3か月連続で貿易黒字を記録した貿易統計をどう見るか?
本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲0.4%減の5兆9565億円、輸入額も▲8.8%減の5兆8040億円、差引き貿易収支は+1525億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
11月の貿易収支、3カ月連続黒字 輸入減大きく
財務省が19日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)では、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1525億円の黒字だった。貿易黒字は3カ月連続。QUICKがまとめた市場予想は2274億円の黒字だった。輸出入ともに減ったが、輸入額の減少がより大きかった。
輸出額は前年同月比0.4%減の5兆9565億円と14カ月連続で減った。11月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=104.94円と、円が対ドルで前年同月に比べて13.5%高かったことが響いた。11月は実勢レートに比べ円高だが「税関長公示レートの平均値は2週間前の数値を当てはめているため」(関税局)という。12月の貿易統計では足元の円安を反映した内容になる見通しだ。
サウジアラビア向けの自動車、イタリア向け鋼管など鉄鋼の輸出が減った。輸出の地域別では米国が1.8%減、欧州連合(EU)は2.2%減だった。中国を含むアジアは3.4%増えた。
輸入額は8.8%減の5兆8040億円と23カ月連続で減った。アイルランドからの医薬品、アラブ首長国連邦からの原粗油や液化天然ガスなどが減った。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。
まず、貿易修正ですが、季節調整していない原系列のベースで見て、3か月連続の貿易黒字を記録し、今年2016年11月までで貿易黒字が8か月、赤字が3か月と、震災直後の赤字続きの時期に比べて、国際商品市況における石油価格の下落が大きな要因とはいえ、貿易赤字が連続することはなくなったような感触を私は得ています。特に、季節調整済みの系列では、昨年2015年11月から1年余りにわたって貿易黒字を計上し、最近時点ではジワジワと黒字幅が拡大していたりします。加えて、つい最近時点までは輸出入の双方が減少を続ける中で、石油価格の影響などから輸入の減少幅の方が大きくて、結果として黒字になっていた面がありますが、上のグラフ、特に季節調整済みの系列をプロットした下のパネルを見れば明らかな通り、このトレンドに変化が見られつつあり、輸出入ともに反転・増加して拡大均衡の中の貿易黒字が実現されているようになりつつあります。しかも、引用した記事にもある通り、11月統計では1ドル=104.94円と前年同月に比べて13.5%もの円高水準だったわけですから、我が国産業の国際競争力が突然飛躍的に上昇したわけでもないでしょうから、世界経済の拡大の本格化が背景となっている、と私は考えています。
ということで、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。OECD先行指数からみて、海外需要は最悪期をすでに脱して回復局面に入りつつあるのが見て取れると思います。特に、中国については急速に回復する可能性が示唆されています。従って、マクロの世界経済動向から見て、そろそろ我が国の輸出数量も増加する局面に達しつつあり、現に11月統計では輸出数量指数が季節調整していない系列の前年同月比で見て、対世界で+7.4%増、対中国が+16.0%増と大きく伸びており、これにトランプ効果の円安が加われば、さらに輸出増加に弾みがつく可能性も十分ある、と私は考えています。
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