか反対とかの統一性はありません。国際労働移動の経済効果から始まって、財政への影響、市民的・文化的な同化政策の評価、米国を念頭に置いた移民政策の改革に関する議論、国境開放=オープン・ボーダーの議論などが収録されています。最終章で編者自身がいくつかの議論を取りまとめていますが、米国のボルハス教授や英国のコリア教授などの慎重論、カード教授やハンソン教授などの積極論が紹介されています。私自身の見方は慎重論の中でも慎重であり、第7章の意見に近く、第6章の移民政策への市場原理主義的な政策の導入には真っ向から反対です。そもそも、エコノミストの間には移民に関する極めて大雑把なコンセンサスがあるものと私は受け止めており、移民の受け入れ国の経済効果はプラスで、移民の供給国の経済効果はもっとプラスです。でも、財政効果は年金や医療などの社会保障を含めてほぼネグリジブルであり、問題は経済以外の移民のあり方であろう、というものです。そして、私は移民の経済効果がプラスであることを認めつつも、文化的あるいは社会的な観点から移民には反対に近い慎重な立場を取っています。そもそも、経済に限らない移民の全般的な効果、というか、評価関数についてはいろんな議論があり、受け入れ国だけで考えるか、供給国も含めた世界的な評価を視野に入れるべきか、もちろん、経済だけでなく文化や社会その他の観点をどう入れるか、などで議論が絶えません。現状ではほぼ米国への移民流入の経済効果に限られた議論が進んでおり、例えば、トランプ次期米国大統領のような議論です。でも、少なくとも私が日本について考える限り、かつてのマルサス的な過剰人口論は過去のお話となり、現在では日本は移民を受け入れる側でしょうから、中国という人口超大国しかも華僑などの人口流出(ディアスポラ)超大国が隣国に控える限り、移民受け入れはヤメか制限的にしておいた方が賢明であると考えます。移民が過疎地域で農林水産業に従事してくれる保証はまったくなく、都市部でスラムを形成する可能性もあり、本書の第7章で議論しているようにギャング化する可能性すら排除できません。定量的ではなく直感的な私の理解ですが、企業が経済的なチープレーバーの恩恵を受ける以上のマイナスが広く市民社会一般にありそうな気がします。

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次に、ロベール・ボワイエ『作られた不平等』(藤原書店) です。著者はフランス独特のレギュラシオン学派の重鎮です。翻訳者による解説を読んでもイマイチ理解がはかどらなかたんですが、どうも、この邦訳書に対応する形で原書が出版されたものではないようです。すなわち、5章構成のうち、4章までが既出の論文のコンピレーションであり、最後の第5章が新稿となっています。翻訳者の方で編集して1冊の本にまとめ上げたというもののようです。ですから、必ずしも書籍としての統一性はないんですが、第1章で米国における経営者報酬の高騰を取り上げ、第2章は我が国でも話題をさらったピケティ教授の『21世紀の資本』の書評、第3章では中国、米欧や中南米における不平等レジームの世界的多様性と相互依存性について論じ、第4章では欧州福祉国家の典型としてデンマーク型フレキシキュリティからの教訓を汲み取り、最後の5章では日本型不平等レジームの変容と独自性にスポットを当てています。第5章の体系的かつ歴史的な我が国の不平等については、戦前期の不平等について主として土地所有という資産の不平等に基づいた所得というフローの不平等が生み出されたと正確に分析しています。終戦直後はこの土地資産については農地解放という形で占領軍が強権的に不平等を解消し、かつ、インフレという形で実物資産意外の金融資産を無価値にして金利生活者の安楽死を招来したわけです。そして、レギュラシオン学派独特の用語ながら、蓄積レジームというのがあり、人口に膾炙しているのはフォーディズムなる製造業をテコとした資本蓄積のレジームなんですが、21世紀に入って米国では金融資本による蓄積レジームが開始されたと指摘します。そして、経営者のメチャクチャな高収入やそれに基づく不平等はフォーディズムの蓄積レジームとは明らかに異なると指摘されています。というものの、私はよく理解していなかったりします。他方で、中南米では1990年代以降に明らかに不平等が緩和されてきており、また、日本の不平等はフラクタルだそうです。要するに、不平等レジームは国ごとに様相が異なっており、一様ではないということだそうです。ある意味では当然です。でも、一様に経済学的な解釈を下そうと試みているエコノミストも少くなさそうな気もします。

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次に、スティーヴン・ウィット『誰が音楽をタダにした?』(早川書房) です。著者はジャーナリストで、本書の英語の原題は How Music Got Free ですから、ほぼそのまま邦訳された、というカンジです。今年のノーベル文学賞は、意表をついてボブ・ディランに授賞されたんですが、その彼の本来の活躍の場である音楽業界の内幕を取材したルポルタージュです。訳者あとがきにもある通り、主要な登場人物のカテゴリーは主として3つあり、音楽などのファイル形式のデファクト・スタンダードであるmp3を作ったドイツ人のオタク技術者、そして、音楽業界で大企業を渡り歩きいくつかの大音楽企業のCEOを歴任した経営者、最後に、インターネット上の海賊版のウラ世界をほぼ支配した違法な音楽リーク・グループ、おまけで、最初のカテゴリーに属するのかもしれませんが、ビットトレントの開発者にも軽く触れられています。最後の音楽リークの海賊界で本書に取り上げられている中心人物は、まあ、米国の田舎の工場で発売前のCDを盗んでいた労働者だったりします。というのは、組織の頂点に立っていたと思われる人物は著作権侵害にかかる裁判で無罪になっているからです。いや、とても面白いストーリーです。よく、「事実は小説よりも奇なり」といわれますが、まったくその通りで、音楽産業を牛耳る大企業や著作権団体がいろいろと考えを進めて来た中で、海賊版製作者やアップローダーたちはこういった脱法行為を繰り返して来たのか、ということが明らかにされています。すでに有罪判決を受けて解散したナップスターのあたりから、音楽にとどまらず動画、というか、映画も含めて、大量にネット上に著作権侵害と思しきファイルがアップされているのは事実で、それを支える形でmp3のファイル形式が開発されたり、あるいは、P2Pの技術としてビットトレントが実用化されたりしたのは、もちろん、その通りなんですが、何らかのソースがあるわけでしょうから、そのソースを裁判記録などから明らかにしたジャーナリストの慧眼は素晴らしいと思います。何度か、米国連邦準備制度理事会(FED)の議長を務めたグリースパンが登場し、コンサルタントのころに音楽の不正コピーに対する価格戦略を考えた挙句に、結論として適正価格は産出されず違法コピーを取り締まるしかない、と主張し、資本主義的な成功の裏には政府の積極的な市場介入が必要だと認めている、と引用されていたりします。最後の最後に、本書を原作として、そのうちに音楽業界と違法コピーのイタチごっこの裏幕が映画化されるような気がしてなりません。

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次に、クリスチャン・ラダー『ビッグデータの残酷な現実』(ダイヤモンド社) です。著者は米国ハーバード大学の数学科を卒業後、4人の仲間といっしょに出会いサイトを創業した起業家です。そして10年後、世界最大級の出会いサイトとなったOkキューピッドにおいて明らかにされている膨大なデータの分析に取り組み本書に取りまとめられています。従って、本書は男女関係のビッグデータを基に、普段は目にすることができない人間の本質をあぶり出しています。最初はいわゆるウッダーソンの法則から始まります。すなわち、女性の恋愛対象は30歳くらいを境にして、若いころはやや年上を、30歳くらいを超えてからはやや年下も含めて、自分自身と似通った年齢層の男性を恋愛対象としているのに対して、男性は何歳になっても20歳くらいか、それを少し超えたくらいの年齢の女性に魅力を感じます。よく判ります。数年前に深田恭子が30歳になったとの報道に接して、私はとても大きなショックを覚えた記憶があります。そして、年齢とともに米国ですから人種の関する偏見もほの見えてきます。すなわち、黒人、特に黒人女性は人気がないと本書では分析しています。根深い潜在意識を感じさせます。ただ、本書で分析されているLGBTに関しては、現在でもかなり流動的な分野であって、統計的に何らかの有意な結果が出て分析したとしても、現時点で確定的な結論を引き出すのは困難ではないかと私は受け止めています。当然ながら、出会いサイトだけでなく、雇用などにおいても見た目がそれなりに重要であることは暗黙の了解とすら考えるべきです。ただ、出会い系のデータの最大の弱点は、本書で著者も認めている通り、出会ってからリアルで交わされる会話やインタラクティブなコミュニケーションを追跡できない点です。そここそ知りたい、とは思いませんか?

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次に、藤田庄市『修行と信仰』(岩波現代全書) です。著者は国際宗教研究所の研究員にして、フォトジャーナリストとしても著名であり、本書ではタイトルの前半に重きがあって、神道、仏教各派、山岳修験道、江戸末期の天理教と同じころに成立した禊教、そして、日本では少数派のキリスト教カトリックの修行を取り上げています。神道の修行といえば、禊で滝に打たれたりするのを連想しがちですが、いわゆる荒行や苦行の修行は神道にはないようです。仏教では座禅と考案の禅宗と、二月堂のお水取りの東大寺、さらに、即身成仏の真言密教などが取り上げられています。我が家の進行する浄土真宗は他力本願で修行はありませんが、なぜか、浄土宗の念仏三昧は取り上げられていたりします。やっぱり、浄土宗と浄土真宗はビミョーに違うんだろうと思います。私自身が宗教的な修行に否定的なのは、そういった修行のない他力本願の浄土真宗の信者だから、というのもありますが、奈良時代や平安時代の国家護持仏教で、国家の平安のための修行ならともかく、利己的な目的で修行するのは少し違うんではないか、と思わないでもないからです。おそらく、仏教各派や修験道では、いわゆる悟りを開いて解脱する、すなわち、輪廻から抜けて仏になるのを目的とした修行がほとんどではないかと想像していますが、見方を変えれば利己的な目的による修行と見えなくもありません。それから、修行とはみなされませんが、お祈りや感謝もどこまで必要か、は私自身は疑問です。一神教ではユダヤ教、キリスト教、イスラム教などが典型ですが、全知全能の神ですから、信者が祈ったり感謝したりする必要がどこまであるんでしょうか。信者の肉体的先進的な状態は神はすべてご存じのハズです。日本の神様のように分業制ならば、信者が何を望んでいるのかは明言する必要があるような気もしますが、一神教では信者の側からの神への何らかの働きかけは不遜なだけであって、何ら必要ないような気もします。私のような煩悩の塊のつまらない凡夫の出来ることには限りがあり、修行したところで得るものは少なそうな気がします。「南無阿弥陀仏」の念仏で極楽浄土に往生できる宗教を信じていてよかったと思う次第です。

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次に、宮内悠介『スペース金融道』(河出書房新社) です。作者は日本SF界期待の新星で、短編「盤上の夜」で第1回創元SF短編賞山田正紀賞を受賞しデビューした後、デビュー作品『盤上の夜』で直木賞候補にノミネートされるとともに、第33回日本SF大賞を受賞し、さらに、第2作品集『ヨハネスブルグの天使たち』でも直木賞候補にノミネートされています。私もこういった作品はおおむね読んでいたりします。ということで、この作品はタイトルから理解できるように、宇宙における消費者金融をテーマにしています。すなわち、人類が最初に移住に成功した太陽系外の星、通称、二番街を舞台に、主人公は新生金融なる街金の二番街支社に所属する回収担当で、大手があまり相手にしないアンドロイドが主なお客になっています。直属の上司で相棒のバディであるユーセフはなぜかイスラム教徒で、飲酒しないとかいろいろと行動上の制約があったりします。とてもコメディの要素の多い作品です。長編ではなく連作短編集の趣きであり、次々と正体を変えて逃げ続けるアンドロイド債務者を追い続けて二番街の首相にたどり着いたり、仮想空間の人工生命を相手に取り立てたり、カジノ宇宙船に捕らわれ脱出するために主人公の臓器をかたに借金をして博打を始めはシャトルの船賃を稼ごうとしたり、タックスヘブンとなっている風光明媚なサンゴ礁で取り立てに向かいナノマシンの暴走でミトコンドリア病になったり、債務者が連続殺人鬼に消された事件を追う取り立て屋コンビだが、主人公が差別と排外主義を掲げる極右政党の党首に祭り上げられて、不自由な思いをするとか、いろいろと趣向に飛んだ連作短編集です。私もそうですが、この作者のファンなら読んでおいた方がいいような気がします。

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次に、有川浩『アンマーとぼくら』(講談社) です。タイトルの「ぼくら」は主人公のぼく=リョウとその父親です。作者は売れっ子のライト・ノベルないしエンタメ小説の作家で、私は放送を見たわけではありませんが、この作品は8月6日放送のTBS「王様のブランチ」のブックコーナーに出演した作者自らが「現時点での最高傑作」と発言したといわれています。それから、かりゆし58の名曲「アンマ―」に着想を得たともいわれていますが、誠に不勉強ながら、私は沖縄には馴染みがなく、この曲も知りませんでした。ということで、相変わらず、私はこの作家の作品はそれほど評価しないんですが、人気作家でもありますし、一応、新作が出るとかなり遅れつつもフォローしていたりします。この作品は32歳の主人公リョウが郷里の沖縄に帰省して母親と3日間を過ごす、その際に過去を振り返る、という形式になっています。その主人公は小学校高学年まで札幌で過ごし、母親の死の後で父親が沖縄の人と再婚したため沖縄に引っ越し、大学入学とともに東京に上京する、という人生を送っています。ですから、3日間を過ごす母親とは生さぬ仲であり、古い言葉で表現すれば継母ということになります。しかし、実の父親が独特の人物であり、自然風景を題材とする写真家として、それ相応に有名なフォトグラファーであったものの、精神的には小学生のような幼さ、というか、メンタリティの持ち主で、それはそれなりに可愛げがあります。むしろ、この作品の隠れた主人公ということになります。タイトルのアンマーとは沖縄言葉で母親を意味するらしいんですが、もうかなりの古語に近いと見なされているようです。ラノベに近いエンタメ小説ですから、読み方によるんでしょうが、修行の足りない私の目からは、作者が何を訴えようとしているのか、読者に何を伝えたいのか、ややピンボケに読めてしまいました。私は登場人物があざといのは大いに評価しますが、作者があざといのはそうでもありません。まあ、森絵都が直木賞を受賞した際には、「文学賞メッタ斬り!」のサイトで、「直木賞対策も万全」と陰口をたたかれていた記憶があるんですが、この作家もそのうちに直木賞を受賞するのかもしれません。最後の最後に、アマゾンのレビューの評価が大きく割れているのも、この作者の作品の特徴かもしれません。

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次に、佐藤伸行『ドナルド・トランプ』(文春新書) です。今夏の出版で、米国大統領選挙前の情報に基づいていますが、まずまず参考になるような気がします。著者はジャーナリストのキャリアが長いようです。冒頭で、トランプ次期米国大統領を政治経験や共和党の予備選での下馬評などから、レーガン元大統領になぞらえていて、やや極端ではないかという印象もありましたが、実際に大統領選挙の結果を見ると、それなりの相似性も期待できるような気がしてきたわけで、私の政治観のいい加減さを示しているのかもしれません。冒頭から第4章くらいまでは祖先をドイツにまでさかのぼったり、3度の結婚について概観したりと、やや個人的な側面が強くて私は適当に読み飛ばしたんですが、第5章のビジネス、第6章の政治家、第7-9章の宗教観などは、本書のオリジナルではなくて別のリファレンスから取り入れているとはいうものの、なかなか参考になる気がします。ビジネスでは男性的なフェロモンも含めて、人間としてのそれなりのオーラを発しているのは明らかでしょうし、メディアには無視されるよりも悪評を流される方がビジネスにはプラス、というのも理解できるような内容です。というのも、私が若いころには、私のような若いキャリアの官僚が事務次官候補と確実にメディアに流れるのは、例えばハレンチ罪を犯した時ではないか、といわれていました。具体的には、電車で痴漢をして逮捕されると、「将来は事務次官候補といわれたエリート官僚だった」なんぞと報じられたりする可能性があるわけで、実際にアラ還に達してみると、事務次官ポストは遠い彼方に消えてしまった気がします。ただ、さすがに政治家としては未知数としかいいようがなく、先日の動画にあったTPP脱退はともかく、排外的、反移民や反イスラムなどは、米国の現状、すなわち、左右に人心が両極化するワイマール現象の中で、新たな移民や新規参入者に対する反感や恐怖に対して、米国人の喪失感や白人の反乱によって特徴つけられると指摘しています。もう一方で、米国は political correctness 大国となっていて、その行き過ぎを指摘する意見もあります。私は喫煙しませんが、かつての日本における「禁煙ファシズム」の論調も思い起こしてしまいました。私はキリスト教原理主義的な宗教的側面はよく判りませんが、いろいろとコンパクトな新書版でそれなりの情報は得られるような気がします。

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次に、日本財団子どもの貧困対策チーム『徹底調査 子供の貧困が日本を滅ぼす』(文春新書) です。今年1月13日付けのこの私のブログでも取り上げましたが、日本財団による「子どもの貧困の社会的損失推計」に関して、明解に推計方法を開示し、より詳細な結果を提示しているのが本書です。試算の推計に加えて、トピック的にいくつかのケース・スタディの結果も盛り込まれています。単なる数字だけでなく、より具体的な子どもの貧困の実態が理解しやすくなっています。さらに加えて、米国でのランダム化比較実験(RTC)の方法論に基づく研究成果の紹介もあります。ペリー就学前計画、アベセダリアン・プロジェクト、シカゴ・ハイツ幼児センターの3つの研究です。前2者は私もそれなりに概要くらいは把握していますが、最後のプロジェクトは知りませんでした。そして、こういった米国での先行研究も含めて、本書で何よりも重視しているのが教育の効果です。特に大学進学の効果は大きいと私も考えています。教育政策に関しては、学校が塾に負けているのはかなり前々からの現象でしたが、昨今ではセイフティ・ネットに関しては、福祉政策が風俗産業に負けているとの指摘も本書で見られますし、フィクションの小説では自衛隊が最後の雇用先としてセイフティ・ネットの役割を果たしているかの如き作品も私は読んだことがあります。そして、最後の最後の「おわりに」の6ページには極めて重要な指摘がいくつも盛り込まれています。すなわち、子どもの貧困は人々の心の持ちようとかの精神論や観念論で解決できることではなく、引退世代の高齢者ばかりを優遇する現在の日本のシルバー・デモクラシーを打破して、子どもの貧困や家族の問題に政府が積極的に取り組む必要があります。そして、本書で指摘されていない部分を私が付け加えると、引退世代の高齢者の貧困はかなりの程度に自己責任の部分がありますが、我が国には「親の因果が子に報い」という表現があるものの、子どもの貧困は自己責任を問えない、という点です。子供の貧困を考える上で、とても重要な指摘がいくつか詰まった良書です。多くの良識ある日本人が手にとって読むことを私は強く願っています。

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最後に、エドワード・ルトワック『中国4.0』(文春新書) です。「中国」の漢字には、「チャイナ」のルビが振ってあります。著者は米国の軍事外交史や安全保障論の専門家です。本書は、訳者のインタビューに対する著者の口述記録を基に書籍化したものらしく、最後の第6章は訳者の解説となって構成されています。そして、タイトル通り、2000年代に入って以降の現在の国際社会における中国をいくつかのバージョンに分け、2000年以降の中国1.0は鄧小平の韜光養晦に基づく「平和的台頭」、2009年に大転換して中国2.0では「対外強硬」になり、我が国との尖閣諸島紛争を起こしたりもします。ただし、強硬路線をマイルド化させて2014年秋以降は中国3.0として「選択的攻撃」に転換したと主張しています。そして、来たる中国4.0に関する予言を試みようとしているのが本書なわけで、もちろん、それに対する我が国の対応も大きな眼目となっています。「大国は小国に勝てない」という逆説的論理をもっとも重要なキーワードのひとつとして、中国との外交や安全保障を読み解き、特に強調しているのは尖閣諸島を中国が占領する可能性であり、その場合は、日本は米国や国連に相談することなく自らの戦力で速やかに領土を回復する必要がる、としています。そうしなければ、クリミア半島の二の舞いになると警告されながらも、私のようなシロートからすれば、逆に、そんなことをすれば日中間の武力衝突、というか、戦争状態に近くなり、かえってマズいんではないかと思いますが、スピード感がもっとも重視されるべきという意見なんでしょう。また、本書で指摘されている通り、日本から見た外交政策や安全保障上、中国がとても不気味に感じるのは、意志決定のプロセスが極めて不透明であり、従って、方針が中国1.0から4.0まで、短期間に何度も変更される点です。加えて、これも本書の指摘通り、すでにほとんど独裁者となった習近平国家主席に正しい情報が伝えられているかどうか、とても不安です。本書では指摘されていませんが、習主席が進めている現在の反腐敗の動向は、それなりに格差に苦しむ民衆の精神的な鬱憤晴らしにはいいのかもしれませんが、所得の増加とか、お腹が膨れる方向にはつながりません。ですから、反腐敗が単なる権力闘争だと一般民衆に見透かされる可能性もあるような気がして、私はそれも気がかりです。

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2016年11月25日 (金)

ようやく最悪期を脱しつつある消費者物価(CPI)と企業向けサービス物価(SPPI)!

