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2016年12月31日 (土)

今日は大晦日、よいお年をお迎え下さい!

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いよいよ今年も押し詰まって、今日は大晦日です。例年と同じく、Financial Times から Forecasting the world in 2017 の画像を引用して上の通りです。以下の21の問いが発せられています。

  • Will Article 50 be triggered by the end of the first quarter?
  • Will Marine Le Pen win the French presidency?
  • Will Angela Merkel win re-election in Germany?
  • Will the Iran nuclear deal collapse?
  • Will Donald Trump and Vladimir Putin do a Syria deal?
  • Will President Trump build the Mexican border wall?
  • Will Isis be destroyed as a significant global force?
  • Will Jacob Zuma remain president of South Africa?
  • Will North Korea successfully test a nuclear-capable missile?
  • Will China allow its currency to devalue by more than 10 per cent?
  • Will Venezuela default on its debt?
  • Will the UK's annual growth rate fall below 1 per cent in 2017?
  • Will the Fed funds rate be higher than 1.5 per cent at the end of 2017?
  • Will the S&P 500 finish the year above 2300 (roughly its current level)?
  • Will oil finish over $50?
  • Will EU inflation be 1.5 per cent or higher by year end?
  • Will Apple be the most valuable company in the world at year end 2017?
  • Will Uber go public?
  • Will either Goldman Sachs CEO Lloyd Blankfein or JPMorgan Chase chief Jamie Dimon step down in 2017?
  • Will a major European bank fail in 2017?
  • Tiebreaker question for the online prediction contest: how many Grammy awards will Beyoncé win this year?

最後の問いを除いて、yes or no で答えられるんですが、以外な回答として、6番目の問い、すなわち、トランプ大統領はメキシコとの国境に壁を築くか? に対しては yes の回答が寄せられています。私にはやや不可解です。なお、今年は日本に関するテーマはありませんでした。ちょっぴり残念!?

何はともあれ、みなさま、
よいお年をお迎え下さい。

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2016年12月30日 (金)

年末年始休み前半の今週の読書は経済書など計9冊!

役所で忙しいとされる予算業務が先週のうちに終わり、今週は時間が十分ありましたので、かなり読み込んでしまいました。公務員である私とほぼ時を同じくして図書館が閉まりますので、今週は経済書や専門書、来週の年明けの年始休みはエンタメ系の小説など、と適当に私自身の基準で区分して読書にいそしんでいます。従って、昨日のご寄贈本を別にして、今週は経済書など以下の9冊です。

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まず、トーマス・シェリング『ミクロ動機とマクロ行動』(勁草書房) です。著者は2005年にノーベル経済学賞を受賞したトップクラスの経済学者であり、本書は Micromotives and Macrobehavior と題して、もともとは1978年に出版されていて、本書はノーベル賞の受賞講演を最終章に含めた新装版です。たぶん、ノーベル賞受賞スピーチの前の中身は変わっていないんではないかと思います。ということで、本書では一部に数式を展開しつつ、あるいは、グラフで動学的な動きを解説しつつ、マイクロな意思決定がマクロの社会活動、特に経済活動にどのような結果をもたらすか、について鮮やかなモデルの展開により分析しています。すなわち、講演会場の着席パターンから始まって、個人が誰と付き合うか、あるいは、誰と暮らすか、また、誰と仕事をするか、さらに、誰と遊ぶか、などの選択について、特に、白人と黒人の振舞いのあり方、さらに住居の分居を論じ、高速道路上に落下したマットレスが渋滞を引き起こした例を取り上げます。また、当時はまだアイスホッケーの試合でヘルメット着用が義務付けられていなかったことから、選手の負傷とヘルメット着用はどうあるべきかを議論するなど、全体を構成する個人や家族などの小グループの行動基準や特性とそのマクロの結果との関係を分析しています。要するに、マクロの結果は個人の最適化行動に基づくマクロレベルの最適性を保証しない、という意味で、合成の誤謬が起こりまくるという結論です。ですから、少し前のリアル・ビジネス・サイクル(RBC)理論のように、マクロ経済のマイクロな基礎付けを求めるのは、かなり怪しい、という結論を引き出すべきと私は考えます。企業や個人といったマイクロな経済主体の最適化行動がマクロ経済の最適性をもたらす保証がどこにもないんですから、昔ながらの「どマクロ」な議論、例えば、ケインズ的な消費関数やマネタリスト的なGDPと仏果とマネーサプライの関係の類推なども、私はそれなりに意味のあることだと受け止めています。40年近く前の名著ですが、こうして新装版が出た折に読み返してみるのも一興かもしれません。ただ、最後に、冒頭のp.22で「均衡そのものにはさしたる魅力は何もない」といいながら、ほとんどが均衡分析、静学的にせよ、動学的にせよ、になっている気がするのは私だけでしょうか?

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次に、エドマンド S. フェルプス『なぜ近代は繁栄したのか』(みすず書房) です。著者は、先のシェリング教授に続いて、2006年のノーベル経済学賞受賞者です。英語の原題は Mass Flourishing であり、2013年の出版です。ですから、出版社のサイトに「長期停滞を超えるための、経済、文化、倫理を横断する独創的提言」なる宣伝文句が見えるんですが、オリジナルのハンセンまでさかのぼればともかく、サマーズ教授が長期停滞論をいい出したのが2013年末か2014年ですからその前の出版であり、この宣伝文句はやや怪しいところです。といいつつ、本書は基本的に経済史をひも解こうとしているように私は受け止めているんですが、何か、焦点の定まらない議論に終始している印象です。すなわち、一言でいえば、著者が重視するのは副題にもある「草の根イノベーション」であり、「草の根」がないただのイノベーションでもいいんですが、いわゆる近代、すなわち、19世紀半ばでほぼ完成した産業革命から1960年代くらいまでの欧米諸国の経済的な繁栄はイノベーションに基づくものであり、イノベーションを阻害する社会主義やコーポラティズムはよろしくなく、また、日本た最近のアジア諸国、特に中国は独創的なオリジナルのイノベーションではなく、先進国からのイノベーションを導入したキャッチアップ型の繁栄であった、ということになろうかと思います。私が常々主張しているように、西欧、というか、米国を含めて欧米といってもいいんですが、こういった地域が現時点で繁栄を謳歌しているのは、18世紀から19世紀にかけての産業革命の成果であり、産業革命がイングランドで生じた説得的な歴史的根拠はまだ学界で提示されていない、というのが極めて緩やか、あるいは、大雑把なコンセンサスではないかと思うんですが、本書で著者は経済的社会的繁栄の原動力にイノベーションを置いていて、しかも、そのイノベーションがシュンペーター的な革新ではなかったりします(p.192など)し、さらに「繁栄」も成長とは違うと主張したりして、もうこうなれば定義次第でどうでも立論が可能となり、平たくいって、いったもん勝ちの世界のような気もします。しかも、最後の方ではアリストテレス的なエウダイモニアやセン的なケイパビリティの議論で善を論じてみたり、私のような頭の回転の鈍い人間には訳が分かりません。大雑把に著者が80歳のころの出版で、エコノミストとしての人生の集大成的な著作を目指したのかもしれませんが、少なくとも私クラスの知性では読み解くのが難しかった気がします。でも、うまく言葉で表現できませんが、とても「みすず書房」的な書物ではないかという思いもあったりします。同時に、私は読んでいませんので、単なる直感での評価ですが、米国版の「里山資本主義」のノスタルジックな趣きがあるかもしれません。私は中国的な円環歴史観には否定的であり、マルクス主義的とはいわないまでも、かなり直線的に発展する歴史観を持っていますので、時計の針を逆戻りさせて昔を懐かしがる趣味はありません。

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次に、沢井実『日本の技能形成』(名古屋大学出版会) です。著者は大阪大学を定年退官した労務経済論の研究者で、現在は南山大学に天下りしているようです。本書は出版社からも理解できる通りに明らかな学術書であり、阪大の紀要に掲載された論文も何本か改稿の上で収録されています。大雑把に、熟練工不足が問題になり始めた満州事変直後の1930年代半ばころから戦争をはさんで1950年代初頭まで、いわゆる高度成長期直前くらいまでの四半世紀における金属加工や電気自動車を含む広い意味での機械産業における熟練工の育成に焦点を当てています。戦前の義務教育であった尋常小学校や高等小学校を卒業した10代前半から半ばくらいまでの男性を中心とした職工の技能育成です。大雑把に、現在でいうところのOJTとOff-JTに分かれますが、前者は統計処理が極めて難しく、聞き取りの結果の分析に終始しています。後者については、現在から見ると職業訓練校に近い存在を多く取り上げており、中でも、いわゆる公立の技能習得校とともに、三菱造船と三菱電機が神戸でいっしょに設立した三菱職工学校などが取り上げられています。三菱、川崎重工、日産などの大企業は独自の技能習得学校を設立したりしている一方で、中小企業は公立校への依存を強めているというわけなんでしょう。ただ、注意すべき点で抜け落ちているのは、技能育成・習得と雇用システム、というか、雇用慣行との接点が本書では考慮されていません。本書でも指摘しているように、1930年代の好景気と満州事変ころから熟練工などの不足は問題となり始めていましたが、高度成長期から本格的な人手不足が始まり、労働力の囲い込みの必要から1950-60年代に長期雇用慣行、いわゆる終身雇用が始まる一方で、本書がスコープとしている年代ではまだ転職が少なくありませんでした。おそらく、中小企業のレベルでは1960年代位までいわゆる「渡りの職工」は広く観察され、技能の育成や習得の上で少なからぬ摩擦を生じる可能性もあったりしました。本書では学歴との関係で、戦前における2つの学歴系統、すなわち、小学校-中学校-高等学校-大学、のパターンと、小学校-実業学校-実業専門学校のパターン、もちろん、小学校からいきなり就職するケースもありますが、これらの学歴パターンには目を向けているものの、長期雇用下で他社と差別化された技能の育成が始まる前の段階の我が国における汎用的な技能育成が転職とどのような関係にあったのかが、もう少し掘り下げて論じる必要がありそうな気がします。最後に、繰り返しになりますが、かなり難解な学術書です。OJTの聞き取りを収録した第5章などは私には理解できない部分の方が多かったような気がします。覚悟して読み始めるべきでしょう。

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次に、ロバート B. ライシュ『最後の資本主義』(東洋経済) です。著者はクリントン政権下で労働長官を務めたリベラル派のエコノミストです。上の表紙画像に見られる通り、英語の原題は Saving Capitalism であり、2015年の出版です。まさか、今どき、資本主義がマルクス主義的な社会主義革命で打ち倒されると予想するエコノミストはいないでしょうから、資本主義本来のあり方を政府が主体となって取り戻すべき、との主張であると理解すべきでしょう。まず、自由市場と政府のどちらが好ましいかという立論を論破します。すなわち、所有権の尊重や独占の回避と競争の促進などの市場の基礎的な条件を整えないことには自由な市場などあり得ないわけで、その市場の基礎的な条件整備を行うのはまさに政府でしかありえない、という議論が展開されます。その上で、資本主義の5つの構成要素として、所有権、独占、契約、破産、執行を上げ、これらのすべてについて、ここ20-30年で大きな変容を来たし、資本主義の市場システムの名の下に富裕層に所得や富が集中するようなシステムが出来上がってしまっており、政府がもっと活動的な仕事をして富裕層に課税して事後的に再分配を行うとか、あるいは、もっと望ましいのは再分配するまでもなく、多くの市民が公平な分配であると納得するような市場のルールを定め、それにより格差を縮小させるようなシステムを作り上げることであると結論しています。そして、その最大の眼目として、著者は本書でベーシック・インカムの導入を主張しています。そうしないと、やや極論に聞こえるかもしれませんが、ワイマール民主主義がナチスに乗っ取られ、ロシアが共産主義という大きな遠回りをしたように、資本主義がある意味で崩壊する危険があるとし、それが本書の英語の原題のタイトルとなっています。ピケティの『21世紀の資本』が主張するように、企業幹部がとてつもない所得を得ているのはストック・オプションたストック・アワードのためであると結論し、富裕層に対する拮抗勢力、すなわち、ガルブレイス教授の主張した意味でのCountervailing Powerの必要を強調しています。米国大統領選はトランプ次期大統領の当選で終了しましたが、民主党の予備選で社会民主主義者をもって任ずるサンダース候補の善戦が注目されましたし、そういった意味で、格差の拡大をはじめとして今の経済システムは何かがおかしい、と感じている市民は少なくないと思います。なかなか実現の難しい課題ですが、ライシュ教授の主張に耳を傾けることも必要だと私は感じています。

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次に、アレック・ロス『未来化する社会』(ハーパーコリンズ) です。著者は未来学者として2008年大統領選挙の当時からオバマ政権の成立に尽力し、第1次オバマ政権ではヒラリー・クリントン国務長官の参謀として世界80万キロを行脚したといわれています。その未来学者が、ロボット、ゲノム、暗号通貨、サイバー攻撃、ビッグデータ、未来の市場の6つのテーマで未来世界を論じています。いろんな点で興味をそそられるんですが、第1に、テクノロジーの観点からは、ひとつひとつのステップを駆け上がるような段階的な発展ではなく、跳躍の論理が可能となる場合があります。すなわち、典型的には移動体通信であり、米国や日本のように固定電話から携帯電話に進むんではなく、固定電話の段階をすっ飛ばしていきなり携帯電話の段階に進んだ中国やアフリカの国なども少なくありません。ですから、その昔に一橋大学の松井先生や小島先生が主張された雁行形態発展理論もあるにはあるんでしょうが、その昔のような繊維や食品や雑貨といった軽工業から重化学工業に続く発展段階をたどる国もあれば、軽工業を経験せずにいきなり重化学工業に進む国もあり得ます。第2に、本書でもテクノユートピアとして批判的に指摘されていますが、未来の発展方向はすべからくすべてがバラ色であるとは限りません。ロボットが外科手術を行うようになれば、医療費負担の軽減のために保険会社などが安価なロボット手術を半強制する可能性もありますし、もちろん、ロボットや人工知能(AI)で失われる雇用も少なくない可能性が高いと考えるべきです。ゲノムの解読が進めばデザイナーベビーの可能性がうまれますが、それがいいことなのか、どうなのか、著者も判断を保留しているように見えます。仮想通貨ではつい最近日本に本拠を構えビットコイン大手だったマウントゴックスの事件も記憶に新しいところです。ただ、本書ではビットコインが通貨としては失敗する可能性があるものの、ブロックチェーンは信頼できる取引のためのプラットフォームとして活かされる可能性は十分あると主張しています。また、私が従来から指摘している通り、ビッグデータが利用可能となった現段階で、プライバシーについては一定の範囲で犠牲になる可能性を本書でも認めています。とまあ、いろんな論点で未来社会について論じており、私のような頭の回転の鈍い人間でもインスパイアされるところが大いにありました。未来社会をのぞいてみたカンジでしょうか。

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次に、エドワード・ヒュームズ『「移動」の未来』(日経BP) です。著者はピュリツァー賞受賞経験もある米国のジャーナリストです。本書の英語の原題は Door to Door であり、通勤や貨物の移動も含めて、もちろん、自動車だけでなく海運や鉄道まで幅広く視野に収めています。ただし、米国の交通事情からして、やや鉄道の比重が小さいような気がします。特に、地下鉄はニューヨークなどでとても発達しているにもかかわらず、カリフォルニア在住の著者の視野には入っていないように見受けられます。ということで、ネットで電子的につながり合って、情報がモノすごい速さで飛び交う世界で、実際にヒトやモノの移動がどこまで重要かは疑問に感じる向きもあるかもしれませんが、実はかなり重要だと私は考えています。かつては買い物といえば、ヒトの方が商店に出向いて買い求めるのが一般的でしたが、今ではネットで注文して運送屋さんが届けてくれるのが無視できない割合を占めています。本書では、世界が、特に経済が、ヒト、特に通勤面から考えたヒト、さらに、もちろん、モノがどのように移動して経済社会を成り立たせているかを概観しています。特に、グローバル化が進んで輸出入による取引がここまで拡大すれば、移動も当然グローバルに行われます。日本などは、特にヒトの移動における通勤では、いわゆる公共交通機関である鉄道やバスが大きな役割を果たしていますが、まだまだ地方では米国と同じようにマイカーによる通勤も少なくありませんし、ほとんど1台に1人しか乗っていないクルマによる移動がいかに非効率なものかは議論するまでもありません。本書では重視していないように見受けられますが、地球温暖化の帽子のための二酸k炭素排出の抑制の観点からも、移動に関する議論は決して軽視できません。本書では、どうしても米国、それも西海岸の地域性が表面化していて、我が国の現状とビミューにズレを見せている気もしますが、最終的にはバスの活用とか、理解できなくもない結論を導き出しています。炭素税の導入という環境面も配慮した政策対応は著者の頭にないようですが、いろいろと日本の実情も読者の方で考え合わせて補完して、交通や移動について考えることが必要かもしれません。

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次に、竹内早希子『奇跡の醤』(祥伝社) です。舞台は陸前高田にあった醤油製造会社の八木澤商店です。2011年3月11日の震災直後の津波によって、200年の歴史を持つ土蔵をはじめ、醤油製造業にとって命ともいえる微生物の塊りだったもろみや杉桶、また、従業員の1人と製造設備のすべてを失っています。作者は有機農産物宅配業者に勤務し、八木澤商会との接点を持ったといわれています。ということで、本書はノンフィクションであり、新作・津波直後の4月1日に急遽9代目を継いだ社長の河野通洋をはじめとする八木澤商会の奮闘を取り上げています。震災から5日目にして「必ず再建する」と社員を前に約束し、醤油の製造復活前は、醤油の派生商品である麺類のつゆなどを作りつつ、必死に再建を目指す社員たちを温かい筆致で描き出します。そして、震災・津波直後の4月に、何と、岩手県水産技術センターから、伝統の醤油復活のために不可欠なもろみが津波の被害を逃れて無事に発見され、陸前高田を離れて内陸の一関市に工場を新設し、以前と同じ味の醤油の製造に成功するまでの5年間のドキュメントです。最後は、社長も従業員も昔の味の醤油の復活に半信半疑だったところ、舌の肥えた社長の子供達からお墨付きを得て安堵するシーンも印象的でした。地銀の岩手銀行や震災復興ファンドからの資金調達に支えられながら、誰1人として会社から解雇することはしないながらも、工場新設の過程で離れて行った何人かの従業員もいたようですし、企業経営のあり方について、すなわち、震災・津波で壊滅的な打撃を受けた地場の中小企業の復活の心あたたまる物語に終わるのではなく、企業の社会的使命とは何か、企業と従業員の関係はいかにあるべきか、そして、その企業を側面から支える銀行や公的機関の役割とは何か、そして何よりも、企業のトップ経営者の決断と行動の基準をどこに置くべきなのか、こういった企業を取り巻く経済活動の基本について大いに考えさせられる1冊です。

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次に、日本推理作家協会[編]『悪意の迷路』(光文社) です。ここ3年間に発表された短編を日本推理作家協会がアンソロジーとして編集しています。なお、すでに姉妹編の『殺意の隘路』も刊行されており、私も借りてあるんですが、本書でいえば2段組500ページ超のボリュームであり、年末年始休みの暇潰しにうってつけです。ただし、『殺意の隘路』は400ページ余りです。コピペで済ませる収録作品は、芦沢央「願わない少女」、歌野晶午「ドレスと留袖」、大沢在昌「不適切な排除」、大山誠一郎「うれひは青し空よりも」、北原尚彦「憂慮する令嬢の事件」、近藤史恵「シャルロットの友達」、月村了衛「水戸黄門 謎の乙姫御殿」、西澤保彦「パズル韜晦」、東川篤哉「魔法使いと死者からの伝言」、藤田宜永「潜入調査」、三津田信三「屋根裏の同居者」、湊かなえ「優しい人」、森村誠一「永遠のマフラー」、柚月裕子「背負う者」、米澤穂信「綱渡りの成功例」となっています。売れっ子ミステリ作家の力作そろいですが、特に、「憂慮する令嬢の事件」はシャーロック・ホームズのパスティーシュとなっていて、面白く読みましたが、謎解きが少し平板だったような気がして、もう少し意外性が欲しかった気がします。また、水戸黄門のパロディタッチで書かれている「謎の乙姫御殿」もとても面白く読めました。「背負う者」は新しい著者のシリーズでしょうか、『あしたの君へ』の冒頭に収録されている短編らしく、同じ著者の検事の佐方シリーズと少し似ている家裁調査官補の望月大地のシリーズ第1作だと思います。なお、『あしたの君へ』はすでに借りてありますので、来週の読書で取り上げるんではないかと予定しています。またまた繰り返しになりますが、年末年始休みの暇潰しにうってつけです。

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最後に、井手留美『賞味期限のウソ』(幻冬舎新書) です。著者はケロッグの勤務やフードバンクのお勤めなど食品・食料に関する実務経験があるだけでなく、栄養学の博士号もお持ちの専門家です。本書では、日本の食品業界のビジネス慣行などから賞味期限が短く設定され、食品ロスが生じている実態を明らかにしています。なお、私が借りて読んだのは黄色の表紙の新書で、上の画像のような派手な表紙ではなかったんですが、まあ、同じ内容なのだろうとしておきます。ということで、食品ロスとはすなわちコストアップの原因であり、我々消費者に跳ね返ってきているわけですが、著者は他の点については食品業界だけでなく家庭の責任や浪費を主張しているにも関わらず、なぜか、賞味期限の厳しい設定については、章句品業界のバックグラウンドに控える消費者に目が行っていないように見受けられ、私は少し不思議な気がしました。食品だけでなく、衣料品とか、電機製品など、日本の消費者の要求水準はすべからく厳しく高く、そのためのコストアップはかなりのものだと私は認識しています。もちろん、国内消費者の要求水準に適合した品質を持って海外に売り込めば、価格はともかく品質面では高い国際競争力を得た、という面はあるにしても、エコノミストでなくとも品質と価格がトレードオフの関係にあることは知っているわけで、本書でも高品質低価格の食品を求めるとかは消費者のエゴであると断じています。ですから、価格見合いの品質で満足し、賞味期限や消費期限の長い製品を店の奥まで目を走らせて買い求めるような消費行動を慎み、消費期限ギリギリの食品はフードバンクに寄付する、などのより合理的な消費行動、企業活動を推奨しています。ただ、エコノミストとしての私の感触からすれば、残り消費期限と価格を連動させるなどの合理性も必要かという気はします。年末大掃除で忘れ去られていた食品が見つかった場合などの対応にも参考になるかもしれません。

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最後の最後に、上の画像は今週日曜日12月26日の日経新聞の「エコノミストが選ぶ経済図書ベスト10」から引用しています。一応、私も官庁エコノミストの端くれとして、この10冊はすべて読んでいますが、6位、8位、10位と3冊も白川総裁時代の旧来型の日銀理論家の著作が入っており、私には少し違和感が残りました。黒田総裁下での異次元緩和に対する批判がそこまで強いんでしょうか。そうだとすれば、昨日取り上げたリフレ派の本で、批判に対する反論を強く打ち出すのも理解できるような気もします。どうも、私にはよく判りません。

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2016年12月29日 (木)

原田泰・片岡剛志・吉松崇[編著]『アベノミクスは進化する』(中央経済社)を読む!

