« どうにも冴えない鉱工業生産指数と商業販売統計から何を読み取るべきか? | トップページ | 先月から下降を示した消費者態度指数から何が読み取れるか? »

2016年11月 1日 (火)

日銀の物価目標先送りと「展望リポート」やいかに?

昨日から今日にかけて日銀金融政策決定会合が開催され、2%のインフレ目標が2018年ごろに先送りされるとともに、「展望リポート」が公表されています。生鮮食品を除くコアCPI上昇率の本年度2016年度の見通しは、+0.1%から▲0.1%に引き下げられました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日銀、物価2%目標達成「18年度ごろ」に先送り
総裁任期中は事実上断念

日銀は1日開いた金融政策決定会合で、物価2%目標の達成時期を「2017年度中」から「18年度ごろ」に先送りした。黒田東彦総裁の任期中の目標実現は難しくなった。17年度の物価上昇率見通しは従来の1.7%から1.5%に引き下げた。物価は下振れているが、9月末に政策の誘導目標をお金の量から金利に変えた効果を見極めるため追加緩和は見送った。
黒田総裁は1日午後に記者会見し、決定の理由を説明する。金融政策の現状維持は9人の政策委員による賛成多数で決めた。短期金利をマイナス0.1%、長期金利をゼロ%程度にする長短金利の調節方針には、佐藤健裕委員と木内登英委員の2人が反対した。
日銀は会合で「経済・物価情勢の展望 (展望リポート)」を更新した。16年度の消費者物価指数(生鮮食品除く)の伸び率は前回7月の0.1%からマイナス0.1%に引き下げた。直近9月の消費者物価は消費不振や企業が値上げをためらっていることを背景に7カ月連続で下落している。年度ベースでは4年ぶりのマイナスを見込む。
18年度も1.9%から1.7%に下方修正した。黒田総裁は18年4月に任期を満了するため、在任中の物価2%達成を事実上断念することになる。2%目標の先送りは昨春以降で5度目。日銀は「2%目標に向けたモメンタム(勢い)は前回見通しに比べると幾分弱まり、注意深く点検する必要がある」と指摘した。
実質国内総生産(GDP)は、16年度が1.0%、17年度が1.3%、18年度が0.9%。前回の見通しを据え置いた。海外経済が回復し、政府の経済対策が国内経済を下支えするという。物価が見通し期間の後半に高まることに加え、景気も底堅く推移する見通しから、今回は追加緩和が必要ないと判断したもようだ。今後は「経済・物価・金融情勢を踏まえ、必要な政策の調整を行う」としている。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のテーブルは「展望リポート」 p.7 から2016-2018年度の政策委員の大勢見通しを引用しています。

photo

見通しについては、インフレ目標の達成時期の繰り延べに合わせて、というわけでもないんでしょうが、全体的に成長率も物価上昇率も低めに修正されています。そして、インフレ目標達成の時期と追加緩和の実施は二者択一に近かった気がしますので、目標を先送りすると金融政策は現状維持で追加緩和はありません。ただし、引用した記事にもある通り、目標の後送りは昨春以降1年半ほどで5度目とのことですから、時期のコミットメントはほぼ市場では信用を失った可能性があります。そのため、インフレ期待を担保するのは目標時期ではなく、9月の金融政策決定会合における包括的検証の結果として9月21日付けで明らかにされた「金融緩和強化のための新しい枠組み」で示されたオーバーシュート型コミットメントに移行したと考えるべきです。すなわち、消費者物価上昇率の実績値が安定的に2%のインフレ目標を超えるまで、マネタリーベースの拡大方針を継続するというコミットメントです。加えて、実際のオペレーションではいわゆるイールドカーブ・コントロールが加わったわけです。なお、ついでながら、インフレ期待の形成に関しては、目標達成時期のコミットメントとオーバーシュート型のコミットメントについて、理論的には違いはないんではないかと私は考えています。
いずれにせよ、マイナス金利の導入あたりまで、金融政策運営はサプライズを狙った政策変更が多いような気がしていたんですが、最近時点では、包括的検証結果の公表に加えて、黒田総裁が国会などで今回の決定を先取りするような発言を行ったり、市場の対話を重視した政策運営に変更されつつあるように感じられ、今回のインフレ目標の後送りと見通しの下方修正も大きな動揺なく市場に受け入れられたような気がしており、少なくとも、為替や株価には大きな動きはないように私は受け止めています。報道を見る限りは、夕刻の黒田総裁の記者会見もサプライズはなかったようです。

米国連邦準備制度理事会(FED)も、現在、11月1-2日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催しており、少なくとも利上げはないと多くのエコノミストは見込んでいます。次の注目は、今週末の米国雇用統計、さらに、4週間後の米国雇用統計を受けて、12月13-14日に開催される予定のFOMCでの米国の利上げの有無になるかもしれません。

|

« どうにも冴えない鉱工業生産指数と商業販売統計から何を読み取るべきか? | トップページ | 先月から下降を示した消費者態度指数から何が読み取れるか? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: 日銀の物価目標先送りと「展望リポート」やいかに?:

« どうにも冴えない鉱工業生産指数と商業販売統計から何を読み取るべきか? | トップページ | 先月から下降を示した消費者態度指数から何が読み取れるか? »