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2017年1月31日 (火)

増産が続く鉱工業生産指数と完全雇用に近い雇用統計と日銀の「展望リポート」を考える!

本日、経済産業省から12月の鉱工業生産指数(IIP)が、また、総務省統計局の失業率や厚生労働省の有効求人倍率などの雇用統計が、それぞれ公表されています。鉱工業生産は季節調整済みの系列で前月比+0.5%の増産、失業率は3.1%と前月と変わらず、有効求人倍率は前月からさらに0.02ポイント上昇して1.43を記録しています。生産は増産を続け、雇用はかなり完全雇用に近い状態にあります。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

鉱工業生産、12月は0.5%上昇 10-12月は2.0%上昇
経済産業省が31日発表した12月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み)速報値は前月比0.5%上昇の100.4となり2カ月連続で上昇した。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(0.3%)より伸び率は大きかった。軽自動車や小型車など乗用車が新型車の投入もあり好調だった。化粧品なども春向けの新商品の生産が伸びた。経産省は生産の基調判断を2カ月連続で「持ち直しの動き」に据え置いた。10-12月は前期比2.0%上昇の99.6だった。
12月の生産指数は15業種のうち12業種が前月から上昇し、2業種が低下した。横ばいは1業種だった。輸送機械工業が2.0%上昇。化学工業も1.8%上昇した。一方で情報通信機械工業が10.7%の低下、はん用・生産用・業務用機械工業も0.4%低下した。
出荷指数は前月比0.3%低下の99.0だった。在庫指数は0.2%上昇の107.1、在庫率指数は0.9%上昇の108.8だった。
1月の製造工業生産予測指数は前月比3.0%の上昇となった。中国などアジアでスマートフォン向け部品や大型液晶などが好調で電子部品・デバイス工業が堅調に推移する。はん用・生産用・業務用機械工業なども伸びる見通しだ。予測指数は計画値での集計であるため実際より上振れしやすいため、経産省では実際の上昇率は0.5%程度になると予想している。
16年の求人倍率1.36倍、25年ぶり高水準
失業率は3.1%に改善

厚生労働省が31日発表した2016年の有効求人倍率は1.36倍と前年比0.16ポイント上昇し、1991年(1.40倍)以来25年ぶりの高水準となった。総務省が発表した16年の完全失業率は3.1%と0.3ポイント改善し、94年(2.9%)以来22年ぶりの低さ。バブル末期並みの雇用情勢だが、景気の緩やかな回復に加え、少子高齢化で人手不足感が強まっている面がある。
有効求人倍率の改善は7年連続。雇用の先行指標とされる新規求人倍率も2.04倍と91年以来の高水準となった。業種別の新規求人数をみると、教育・学習支援業(8.9%増)や医療・福祉業(7.1%増)などが目立った。
完全失業者数は208万人と14万人減少した。就業者数は6440万人と、前年に比べ64万人増加した。15-64歳の人口に占める就業者の割合は16年平均で74.3%で、比較可能な68年以降過去最高の水準だ。
内訳をみると男性が17万人増だったのに対し、女性は47万人増加した。年齢別にみると15-64歳の27万人増に対し、65歳以上は37万人増えた。15-64歳の生産年齢人口は16年は7633万人で、10年前と比べると771万人減った。今まで働いていなかった高齢者や女性が働き始めたことが雇用情勢の改善につながっている。
同時に発表した16年12月の有効求人倍率(季節調整値)は前月比0.02ポイント上昇の1.43倍だった。91年7月以来25年5カ月ぶりの高水準だった。正社員の有効求人倍率は0.92倍と過去最高で、就業地別の有効求人倍率は9カ月連続で全都道府県で1倍を上回った。12月の失業率(同)は3.1%と前月と同じだった。第一生命経済研究所の新家義貴主席エコノミストは「年内にも2%台に突入する可能性が高い」と指摘する。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、かなり長くなってしまいました。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上のパネルは2010年=100となる鉱工業生産指数そのもの、下は輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた部分は、次の雇用統計とも共通して、景気後退期です。