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今週になって、思わぬ方からクリスマス・プレゼントが届きました。原田泰・片岡剛志・吉松崇[編著]『アベノミクスは進化する』(中央経済社) を共著者のおひとりである三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛志上席主任研究員からご寄贈いただきました。
副題が「金融岩石理論を問う」となっていて、リフレ派の観点から金融政策に関していくつかのの疑問や批判に対して反論したもので、大学の研究者というよりは、なぜか、シンクタンクなどのアナリスト系のエコノミストが多く執筆しています。民間エコノミスト出身の日銀政策委員である佐藤委員と木内委員の任期が来年2017年半ばだったように私は記憶していますので、何か関係があるのかないのか、私にはよく判りません。といった野暮な詮索は別にして、いろんなテーマで勉強になる本なんですが、ハッキリいって「今さら感」いっぱいな気もします。特に最後の12章のマイナス金利は取って付けたようで中身もやや貧弱と受け止めました。あえて取り上げれば、4章のバブルと11章の構造失業率の推計問題が評価できると考えます。以下の通りです。
まず、4章で取り上げているバブルについては、旧来の日銀は「羹に懲りて膾を吹く」ように、バブル崩壊を招かない要諦は、そもそも、バブルの発生を避けるという観点から、ひどい引き締め基調の金融政策運営だったわけで、こういった点を私なんぞも批判的に見ていたんですが、本書第4章ではそれなりによく整理されたバブル観が示されています。今や「合理的なバブル」とか「バブル・ライド」といった見方もあるわけですし、少なくとも、バブル発生を防止するのが経済政策運営の最大の目標とする考え方がおかしいという点についてはほぼ合意があるように私は考えています。次に、11章でスポットを当てている構造失業率については、本書の結論を私も大いに支持します。すなわち、フィリップス曲線的にいうと現状の3%を少し上回るくらいの失業率は完全雇用ではなく、日銀のインフレ目標の2%に対応する失業率は3%を下回る、というのが私の直感的な理解です。11章でも出てくる労働に関する国立の研究機関に私も在籍していたことがあるんですが、いくつかの経営者団体や労働組合などとの懇談会で、当時の3%台半ばの失業率が完全雇用であって、それ以上に失業率が下がらないだろう、とのご意見に対して、私から失業率が3%を下回らないと物価は上がらない、とフィリップス・カーブ的な反論をしてしまったことも記憶しています。

最後に、繰り返しになりますが、本書はリフレ派の金融理論に対する疑問や批判に対する反論を収録していますが、とても「今さら感」が強いです。浜田先生が金融政策だけでなく財政政策のサポートも必要、と主張し始めたのはつい最近で、書籍メディアでの対応はまだムリとしても、少なくとも、黒田総裁の下で異次元緩和が始まって3年半を経過してもサッパリ物価が上がらないのはなぜなのか、をもっと正面から説得的に提示すべきです。異次元緩和で物価が上がらないのであれば、逆から見て、まさに「岩石理論」的に、物価が上がり始めてしまってから引き締めに転じても、金融政策による物価のコントロールが出来なくなる可能性も残されているわけですから、金融政策でどこまで物価をコントロールできるかは重要な論点だと思うんですが、いかがなもんでしょうか。加えて、ご寄贈いただいた片岡さんは、以前、アベノミクスの「進化」の方向として分配を示唆されていたように記憶しています。実際に、同一賃金同一労働などを含めて、いわゆる働き方改革も進んで来ており、本書のタイトルであれば、そういったラインに沿った「進化」を期待するのは私だけでしょうか?

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2016年12月28日 (水)

増産に転じた鉱工業生産指数と回復の兆しがうかがえる商業販売統計!

本日、経済産業省から11月の鉱工業生産指数(IIP)商業販売統計が公表されています。鉱工業生産は季節調整済みの系列で前月比+1.5%の増産、小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+1.7%増の11兆7110億円と、ともに景気回復の兆しがうかがえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の遠下りです。

11月の鉱工業生産1.5%上昇 基調判断「持ち直しの動き」に上げ
経済産業省が28日発表した11月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比1.5%上昇の99.9だった。横ばいをはさんで2カ月ぶりに上昇した。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(1.7%)をやや下回った。数値制御ロボットなど、はん用・生産用・業務用機械工業が伸びた。自動車部品などが好調だった輸送機械工業も増えた。生産の基調判断は「緩やかな持ち直しの動き」から「持ち直しの動き」へと4カ月ぶりに上方修正した。
直近、4カ月連続で生産がマイナスにならなかったことから判断を引き上げた。11月の表現は消費増税前の駆け込み需要が目立った2014年3月以来2年8カ月ぶり。「消費税率引き上げによる影響を払拭した」(経産省)という。
11月の生産指数は15業種のうち11業種が前月から上昇し、4業種が低下した。はん用・生産用・業務用機械工業が3.3%上昇。輸送機械工業が2.0%、電気機械工業が5.5%上昇した。窯業・土石製品工業が0.9%、プラスチック製品工業が0.3%低下した。
出荷指数は前月比0.9%上昇の99.2だった。在庫指数は1.5%低下の107.0、在庫率指数は5.5%低下の107.9だった。
12月の製造工業生産予測指数は前月比2.0%の上昇となった。電子部品・デバイス工業や鉄鋼業、金属製品工業の伸びがけん引する見込みだ。予測指数は企業の計画を基に作成するため、高めの数字が出やすい。経産省は実際の上昇率は0.0%程度になると予想している。
11月の小売業販売額、前年比1.7%増 基調判断を引き上げ
経済産業省が28日発表した11月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比1.7%増の11兆7110億円だった。新車販売などが好調で9カ月ぶりに前年実績を上回った。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」とし、10月の「一部に弱さがみられるものの横ばい圏」から引き上げた。
衣料品の販売増も目立った。11月は全国的に気温の低い日が多く、冬物の衣料品がよく売れた。生鮮野菜の高騰を背景に食料品の販売も増えた。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で0.1%減の1兆6477億円だった。百貨店は高額品が低迷し、3.3%減った。スーパーは食料品の好調を映し、1.7%増となった。
コンビニエンスストアの販売額は3.8%増の9332億円だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。それにしても、2つの統計を引用すると長くなります。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は、次の商業販売統計とも共通して、景気後退期です。

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鉱工業生産指数(IIP)に関して、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは前月比で+1.6%の増産でしたから、ほぼジャストミートし、しかも、製造工業生産予測調査では12月+2.0%増、来年1月も+2.2%増との結果でしたので、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である経済産業省による生産の基調判断は「緩やかな持ち直しの動き」から「持ち直しの動き」へと3か月振りに上方改定されています。上のグラフにもある通り、生産は増産局面に入りつつあるのが確認できます。また、グラフは示しませんが、在庫調整が大きく進展し、例えば、典型的に大きな在庫変動が観察される電子部品・デバイス工業では、在庫率指数で見て、7月の159.2を直近のピークに、8月126.8、9月116.0、10月113.0に続いて、11月統計では93.4と、一直線に低下を示しています。製造工業全体の平均でも7月の117.3から11月の107.9まで低下して来ています。この製造工業平均の在庫水準は消費増税前後の2014年3月105.3、4月105.6以来の低水準となっています。背景は出荷の伸びですが、上のグラフのうち下のパネルで見て、資本財はそこそこ伸びを示していますが、問題は耐久消費財などの消費です。逆から見て、消費が伸び始めれば本格的な景気回復局面への復帰と考えられると私は受け止めています。そのためには、完全雇用に近い雇用水準にもかかわらず賃金が上がらないパズルを解決することが必要です。賃金が上がれば、消費の拡大とともに物価の上昇が見込めますから、賃金上昇に向けた何らかの所得政策の導入が求められると私は考えています。同一労働同一賃金なのか、プレミアムフライデーなのか、現時点では考えはまとまりませんが、賃金を上げ消費を喚起する所得政策、さらに出来れば、格差を縮小させるような経済政策がアジェンダに上る段階にあるんではないでしょうか。

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続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。消費にリンクする小売販売額は季節調整していない原系列では前年同月比+1.7%増、また、季節調整済みの系列の前月比でも+0.2%と増加しています。上のグラフでもほぼ最悪期を脱しつつあるのが読み取れると思います。ということで、引用した記事にもある通り、商業販売統計のうちの小売販売に関しても、統計作成官庁である経済産業省の基調判断が「横ばい圏」から「持ち直しの動き」に上方修正されています。業種別では、引用した記事にもある通り、自動車小売業が前年同月比+6.6%増と新車販売の増加を受けて売上げを伸ばしたほか、天候要因ながら気温が低かったという通常の季節要因で織物・衣服・身の回り品小売業が+4.4%増となっています。ただし、飲食料品小売業の+1.6%増は野菜などの価格上昇に伴う増加の要素が大きく、実質ではそれほどの増加を示したとは実感できません。12月をはじめとする先行きのの消費動向については、恒常所得ではないものの、ボーナスがそれなりに増加したとの実感がありますので、消費もボーナスなどの収入の増加に応じた伸びがあったんではないかと期待しています。

私の勤務する役所では、本日12月28日がいわゆるご用納めです。明日から私は年末年始休暇に入ります。

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2016年12月27日 (火)

完全雇用に近い雇用統計とマイナス続く消費者物価指数(CPI)の動向やいかに?

本日、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、また、総務省統計局の消費者物価指数(CPI)が、それぞれ公表されています。いずれも11月の統計です。季節調整済みの系列で見て、失業率は3.1%と前月から+0.1%ポイント上昇し、有効求人倍率も前月からさらに0.01ポイント上昇して1.41を記録した一方で、生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率は▲0.4%と9か月連続でマイナスに落ち込んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

求人倍率、11月は1.41倍 3カ月連続上昇
失業率は0.1ポイント悪化

雇用は引き続き改善が進んでいる。厚生労働省が27日発表した11月の有効求人倍率(季節調整値)は1.41倍で、3カ月連続で上昇した。1991年7月以来の高水準となり、企業の人手不足感が一段と強まっている。新たに仕事を探す人が増え、総務省が同日発表した完全失業率(同)は3.1%と前月に比べて0.1ポイント上昇した。
来年に向けて企業が人材確保に乗り出し求人数が増えている。11月の有効求人数は前年同月比で5.9%増加した。同月の新たな求人数を業種別にみると電子部品製造業が41.2%、ゴム製品製造業が30.0%それぞれ増えた。仕事を探す人以上に求人数が伸びている。
職探しをする人の増加は失業率にも表れている。完全失業率は3カ月ぶりに悪化したが、専業主婦などが新たに仕事を探し始めたことが要因だ。新たに求職を始めた人は前月比で9万人増え、2013年8月以来、3年3カ月ぶりの高水準になった。
完全失業者は197万人で、前年同月より12万人減少した。勤め先や事業の都合による離職が6万人減ったほか、自己都合の離職も5万人少なくなった。
求人数の増加で雇用の「質」も改善している。正社員の有効求人倍率(季節調整値)は0.90倍で、04年に統計を取り始めて以来初めて0.9倍台に乗った。
全国消費者物価、原油安で0.4%下落 11月
生鮮野菜は高騰続く

総務省が27日発表した11月の消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、値動きの大きい生鮮食品を除く総合が99.8となり、前年同月比0.4%下落した。QUICKが事前にまとめた市場予想の中央値と同じだった。電気代が6.9%下落するなど引き続き原油安が響き、9カ月連続で前年実績を下回った。
生鮮食品を除く総合では全体の56.4%にあたる295品目が上昇し、172品目が下落した。横ばいは56品目だった。
生鮮食品を含む総合は100.4と0.5%上昇した。天候不順の影響から、トマトが44.4%上昇するなど生鮮野菜の高騰が続いており、指数を押し上げた。食料・エネルギーを除く「コアコア」の指数は100.5と0.1%上昇した。
東京都区部の12月のCPI(中旬速報値、15年=100)は生鮮食品を除く総合が99.5と、前年同月比0.6%下落した。下落は10カ月連続で、下落幅は2013年2月以来の水準となった。電気代や都市ガス代を中心に原油安の影響が出ている。ただ、ガソリンは2.6%上昇しており、プラスに転じた。生鮮食品を含む総合は99.8と横ばいだった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。それにしても、会員限定の記事だということもあってとても長くなりました。続いて、雇用統計については、上のグラフの通りです。上のパネルから順に、失業率、有効求人倍率、新規求人数をプロットしています。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は景気後退期です。

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雇用統計については、上に掲げた3枚のグラフのうち、前月から改善を示しているのは有効求人倍率だけであり、失業率はわずかとはいえ久し振りに上昇しました。ただ、引用した記事にもある通り、失業率の上昇は専業主婦などの以前は非労働力人口だった人々が景気の回復を実感したために、新たに職探しを始めて労働市場に参入したことが要因のようですから、悲観する必要はないのかもしれません。なお、上のパネルから順に、景気との関係は一般に、失業率は遅行指標、有効求人倍率は一致指標、新規求人は先行指標と考えられています。ですから、引き続き、ほぼ完全雇用状態に近い人手不足が続いています。これも引用した記事にある通り、正社員の有効求人倍率も0.90倍を記録して高い水準にあります。前々からこのブログで表明している通り、まったく理論的な根拠はないものの、人手不足や労働需給のひっ迫は賃金よりも正社員増の方に現れる可能性も否定できません。もっとも、フィリップス曲線的にいって、日銀の物価目標である2%の物価上昇率と整合的な失業率は3%を下回るというのが私のかねてからの見解であり、それをサポートする本も最近読みましたので、近くより詳しく取り上げたいと思います。

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続いて、いつもの消費者物価上昇率のグラフは上の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エベルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。なお、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。ということで、日銀の物価目標である+2%にはほど遠く、生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率は9か月連続でマイナスを記録しています。他方、ヘッドラインCPI上昇率は天候不順による野菜の価格高騰などから+0.5%の上昇を示しています。ヘッドラインCPIはコアCPIに回帰すると私は考えていますが、少なくとも現時点では野菜などの価格動向は国民生活を圧迫する方向であると見なさざるを得ませんし、耐久消費財が年末商戦に向けて新製品が出回る時期とはいえ、相変わらず価格低下を示しているのは、消費が盛り上がらない帰結なんだろうと受け止めています。

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2016年12月26日 (月)

企業向けサービス価格指数(SPPI)はこのまま膠着状態が続くか?

本日、日銀から11月の企業向けサービス物価指数(SPPI)が公表されています。前年同月比上昇率で見て、ヘッドラインSPPIは+0.3%、国際運輸を除くコアSPPIは+0.5%と、小幅ながら前月統計から上昇率が縮小しています。でも、まだプラス領域にはあります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の企業向けサービス価格指数、前年比0.3%上昇 伸び率縮小
日銀が26日発表した11月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)速報値は103.3で、前年同月比0.3%上昇した。伸び率は10月確報値の0.5%を下回った。広告や宿泊サービスの伸びが鈍った。前月比では0.1%上昇した。
品目別に見ると、広告価格が上昇幅を縮めたことが指数の重荷になった。10月にはスポーツ特番向けや金融機関の再編に伴う広告出稿がテレビ・新聞広告の価格上昇につながったが、11月は反動が出たという。
宿泊サービス価格の伸びも鈍った。日銀は「10月の大幅上昇をけん引した広告や宿泊費が元の水準に戻った」(調査統計局)として、基調に変化はないとの見方を示している。
一方、外航貨物輸送はマイナス幅を縮小した。石油輸出国機構(OPEC)主導の協調減産への思惑から原油価格の先高観が広がったほか、前年に比べて円高の進行幅が縮小したことも影響した。土木建築サービス、労働者派遣サービスは人手不足を背景に、人件費の上昇が続いた。
対象の147品目のうち、価格が上昇したのは49、下落した品目は62で下落した品目の方が13多かった。上昇と下落の品目数の差は、下落が8品目多かった10月から拡大した。
企業向けサービス価格指数は運輸や通信、広告など企業間で取引されるサービスの価格水準を示す。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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このところ、企業向けサービス物価(SPPI)の前年同月比上昇率は、ほぼ0%台前半から半ばで膠着状態にあり、大きな変化は示していません。先月統計では+0.5%まで上昇幅を加速しましたが、今月は+0.3%に逆戻りしてしまいました。ただ、この程度の違いであれば、どこまで統計的に有意かは疑問であり、ひょっとしたら計測誤差と見なすべきなのかもしれません。ただ、引用した記事にもある通り、先月も今月も広告が物価変動の無視しえない部分を占めており、今月については寄与度で見て、インターネット広告が+0.02%の物価押上げ方向での寄与を示した一方で、テレビ広告▲0.07%と新聞広告▲0.07%が逆方向の寄与を示しています。ほかに、外航貨物輸送が+0.03%のプラス寄与をしているのは、国際商品市況における石油価格の反転に伴う動きを反映している可能性があります。また、12月以降については、決して、ダイレクトな影響ではありませんが、円安が間接的に一般物価水準を引き上げる可能性があります。国際商品市況の動向と併せて、こういった対外要因が物価を引き上げる可能性があるものの、国内の需給要因はサッパリだったりします。例えば、本日公表された10月31日から11月1日にかけて「展望リポート」を審議した際の日銀政策委員会の議事要旨が公表されているんですが、「基調的な物価について、最近の消費の弱めの動きを映じて企業の価格設定行動が慎重化する中、弱含んでいる」と、また、「中長期的な予想物価上昇率の弱含みの局面が続いている」との指摘が複数の政策委員から出た旨が明記されています。物価が本格的に上昇し、消費者物価(CPI)上昇率で日銀の物価目標である2%に達するのはまだまだ時間がかかりそうです。

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2016年12月25日 (日)

年賀状が出来上がる!

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あけましておめでとうございます
ではなく、
Merry Christmas!!!

と勘違いもするくらい、昨日は年賀状作成に明け暮れました。クリスマスを過ぎれば、そろそろお正月です。

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2016年12月24日 (土)

今週の読書はグッと落ち着いて経済書と専門書ばかりで5冊だけ!