本日、総務省統計局から消費者物価指数(CPI)が、また、日銀から企業向けサービス物価指数(SPPI)が、それぞれ公表されています。いずれも10月の統計です。生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比は▲0.4%の下落を示し、ヘッドラインのSPPI上昇率は+0.5%を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の全国消費者物価、原油安で0.4%下落 生鮮野菜は高騰
総務省が25日発表した10月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く総合が99.8となり、前年同月比0.4%下落した。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値(0.4%下落)と同じだった。原油安で電気代やガソリン代が下落し、8カ月連続で前年実績を下回った。
生鮮食品を除く総合では全体の56.6%にあたる296品目が上昇し、166品目が下落した。横ばいは61品目だった。
生鮮食品を含む総合は100.4と0.1%上昇した。天候不順の影響でレタスが54.5%上昇するなど生鮮野菜が高騰し、指数を押し上げた。前月比では0.6%上昇した。食料・エネルギーを除く「コアコア」の指数は100.6と前年同月比0.2%上昇した。
東京都区部の11月のCPI(中旬速報値、15年=100)は生鮮食品を除く総合が99.7と、前年同月比0.4%下落した。生鮮食品を含む総合は100.3と0.5%上昇した。
企業向けサービス価格、10月0.5%上昇
日銀が25日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)速報値は103.2と前年同月から0.5%上昇した。前年同月を上回るのは40カ月連続。上昇率は前月の0.2%から拡大し、15年8月(0.6%)以来の大きさとなった。企業収益の増加に伴い新聞広告が伸びた。訪日外国人客数の増加を背景とした宿泊サービスの伸びも貢献した。ただ日銀は「企業収益の持続力や足元の円安を受けたインバウンド需要への影響に注視が必要」とみている。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。なお、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。

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ということで、現時点では日銀の物価目標である+2%にはほど遠いものの、マイナス幅が縮小に転じて、極めてゆっくりながら物価目標に近づきつつあるような気もします。小数点以下1位で丸めた指数によって私が試算した寄与度を見ると、まずエネルギーの寄与度は今年2016年3月の▲1.13%をボトムにして、緩やかにマイナス幅を縮小させ、直近の10月統計では▲0.62%とかつての半分近くまでに達しています。他方、先月▲0.18%とそれなりに無視できないマイナスを記録したコア財の寄与度は10月には+0.03%とわずかながらプラスに回帰しています。食料の寄与度も円高の進行などから10月には+0.14%まで落ち着きを取り戻して来ていて、家計への物価高感を和らげているものと感じています。サービスの寄与度も+0.15%から+0.2%くらいのレンジで安定的に物価上昇に寄与していますし、これらの要因から、食料とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率も先月の+0.1%を底にして、今月はわずかながらプラス幅を拡大して+0.2%に達しています。繰り返しになりますが、日銀の物価目標である+2%にはまだまだ遠いものの、国際商品市況の石油価格の下落に起因する物価下落の最悪期は脱したのではないか、と私は受け止めています。為替も円高修正、というか、トランプ次期米国大統領の政策を好感してドル高円安が進んでいますし、エコノミストの間でも来年に入れば物価はプラスに転じるとの見方が浮上しています。物価動向の先行き見通しはまだまだ不透明ですが、年明け早々にプラスに転じる可能性も大いにあるものと私は期待しています。

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今夏に消費者物価指数(CPI)の基準改定があり、そこそこ統計が蓄積されて来ましたので、上のグラフはインフレ期待に重要な役割を果たすと考えられる頻度別支出や基礎的ないし選択的支出で分類したCPI上昇率の推移を見ています。上のパネルは購入頻度別の物価上昇率であり、月間1回程度以上か未満かで分類しています。下のパネルは基礎的消費と選択的消費により分類されています。まず、上のパネルについて見ると、購入頻度の高い財・サービスが下落を続けている一方で、購入頻度の低い財・サービスは+1%弱ながら安定的な上昇を示しています。従って、頻度高く接する商品の価格が下落しているために、一般消費者のインフレ期待が高まらない、という面は指摘できると私は考えています。ただし、下のパネルに見る通り、最近時点では基礎的支出と選択的支出に関しては物価上昇率の差が急速に縮小してきているのも事実です。また、直近統計では気候条件に起因する野菜や果物の値上がりが消費者に強く印象付けられている可能性が高く、インフレ期待にどのような影響を及ぼすか注目されるところです。

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最後に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。ヘッドラインのSPPI上昇率は9月の+0.2%からジャンプして、10月は+0.5%を記録しました。ここ1年ほど+0.1%から+0.3%で膠着状態にあっただけに、エコノミストの間でもやや驚きを持って受け止められています。新聞広告をはじめとする広告、土木建築サービスや宿泊サービスなどの諸サービス、外航貨物輸送をはじめとする運輸・郵便、ソフトウェア開発などの情報通信がSPPI上昇率の拡大に寄与しています。引用した記事にある通り、円安に伴うインバウンド観光客の増加も忘れるべきではありませんが、SPPI上昇率がジャンプした背景には人手不足があるのではないかと私は想像しています。

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2016年11月24日 (木)

小林製薬による「中年男性の食生活に関する実態調査」の結果やいかに?

とても旧聞に属する話題ながら、11月15日付けで小林製薬から「中年男性の食生活に関する実態調査」の結果が明らかにされています。やや炭水化物、それも、ごはんに偏った食生活の実態から、糖尿病のリスクに注意を向ける必要性が高いことを示す目的のようです。小林製薬のサイトから<調査結果 トピックス>を簡単に3点だけ引用すると以下の通りです。

<調査結果 トピックス>
  1. やっぱりごはんが大好き! 中年男性の半数は"大盛りスト"と判明
  2. 健康が気になっても止まらない… ついやってしまう「重ね食べ」の実態
  3. 中年男性の健康意識。普段は血糖値を気にしていないが、糖尿病は「将来不安」

ということで、私はとても立派な中年男性ながら食欲をはじめとする物欲関係では、決して、自分自身を典型的な中年男性ではないと考えているんですが、自分自身とも重ね合せて食欲の秋も終盤に差しかかりつつ、いくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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4枚の円グラフを1枚の画像につなぎ合わせてしまいましたが、左上が炭水化物のうちもっとも好きなもの、右上が外食をした際にご飯や麺などの大盛りをしますか、左下が普段からラーメンとご飯のセットなどの「重ね食べ」をするか、右下が普段から血糖値を気にすることがあるか、のそれぞれの問いに対する回答結果です。
まず、左上の炭水化物のうちもっとも好きなものですが、ごはん派が過半数を占めていますが、私の場合はパンではないかという気もします。というのは、ごはんもパンも食べるには食べるんですが、大雑把に、朝食はパンと牛乳、昼食はサンドイッチと野菜サラダ、夕食はごはんもの、という感じの食生活になっています。次に、右上の外食をした際のごはんや麺などの大盛りですが、そもそも、オフィスの昼食もコンビニのサンドイッチが多い中で、それほど外食はしません。それでもあえて炭水化物の多そうな外食といえば吉野家なんですが、ほぼ確実に牛丼の並盛と生卵を頼みます。ということで、ごはんや麺の大盛りはしません。左下のラーメンとご飯のセットなどの「重ね食べ」については、普段からするとはいえないものの、確かに、パスタとバゲットかバタールの重ね食べはするような気がします。ですから、なかなかにビミョーなところで、「普段」に力点を置けばまったくしない、なのかもしれませんが、間を取って、あまりしない、なのかもしれません。最後に、右下の普段から血糖値を気にするか、については、まったくない、なんでしょう。血液検査が必要で、そこら辺に測定機器が置かれている血圧なんぞと違って手軽に計測できるわけではありませんし、私個人については、去年今年と健康診断では90台ではあったんですが、何とか100に達しない正常値の範囲に収まっています。でも、年齢的にアラ還に達していますから、血糖値だけでなく健康には注意すべきとは認識しています。

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2016年11月23日 (水)

ユーキャン新語・流行語大賞ノミネートやいかに?

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やや旧聞に属する話題かもしれませんが、今年のユーキャン新語・流行語大賞にノミネートされた30語が明らかにされています。以下の通りです。

No.01
アスリートファースト
No.02
新しい判断
No.03
歩きスマホ
No.04
EU離脱
No.05
AI
No.06
おそ松さん
No.07
神ってる
No.08
君の名は。
No.09
くまモン頑張れ絵
No.10
ゲス不倫
No.11
斎藤さんだぞ
No.12
ジカ熱
No.13
シン・ゴジラ
No.14
SMAP解散
No.15
聖地巡礼
No.16
センテンススプリング
No.17
タカマツペア
No.18
都民ファースト
No.19
トランプ現象
No.20
パナマ文書
No.21
びっくりぽん
No.22
文春砲
No.23
PPAP
No.24
保育園落ちた日本死ね
No.25
(僕の)アモーレ
No.26
ポケモンGO
No.27
マイナス金利
No.28
民泊
No.29
盛り土
No.30
レガシー

何となく判る気もします。小池都知事や都政関係から多く取られている気がして、「xxファースト」というのが複数、「盛り土」も入っていますし、注目度が高いというか、発信力が強いというか、そういうことなんだろうと思います。でも、「ワイズスペンディング」は漏れたようです。また、「ゲス不倫」、「文春砲」、「センテンススプリング」なんかもソースは同じという気がします。でも、従来から違和感あったのは、24番目の「保育園落ちた日本死ね」です。不正確な記憶かもしれませんが、この前段で「私活躍出来ない」といった趣旨の書き込みが見られたように私は覚えています。すなわち、1億総活躍社会と標榜しておきながら、そのインフラ整備ができていない矛盾を指摘しているわけで、この2点の指摘はセットで理解すべきではないか、後段の「保育園落ちた日本死ね」だけでは何だか不可解ではないか、と思って来た次第です。さらに、まったくどうでもいいことながら、昨年度2015年度下半期NHK朝ドラの「びっくりぽん」が入るのであれば、一昨年度2014年度上半期の「こぴっと」もよかったような気もします。まあ、「こぴっと」は新語ではなく昔からある山梨言葉ながら流行語だと私は受け止めた一方で、「びっくりぽん」は新たに創造された新語という扱いなんだろうというのは理解しますが、流行った範囲では「こぴっと」の方が広がりがあった気もします。ヒロインの評価にもよると思います。
最後に、トップテンと年間大賞は来たる12月1日(木)午後5時に発表されるそうです。何ら、ご参考まで。

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2016年11月22日 (火)

国際エネルギー機関(IEA)の World Energy Outlook 2016 やいかに?

先週11月16日に国際エネルギー機関(IEA)から World Energy Outlook 2016 が公表されています。売り物ですのでpdfの全文リポートのアップはかなり後になっているようで、現時点で一般には入手できませんが、サマリーは英語や日本語などでアップされています。国際機関のこういったリポートを取り上げるのは、私のこのブログの特徴のひとつでもあるとはいうものの、やや専門外で諸般の事情により、IEAのサイトにアップされているInfographicを引用してごまかしておきたいと思います。悪しからず。

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2016年11月21日 (月)

安定して黒字を記録する貿易統計から何が読み取れるか?

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲10.3%減の5兆8699億円、輸入額も▲16.5%減の5兆3737億円、差引き貿易収支は+4961億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の貿易収支、4961億円の黒字 2カ月連続プラス
財務省が21日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4961億円の黒字(前年同月は1047億円の黒字)となった。貿易黒字は2カ月連続。QUICKがまとめた市場予想は6100億円の黒字だった。円高の影響で輸出入ともに減少が続いているが、原油価格の低迷などで輸入額の減少幅の方が大きくなった。
輸出額は前年同月比10.3%減の5兆8699億円にとどまり、13カ月連続で減った。10月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=102円40銭と、円が対ドルで前年同月に比べて14.7%上昇したことが影響した。
アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビア向けの自動車、イタリア向け鋼管の輸出が減少した。地域別では米国が11.2%減、中国を含むアジアは9.9%減だった。
一方、輸入額は16.5%減の5兆3737億円と、22カ月連続のマイナスだった。サウジアラビアからの原粗油、マレーシアからの液化天然ガス(LNG)などの減少が目立った。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは貿易黒字は+6127億円でしたから、やや下振れしたというものの、着実に貿易収支は黒字を続けています。ただ、上のグラフでも明らかな通り、輸出入四方いずれも減少を続ける中での縮小均衡のような形になっていることも事実です。その要因のひとつは円高であり、これも引用した記事にある通り、10月の為替レートは1ドル=102円40銭と、円が対ドルで前年同月に比べて14.7%も円高に振れています。ただ、足元ではトランプ現象の不思議なひとつとして円安が続いており、一時は1ドル111円をつけたりもしていますので、目下のところ、相場ものですので見通しがたいとはいうものの、為替がさらに貿易収支に悪影響を及ぼすことは予想されていないようです。貿易収支の黒字化については、国際商品市況での石油価格の低迷が大きな要因のひとつですが、これも市況商品の価格動向は見通しがたく、石油価格安は決してサステイナブルではないと考えるべきです。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。海外需要は最悪期を脱しつつあるのが見て取れると思います。特に、中国については急速に回復する可能性が示唆されています。繰り返しになりますが、地域別・国別や財別の貿易動向を詳細に検討して、そろそろ我が国の輸出数量も増加する局面に達しつつあると私は考えています。ただし、その伸び方は中国経済が爆発的な回復を見せるという小さな可能性を別にすれば、かなり緩やかな回復となる可能性が大きい気がしています。

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最後に、参考までに、何人かのエコノミストが我が国の輸出、中でも、電機やエレクトロニクス関連の輸出と関連付けて考えているシリコン・サイクルの先行き予想も含めたグラフが上の通りです。もう半年くらい前の今春の時点における予想なんですが、世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics=WSTS)のサイトから引用しています。よく理解していないので、グラフを引用するにとどめますが、WSTS日本協議会のリポートによれば、世界の半導体市場動向はドル建てで見て、2014年▲0.2%減、2015年▲2.4%減の後、来年2017年は+2.0%増と持ち直し、2018年も+2.2%増と見込まれています。我が国の電機・エレクトロニクス業界の輸出はシリコン・サイクルとともに、中長期的な構造要因も少なくないながら、短期的な為替レートや需要要因は好転する可能性があるようです。

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2016年11月20日 (日)

阪神タイガースの2017年チームスローガンは挑む!

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昨日、阪神球団から来年2017年のチームスローガンの発表がありました。上の画像の通り、「挑む」だそうです。趣旨は以下の通りです。

どんな相手にも立ち向かう。どんな局面でも己の限界にトライする。
その精神を全員が強く持ち、タイガースが変革し続ける一年にしたい。
そうした強い思いをスローガンとして表現しています。

昨年はまったくの竜頭蛇尾で、例年の9月の大失速もありBクラスに終わりました。チームの融和を図って、来季こそ「終わりよければすべてよし」で行きたいものです。

来シーズンは優勝目指して、
がんばれタイガース!

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2016年11月19日 (土)

今週の読書はハズレの経済書や愛読のミステリのシリーズ最新刊など計10冊!