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生産については、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは前月比で+0.3%増でしたから、やや上振れたとはいうものの、ほぼジャストミートした気がします。ただし、季節調整済みの系列の前月比で見て、出荷が減少し在庫が増加する結果となっていますが、ならしてみれば、生産と出荷が増加基調、在庫水準も低下基調と私は受け止めています。加えて、製造工業生産予測調査でも1-2月の増産が見込まれていますから、先行きも緩やかな増産を私は予想しています。12月統計については、自動車本体や部品の生産が好調だったほか、アジアで組み立てるスマートフォン向けなどの電子部品の生産も伸びており、我が国が比較優位ある製品の生産が増加しており、イレギュラーな受注が入ったのではなく、本来のいい形の増産と考えるべきです。また、先行きについても、米国のトランプ政権の見通しがたい通商政策を別にすれば、ようやく、というか、何というか、2014年4月の消費増税直前の駆け込み需要の反動が3年を経過してそろそろ剥落する部分が出始める時期を迎えるとともに、2011年3月まで続いた家電エコポイント制度により購入された白物家電などが買い替えサイクルを迎えつつあるとの見方もあり、耐久消費財の先行きに期待を持って注目しています。

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四半期データが利用可能になりましたので、上のように在庫循環図を書いてみました。ピンク矢印の2013年1-3月期から始まって、黄緑矢印の直近の2016年10-12月期までです。2002年12月の月例経済報告の参考資料である「鉱工業の在庫循環図と概念図」に従えば、45度線を下から上に切りましたので、機械的に見ると、景気は谷を過ぎて上昇局面に入ったことになります。出荷が増加して在庫調整が進んでいる段階です。

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引用した記事では、ついついメディアの報道のクセとして、雇用統計については年統計を重視していたりしますが、月次の景気動向として上のグラフを見て、遅行指標の失業率は横ばいながら、景気一致指標の有効求人倍率はさらに上昇し、先行指標の新規求人も増加を続けています。かなり完全雇用に近い印象を受けるんですが、それでも賃金が上がりません。それどころか、リクルートジョブズの調査による「2016年12月度派遣スタッフ募集時平均時給調査」では、派遣職員の時給が下がり始めていたりします。ということは、かなり完全雇用に近いながら完全雇用ではないんだろうと、私は考えを改めるに至りました。最近読んだ日経センターの『激論 マイナス金利政策』の影響もあります。そして、賃金が上がらないのは、引用した記事にもある通り、最近時点で労働市場に参入したのが中年女性と高齢男性であり、ともに非正規職員として賃金が低い職種への参入が多いんではないかと想像しています。その意味で、雇用の改善のすそ野が広がって、正規職員というか、安定した高収入の職、ILO のいうところの decent job が増加しているのかどうかは、まだ疑わしいのかもしれません。私の知り合いのエコノミストの中には、今年中に失業率は3%を割り込んで2%台に入るとの主張を持つ人もいますし、現状の労働需給はかなりタイトであるとはいえ、決して完全雇用に達したという意味ではないことを確認しておきたいと思います。

  実質GDP消費者物価指数
(除く生鮮食品)
 2016年度+1.2~+1.5
<+1.4>
▲0.2~▲0.1
<▲0.2>
 10月時点の見通し+0.8~+1.0
<+1.0>
▲0.3~▲0.1
<▲0.1>
 2017年度+1.3~+1.6
<+1.5>
+0.8~+1.6
<+1.5>
 10月時点の見通し+1.0~+1.5
<+1.3>
+0.6~+1.6
<+1.5>
 2018年度+1.0~+1.2
<+1.1>
+0.9~+1.9
<+1.7>
 10月時点の見通し+0.8~+1.0
<+0.9>
+0.9~+1.9
<+1.7>

最後に、昨日から開催されていた日銀金融政策決定会合ですが、金融政策は現状維持、というか、追加緩和なしで終了しました。上のテーブルは「展望リポート」の基本的見解から2016-2018年度の政策委員の大勢見通しを引用しています。昨年10月時点からはかなり上方修正されたんですが、インフレ目標である+2%の達成は、引き続き、「見通し期間の終盤(2018年度頃)」とされています。なお、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で、引用元である日銀の「展望リポート」からお願いします。

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2017年1月30日 (月)

天候要因で季節商品に売れ行き不振あるものの商業販売統計に見る消費は回復のモメンタム!