先週末あたりから年末年始休暇も見据えて、周辺の図書館から大量に本を借りまくっています。一時、在住区の図書館からは限度の20点に近い19点まで借りてしまいました。そのうち、今週の読書は以下の5冊にペースダウンしました。最後に取り上げているワシントン・ポスト取材班による『トランプ』にものすごく時間をかけてしまった結果だという気がします。

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まず、伊藤宣広『投機は経済を安定させるのか?』(現代書館) です。著者は京都大学大学院で博士号を取得した高崎経済大学の研究者です。副題は「ケインズ『雇用・利子および貨幣の一般理論』を読み直す」となっており、ケインズ的な観点から投機と経済的安定を議論しています。というのも、もともと、ケインズ的な理論で国民所得水準を決める重要な変数のひとつである利子率は流動性選好と貨幣供給から決まり、後者は中央銀行がコントロールするとしても、前者の流動性選好のバックグラウンドには投機の問題があると考えられるからです。本書では議論の前提として、いわゆるケインズ経済学の戦後経済社会における隆盛と衰退、特に、1970年代のインフレやスタグフレーションに伴ってケインズ的なマクロ経済政策の有効性に疑問が持たれ、1980年前後から英国のサッチャリズムや米国のレーガノミクスによる新自由主義的な経済政策の試みはもちろん、ケインズ個人の投資実績まで明らかにして、当期と経済的安定性の問題について解明を試みますが、結局、結論は竜頭蛇尾に終わり、p.198 にある通り、当期が逆張りか順張りか、すなわち、上がっている銘柄をさらに上がると考えて買い求めるか、それとも、上がったら下がると考えて売りに出すか、それ次第であると結論しています。ただし、私は市場それ自体の動きも考慮に入れる必要があると指摘しておきたいと思います。すなわち、例えば、日米の株式市場においては、米国ではモメンタム相場であって、上がっている株をさらに買い上げるという順張り戦略のリターンが高く、逆に、日本はリターンリバーサル相場で逆張りのリターンが大きいとされていて、少なくとも計量経済学の分野では実証的に決着がついています。すなわち、本書の結論に従えば、米国では投機は不安定要因であり、日本では経済安定要因である可能性があります。しかし、そこまで単純かといえば、私にはそうも思えません。もちろん、本書でも紹介されているように、右派的な経済学において、例えばフリードマン教授が投機を安定化要因と指摘し、変動為替相場制を推奨したわけですが、これまた、それほど単純でもないような気がします。まあ、極めて複雑怪奇な問題にこの程度のボリュームの書籍における検証で決着がつくと考えられないわけですから、このあたりの結論が妥当なのかもしれません。

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次に、久保亨・加島潤・木越義則『統計でみる中国近現代経済史』(東京大学出版会) です。著者3人は中国経済史の研究者であり、出版社から明らかな通り、本書は学術書と考えるべきです。ということで、本書は19世紀半ば過ぎくらいから、大雑把に150年に渡る近現代中国の経済史を経済活動と政策動向の両面から跡付けています。すでに、21世紀に入り、GDPで測った経済規模では我が国を追い越して米国に次ぐ経済大国となった中国を、それなりの長いタイムスパンで歴史的に分析し直し、歴史から中国経済の先行きを考える際の指針とすべく、来し方行く末を考えるのもいいような気がします。ただ、本書は経済史のいくつかの方法論の中でも、かなり淡々と経済発展を数量的に、というか、もっと端的に表現すると量的にのみ把握しようと試みており、逆にいえば、1920年の辛亥革命による封建制の清朝打倒と1949年の共産中国の成立など、政体的に極めて大規模な質的変化があったにもかかわらず、というか、それよりも経済活動の継続性をより重視した研究を取りまとめています。ですから、王朝ごとに取りまとめられた歴史と違って、本書では具体的に工業、農業、商業・金融業、エネルギーといった分野ごとに分析、というか、記述を進めています。確かに、製造業に目を向けた大Ⅱ章の近代工業の発展についても、いわゆる西欧的な産業革命やロストウ的なテイクオフといった質的な転換点に関する議論よりも、生産量の推移などの定量的な把握が中心になっていたりします。それはそれで、OKという読者と、私のように少し物足りない読者もいそうな気がします。特に、近代的な組織だった生産ラインを持つ工業はともかく、小規模な農業などは生産意欲、というか、いわゆるインセンティブに如実に反応する場合も少なくなく、第Ⅴ章の農業を取り上げた章で、生産互助会から合作社、さらに、人民公社に生産形態が集約され、そして、現在はどうなっているのか、といった生産高のバックグラウンドになっている生産組織や生産様式についても、もっとしっかりした分析が欲しかった気がします。ただ、研究者の書いた学術書ですから、分析目的についてはそれなりの背景があり、例えば、テキストにするとか、あったりするんでしょうから、読者によってはOKかもしれません。質的変化の分析や記述がほとんど欠けている分、統計的なテーブルは充実しています。ソチラの目的で読めばOKなのかもしれません。

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次に、 デロイト・トーマツ・コンサルティング『モビリティー革命2030』(日経BP社) です。著者はコンサルティング・ファームのリサーチチームであり、企業名からして会計士さんが多かったりするんでしょうか。私はこの業界はよく知りません。本書では、自動車産業が大きなティッピング・ポイントを迎えているとして、その要因を環境対応としてのパワートレーンの多様化、自動運転などのインテリジェント化、そして、Uberなどのシェアリングサービスの3点があると指摘し、産業としての方向性を議論しています。まず、パワートレーンの多様性とは聞き慣れない言葉かもしれませんが、要するに、従来のように、トラックやバスなどのごく一部のディーゼルを別にすれば、自家用車はほとんどガソリンで動くレシプロ・エンジン一本槍、というわけではなく、ハイブリッド車や、プラグイン・ハイブリッド、電気自動車など動力源が多様化したという意味です。これに、自動運転などのインテリジェント化とシェアリング化を加えると、まず、自動車がドライバーにとっても運転する楽しさではなく、運転手付きの社用車で通勤する重役のごとく、単なる移動の手段となるわけですから、例えば、自動車の動力性能などは重視されなくなる可能性が高くなります。シェアリング社会で自動車を保有するのではなく、単なる利用者になれば、自動車そのものの稼働率は高まり、効率的な運用が可能となりますから、人々の移動に必要とされる自動車の数量=台数は少なくて済みます。有り体にいえば、自動車が売れなくなるわけです。我が国経済は私の実感でもかなり自動車産業のモノカルチャーに近く、自動車が効率的に組織されて公共交通機関に近くなり、多くの台数を必要としなくなれば、我が国経済は大いに傾く可能性すらあります。関連産業としても、米国の保険業の業界団体の試算によれば、自動ブレーキ搭載車の保険金請求件数は▲14%減少したといいますので、自動運転によって安全性が高まれば保険業の収入も減少する可能性が高くなります。その中で本書最終章の提言は迫力不足としかいいようがありません。まあ、本書後半の商用車のあたりから、米国の先進的なメーカー幹部へのインタビューでもって方向性を探ったりしていますので、それほど自信がないのも判りますが、やや迫力不足で、しかも、タイトル通りに2030年というかなり近い将来のお話であって、いわゆるシンギュラリティの2045年よりずっと前の段階の将来像を探っているにも関わらず、現状の方向性を先延ばししただけの内容だという気がします。もう少し深い内容を望んだ私の期待が過剰だったのかもしれませんが、やや迫力不足で物足りない気がします。

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次に、中野佳裕/ジャン=ルイ・ラヴィル/ホセ・ルイス・コラッジオほか『21世紀の豊かさ』(コモンズ) です。著者は掲げた他にも何人かいて、名前から判別できる日本人は別として、フランスなどの大陸欧州と中南米出身の社会科学系統の研究者が中心かと思います。邦訳者が序章の冒頭に記している通り、「「本書は、フランスの社会学者ラヴィルとアルゼンチンの経済学者コラッジオの共同編集による『21世紀の左派 - 北と南の対話に向けて』の日本語特別編集版だ。」ということのようであり、スペイン語版は2014年に、フランス語版は2016年に、それぞれ出版されています。ちなみに、私はスペイン語を理解するんですが、早く出版された方のスぺイン語版のタイトルは Reinventar la isquierda en el XXI siglo となっています。そして、邦訳する段階でなぜか「左派」が「豊かさ」に置き換えられています。理由は不明です。私はタイトルが「左派」であっても読んだかもしれませんが、パスする人もいるかもしれません。ということで、本書では経済的な成長至上主義を批判しつつ、本書のキーワードとなっている「オルタナティブ」を提示しようと試みています。その試みは成功しているかどうかは、私には判然としませんが、ひとつには「公」でも「私」でもなく、「共」の分野の拡大を目指す点などが上げられます。単なる言葉遊びではなく、もちろん、精神論だけでもなく、コモンズとしての適用可能な範囲の拡大が上げられます。そうすると、右派的な所有権の問題がありますので、一気に社会主義とまではいかないとしても、本書では何度か社会民主主義に言及されますが、何らかの左派的な所有権構造の社会を変革することもひとつの視点となるかもしれません。ただ、本書でも指摘している通り、ソ連の崩壊や現在の中国を見ている限り、マルクス主義的な共産主義や社会主義が国民の理解を得られるとは到底思えませんし、本書でも、マルクス主義的な一直線の生産力の拡大は否定されています。他方で、マルクス主義的な革命路線までの大きな変革ではないとしても、ポスト資本主義やポスト民主主義に向けての何らかのパラダイム・シフトや変革=トランジションの必要性も本書では追求しています。また、ラクラウの議論に立脚して、マルクス主義的な観点から、単なる階級闘争にすべてを流し込むのではなく、フェミニズムや教育・医療をはじめとする広い意味での社会福祉の増進、労働者保護などの視点も導入されています。社会民主主義的というか、社会改良主義的な視点かもしれません。最後に、そうはいっても、本書はフランス的な構造主義・ポスト構造主義などの影響を強く受けており、しかも、邦訳の質がそれほど高くなく、例えば、「デアル」調と「です・ます」調の文章が混在するなど、決して読みやすい内容ではありません。出版社も聞きなれないところですし、編集の質にも疑問があります。どこかで少しくらいは立ち読みしつつ、読むかどうかを決めた方がいいかもしれません。

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最後に、ワシントン・ポスト取材班『トランプ』(文藝春秋) です。今年の海外からの大きなサプライズとして上げられるのは、英国のEU離脱、いわゆるBREXITと、米国大統領選挙でのトランプ候補の当選だったのではないでしょうか。しかし、世界の困惑をよそに、少なくとも我が国経済はトランプ次期米国大統領を好感し、円安と株高が進んでいるのも事実です。ということで、本書はワシントン・ポスト取材班が今年半ばに3か月間20人のジャーナリストを動員して、米国共和党の予備選挙と党大会までのトランプ次期大統領に関するパーソナル・ヒストリーや言動・行動を取りまとめたものです。上の表紙画像に見る通り、英語の原題は Trump Revealed ですから、直訳すれば、「暴かれたトランプ」といったカンジでしょうか。圧倒的なボリュームです。引用文献を含めて500ページをはるかに超え、トランプ次期米国大統領の人となりを余すところなく明らかにしています。11月の米国大統領選挙前までの情報ですから、かなりトランプ次期大統領に対して否定的な内容と読めますが、不動産経営者、カジノ経営者、テレビのエンタテイナー、などの公的、というか、人々の目に触れる面の顔を中心に取材したり文献に当たったりしており、家族構成やましてや祖先の出身地などは、かなり粗略な扱いとなっています。私はこれが正しい報道だと受け止めています。ともかく、情報量としては圧倒的です。これほど私が時間をかけて読んだ本も、最近ではめずらしい気がします。そういった意味で、典型的な米国ジャーナリズムの成果といえます。同じような情報量の多さで、例えば、ナオミ・キャンベルの著作などは、左派ベラルとして私の傾向にマッチしているのがわかっていながらも読了を諦めたりしたことがあるんですが、本書は何とか読み通すことができました。とても興味あるテーマと題材ながら、覚悟して読み始めるべきです。

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2016年12月23日 (金)

日本気象協会による「2017年 初日の出時刻表」を見る!

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日本気象協会から「2017年 初日の出の時刻表」が明らかにされています。上の画像の通りです。
大雑把に東京は6時50分くらいに見えますが、もちろん、高いところに上ると日の出は早まるんではないかと思わないでもありません。サイトでは、サンシャイン60、東京タワー、東京スカイツリーなどが紹介されています。
私は、日本のほかに、南米はチリの首都サンティアゴとインドネシアの首都ジャカルタで年越しをそれぞれ3回ずつ経験しましたが、この年齢になっても早起きが苦手で、大晦日に夜ふかしするせいもあって、60年近い人生で今まで1回も初日の出を見たことがありません。今年もムリだという気がします。

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2016年12月22日 (木)

退任するオバマ米国大統領の米国市民の評価やいかに?

ちょうど1週間前の先週12月15日に、トランプ次期米国大統領の評価を取り上げましたが、来年早々に退任する現任のオバマ米国大統領の評価も気にかかるところで、12月14日に同じピュー・リサーチ・センターから Obama Leaves Office on High Note, But Public Has Mixed Views of Accomplishments と題した世論調査結果が明らかにされています。pdfの全文リポートもアップされています。まず、ピュー・リサーチのサイトから最初の2パラを引用すると以下の通りです。

With just a few weeks left in Barack Obama's presidency, Americans' early judgments of his place in history are more positive than negative. Obama is poised to leave office on a high note: Current assessments of both the president and the first lady are among the most favorable since they arrived in the White House.
At the same time, many express skepticism about whether Obama has been able to make progress on the major problems facing the nation, and whether his accomplishments will outweigh his failures. Democrats and Republicans have distinctly different views on Obama's legacy, and these partisan divides are greater today than they have been for other recent presidents.

ということで、今夜のエントリーではピュー・リサーチのサイトから図表を引用しつつ、簡単にリポートを取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから How will history judge Obama? と題するグラフを引用しています。これを見る限り、オバマ大統領は1980年代のレーガン大統領には及ばないものの、最近の歴代大統領としてはクリントン大統領と並ぶ高評価を受けていることが明らかです。もっとも、直前のブッシュ大統領の評価がひどかっただけに、その反動で比較されれば高評価につながった可能性は否定できません。さらに、図表は引用しませんが、歴史に残る業績としては1番にヘルスケアが上げられています。当然でしょう。しかし、2番目からは目立ったものはなく、2番目が初めての黒人大統領とか、3番目でも一般的な高評価というに過ぎず、プラハ宣言の非核政策などの外交はノーベル平和賞を受けたにもかかわらず4番目だったりします。

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次に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Blacks, postgrads say Obama made progress on solving major problems と題するグラフを引用しています。すなわち、どのようなグループにおいてオバマ大統領の評価が高いかといえば、黒人はある意味で当然としても、若い世代と高学歴層で目立った支持を得ています。特に、引用はしませんが、別のグラフではミレニアル世代で77%の支持を受けているとの結果も示されています。

最後に、グラフは引用しませんが、オバマ大統領に関して印象的なのはファーストレディのミシェル夫人の存在感です。ある意味では、クリントン政権でのヒラリー夫人以上かもしれません。米国大統領2期8年間で、好ましい(favorable)のスコアはバラク・オバマ大統領をほぼ常に上回る結果を出していたりします。

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2016年12月21日 (水)

ブラックフライデーの買い物は日本で定着するか?

さて、昨夜のプレミアムフライデーに続いて、ブラックフライデーについて考えます。元はといえば、米国の感謝祭 (Thanks Giving Day) の翌日の金曜日が、今年でいえば11月25日がクリスマス商戦の始まりとなり、翌週の月曜日、サイバーマンデーまで続く一連の商戦の中でも、各小売店が大幅割引セールを行い、1年でもっとも物が売れる日、そして、黒字になるという意味で Black Friday といわれたのがはじまりです。いくつかの有名百貨店には夜明け前から買い物客が行列をなしたりします。まあ、一種のイベントと化している面はあります。ただ、ここ2-3年で日本でも急速にハロウィンのイベントが普及したように、ブラックフライデーも大化けして日本でも一大イベント化する可能性がないわけではない、と私は考えています。ということで、今夜はマクロミル・ホノテのサイトからいくつかグラフを引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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上の円グラフは、ブラックフライデーの認知とブラックフライデーにちなんだ買い物をしたかどうかを問うた結果を上下に連結しています。ブラックフライデーの認知については、内容まで知っているが30%を少し上回る割合で、半分超は聞いたことがある程度でした。まあ、一応、私はその昔に海外経済を対象とするナントカ白書を米国経済担当の係長として執筆していたりしますので、エコノミストの中でもそれなりに詳しいと自負しています。本筋に戻って、さらに、知っている割合がこんなもんですから期待すべくもないんですが、ブラックフライデーにちなんだ買い物をした割合は10%に満たない少数派となっています。プレミアムフライデーに続いて、ブラックフライデーも官民上げて広報したりするんでしょうか?

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2016年12月20日 (火)

プレミアムフライデーは定着するか、そもそも、実施できるか?

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やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週12月12日に官民でプレミアムフライデー推進協議会が設立され、プレミアムフライデーの実施方針やロゴマークなどが明らかにされています。なお、ご賢察の通り、ロゴマークは上の通りです。経済産業省のサイトから拝借しています。まず、朝日新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

今度は「プレミアムフライデー」 来年2月から実施へ
経済産業省や経団連、小売り、旅行などの業界団体でつくるプレミアムフライデー推進協議会は12日、初会合を開き、毎月末の金曜に消費活動を促す「プレミアムフライデー」を来年2月24日から実施すると決めた。買い物しやすいように従業員の終業時刻を早める取り組みも進めるという。
プレミアムフライデーは、各地のショッピングセンターや商店街などにイベントやキャンペーンを企画してもらい、買い物や外食、旅行など幅広い分野の消費を喚起するのがねらい。主導する経産省は広告費などとして、2016年度の補正予算に2億円を計上。協議会では今後、月末の金曜日は従業員が午後3時をめどに退社できるよう企業に働きかける方針だ。
イベントの導入で消費を盛り上げる動きはほかにも出ている。今年11月には、米国で慣例の商戦「ブラックフライデー」を日本の流通大手などが採り入れている。

ということで、その昔に、というか、今もあるのかもしれませんが、政府が旗を振って働き方改革実現会議を設置して、働き方改革、すなわち、ワーク・ライフ・バランスの改善などを進めて来ており、その途上で例の電通の新入女子社員の長時間労働による過労自殺が大きくクローズアップされたりしたのは周知の通りです。でも、電通に立ち入り調査したりして、こういったブラック企業まがいの労働実態をバッシングするだけでは何の前進も見られないわけで、ここは何らかの積極策が必要と私は考えていましたが、こういった形で労働時間の短縮が図られようとしているとは知りませんでした。もちろん、疑問もあって、しょうもない点を先にすると、月末最後の金曜日に早帰りをして、例えば、ショッピングに行くとすれば、そのお店の店員さんはプレミアムフライデーの早帰りを出来ないわけで、そのあたりは矛盾するような気もします。そういったケースでは何かプレミアムフライデーに対する補償的な措置が取られたりするんでしょうか。もうひとつ、というか、最大の疑問は認知度です。下のグラフは、12月13日付けの博報堂行動デザイン研究所の調査レポートから引用していますが、プレミアムフライデーの認知状況は寂しい限りです。もっとも、この調査は10月実施ということですので、これから広報に相務めるんでしょうが、どこまで広がりますやら。100%確実に取り入れるのは電通くらい?

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なお、引用した記事の最後に現れる「ブラックフライデー」については、これも同じフライデーつながりというわけでもないんですが、日本での普及に関して私自身も興味があがり、日を改めて取り上げたいと思います。

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2016年12月19日 (月)

3か月連続で貿易黒字を記録した貿易統計をどう見るか?

本日、財務省から11月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲0.4%減の5兆9565億円、輸入額も▲8.8%減の5兆8040億円、差引き貿易収支は+1525億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の貿易収支、3カ月連続黒字 輸入減大きく
財務省が19日発表した11月の貿易統計(速報、通関ベース)では、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は1525億円の黒字だった。貿易黒字は3カ月連続。QUICKがまとめた市場予想は2274億円の黒字だった。輸出入ともに減ったが、輸入額の減少がより大きかった。
輸出額は前年同月比0.4%減の5兆9565億円と14カ月連続で減った。11月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=104.94円と、円が対ドルで前年同月に比べて13.5%高かったことが響いた。11月は実勢レートに比べ円高だが「税関長公示レートの平均値は2週間前の数値を当てはめているため」(関税局)という。12月の貿易統計では足元の円安を反映した内容になる見通しだ。
サウジアラビア向けの自動車、イタリア向け鋼管など鉄鋼の輸出が減った。輸出の地域別では米国が1.8%減、欧州連合(EU)は2.2%減だった。中国を含むアジアは3.4%増えた。
輸入額は8.8%減の5兆8040億円と23カ月連続で減った。アイルランドからの医薬品、アラブ首長国連邦からの原粗油や液化天然ガスなどが減った。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、貿易修正ですが、季節調整していない原系列のベースで見て、3か月連続の貿易黒字を記録し、今年2016年11月までで貿易黒字が8か月、赤字が3か月と、震災直後の赤字続きの時期に比べて、国際商品市況における石油価格の下落が大きな要因とはいえ、貿易赤字が連続することはなくなったような感触を私は得ています。特に、季節調整済みの系列では、昨年2015年11月から1年余りにわたって貿易黒字を計上し、最近時点ではジワジワと黒字幅が拡大していたりします。加えて、つい最近時点までは輸出入の双方が減少を続ける中で、石油価格の影響などから輸入の減少幅の方が大きくて、結果として黒字になっていた面がありますが、上のグラフ、特に季節調整済みの系列をプロットした下のパネルを見れば明らかな通り、このトレンドに変化が見られつつあり、輸出入ともに反転・増加して拡大均衡の中の貿易黒字が実現されているようになりつつあります。しかも、引用した記事にもある通り、11月統計では1ドル=104.94円と前年同月に比べて13.5%もの円高水準だったわけですから、我が国産業の国際競争力が突然飛躍的に上昇したわけでもないでしょうから、世界経済の拡大の本格化が背景となっている、と私は考えています。

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ということで、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。OECD先行指数からみて、海外需要は最悪期をすでに脱して回復局面に入りつつあるのが見て取れると思います。特に、中国については急速に回復する可能性が示唆されています。従って、マクロの世界経済動向から見て、そろそろ我が国の輸出数量も増加する局面に達しつつあり、現に11月統計では輸出数量指数が季節調整していない系列の前年同月比で見て、対世界で+7.4%増、対中国が+16.0%増と大きく伸びており、これにトランプ効果の円安が加われば、さらに輸出増加に弾みがつく可能性も十分ある、と私は考えています。

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2016年12月18日 (日)

上の倅の誕生祝のごちそう!

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かなり前の12月8日に20歳の誕生日を迎えた上の倅なんですが、その上の倅の誕生祝のごちそうが上の写真の通りです。繰り返しになりますが、20歳という区切りの誕生日で誠にめでたい限りです。

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2016年12月17日 (土)

今週の読書は経済書や小説も含めて7冊にややペースダウン!