今週は、いわゆるFinTechや人工知能(AI)の金融業界における活用などの経済書に加えて、米国大統領制度に関する教養書、人気のミステリのシリーズ最新刊などなど、以下の通りの計10冊です。

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まず、城田真琴『FinTechの衝撃』(東洋経済) です。著者は野村総研のコンサルタントであり、私はその昔に同じ著者の『ビッグデータの衝撃』という本を読んだ記憶があります。2012年8月1日付けの読書感想文のブログで取り上げています。その他、『xxの衝撃』と題する本も何冊か出版しているようです。ということで、米国などでは、金融業、特に銀行に対する顧客からの評価が低い一方で、ハイテクのIT企業は好かれており、そういった後者のテクノロジー企業が銀行業などの金融分野に進出してきた現状をリポートしています。銀行では支店での取引ではなく、スマートフォンなどのモバイル機器を使った取引が多くを占めたり、いわゆるIT化がインターバンクの決済などのバックエンドではなく、顧客とのインターフェイスとなるフロント業務で生じていると指摘しています。その背景としては、米国では1980-2000年生まれのミレニアル世代が多数を占めつつある人口動態の中で、デジタル・ネイティブ、あるいは、スマート機器の使いこなしなどでFinTechとの相性のよさを示している点が追加的に上げられています。そして、FinTechそのものについては、クリステンセン教授の『イノベーションのジレンマ』でいうところの破壊的技術革新であろうと示唆しています。そして、銀行業界だけではなく、証券業や保険業などのFinTechも視野に入れ、幅広くその技術や影響について解説を加えてくれていますが、私のようなシロートにも配慮して、というか、何というか、詳細な技術的な解説はありません。ですから、まさに、私のような専門外のシロートが「四角い部屋を丸く掃く」ように、キーワードを理解しつつ深入りせずに、何となく判った気になれる、という意味で、とても良書だと思います。おそらく、コンサルとしては第4章の金融機関のフィンテック戦略のあたりが眼目のような気もしますが、私はそれほど興味もなかったのでスラッと読んでしまいました。最後に、人工知能(AI)などが金融業界でどのように活用されているかについては、次に取り上げる『人工知能が金融を支配する日』でも同じようなテーマに取り組んでいるんですが、ビットコインで有名になったブロックチェーンの将来性については正反対の結論となっています。すなわち、本書では時間も手間もかかるだけに偽造に対する障壁となる、という評価なのに対して、次に取り上げる『人工知能が金融を支配する日』では時間と手間がかかって実用的ではない、との結論です。まあ、考え方次第なんだろうという気がしますが、総合的に、金融業界における新たなテクノロジーについて1冊だけということであれば、本書の方をオススメします。

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次に、櫻井豊『人工知能が金融を支配する日』(東洋経済) です。私はよく知らないんですが、著者は金融市場・金融商品・金融技術の専門家だそうです。私のようなシロートにも判りやすいように、金融市場や金融商品についても簡単に解説した上で、人工知能(AI)がいかにして金融取引、特に、ヘッジファンドで利用されているかを概観しています。リーマン・ショック以降の金融取引でのAI利用の様相が大きく変化したと著者は指摘しています。私から見て興味深いのは2点あり、第1に、IBMやGoogleといったハイテク企業の人工知能(AI)研究者が、次々とヘッジファンドに引き抜かれているという事実です。最新のAIテクノロジーを金融取引で駆使し、驚異的な分析能力と取引速度を有するロボ・トレーダーを開発することを目標としているといいます。そうなれば、まさに勝者総取りの世界で、金融取引の利益が独占されかねませんが、容易に想像される通り、我が国ではこういったハイテク金融取引の技術が米国に比べて遅れに遅れており、グローバル化する金融取引の恩恵にあずかれない可能性があります。なお、こういった金融技術の遅れについて、著者はかつての護送船団の影響と分析しています。第2に、英国オックスフォード大学のマーティン・プログラムなどで推計し、Frey & Osborne の論文が明らかにしたように、AIの進歩により失われる雇用がいっぱいあって、このブログでも今年2016年1月7日付けのエントリーで取り上げたとことですが、実は、大規模かつ急速に雇用が失われるのは金融界の雇用と予想されています。米国のように、バイサイドのヘッジファンドなどにパワーバランスが傾くのではなく、日本では証券会社などのセルサイドに圧倒的な影響力があって、バイサイドの投資運用会社は見る影もないんですが、こういった運用におけるAIの活用などはバイサイドに影響力アップにつながるんでしょうか、それとも、証券会社などのセルサイドがAIの活用でも先行するんでしょうか、私には少し興味あるところです。

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次に、宮川重義『世界の金融危機とバブルの分析』(中央経済社) です。著者は京都学園大学の研究者です。亀岡かどこかにあった大学ではないかと記憶していますが、京都出身の私でもよく判らなかったりします。本書は著者も明け透けに書いているように、ナラティブでバブルや金融危機について分析しようと試みた部分が多く、かなりの限界を感じます。ハッキリいって、物足りません。一応、米国発の世界大恐慌から始めて、北欧、米国のサブプライム・バブル崩壊後の危機、1997-98年のアジア通貨危機、日本のバブル崩壊と1997年ころの金融危機、バブル期の日本銀行の対応や量的金融緩和政策等の金融政策を分析しようとしているんですが、目新しい観点や分析はまったく見られません。例えば、米国発の世界大恐慌については、p.30において、貨幣ストックの減少、デフレによる銀行貸し出しの減少、金本位制の足かせの3点を原因として上げていますが、経済学者としての特段の見識は感じられません。みんながいっていることを取りまとめて結論にした、というカンジでしょうか。ナラティブだけでなく、VARプロセスを応用したインパルス応答関数による時系列分析も見られるんですが、p.181やp.271のグラフでは、ほとんどが信頼区間の幅にゼロが含まれてしまっており、かなり強引に結論を引き出していると私は考えざるを得ません。中でもひどいのが第7章の我が国の1980年代後半のバブル経済の内幕を見ようとした部分で、ほとんどがジャーナリストの著作の切り貼りで済ませており、著者みずから当該章の冒頭で「屋上屋を架す」と称しているのには苦笑せざるを得ませんでした。いくつかネットで文献を探していたら、アマゾンのオススメに出て来たところ、都内の区立図書館ですぐに借りられたので読んでみましたが、期待外れでした。タイトルにひかれたんですが、今年7月の出版で3か月後にすぐ貸し出しが可能となっているという点が、本書の内容の薄さを物語っている気がします。なお、アマゾンのカスタマ・レビューはまだありませんでした。最初のレビューは星いくつでしょうか?

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次に、待鳥聡史『アメリカ大統領制の現在』(NHK出版) です。著者は我が母校の京都大学の研究者です。タイトル通りに米国の大統領制を論じていますが、もちろん、現在だけを歴史的に切り取っているわけではなく、250年近い米国の歴史から現在に至る大統領制を概観しています。そして、その最大の特徴を国権の最高機関である議会への抑止力と位置づけています。すなわち、「分割政府」という言葉を著者は使っていて、私は「分割権力」の方がいいような気もしますが、いわゆる三権分立の政治体制の中で、大統領は議会の暴走を抑止する役回りであり、19世紀には奴隷解放を宣言して南北戦争を戦い抜いたリンカーン大統領くらいしか歴史には残らず、米国における大統領の憲法上の権限が小ささを指摘します。その流れが変化したのは1930年台のローズベルト大統領のニューディール政策であり、大恐慌からの本格的な復帰は戦争経済を待たなければならなかったものの、米国大統領の政治経済に占める重要性を浮き彫りにしたと指摘します。ただし、本書では何の言及もないんですが、ニューディール政策の実行に当たっては、ローズベルト大統領の意向に沿って、議会民主党幹部が数多の法律を通しまくったのが背景にあり、大統領と議会における与党幹部に緊密な協力体制、というか、大統領の強力なリーダーシップの基での議会運営という観点は見逃せません。法案についていえば、大統領は署名を拒否する権限はあるものの、議会でオーヴァーライドされればどうしようもありませんし、そもそも日本の内閣のような法案提出や予算案作成といった権限は米国大統領にはまったくありません。こういった制約の大きな米国大統領なんですが、これも本書は指摘していないものの、政治任用が幅広く存在する米国で政府をはじめとする公職3000人の人事権があるという面も見逃せません。ただ、人脈にも限りある中で、トランプ政権では人事は共和党主導になりそうな雰囲気が見られるものの、限りある権限で何が出来るのか、メキシコ国境に壁は築けるのか、イスラム教徒の入国は阻止できるのか、トランプ次期米国大統領の手腕の見せどころかもしれません。

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次に、大越匡洋『北京レポート』(日本経済新聞出版社) です。著者は日経新聞の記者で、今春まで北京駐在だったそうです。少し前から中国経済が変調を来たして、新興国経済に波及してさらに世界経済の下押し圧力となっています。基本的には極めて古典的な過剰生産恐慌のひとつと私は受け止めていますが、そういった構造要因も含めて本書では幅広く中国内部の「暗部」について取り上げています。すなわち、民主主義のない社会における統制過剰、隠蔽、縁故、拡張主義、国際規律無視、あるいは、絶対的で憲法の上に位置する共産党の存在、などなど、書き出したら切りがないんですが、その中でも私の印象に残ったのは経済的格差の拡大です。経済成長に伴って国民が平均的に豊かになって行き、むしろ、経済的な不平等が縮小する方向に向かうのは、戦後の西側経済でも観察された事実であり、経済学的にはクズネットの逆U字仮説と呼ばれて、ほぼ戦後期には成立が確認されたんですが、今世紀の中国には当てはまらないのかもしれません。それから、民主主義がない中での政府の横暴については、本書では中央政府というよりは無数にある地方政府や実際に政府と同じ役割を果たしている党組織や国営企業でこそ広く見られると指摘していますが、そうなのかもしれません。その意味で、私はまだまだ中国の国内で開発余地が残されているように感じないでもないんですが、本書でも慎重な表現ながら、中所得国の罠に中国が陥っている可能性が示唆されています。加えて、国際面では、経済的には人民元の国際化については一定の成果を得たものの、安全保障や外交では韜光養晦を棄てて、いかにもムチャな大国意識に基づく拡張主義、横暴な国際ルールの無視により、日本などの周辺国や米国をはじめとする先進国との国際協力にも影響が及びかねません。高成長のころにアフリカなどで資源を高値で買いに走りはしたものの、もしも、国際社会で孤立することとなればさらに成長を阻害する可能性すらあります。でも、本書はジャーナリストの手になる優れたルポルタージュながら、さすがに、解決の処方箋はジャーナリストの手に余るのかもしれません。それだけが残念です。

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次に、秋田浩之『乱流』(日本経済新聞出版社) です。副題は『米中日安全保障三国志』となっています。著者は日経新聞をホームグラウンドとするジャーナリストで、2008年には同じようなタイトルで『暗流 米中日外交三国志』という出版もあるそうですが、10年近くで状況が大きく変化しているでしょうから、私は読むつもりもありません。ということで、日本を取り巻く安全保障に関するルポルタージュです。爪を隠して力をナイショで蓄える鄧小平的な韜光養晦の路線を現在の習近平政権が放棄し、海洋進出の意図を隠そうともせずに、海底油田やガス田があり、また、シーレーンとしても重要な南シナ海や東シナ海に勢力を伸ばそうとする一方で、米国は中東のイラクやアフガニスタンに兵力を割かれ、日本は古色蒼然たる吉田ドクトリンのままで、中曽根内閣の当時に防衛費のGDP1%枠を放棄したにもかかわらず、相変わらず、自衛隊はそれほど頼りにならない、といった中で、安全保障について議論し、中国のしたたかな外交や安全保障政策が明らかにされています。7月10日付けで取り上げた『帝国の参謀』の主役を務めるアンドリュー・マーシャルについての言及もあり、私には興味深く仕上がっているように見えます。本書では、バランス・オブ・パワーの論理に基づいて世界を解釈するのをリアリストとし、私のように、あるいは、フリードマンの『レクサスとオリーブの木』のように、通商の盛んな間では武力紛争は起きないと考えるのをリベラリストとしていますが、現在のわが国では嫌韓論や嫌中論の本ばかり賑やかな中、本書は冷静に米中の駆け引きを明らかにしつつ、4つのシナリオを提示しています。日米同盟を主軸としつつも、米国が主導する現状維持のシナリオ、米中がせめぎ合うシナリオ、米国との軍事同盟ではなく中国との協商関係を強化するシナリオ、日本が自立する弱肉強食のシナリオ、です。私のような安全保障に関するシロートの知らない事実をいっぱい詰め込んだ上に、知っている事実まで含めてウラ事情をていねいに解説してくれていて、ある意味で、私には関係ないだけに面白く読めました。ただ、中国で群に対するガバナンスがどこまで確かなのかは不安が残ります。かつての我が国の関東軍のようにシビリアン・コントロールがまったく効かずに、軍が独断専行してしまうリスクはどこまであるんでしょうか?

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次に、近藤史恵『スティグマータ』(新潮社) です。自転車レーサーの白石誓を主人公とするサクリファイスのシリーズ最新刊の長編です。私はこのシリーズはすべて読んでいると自負しています。なお、この作品のタイトルとなっているスティグマータ stigmata とは「聖痕」、すなわち、十字架に磔にされた際のイエス・キリストと同じ傷跡、という意味のラテン語だと理解しています。どうでもいいことですが、傷はたくさんあるんでしょうから複数形です。ということで、主人公の誓が欧州に移住した後、日本でチームメートだった伊庭も渡欧して来て、グラン・ツールの中でももっとも日本で人口に膾炙したツール・ド・フランスが舞台となります。伊庭のチームにはドーピングの発覚で名声を失墜した世界的英雄のロシア人メネンコが復活して所属し、ツール・ド・フランスにも参戦します。なぜか、誓はこの伊庭を仲介としてメネンコから同じチームのスペイン人の動向をマークするように依頼されてしまいます。そして、不穏な空気が漂う中、誓と伊庭とメネンコと、そして、これも復活したニコラも加わって、いよいよ、ツール・ド・フランスが始まります。別途、誓が前のチームに所属していた時にアシストしたエースのミッコ、また、前年総合優勝のレイナ、ミッコと同じチームから現れた新星などなど、三つ巴、四つ巴のレースが展開します。メネンコとニコラとミッコはチームのエースとして、そして、誓はそのニコラのアシストとして、伊庭はアシストなしの単騎のスプリンターとしての出場です。しかし、最初のタイムトライアルでニコラが3年前に死んだはずのドニを見たといっていきなり調子を崩します。3年前、ドニはニコラがツールを去るきっかけとなったわけで、チームのエースの心理的な動揺はアシストの誓にも影響します。また、最後の方ではメネンコのレース参加の真の目的がほのかに浮かび上がり、それを阻止しようとする誓が逆に脱落したりします。相変わらず、とても面白いミステリです。次回作も大いに期待して私は待っています。ドーピングに対する作者の姿勢にとても共感しました。

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次に、上田早夕里『夢みる葦笛』(光文社) です。作者は中堅どころの売れっ子SF作家であり、私も『華竜の宮』や『深紅の碑文』などのオーシャンクロニクルのシリーズを愛読していたりします。私はSFよりもミステリなんですが、円城塔や宮内悠介などどともに、好きなSF作家のひとりです。この作品集は短編10篇で編まれており、収録順にタイトルだけ羅列すると、「夢みる葦笛」、「眼神」、「完全なる脳髄」、「石繭」、「氷波」、「滑車の地」、「プテロス」、「楽園(パラディスス)」、「上海フランス租界祁斉路320号」、「アステロイド・ツリーの彼方へ」となります。最初の4編は光文社文庫の『異形コレクション』のシリーズに収録されており、「プテロス」のみが書き下ろしとなっています。なお、最後の「アステロイド・ツリーの彼方へ」は創元SF文庫の2015年の年刊SF傑作編のタイトルに採用されており、SF短編の傑作といえます。創元SF文庫の『アステロイド・ツリーの彼方へ』は私も読んでおり、ほぼ3か月前の今年2015年8月20日付けの読書感想文で取り上げています。広く知られた通り、というか、ガンダムなんかでも出て来るように、アステロイド・ベルトとは火星と木星の間に存在し、そこの探索用に猫型の情報端末をごく一般ピープルが最後の仕上げをする、そして、その猫型端末はアステロイド・ベルトを越えてさらに先に探索に進むことを希望する、というストーリーです。短期間に2度読んだからかもしれませんが、この短編集に収録されている中で、私にはもっとも印象的な作品です。その直前の「上海フランス租界祁斉路320号」は昭和初期の上海を舞台にしたパラレルワールドをテーマにした作品ですが、これも印象的でした。どうでもいいことながら、タイムトラベルにまつわるパラドックスにはどのように対処されているのだろうか、と気にかからないでもありませんでした。ほか、最初の『異形コレクション』に収録されている4編は、オカルト的というか、ホラーの仕上げにもなっており、少し気味悪く感じる読者もいるかもしれませんが、人間に憑依するのがオカルト的というか、霊的なものではなく、3次元の我々から見た高次元の存在、というのもSF的な仕上げになっています。その他に順不同ながら、最近流行りの人工知能(AI)ならぬ人工知性、宇宙探索、地下都市、パラレルワールド、人の夢などなど、必ずしも従来のSFの枠に捉われず、ホラーやオカルトの要素も取り入れて、作者の力量が十分にうかがえる短編集です。

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次に、中沢新一『ポケモンの神話学』(角川新書) です。本書は1997年に出版された単行本、また、2004年に新潮文庫で出版された内容にまえがきやあとがきを加えただけの内容であり、決して、ポケモンGOなどの2016年におけるポケモンについて論じているわけではありません。1996-97年ころのポケモンですから、本書でも明らかにされている通り、ゲームボーイでプレーするゲームであり、『コロコロ・コミック』などではマンガになっていたのかもしれませんが、少なくともテレビのアニメの放送は1997年4月からですから、本書では考慮されていません。映画は1998年夏休みからです。ということで、著者はニョロボンになぞらえて、オタマジャクシを取っていた子供時代と重ね合わせて、ポケモンをゲットして図鑑を完成させるゲームについて、子供らしい虫取りやオアマジャクシ、あるいはザリガニ取りなどとの連想を膨らませます。まあ、そうなんでしょうが、フランスポスト構造主義でどこまでポケモンを解明できるかは私には不明です。私の感触では、極めて大雑把に、現時点での20代から17-18歳くらいまでがポケモンとハリー・ポッターで育った世代だと思います。2008-10年の2年間、私は地方大学の経済学部で教員をしましたが、その時の学生諸君の世代がポケモン第1世代のような気がします。現在だと20代後半ということになります。個々の学生によってポケモンの評価が大きく異なり、まったくのムダだったとしか評価しない学生もいれば、友人関係や家族での楽しみ方などでそれなりに評価する学生もいました。それにしても、今年はポケモンGOで大きく復活した気がします。私は最初の海外勤務から帰国した1994-95年くらいにゲーム機を買い求めた際、ハードウェア的にすぐれているという観点からセガサターンを買ってゲームをしていましたが、ビデオのVHSとベータマックスの競争と同じで、マシンとしてのハードの完成度よりもソフトのバリエーションなどのほうが勝負の分かれ目だということをすっかり忘れていて、プレステの天下となった折には悔しい思いをして、その後はゲームには手を出しませんでした。結婚して子供ができ、我が家の倅たちが小学校4年生と2年生の時に、ニンテンドーDSを買い与えた記憶があります。常日ごろの私の主張ですが、ゲームやアニメは我が国が世界に誇る文化だという気がします。

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最後に、阿古真理『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』(NHK出版新書) です。著者については、私はよく知らないながら、関西方面でご活躍の食に関する著述業の方のようです。ですから、いきなり、「炊く」という言葉は標準語ではおコメに対してしか使わないとあって、「水炊き」という言葉はどうなんだろうか、と不思議に思ったりしました。それはともかく、パンについて幕末あたりから日本に入ってきた歴史をひも解いています。個別には、アンパン、バゲットやバタールなどのフランスパン、カレーパンなどを取り上げ、銀座の木村屋、神戸のフロインドリーブなどのパン屋さんも紹介しています。ただし、メロンパンだけは起源、というか、由来というか、発祥については不明だそうです。誠に残念ながら、日本だけではページを埋め切れなかったのか、本場本元の西洋までさかのぼってパンの由来などにも触れています。私は何といっても、戦後米国の過剰小麦粉を供与されての学校給食の影響が大きいと思います。その後、コメ余りの中で学校給食に米飯が持ち込まれたりして、結局、余った食料を小学生に食べさせているような気がしなくもありません。パンという一種の食文化を通しての日本文化論というほどの広がりでもなく、本書はどちらかというと、グルメ雑誌の延長線上に位置して、雑誌情報よりはやや詳しめに手広く情報を集めた、というカンジの本かと思います。でも、それなりに流行っていることも確かで、人によっては一読の価値はあると考える向きもありそうです。私はグルメでも何でもなく、ついでにいうなら、おしゃれでもなんでもないんですが、食べ物に関しては興味あるものですから図書館で借りました。なお、本書の冒頭に2011年の統計でパンに対する支出がコメを上回って話題になった、とあって、時期的に間違いなく私が統計局の担当課長として記者発表したんだろうと思うんですが、誠に残念ながら、まったく記憶にありません。

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2016年11月18日 (金)

ウェザーニューズによる紅葉見頃予想マップやいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、ちょうど10日前の11月8日付けでウェザーニューズから全国7エリアの紅葉見頃予想マップが明らかにされています。今シーズン第3回目だそうです。

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上の画像は、見れば明らかな通り、関東エリアの紅葉見ごろ予想マップです。上がもみじ、下がいちょうです。取り上げるのが遅くなったため、いくつかのスポットでは見ごろを過ぎてしまったかもしれませんが、まだまだ、これから先に見ごろを迎えるところも少なくありません。我が家が杉並区に住んでいたころは善福寺川に沿った和田堀公園のいちょうが見事でしたし、青山に住んでいたころは神宮外苑の絵画館前のいちょう並木に写真を撮りに行ったりしたんですが、思えば、いずれのいちょうも11月の20日過ぎの勤労感謝の日くらいが見ごろだったことを記憶しています。
週末前の軽い話題でした。

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2016年11月17日 (木)

年末ボーナスは増えるのか?

