« 毎月勤労統計に見る賃金動向は上昇の気配なし! | トップページ | 下方修正されたGDP統計2次QEは日本経済の停滞を示唆するのか? »

2016年12月 7日 (水)

OECDによる学習到達度調査(PISA)2015の結果やいかに?

昨日、経済協力開発機構(OECD)から昨年2015年に実施された学習到達度調査 (Programme for International Student Assessment, PISA) の結果が発表されています。72か国・地域の15歳約54万人を対象に実施されており、平均得点でみた日本のランクは科学的リテラシーが2位、数学的リテラシーが5位であり、ともにOECD加盟国の中ではトップであるとともに、前回2012年調査のランクを上回り、トップレベルの水準を維持した一方で、読解力は8位(OECD加盟国の中では6位)で順位が下がるなど、いくつかの課題も見受けられたようです。このブログでは国際機関のリポートを紹介するのをひとつの特徴にしているんですが、OECDのサイトから報告書を入手したものの、今日の時点では、第1巻だけで500ページ近いボリュームですので、読み切れているハズもなく、国立教育政策研究所のサイトにアップされている資料から図表も引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

photo

まず、上のグラフは「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」から、平均得点及び順位の推移のグラフを引用しています。繰り返しになりますが、我が日本の15歳は科学的リテラシーで72か国中2位、数学的リテラシーでも5位と、世界のトップクラスに君臨しています。読解力でも8位と、前回よりは少し順位を落としたものの、イイセン行っているのは明らかです。なお、示しているPISAは3年に1回実施され、前回の結果は当然3年前で、このブログでも2013年12月4日付けで取り上げています。上のグラフを見ても判る通り、2003年に我が国の順位が急落しており、PISAショックといわれて、「ゆとり教育」に起因する学力低下への批判が集まり、文部科学省は学習指導要領を改訂し、小中学校の授業時間や学習内容を増やすなどの対応が取られています。

photo

続いて、上のグラフは同じ「OECD生徒の学習到達度調査(PISA2015)のポイント」から、全参加国・地域(72か国・地域)における比較のテーブルを引用しています。見て明らかな通り、科学的リテラシーで日本の上に立ったトップ国はシンガポールです。15位までに我が国を含めてアジアから7か国・地域がランクインしています。また、数学的リテラシーで日本を上回ったのはトップから順に、やっぱりシンガポール、香港、マカオ、台湾とアジアの各国・地域がズラリと並びました。また、5位の日本の後には北京・上海・江蘇・広東、韓国と続き、8位になってようやく欧米の国としてスイスが入っています。読解力でもトップはシンガポールとなっていて、他の科目ほどはアジアからランクインしていないのがひとつの特徴かもしれません。なお、今回のPISAは初めて手書きではなくパソコンを使って解答する方式で行われたそうで、日本の平均点が3分野とも前回を下回ったり、特に、読解力で大きく下がった点について、紙の試験に手書きで回答する方式がほとんどの日本の生徒が混乱した可能性を文部科学省は指摘しているようです。

photo

3年前も同じグラフを引用したんですが、PISA 2015 Results VOLUME I p.62 Figure I.2.7 Science performance and per capita GDP を引用したのが上のグラフです。もっとも、少しデフォルメしており、大きな赤いマーカが日本です。当然ながら、縦軸の科学リテラシーのスコアと横軸の1人当たりGDPで代理されている経済的な豊かさは緩やかな正の相関を有しており、我が国はその1次の近似ラインの上方に位置しているわけですから、科学的リテラシーがムダに高い、というか、逆から見て、15歳時点での科学的リテラシーを1人当たりGDPに反映し切れていない、ということになろうかと思います。

photo

次に、上のグラフは、同じく PISA 2015 Results VOLUME I p.188 から Figure I.5.6 Relationship between change in mathematics performance and students' exposure to computers in 2012 のうちの右側の Use of computers in mathematics lessons を引用しています。これまた同じように、少しデフォルメしており、大きな赤いマーカが日本です。横軸が数学の授業でコンピュータを使う割合であり、日本はわずかに24%と低くなっていて、それでも、縦軸のPISA2012から2015への数学的リテラシーのスコアの落ち方は近似ラインの上を行っています。すなわち、数学授業でのコンピュータ利用が少ないにもかかわらず、スコアの落ち方は小さく、15歳の少年少女は政府の貧困な教育政策にもかかわらず、世界平均に比較してがんばっているわけです。ですから、教育政策がもっと充実すれば、まさに、デンマークやノルウェイのような成果を出せる可能性を持っていると考えるべきです。悪いのは教育政策であって、15歳の少年少女の能力ではありません。PISAに関して最後に、メディアでは読解力の低下が大問題のように取り上げている雰囲気を私は感じますが、我が国の生徒はほぼ世界のトップクラスにあり、スコアに現れている能力の向上には彼らの努力だけではなく、教育政策のさらなる充実が求められると考えるべきです。

photo

最後に、本日、内閣府から10月の景気動向指数が公表されています。CI一致指数は前月から+1.4ポイント上昇の113.9を示した一方で、CI先行指数は+1.0ポイント上昇して101.0を記録しました。この結果に基づいて、統計作成官庁である内閣府では、基調判断を「足踏み」から「改善」に引き上げています。いつものグラフは上の通りです。上のパネルがCI一致指数とCI先行指数、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。

|

« 毎月勤労統計に見る賃金動向は上昇の気配なし! | トップページ | 下方修正されたGDP統計2次QEは日本経済の停滞を示唆するのか? »

コメント

コメントを書く



(ウェブ上には掲載しません)


コメントは記事投稿者が公開するまで表示されません。



トラックバック


この記事へのトラックバック一覧です: OECDによる学習到達度調査(PISA)2015の結果やいかに?:

« 毎月勤労統計に見る賃金動向は上昇の気配なし! | トップページ | 下方修正されたGDP統計2次QEは日本経済の停滞を示唆するのか? »