今週の読書は経済書や小説などを含めて以下の通りの7冊です。ただ、新刊ではないので取り上げませんでしたが、一昨年話題になった『京都ぎらい』も読みました。嵯峨出身で宇治在住という洛外派の著者の見方や考え方に、宇治出身の私も大いに共感するところがありました。また、米澤穂信の古典部シリーズから6年振りに短編集として第6巻『いまさら翼といわれても』が出版され、さらに、シリーズ最初の『氷菓』が山﨑賢人と広瀬アリスの主演で来年封切りの実写映画化されるということなので、前の1-5巻を読み返し始めています。というのは、5巻全部を読んだという記憶がないからです。今のところ、第1巻『氷菓』、第2巻『愚者のエンドロール』、第3巻『クドリャフカの順番』を読み終え、3巻までは読んだ記憶がありました。第4巻か第5巻が短編集のハズで、実は最新第6巻も短編集なのですが、短編集は読んだ記憶がなく、単に忘れているだけの可能性もあるところ、これから読み返したいと思います。第6巻『いまさら翼といわれても』は今日中に近くの区立図書館に借りに行く予定です。

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まず、河音琢郎ほか[編著]『オバマ政権の経済政策』(ミネルヴァ書房) です。編著者のグループはなぜか、というか、何というか、全員が京都大学大学院のご出身ですから、そういうグループなんだと思います。8年前には同じ出版社から『ブッシュ政権の経済政策』を出版しているようですが、私は未読です。ということで、タイトル通りの内容です。ただ、経済学の観点から分析した経済政策だけでなく、政治学も含めた政治経済学の観点からの研究書です。オバマケアと俗称される医療保険改革はもちろん、特に、TPPをはじめとする第8章の通商政策はそうですし、第9章の外交・安全保障政策なんかは通常は経済政策のスコープからは外れているかもしれません。いずれにせよ、2009年に前政権からリーマン・ショック直後のいわゆる Great Recession の米国経済を引き継いだ後のオバマ政権におけるややリベラルな方向性を志向した経済政策が対象とされています。ということで、サブプライム・バブルの崩壊という極めて大きなマイナスのショックからオバマ政権の経済政策は始まり、その分をある程度割り引いて考える必要すら感じるものの、基本は、特に財政政策面で議会との協調がうまく行かずに、緩和的な金融政策とやや財政再建を目指した財政政策の軋轢の中で、米国経済の舵取りは必ずしも万全ではなかった、私は評価しています。大きな眼目であった医療保険改革については制度的に確立し、2013-14年のわずか1年で、無保険者が13.4%から10.4%に▲3%ポイントも低下した成果が本書でも示されています。ただ、社会保障政策のもうひとつの柱であった年金政策については本書でも目立った成果がなかったと結論しています。また、世界に開かれた通商政策ではTPPの合意に成功したものの、今年の米国大統領選で勝利したトランプ次期米国大統領が早々に破棄を明言しており、オバマ政権での盤石の取組みが欠けていた可能性もあります。オバマ政権の経済だけでなく全体としての政策を評価するひとつの指標として、今年2016年の米国大統領選挙において、非常な内向き政策を表明し反リベラルの旗幟を鮮明にしたトランプ候補が最後に当選したという事実とともに、民主党の予備選では社会民主主義者を自称するサンダース議員の検討にも注目すべきであり、オバマ大統領の各種政策はリベラルに支持を集めることに失敗し、逆にオバマ政権のリベラルな政策に対する反発が左右両派のやや極端な方向性への支持を増加させた可能性があると私は考えています。要するに、オバマ政権のリベラルを志向した政策は客観的に成功したかどうかはともかく、米国市民の支持を集めることには失敗した、と私は考えています。

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次に、永野健二『バブル 日本迷走の原点』(新潮社) です。著者は京都大学経済学部での私の先輩、というか、日本経済新聞をホームグラウンドとしていたジャーナリストです。団塊の世代のようですから一線は退いているのかもしれません。私も同僚と今夏に我が国の高度成長期に関する研究成果を取りまとめ、主として途上国の政策当局者や企業幹部向けに供しているところですが、我が国の戦後の高度成長期、すなわち、大雑把に1970年代前半の石油危機までを考えると、いわゆる政官財の三すくみというか、三者一体となった日本独自の戦後システムの中で競争を抑制し、割安な為替と豊富な労働をテコにキャッチアップ型の成長を遂げたのが特徴ですが、1970年代前半にその高度成長も終演を迎えて安定成長期に入り、さらに、その前後からケインズ政策がインフレを招くという形で限界を露呈し、英国のサッチャリズムや米国のレーガノミクスといった新自由主義的な市場を最大限に活用する経済政策に舵を切ることとなります。その過程で米国がインフレ抑制のために猛烈な高金利を実施し、それがドル高を招き米国の国際競争力を大きく毀損したため、1985年のプラザ合意によりドル高是正が図られ、日本から見れば急速な円高が進みます。戦後の輸出に有利な為替が崩れることから、金融政策が極めて緩和的な方向にシフトし、それが遠因となってバブル経済を招きます。ちなみに、1980年代終わり近くに私は役所の経済モデルのうち、日本モデルを担当しており、データ作成で公定歩合が2.5%で動かなかったのをよく記憶しています。通常、エコノミストの分析には人間が現れないといわれたりしますが、ジャーナリストの手になる本書ではバンバン実名が出ます。もちろん、政治家や役所の高官、責任ある立場の経営者などですので「公人」ということで何ら差し支えはないと思います。ですから、個性的な人が、反社会的勢力も含めたアングラ社会の人も含めて、本書の中にウジャウジャいて、とてもお面白く読めます。私は1991年3月に日本を発って海外赴任したので、バブル崩壊直後の、例えば、1991年5月に発覚した尾上縫事件などはほとんど実感として知らないんですが、そういった社会性あふれる事件も再現されていたりします。もちろん、ドキュメンタリーというか、ノンフィクションであることはいうまでもありませんが、まるでフルカラーの映画を見ているようです。ただ、副題のように「日本迷走の原点」はバブル経済を招いたことではありません。バブル崩壊後の処理を誤ったのが、その後の「失われた20年」の大きな原因であることは記憶しておくべきでしょう。

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http://eb.store.nikkei.com/asp/ShowSeriesDetail.do?seriesId=D3-00032111C 次に、クラウス・シュワブ『第四次産業革命』(日本経済新聞出版社) です。著者はダボス会議などを主催する世界経済フォーラムの創設者であり、世界の政治経済を40年余りリードしてきた人物といえます。英語の原題は The Fourth Industrial Revolution であり、そのまま邦訳しているようです。今年2016年の出版です。ということで、第4次に至る1-3時についてはご想像の通りであり、第1時が悠久の昔の農業の開始による定住をもって第1次産業革命と定義し、第2次は特に第何次と付けずに普通にいう産業革命であり、上記期間とか鉄道とかのアレです。そして、第3次産業革命を最近までのデジタル技術の発達による通信革命とほぼ同義に使っています。そして、本書のタイトルたる第4次産業革命とは人工知能(AI)やモノのインターネット(IoT)、あるいはロボットなどに限らず、遺伝子技術やゲノムに関連したテクノロジー、あるいは、ナノテク、再生可能エネルギー、量子コンピュータなどの幅広い分野における現在進行形も含む近未来のエマージング・テクノロジーに支えられているとしています。まあ、2045年をシンギュラリティの特異点として、そのあたりでの従来とは不連続な技術の進歩を概観する向きもありますので、ほぼ同じ方向を向いた議論かと私は受け止めています。まだ必ずしも確定していない近未来の技術に支えられていますので、第4次産業革命とは形がハッキリしているわけではありません。いくつかの特徴を本書などでも抽出しようと試みていますが、成功しているかどうかは時間が経過しないと判然とはしません。プラットフォーム・ビジネスが主流になるようですが、今年の1月23日付けの読書感想文で取り上げたジェレミー・リフキン『限界費用ゼロ社会』と同じように、限界費用がほぼゼロとなり、公共財に似て非競合的である財が消費の中心になる経済を想定していますので、市場メカニズムでどこまで資源配分を解決できるかも不明です。悪く称すると、群盲象を撫でるが如き議論だという気もしますが、方向として好ましくないのが明らかなのは、テクノロジーにより代替される雇用が創出される雇用を上回る可能性が高く、すなわち、雇用が喪失する可能性が高い、という点と、格差や不平等が拡大する方向での成長に帰結する可能性が高い、という2点です。本書では解決策は示されていません。最後に、どうでもいい点ながら、付章でディープシフトとして、イクツカノチッピング・ポイントについてビジネスリーダーから予想を集めて2025年までの実現可能性を探っているんですが、シフト13の経営の意志決定にAIが用いられるシフトについては2025年までにチッピング・ポイントが到来する確率は45%なんですが、ホワイトカラーの職務をAIが代替する確率は75%と弾き出しています。ビジネスリーダーは自分たちの仕事はAIには奪われないものの、自分たちの部下の仕事はAIで代替されると見なしているようです。何と自分勝手な、と思うのは私だけでしょうか。
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次に、朝日新聞取材班『子どもと貧困』(朝日新聞出版) です。昨年2015年10月から今年2016年7月まで、朝日新聞において特集として掲載された記事を基に書籍化されています。デフレ経済が続いているとはいえ、先進国の一角を占める我が国において、ほとんど死と隣合わせのような貧困、それも何の自己責任も問えないような子供の貧困をジャーナリストのメから取材によりケーススタディとして取り上げています。個々の実例として、極めて重視すべき貧困問題であり、個々のケースについてはよく取材もされていますが、社会全体としてどのような取組みが必要とされるのか、最後の最後にこども食堂の活動の実例がいくつか紹介されていますが、国民ひとりひとりが現に目の前にある子どもの貧困に対して何が出来るのかを問うて欲しかった気がします。でないと、なんだか、貧乏自慢のようになりかねませんし、本書の中でもいくつか子供のための施設が地域の迷惑施設のように扱われているような例も散見されます。誇り高い朝日新聞の記者の取材ですので、母子家庭や失業家庭の子供の貧困について、こういった上から目線で取材することもあり得ますでしょうが、かなり他人事のような冷めた記事が多いような気がしました。本書に収録された取材記者のコラムの中で、税負担が増加するという形で痛みを伴っても子供の貧困を解決する覚悟が国民にあるかどうかを問うているセンテンスがありましたが、そんな問題ではないんです。私がいつも主張しているように、本書に収録されたような状態に置かれた子供に対して基本的人権が守られるようにすることは正義の問題だと思います。国民の選択の問題ではありません。最後に、子どもの貧困についてさまざまな取材がなされていて、学校の教師や研究者、地域などのNPO法人などが取材を受けていますが、次の『無葬社会』の感想とも重複しますが、宗教界の僧侶などには取材が及んでいません。朝日新聞記者の問題なのか、現在の宗教界の問題なのか、こういった人権問題であるとともに地に足つけて議論すべき社会問題に、宗教界からの声が出てこないというのは我が国特有の問題がありそうな気もしないでもありません。

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次に、鵜飼秀徳『無葬社会』(日経BP社) です。著者は報知新聞から日経ビジネスの記者を務めたジャーナリストであるとともに、浄土宗の僧侶の顔も持っている人物で、1年余り前の2015年9月6日付けの読書感想文のブログで取り上げた『寺院消滅』の著者でもあります。ということで、まず疑問なんですが、横浜の火葬場だけなのかもしれませんが、初っ端 p.10 の火葬場の10日待ちというのについてはウソっぽく読みました。私も年何回かお葬式やお通夜に出席することがありますが、さすがに火葬場の10日待ちというのは都内では聞いたことがありません。こういった細かい点で事実関係に疑問を持たれると、他の部分の真実性にも疑いが飛びししかねないような気がして少し残念な気がします。お墓については完全にビジネスになっていて、本書でも永代供養墓を詳しく紹介していますが、我が家も首都圏でお墓を購入しています。京都の東山今熊野にある菩提寺に相談し、住職同士がいとこに当たるという東京の浄土真宗のお寺を紹介してもらい、私の父の納骨を済ませています。ですから、異常に地価の高い東京でいろんな形式のお墓があるのは理解できるところです。ただ、これも疑問なんですが、p.108 の樹木葬=散骨について桜に「輪廻転生」するイメージ、というのも理解できませんでした。輪廻転生から抜け出すのが仏教でいうところの悟りであり、いわゆる解脱であるハズで、浄土宗の僧侶でもある著者には重々理解されていると思うんですが、そのあたりの表現ぶりが私の理解を超えています。それから、どうしても2章のお葬式に着目してしまうんですが、お葬式がビジネス化してアマゾンのお坊さん便について取り上げてあり、その視点は私も共有するものがありました。日本語で俗に「坊主丸儲け」という言葉がありますが、例えば、京都の拝観料への課税などで市民が寺院に対して冷たい視線を送ったのには理由があり、寺院や僧侶がこのご時世に優遇されすぎている、という一般市民の視点も著者には取り入れて欲しかった気がします。

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次に、長岡弘樹『教場2』(小学館) です。警察モノを得意とする人気ミステリ作家の前作『教場』に続く第2弾です。主人公というか、前作と同じように白髪隻眼の風間教官を中心とし、警察学校の初任者課程にスポットを当てた短編集が6編収録されています。2013年に公刊された前作の『教場』はほぼ3年前の2014年1月19日付けの読書感想文で横山秀夫『64』とともに取り上げています。第1話の「創傷」では、初任科第100期短期課程に在籍し、医師から警察官に転職した変わり種の桐沢篤を主人公に、かつて病院で治療した同期生が中小企業の町工場で何を作っていたかに思い当り愕然とする、というものです。第2話「心眼」では、教場における備品の盗難が相次ぎ、しかも、盗まれたのは、PCのマウス、ファーストミット、木琴を叩くマレットなど、単独では使い道のないものばかりで、その解決が図られる、というものです。第3話「罰則」では、プールでの救助訓練が嫌でたまらない学生の津木田卓がたくらむちょっとしたイタズラ、屈強な体格のスパルタ教師である貞方教官に向けたイタズラの結末を追う、というものです。第4話「敬慕」では、女子学生の菱沼羽津希が初任科第100期短期課程の中でも特別な存在として、広告塔として重用されている一方で、レスリング部出世院で体育会系の枝元佑奈をテレビのインタビューの手話通訳として引き立て用に使おうとしたところ、意外な事実が発覚する、というものです。第5話「机上」では、刑事を志願し将来の配属先として刑事課強行犯係を強く希望している仁志川鴻は、殺人捜査の模擬実習を提案し、意外な結末を迎える、というものです。第6話「奉職」では、警察学校時代の成績が昇進や昇級、あるいは、人事異動等ことあるごとに参照される重要性があり、同期で卒業生総代を争う成績優秀な美浦亮真と桐沢篤の葛藤を描く、というものです。私は同じ公務員ながら、警察の世界はほとんど知りませんが、最終第6話の p.226 で、警察学校の初任者過程というか、警察官試験合格者の全色の変り種一覧の落書きが提示されていて、ここまでバラエティに富んでいるのかとびっくりしましたが、第1話の町工場での密造品なんかは警察からすれば、とんでもないことであり、どこまでホントなのか、実感あるのか、よく判りません、フツーの私のような公務員の世界ではあり得ないお話のような気もします。私はこの作者の短編シリーズでは傍聞きの方に好感が持ています。

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最後に、西内啓『統計学が日本を救う』(中公新書ラクレ) です。作者はベストセラーになった『統計学が最強の学問である』の著者です。特に、強い意図もなく何となくで図書館で予約してしまったんですが、中身はほとんど統計学を用いての経済学的な解説に終止しています。というのも、私は一応『統計学が最強の学問である』を読んだんですが、なあ、ハッキリいって、大した中身もなく、ほとんど忘れてしまっていたもので、本書はそれなりに新鮮に感じました。しかも、著者の主張はほとんど私と一致しています。本書では、着眼点として、第1章では高齢化の原因は平均寿命の延伸ではなく少子化であると指摘し、これは極めて論理的で統計的にも正しいと私は感じていますし、第2章の貧困対策としての社会保障政策のあり方の議論についても、ほぼエコノミストとして同意しています。第3章の医療経済学的な分析は著者の専門分野ですので、私の感想は差し控えるものの、私のようなエコノミスト、すなわち、ベンサム的な功利主義に基づく学問を専門とするエコノミストでさえ、やや顔を赤らめるようなコスト・ベネフィット分析が赤裸々に展開されています。人の健康や生命を扱う医療であるがゆえ、慎重な考えが必要とも言えますし、逆に定量的な割り切った計算も必要ともいえます。このあたりは私はパスです。第4章の最終章では、とうとう経済成長の必要性につての議論が展開されます。正面切った正当な議論だと思います。ただし、例えば、橘木先生などは成長と分配をトレードオフとして捉えているような気がしますが、そういった視点は本書の著者にはありません。分配の問題はまったく別途として考えているような雰囲気です。そのあたりは本書の弱点のような気がします。すなわち、統計で捉えられる部分均衡的な解決策はとても明解で論理的で正確な気がしますが、統計で捉えられていない、あるいは、モデルの中に入り切らない別の重要な問題まで目が届いていないようです。でも、その限界は許容されるべきくらいに本書の主張は明解で正確です。

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2016年12月16日 (金)

マクロミル・ホノテによる「2016年 重大ニュース」やいかに?

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マクロミル・ホノテによる今年「2016年 重大ニュース」の結果は上の通りです。
1位は文句なしでしょう。米国タイム誌の Person of the Year にも選出されています。ほか、細かな順位の異同はあっても、2位から10位までもこんなもんだという気がします。11位以下はご興味次第で何とでもなりそうに私は受け止めています。

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2016年12月15日 (木)

米国におけるトランプ次期大統領の評価やいかに?

やや旧聞に属する話題ながら、先週12月8日にピュー・リサーチ・センターからトランプ次期米国大統領に関する米国市民の受け止めに関して、Low Approval of Trump's Transition but Outlook for His Presidency Improves と題する世論調査結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。大統領選挙の結果を受けて、トランプ次期米国大統領への支持は上がらず、党派間、あるいは、民族間の軋轢が増す懸念すら広がっています。まず、ピュー・リサーチのサイトからリポートの最初の3パラを引用すると以下の通りです。

Nearly a month after Donald Trump's election as president, the public views his transition to the White House less positively than those of past presidents-elect. And while expectations for Trump's presidency have improved since before his victory, about as many Americans say Trump will be a poor or terrible president as a good or great one.
The latest national survey by Pew Research Center, conducted Nov. 30-Dec. 5 among 1,502 adults, finds that 40% approve of Trump's cabinet choices and high-level appointments, while 41% approve of the job he has done so far in explaining his policies and plans for the future.
In December 2008, 71% of Americans approved of Barack Obama's cabinet choices, and 58% expressed positive views of George W. Bush's high-level appointments in January 2001, prior to his inauguration. Similarly, higher shares approved of the way that both Obama (72%) and Bush (50%) explained their policies and plans for the future than say that about Trump today.

ということで、8年前のオバマ政権発足時、あるいは、16年前のブッシュ政権発足時と比べて、米国世論の目はトランプ次期大統領にやや冷たいようです。今夜のブログでは、ピュー・リサーチのサイトの Overview から図表を引用しつつ、簡単に紹介しておきたいと思います。

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まず、上のグラフは Low approval ratings for Trump's transition を引用しています。政権移行期の政策や計画に対する評価が上のパネルで、下は組閣で指名された閣僚に対する評価です。上の政策や計画に対する評価が特に低く、「蜜月」と称される選挙直後の熱気は感じられません。なお、2000年の米国大統領選挙で選出された当時のブッシュ大統領の場合は、ゴア候補との票のカウントでかなりもめましたので、その後遺症のようなものを感じ取ることが出来ますが、今回はそういったアクシデントもありませんでしたので、素直に当選大統領ご本人の政策の不人気なんだろうという気がします。下の閣僚候補者への評価も似たようなものかもしれません。

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次に、上のグラフは Public sees strong conflicts between many groups, especially partisans を引用しています。各種の選挙終了後は、さまざまなグループ間で融和策が図られるものですが、政党間、経済的な貧富間、白人と黒人間、などなどの各種グループの間で軋轢が増すかどうかを問うたところ、特に、党派間での対立が増すという回答が過半の56%に上っています。これに次ぐのが経済的な富者と貧者の間の軋轢です。こういった国民の間の融和をどのように図るのか、新米国大統領とそのスタッフの腕の見せどころかもしれません。

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2016年12月14日 (水)

1年半振りに景況感が改善した日銀短観をどう見るか?

本日、日銀から12月調査の短観が公表されています。ヘッドラインとなる大企業製造業の業況判断DIは9月調査から+4ポイント改善して+10を記録し、本年度2016年度の設備投資計画は全規模全産業が前年度比+1.8%増と、わずかに9月調査から上方修正されました。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

日銀短観、大企業製造業が1年半ぶり改善 米経済回復で
12月景況感指数プラス10

日銀が14日発表した12月の全国企業短期経済観測調査(短観)は、企業の景況感を示す業況判断指数(DI)が大企業製造業でプラス10だった。前回の9月調査(プラス6)から4ポイント改善した。改善は6四半期ぶり。米国など海外経済の回復で電気機械や自動車など輸出企業の景況感が改善した。米大統領選後の世界的な株高や原油市況の回復も追い風となった。
業況判断DIは景況感が「良い」と答えた企業の割合から「悪い」と答えた企業の割合を引いた値。12月の大企業製造業DIは、QUICKがまとめた市場予想の中央値のプラス10に一致した。回答期間は11月14日-12月13日で、回答基準日は11月28日だった。
3カ月先の業況判断DIは大企業製造業がプラス8だった。2016年度の事業計画の前提となる想定為替レートは大企業製造業で1ドル=104円90銭と前回の107円92銭よりも円高・ドル安方向に修正された影響があった。トランプ次期米大統領に政策を見極めようとする雰囲気が経営者の間で根強かった面もあったようだ。
大企業非製造業の現状の業況判断DIはプラス18と前回と同じだった。円高進行による訪日外国人(インバウンド)消費の鈍化で小売りの景況感が悪化した。一方、都心の再開発が進み、建設関連が高水準を維持したほか、対事業所サービス、電気・ガスなどの改善が目立った。3カ月先のDIは2ポイント悪化し、プラス16を見込む。
中小企業は製造業が4ポイント改善のプラス1、非製造業は1ポイント改善のプラス2だった。先行きは悪化した。
2016年度の設備投資計画は大企業全産業が前年度比5.5%増だった。9月調査の6.3%増から下方修正された。昨年の同時期(10.8%増)を下回った。大企業のうち製造業は11.2%増、非製造業は2.5%増を計画している。
16年度の全規模全産業の設備投資計画は前年度比1.8%増で、市場予想の中央値(2.9%増)を下回った。大企業製造業の16年度の輸出売上高の計画は前年度比6.3%減で9月調査の3.7%減から下方修正された。
大企業製造業の販売価格判断DIはマイナス7と、9月調査(マイナス10)から3ポイント上昇した。DIは販売価格が「上昇」と答えた企業の割合から「下落」と答えた企業の割合を差し引いたもの。個人消費の伸び悩みや物価の低迷で販売価格には下落圧力が強い。金融機関の貸出態度判断DIは全規模・全産業でプラス24と、9月調査のプラス25から悪化した。

やや長いんですが、いつもながら、適確にいろんなことを取りまとめた記事だという気がします。続いて、規模別・産業別の業況判断DIの推移は以下のグラフの通りです。上のパネルが製造業、下が非製造業で、それぞれ大企業・中堅企業・中小企業をプロットしています。色分けは凡例の通りです。なお、影をつけた部分は景気後退期です。

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まず、上のグラフは規模別産業別の業況判断DIをプロットしています。なかなかに複雑な動きをしているんですが、この12月調査については大企業非製造業で前回の9月調査と同じ横ばいの結果だった以外は、ほぼ全規模全産業で景況感は前回調査から足元で上向いています。しかし、先行きについては、逆に、すべての規模と産業で悪化を見込んでいます。大企業について細かい産業別に見ると、足元の12月調査では、大企業製造業のうち加工業種では円安を好材料に改善を示し、改善幅は加工業種に及ばなかったものの、素材業種も前回調査からは改善しています。前者については、電気機械、はん用機械、生産用機械などの改善幅が大きく、後者については、国際商品市況の底入れにより石油・石炭製品が大幅改善したのが寄与しています。大企業非製造業については、製造業からの波及が大きい対事業所サービスや電気・ガスなどの改善幅が大きい一方で、卸売、小売、対個人サービス、宿泊・飲食サービスなどの個人消費に関連する業種ではむしろ悪化を示しています。基本的な企業マインドは堅調であると私は受け止めていますが、企業が大きく内部留保を溜め込む一方で、天候不順などの要因も見逃せませんが、家計の消費が停滞している景気の現状が垣間見える気がします。ただし、ここまで広範な業種で先行き景況感が悪化すると見込まれているのは、まだまだ不透明感が高いと考えるべきです。

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続いて、いつもお示ししている設備と雇用のそれぞれの過剰・不足の判断DIのグラフは上の通りです。設備については、後で取り上げる設備投資計画とも併せて見て、設備の過剰感はほぼほぼ払拭されたと考えるべきですし、雇用人員についても不足感が広がっています。特に、採用に苦労しているように聞き及んでいる中堅・中小企業では大企業よりも不足感が強まっています。ただし、失業率や有効求人倍率などの雇用統計を見れば、量的にはほぼ完全雇用状態に達している可能性があり、今後は質的な雇用の改善、すなわち、正社員の増加や賃金上昇が実現される段階に進むんではないかと期待しています。

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最後に、設備投資計画のグラフは上の通りです。もっとも、今年10月1日に公表された9月調査の短観までは大企業全産業の設備投資計画をヘッドラインと見なしてグラフにプロットしていたんですが、どうも、世間的に全規模全産業が設備投資計画のヘッドラインになっているような気がして、本邦初公開で私のこのブログでも全規模全産業の設備投資計画をグラフにするよう方針変更しました。ということで、今年2016年度の計画は黄緑色のやや太いラインと同色の大きなマーカで示されていますが、見ての通りで、9月調査からわずかに上方修正され前年度比+1.9%増と見込まれています。ただし、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは+2.9%増でしたので、かなり下回りました。旧来のヘッドラインである大企業全産業でも前回調査を下回っており、設備投資についてはトランプ次期米国大統領の経済政策が未知数だけに、まだまだ先行きの不透明感から強く影響されているように見受けられます。

景気に関する企業マインドは、前回調査から大きな変化は見られない一方で、実体経済は踊り場的な景気状態からア少し回復の動きが出始めています。企業マインドについては米国の経済政策動向の不透明さを反映している可能性もありますが、徐々に実体経済の回復基調が明らかになるに従って、企業マインド・消費者マインドともに上向いていくことを私は予想しています。

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2016年12月13日 (火)

明日発表の日銀短観予想やいかに?