先週くらいまでに、、例年のシンクタンク4社から年末ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因ですので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。なお、「公務員」区分について、みずほ総研の公務員ボーナスだけは地方と国家の両方の公務員の、しかも、全職員ベースなのに対して、日本総研と三菱リサーチ&コンサルティングでは国家公務員の組合員ベースの予想ですので、ベースがかなり違っています。注意が必要です。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.5万円
(+1.2%)
72.1万円
(+9.4%)
背景には、雇用・所得環境の改善傾向の持続。雇用面についてみると、2015年以降、非正規雇用者だけでなく、正規雇用者の増加が持続。賃金面でも、所定内給与が前年比プラスを維持しており、賞与算定の基となる月例給の押し上げに作用。
第一生命経済研36.9万円
(▲0.3%)
n.a.ボーナス低迷の最大の要因は企業業績の悪化だ。法人企業統計では、16年4-6月期の経常利益は前年比▲10.0%と3四半期連続で悪化、減益幅も拡大している。また、日銀短観の経常利益計画では、16年度上期の経常利益は前年比▲13.9%が見込まれている。ボーナスは業績に連動する傾向が非常に強いことから、こうした業績悪化が冬のボーナス抑制に繋がるだろう。業種別では製造業、企業規模別では中小企業で特に厳しい結果になると予想される。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング37.1万円
(+0.4%)
69.9万円
(+6.1%)
2016年冬の民間企業(調査産業計・事業所規模5人以上)のボーナスは2年ぶりに増加すると予測する。労働需給がタイトな中、ボーナスを算定する上で基準とされることの多い基本給(所定内給与)が前年比で増加を続けていることもあり、一人あたり平均支給額は37万1, 676円(前年比+0.4%)と増加しよう。もっとも、前年からの反動で大幅に増加した夏ほどの伸びは見込み難く、プラス幅は小さなものになるだろう。中でも、製造業では足もとで業績が悪化しており、中小企業を中心として下振れるリスクがある。
みずほ総研37.0万円
(+0.0%)
78.0万円
(+2.3%)
2016年冬の一人当たりボーナス支給額(民間企業)は前年比+0.0%と横ばいになる見通し。所定内給与は緩やかに増加するものの、経常利益の弱含みによる支給月数の減少が下押し。

見れば明らかな通り、第一生命経済研だけは1人当たり支給額で減少を予想しているものの、大雑把にいって、今冬の年末ボーナスは1人当たりで横ばいないし微増、ただし、雇用者の増加が続く中で、ボーナス支給対象者数は2%程度増加することから、支給総額もそれに従って増加する、という見込みのようで、私もほぼ同意します。ですから、支給総額が2%前後増加する見込みながら、他方で、マクロの消費に対する影響は不透明感があると私は感じています。というのは、ひとつは天候要因が7-9月期から消費を下押ししており、7-9月期は台風などによる外出の手控えという形で影響が現れたのに対して、タイムラグを置いて、10-12月期以降では生鮮野菜や果物などの値上がりという形で影響が出る可能性があると覚悟しなければなりません。もうひとつは、ボーナスという恒常所得とはみなされない収入では大きな消費の伸びが期待できないためです。もちろん、ボーナスの増加が消費に何のインパクトもないとは考えにくく、最近時点で動きの出始めた耐久消費財の購入などには弾みがつく可能性もあり、それ以外でも、特に根拠ないながら、ボーナスでぜひとも消費に弾みがついて欲しいものだと考えているエコノミストは私だけではないような気がします。
最後に、下のグラフは三菱リサーチ&コンサルティングのリポートから引用しています。

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2016年11月16日 (水)

訪日外国人数の伸びはどこまで続くのか?

本日、政府観光局(JNTO)から9月の訪日外国人統計が公表されています。10月の訪日外国人数は前年同月比+16.8%増の2136千人と、引き続き堅調に増加しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の訪日外国人、16.8%増の213万人 16年通年で2000万人超
日本政府観光局が16日発表した10月の訪日外国人客数(推計値)は、前年同月比16.8%増の213万6000人だった。10月として過去最高で、単月としても7月(229万7000人)に次ぐ過去2番目の大きさだった。クルーズ船の来航増加や航空路線の拡大を背景に東アジアからの訪日客が引き続き好調だった。1-10月累計の訪日外国人客数は2011万3000人と、通年で初めて2000万人を超えた。
国・地域別では、中国が13.6%増の50万6200人と最も多かった。建国記念日「国慶節」に伴う大型連休が追い風になった。次いで韓国が21.2%増の44万9600人だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、訪日外国人数のグラフは以下の通りです。季節調整していない原系列の統計をプロットしています。

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私自身は訪日外国人数はジワジワと伸び率が縮小している感触なんですが、かつてほどの伸びを示していないにもかかわらず、そもそも日本経済で10%という2ケタの伸びを示すほどの勢いがなくなって久しいものですから、訪日外国人が前年同月比で10%超の伸びを示すと、やはり、かなり力強い伸びと感じてしまいます。1月からの今年2016年の累計では、10月中に20,113千人に達し、通年で初めて2000万人を突破しています。増加の要因としては、引用した記事にも取り上げられているクルーズ船の来航増加や航空路線の拡大・増便に加えて、中国の建国記念日に当たる「国慶節」に伴う大型連休や学校休暇が需要を創出したり、日本国内における国際会議やイベントの開催が上げられており、さらに、訪日観光プロモーションによる効果なども政府観光局は自画自賛していたりします。私自身は訪日外国人はそろそろ頭打ちが近づきつつあると危惧していたんですが、なぜかトランプ米国次期大統領の政策への期待から円安が進んでおり、為替の面からはもう少し訪日外国人の消費に期待できそうな雰囲気もあったりします。ただ、外国人観光需要の伸びはプラスにしても減速する可能性は高いと考えるべきです。

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2016年11月15日 (火)

米国大統領選挙でトランプ次期大統領を支持したのはどういう人々なのか?

先週のサプライズのひとつは米国大統領選挙の結果だったのは記憶に新しいところですが、日本の市場なんかも一時は大きく下げたものの、結局、組閣をはじめとする政府のスタッフ選出は共和党が主導する形となる可能性が大きいという安心感もあって、TPPを別にすれば、経済的な負のインパクトは大きくない、との印象が出始めています。しかしながら、日本人として大いに興味あるのは、結局のところ、どういった米国有権者が次期米国大統領を支持したのだろうか、という点です。同じことを考えている人は多いらしく、私がよく参照しているピュー・リサーチ・センターから米国大統領選挙の2日後の11月10日付けで A Divided and Pessimistic Electorate と題する世論調査結果が明らかにされています。クリントン候補と比較して、次期米国大統領の支持者の平均的な素顔がよく理解できます。いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、現在の米国の政治経済社会における問題点の指摘として、似通った評価なのは薬物中毒やインフラの状態であり、せいぜいが10%ポイントくらいに収まっています。逆に、大きく評価が分かれていて50%ポイント超の差があるのが不法移民と気候変動です。上のグラフから明らかな通り、トランプ次期米国大統領支持者は不法移民を重大な問題と捉える一方で、気候変動問題は軽視しているようです。ほかにも、トランプ次期米国大統領支持者は貧富の格差を重要とは考えていないような結果が示されています。こういった課題が大統領就任後に、カギカッコ付きの「民意」を反映してやっぱり軽視されるのか、それとも、それなりの取り組みが実行されるのか、私としてはやや気にかかるところです。

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次に、よく似たグラフですが、上のグラフでは米国の直面する課題ではなく、性格とか価値観などに関する見方が示されています。さすがに、最初のグラフの政治経済社会の過大認識と違って、その差は大きくないんですが、グラフのタイトルにも表れている通り、伝統的かどうかにもっともおきな違いが見られます。トランプ次期米国大統領支持者に自分自身を伝統的と考える人が多く、逆に、ヒラリー候補の支持者には少なくなっています。また、絶対的なパーセンテージで見て、トランプ次期米国大統領支持者は自分のことを伝統的かつ典型的な米国人であると見なしているのに対して、クリントン候補支持者は偏見なく開放的で他人への思いやりの精神を重視している姿が浮かび上がります。

まだまだ、米国では選挙後の分断意識が強い気もしますが、知り合いのエコノミストはトランプ次期米国大統領について、「まあ、もう結果が出てしまったんだから、いい面を見ようじゃないか」と私にいい切ったんですがまったく同感です。

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2016年11月14日 (月)

3四半期連続でプラス成長となった7-9月期GDP速報1次QEをどう見るか?

本日、内閣府から7-9月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.2%を記録しました。外需中心ながら、まずまずの高成長といえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月GDP、年率2.2%増 輸出の伸びがけん引
内閣府が14日発表した2016年7-9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.5%増、年率換算では2.2%増だった。プラスは3四半期連続。輸出の伸びがけん引した。QUICKが11日時点で集計した民間予測の中央値は前期比0.2%増で、年率では0.8%増だった。
生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.2%増、年率では0.8%増だった。名目も3四半期連続でプラスになった。
実質GDPの内訳は、内需が0.1%分の押し上げ効果、外需の寄与度は0.5%分のプラスだった。項目別にみると、個人消費が0.1%増と、3四半期連続でプラスだった。
輸出は2.0%増、輸入は0.6%減だった。アジア向けを中心に需要が回復し輸出が拡大した。国内需要の低迷で輸入量は減った。
設備投資は0.0%増と、3四半期ぶりにプラス。生産活動が回復し、設備投資需要が高まった。住宅投資は2.3%増。公共投資は0.7%減。民間在庫の寄与度は0.1%のマイナスだった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてマイナス0.1%だった。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは1.0%のマイナスだった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2015/7-92015/10-122016/1-32016/4-62016/7-9
国内総生産GDP+0.4▲0.4+0.5+0.2+0.5
民間消費+0.5▲0.6+0.3+0.4+0.1
民間住宅+1.2▲0.4▲0.3+5.0+2.3
民間設備+0.8+1.2▲0.7▲0.1+0.0
民間在庫 *(▲0.0)(▲0.1)(▲0.1)(+0.1)(▲0.1)
公的需要▲0.0▲0.1+0.8+0.1+0.2
内需寄与度 *(+0.4)(▲0.5)(+0.4)(+0.3)(+0.1)
外需寄与度 *(▲0.0)(+0.1)(+0.1)(▲0.2)(+0.5)
輸出+2.6▲1.0+0.1▲1.5+2.0
輸入+2.4▲1.2▲0.6▲0.6▲0.6
国内総所得 (GDI)+0.6▲0.2+1.2+0.4+0.4
国民総所得 (GNI)+0.6+0.0+0.5+0.3+0.3
名目GDP+0.8▲0.3+0.8+0.1+0.2
雇用者報酬 (実質)+0.8+0.5+1.1+0.4+0.7
GDPデフレータ+1.7+1.5+0.9+0.7▲0.1
内需デフレータ▲0.1▲0.2▲0.5▲0.7▲1.0

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2016年7-9月期の最新データでは、前期比成長率がプラスを示し、特に、黒い外需が大きくプラス寄与している一方で、灰色の民間在庫がマイナス寄与しているのが見て取れます。

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まず、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは中心値が年率+0.8%で、レンジの上限でも+1.8%でしたから、かなりな高成長だったと考えるべきです。内需ではなく外需中心の成長とはいえ、在庫も着実に減少していますし、今年に入ってから3四半期連続で潜在成長率並みかそれを超える水準の成長を記録したことは素直に評価すべきです。ということで、季節調整済みの系列で主要な需要項目をいくつか見ると、まず、消費は前期比+0.1%と3四半期連続の増加を示し、特に、内訳では耐久財が3四半期連続で増加しています。やや伸びが低いという見方もできますが、7-9月期の天候条件を考慮すれば、決して悪くないと私は考えています。加えて、後にグラフを示していますが、雇用者報酬はリーマン・ショック後の相当な期間に渡って順調な伸びを示していますから、消費は持ち直しの方向に向かうと考えるべきです。次に、設備投資は前期比+0.0%と横ばいとなりました。短期的には為替次第の面もありますが、長期の構造的には設備不足や更新投資などの押し上げ要因があり、それなりに設備投資は底堅いと考えています。ただし、7-9月期の高成長を支えた純輸出については、やや複雑な事情が垣間見えます。基本的には、為替のいたずらのような部分が少なくありません。すなわち、名目で見た輸出は前期比▲0.5%減ですが、実質では+2.0%増を示しています。輸出デフレータがマイナスになっているわけで、円高が進んだためにドル建て価格を据え置いた上で円建て価格を落とした可能性があります。逆の円安期に円建てで収益が増加するのはいいんでしょうが、こういった円高要因による製品価格のディスカウントはサステイナブルではなく、企業収益からひいては設備投資にも悪影響を及ぼす可能性があります。輸出と設備投資はその意味でも為替を介してそれなりの相関があると考えるべきです。

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今期のトピックは久し振りに雇用者報酬=雇用者所得を取り上げました。上のグラフは実質の実額をプロットしています。サブプライム・バブルの崩壊を境に大きく落ち込んでいますが、それでも、2014年くらいから伸び率を高めているのが見て取れます。上のテーブルでも最近5四半期連続でプラスを記録しており、+0.5%くらいから+1%ほどの伸びを示しています。季節調整していない系列の前年同期比で見て、7-9月期には+3%増に達しています。世帯数もジワジワと増加していることから、世帯当たりの雇用者所得の伸びは少し割り引いて考える必要があるものの、所得の面から消費が増加する余地は十分あると考えるべきです。後は、マインドなのかもしれませんが、少なくとも供給サイドの景気ウォッチャーではマインド改善が示されているような気もします。天候余韻も含めて、消費が増勢を強めるのも間もなくだと私は期待しています。

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2016年11月13日 (日)

菊地成孔「機動戦士ガンダム サンダーボルト」サウンドトラックを聞く!

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菊地成孔による「機動戦士ガンダム サンダーボルト」サウンドトラックを聞きました。まず、全17曲の構成は以下の通りです。

  1. サンダーボルト・メインテーマ用
  2. 戦闘中(激戦状態)用
  3. SE 1 1950年代擬似 (フル・アコースティック)
  4. 戦闘開始用
  5. 戦闘配置用
  6. 出撃用
  7. SE 2 2050年代擬似 (フル・エレクトリック)
  8. 白い部屋
  9. あなたのお相手
  10. イエスのガール
  11. 女の子に戻るとき
  12. 年寄りになれば
  13. ただ泣くだけ
  14. 月のカクテル
  15. ただ2人だけ
  16. あたしのカントリー・ソング
  17. RONALD REAGAN OTHER SIDE / dCprG

サウンドは、やっぱり、菊地成孔です。私のようなアラ還の中年ジャズファンからすれば、かなり前衛的に聞こえます。まあ、エリック・ドルフィーでもそうなんですから仕方ありません。それにしても、ガンダムと菊地成孔というのは、結構意外な組み合わせでしたが、なかなかサマになっています。

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2016年11月12日 (土)

今週の読書は経済書や教養書など計10冊!

今週の読者も、経済書や教養書などを中心に、小説や新書も含めて計10冊、以下の通りです。

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まず、渡辺努[編著]『慢性デフレ 真因の解明』(日本経済新聞出版社) です。編者は日銀OBの東大教授で物価動向などに詳しい研究者です。上の表紙画像に見られる通り、チャプターごとに著者が論文を持ち寄った書籍なんですが、日銀職員がかなり含まれています。そういう本だということを理解した上で夜も進むと、あるいは、いろんな面が見えて来るかもしれません。ということで、本書は3部構成となっており、第1部で慢性デフレの特徴とそのメカニズムを、第2部で企業の価格設定行動を、そして、第3部で家計の購買価格と賃金を分析しています。しかしながら、第1部ではデフレの長期化について、マイナスの自然利子率と自己実現的デフレの2つの仮説を置きながら、結局、デフレの原因は解明されずに終わり、トレンド的なインフレ率の低下とGDPギャップという毒にも薬にもならない結論の周囲をウロウロするに終わっているような気がします。期待インフレ率の低下は日銀による期待のアンカリングの失敗であろうと私は考えていて、本書でもその可能性は示唆されていますが、それが決定的な要因とはみなされていません。なお、1990年代のバブル崩壊後の「失われた20年」はいうに及ばず、現時点でも日銀は2%インフレ期待のアンカリングには失敗し続けているのは明らかで、先週の金融政策決定会合で2%目標の先送りを決めましたが、まさにそういうことです。ただ、私もリフレ派の経済学を正しいと考えているものの、ここまで金融政策当局が期待インフレ率のアンカリングに失敗し続けるということは、決して白川総裁とそれ以前の日銀の金融政策の失政だけではなく、何か、日本経済に根本的なインフレ期待に関する別のアンカーがあるのかもしれない、と考えないでもありません。第1部の結論がこんな感じですから、後のチャプターでも目を見張るような分析はなく、賃金はデフレの原因ではないとか、どうも判然としない結論が並んでいるような気がします。ただし、ひとつだけ感じるのは、物価統計はあくまでマイクロな個別の価格を総合して一般物価たる物価指数を作成するわけで、私も統計局に勤務していたころには、それなりに消費者物価指数にも慣れ親しんでいたつもりですが、経済学的にマクロの一般物価を本書に収録された諸論文のようにマイクロな積み上げで分析するのは限界があるような気がします。GDPギャップがいくつかの論文で現れますが、マクロの一般物価に対して何らかのマクロの指標を対応させて、相対価格の変化ではない一般物価水準の分析が求められているような気がしてなりません。パス・スルーが復活してきているとの分析が第5章にありますが、これあたりが何かのヒントになりそうな予感がします。

