安定して黒字を記録する貿易統計から何が読み取れるか?
本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲10.3%減の5兆8699億円、輸入額も▲16.5%減の5兆3737億円、差引き貿易収支は+4961億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
10月の貿易収支、4961億円の黒字 2カ月連続プラス
財務省が21日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は4961億円の黒字(前年同月は1047億円の黒字)となった。貿易黒字は2カ月連続。QUICKがまとめた市場予想は6100億円の黒字だった。円高の影響で輸出入ともに減少が続いているが、原油価格の低迷などで輸入額の減少幅の方が大きくなった。
輸出額は前年同月比10.3%減の5兆8699億円にとどまり、13カ月連続で減った。10月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=102円40銭と、円が対ドルで前年同月に比べて14.7%上昇したことが影響した。
アラブ首長国連邦(UAE)やサウジアラビア向けの自動車、イタリア向け鋼管の輸出が減少した。地域別では米国が11.2%減、中国を含むアジアは9.9%減だった。
一方、輸入額は16.5%減の5兆3737億円と、22カ月連続のマイナスだった。サウジアラビアからの原粗油、マレーシアからの液化天然ガス(LNG)などの減少が目立った。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは貿易黒字は+6127億円でしたから、やや下振れしたというものの、着実に貿易収支は黒字を続けています。ただ、上のグラフでも明らかな通り、輸出入四方いずれも減少を続ける中での縮小均衡のような形になっていることも事実です。その要因のひとつは円高であり、これも引用した記事にある通り、10月の為替レートは1ドル=102円40銭と、円が対ドルで前年同月に比べて14.7%も円高に振れています。ただ、足元ではトランプ現象の不思議なひとつとして円安が続いており、一時は1ドル111円をつけたりもしていますので、目下のところ、相場ものですので見通しがたいとはいうものの、為替がさらに貿易収支に悪影響を及ぼすことは予想されていないようです。貿易収支の黒字化については、国際商品市況での石油価格の低迷が大きな要因のひとつですが、これも市況商品の価格動向は見通しがたく、石油価格安は決してサステイナブルではないと考えるべきです。
輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。海外需要は最悪期を脱しつつあるのが見て取れると思います。特に、中国については急速に回復する可能性が示唆されています。繰り返しになりますが、地域別・国別や財別の貿易動向を詳細に検討して、そろそろ我が国の輸出数量も増加する局面に達しつつあると私は考えています。ただし、その伸び方は中国経済が爆発的な回復を見せるという小さな可能性を別にすれば、かなり緩やかな回復となる可能性が大きい気がしています。
最後に、参考までに、何人かのエコノミストが我が国の輸出、中でも、電機やエレクトロニクス関連の輸出と関連付けて考えているシリコン・サイクルの先行き予想も含めたグラフが上の通りです。もう半年くらい前の今春の時点における予想なんですが、世界半導体市場統計(World Semiconductor Trade Statistics=WSTS)のサイトから引用しています。よく理解していないので、グラフを引用するにとどめますが、WSTS日本協議会のリポートによれば、世界の半導体市場動向はドル建てで見て、2014年▲0.2%減、2015年▲2.4%減の後、来年2017年は+2.0%増と持ち直し、2018年も+2.2%増と見込まれています。我が国の電機・エレクトロニクス業界の輸出はシリコン・サイクルとともに、中長期的な構造要因も少なくないながら、短期的な為替レートや需要要因は好転する可能性があるようです。
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