明日12月14日の発表を前に、シンクタンクや金融機関などから12月調査の日銀短観予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って、大企業製造業と非製造業の業況判断DIと大企業の設備投資計画を取りまとめると下の表の通りです。設備投資計画は今年度2016年度です。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、今回の日銀短観予想については、今年度2016年度の設備投資計画に着目しています。ただし、三菱総研だけは設備投資計画の予想を出していませんので適当です。それ以外は一部にとても長くなってしまいました。いつもの通り、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、html の富士通総研以外は、pdf 形式のリポートが別タブで開くか、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあってリポートが読めるかもしれません。

機関名大企業製造業
大企業非製造業
<設備投資計画>
ヘッドライン
9月調査 (最近)+6
+18
<+6.3%>
n.a.
日本総研+8
+19
<+5.8%>
先行き、設備投資の腰折れは回避される見通し。米国・欧州の政治情勢を巡る不確実性などは設備投資意欲の重石となるものの、維持・更新需要に加え、人手不足が続くなか省力化・合理化などに向けた投資が期待可能。米大統領選後の円安基調が続けば、企業収益の押し上げが期待されるとともに、金利は低水準での推移が続くとみられ、今後の設備投資計画は、力強さには欠けるものの、底堅い推移となる見通し。
大和総研+10
+20
<+5.8%>
2016年度の設備投資計画(全規模全産業)は前年度比+2.6%と、前回(同+1.7%)から上方修正されると予想する。12月日銀短観の設備投資計画には、中小企業を中心に上方修正されるという「統計上のクセ」がある。今回は、2015年末以降の円高進行に伴う業績悪化が輸出関連製造業にマイナスの影響を及ぼす一方、非製造業については堅調な企業収益がプラスに作用するとみられる。この結果、全体としてみると、例年の修正パターン並みの上方修正になると想定した。
みずほ総研+9
+18
<+6.4%>
製造業については、「トランプ円安」により収益見通りが改善すると見込まれる。しかし、交易条件要因による収益の改善について、企業は一時的なものとして慎重に捉える傾向があり、設備投資の増加には結びつきにくいと考えられる。加えて、トランプ政権の保護主義策がサプライチェーンに与える影響などを見通すことは現段階では困難であり、設備投資計画を大幅に変更できる状況ではないとみられる。
ニッセイ基礎研+11
+20
<+5.8%>
16年度の設備投資計画(全規模全産業)は、前年度比2.5%増と前回調査時点の1.7%増から上方修正されると予想。例年、9月調査から12月調査にかけては、中小企業で計画が固まってくることに伴って上方修正されるクセが強く、今回も上方修正されるだろう。ただし、年初から半ばにかけての円高によって企業収益が圧迫されたほか、海外経済が不透明感を増していることから、一部で様子見や先送り姿勢が広がりつつあると考えられ、例年と比べて上方修正の度合いが抑制的になると見ている。
第一生命経済研+10
+19
<製造業+10.3%>
<非製造業+3.6%>
金融市況の変化だけでなく、実体経済にはじわじわと景気改善の実感が感じられる。それを短観で実数の変化として把握することは大きな意義がある。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券+16
+19
<+6.6%>
16年度の設備投資計画は、大企業・中小企業ともに上方修正が予想される。収益環境の改善に加えて、極めて緩和的な金融環境が、設備投資の回復を後押ししている模様である。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+11
+20
<+6.3%>
2016年度の設備投資計画は、大企業製造業は前年比+10.4%、非製造業は同+4.2%と、ともに前年から増加の計画が維持される見込みである。国内需要の急速な拡大は見込めないものの、引き続き設備の維持・更新への投資が行われるほか、生産(販売)能力の拡大や効率化を進めるための前向きな投資も行われると予想する。もっとも、今回調査で前年比2ケタの増加と予測される製造業については、例年、12月以降の調査で下方修正される傾向があり、最終的にはさらに下方修正される可能性がある。
三菱総研+9
+18
<n.a.>
業況判断DI(大企業・全産業)は、+14%ポイント(9月調査から2%p上昇)と、6期ぶりの業況改善を予想する。海外需要の持ち直しを背景に、製造業を中心に業況改善を見込む。
富士通総研+10
+20
<+5.6%>
2016年度の設備投資計画(全規模・全産業)は前年度比1.9%と、9月調査からわずかに上方修正されると見込まれる。世界経済の先行き不透明感はなお強いが、米中の景気が持ち直しつつあるという環境の下、維持更新や省力化投資に対する企業の意欲は衰えていない。最近の労働需給の逼迫は、省力化投資にさらに拍車をかけている。先行きは、円高の影響一巡による企業収益持ち直しが、設備投資のプラス要因になると考えられる。大企業は製造業、非製造業とも、昨年度の伸びは下回るものの、9月調査に続き、過去の平均を上回る伸びを保つと予想される。中小企業も上方修正されるが、製造業では先行き不透明感の強さが勝り、9月調査に続き、過去の平均の伸びを下回ると見込まれる。

見れば分かると思いますが、大企業の製造業・非製造業の業況判断DI、さらに、大企業全産業の2016年度設備投資計画の前年度比です。設備投資計画は土地を含みソフトウェアを除くベースです。景況感はマクロ経済の緩やかな回復に伴って、わずかながら改善の方向に向かうとのコンセンサスのようです。製造業と非製造業のどちらが改善幅が大きいかについては見方が分かれていますが、5500億ドルのインフラ投資などの次期米国大統領のトランプ効果で円安がこのまま続けば製造業での景況感回復が大きくなりそうな気もしますが、他方でトランプ次期米国大統領はTPP脱退などの貿易制限的な内向き政策も標榜しており、どちらの面が強く出るかは現時点では何ともいえません。ただ、今回私は着目した設備投資に限れば、大きな修正はないものの、従来通りの短観の統計としてのクセが出るとの考えでほぼ一致しているようです。すなわち、大企業は12月時点ではやや下方修正されるものの、中堅ないし中小企業では具体化が進んで上方修正される、というクセです。ですから、それほど大きな前年度比プラスにはならないものの、それなりに底堅い動きであろうと予想されています。
最後に、下のグラフは三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所のリポートから大企業全産業の設備投資計画の予想を引用しています。ご参考まで。

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2016年12月12日 (月)

増加に転じた機械受注とマイナス幅が着実に縮小する企業物価指数(PPI)をどう見るか?

本日、内閣府から10月の機械受注が、また、日銀から11月の企業物価 (PPI)が、それぞれ公表されています。機械受注は変動の激しい船舶と電力を除くコア機械受注の季節調整済みの系列で見て、前月比+4.1%増の8783億円を記録し、企業物価はヘッドラインの国内物価上昇率は前年同月比で▲2.2%の下落を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、10月4.1%増 非製造業が3年5カ月ぶり高水準
内閣府が12日発表した10月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月比4.1%増の8783億円だった。増加は3カ月ぶり。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(1.1%増)を大幅に上回った。非製造業からの受注額が2013年5月以来3年5カ月ぶりの高い水準となり、全体をけん引した。
機械受注の基調判断は、過去3カ月の動向を踏まえ「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に据え置いた。
製造業からの受注額は1.4%減の3310億円と3カ月連続で減った。電子計算機で反動減が出た電気機械は26.2%減、非鉄金属も前月に原子力原動機などで大型受注があった反動で69.6%減と落ち込んだ。
非製造業からの受注額は4.6%増の5336億円と3カ月ぶりに増えた。発電機など内燃機関が増え、その他非製造業が56.0%増えた。農林漁業では農林機械や建設機械が伸び26.7%増になった。
前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は5.6%減だった。内閣府は10-12月期見通しを5.9%減と開示していた。10月の実績を踏まえ、内閣府は「思ったほどのマイナスではないのかもしれない」との見方を示した。
11月の企業物価、前年比2.2%下落 米政策期待で前月比は上昇
日銀が12日に発表した11月の国内企業物価指数(2010年平均=100)は99.1で、前年同月比で2.2%下落した。前年比で下落するのは20カ月連続。ただ、下げ幅は6カ月連続で縮小し、15年5月以来の小ささとなった。足元の商品価格の上昇や円安進行が物価下落を抑えている。
前月比では0.4%の上昇だった。米国の次期政権の政策期待や中国の公共事業拡大に急激な円安が重なり、銅や地金など非鉄金属の価格が上昇した。
円ベースの輸出物価は前月比で3.1%上昇、前年比で7.8%下落した。輸入物価は前月比で5.4%上昇し、前年比では10.2%下げた。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち前年同月比で下落したのは504品目、上昇は226品目だった。下落と上昇の品目差は278品目で、10月の確報値(312品目)から縮小した。
日銀は企業物価の前月比での上昇について「石油輸出国機構(OPEC)の減産合意や中国の(鉱山に対する)環境規制といった供給要因に加え、米国や中国の財政政策への期待が要因」と指摘。その上で「実需といえるものはそれほど大きくない。供給要因や政策期待がいつまで続くのか注視していく」とした。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は、その次の企業物価とも共通して、景気後退期を示しています。

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機械受注については、引用した記事にもある通り、コア機械受注が日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスを上回って増加しましたが、注意すべきは、11月の米国大統領選挙の結果が出る前の調査結果であり、トランプ次期米国大統領の選出による円安などの前の状況を基にした統計であるという点です。ですから、季節調整済みの系列で見て、製造業は3か月連続の前月比マイナスですが、船舶と電力を除く非製造業+4.6%と増加し全体を押し上げています。円安前ですので、基本的には、マクロ経済の環境改善に伴う受注増と考えていますが、それほどすぐには発注が来るわけでもないでしょうし、もう少し長い目で設備投資環境を考える必要がありそうです。特に、次期米国大統領のトランプ効果としては円安と株高が短期的に生じており、企業収益の改善などを通じて設備投資にプラスの影響を及ぼすと考えられますが、TPP脱退などの通商政策をはじめとして、経済大国である米国の内向き政策が世界経済の先行き不透明感を増幅させる可能性も十分あり、引き続き、上のグラフの上のパネルに見られる通り、横ばい圏内の動きを示す可能性が高いと私は考えています。もっとも、明確な上向き基調に戻るのも時間の問題であり、さらに、日本経済の現在の実力からすれば、横ばい基調でもそれなりに堅調な動きを考えるべきです。ただ、消費をはじめとして内需に力強さは感じられません。逆に、人口減少下で人手不足は労働から設備資本への代替を促進します。またまた逆を考えれば、せっせと内部留保を溜め込む企業行動がどこまで合理的かも、私には理解できません。設備投資の先行きについては、いろいろと考える要素が多過ぎるような気がします。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネから順に、国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、需要段階別の上昇率、最後に、輸入物価のうちの円建て原油価格指数を、それぞれプロットしています。上の2つのペネルで影をつけた部分は、景気後退期を示しています。ということで、企業物価(PPI)上昇率はここ数か月でかなりマイナス幅を縮小させています。すなわち、今年5月には前年同月比で▲4.4%の下落だったのが、3か月後の8月には▲3.6%に縮小し、さらに3か月後の11月の統計では▲2.2%までマイナス幅が半減しました。特に、11月統計については国際商品市況の上昇が石油価格のみならず銅価格にも及び、川上の銅地金と川下の電力ケーブルなどの非鉄金属が大きなプラス寄与を示しています。ただ、11月統計ながらトランプ効果による円安の物価への影響はまだ大きくはないものと私は想像しています。もちろん、消費者物価(CPI)よりも川上のPPIに円安は早めに現れると考えるべきですので、年明け早々にも何らかの効果が見られると期待しています。ただ、国際商品市況や円安のCPIへの効果についてはさらに遅れることが確実で、来年半ばから後半ではないかと予想しています。なお、上のグラフの一番下のパネルにプロットした原油価格の前年同月比は11月で▲5.2%まで縮小しています。物価はかなり粘着的な指標ですが、来年にはPPIで前年同月比プラスに転じ、うまく行けば年後半にもCPIがプラス転換する可能性があると受け止めています。ただ、日銀の物価目標であるCPI+2%はまだ先が長い可能性があります。

最後にどうでもいいことながら、日本漢字能力検定協会による今年の漢字は「金」だったそうです。さらにどうでもいいことながら、2位は「選」、3位は「変」だったそうです。ご参考まで。

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2016年12月11日 (日)

東洋経済オンラインによる生涯給料の高い会社やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、11月29日付けの東洋経済オンラインの生涯給料「全国トップ500社」ランキングのうち、50位までのランキングは以下の通りです。

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2016年12月10日 (土)

今週の読書はいろいろあってやっぱり9冊!

今週は、少し体調を崩して風邪をひき、咳き込んで睡眠不足になったりしたんですが、それでも読書時間は確保されてしまい、以下の9冊を読んでいます。ついつい手軽に読める新書に手が伸びてしまい、実質的には8冊くらいの勘定か、という気もします。でも、来週こそはペースダウンする予定です。

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まず、ジェリー・カプラン『人間さまお断り』(三省堂) です。著者はスタンフォード大学人工知能研究所(AI研)での長い研究歴を有し、その知識を持って新興企業を次々と起業していて、ややお歳を召したとはいえ、AI研究に草創期から従事して来た伝説的な研究者・企業家です。すでに人口に膾炙しまくっている通り、英語の原題は Humans Need Not Apply であり、日本語タイトルはほぼそのままで、2015年の出版です。邦訳書には、東京大学松尾豊准教授の解説が末尾に数ページ付属しています。米国でも日本でも話題の書といえます。ということで、最近、私が何冊か読んだ人工知能(AI)に関する一般向けの解説書のうちでもさすがに出色の出来です。タイトルだけからすると、AIが雇用を奪うという恐怖を煽るような内容に受け止められかねないんですが、決してそれだけではありません。前半はAI開発の現状や基本的な哲学的ともいえる考え方の整理なんですが、特に、後半の第6章以降などは、エコノミストからすれば背筋も凍りそうな内容も、サラリと含まれていたりします。人工知能を合成頭脳と労働機械に分毛て議論し、大雑把に、前者がソフトで後者がハードなんでしょうが、この両者を合体、というか、人間型の労働機械に合成頭脳をインストールすれば、そのままヒューマノイド方のロボット、というか、アンドロイドになるわけで、両者を分けて考えても、いっしょに考えても大きな違いはないかもしれません。著者の最後の最後の提言はエコノミスト的にも大いに合意できるものですが、AIに契約の当事者となる権利と試算を被有する権利を与えてはいけない、というものです。要するに、人間さまが駆逐されるという恐れがあるんだと思います。ただ、私は基本的には、また、長期的には楽観的に見ていて、AIの進歩に人間の進化が追い付く可能性が本書では見落とされている可能性があります。というか、本書では人間の進化がAIの指数的な進歩に追いつかない、という現在までの事実を当然視しているような気もします。クラークの『地球幼年期の終わり』とか、高野和明の『ジェノサイド』ではないですが、人間も進化しAIと共生する可能性も無視できない、というのが私の見方です。もちろん、タイムスパン的に間に合わない、という見方もありそうな気はします。大いにします。

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次に、ニック・レーン『生命、エネルギー、進化』(みすず書房) です。著者は英国ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンの遺伝・進化・環境部門の研究者であり、『ミトコンドリアが進化を決めた』で高い評価を受けているそうです。英語の原題は The Vital Question であり、上の表紙画像に見える Why the Life the Way it is? は副題です。2015年の出版です。ということで、難解な生物学進化学の書物です。絶え間なく流動する生体エネルギーが、40億年に渡る生物進化の成り行きにさまざまな制約となって来たとの観点から出発し、そのさまざまな制約こそが、原初の生命から我々人類に至るまでのすべての生物を彫琢して来た、というわけです。特に、シロートの私なんぞからみても、なかなかなもので、第2章で生命の定義に関してNASAの「ダーウィン進化の可能な自立した科学的システム」から始まって、第3章で化学浸透共役なるエネルギー形態のシンプルかつ変幻自在な特性に注目し、生命の起源のシナリオを説得的に描き出そうと試みたり、また、第5章では1遺伝子あたりの利用可能なエネルギーを手がかりに生物の大型化の限界や真核生物と原核生物の間の大きなギャップを説明しようと試みるなど、目を見張るようなアイデアを次々に提示しています。そして、第6章で有性生殖の生命現象については費用便益分析や囚人のジレンマをはじめとするゲーム理論などの経済学用語での分析を志向しています。地球における生命の起源、進化に伴う複雑化、性による生殖と増殖、そして、最後の死といった難題を統一的に解釈しようとの姿勢はさすがという気がします。他方で、いわゆるソーシャル・エンジニアリングには懐疑的であり、宇宙のマクロ的視野では生命に必要なショッピング・リストのカンラン石、水、二酸化炭素の3つの物質だけであり、この天の川銀河だけでも400億ほどの惑星が該当するといい切ります。ムチャクチャに難しい専門書です。私程度の頭の回転では、私くらいの鈍感な忍耐力がないと読み進むことはできません。忍耐力がない場合には専門性が要求されそうです。最後に、翻訳上の問題として、「陽子」はプロtンと表現され、電子はそのままでエレクトロンとはされていません。「プロトン勾配」や「プロトン駆動力」などの用語があるので仕方ないのかもしれませんが、電子と陽子、でなければ、プロトンとエレクトロン、というように統一的な邦訳のセレクションができなかったものか、やや疑問です。

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次に、大谷光淳『ありのままに、ひたむきに』(PHP研究所) です。著者は我が家が信仰する浄土真宗本願寺派の第25代門主・本願寺住職を2014年6月に引き継いだばかりの宗教家です。この門主就任を阿弥陀如来と親鸞聖人の前に奉告する伝灯奉告法要をおつとめするにあたり、本書の出版となったらしいです。新門主の公式ガイドブックといった趣であり、我が家の菩提寺をはじめとして浄土真宗のお寺さんでは広く読まれていたりするんでしょうか。経済的にも社会的にも、なかなか、生き難い世の中になりつつあり、思うように安定した生活を送るのが難しくなっている気がする中で、マルクス主義的には単なるアヘンの役割かもしれませんが、宗教の役割はそれなりに私のような凡人には有り難いものです。特に、我が浄土真宗の教えでは極楽浄土への往生は阿弥陀さまのおはからいによるものであり、ムリに自力で努力する必要もない、ということになっています。私も倅たちに「ムリをする必要はない」と日ごろからいっていますが、エコノミスト的に考えれば、ムリ=何らかの矛盾や均衡からのズレを生じるわけで、何かが歪むのがムリの結果だと私は考えています。『ゲド戦記』のゲドと同じで、私は多くの社会的経済的現象は均衡に向かっていて、正のフィードバックループで均衡から離れていく場合もなくはないものの、誰かの妙ちきりんなムリでもって歪みさえ生じなければ、経済社会的な均衡で悪くない結果が得られるものと私は考えています。ですから、楽観派なんだろうと自任しています。ただ、のんびりするのは大好きながらも、ムリと紙一重かもしれませんが、自分自身の出来る限りの努力は必要です。それは本書のタイトルになっているような気がします。ムリをせずありのまま、でも、ひたむきに努力する、そういった姿勢が大切な気がします。私自身は図書館で借りて読みましたが、別に買い求めて倅たちに読ませようかと考えています。そろそろ、我が家の宗教的なバックボーンについて知識を深めさせる年齢に達したような気がします。