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次に、カウシック・バスー『見えざる手をこえて』(NTT出版) です。著者はセン教授の指導で博士号の学位を取得し、コーネル大学で開発経済学や厚生経済学を専門とする経済学者であるとともに、世銀の上級副総裁兼チーフエコノミストとして開発経済学を実践しているインド出身のエコノミストです。英語の原題は本書は Beyond the Invisible Hand であり、邦訳のタイトルはそのままです。2011年の出版で、前著『政治経済学序説』の続編である旨、はじめにで著者自身が明らかにしていますが、私のような不勉強で前著を読んでいない無精者に配慮して、本書だけで独立して読めるように工夫されています。ということで、アダム・スミスの『国富論』に由来する見えざる手に導かれ、利己的な個人主義に基礎をおく現代経済学、特に市場原理主義やリバタリアンに近い経済学について、グローバル化で拡大する格差・不平等の一因として、バスー教授は強く批判しています。本書では、第7章までが長い長い前置きというか、本論を始める前のファウンデーションのようなもので、第8章から第10章がバスー教授の本来の説が展開されているように私は読んだんですが、その第8章冒頭には、明確に、規範的な公理として貧困や不平等は悪いと考えている旨が記されています。エコノミストとしては数段の格落ちながら、私と基本的に同じ考えであることを心強く感じます。もちろん、グローバル化によって激化させられた貧困や拡大した不平等などについては、経済学を中心にしつつも法律や政治システムも包含したより幅広い社会科学の理論的枠組みを構築する必要があり、その方面への目配りも忘れられていません。ただ、最後の第10章の結論は、突き詰めた処方箋としては、フローの所得やストックの資産に何らかの上限を設けて、それを超える部分にはいわば100%の限界税率をかけて政府から貧困層へ再分配する、というかなりシンプルな提言だけであり、アトキンソン教授の『21世紀の不平等』などと比べるのは不合理かもしれませんが、もう少し何とかならなかったものかという気もします。著者は本書の冒頭で明確にマルクス主義的な「革命」を否定し、市場経済の漸進的な改革を訴えますが、マルクス主義的な「革命」はともかく、社会民主主義的な方向性についても、もう少し論じて欲しかった気がします。

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次に、ナサニエル・ポッパー『デジタル・ゴールド』(日本経済新聞出版社) です。著者は、ニューヨーク・タイムズをホームグラウンドとするジャーナリストで、本書の英語の原題は DIGITAL GOLD ですから、邦訳タイトルはそのまま直訳というカンジです。原初の出版は2015年で、その年のFT&マッキンゼーによる「ビジネス・ブック・オブ・ザ・イヤー」年間ビジネス書大賞の最終候補作に残っています。取り上げているのはビットコインであり、その揺籃期から記憶にまだ新しい2014年初頭のマウント・ゴックスの破綻くらいまで、ビットコインの歴史を人物名を大いに盛り込んで解説しています。例の原著論文を書いたとされるサトシ・ナカモトこそ特定されず、インタビューなどは当然になされていませんが、世界中のビットコイン関係者に直接取材したようであり、ビットコインの実相について掘り下げたルポルタージュとなっています。未だにそうなのかもしれませんが、マネー・ロンダリング、ドラッグや児童ポルノなどのご禁制品取引、サトシ・ダイスなるサイトもある賭博サイト、などなど、アウトロー的な存在も含めて、さまざまな異端児たちが主役を演じた初期から、いわゆるブロック・チェーンによる認証などのフィンテックの中核をなす技術として産業化されていくまでの様子を克明に記録しています。そして、そのバックグラウンドが政府に挑むリバタリアンだったり、ウォール街の巨大銀行と戦おうとする無謀な試みだったり、そのあたりのバックグラウンドは私はまったく知りませんでした。リバタリアンのバイブルとなっているアイン・ランドの『肩をすくめるアトラス』では、自由を求めてロッキーかどこかの田舎に引っ込む企業家を小説にしていますが、ビットコインであればそういったリバタリアンもサポートできそうだと思いつつ読み進みました。地理的な制約を受けないネットの出来事ですので、マウント・ゴックスが渋谷に事務所をおいて、たどたどしい日本語の記者会見を我々日本人も間近に見たわけですし、エコノミストや金融の専門家でなくても、ビットコインの動向には当分目を離せそうもありません。

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次に、庄司克宏『欧州の危機』(東洋経済) です。著者は慶応大学の研究者で、EU法の専門家です。英国のEU離脱=BREXITを中心に据えつつも、それだけでなく、EUの危機全般について論じています。すなわち、EUの危機は3点に現れているとして、ギリシアのソブリン危機、BREXIT、そして難民問題と指摘しています。もっとも、最後の難民問題はほとんど何も触れられていません。当然に、欧州統合の歴史を踏まえていますが、必ずしも古い歴史にこだわらずに、現代的な欧州の課題を列挙して議論を進めています。すなわち、欧州の統合は先発グループと後発グループに分かれての2段階方式であるとか、共通通貨のユーロや外交や安保政策なども含めて、メニューを選択可能なアラカルト方式であるとかの説明も丁寧です。また、その昔のトリフィンの国際金融のトリレンマに似せたダニ・ロドリックの国際統合のトリレンマ、すなわち、経済統合と民主主義と国家主権の3つを同時に達成することは不可能で、どれかを諦めねばならない、というロドリック仮説も紹介し、英国の選択は経済統合の放棄に当たると位置づけています。まあ、当然です。そういった基礎的な議論の後に、まず取り上げるのはギリシアのソブリン危機なんですが、そもそも、欧州統一通貨のユーロには脱退の法的規定がなく、他方で、ドイツなどが指摘する通り、ユーロ圏内における債務減免は制度的に不可能である主張もその通りであり、問題がほとんど袋小路に入っている現状を浮き彫りにしています。BREXITについては、英国の問題なのか、EUの問題なのか、必ずしも決め打ちはしていませんが、喧嘩両成敗ではないものの、勝手に離脱しようとする英国の問題と一方的に決めつけてはいません。その意味でもバランスが取れている気がしますし、英国のEU離脱後のシナリオがp.178から数多く示されていて、p.184のテーブルで各モデルの評価が一覧できるように工夫されており、とても判りやすい気がします。経済統合のあり方についても、豪州とニュージーランドの ANZCERTA (Australia New Zealand Closer Economic Agreement) + TTMRA の例を引いて、欧州とは違う統合のあり方のモデルを提示するなど、欧州やプラス米国に偏らない広い世界で議論している気がします。私は問題は基本的にEUの側に多く残されており、誤解を恐れず極めて単純にいえば、統合が拡大し過ぎて必ずしも同質とはいい切れない国の経済を含むようになってしまったのがEU危機の一側面だと考えています。その意味で、本書はかなり私に近い考えだと受け止めています。

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次に、細谷雄一『迷走するイギリス』(慶應義塾大学出版会) です。著者は慶応大学の研究者で、英国外交史の専門家です。当然ながら、今年2016年6月の国民投票によりEUをリダする英国を中心に据えて、戦後の英国と欧州の関わりの国際関係史をひも解いています。もちろん、欧州とはいいつつ、在りし日のソ連や共産圏はスコープの外であり、逆に、大西洋を挟んだ姉妹国のような存在である米国はスコープの範囲内だったりします。その米国は西半球に位置して、20世紀の2度に渡る世界大戦では少なくとも欧州における開戦からしばらくは参戦を控えていましたが、同じような傾きが英国にもあるんではないかという気が私はしています。すなわち、大陸欧州とは一線を画して、必ずしも同一行動を取ることもなく、そうかといって、まったく別というわけにも行かず、ということで、日本語で「付かず離れず」という言葉がありますが、そういったカンジがしなくもありません。英国とEUの関係については、少し前まではロンドンにシティという巨大な金融街を抱える英国はユーロに参加することを控えてきました。もちろん、今世紀に入ってからの後半部分の労働党ブレア政権はユーロ参加にチャレンジしましたが、官界と金融界の反対で英国へのユーロ導入はかないませんでした。戦後史の中では、英国と欧州は基本的に経済的な関係を強化しつつも、政治的には経済ほどの緊密化には至らない、ということなのではないかと私は考えています。特に、東西冷戦下でソ連が存在感を示していた当時であればともかく、現在、ロシアの軍事的脅威はソ連当時からは桁違いに低下しているんではないかと認識しています。それに代わって、イスラム国などのテロ勢力がむしろ安全保障上の脅威になりつつあるわけなんでしょう。ただ、英国と欧州の関係については、先日の米国大統領選挙もそうですが、単に内向きに英国の政治や外交がシフトしている、だけでは物足りません。フランスのルペン、米国のトランプ、などなどの歴史的にも成熟した民主主義国で内向きで右派的で排外主義的な潮流が生じ始めていることについて、世界的なコンテクストで考える必要があります。その意味で、本書はそれなりの水準に達した学術書ながら、英国と欧州とせいぜい米国までしか視野に入れていないという意味で、少し物足りない気がします。加えて、トッドの議論ではありませんが、「迷走』しているのは英国とア・プリオリに決めつけている気がして、実は「迷走』しているのはEUなのではないか、との議論に有効に対処できていないような気がしてなりません。欧州問題でどちらか1冊となれば、本書よりも先に紹介した庄司先生の『欧州の危機』の方をオススメします。

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次に、大黒岳彦『情報社会の<哲学>』(勁草書房) です。著者は明治大学の哲学教授であり、NHK勤務の経験から情報社会の動向にも詳しいかもしれません。何で見たかは忘れましたが、廣松渉のお弟子さん筋に当たるのかもしれません。未確認です。ということで、本書では情報社会の本質とは何かを正面から哲学しようと試みます。最近2010年代の具体的現象をもとに、その存立構造とメカニズムを明らかにするため、マクルーハンの「これまでの人類史とは、主導的メディアが形作ってきたメディア生態系、メディア・パラダイムの変遷の歴史であった」とする「メディア史観」を基に、Google、ビッグデータ、SNS、ロボット、AI、ウェアラブル、情報倫理といった具体的で個別的な現象を「露頭」と呼び、これらをはじめとして種々の現象を情報社会の分析の俎上に載せ、メディア生態系を暴き出そうと試みています。ただし、電気メディアが声の共同体を地球規模で実現させると考えたマクルーハンの時代的な限界を踏まえて、非人称的なコミュニケーションの自己生成こそ「社会進化」の原動力と考えたルーマンの社会システム論と組み合わせて、情報社会の自己組織化メカニズムを論じる枠組みを基に、情報社会の哲学を展開します。もっとも、マクルーハンやルーマンについて詳しくない私のような読者にはかなり難解な議論が展開されるんですが、情報社会のひとつの特徴的な事象であるビッグデータについてはその無価値性とデータマイニングによる数少ない価値の取り出しなどはまったく同意するんですが、モデルが不要になるという点については私には異論があります。むしろ、ビッグデータでモデルの複雑化がサポートされ、より正確になるんだろうと私は受け止めています。それから、情報社会を素材に哲学を論じながら、なぜか、ハードウェアに近い人工知能とロボットを論じ津第4章は本書の中でも異質であり、2045年シンギュラリティ説のバカバカしさから説き起こし、最後の情報社会における人間に関する節のみあればよく、それ以外は本書に必要とも思えない。むしろ、ない方が本書全体としての論旨が通るような気がしないでもない。「蛇足」そのものであろう。

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次に、マット・ リドレー『進化は万能である』(早川書房) です。著者は英国エコノミスト誌のジャーナリストであり、いくつかある著書の中で私は『繁栄』上下を読んでいて、2011年1月29日付けで読書感想文をアップしています。英語の原題は The Evolution of Everything であり、2015年の出版です。ということで、本書の主張は、設計や計画が成功の秘訣ではなく、ダーウィン的な生物学における「特殊進化論」を社会システムなどを含めて一般化した「一般進化論」的な方法、というか、自然のままに任せた発展や進歩が好ましく、トップダウン思考を破棄してボトムアップな偶然で予想外の方がものごとが上手く行く、との結論なんだろうという気がします。逆から見て、多くの場合は政府ということになるんでしょうが、政府などの公的な機関が制度設計したり、事前に計画を立てたりする必要はない、というよりも、そういった設計や計画はすべきではない、ということです。経済学の分野では、本所でも明確に記している通り、ほぼほぼハイエク的な感覚です。その場合、今日の最初の読書感想文で取り上げたバスー教授の貧困や不平等といった問題意識が抜け落ちる可能性が大きい、と私は危惧します。本書の議論も精粗区々、というか、極めて大雑把で、そもそも、変化とか発展とか進歩というべき歴史を一括して「進化」と言い換えているだけで、しかも、著者本人も認識しているように、進化はかなりゆっくりした長期間の変化である一方で、人類や社会システムなどの歴史では一夜にして大きな変更が加えられることもあり得るわけで、やや議論が大雑把かつ我田引水に過ぎる気がします。もちろん、少なくとも方向としては正しい議論も少なくなく、それだけにやっかいとも見えますが、例えば、エコノミスト的な歴史でいえば、マルサスの「人口論」はまったく大きくハズレにハズレたわけです。他方で、経済につきものの景気循環については、人類の歴史ではマルクスの社会主義とケインズのマクロ経済学が景気循環の影響を和らげようと試みて、先進各国ではケインズ経済学が設計や計画に近い形でそれなりに採用されていて成果を上げているわけですが、ケインズについてはまったく触れられていません。よく判らないんですが、それなりに眉に唾をつけて批判的に読み進むべき本だと私は考えます。

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次に、青谷真未『ショパンの心臓』(ポプラ社) です。今週の読書の中では唯一の小説です。ミステリに仕立ててあります。主人公が勤務する、というか、アルバイトするのが「よろず美術探偵」なる古美術商だったりします。著者は私はよく知りませんが、若手のミステリ作家で、ポプラ社小説新人賞出身作家らしいです。ということで、この作品は、無名の画家ながら美術館で回顧展を開催するので、その画家の最高傑作と目される作品を、就活に失敗して大学を卒業して古美術商でアルバイトを始めた新卒生が探し当てる、というストーリーです。ただ、謎解きとしてはいたって面白みに欠け、平凡かつどうでもいい内容に終わっています。ショパンの心臓というタイトルについては、私は知りませんでしたが、身体と心臓を分けて埋葬されていて、心臓はワルシャワにある聖十字架教会の柱に埋納されていることから、2014年年央にショパンの死因究明のために調査が開始された、という報道があったのも事実です。私は統計や経済モデルに関する国際協力でワルシャワに2週間近く滞在したことがありますが、お土産にはショパンの手をかたどった石膏像を買い求めた記憶があります。すっかりご無沙汰になりましたが、当時はまだピアノを諦めていなかったのかもしれません。本題に戻って、ミステリとしては貧弱極まりないため、というか、何というか、登場人物、特に、主人公である古美術商のアルバイト、そして、回顧展で作品を探している、すでに物故した無名の画家の2人の生い立ちが、極めて複雑怪奇に仕上げられていて、主人公の語り手の生い立ちのパーソナリティから、シリーズにはなりそうもない気がします。タイトルから音楽の薀蓄が得られるかという気もしましたが、まったくそうではありません。ほとんど、音楽やピアノは出てきません。従って、スラッと読むと物足りない気がしますが、そこはそれなりに、新人に近い作家の初期の作品ということで割り引いて考える必要があるかもしれません。でも、次の作品を読みたくなるかどうかは、私についてはビミョーなところです。

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次に、佐和隆光『経済学のすすめ』(岩波新書) です。著者は長らく京都大学教授を務めたエコノミストであり、滋賀大学学長に天下りしています。最初の書き出しから明らかな通り、2015年6月の文部科学省から国立大学への通達で、教員養成系と人文社会系については「組織の廃止や社会的要請の高い領域への転換」を求められたのを受けた反論で始められています。それは別としても、現在のように論文の引用数で評価が決まるのは、日本語で論文を書く機会の多い日本人経済学研究者には不利であるという言い訳が延々と続き、私の目から見るとついでの議論のように見えるんですが、米国流のジャーナル論文重視の研究や教育を批判して、スミス、マルクス、ケインズなどの古典を読むべし、という方向性が示されたりします。しかし、最後の最後、あとがき直前のパラグラフでは、現在の日本の経済学教育もよろしくなく、モラル・サイエンスとしての経済学を学ぶことが重要ということのようです。文部科学省の通達のように、経済学部の廃止や転換までは視野に入れないとしても、日本の大学の経済学教育はこのままでいいのか、それとも、何らかの改革が必要なのか、どうも、本書自体の論旨が大きく飛んだりクネクネとうねっていたりして、私もよく判らず、従って、どこまでホンキで読めばいいのか、それとも、単なる愚痴として聞き流すべきなのか、判断に迷うところです。pp.170-171 あたりで、経済学を学ぶ意義として、言語リテラシー、数学的リテラシー、データリテラシーの3つを身につける一番の近道、といいつつ、さまざまな社会現象を理解する上で経済学の知識は不可欠、という程度の結論しか導き出せないのは、やや物足りない気がします。私が大いに同意するのは大きなくくりで2点あり、モラル・サイエンスと同義かどうかは自信ありませんが、経済学における正義を重視する点と、もうひとつは、論文ではなくスミスやマルクスやケインズなどの古典を読む重要性を協調している点です。いずれにせよ、著者はかねてより市場原理主義的な右派の経済学に対して批判的で、リベラルな見方を示すとても常識的なエコノミストでしたし、リベラルであるがゆえに岩波書店から岩波新書などを出版しているんでしょうが、逆に、岩波新書だからどうしようもなく、ほとんど何の関係のない「安倍政権の憲法改正」が盛り込まれていたりして、でも、本書の大きな弱点は、大学教員の身分や業績評価などについて、論理性に欠ける議論がなされているように見受けられる点です。すなわち、文部科学省の通達では、職業としての経済学部教授が不要といわれているのに近いわけで、それをムキになって反論しようとしているように見る人もいそうな気がします。国立大学の法人化にも反対だったようですので、かなり強い現状維持バイアスをお持ちなのかもしれませんが、本書のようなタイトルの下で、余りにも、こういった議論を展開し過ぎると、一時の特定郵便局長や私クラスの小役人みたいに、高邁なる学者先生が「保身」に走っているとの意地の悪い見方をする人も現れかねない危険があります。それはとっても残念です。

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最後に、氏家幹人『古文書に見る江戸犯罪考』(祥伝社新書) です。著者は歴史研究家ということで、江戸期の著作が何点かあるようですが、私は専門外で詳しくは存じません。本書では、 それなりに信憑性ある史料をひも解き、江戸時代の犯罪と刑罰について夜話ふうに14話に取りまとめて紹介しています。テーマは、児童虐待と児童の犯罪、介護の悲劇、夫婦間トラブル、通り魔殺人、多彩な詐欺などなどですが、何といっても江戸期の犯罪のハイライトは鼠小僧次郎吉でしょう。その前座で、ショボい盗みばかりの田舎小僧を解説し、鼠小僧についてはp.243に100件余りの犯行暦をテーブルに取りまとめています。捉えられてから処刑されるまでの所作振舞も詳しく紹介されており、織豊期を代表する石川五右衛門とともに、江戸期を代表する怪盗の面目躍如なのかもしれません。専門外である私の不確かな記憶によれば、徳川政権や地方の大名の権力基盤がかなりしっかりしていたので、江戸時代には膨大な史料が残されています。幕府や各藩の調査も権力あるだけに詳細に渡っていたりもします。その中でも、現代に移し替えれば新聞などのメディアの社会部が担当しそうな犯罪に関しては、特に詳細な記録が残されていることと推察しますが、逆に、その膨大な史料を読み解くのもタイヘンそうな印象もあります。テーマが犯罪ですので、被害者に思いを寄せると気の毒なケースも少なくないんでしょうし、血なまぐさかったり、見るに堪えない犯罪も少なくないながら、その時代の社会性をうかがわせる史料も少なくないことと思います。特に、窃盗に関して、現代との隔絶ぶりに驚かされます。

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2016年11月11日 (金)

着実にマイナス幅を縮小させる企業物価(PPI)上昇率の今後のゆくえやいかに?

