原田泰・片岡剛志・吉松崇[編著]『アベノミクスは進化する』(中央経済社)を読む!
今週になって、思わぬ方からクリスマス・プレゼントが届きました。原田泰・片岡剛志・吉松崇[編著]『アベノミクスは進化する』(中央経済社) を共著者のおひとりである三菱UFJリサーチ&コンサルティングの片岡剛志上席主任研究員からご寄贈いただきました。
副題が「金融岩石理論を問う」となっていて、リフレ派の観点から金融政策に関していくつかのの疑問や批判に対して反論したもので、大学の研究者というよりは、なぜか、シンクタンクなどのアナリスト系のエコノミストが多く執筆しています。民間エコノミスト出身の日銀政策委員である佐藤委員と木内委員の任期が来年2017年半ばだったように私は記憶していますので、何か関係があるのかないのか、私にはよく判りません。といった野暮な詮索は別にして、いろんなテーマで勉強になる本なんですが、ハッキリいって「今さら感」いっぱいな気もします。特に最後の12章のマイナス金利は取って付けたようで中身もやや貧弱と受け止めました。あえて取り上げれば、4章のバブルと11章の構造失業率の推計問題が評価できると考えます。以下の通りです。
まず、4章で取り上げているバブルについては、旧来の日銀は「羹に懲りて膾を吹く」ように、バブル崩壊を招かない要諦は、そもそも、バブルの発生を避けるという観点から、ひどい引き締め基調の金融政策運営だったわけで、こういった点を私なんぞも批判的に見ていたんですが、本書第4章ではそれなりによく整理されたバブル観が示されています。今や「合理的なバブル」とか「バブル・ライド」といった見方もあるわけですし、少なくとも、バブル発生を防止するのが経済政策運営の最大の目標とする考え方がおかしいという点についてはほぼ合意があるように私は考えています。次に、11章でスポットを当てている構造失業率については、本書の結論を私も大いに支持します。すなわち、フィリップス曲線的にいうと現状の3%を少し上回るくらいの失業率は完全雇用ではなく、日銀のインフレ目標の2%に対応する失業率は3%を下回る、というのが私の直感的な理解です。11章でも出てくる労働に関する国立の研究機関に私も在籍していたことがあるんですが、いくつかの経営者団体や労働組合などとの懇談会で、当時の3%台半ばの失業率が完全雇用であって、それ以上に失業率が下がらないだろう、とのご意見に対して、私から失業率が3%を下回らないと物価は上がらない、とフィリップス・カーブ的な反論をしてしまったことも記憶しています。
最後に、繰り返しになりますが、本書はリフレ派の金融理論に対する疑問や批判に対する反論を収録していますが、とても「今さら感」が強いです。浜田先生が金融政策だけでなく財政政策のサポートも必要、と主張し始めたのはつい最近で、書籍メディアでの対応はまだムリとしても、少なくとも、黒田総裁の下で異次元緩和が始まって3年半を経過してもサッパリ物価が上がらないのはなぜなのか、をもっと正面から説得的に提示すべきです。異次元緩和で物価が上がらないのであれば、逆から見て、まさに「岩石理論」的に、物価が上がり始めてしまってから引き締めに転じても、金融政策による物価のコントロールが出来なくなる可能性も残されているわけですから、金融政策でどこまで物価をコントロールできるかは重要な論点だと思うんですが、いかがなもんでしょうか。加えて、ご寄贈いただいた片岡さんは、以前、アベノミクスの「進化」の方向として分配を示唆されていたように記憶しています。実際に、同一賃金同一労働などを含めて、いわゆる働き方改革も進んで来ており、本書のタイトルであれば、そういったラインに沿った「進化」を期待するのは私だけでしょうか?
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