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次に、屎尿・下水研究会『トイレ』(ミネルヴァ書房) です。『マンホール』、『銭湯』、『タワー』に続くシリーズ・ニッポン再発見の第4弾です。副題は「排泄の空間から見る日本の文化と歴史」となっていて、私は以前のシリーズは読んでいませんが、何となく副題にひかれて、これだけ借りてみました。著者となっている研究会は、出版社のある京都と東京のそれぞれの府庁や都庁の下水関係者を主要なメンバーとして構成されているようです。私は京都の片田舎の出ですので、小学生のころなんかに少しひなびた方向に行ったりすると、まだ、畑の中に肥溜めがあったりしました。ですから、本書での主張の通り、「江戸のまちは循環型のエコシティだった」といわれて、し尿を肥料、ただし下肥として使っていたのは自分自身の記憶としてまだ持っていたりします。他方、本書とは関係ありませんが、肥料ということでいえば、南米はチリの日本大使館で経済アタッシェをしていた折に、チリ北部の町でイワシなどを原料に肥料、この場合は古い日本語では金肥を作っていて、それはそれで臭いがすごいというのも実体験として持っていたりします。日本語では本書のタイトルであるトイレのことを便所というのが一般的な気がしますが、古い言葉では「はばかり」と称して、まさに、行くには憚ったんだろうという実感がこもっていますし、「かわや」という名称は、まさに、川に落としていたんだろうというのが想像されます。また、本書では高野山式のトイレというのが平安時代に高野山にあった、というのが紹介されていて、決して我が家の一族ではないものの、それなりに上品な年配女性が「ちょっと高野山へ」といって席を外すのを、私はとある初釜の席で体験したことがあり、まったくな何のことか理解できずにいたが、その謎が解明されたような気がします。最後に、トイレの最新版では、商品名かもしれませんが、ウォシュレットについてもっといろいろと書いて欲しかった気がします。私自身がこういったスタイルのトイレを知ったのは、いわゆるバブル期で、銀座の松屋に出来た豪華トイレを見に行った記憶があります。こういった最先端のトイレの設備は、ジブリにドラえもん、ポケモン、ガンダムなどのアニメと並ぶ我が国の偉大な文化だという気がします。カジノなんぞよりはずっと重要だと私は考えています。

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次に、松井今朝子『料理通異聞』(幻冬舎) です。お江戸は浅草新鳥越町の料理茶屋である八百善こと福田屋の4代目、というよりも実質的に初代でこの料理茶屋を江戸1番にした福田屋善四郎の一代記です。著者は直木賞作家であり、京都は祇園の割烹川上の生まれ育ちですから、まさに八百善を取り巻く時代小説をものにする適任者といえます。時代背景として、主人公は田沼バブルのころに青春を過ごし、その後の寛政の改革デフレのころに料理茶屋を引き継ぎ、最終的には11代将軍徳川家斉のお成りを得ており、さらにその孫の千太郎の代になってからも12代将軍徳川家慶のお成りを迎えています。青春時代において、貧乏旗本の娘である千満とのほのかな恋心、さらに長じて伊勢参りで得た豊富な西国の知識とインスピレーション、蜀山人大田南畝、亀田鵬斎、酒井抱一、葛飾北斎、谷文晁、渡辺崋山といったそうそうたる文人墨客との交わり、そして、『料理通』の出版と、料理人として時代の頂点を極め、私のように食事を単なるエネルギー補給と考えるのではなく、料理や食事を文化と捉え、それを供する場であるレストランを人の交わるサロンと見なす、という意味で、とても文化的な時代小説です。あとがきにあるように、数多くの古文書をひも解いて得られた情報を基に、作者が展開した料理と食事の文化の世界に当然となる読者も少なくないと思います。ほかに、料理や食事をテーマにした高田郁のみをつくし料理帖シリーズも少し前に完結して、私は愛読しそれなりに感激もしたんですが、さすがにこの作品の重厚な仕上がりを絶賛せずにはおかれません。先日、何かの報道で今年のベストセラーは田中角栄を題材にした石原慎太郎の『天才』であると見かけた気がしましたが、おそらく、私の今年のナンバーワンは先日取り上げた平野啓一郎の『マチネの終わりに』であろうと考えますが、私の大好きなジャンルである時代小説のナンバーワンはこの作品ではなかろうかと考えています。題材やストーリーだけでなく、文体、というか文章のリズムやテンポもとてもよく、一気に読める割には頭に残ります。今週の読書の中ではピカイチです。

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次に、秋吉理香子『絶対正義 』(幻冬舎) です。作者は『暗黒女子』や『聖母』などの女性にまつわるイヤミスをモノにしてきたミステリ作家です。この作品は、高校生の女子グループ5人のうちの1人が「絶対正義」を振り回すという意味で、モンスター的な正義感を持ち、融通が利かないというか、ハッキリと周囲に迷惑をかけまくっていて、その高校卒業から15年を経過した30代前半で、正義のモンスターをほかの4人が寄ってたかって殺してしまう、というストーリーです。そして、その殺人事件から5年後になぜか、残った4人にパーティーの招待状が届き、その場で殺人が明らかにされることになります。しかし、もっとも恐ろしく感じられるのは、その娘が正義のモンスターとして母親と同じ方向に向かう、というのではないでしょうか。正義が絶対化した怖さをホラー小説的な手法でイヤミスに仕立ててあります。とても読後感が悪いのは、湊かなえや真梨幸子、沼田まほかるなどと同じで、これはどうしようもないんでしょうが、プロットはよく練られています。ただ、絶対正義のモンスター以外の高校時代の友人女性4人もかなり極端なキャラに仕立ててあり、もう少し一般的なキャラも欲しかった気がしますし、登場人物が高校時代の友人仲間だけでは物語に縦にも横にも広がりが出ない気がします。こういった点は次回作に期待です。

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次に、山田昌弘『モテる構造』(ちくま新書) です。著者は著名な社会学者であり、『パラサイト・シングルの時代』なども売れました。本書では、「モテる」ということを通じて男女の非対称性を論じています。すなわち、男性は公的な世界で競争を通じてできる人が異性からモテることとなる一方で、女性はそうならない、例えば、男性は仕事ができるビジネスマンや高身長などの体が大きいスポーツマンがモテるんですが、女性は必ずしもそうなりません。バリバリ働くキャリアウーマンが異性にモテるとは限りませんし、高身長の女性に魅力を感じる男性は限られています。こういったことから、やや古いジェンダー観では、男性は外で働き、女性は家で家事をする、という役割分担が当然視された時代もあったわけです。本書では女は女らしく、男は男らしく、などなど、旧態依然とした価値観が今も生き残っているという事実につき、こういった性別規範が社会から消えないのは、どういう相手を性愛の対象として好きになるかという、「モテる構造」から解明しようと試み、それらが人間の性愛も含めた感情に固く結びつけられているからだと結論しています。加えて、性別機能の身も蓋もない社会的現実を、透徹した視線で分析しつつ、男女それぞれの生き難さのカラクリを解剖し、社会構造変化の中でそれがどう変わりうるのか、また、LGBTなどの支店からも変化の大きさに対応した社会的な受容のあり方などについても考察を広げています。日常のなんでもなく不思議にすら思っていない事実のいくつかを社会学的に着目して、人が人として生きやすい、というか、生き難さの程度を低減してくれるような方向を考えようと試みています。人によっては当然のことかもしれませんが、目から鱗が落ちる人も少なくないような気がします。

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次に、エマニュエル・トッド『問題は英国ではない、EUなのだ』(文春新書) です。著者は我が国で人気の歴史人口学者だそうで、誠に不勉強ながら、私は歴史人口学というものをよく把握していません。第4章のタイトルは、「人口学から見た2030年の世界」だ他t利しますし、その分析結果として、米国とロシアが安定化の方向に向かって、欧州と中国は不安定化する、とされており、その次の章では、中国の経済大国化は幻想であると結論されていたりして、その結果はそれなりに受け入れられるんですが、論理的な分析の道筋は私にはよく理解できません。結論だけが直観的に先にあるような気もします。しかし、前著『「ドイツ帝国」が世界を破滅させる』もそれなりのインパクトでしたが、本書もいわゆる著作というよりも、アチコチでしゃべった講演録の寄せ集めにしてはよく出来ている気がします。その理由は、繰り返しになりますが、直感的な結論が私の印象に一致する一方で、論理の筋道がよく理解できないからではないかと考えないでもありません。もっとも、タイトルにあるように英国とEUについて正面から論じた部分は決して多くはありません。かなり、見方にもよりますが、漫談調で取り留めもなくいろんな話題を取り上げている印象です。ですから、個別には指摘しませんが、読みようによっては前後で矛盾する主張もありそうな気がします。ただ、私は読んでいませんが、同じ著者の『シャルリとは誰か?』を引いている部分があり、欧州のイスラムに対する無知や偏見に基づく部分を指摘していて、フランス人としてはとても新鮮な見方が示されたと受け止めました。本書では、実は、ほとんど展開されていないんですが、タイトルの英国のEU離脱に関する問題については、私は本書のタイトル通りに、英国ではなくEUの問題であろうとほのかに認識しています。確たる認識ではありません。トランプ次期米国大統領などになぞらえて、英国が内向きになってEU離脱を決めたような報道や論評も目にしますが、少なくとも通貨統合に関しては、私の目から見てもかなりムリがあったような気がします。マーストリヒト・コンバージェンスがあるとはいえ、財政政策がバラバラ、すなわち、国債発行が各国政府に任されていて、金融機関に対するマクロとマイクロのプルーデンス政策も統一性が必ずしも図られていないにもかかわらず、通貨が統合され同一の金融政策が執行されるのはムリです。社会保障政策などの個別の政策はともかく、少なくとも国債発行に関する何らかの強い統合がなされないと金融政策は統合されるべきではないと私は考えています。

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最後に、藤田孝則『貧困世代』(講談社現代新書) です。著者はソーシャル・ワーカーでいくつかNPO法人の代表なども務めているようですが、昨年2015年に話題になった朝日新書の『下流老人』の著者でもあります。私のこのブログでは2015年9月19日付けの読書感想文で取り上げています。ということで、本書はやっぱり世代論です。p.13の人口ピラミッドで、65歳以上の貧困層を下流老人、40-65歳を下流老人予備群(本書では、「予備軍」としているんですが、軍隊用語を用いるのもナンだと思って、このブログでは書き替えています)、そして、15-40歳を貧困世代と年齢というか、世代で貧困層を分類しています。そして、40歳以下あるいは未満の世代では、高齢の引退世代と比べて特に社会保障が手薄くなっている事実を明らかにしています。前著の『下流老人』について私の評価は、第4章 「努力論」「自己責任論」があたなを殺す日、は十分に説得力があり、高齢者だけがこの第4章の議論の対象となっているわけではなく、子供やワーキング・プアの若者も同じく社会保障の網から漏らされるべきではないと指摘しました。もっとも重要なのは、社会保障の緊急性としては、私は子供や若者に軍配を上げるべきではないかと考えています。もちろん、余命の問題はありますが、高齢者は10年後も高齢者である一方で、小学生は10年後は義務教育期間を過ぎているおそれが高く、適切な時期に教育や訓練を受ける必要があります。加えて、私は決して重視するつもりもないんですが、あえて世間の潮流に乗れば、自己責任は引退世代の高齢者にこそ問うべきであり、若い世代については、特に子供は自己責任ではなく親をはじめとする家族や親戚縁者の責任である場合が圧倒的に重いと考えるべきです。企業が暴力的とも見える『資本論』的な剰余価値の生産にまっしぐらで、しかも、内部留保という形で労働者にまったく還元しないわけですから、本書の結論の第1に上げられている労働組合の役割は重要であると私も同意します。同時に、本書の第4章でも強調されているように、住宅政策も重要です。2009年の総選挙による政権交代では大いにコケましたが、住宅政策であれば、かつての京と・大阪・東京などの都市部での革新自治体による政策でも大きな転換が可能です。そういった形で、中央政府だけでなく地方政府の役割も社会保障や社会福祉の観点から考える必要を感じます。

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2016年12月 9日 (金)

法人企業景気予測調査に見られる企業マインドは改善を示す!

本日、財務省から10-12月期の法人企業景気予測調査が公表されています。統計のヘッドラインとなる大企業全産業の景況感判断指数(BSI)は7-9月期の+1.9から上昇して+3.0を記録しています。さらに、来年2017年1-3月期は+3.2と見込まれています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10-12月の大企業景況感、2期連続プラス 法人企業景気予測調査
財務省と内閣府が9日発表した法人企業景気予測調査によると、10-12月期の大企業全産業の景況判断指数(BSI)はプラス3.0だった。化学工業や卸売業がけん引し2期連続のプラスとなった。前回調査の7-9月期はプラス1.9だった。
10-12月期は大企業のうち製造業はプラス7.5となり、7-9月期のプラス2.9から大幅に改善した。医薬品や住宅関連部材が好調な化学工業や印刷業関連が押し上げた。
非製造業はプラス0.7だった。原油価格が安定して卸売業や広告収入が増えた情報通信業が寄与した。7-9月期のプラス1.4からは悪化した。
先行き2017年1-3月期の見通しはプラス3.2で、製造業がプラス4.6、非製造業がプラス2.4だった。4-6月期はマイナス0.4となった。電気機械器具や生産用機械器具製造業が海外の需要減や円高で悪化に転じた。財務省と内閣府は総括判断を「企業の景況感は慎重さがみられるが、緩やかな回復基調が続いている」として前回の判断を据え置いた。
16年度の設備投資見通しは前年度比2.5%増だった。加工食品向けに食料品製造業やスマホや自動車関連部材の投資が増えている化学工業が伸びた。前回調査の4.9%増からは減少した。経常利益は前年より円高が進んだことにより自動車や情報通信機械器具製造業の利益が減少し6.9%減の見通しとなっている。
景況判断指数は「上昇」と答えた企業と「下降」と答えた企業の割合の差から算出する。今回の調査は11月15日時点。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは法人企業景気予測調査のうち大企業の景況判断BSIをプロットしています。重なって少し見にくいかもしれませんが、赤と青の折れ線の色分けは凡例の通りです。濃い赤のラインが実績で、水色のラインが先行き予測です。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、今週は消費者マインドの指標である消費者態度指数と景気ウォッチャーも公表され、企業マインドのこの法人企業景気予測調査とともに、各種マインド指標が明らかにされ、来週12月14日には日銀短観も公表されます。この法人企業景気予測調査の結果を見る限り、大企業と中堅企業の景況感は来年2017年1-3月期がピークで、上の大企業のグラフに見られる通り、来年4-6月期には景況感は悪化を示しマイナスに突っ込むと予想されています。この統計のクセともいえますが、足元のプラス幅が大きくないので、少しのスイングでマイナスになることもあり得るのかもしれません。ただ、消費者マインド、企業マインドともに最悪期を脱しつつあるんではないかと考えられ、日を改めて取り上げる予定の日銀短観予想でも景況感は上向くとの予想を見かけます。個別項目では、雇用に引き続き不足感が広がっています。特に人材確保が難しい集権・中小企業が大企業に比較して人手不足感が大きいとの結果で、産業別では機械で代替できない部分の大きな非製造業の不足感が高くなっています。引用した記事にもある通り、今年度2016年度の設備投資計画は全産業全規模で+2.5%に上っています。上期は▲0.7%減に沈むものの、下半期に+5.2%と大きく伸びる計画となっており、やや疑問に感じなくもありませんが、製造業で設備投資の伸びが高いのは理解できるところです。

繰り返しになりますが、企業マインドの典型的な指標である日銀短観が来週12月14日に明らかにされます。いくつかパラパラと見ていると、景況感の上昇を予想する向きが多いんですが、来週になってから日を改めて取り上げたいと思います。

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2016年12月 8日 (木)

今日は上の倅の20歳の誕生日!

今日は我が家の上の倅の誕生日です。節目の20歳を迎えました。
誠にめでたい限りです。我が家恒例のジャンボくす玉を置いておきます。

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下方修正されたGDP統計2次QEは日本経済の停滞を示唆するのか?

本日、内閣府から7-9月期のGDP統計2次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は1次QEの+0.5%から+0.3%にやや下方修正されています。外需中心ながら、まずまずの高成長といえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月GDP改定値、設備投資下振れで年1.3%増に下方修正
内閣府が8日発表した2016年7-9月期の国内総生産(GDP)改定値の伸び率は物価変動を除いた実質で前期比0.3%増、年率換算では1.3%増だった。設備投資が下振れし速報値(前期比0.5%増、年率2.2%増)から下方修正された。今回の改定値から推計方法と基準年が見直され、数値が改定されている。
QUICKが7日時点でまとめた民間予測の中央値(前期比0.6%増、年率2.3%増)を下回った。
実質GDPの伸び率を需要項目別にみると、設備投資は前期比0.0%増から0.4%減に下方修正した。法人企業統計で不動産や鉄鋼などの設備投資が減少に影響した。民間在庫の寄与度も速報値のマイナス0.1ポイントからマイナス0.3ポイントに下振れした。原材料や仕掛かり品在庫に加え、製品在庫も下方改定された。
公共投資は9月の建設総合統計が堅調だったことから、0.7%減から0.1%増となった。個人消費も飲料やテレビ、宿泊施設サービスなどの消費が好調で0.3%増と速報段階の0.1%増から上方修正された。
実質GDPの増減への寄与度をみると、内需がマイナス0.0ポイント(速報値はプラス0.1ポイント)となった。輸出から輸入を差し引いた外需はプラス0.3ポイントとなり、プラス0.5ポイントから減少した。
生活実感に近い名目GDPは前期比0.1%増(0.2%増)、年率では0.5%増(0.8%増)だった。総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは、前年同期と比べてマイナス0.2%となった。
16年7-9月期の名目GDPは年換算で537兆円となり、これまで最大だった1997年10-12月期の524兆円を上回った。今回の改定値で05年から11年への基準年の改定と国連の新たな国際基準が適用され、企業の研究開発費や防衛装備品などが投資としてGDPに算入されるようになったため。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2015/7-92015/10-122016/1-32016/4-62016/7-9
1次QE2次QE
国内総生産 (GDP)+0.2▲0.4+0.7+0.5+0.5+0.3
民間消費+0.5▲0.7+0.4+0.2+0.1+0.3
民間住宅+1.8▲1.2+1.3+3.5+2.3+2.6
民間設備+0.6+0.4▲0.3+1.4+0.0▲0.4
民間在庫 *(▲0.2)(▲0.1)(▲0.1)(+0.2)(▲0.1)(▲0.3)
公的需要+0.2+0.0+1.0▲0.6+0.2+0.3
内需寄与度 *(+0.3)(▲0.5)(+0.3)(+0.5)(+0.1)(▲0.0)
外需寄与度 *(▲0.1)(+0.1)(+0.4)(▲0.1)(+0.5)(+0.3)
輸出+2.1▲0.6+0.8▲1.3+2.0+1.6
輸入+2.5▲0.9▲1.2▲0.9▲0.6▲0.4
国内総所得 (GDI)+0.6▲0.3+1.2+0.6+0.4+0.3
国民総所得 (GNI)+0.5▲0.2+0.8+0.4+0.3+0.1
名目GDP+0.6▲0.3+0.8+0.2+0.2+0.1
雇用者報酬+0.8+0.4+1.2+0.4+0.7+0.8
GDPデフレータ+1.8+1.5+0.9+0.4▲0.1▲0.2
内需デフレータ+0.0▲0.0▲0.3▲0.7▲1.0▲0.8

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された2016年7-9月期の最新データでは、前期比成長率がプラスを示し、特に、黒い外需が大きくプラス寄与している一方で、灰色の民間在庫がマイナス寄与して在庫調整が進んでいるのが見て取れます。

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まず、成長率の下方修正については、基本的に、前々期の1-3月期と前期の4-6月期のそれぞれの成長率が上方改定されていて、発射台が高くなっていますので、やや7-6月期の成長率が低まったように見える点も考慮すべきでしょう。引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは前期比+0.6%、前期比年率2.3%でしたから、ずいぶんと下振れした印象がありますが、発射台の違いとともに、需要項目別で見ても、在庫調整に伴うマイナス寄与の拡大もあり、それほど悲観的に受け止める必要はないものと私は考えています。もちろん、下のグラフに関連して後に見る通り、今回の2次QEの公表に関しては基準改定に加えて、1993SNAから2008SNAへの国連マニュアルのアップデートに従った大幅な見直しの結果ですから、この程度の修正はあり得ると多くのエコノミストは考えていたんではないでしょうか。すなわち、1次QEから1か月を経過したことに伴う新たな経済指標が、景気動向によって下振れしているわけではないと考えるべきです。ですから、7-9月期は外需主導ながら、消費も底入れを示して来ており、3四半期連続のプラス成長でもありますので、日本経済がいわゆる踊り場を脱却して、持ち直しの動きに復帰する方向にあるとの見方を示すエコノミストも私だけでなく少なくないものと予想しています。ただし、BREXITに始まったEUの動揺、TPPからの離脱をはじめとするトランプ次期米国大統領の経済政策動向などなど、先行きリスクはまだまだたくさん残されています。

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今回2次QEについては、第1回目の年次推計、いわゆる確報の作業とともに、実質と名目の基準を2005年から2011年に新しくする基準改定、そして、何よりも準拠する国連マニュアルを1993SNAから2008SNAにアップデートするという、極めて大規模な改定でした。国連マニュアルのアップデートにより、従来から明らかにされていた通り、企業活動のうちの研究開発(R&D)が資本化されて設備投資に算入されることなどにより設備投資額のかさ上げがなされています。他の項目と含めて、2005年から2011年への基準改定の影響を除く意味で、名目GDPの実額の水準をプロットしたのが上のグラフです。水色の棒グラフが従来の統計で、赤い上乗せ部分が今回の大規模改定に伴って生じたかさ上げ部分です。2015年度で32兆円近くになります。安倍内閣の名目GDP600兆円の目標が近づいたのかもしれません。

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最後に、GDP統計を離れて、本日、内閣府から11月の景気ウォッチャーが、また、財務省から10月の経常収支が、それぞれ公表されています。いつものグラフは上の通りです。上のパネルは景気ウォッチャーの現状判断DIと先行き判断DIをプロットしており、下のパネルは青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。いずれも季節調整済みの系列です。景気ウォッチャーの力強い回復が印象的です。

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2016年12月 7日 (水)

OECDによる学習到達度調査(PISA)2015の結果やいかに?