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI)が公表されています。ヘッドラインの国内物価上昇率は前年同月比で▲2.7%の下落を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業物価指数、前年比2.7%下落 前月比は0.1%下落
日銀が11日に発表した10月の国内企業物価指数(2010年平均=100)は98.7で、前年同月比で2.7%下落した。前年比で下落するのは19カ月連続。原油や石炭などの国際商品市況の持ち直しや円高の一服を受け、下落率は5カ月連続で縮小し、15年6月以来の小ささとなった。
前月比では0.1%下落だった。7-9月の夏季電力料金期間の終了による電力価格の下落が主な背景。この影響を除けば前月比で0.1%の上昇だった。
円ベースの輸出物価は前月比で1.1%上昇、前年同月比で9.8%下落した。輸入物価は前月比で2.4%上昇し、前年比では14.4%下げた。輸出入物価の前年同月比での下落も原油や原料炭などの国際商品価格の上昇を受け、持ち直しつつある。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち前年同月比で下落したのは519品目、上昇は210品目だった。下落と上昇の品目差は309品目で、9月の確報値(302品目)から拡大した。
日銀は「資源・エネルギー価格の上昇を受け全体としては強めの動きだが、円高の影響は残っており、個々の品目では下落も目立つ」と指摘。その上で「為替や国際商品市況の動向に加え、米大統領選の結果がマーケットや物価に与える影響も注視していく」とした。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネから順に、国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、需要段階別の上昇率、最後に、輸入物価のうちの円建て原油価格指数を、それぞれプロットしています。上の2つのペネルで影をつけた部分は、景気後退期を示しています。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスはヘッドラインの国内物価の前年同月比上昇率で▲2.6%の下落でしたから、やや下振れしたとはいうものの、ほぼジャストミートした気がします。引用した記事にもある通り、国内物価の前年同月比は今年2016年5月の▲4.4%の下落から今日発表の10月速報値の▲2.7%まで、5か月連続で一貫して下落幅を縮小させています。基本的には、国際商品市況における石油価格の動向に従った動きなんですが、上のグラフのうちの3枚目一番下のパネルに見る通り、最近時点では円建て原油価格の上昇が鈍っているのは円高の影響です。輸入物価の前年同月比で見ると明らかで、10月速報値で契約通貨ベースでは▲4.7%の下落までマイナス幅を縮小させた一方で、円建てではまだ▲14.4%と大きなマイナスが残っています。為替相場の先行きはそうでなくても不透明なんですが、今週は特には米国大統領選挙の結果で乱高下しています。経常収支や貿易収支などの対外収支の為替への反応は、私は基本的に弾力性ペシミストですので、それほど大きな影響もなく、むしろ、景気動向などの需要要因の方が大きいんではないかと考えているんですが、物価については為替や原油価格から物価へのパススルーが最近時点で復活しつつあり、円安は日銀のインフレ目標に貢献できる、との一橋大学塩路先生の研究成果などもあり、それなりの影響は認められます。国際商品市況の石油価格とともに為替相場も、ひょっとしたら、日銀の政策動向以上に今後の注目点かもしれません。

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今日は我が家の結婚記念日!

今日は女房と私の結婚記念日です。出勤して仕事すれば忘れてしまいそうですので、早めに記念日のブログをアップしておきます。
上の倅は来月で20歳に成人しますし、2人してアラ還のいい年に達したような気がします。
我が家の恒例によりジャンボくす玉を置いておきますので、めでたいとお思いのご奇特な向きはクリックして割って下されば幸いです。

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2016年11月10日 (木)

設備投資の先行きを占う機械受注もトランプ・ショックで不透明感!

本日、内閣府から9月の機械受注が公表されています。変動の激しい船舶と電力を除くコア機械受注の季節調整済みの系列で見て、前月から▲3.3%減の8437億円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、9月は3.3%減 判断「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に下げ
内閣府が10日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)は前月比3.3%減の8437億円だった。減少は2カ月連続。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(0.5%減)を大幅に下回った。機械受注の判断は「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直しの動きに足踏みがみられる」へと4カ月ぶりに下方修正した。
製造業からの受注額は5.0%減の3355億円と2カ月連続でマイナスだった。産業機械や産業ロボットで大型案件があったその他製造業や、このところ増加傾向にあった食品製造業で反動減が出た。非製造業の受注額は0.9%減の5103億円と同じく2カ月連続で減った。原子力原動機で伸びた反動から、その他非製造業が大きく落ち込んだ。
前年同月比での「船舶・電力を除く民需」受注額(原数値)は4.3%増だった。
併せて公表した7-9月期の船舶・電力を除いた民需の受注額は2兆6080億円と前期比7.3%増だった。7月が大幅に増加したことが奏功し、内閣府が8月に開示していた7-9月期見通し(5.2%増)を大きく上回った。
10-12月期は5.9%減の見通し。7-9月の受注額が大きく伸びており、内閣府は「ここからさらに積み上がるような期待が持てない」としている。製造業が3.8%減、非製造業も6.2%減とともに落ち込む見込みだ。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスはコア機械受注の前月比で▲0.5%の減少でしたから、統計を見る限り、機械受注はかなり弱い動きといえます。加えて、10-12月期の受注見込みも▲5.9%減ですから、設備投資の先行きは決して明るくないと考えるべきです。ただ、季節調整していない原系列の受注見込みを機種別の前年同月比で見ると、変動の激しい鉄道車両▲4.7%減、道路車両▲0.5%減、船舶▲67.2%減などが押し下げに寄与しているのも事実です。なお、合計の前年同月比は▲4.0%減となっています。
昨日、結果が明らかになった米国大統領選挙の結果を受けて、今日の東証株価指数は1,000円を超える上げ幅となりました。為替も106円に達する水準となり、市場は乱高下しています。米国内では反トランプを標榜するデモが各地に広がっていると報じられていますし、我が国の企業マインド、特に先行きの設備投資に及ぼす影響は、現時点では、文字通りの意味で、計り知れません。今日発表された機械受注も、当然、昨日の米国大統領選挙の結果が判明する前の情報に基づいており、トランプ次期米国大統領の政策などが明らかにされ、市場などがもう少し落ち着くまで、先行きの経済見通しや予測については、何ともいいがたい状況が続きそうな気もします。

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2016年11月 9日 (水)

上昇続く景気ウオッチャーもトランプ・ショックでマインドはどうなるのか?

本日、内閣府から10月の景気ウォッチャーが、また、財務省から9月の経常収支が、それぞれ公表されています。季節調整済みの系列で見て、景気ウォッチャーの現状判断DIは前月から+3.0ポイント上昇の49.3を、また、先行き判断DIは+1.5ポイント上昇の51.4をそれぞれ記録し、経常収支は季節調整していない原系列の統計で1兆兆8210億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りす。

10月の街角景気、3.0ポイント上昇 基調判断上げ
内閣府が9日発表した10月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整値)は49.3と3ポイント上昇し、4カ月連続で改善した。原数値は46.2と、前月比1.4ポイント上昇した。改善は2カ月ぶり。内閣府は基調判断を「持ち直している」と、2カ月ぶりに引き上げた。
企業動向は製造業と非製造業がともに改善した。「公共工事、民間建築工事とも、受注量が順調に確保できている」(北海道・建設業)という。雇用関連では「全業種において新規求人が増えているが、中でも労働者派遣業を含む製造業や娯楽業の求人が増加している」との指摘があった。
家計動向も改善した。小売りや飲食、サービス関連が伸びた。「例年10月は繁忙月だが、今年はインバウンドも含めた団体客が非常に多い」(北関東・都市型ホテル)という。
2-3カ月後の先行きを聞いた先行き判断指数(季節調整値)は前月より1.5ポイント高い51.4だった。上昇は4カ月連続で、節目の50を上回るのは、2015年12月(50.5)以来、11カ月ぶり。原数値は49.0と0.5ポイント上昇した。改善は4カ月連続。「受注の見込み情報が、増加傾向にある」(東海・一般機械器具製造業)との声があった。
内閣府は今回の街角景気から季節調整値を中心に公表する。これまで基準としていた原数値は参考データとして引き続き発表する。
9月の経常収支、1兆8210億円の黒字 原油安で貿易収支が改善
財務省が9日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆8210億円の黒字だった。前年同月(1兆4521億円)に比べて3688億円黒字幅が拡大した。黒字は27カ月連続。原油安で貿易収支の黒字幅が拡大したことが寄与した。
貿易収支は6424億円の黒字(前年同月は684億円の黒字)だった。原油や液化天然ガス(LNG)など燃料価格の下落で輸入額が5兆1962億円と17.5%減少。円高で外貨建ての輸入額も目減りした。自動車や鉄鋼の落ち込みで輸出額も5兆8386億円と8.3%減少したが、輸入の減少幅が上回った。
サービス収支は1118億円の赤字(前年同月は593億円の赤字)だった。円高で知的財産使用料などが目減りした。旅行収支は670億円の黒字と、2カ月ぶりに黒字幅が拡大した。
第1次所得収支は1兆5066億円の黒字だった。円高で証券投資などの収益が目減りし、前年同月(1兆6811億円)から黒字幅を縮小した。
同時に発表した2016年4-9月の経常収支は10兆3554億円の黒字だった。黒字額は07年下期(10月-08年3月、11兆8560億円)以来の高水準。08年のリーマン・ショック以降で最高となった。原油安で貿易収支が黒字に転化したことが寄与した。貿易収支は2兆9955億円の黒字、第1次所得収支は9兆2599億円の黒字だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2つの統計を並べるとどうしても長くなってしまいがちです。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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引用した記事にもある通り、我がブログでは2か月前から景気ウォッチャーは季節調整済みの系列で見るように改めたところ、統計作成官庁の内閣府でも今月統計から季節調整済みの系列を中心に据えたようです。というのも、先月統計では、季節調整していない原系列の統計で見ると、現状判断DIが低下したものの、季節調整値で見ると、現状判断DIも先行き判断DIもいずれも上昇を示したわけで、軽く考えると、原系列の統計では季節要因により低下した、との結論だったんですが、判りにくくて評判が悪かった気がします。でも、今日発表の10月統計では、季節調整済みの系列でも、季節調整していない原系列でも、現状判断DIも先行き判断DIも、4つの系列すべてが上昇しています。特に、季節調整済みの現状判断DIは前月から+3.0ポイント上昇と上昇幅がとても大きくなっています。DIを構成する家計関連、企業関連、雇用関連すべてが前月から上昇し、単月ながら、特に、小売関連の+4.8ポイント上昇が目立っています。もう少し長く見て、現状判断DIは6月の39.8から10月には49.3まで上昇し、4か月間でほぼ10ポイント近い上昇を記録しています。従って、年央から供給サイドの消費者マインドはかなり上向いた、との結果が示されています。もっとも、水準としてはこの10月の現状判断DIは昨年の年末から今年の年始にかけてのレベルに戻っただけであるとの反論もあり得ますが、DIですので水準よりも方向性の方が重要であることは理解すべきです。統計作成官庁である内閣府が基調判断を「持ち直している」と、前月までの「持ち直しの動きがみられる」から半ノッチ引き上げたのも当然かもしれません。ただし、これは今日の夕方くらいまでの統計の評価であり、米国大統領選挙の結果は6月の英国のEU離脱=BREXITを大きく超えるショックだったと考えられますので、我が国の消費者や企業のマインドにどのような影響を及ぼすかは、今後、十分注視する必要があります。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれませんが、経常収支についてもかなり震災前の水準に戻りつつある、と私は受け止めています。ただし、引用した記事にもある通り、経常黒字の背景は国際商品市況における石油価格低下であり、場合によっては、石油価格の動向という不透明な要因支えられていることは忘れるべきではありません。もちろん、為替要因についても円高の進行が企業収益だけでなく、対外バランスに及ぼす響は無視できません。加えて、インバウンド消費も経常収支を黒字の方向に引っ張って来ていましたが、この3要因、すなわち、石油価格、為替、訪日観光客の3要因すべてが、最近時点ではやや逆回りし始めた印象があり、経常収支も先行きが不透明な気がします。

最後に、米国大統領選挙では、トランプ候補が勝利し、アジアや欧州の市場はBREXITを大きく超える大混乱の様相です。この先、最大の不透明要因が米国政治なのかもしれません。エコノミストには見通しがたい先行きです。

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2016年11月 8日 (火)

足踏みの続く景気動向指数から景気の現状をどう考えるか?

本日、内閣府から9月の景気動向指数が公表されています。CI一致指数は前月から+0.2ポイント上昇の112.1を示した一方で、CI先行指数は▲0.4ポイント下降して100.5を記録しました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の景気一致指数、0.2ポイント上昇 耐久消費財出荷指数が改善
内閣府が8日発表した9月の景気動向指数(CI=2010年)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比0.2ポイント上昇の112.1だった。上昇は2カ月ぶり。自動車で北米向け輸出や国内向け出荷が伸び、耐久消費財出荷指数が改善した。汎用・生産用・業務用機械や電子部品の出荷が好調で中小企業出荷指数(製造業)もプラスに働いた。
内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「足踏みを示している」に据え置いた。前月から比較可能な8指標のうち5つがプラスに寄与した。
ただ、数カ月先の景気を示す先行指数は0.4ポイント低下の100.5にとどまった。低下は2カ月ぶり。中小企業売り上げ見通しDIや鉱工業生産財在庫率指数、最終需要財在庫率指数が指数低下につながった。マネーストック(M2)などは改善したものの補えなかった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、CI一致指数はわずかに上昇し、CI先行指数が下降しています。なお、CI一致指数は前月の統計から、3か月後方移動平均も7か月後方移動平均もプラスに転じており、本日公表された9月統計で2か月連続となります。ただし、プラス幅が1標準偏差に達していないため、統計作成官庁である内閣府の基調判断は「足踏み」で据え置かれています。わずかながらプラスを示したCI一致指数に対して、プラスに寄与した系列は、耐久消費財出荷指数がもっとも大きく+0.28、続いて、中小企業出荷指数(製造業)+0.08、鉱工業用生産財出荷指数+0.07などとなっています。逆に、商業販売額(卸売業)(前年同月比)のマイナス寄与が大きく▲0.19、次いで投資財出荷指数(除輸送機械)▲0.07などとなっています。また、前月から下降したCI先行指数に対して、中小企業売上げ見通しDIがもっとも大きなマイナス寄与を示しており▲0.62、次いで、鉱工業用生産財在庫率指数▲0.33と最終需要財在庫率指数▲0.16などとなっていますから、在庫調整がまだ遅れている印象が残ります。全体として、内閣府の基調判断の通り、景気が踊り場にあることが景気指標の統計からも確認された、ということになろうかと受け止めています。もっとも、方向性としてはCI一致指数の後方移動平均が先月からプラスに転じていますので、「足踏み」の踊り場ながら、方向は上向きであると考えるべきです。

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2016年11月 7日 (月)

順調な夏季ボーナスの伸び示す毎月勤労統計!

本日、厚生労働省から9月の毎月勤労統計が、それぞれ公表されています。現金給与指数のうちの所定内給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.2%の伸びを示す一方で、今年の夏季ボーナスは前年比+2.3%増の36万5008円を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

夏のボーナス2.3%増 9月、実質賃金も0.9%増
厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、今夏の1人あたりのボーナスは前年より2.3%多い36万5008円だった。夏のボーナス増は2年ぶり。9月の物価変動の影響を除いた実質賃金も前年同月比0.9%増えた。前年同月を上回るのは8カ月連続。人手不足を背景に当面は賃金の増加が続く見通しだ。
夏のボーナスが増えたのは企業業績の改善を反映している。事業所別にみると、不動産・物品賃貸業(19.8%増)や情報通信業(8.5%増)などが大きく伸びた。
9月の従業員1人当たりの現金給与総額は26万5325円と、前年同月に比べ0.2%増えた。増加は2カ月ぶり。基本給にあたる所定内給与は0.4%増の24万838円だった。
フルタイムで働く一般労働者の基本給は0.5%増と小幅だが着実に伸びている。通勤費などを示す特別に支払われた給与は前年同月に比べて2.9%減った。6-8月は一時的な夏季賞与の増加が名目賃金増加の要因だったが、9月は基本給が賃金を押し上げた。
実質賃金の増加は給与の伸びが物価を上回っていることを示す。9月の消費者物価指数(CPI)は、持ち家を仮に借家とみなした場合に支払われるであろう「帰属家賃」を除く総合の指数で0.6%下落していた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、その次の3番目のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、1番下のパネルはその雇用指数そのものを、それぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期です。

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まず、景気に敏感な所定外労働時間については、ほぼ鉱工業生産指数と整合的な動きを示しており、9月の生産は前月比で横ばいでしたが、所定外労働時間は+1.4%増となっています。ならして見れば、底を打った気はするものの、横ばい圏内での動きではなかろうかと私は考えています。続いて、注目の賃金は、引用した記事にもある通り、6-8月のボーナス支給期間を過ぎてもプラスを続けています。まだまだ、人手不足に比較して物足りない賃金の伸びですが、基本給にあたる所定内給与は小幅ながら伸び率が拡大しつつあり、消費に影響の大きい恒常所得部分では底堅い動きを示しています。従って、消費には大きな懸念ないものと受け止めています。最後に、パートタイム労働者に比べてフルタイムの一般労働者の伸びが追いついてきたようで、かねてよりこのブログでも主張している通り、ほぼほぼ完全雇用に近い人手不足の現在の労働市場は賃上げではなく正規雇用の増加という雇用の質の向上に適しているのかもしれません。でも、賃金が上がる方向も見えて来たように感じないでもありません。

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続いて、産業別の夏季ボーナスの結果が上のグラフの通りです。上のパネルは実額、下は昨年からの伸び率です。なお、調査産業全体では、繰り返しになりますが、前年比+2.3%増の36万5008円でした。引用した記事にもある通り、不動産・物品賃貸業や情報通信業の伸びが高くなっていますが、実額では電気・ガス業のボーナスがまだまだ高額であることが明らかになっています。また、円高の影響で製造業の伸びが小さくなっている一方で、人手不足のために非製造業の伸びが高まっているように見受けられます。不動産・物品賃貸業をはじめとして、伸び率の高い産業は、大雑把に、人手不足の影響が大きいんではないかと推測しています。最後の最後に、昨年の夏季ボーナスは人手不足の中で前年比マイナスの統計を発表して、一気に信頼性を低下させた毎月勤労統計なんですが、今年の夏季ボーナスはまずまず実感と一致する結果が出たような気がします。

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2016年11月 6日 (日)

先週の読書は経済書も専門書も小説もいろいろあって計10冊!

