米国雇用統計は連邦準備制度理事会(FED)の年内利上げに追い風か?
日本時間の昨夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の増加幅は+178千人増とひとつの目安となる+200千人増の水準には達しないものの前月の+142千人増から伸びを加速させており、さらに、失業率は前月から0.3%ポイント下がって4.6%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから最初の4パラだけ記事を引用すると以下の通りです。
President Obama Is Handing a Strong Economy to His Successor
Departing occupants of the White House rarely hand off an improving economy to a successor from the opposing party.
When Barack Obama was waiting in the wings after the 2008 presidential election, for example, the economy was in a severe downward spiral: Employers reported cutting 533,000 jobs that November, the biggest monthly loss in a generation.
But according to the government's report on Friday, Donald J. Trump can expect to inherit an economy that has added private sector jobs for 80 months, put another 178,000 people on payrolls last month and pushed the unemployment rate down to 4.6 percent today from 4.9 percent the previous month. Wage growth, though slower, is still running ahead of inflation, and consumers are expressing the highest levels of confidence in nearly a decade.
The Federal Reserve is confident enough about the economy's underlying strength that it is now set to raise the benchmark interest rate when it meets later this month.
この後、さらにエコノミストなどへのインタビューや米国大統領選へのインプリケーションの分析が続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。
繰り返しになりますが、非農業部門雇用者の増加は9月に+208千人増、10月に142千人増の後、11月に178千人増を記録し、市場の事前コンセンサスが180千人増くらいでしたから、ほぼジャストミートしたカンジです。他方で、失業率が4.6%まで低下し、ほぼ完全雇用に近い水準と考えるべきです。全体としての米国雇用は堅調であると見受けられますが、相変わらず、専門サービス、ヘルスケアなどのサービス業の雇用が順調に伸びている一方で、トランプ次期米国大統領が選挙戦で訴えてきたメインストリートの製造業はわずかながら4か月連続で減少しています。これも貿易制限的な政策への志向が強まる懸念のひとつかもしれません。同時に、トランプ次期米国大統領は海外進出を図る企業への課税措置にも言及していると報じられており、こういった内向きの政策が米国経済に何らかの影響を生ずる可能性は否定できません。
この雇用統計に加えて、先日の7-9月期GDP成長率+3.2%とか、その前の10月の小売売上とか、米国経済の堅調な指標が目白押しとなっており、12月13-14日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げにかなり強いフォローの風が吹いている、と考えるべきです。イエレン議長らのFED高官も次回FOMCでの利上げを示唆しています。ただ、FEDが米国政府から独立しているとはいえ、大統領選挙が終わったばかりの段階で、しかも、かなり異色な経済政策スタンスを明らかにしているトランプ次期米国大統領に対して、5500億ドルのインフラ整備などの経済政策と金融政策の整合性をどのように確保するのかは大きな課題です。すくなくとも、インフレ圧力が大きいとはいえない物価情勢もあり、私自身は利上げの確率がかなり高いと考えるものの、決して確実ではあり得ません。経済指標以外にいろいろと考慮すべき点が多いような気がします。
また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性はほぼなさそうに見えます。
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