昨日、経済協力開発機構(OECD)から昨年2015年に実施された学習到達度調査 (Programme for International Student Assessment, PISA) の結果が発表されています。72か国・地域の15歳約54万人を対象に実施されており、平均得点でみた日本のランクは科学的リテラシーが2位、数学的リテラシーが5位であり、ともにOECD加盟国の中ではトップであるとともに、前回2012年調査のランクを上回り、トップレベルの水準を維持した一方で、読解力は8位(OECD加盟国の中では6位)で順位が下がるなど、いくつかの課題も見受けられたようです。このブログでは国際機関のリポートを紹介するのをひとつの特徴にしているんですが、OECDのサイトから報告書を入手したものの、今日の時点では、第1巻だけで500ページ近いボリュームですので、読み切れているハズもなく、国立教育政策研究所のサイトにアップされている資料から図表も引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」から、平均得点及び順位の推移のグラフを引用しています。繰り返しになりますが、我が日本の15歳は科学的リテラシーで72か国中2位、数学的リテラシーでも5位と、世界のトップクラスに君臨しています。読解力でも8位と、前回よりは少し順位を落としたものの、イイセン行っているのは明らかです。なお、示しているPISAは3年に1回実施され、前回の結果は当然3年前で、このブログでも2013年12月4日付けで取り上げています。上のグラフを見ても判る通り、2003年に我が国の順位が急落しており、PISAショックといわれて、「ゆとり教育」に起因する学力低下への批判が集まり、文部科学省は学習指導要領を改訂し、小中学校の授業時間や学習内容を増やすなどの対応が取られています。

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続いて、上のグラフは同じ「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」から、全参加国・地域(72か国・地域)における比較のテーブルを引用しています。見て明らかな通り、科学的リテラシーで日本の上に立ったトップ国はシンガポールです。15位までに我が国を含めてアジアから7か国・地域がランクインしています。また、数学的リテラシーで日本を上回ったのはトップから順に、やっぱりシンガポール、香港、マカオ、台湾とアジアの各国・地域がズラリと並びました。また、5位の日本の後には北京・上海・江蘇・広東、韓国と続き、8位になってようやく欧米の国としてスイスが入っています。読解力でもトップはシンガポールとなっていて、他の科目ほどはアジアからランクインしていないのがひとつの特徴かもしれません。なお、今回のPISAは初めて手書きではなくパソコンを使って解答する方式で行われたそうで、日本の平均点が3分野とも前回を下回ったり、特に、読解力で大きく下がった点について、紙の試験に手書きで回答する方式がほとんどの日本の生徒が混乱した可能性を文部科学省は指摘しているようです。

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3年前も同じグラフを引用したんですが、PISA 2015 Results VOLUME I p.62 Figure I.2.7 Science performance and per capita GDP を引用したのが上のグラフです。もっとも、少しデフォルメしており、大きな赤いマーカが日本です。当然ながら、縦軸の科学リテラシーのスコアと横軸の1人当たりGDPで代理されている経済的な豊かさは緩やかな正の相関を有しており、我が国はその1次の近似ラインの上方に位置しているわけですから、科学的リテラシーがムダに高い、というか、逆から見て、15歳時点での科学的リテラシーを1人当たりGDPに反映し切れていない、ということになろうかと思います。

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次に、上のグラフは、同じく PISA 2015 Results VOLUME I p.188 から Figure I.5.6 Relationship between change in mathematics performance and students' exposure to computers in 2012 のうちの右側の Use of computers in mathematics lessons を引用しています。これまた同じように、少しデフォルメしており、大きな赤いマーカが日本です。横軸が数学の授業でコンピュータを使う割合であり、日本はわずかに24%と低くなっていて、それでも、縦軸のPISA2012から2015への数学的リテラシーのスコアの落ち方は近似ラインの上を行っています。すなわち、数学授業でのコンピュータ利用が少ないにもかかわらず、スコアの落ち方は小さく、15歳の少年少女は政府の貧困な教育政策にもかかわらず、世界平均に比較してがんばっているわけです。ですから、教育政策がもっと充実すれば、まさに、デンマークやノルウェイのような成果を出せる可能性を持っていると考えるべきです。悪いのは教育政策であって、15歳の少年少女の能力ではありません。PISAに関して最後に、メディアでは読解力の低下が大問題のように取り上げている雰囲気を私は感じますが、我が国の生徒はほぼ世界のトップクラスにあり、スコアに現れている能力の向上には彼らの努力だけではなく、教育政策のさらなる充実が求められると考えるべきです。

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最後に、本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。CI一致指数は前月から+1.4ポイント上昇の113.9を示した一方で、CI先行指数は+1.0ポイント上昇して101.0を記録しました。この結果に基づいて、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「足踏み」から「改善」に引き上げています。いつものグラフは上の通りです。上のパネルがCI一致指数とCI先行指数、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。

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2016年12月 6日 (火)

毎月勤労統計に見る賃金動向は上昇の気配なし!

本日、厚生労働省から10月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から+0.1%増と、生産に歩調を合わせてほぼ横ばいだった一方で、現金給与指数のうちの所定内給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.3%の伸びとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質賃金、10月は横ばい 天候不順で物価上昇
伸び率8カ月ぶり低水準

厚生労働省が6日発表した10月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月と比べて横ばいだった。増加が止まったのは9カ月ぶり。天候不順で物価がやや上昇したことで、名目での小幅な増加がかき消された形だ。
名目にあたる従業員1人当たりの現金給与総額は26万6802円と、前年同月比0.1%増加した。増加は3カ月ぶり。名目の給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は0.3%増の24万655円で、名目賃金の増加をけん引した。基本給の増加は4カ月連続だ。
内訳をみると一般労働者の所定内給与は0.2%増だった。一般労働者の所定内給与は2年6カ月連続で前年同月を上回っている。パートタイム労働者は0.3%増だった。業種別では人手不足が深刻といわれる建設業で現金給与総額の増加が目立った。
実質賃金は名目賃金から物価上昇分を差し引いて計算する。10月は天候不順で野菜などの生鮮食品の価格が高騰し、物価全体を押し上げた。10月の消費者物価指数(CPI)は、持ち家の帰属家賃を除く総合で前年同月比0.1%上昇していた。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、1番下の3番目のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

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所定外労働時間の動向については、最近ほぼ横ばいを続けている鉱工業生産指数と整合的に動いていると私は認識しています。雇用や労働については生産の派生需要ですから、当然といえます。また、賃金については基本的に名目で私は見ているんですが、いわゆる恒常所得部分の所定内賃金については、ほぼ安定的に前年比でプラスを記録するようになったと受け止めています。ただし、引用した記事にある通り、消費者物価上昇率でデフレートした実質賃金は、天候不順に起因する野菜価格の高騰などから、最近時点で急ブレーキがかかっているのも事実です。すなわち、所定内給与だけでなく現金給与総額で見た実質賃金の前年同月比は、今夏のボーナスが好調だったこともあって、6月+2.0%増、7月+1.8%増の後、8月+0.6%増、9月+0.8%増と伸びを縮小させて、直近統計の10月速報ではとうとう前年から伸びゼロの保合いになってしまいました。このあたりが昨日公表された消費者態度指数に現れたマインドの低迷にもつながっているのであろうと私は考えています。
ただし、上のグラフの一番下3番目のパネルを見て、フルタイムの一般労働者の伸びが、速報段階ながら、とうとうパートタイム労働者を超えました。かねてよりこのブログでも主張している通り、ほぼほぼ完全雇用に近い人手不足の現在の労働市場では、賃上げではなく正規雇用の増加という雇用の質の改善の方向に進むのかもしれません。でも、正規雇用の増加とともに、賃金も上がるのが何といってもベストであろうと考えるエコノミストは私だけではなかろうと思います。

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2016年12月 5日 (月)

基調判断が下方修正された消費者態度指数の悪化の主因は野菜価格か?

本日、内閣府から11月の消費者態度指数が公表されています。前月から▲前月比1.4ポイント低下して40.9を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の消費者態度指数が低下 基調判断9カ月ぶり下方修正
内閣府が5日発表した11月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比1.4ポイント低下の40.9だった。前月を下回るのは2カ月連続。夏場の天候不順による生鮮野菜の価格高騰が重荷となった。内閣府は消費者心理の基調判断を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」とし、前月の「持ち直しの動きがみられる」から引き下げた。下方修正は9カ月ぶり。
指数を構成する4指標は全て低下した。「暮らし向き」は1.3ポイント低下の40.1、「雇用環境」は2.3ポイント低下の42.5だった。昨年に比べてボーナスの伸びが鈍化するとの観測が出ていることが響き「収入の増え方」は40.4と0.6ポイント低下した。
1年後の物価見通しについて「上昇する」と答えた比率(原数値)は74.2%と、前月から0.4ポイント上昇した。
調査基準日は11月15日。全国8400世帯が対象で、有効回答数は5576世帯、回答率は66.4%だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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11月統計では、引用した記事で指摘されている通り、消費者態度指数を構成する消費者意識指標4項目がすべて前月から下降を示しています。すなわち、マイナス幅の大きい順に、雇用環境が▲2.3ポイント低下し42.5、耐久消費財の買い時判断が▲1.4ポイント低下し40.5、暮らし向きが▲1.3ポイント低下し40.1、収入の増え方が▲0.6ポイント低下し40.4を、それぞれ記録しています。消費者態度指数を構成する4つのコンポーネントすべてが2か月連続で前月から低下しており、統計作成官庁である内閣府では前月までの「持ち直しの動きがみられる」から「持ち直しのテンポが緩やかになっている」と、持ち直しの動きについては肯定しつつも、その動きが緩やかになっているとし、基調判断を半ノッチ下方修正しています。
短期的に、この1年ほどの消費者マインドの動きを大雑把に振り返ると、2015年年末から2016年年始にかけての水準から、今年2016年に入っての円高や金融市場の動揺に伴い、2016年2月に40.1と直近の底を打った後、9月の43.0まで緩やかに上昇を続けたんですが、その9月から10月にかけての天候不順に伴う野菜の価格高騰などから、再び消費者マインドは低下しています。確かに、私がスーパーマーケットなどで見かける限り、ここ2-3年季節果物のミカンが高く、大好きな私でもなかなか手が出せないのは別の話としても、最近では野菜価格が高騰しているのは明らかです。かつては100円くらいだったブロッコリーも、最近では250円の値がついていることもめずらしくありません。引用した記事でも、こういった野菜価格が消費者マインドに及ぼす影響をクローズアップしていたりします。それだけに、トランプ次期米国大統領の政策動向によって、TPPが不成立に終わるのは残念であるという気がします。
もっとも、ここ2か月、すなわち、10-11月の2か月で消費者態度指数が合わせて▲2.1ポイント低下していて、4つのコンポーネントの中でもっとも低下幅が大きいのが雇用環境です。10-11月の2か月で合わせて▲3.7ポイントの低下を示しています。8-9月の2か月で合わせて+3.2ポイント上昇した反動かもしれませんし、まだ、4つの構成項目の中ではもっとも水準が高いことから、現時点では何ともいえませんが、これだけ失業率が低くて有効求人倍率も上昇している中で、この10-11月に雇用環境に関するマインドが大きく低下したのはパズルです。私なんぞは、やっぱり、お給料がよかったり、正社員だったりする、という意味で、いい条件の職が見つかりにくいのだろうかと思わないでもないですし、ほかに、求人と求職のマッチングの問題など、いろいろと想像しています。明日、厚生労働省から公表予定の毎月勤労統計も参考にしたいと思います。

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2016年12月 4日 (日)

先週の読書はやっぱり10冊!

何となく、読書感想文のブログが米国雇用統計で1日後ずれしたこともあり、今週も10冊の大台に乗ってしまいました。やっぱり、1週間で10冊というのはフルタイムで公務員をしている私にはやや過重な気がします。でも、引退したらもっと読むかもしれません。

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まず、ジャスティン・リン『貧困なき世界』(東洋経済) です。著者は2008年から12年まで世銀の上級副総裁兼チーフエコノミストを務めた開発経済学者です。その後任が先月11月12日の読書感想文を取り上げた『見えざる手をこえて』の著者であるバスー先生で、現任者はポール・ローマー教授です。本書の英語の原題は The Quest for Prosperity: How Developing Economies Can Take Off であり、2012年の出版です。ただ、リン教授の2012年の出版といえば、以下のリファレンスにもpdfへのリンクを置いておきますが、New Structural Economics: A Framework for Rethinking Development and Policy が有名です。リン教授の提唱する「新構造経済学」ともタイトルがぴったりな気もします。なぜ、翻訳がこれだけ時間がかかったのかは不明ですし、なぜ、コチラを翻訳に選んだのも大いに疑問ですが、まあ、私もエコノミストとして開発経済学を専門分野のひとつとしていますので、読んでみました。著者のリン教授の提唱する新構造主義経済学とは、その昔の中南米に適用された「新」のない構造主義経済学、プレビッシュ理論などと称され、途上国における市場の失敗は誤った価格シグナルから生じており、独占や生産要素移動の不完全性により価格が歪められているとの認識で構成されており、先進的な産業である輸入代替産業の育成を目指すのに対して、「新」のつく新構造主義経済学では途上国で先進的で資本集約的な産業が育たないのは各国における生産要素賦存によって内生的に決定されていると考え、教育による労働力の質の向上やソフトないしハードなインフラの整備、その上での先進国からの直接投資の受入れなどを志向します。大雑把な歴史的地域的な概観では、中南米の1970年代とアジアの1990年代を比較すれば理解がはかどりやすいかもしれません。なお、どうでもいいことながら、私は1990年代前半に南米はチリの日本大使館で経済アタッシェとして3年余り勤務しましたが、国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会がサンティアゴにあり、そのもっとも大きな会議室がラウル・プレビッシュ・ルームと命名されていたことを思い出します。本題に戻って、もっとも重要なポイントは、政府の開発政策における比較優位の、もっといえば、動学的な比較優位の発見とその活用です。途上国で失敗した開発政策は比較優位に基づかず、逆に、ファミリー・ビジネスなどの汚職やレント・シーキングに有効な産業に乏しい政策リソースをつぎ込んだ点にある場合が多く見受けられます。というか、かなり多いような気もします。本書の主張はとてもシンプルです。しかも、第7章のタイトルが特徴的なように、シンプルであり実践的、というか、政策志向的でもあります。もしも、私が開発経済学のゼミを持っていれば、輪読の候補にしたいような本です。さいごに、以下にリン教授の論文と別の代表的な著作へのリンクを置いておきます。いずれも英語です。

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次に、水野和夫『株式会社の終焉』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) です。著者は証券会社のエコノミスト出身で、最近は、『100年デフレ - 21世紀はバブル多発型物価下落の時代』(2003年)、『人はグローバル経済の本質をなぜ見誤るのか』(2007年)、『終わりなき危機 君はグローバリゼーションの真実を見たか』(2011年)、『資本主義の終焉と歴史の危機』(2013年)など、なかなか独特の歴史観を示して、資本主義の限界とカギカッコ付きの「成長信仰宗教」批判を繰り広げています。本書もそのライン上に位置することは当然です。そして、タイトルの通りに、本書では株式会社について、近代資本主義とそれを担う近代株式会社の誕生から現代までの歴史をひも解きつつ、頻発する企業の不祥事や格差の拡大、国家債務の拡大、人口減少等の各国に共通する課題ならびに、これからの社会と株式会社について論じています。私もこの著者の主張は読んだつもりなんですが、ここまでシリーズ的に継続できるとは思ってもみませんでした。でも、さすがにネタ切れの様相を呈しつつあるような気もします。他の著作と同じように、ブローデルを援用して「長い16世紀」の終了とともに近代資本主義が勃興し、それを担う近代株式会社も誕生した、とするのは、基本的にどこかで見たような同工異曲ではないかと思わないでもありません。そして、やや一足飛びに結論にすると、初期値として我が国経済がゼロ成長であるとの前提の下に、企業利潤・雇用者報酬・減価償却費などをすべて毎年同額とし、第1段階として1999年度以降の新自由主義の影響で歪んでしまった労働と資本への分配を見直すフローの是正を行い、引き続き、第2段階として日本が資本を「過剰・飽満・過多」に抱えてきたことを是正する、という提案をしています。私はマルクス主義的、あるいは、シュンペタリアンな歴史観として資本主義が何らかの終焉を迎えるという方向性は決して突飛なものではないと考えないでもないんですが、国家や政府の前に株式会社がこのような解体のされ方をすべきであるとは思いません。少なくとも、私的に形成され運営されている株式会社と、領土や国家の範囲内で主権を有する国民の同意に基づいて何らかの役割を委託された政府とは、後者に米国憲法的な「革命権」が及ぶとしても、前者に対して一律に解体の方向を示すのは、社会主義革命であるかどうかはともかく、政府または何らかの強権的な権力の下でなされる可能性の方が高いと感じています。ということで、著者の今までの路線を引き継いでいこうとすれば、この先はまたムチャが生じるような気もします。次は、陸の帝国と海の帝国ですかね?

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次に、ギャビン・ニューサム『未来政府』(東洋経済) です。著者は米国カリフォルニア州の副知事であり、本書にも頻出すようにサンフランシスコ市長も務めた民主党の政治家です。英語の原題は (span class="ita">Citizenville であり、2013年の出版です。後述のようにICT技術の活用による行政の革新を提案するには、やや古いかもしれません。ということで、古いとか、細かな点は別として、全体としてとても面白かったです。要は、中央政府・地方政府の官僚機構はムダに現状維持バイアスがきつくて、大きく変化する世の中にまったく対応できておらず、ICT技術の活用により情報を公開し、世間のニーズに応える必要がある、ということです。基本は地方自治体なのかもしれませんが、スマホ、アプリ、ソーシャルメディア、ビッグデータ、ゲーム化などなど、著者は政治や行政を住民に対するサービス業と捉えているようで、住民に直接接する陸運局や水道や衛生などを市民のレビューによる星の数で計測するとか、米国のレストラン批評サイト「イェルプ」の政府版導入のような話題も盛り込まれています。私自身も30年以上も前に我が国の政府機関に就職して、政府で働くことも長くなり、民間企業と違って競争のない世界でのんびりと仕事するのに慣れてしまい、本書のような視点はとても新鮮でした。そして、強く同意したのはプライバシーに関する見方であり、我が国の行政機関や学校・病院などでは周回遅れで個人情報保護に熱心に取り組んでいるようですが、実は、ミレニアル世代はプライバシーを気にかけないと著者が主張しているように、むしろ、プライバシーの保護から積極的に必要な部分を開示して行政に活かそうという方向に転換すべき時期に来ているような気が私はしています。著者もGPSなどの位置情報などのプライバシー保護は諦めるべきとの立場のように見受けられます。ガス管の埋設情報も盛り込まれていますが、秘密にして得るものと公開して得るもので、それなりに比較衡量は必要とは私も考えますが、バランスは明らかにプライバシー保護を諦める方向に向かいそうな気がします。伊藤計劃の『ハーモニー』の世界かもしれません。最後にひとつだけ気にかかったのは、政治や行政にICT技術を導入して多彩な方法によって選挙だけでなく民意を繁栄することはとてもいいことなのですが、直接民主主義にまで進むのがいいのかどうか、最近のBREXITや米国大統領選挙、あるいは、韓国での大統領弾劾デモなど、国民が直接意見を述べるのはとても重要なんですが、間接民主主義によってポピュリスト的な民意の一部を選良が選択する余地を残すのも、あるいは、必要なケースがあるかもしれません。もちろん、そのようなケースはないかもしれません。でも、何らかのカギカッコ付きの「民意を歪める仕組み」はあった方がいいような気がします。

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次に、大澤真幸『可能なる革命』(太田出版) です。著者は我が母校の京都大学教授も務めた経験のある社会学者です。一応、研究者なんではないかと思いますが、大学には属していないと私は受け止めています。本書では、革命について、非合法な暴力活動のようなものでなく、もっとも強い意味で社会的な変革を意図的にもたらすこと、あるいは、「不可能だったことを可能にするような変化を、社会運動によってもたらすこと」(p.30)を指すと定義し、現在では革命に誰も言及しなくなったのは、資本主義から社会主義や共産主義への以降の可能性が信じられていないからであると指摘します。まあ、その通りなんでしょう。私は大学時代に、革命とはマルクス主義的に定義すれば、権力階級の交代、例えば、地主から産業ブルジョワジーへ、あるいは、産業ブルジョワジーから労働者階級へ、ということだと聞いたような記憶があります。それはともかく、本書では、私の印象では革命論よりも若者論が展開されているような気がします。すなわち、古市憲寿『絶望の国の幸福な若者たち』で展開されたコンサマリー論について取り上げ、さらに、若者の自由については何とセン教授のケイパビリティ論を援用し、さらに映画やドラマなどの映像表現、例えば、朝井リョウの原作に基づく映画「桐島、部活やめるってよ」、あるいは、ヤマザキマリによるマンガを原作とする「テルマエ・ロマエ」、池井戸潤の小説を原作とする「半沢直樹」シリーズ、NHK朝ドラ「あまちゃん」などを題材にし、若者論が延々と展開されます。いわく、政治や社会への関心が高く、社会貢献にも熱心であるにもかかわらず、選挙の投票率は低く、古市的な議論として主観的な幸福度は高いものの、客観的な条件がいいとはとても思えない現在の若者に関して、著者はオタク論を持ち出します。すなわち、狭い条件や範囲での主観的な幸福感は高いものの、広い視野で見て客観的な幸福の条件はそろっていない、という意味なんだろうと私は解釈しています。この議論と革命論がどのように切り結ぶのかは決して自明ではなく、むしろ、私なんぞはまったく理解できないんですが、強力な社会変革がオタクの若者によってもたらされたりするんでしょうか。それなりにペダンティックな本でしたが、私もどこまで著者の真意を理解したか、自信がありません。