今週はやっぱり10冊の大台に達してしまいました。以下の通りです。

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まず、井堀利宏・小西秀樹『政治経済学で読み解く政府の行動』(木鐸社) です。著者は財政学や公共経済学を専門とする研究者です。本書では基本的にモデル分析に終始していて、第4章のサーベイを別にすれば、数学的な解を求める研究書・学術書といえます。ですから、数式を解いたり、第8章の前半だけながら、グラフで示したりしています。もちろん、数学付録はそれなりに充実していますが、それほど親切ではなく、特に第7章の数学付録は私ですらついて行くのが少し難しかった感があります。というころで、本書は狭義の政府、すなわち地方政府は含むが中央銀行は対象としない政府の政治経済的な行動分析を主としてモデルを用いて行っています。ゲーム理論の応用もいくつかの章でなされています。単に、財政支出と税収だけでなく、最初の第2章は財政支出の物価理論から始まっていますし、社会保障や中央政府と地方政府の関係はいうに及ばず、自由貿易協定や資本移動に関する政府の行動、あるいは、選挙や選挙の際の献金活動までカバーしています。公共投資についてはかつての高度成長期から生産誘発効果が落ちているのはその通りでしょうし、消費税が引退世代の消費も捕捉して社会保障財源として好ましいのも事実です。ただ、井堀先生、あるいは、井堀先生のお弟子さんである慶応大学の土居先生なんかのバイアスがあって、政府の財政赤字に対して厳しい態度を持って臨んでいるような気がします。私のようなユルいエコノミストからすれば、少なくともマーケットが考える政府の予算制約式は財政支出と税収の均衡ではなく、財政支出と潜在的な課税可能性や徴税能力の均衡ではないかという気もします。TPPやアベノミクスの新たな3本の矢についてはかなり最新の情報まで盛り込まれているものの、地方政府に関する議論では「三位一体改革」で止まっていて、平成の大合併に触れていないのも不思議な気がします。ただし、法人税率の引き下げなどのグローバルな底辺への競争に関する危惧については私も共有します。いずれにせよ、一般のビジネスパーソン向けではなく、学術書で数式の展開がいっぱい盛り込まれているのは覚悟してから読み始めるべきだという気がします。

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次に、ダヨ・オロパデ『アフリカ 希望の大陸』(英治出版) です。著者はナイジェリア系米国人ジャーナリストです。英語の原題は The Bright Continent であり、2014年の出版となっており、かつては先進国から「暗黒大陸」と称されたアフリカの現在を明らかにし、「暗黒」とは反対になっている様子をタイトルに象徴させています。ということで、アフリカ大陸は民族紛争による内戦、政治や官僚の腐敗、気候の厳しさや広範に残る貧困などから、ビジネスをするにしても、国際機関やNGOが援助などの活動をするにしても、難しい場所という印象は依然として強いものの、最近では、豊富な資源と今後の発展の可能性から、特に、2000年国連ミレニアム目標の策定や2005年のグレンイーグルズ・サミットでも最後のフロンティアとして、それなりに注目を受けています。加えて、ここ数年ではよきにつけ悪しきにつけ、中国の進出が世界の目に止まっているのも事実です。さらに、本書では著者が先進IT起業家からごく普通の村人や農家、あるいは、政治家まで、ジャーナリストとしての豊富なインタビューと最新の知見を基に、これまでのネガティブな印象を覆すような、新しいアフリカの見方を提示しています。本書の章別構成に見る通り、家族、テクノロジー、商業、自然、そして若さという5つの切り口から現在のアフリカとその未来を集約しています。ただ、太った国と痩せた国の表現はともかく、冒頭に出てくる「カンジュ」の精神は、まあ、あるとしても、こういった生命力の強さのような要素はアフリカだけでなく、アジアでも中南米でも、途上国ではどこでも見られるという点で、少し私の見方は異なります。従来から、日本がアジアに、欧州がアフリカに、米国が中南米に、それぞれ援助の中心を置くという政策的な方向性が大きく変わったわけではありませんし、中国をはじめとするアジアがここ20-30年で大きく経済発展を遂げただけに、アフリカがやや取り残された感があって、それだけにアフリカに対する援助政策やビジネスの眼が向きがちであることも事実です。私のような開発や援助に興味あるエコノミストだけでなく、ビジネスマンも含めて広くアフリカへの関心が高まることを期待しています。

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次に、バスティアン・オーバーマイヤー/フレデリック・オーバーマイヤー『パナマ文書』(角川書店) です。著者は2人とも南ドイツ新聞のジャーナリストです。パナマ文書解明のために南ドイツ新聞で始められたプロメテウスなるプロジェクトの中心となるジャーナリストです。同じ姓なので何か姻戚関係があるのかという気もしましたが、上の表紙画像を見れば明らかな通り、スペルが違っていますので赤の他人なんだろうと理解しています。ただ、本書の中では「オーバーマイヤー・ブラザーズ」として2人1組でのご案内があったりもします。原題はそのままに Panama Papers で、副題はドイツ語ですので私は理解できず割愛します。今年2016年の出版です。ということで、話題の書です。オフショアのタックスヘイブンとしても有名なパナマにある大手の法律事務所であるモサック=フォンセカ(モスフォン)からのリークを受けたジャーナリスト本人によるドキュメンタリーです。匿名のリークは、最終的には、2.6テラバイトに及ぶそうで、画像や動画が入っていればともかく、もしもテキストだけでこの容量ならば、とてつもない文書量だという気がします。リークを受けた南ドイツ新聞のジャーナリストは、米国首都のワシントンに本部を置く非営利団体である国際調査報道ジャーナリスト連合(ICIJ)の協力を求め、最終的には70か国、400人にも及ぶジャーナリスト達が調査活動に加わることとなったそうです。214,000の架空会社が関係する1,150万件にも上るデータに多数のジャーナリストが格闘し、今年2016年4月に明らかにされたのはまだ記憶に新しいところです。この4月にさかのぼること3か月ほどの前にアイスランド首相が辞任に追い込まれニュースも記憶にある人は少なくないことと思います。やや民主主義の怪しげなロシアや中南米や中国、特にアフリカなどの途上国の独裁者はもちろん、トップに近い政界や官界、スポーツ界のスーパースター、その他、あらゆるスーパーリッチ、ハイパーリッチがこのパナマ文書に名を連ねています。特に、アフリカを取り上げた第18章が私には印象的でした。それから、第29章で著者自身が認めている通り、本書では個人だけが対象として取り上げられており、アマゾンやアップルやスターバックスなどの法人企業の租税回避活動については触れられていません。それから、アジアの極東に住むものとして、北朝鮮がまったく登場しないのは、結局、裏が取れなかったのか、あるいは、あまりにも数字が小さいので重要性が低いと判断されたのか、やや残念な気もします。また、同じ第29章では解決策らしき提言がないでもないんですが、国境を超える金融取引に課税するトービン税についても言及が欲しかったところです。でも、話題の書ですし、とても面白いです。読んでおいてソンはありません。

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次に、ツヴェタン・トドロフ『民主主義の内なる敵』(みすず書房) です。著者はブルガリア生まれでフランス在住の研究者であり、文学の構造批評や一般人類学などの専門だそうです。私はよく知りません。フランス構造主義ですから、フォーディズムを資本主義のあり方の一部と解釈し、マルクス主義の影響を強く受けています。ソーカル事件のような難解かつあまり意味を汲み取れない文章ではなく、それなりに私なんかにはスラスラ読めましたが、まあ、難しい文章と感じる読書子も少なくないかもしれません。ただ、それほどの中身はありません。フランス語の原題は Les ennemis intimes de la démocratie ですから邦訳のタイトルは直訳そのままです。2012年の出版ですから、米国大統領選挙のトランプ候補のお話はまったく出て来ません。ということで、本書の立場は王権神授説に基づく絶対王政からフランス革命などを経た民主主義の特徴を平等と自由と捉えつつ、その民主主義下での個人の自由意思が暴走して民主主義を脅かす、という見方をしています。私はこれがまったく誤った見方だと受け止めていますので、それ以降は論評にならないかもしれませんが、著者はその防法の一形態としてポピュリズムを捉えています。しかも、ポピュリズムが排外主義的な外国人排斥を伴って現れている、として、そこらあたりまでは米国のトランプ候補などの前触れとして予見的な意見かもしれませんし、第6章などで、現在のポピュリズムはファシズムの再出現ではなく(p.173)、右派だとも左派だともいえず、「下に」属している(p.178)、と喝破する分には爽快でいいような気もしますが、第7章で、民主主義はその行き過ぎによって病んでいて、自由が暴政と化し、人民は操作可能な群衆となってしまっている(p.220)というあたりは、まったくの謬見としか思えません。結論として、こうした一連の「行き過ぎ」を戒め、「中庸」の徳を説くということになるわけですが、民主主義とはひとつの統治システムという観点が抜けているような気がします。そして、民主主義は統治システムとして、歴史上で初めてそのシステム自身を否定する思想を内部に許容するシステムなわけで、それを行き過ぎとか暴走というのは、私には見識不足としか見えません。民主主義そのものを否定しかねない思想の自由を許容するのが民主主義のひとつの特徴ですから、それを弱点としてとらえて主権を有する国民の良識で修正しようとするのが著者の立場といえますが、私には、それは弱点ではなくひとつの特徴に過ぎず、そういった著者が「行き過ぎ」と呼ぶ変動を経て何が正しいかを主権を有する国民が選択するのが正しい民主主義のあり方だと理解しています。長らく国家公務員をしてきた者として、主権を有する国民は長期的には正しい選択をするのであるから、その選択や当地のシステムとして民意が反映される民主主義を活用すべき、というのが私の考えです。ワイマール憲法下の授権法などの特異な冷害や現在のポピュリズムに対して、これらを民主主義の弱点と捉えて「中庸」の必要性を主権者に要請し、修正の必要を議論するべきではありません。それが出来ないならば、ワイマール時代のドイツではありませんが、何らかのきっかけにより主権者でなくなる可能性があるのが民主主義だと考えるべきです。

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次に、小川忠『インドネシア イスラーム大国の変貌』(新潮選書) です。著者は国際交流基金職員として、2度に渡ってインドネシア勤務の経験があります。私自身は2000年から3年間、家族を伴ってインドネシアの首都ジャカルタで暮らした経験を持っています。そのインドネシアは、いうまでもなく、世界で最もイスラム教徒人口が多いという意味でイスラムの大国となっています。ただ、中東などでイスラム教徒の自爆テロなどの報道がなされ、我が家がジャカルタにいたころでさえ、2002年10月にはバリ島で爆弾テロが起こったりしていました。私は経済モデルの専門家として、バリ島のテロの経済的な影響について、"Preliminary Estimation of Impact of Bali Tragedy on Indonesian Economy" として簡単なりポートに取りまとめたりしました。ということで、本書の著者はインドネシアの現状について分かれ目と捉え、欧米や日本などと協調しつつイスラーム国家の模範となるか、あるいは、テロの温床と化すか、と論じています。もちろん、インドネシアが国家を上げてテロの温床となる可能性はほぼほぼないんですが、なにせ、人口規模が大きいだけに、国民に占める比率は小さくとも、人数では一定数のテロリストを生み出してしまう可能性があるわけです。私の個人的な記憶からしても、インドネシアは飛び切りの親日国であるとともに、資源も豊富で経済成長も著しい東南アジアの一員として、スハルト後の民主化も進み、地政学的な位置取りからも、我が国にとってばかりでなく、地域的にも世界的にも重要な国であることはいうまでもありません。そのインドネシアについて、経済面ではやや物足りないものの、政治、文化、宗教、教育などの面から東南アジアのイスラム大国の現状に本書は鋭く迫ります。私の少し前にジャカルタに駐在していた同僚のエコノミストが読んでいたので、私も強い興味を持って借りてみました。

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次に、楊海英『逆転の大中国史』(文藝春秋) です。著者は南モンゴル生まれで、現在は静岡大学勤務の文化人類学の研究者です。タイトル通り、中国の首都北京から視点を逆転させてユーラシアに着目すれば、東アジアの歴史がどう見えるかを検証しています。序章を一通り読めば、著者の考えは明らかで、第1章以降はそれを補強するような材料を取り上げているに過ぎないんですが、要するに、中国史というのは漢人の王朝史では決してなく、典型的には元や清のように漢人ではないという意味で征服王朝が少なくなく、地球規模で最初のグローバル化が進んだは唐の時代でしょうが、唐王朝も漢人ではない可能性を示唆しています。時に、第1章で展開されるんですが、著者は「漢民族」という言葉は使わず、「漢人」と称していて、どう定義するかといえば、漢字を使う人々という意味だそうです。なかなか秀逸な定義だという気がします。その意味で、本書に貼りませんが、私の趣味の書道の知識として、役所の公用語として漢字の中の楷書が成立したのが北魏から隋の初頭くらいで、漢字文化をもっとも強烈に感じさせる人物が唐初頭の王羲之です。著者の主張は私の直観にも合致するといえます。また、中国は人口が多いので合議制には向かない可能性が高く、皇帝専制政治になるとの著者の示唆にも、なるほどと感じさせられました。ですから、中国の王朝史では辺境から入り込んだ戦闘にだけ長けた匈奴やモンゴル人に対比して、戦闘には向かないが文化のレベルが段違いに高い漢人、という歴史観を否定されると、それはそういう見方もあるかもしれないと思わないでもありません。特に、明初頭の大航海時代を先取りするような海外遠征の放棄については、漢人の大きな弱点を露呈した可能性はあると思います。ただ、さすがに、本書で展開されるのはモンゴル人の著者の歴史観であって我田引水ははなはだしく、例えば、匈奴に送られた王昭君が不幸ではなくそれなりに幸福だったかどうかは疑問です。現在の共産党政府が中国の王朝市の伝統に立って正当性を主張しているのか、あるいは、先行きの易姓革命の発生を恐れて否定しているのか、私は詳細には知りませんが、東アジア史の中で中国、著者のいうシナの占める位置は圧倒的であり、モンゴルや日本、他の漢字文化圏と考えられる朝鮮半島やベトナムなどはいうに及ばず、ユーラシア大陸中央部に占める遊牧の民の重要性は、中国中原には及ばない、と私のように常識的に考えるのが普通ではないかという気がします。

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次に、吉田修一『橋を渡る』(文藝春秋) です。人気作家の最新作です。ようやく図書館の予約が回って来ました。春夏秋冬の4章構成と非常にシンプルながら、特に最終の第4章を含めると、とても複雑なストーリー展開で、私のような頭の回転の鈍い読書家は最終章はよく読まないとついて行けません。第1章の春ではビール会社の営業課長と絵画ギャラリー経営の夫婦が、親戚の商社マンの海外赴任で日本に残された甥っ子の高校生を預かったのはいいんですが、恋人の女子高生を妊娠させてしまいます。第2章の夏では都議会議員の家族を中心にストーリーが進み、都議会議員がワイロを受け取ることをその妻が知ってしまいます。第3章の秋では香港の雨傘革命や生殖医療を取材するTV会社のディレクターが、短くいうと、痴情のもつれから2か月先に迫った結婚式を前に婚約者を絞殺してしまいます。そして、第4章の冬では一気に70年後の2085年に舞台が飛びます。その未来では、「サイン」と呼ばれる生殖医療の発展により生み出された新しい生殖方法により誕生した人類が差別を受けていたり、第3章の殺人犯がワームホールを通ってタイム・スリップして来たりします。私もこの作者の作品はかなり好きですのでそれなりに読んでいるつもりなんですが、何だか、今までになかったパターンです。SFといってもいいのかもしれません。違和感がないといえば嘘になるんですが、さすがの表現力と筆力でキチンと書き切ってありますので、よく読めばそれなりに70年前の出来事との関連は理解できます。そして、70年後にタイム・スリップする登場人物にも同じことをいわせているんですが、70年後の未来は決してユートピアではない一方で、ディストピアでもありません。私自身はこの作者の作品でもっとも高く評価しているのは『横道世之介』であり、割合とノホホンとしたストーリーだったりするんですが、ここ10年ほどのこの作者の作品、特に、映画でもヒットした『悪人』以降の、『平成猿蟹合戦図』、『太陽は動かない』など、特に最近作の『怒り』なんかでは、少し暴力的な要素が入って来たような気もします。そして、村上春樹にもこういった暴力的な要素を含む作品を発表していた時期があったようにも記憶しています。大作家とはこういうものなのかもしれません。最後に、作者がこの作品を通して一貫して訴えたいのは、自分を信じることの大切さ、そして、自分を信じて行動する意味です。幾つかの新聞で書評を見ましたが、その中では読売新聞の青山七恵の書評がもっとも私の感想に近かった気がします。以下の通りです。

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次に、平野啓一郎『マチネの終わりに』(毎日新聞出版) です。芥川賞作家の最新作品です。私がこの作者の作品を読むのは『決壊』以来かもしれません。でも、好きな作家のひとりであることはいうまでもありません。出版社を見ても理解できる通り、毎日新聞に連載されていた小説を単行本に取りまとめた作品です。なお、私自身のこれだけ大量に読む読書でも、久し振りの恋愛小説です。しかも、ほぼほぼプラトニックな純愛小説です。でも、時代背景を基に、20代男女の純愛ではなくアラサー男女の恋愛小説です。「大人の恋物語」と表現することも出来るのかもしれませんが、少子高齢化というか、人口減少というか、そういった社会現象の背景にある晩婚化を私は改めて認識させられました。ということで、序の冒頭にある通り、クラシック音楽の世界的なギタリストである蒔野聡史と著名なイタリア人映画監督と日本人妻の間に生まれ、国際的な場で活躍するジャーナリストの女性である小峰洋子の2人の人間の物語です。ひょんなことから知り合って恋に落ち、そして、結局は結ばれずに別の伴侶と結婚して、それぞれのカップルに子供も誕生しながら、分かれるハメになった偽メールの真相にたどり着いて、それでも、若い恋人のように駆けつけて元のように結ばれることもなく、マチネーの終わりに示唆されたニューヨークはセントラル・パークの池のほとりで再会して小説は幕を閉じます。繰り返しになりますが、20代男女の燃えるような恋物語ではありません。私の年齢のせいかもしれませんが、何とも切なく儚くも、とても充実した恋愛小説です。ただし、指摘しておかねばならないのは、普通のサラリーマンの恋愛ではありません。とても特殊な国際人、有名人の間の恋愛です。恋愛相手は音楽CDを出していたり、テレビや新聞などのメディアに出て来るような人物であり、一般ピープルとは異なります。加えて、とても政治経済社会的な動向を作品に反映させています。共産主義体制の崩壊、イラク戦争などの中東情勢、サブプライム・バブルの崩壊、東日本大震災などです。もちろん、こういった事象に関する見方が読者と作者で一致するかどうかは判りませんが、読み進む上でそれなりの注意点かもしれません。それから、私のようなアラ還の読者ではなく、40手前から40代の読者が想定されているような気がして、まさに作者自身の世代かもしれません。アラフォーの恋をどのように考えるか、人それぞれなんですが、とても示唆に富んだ小説です。なお、この作品内で蒔野が演奏するギター曲を収録したタイアップCD「マチネの終わりに」が発売されています。ギタリストは福田進一なんですが、私は不勉強にして演奏を聞いたことはなく、単に、村治佳織の師匠としてしか知りません。作品中に架空の映画で、小峰洋子の父親の監督作品として登場する「幸福の硬貨」のテーマ曲が林そよかによるオリジナル曲として再現されていたりします。今年、私が読んだ小説の中では文句なしのナンバーワンです。作者ご本人と毎日新聞の特設サイトはそれぞれ以下の通りです。