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次に、道尾秀介『スタフ』(文藝春秋) と『サーモン・キャッチャー the Novel』(光文社) です。作者は注目のミステリ作家であり、『向日葵の咲かない夏』で注目を集め、『月と蟹』で第144回直木賞を受賞、ほかに、『カラスの親指』が映画化されて私も見ました。といことで、まず、『スタフ』は「週刊文春」連載が単行本化されています。移動デリを営み街をワゴンで駆けながら、料理を売って生計を立てる30歳過ぎの女性が主人公です。彼女が中学生の一風変わった姉の子の甥と2人暮らしをしていたところ、何故か拉致されて、甥とともに芸能人のスキャンダルメールの回収を手伝うことになります。そして、移動デリの場所を提供してくれている不動産屋、甥の通う塾の数学講師、などの脇役のキャラもなかなかよく出来ていて、ラストの大どんでん返しが印象的です。ひょっとしたら、この作者の作品のマイベストかもしれません。次に、『サーモン・キャッチャー the Novel』はケラリーノ・サンドロビッチが「the Movie」の方を担当して別々に創作活動を行っているそうです。場末の釣り堀「カープ・キャッチャー」を舞台に、釣った魚の種類と数によるポイントを景品と交換できるこの釣り堀のシステムで、「神」と称される釣り名人がいた一方で、釣り堀の受付でアルバイトしている女子大生はヒツギム人からヒツギム語ネットの講座でを習っていて、また、引退生活を送る近くの婆さんは復讐心に燃えてヒツギム人に復讐の殺人を依頼したりして、などなど、浅くて小さな生け簀を巡るささやかなドラマは、どういうわけか、冴えない日々を送る6人を巻き込んで、大きな事件に発展していくストーリーになっています。ちょっと、私のような読解力の弱い読書しかできない人間にはツラいものがありました。なお、この作者は私は大好きですので、この2冊のみ購入しています。

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次に、川村元気『四月になれば彼女は』(文藝春秋) です。作者は2012年に『世界から猫が消えたなら』で作家としてデビューし、小説第2作『億男』は私も読んでいて、この作品は小説の3作目ではないかと思います。タイトルはいわずと知れたサイモンとガーファンクルのアルバム「サウンド・オブ・サイレンス」に収録された曲名であり、英語の原題は April Come She Will です。私の読み方に従えば、精神科医の男性を主人公に、その医学生のころからの人生を舞台として、大学生のころに付き合っていた女性、そして、現時点で結婚を間近に控えながら失踪した年上の獣医の女性、とのそれぞれの恋愛を通して、男女の恋愛というよりは結婚観とか人生観、また、生死観について考えさせられる小説です。かなり映像的、というか、大学の写真部の物語から始まるせいもあって、景色や風景などが目に浮かぶような構成となっています。でも、ストーリーは重いです。主人公の男性精神科医と彼と付き合ったことのある写真部の後輩女性、結婚直前で失踪した獣医の女性、ほかに、主人公の同僚の後輩精神科医の女医がどうして恋愛できなくなったかとか、大学時代の写真部の後輩女性がガンで死んだ事実を知ったり、婚約者の獣医の妹との関係が怪しくなったり、婚約者が失踪したり、また、ゲイというよりはバイの男性との恋愛観や結婚観の重さも感じたり、とてもヘビーです。12か月の月ごとの章構成になっているんですが、私ですら読むのをやめようかと思ったほどでした。元気のある時に読むべき本だという気がします。

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次に、大森望[編]『ヴィジョンズ』(講談社) です。書き下ろしのSF短編集です。一見して作者陣が豪華で、ついつい、手を伸ばして見ました。まず、収録作品は以下の通りです。すなわち、宮部みゆき「星に願いを」、飛浩隆「海の指」、木城ゆきと「霧界」、宮内悠介「アニマとエーファ」、円城塔「リアルタイムラジオ」、神林長平「あなたがわからない」、長谷敏司「震える犬」です。これで、上田早夕里でも入っていれば、必ずしもSF小説には詳しくない私に関してはオールスター・キャストと考えてしまいそうです。なお、飛浩隆「海の指」と木城ゆきと「霧界」の2作はコラボとなっており、「海の指」の小説を基に「霧界」でマンガ化されています。「星に願いを」では、隕石の落下と宇宙人の存在を示唆する内容ながら、実は主人公の少女の夢のお話なんではないか、と思わせぶりなところもあり、他方、日常からの脱出とも考えられ、なかなか多彩な読み方のできる小説です。「海の指」とコラボの「霧界」は、灰洋に面した泡州という街を舞台にし、この街は海の指によって灰洋の底から陸地に押し出された建物によって構成されていて、それらは イスラム風建物、オスマン様式ドーム、日干し煉瓦、などなどの雑多な建築様式で成り立つ壊滅的な絶望の街の様相を呈しつつも、コミュニケーションを取りながら生きる数少ない市民を描いています。 「アニマとエーファ」では、 主人公のアニマは小説家によって作られ、消滅しつつある言語アデニア語を守るために物語を書くロボットで、エーファはその小説の読者です。アニマは彼を作った小説家の手から離れ、次の持ち主によってベストセラーを書くまでになるが 数奇な運命によりアニマとエーファが再会します。「リアルタイムラジオ」は、主人公がフォックストロットこと「A6782DE9067C8AA3716F」といい、ワールドと呼ばれるデータ世界に住む100億体のエージェントの1人という設定で、そのワールドの外にはリアルタイムが存在してラジオが流れてくるわけですが、私の理解不足で何が何やら十分に読解し切れませんでした。「あなたがわからない」では、主人公の亡くなったばかりの妻にエンバーミングが施されるんですが、それが亡くなった妻本人の希望で遺体防腐処理液の代わりにクローン培養液が使われたことから、夫婦の会話が復活したりします。最後の「震える犬」はかなり長くて、短編というよりも中編に近く、アフリカはコンゴの研究施設において、チンパンジーにAR(拡張現実)の装置を装着して、類人猿から人類への進化の過程の謎を探るプロジェクトを舞台に、1匹の冴えない犬に対するチンパンジーの愛情の芽生えを追います。

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次に、大澤真幸『日本史のなぞ』(朝日新書) です。繰り返しになりますが、著者は我が母校の京都大学教授も務めた経験のある社会学者です。一応、研究者なんではないかと思いますが、大学には属していないと私は受け止めています。ということで、本書はタイトルの革命について、p.11において、外因による変化や非意図的で自然発生的な変化を除いた内発的で意図的な変化、と特異な表現を持って定義し、それを鎌倉幕府第3代執権だった北条泰時であると指摘し、その理由として天皇権力の院宣に反して幕府軍を率いて天皇軍を破り、天皇制政府を打倒して幕府制政府を樹立して御成敗式目を制定し、加えて、天皇の臣下でありながら3人の上皇を配流した、という観点を示しています。さらに、このような反天皇制的な所業、というか、行動にもかかわらず、『神皇正統記』で天皇制の称揚に当たった北畠親房などから激賞されている、という事実も付け加えています。その理由について日本史と関連して論じたのが本書の眼目となっています。すなわち、欧米的な革命、あるいは、中国的な易姓革命に対して、我が国の万世一系の天皇制の特徴を明らかにしています。天皇は統治せず、例えば、明治以降に首相を選出するにも元老の意見に基づいており、戦後はこの元老の役割を米国が果たしている、などは秀逸な分析と私は考えますが、まあ、一面的ではあります。繰り返しになりますが、「革命」の定義がかなり恣意的なので、それは割り引いて考える必要があります。織田信長による天下統一や明治維新、太平洋戦争の敗戦後の米国による大規模な民主化などがすべて革命ではないとして除外されており、私の歴史観からして微分方程式の特異点として考えるべき歴史的転換点が、外圧や非意図的として排除されているのは同意できません。でも、先に取り上げた同じ著者の『可能なる革命』と併せて読めば、それなりにペダンティックな雰囲気を感じることが出来るのではないかと思います。

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最後に、日本推理作家協会[編]『所轄』(ハルキ文庫) です。警察の、しかも警視庁や県警本部ではない所轄警察署に所属する警官の活躍をクローズアップしたミステリのアンソロジーです。上の表紙画像に見られる通り、収録されている作家陣はオールスターキャストです。収録短編は、薬丸岳「黄昏」、渡辺裕之「ストレンジャー」、柚月裕子「恨みを刻む」、呉勝浩「オレキバ」、今野敏「みぎわ」の5編です。ファンにはお馴染みだと思いますが、夏目刑事、佐方検事、安積警部補たちが登場する警察小説のアンソロジーです。もっとも、佐方検事は検察なんですが、例の出世街道から外された南場署長が登場します。沖縄県警に出向中という与座哲郎警部と浪速署生活安全課の鍋島刑事は私には初顔でした。大阪の鍋島刑事は、東京の新宿署生安課の鮫島刑事を意識しているんでしょうか。定番ともいえる執筆陣と主人公で安心して入って行ける短篇集です。順に、私なりの観点から主人公の刑事を中心に据えてナナメに見ていくと、第1作の「刑事のまなざし」シリーズの夏目刑事は、東池袋署から錦糸署へ異動の辞令があり、東池袋署では最後の事件となりそうです。第2作の与座刑事は沖縄県警に新設された外国人対策課へ警視庁から異動してきたものの、実は沖縄出身という設定で、沖縄県警vs警視庁という対立とともに、刑事vs公安の軋轢も読み応えあります。第3作の佐方検事は警察や検察の黒星になっても正義を追い求める姿に相変わらず感動させられます。第4作の鍋島刑事は、関西人の私から見ても、大阪弁での会話がとてもテンポよく心地よい響きを持っています。最後の東京湾臨海署の安積警部補羽目の前の事件から昔の記憶をたどりますが、安積警部補の若いころの活躍が読めるという意味で貴重な作品だという気がします。

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2016年12月 3日 (土)

米国雇用統計は連邦準備制度理事会(FED)の年内利上げに追い風か?

日本時間の昨夜、米国労働省から11月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の増加幅は+178千人増とひとつの目安となる+200千人増の水準には達しないものの前月の+142千人増から伸びを加速させており、さらに、失業率は前月から0.3%ポイント下がって4.6%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから最初の4パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

President Obama Is Handing a Strong Economy to His Successor
Departing occupants of the White House rarely hand off an improving economy to a successor from the opposing party.
When Barack Obama was waiting in the wings after the 2008 presidential election, for example, the economy was in a severe downward spiral: Employers reported cutting 533,000 jobs that November, the biggest monthly loss in a generation.
But according to the government's report on Friday, Donald J. Trump can expect to inherit an economy that has added private sector jobs for 80 months, put another 178,000 people on payrolls last month and pushed the unemployment rate down to 4.6 percent today from 4.9 percent the previous month. Wage growth, though slower, is still running ahead of inflation, and consumers are expressing the highest levels of confidence in nearly a decade.
The Federal Reserve is confident enough about the economy's underlying strength that it is now set to raise the benchmark interest rate when it meets later this month.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューや米国大統領選へのインプリケーションの分析が続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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繰り返しになりますが、非農業部門雇用者の増加は9月に+208千人増、10月に142千人増の後、11月に178千人増を記録し、市場の事前コンセンサスが180千人増くらいでしたから、ほぼジャストミートしたカンジです。他方で、失業率が4.6%まで低下し、ほぼ完全雇用に近い水準と考えるべきです。全体としての米国雇用は堅調であると見受けられますが、相変わらず、専門サービス、ヘルスケアなどのサービス業の雇用が順調に伸びている一方で、トランプ次期米国大統領が選挙戦で訴えてきたメインストリートの製造業はわずかながら4か月連続で減少しています。これも貿易制限的な政策への志向が強まる懸念のひとつかもしれません。同時に、トランプ次期米国大統領は海外進出を図る企業への課税措置にも言及していると報じられており、こういった内向きの政策が米国経済に何らかの影響を生ずる可能性は否定できません。
この雇用統計に加えて、先日の7-9月期GDP成長率+3.2%とか、その前の10月の小売売上とか、米国経済の堅調な指標が目白押しとなっており、12月13-14日の連邦公開市場委員会(FOMC)での利上げにかなり強いフォローの風が吹いている、と考えるべきです。イエレン議長らのFED高官も次回FOMCでの利上げを示唆しています。ただ、FEDが米国政府から独立しているとはいえ、大統領選挙が終わったばかりの段階で、しかも、かなり異色な経済政策スタンスを明らかにしているトランプ次期米国大統領に対して、5500億ドルのインフラ整備などの経済政策と金融政策の整合性をどのように確保するのかは大きな課題です。すくなくとも、インフレ圧力が大きいとはいえない物価情勢もあり、私自身は利上げの確率がかなり高いと考えるものの、決して確実ではあり得ません。経済指標以外にいろいろと考慮すべき点が多いような気がします。

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また、日本やユーロ圏欧州の経験も踏まえて、もっとも避けるべきデフレとの関係で、私が注目している時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象です。サブプライム・バブル崩壊前の+3%超の水準には復帰しそうもないんですが、まずまず、コンスタントに+2%のラインを上回って安定して推移していると受け止めており、少なくとも、底割れしてかつての日本や欧州ユーロ圏諸国のようにゼロやマイナスをつけてデフレに陥る可能性はほぼなさそうに見えます。

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2016年12月 2日 (金)

来週発表のGDP統計2次QEの予想やいかに?

昨日の法人企業統計をはじめとして、ほぼ必要な統計が明らかにされ、来週木曜日の12月8日に7-9月期GDP速報2次QEが内閣府より公表される予定です。シンクタンクや金融機関などから2次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の今年10-12月期以降を重視して拾おうとしています。しかしながら、明示的に取り上げているシンクタンクは、みずほ総研だけであり、いくぶんなりとも言及があるのも第一生命経済研くらいでした。この2機関については、やや長めに先行き予想をリポートから引用しています。ほかは短くヘッドラインの成長率だけの引用です。何せ、2次QEですので、アッサリと終っているリポートも少なくありませんでした。より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
内閣府1次QE+0.5%
(+2.2%)
n.a.
日本総研+0.4%
(+1.7%)
7-9月期の実質GDP(2次QE)は、設備投資、公共投資が上方修正、在庫変動が下方修正となる見込み。その結果、成長率は前期比年率+1.7%(前期比+0.4%)と1次QE(前期比年率+2.2%、前期比+0.5%)から下方修正される見込み。
みずほ総研+0.6%
(+2.5%)
2016年10-12月期以降を展望すると、7-9月期の押し上げに寄与した一時的要因(新型スマートフォン向けの部品出荷など)が徐々に剥落する一方、経済対策に伴う公共投資の執行などが下支えとなり、景気は緩やかに持ち直していくと予想される。今週発表された10月の鉱工業生産(前月比+0.1%、11/30)や小売業販売額(同+2.5%、11/29)が堅調な結果だったことは、10-12月期に景気が持ち直すとの見方を裏付ける材料といえる。
ニッセイ基礎研+0.6%
(+2.4%)
12/8公表予定の16年7-9月期GDP2次速報では、実質GDPが前期比0.6%(前期比年率2.4%)になると予測する。1次速報の前期比0.5%(前期比年率2.2%)とほぼ変わらないだろう。
第一生命経済研+0.6%
(+2.3%)
1次速報から景気認識に変更を迫るようなものにはならないだろう。16年1-3月期以降、3四半期連続のプラス成長であり、7-9月期は伸び率も高い。内需に弱さが残る点に物足りなさはあるものの、景気が長らく続いた踊り場を脱し、緩やかに持ち直しつつあると評価して良いのではないか。
伊藤忠経済研+0.4%
(+1.7%)
2016年7-9月期の実質GDP成長率は現行統計ベースで前期比+0.4%(年率+1.7%)へ下方修正されると予想。公共投資が上方修正される一方、設備投資や在庫投資が下方修正される見込み。
三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所+0.4%
(+1.7%)
実質GDP成長率が、1次速報の前期比年率+2.2%から同1.7%に下方修正されると予想する。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.5%
(+2.0%)
12月8日に発表される予定の2016年7-9 月期の実質GDP成長率(2次速報値)は、設備投資、公共投資が若干下方修正される可能性があるが、1次速報値の前期比+0.5%から変化はないであろう(ただし、年率換算値では+2.2%から+2.0%に下方修正される見込み)。
三菱総研+0.6%
(+2.5%)
2016年7-9月期の実質GDP成長率は、季調済前期比+0.6%(年率+2.5%)と、1次速報値から同+0.1%p(年率+0.3%p)の上方修正を予測する。

ということで、昨夜のブログでは私の直観として設備投資の上方修正で成長率も1次QEから上方改定、と書いたんですが、シンクタンクなどでは半々ないしやや下方修正の方が多いくらいかもしれません。いずれにせよ、緩やかながらのコンセンサスとして、大きな修正はない、加えて、景気は緩やかに回復している、の2点は共通しているような気がします。ただし、ほぼすべての機関で指摘されている点として、今回のGDP統計の推計から2008SNAに準拠することとなり何らかの不連続な統計になる可能性が否定しきれず、ハッキリいって、何が起こるか判りません。少なくとも、GDPの実額はかなり上振れするものと思いますが、伸び率=成長率に何が起こっているかは私には判りかねます。
最後に、下のグラフはみずほ総研のリポートから引用しています。

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2016年12月 1日 (木)

法人企業統計に見る企業活動は最悪期を脱しつつあり賃上げ貢献に期待!

本日、財務省から7-9月期の法人企業統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で、4期連続の減収でしたが、経常利益は増益に転じました。すなわち、売上高は前年同期比▲1.5%減の323兆1626億円、経常利益は+11.5%増の16兆9639億円でした。また、設備投資は製造業・非製造業ともふるわず前年同期比で▲1.3%減の10兆3521億円と14四半期振りのマイナスを示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

法人企業統計、設備投資1.3%減 7-9月期、14四半期ぶりマイナス
財務省が1日発表した7-9月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比1.3%減の10兆3521億円だった。マイナスは14四半期ぶり。製造業、非製造業ともに減った。経常利益は11.5%増と4四半期ぶりに増加。7-9月としては過去最高になった。非製造業の大幅な伸びが寄与した。
産業別の設備投資動向は製造業が1.4%減と9四半期ぶりに減少した。前年の工場新設や生産能力の増強投資の反動が情報通信機械や生産用機械で出た。非製造業は1.3%減と2四半期連続のマイナス。建設業で前年にあった自社ビル建設の反動減が響いた。情報通信業では基地局など通信設備投資が減った。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は、季節調整済みの前期比で0.4%増と4四半期ぶりにプラスを確保した。内訳は製造業が2.5%減で、非製造業は2.1%増だった。
経常利益は前年同期比11.5%増の16兆9639億円だった。非製造業は24.5%増と3四半期ぶりのプラス。サービス業で持ち株会社の子会社からの受取配当金が増えた。受注環境の良好な建設業で工事利益率が改善した。製造業は12.2%減と5四半期連続のマイナスだった。輸送用機械で円高による利幅が縮小した。
全産業の売上高は、前年同期比1.5%減の323兆1626億円にとどまった。製造業は3.4%減と5四半期連続で減収。情報通信機械でスマートフォン(スマホ)向け電子部品の価格が下落した。円高・ドル安の影響から、円換算の売り上げが減った。鋼材の供給過剰で鉄鋼の販売価格が下がった。非製造業も0.7%減と4四半期連続で減った。小売業で婦人衣料が不振で、インバウンド消費の客単価下落も響いた。建設業では着工の遅れから売り上げが減った。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や収益動向を集計。今回の7-9月期の結果は、内閣府が8日発表する同期間のGDP改定値に反映される。

やや長いものの、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフにプロットしたように、季節調整済みの系列で見た企業活動については、昨年終わりの2015年10-12月期ころから円高の進展に伴って企業活動に陰りが見え始めた、とこのブログで指摘し、今年に入って2016年1-3月期から4-6月期についても同様の停滞が伺え、基本的に、企業活動のまだ停滞しているものの底入れから回復に向かう方向にある、と私は受け止めています。さすがに、経常利益は4-6月期から前期比でプラスに転じ、売上高も設備投資も7-9月期に至ってプラスに転じています。ただし、経常利益については特殊要因の可能性を忘れるべきではありません。すなわち、産業別に見て、上に引用した記事の4パラ目にも見える通り、「サービス業で持ち株会社の子会社からの受取配当金が増えた」とありますが、統計の項目では受取利息等が急増しているのが原因です。何が生じたのかの詳細について私は情報を持ち合わせませんが、決してサステイナブルではないと考えるべきです。いずれにせよ、個人消費の鈍い動きと企業活動そのものも決して活発ではなく、結果として売上高や経常利益で見た企業活動は停滞を示していたんですが、今年2016年の年央に至ってようやく底入れの兆しを見せたと私は考えています。昨日の生産統計にも企業活動の復活が現れているといえます。しかし、まだまだ先行きの展望は明るいものではなく、上のグラフの下のパネルに見るように設備投資はまだ横ばいを続けています。従って、経常収益が増益に戻って、「過去最高」を連発したリーマン・ショック前をも超える利益水準を達成している点は、何らかの企業の社会貢献を考える上ではそれなりの重要性を持つと考えるべきです。要するに、設備投資を縮小させつつ、賃上げにも消極的で、ひたすら内部留保として溜め込んでいるだけでいいのかどうか、ということです。政府も何らかの所得政策で賃上げをサポートすべき時期なのかもしれません。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出しています。このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下しましたし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞が続いており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけはグングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善のひとつである賃上げ、もちろん、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。

本日公表された法人企業統計などを盛り込んで、7-9月期のGDP統計2次QEが来週12月8日に内閣府から公表される予定となっています。設備投資が上方修正され、成長率もわずかながら上方修正されるんではないかと私は予想しています。でも、いくつかのシンクタンクの2次QE予想を見ていると、下方修正の方が多数意見かもしれません。いずれにせよ、改定幅は小さいと思われます。また、日を改めて2次QE予想として取りまとめたいと思います。

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