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次に、柴田哲孝『Mの暗号』(祥伝社) です。私は著者についてはよく知らないんですが、私と同じアラ還の世代の作家で、下山事件に関する論評でデビューしたような紹介が本書の奥付にあります。この作品でも下山事件に関する言及が何か所かあったりします。ということで、タイトルからも明白な通り、戦後の闇の世界で噂話のレベルながら謀略的なコンテクストで語られてきたM資金に関する暗号を解くという小説です。そして、ややネタバレに近いんですが、主人公たち4人はそのM資金そのものである金塊ほかを暗号を解いて入手します。主人公は4人いて、東京大学で講義を持っている歴史作家の浅野迦羅守のところに、弁護士の小笠原伊万里が訪ねて来て、殺害された父親がその父親、すなわち、祖父から預かっていた謎の地図と暗号文を解読して欲しいと依頼を受けます。そして、浅野迦羅守の2人の親友、数学の天才であるギャンブラーとCIAのエージェントも経験した情報通が加わって、4人で暗号を解きつつM資金の金塊へアプローチします。もちろん、何の障害も妨害もないというハズもなく、小笠原伊万里の父親を殺害したと思しきフリーメイソンの一派が執拗に主人公たちを追跡しつつ、さらに、殺人事件の捜査に当たる警察官も加わって、3つどもえの宝探しとなります。殺人事件の方の謎解きはほとんどなく、もっぱら暗号解読とM資金の金塊の在りかの解明、タイトル通りの暗号の解読に力点が注がれますが、何せ70年前のものですので、暗号そのものがさして高度な処理をなされているわけではなく、また、フリーメイソンとのバトルについても、さしたる見どころもなく、ミステリとしてはかなり凡庸な仕上がりとなっています。M資金や金塊の宝探しにワクワクする人向けかもしれませんが、ミステリとしてはあまりオススメできる作品ではありません。

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最後に、田中経一『ラストレシピ』(幻冬舎文庫) です。2年前に出版された『麒麟の舌を持つ男』を改題して文庫化しています。文庫の方の副題は『麒麟の舌の記憶』とビミョーに違えていたりします。作者はテレビのバラエティ番組「料理の鉄人」を手がけたディレクターであり、それだけに多くの一流料理人との接触があったものと想像しています。また、この作品は2017年夏に東宝配給による映画化が決まっており、監督は滝田洋二郎、主演は嵐の二宮和也だそうです。ストーリーは時代を隔てて2部構成が入り混じっており、昭和1ケタの満州国成立直後から終戦にかけてと大雑把に2014年、すなわち、この作品の単行本が発行された年です。昭和初期の主人公は山形直太朗、21世紀の主人公は佐々木充、ともに「麒麟の舌」を持つ料理人であり、実際に料理として完成した食べ物を味わうことなく、レシピを見ただけで音楽の絶対音感のように味や触感が判る、という設定です。そして、昭和初期の山形は満州国にて当時の天皇陛下の行幸を待ち、その際に提供する大日本帝国食菜全席のレシピを作り上げるべく満州軍から指示されます。大日本帝国食菜全席は、いわゆる満漢全席を超える204品から成るフルコース料理であり、春夏秋冬51品目ずつに分けられています。本書の最後にタイトルだけは収録されています。この料理が、実は、歴史を揺るがしかねない陰謀が込められていた、ということになっています。他方、21世紀の佐々木は中国の釣魚台国賓館の料理長からこの大日本帝国食菜全席のレシピを入手するように依頼され、山形の縁戚などを当たりながら以来事項を進めます。ということで、私は実はこういった料理や食通の小説とかノンフィクションが大好きで、基本的には食べることが好きなんだろうと自覚しているんですが、この作品も、ハッキリいって、ミステリとしてのプロットはまったく評価しませんが、料理についての詳しい薀蓄は素晴らしいと思います。同じような方向性として、高田郁のみをつくし料理帖のシリーズがありますし、今は、小説では松井今朝子の『料理通異聞』を、ノンフィクションでは『なぜ日本のフランスパンは世界一になったのか』を、それぞれ図書館で予約待ちしているところです。私は麒麟の舌を持っていませんので、料理は文字で読むよりも画像で見た方が何倍も理解しやすいような気がしますから、映画が封切られた際には見に行くかもしれません。

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2016年11月 5日 (土)

10月の米国雇用統計は利上げをサポートするのか?

日本時間の昨夜、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の増加幅は+161千人と前月の+191千人から伸びを鈍化させたものの、失業率は前月から0.1%ポイント下がって4.9%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから最初の4パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

Last Economic Snapshot Before the Election Shows Healthy Job Growth
The government, delivering the last major snapshot of the economy before Election Day, reported on Friday that employers added 161,000 workers in October, a performance that suggested a healthy outlook for the months ahead.
The official unemployment rate dropped to 4.9 percent, from 5 percent. And average hourly earnings rose 2.8 percent year over year, a level not reached since 2008.
"It was pretty positive across the board," said David Berson, chief economist at Nationwide Insurance, adding that "most importantly, we got a nice jump in average hourly earnings and that actually corresponds with other data."
While the final weeks of the presidential campaign seemed to be preoccupied with everything but the economy, Friday's report from the Labor Department refocused attention - at least briefly - on the crucial bread-and-butter issue: jobs. For the candidates, the latest employment report serves as a Rorschach test, allowing each side to offer its own distinctive narrative of the economy's performance and prospects.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューや米国大統領選へのインプリケーションの分析が続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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非農業部門雇用者数は、私が耳にしていた範囲では+170千人とか、+175千人などの市場の事前コンセンサスだったんですが、それはやや下回ったものの、失業率が低下したのでキャンセルアウトし、しかも、下のグラフに示したように、時間あたり賃金が堅調に上昇しているのも相まって、12月の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げをサポートする結果といえそうです。雇用者数の増加は10月単月では+161千人だったんですが、直前の9-10月の統計が上方改定されており、合わせて40千人ほどの改定幅ですから、合わせて200千人というわけでもないんでしょうが、米国の雇用はかなり堅調と考えるべきです。ただし、FOMCの前に11月の雇用統計も12月2日には公表されますし、何といっても、来週は米国大統領選挙が控えています。もちろん、金融政策運営は連邦準備制度理事会(FED)の専管事項ですし、中央銀行は政府から独立しているんですが、それでも、選出された米国次期大統領その人やその組織するであろう政府からの圧力では決してなく、選挙結果に示された主権者たる米国民の民意は中央銀行も無視することはできません。加えて、政策手段はともかく、政策目標は政府と同一歩調を取ることが求められますから、いずれにせよ、デッドヒートが繰り広げられている米国大統領選挙の結果は気にかかるところです。何ともいえませんが、トランプ候補が米国大統領選に勝利して、勝手な大放言を繰り返したりすれば、あるいは、市場が大荒れになる可能性もあったりするんではないでしょうか?

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性はほぼなさそうに見えます。また、10月の伸び率は2009年6月以来、7年4か月振りの高い上昇率となっており、雇用の質も悪くないことを裏付けているものと私は受け止めています。

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2016年11月 4日 (金)

11月14日に公表予定の7-9月期GDP統計1次QEの予想やいかに?

今週月曜日の鉱工業生産指数をはじめとして、直近までにほぼ必要な統計が出そろい、さ来週月曜日の11月14日に7-9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定です。シンクタンクや金融機関などから1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の今年10-12月期以降を重視して拾おうとしています。しかしながら、明示的に取り上げているシンクタンクは、日本総研、大和総研、みずほ総研、ニッセイ基礎研だけでした。この4つのシンクタンクについては、やや長めに先行き予想をリポートから引用しています。ほかはアッサリとヘッドラインだけの引用です。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.3%
(+1.2%)
10-12月期を展望すると、①雇用所得環境の改善傾向が続くなか、消費者マインドにも足許で持ち直しの動きがみられること、②円高や海外経済に対する過度な先行き不安の後退を背景に、企業の投資意欲が徐々に改善していることなどから、内需の持ち直しを背景に、プラス成長が続く見込み。もっとも、一部業種で残存している在庫調整圧力が生産活動の重石となることなどから、緩やかな成長ペースにとどまる公算。
大和総研+0.3%
(+1.2%)
先行きの日本経済は、基調として足下の緩やかな拡大が継続するとみている。しかし、7-9月期の日本経済が外需主導の成長であった点には留意しておく必要があろう。米国ではFedが年内にも利上げを実施する見込みであり、利上げ実施後の米国経済の減速や、利上げに伴う新興国からの資金流出などが危惧される。後述する通り、世界経済は緩やかな成長を続ける見通しであるが、仮に世界経済の先行き不透明感が強まることとなれば、内需が停滞する中、日本経済を下押しするリスク要因となるだろう。
みずほ総研+0.3%
(+1.1%)
10-12月期以降の日本経済について展望すると、7-9月期の押し上げに寄与した一時的要因(新型スマートフォン向けの部品出荷など)が徐々に剥落する一方、経済対策に伴う公共投資の執行などが下支えとなり、景気は緩やかに持ち直していくと予想される。ただし、当面は下振れリスクの高い状況が続くだろう。
ニッセイ基礎研+0.3%
(+1.1%)
7-9月期は外需主導のプラス成長となったが、海外経済の減速や円高による下押し圧力が残るため、10-12月期以降は輸出が景気の牽引役となることはできない。一方、7-9月期の民間消費は天候要因から低調に終わったが、雇用所得環境の改善を背景とした回復基調は維持されている。10-12月期は民間消費が増加に転じ、内需中心のプラス成長になると予想する。
第一生命経済研+0.1%
(+0.5%)
2016年7-9月期の実質GDP成長率(11月14日公表予定)を前期比年率+0.5%(前期比+0.1%)と予測する。
伊藤忠経済研+0.4%
(+1.8%)
11月14日に公表予定の2016年7-9月期実質GDPは前期比+0.4%(年率+1.8%)になったとみられる。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所+0.3%
(+1.2%)
公共投資は16年度下期にかけて、堅調さを取り戻す可能性が高い。一方、7-9月期に3四半期ぶりの減少が見込まれる個人消費についても、雇用・所得の改善が続く中、株高・円安などの金融市況の好転が、消費者心理の改善に繋がりつつある。7-9月期の個人消費の減少は一過性にとどまり、10-12月期以降は再びプラス基調で推移しよう。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.2%
(+0.9%)
11月14日に内閣府から公表される2016年7-9月期の実質GDP成長率は、前期比+0.2%(年率換算+0.9%)と3四半期連続でプラスとなったと見込まれる。
三菱総研+0.5%
(+1.8%)
2016年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.5%(年率+1.8%)と3四半期連続のプラス成長を予測する。

この7-9月期のGDP成長率については、かなりの高成長、すなわち、潜在成長率の+0%台前半を越えて、年率+1%前後を記録するとのコンセンサスが、エコノミストの間には緩やかに存在するような気がします。私も+1%に少し足りないものの、それなりの高成長であろうと予想しています。そして、この高成長は外需によってもたらされており、内需の寄与はほとんどない、というか、むしろ内需は小幅のマイナス寄与とすら考えられています。ただし、先行きについては少し見方が分かれており、基本は緩やかな成長が続くというのがメインのシナリオなんですが、下振れリスクをどこまで見込むかが、強気と弱気の分かれ目かもしれません。そして、下振れリスクの最大の要因は為替ではなかろうか、と私は予想しています。
最後に、下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。

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2016年11月 3日 (木)

山中千尋の最新アルバム「ギルティ・プレジャー」を聞く!

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山中千尋の最新アルバム「ギルティ・プレジャー」を聞きました。デビュー15周年記念だそうで、ホーンのないトリオによる演奏です。まず、曲目構成は以下の通りです。

  1. Clue
  2. Guilty Pleasure
  3. Caught in the Rain
  4. Life Goes On
  5. The Nearness of You
  6. At Dawn
  7. Hedge Hop
  8. Moment of Inertia
  9. Guilty Pleasure Reprise
  10. Meeting You There
  11. Thank You Baby

5曲目の The Nearness of You のスタンダードを除いて、1曲目から9曲目までが山中のオリジナル曲ですが、4曲目の Life Goes On はどこかで聞いた記憶があります。サイドは脇義典のベースとジョン・デイヴィスのドラムスが固めます。最近の何枚かのアルバムで感じていた違和感が私なりに吹っ切れたようで、やっぱり、ピアノ・トリオの演奏のよさを感じてしまいました。ゆったりとしたバラード系の曲が多い印象ですが、アップテンポの曲でもさすがに聞かせます。今まで何度か、このピアニストの最高のアルバムは澤野からメジャーに移るころで、私の一番のオススメはメジャー・デビュー作の「アウトサイド・バイ・ザ・スイング」 Outside by the Swing と公言してはばからなかったんですが、ひょっとしたら、このアルバムが現時点での彼女の最高傑作かもしれない、と思い始めています。この編成がレギュラー・トリオになれば、上原ひろみのような飛躍が望めるかもしれません。
下の動画は Universal Music からアップされており、このアルバムの1曲目のシーンです。

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2016年11月 2日 (水)

先月から下降を示した消費者態度指数から何が読み取れるか?

本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲0.7ポイント下降して42.3を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の消費者態度指数、0.7ポイント低下 野菜の価格上昇が響く
内閣府が2日発表した10月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.7ポイント低下の42.3だった。夏場の天候不順の影響で生鮮野菜の価格が上昇。過労死など厳しい労働環境についての報道も手伝って、消費者の暮らしや雇用にかかわる心理を冷やした。
指数を構成する意識指標は4項目は「雇用環境」が前月比1.4ポイント低下した。「暮らし向き」も0.6ポイント落ち込み、全項目が低下した。ただ、内閣府は消費者心理について「3カ月移動平均でみると緩やかな上昇基調が続いている」と分析。基調判断を「持ち直しの動きがみられる」のまま据え置いた。
1年後の物価見通し(2人以上世帯)について「上昇する」と答えた割合(原数値)は73.8%と、前月から1.0ポイント低下した。
調査基準日は10月15日。調査は全国8400世帯が対象で、有効回答数は5593世帯(回答率66.6%)だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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消費者態度指数を構成する各消費者意識指標の動向を前月差でみると、雇用環境が▲1.4ポイント低下し44.8、暮らし向きが▲0.6ポイント低下し41.4、耐久消費財の買い時判断が▲0.6ポイント低下し41.9、収入の増え方は▲0.1ポイント低下し41.0となっています。当然ながら、雇用環境が大きく前月差でマイナスを示したにしては、収入の増え方は雇用環境にリンクせず、それほど大きなマイナスとなっていません。ある意味で、賃金が堅調なんだと理解できます。消費につながりやすい耐久消費財の買い時については標準的な下降の範囲と考えられますが、引用した記事にもある通り、天候不順による野菜の値上がりについては、私の専門分野のマクロ経済政策ではいかんともしがたく、消費者マインドを冷やす結果となりました。ただし、10月統計については単月ではマイナスとなったものの、最近のトレンドとしては消費者態度指数に現れた消費者マインドは緩やかに上昇中とも見え、すでに終わったハロウィン商戦に続いて、クリスマスや年末商戦にどのようにつながるかに注目したいと思います。

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2016年11月 1日 (火)

日銀の物価目標先送りと「展望リポート」やいかに?

昨日から今日にかけて日銀金融政策決定会合が開催され、2%のインフレ目標が2018年ごろに先送りされるとともに、「展望リポート」が公表されています。生鮮食品を除くコアCPI上昇率の本年度2016年度の見通しは、+0.1%から▲0.1%に引き下げられました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日銀、物価2%目標達成「18年度ごろ」に先送り
総裁任期中は事実上断念

日銀は1日開いた金融政策決定会合で、物価2%目標の達成時期を「2017年度中」から「18年度ごろ」に先送りした。黒田東彦総裁の任期中の目標実現は難しくなった。17年度の物価上昇率見通しは従来の1.7%から1.5%に引き下げた。物価は下振れているが、9月末に政策の誘導目標をお金の量から金利に変えた効果を見極めるため追加緩和は見送った。
黒田総裁は1日午後に記者会見し、決定の理由を説明する。金融政策の現状維持は9人の政策委員による賛成多数で決めた。短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度にする長短金利の調節方針には、佐藤健裕委員と木内登英委員の2人が反対した。
日銀は会合で「経済・物価情勢の展望 (展望リポート)」を更新した。16年度の消費者物価指数(生鮮食品除く)の伸び率は前回7月の0.1%からマイナス0.1%に引き下げた。直近9月の消費者物価は消費不振や企業が値上げをためらっていることを背景に7カ月連続で下落している。年度ベースでは4年ぶりのマイナスを見込む。
18年度も1.9%から1.7%に下方修正した。黒田総裁は18年4月に任期を満了するため、在任中の物価2%達成を事実上断念することになる。2%目標の先送りは昨春以降で5度目。日銀は「2%目標に向けたモメンタム(勢い)は前回見通しに比べると幾分弱まり、注意深く点検する必要がある」と指摘した。
実質国内総生産(GDP)は、16年度が1.0%、17年度が1.3%、18年度が0.9%。前回の見通しを据え置いた。海外経済が回復し、政府の経済対策が国内経済を下支えするという。物価が見通し期間の後半に高まることに加え、景気も底堅く推移する見通しから、今回は追加緩和が必要ないと判断したもようだ。今後は「経済・物価・金融情勢を踏まえ、必要な政策の調整を行う」としている。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のテーブルは「展望リポート」 p.7 から2016-2018年度の政策委員の大勢見通しを引用しています。

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見通しについては、インフレ目標の達成時期の繰り延べに合わせて、というわけでもないんでしょうが、全体的に成長率も物価上昇率も低めに修正されています。そして、インフレ目標達成の時期と追加緩和の実施は二者択一に近かった気がしますので、目標を先送りすると金融政策は現状維持で追加緩和はありません。ただし、引用した記事にもある通り、目標の後送りは昨春以降1年半ほどで5度目とのことですから、時期のコミットメントはほぼ市場では信用を失った可能性があります。そのため、インフレ期待を担保するのは目標時期ではなく、9月の金融政策決定会合における包括的検証の結果として9月21日付けで明らかにされた「金融緩和強化のための新しい枠組み」で示されたオーバーシュート型コミットメントに移行したと考えるべきです。すなわち、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%のインフレ目標を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するというコミットメントです。加えて、実際のオペレーションではいわゆるイールドカーブ・コントロールが加わったわけです。なお、ついでながら、インフレ期待の形成に関しては、目標達成時期のコミットメントとオーバーシュート型のコミットメントについて、理論的には違いはないんではないかと私は考えています。
いずれにせよ、マイナス金利の導入あたりまで、金融政策運営はサプライズを狙った政策変更が多いような気がしていたんですが、最近時点では、包括的検証結果の公表に加えて、黒田総裁が国会などで今回の決定を先取りするような発言を行ったり、市場の対話を重視した政策運営に変更されつつあるように感じられ、今回のインフレ目標の後送りと見通しの下方修正も大きな動揺なく市場に受け入れられたような気がしており、少なくとも、為替や株価には大きな動きはないように私は受け止めています。報道を見る限りは、夕刻の黒田総裁の記者会見もサプライズはなかったようです。

米国連邦準備制度理事会(FED)も、現在、11月1-2日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催しており、少なくとも利上げはないと多くのエコノミストは見込んでいます。次の注目は、今週末の米国雇用統計、さらに、4週間後の米国雇用統計を受けて、12月13-14日に開催される予定のFOMCでの米国の利上げの有無になるかもしれません。

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