本日、経済産業省から12月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売業販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比+0.6%増の13兆4330億円と、引き続き、景気回復の兆しがうかがえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

16年の小売販売額、0.6%減 2年連続で減少 12月は0.6%増
経済産業省が30日発表した2016年の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は0.6%減の139兆8550億円だった。前年割れは2年連続。原油安による石油製品の価格下落で、燃料小売業の販売額が減少した。百貨店の衣料品販売の低迷も響いた。百貨店は3.3%減、スーパーは1.1%増、コンビニエンスストアは4.1%増だった。
16年12月の小売業販売額は前年同月比0.6%増の13兆4330億円と2カ月連続で前年実績を上回った。季節調整済みの前月比では1.7%減だった。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
業種別では新車販売が好調な自動車小売業が5.9%増加した。原油価格の持ち直しで燃料小売業は1.0%増となり、14年9月以来27カ月ぶりにプラスに転じた。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で1.2%減の2兆675億円だった。気温上昇で冬物衣料品の販売が振るわず百貨店は2.6%減、スーパーは0.4%減だった。コンビニエンスストアの販売額は3.7%増の1兆75億円だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは上の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下のパネルは季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた部分は、景気後退期です。

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季節調整済みの統計の前月比で見て、自動車小売業は11月の▲2.2%減から12月は+0.6%増に転じたものの、天候がかなり高温を記録したため、一部の業種で季節商品の売れ行き不振が見られました。すなわち、織物・衣服・身の回り品小売業が11月+1.3%増から、気温が高かったため冬物衣料の販売不振で12月は▲5.2%減となったほか、機械器具小売業も暖房機器の販売不振などにより11月の+5.4%増から、12月は▲4.3%減を記録しています。これらの業種別の前月比や上のグラフの下のパネルを見ても理解できる通り、12月の小売業販売額は季節調整済みの系列の前月比で、▲1.7%の減少を示しましたが、経済産業省による小売業販売額の基調判断の資料によれば、後方3か月移動平均で前月比は+0.3%の増加を記録しており、まだモメンタムは増加の方向にあるとして、基調判断は「持ち直し」で据え置かれています。天候要因も含めて、四半期ベースで小売業販売額をならして見ると、季節調整済みの系列の前期比では、7-9月期の+1.0%増に続いて、10-12月期も+1.9%増と着実な回復を見せています。

経済産業省による商業販売統計は物価の上昇を考慮しない名目統計なんですが、実質の家計支出も統計として公表される総務省統計局の家計調査が12月統計は明日の公表となっています。日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは季節調整していない原系列の実質支出の前年同月比で▲0.6%減となっていますし、10-11月の家計調査の実績を見る限り、かなりのマイナスを記録しており、なかなか消費の傾向を見るのが難しくなっているんですが、2月13日に内閣府から公表予定の10-12月期GDP統計では、実質消費は前期比でゼロ近傍ではないかと私は見込んでいます。明日の鉱工業生産指数や雇用統計、家計調査などが公表されると、10-12月期のGDP統計1次QEの予想がいっせいに明らかになると考えられますので、日を改めて取り上げたいと思います。

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2017年1月29日 (日)

マクロミルによる「バレンタイン実態調査2017」やいかに?

さて、もう少し先のお話しかもしれませんが、2月14日はバレンタインデーです。私のように、指折り数えてあと何年で定年体感というようなジーサンはともかく、我が家の倅どものような若い男女には気にかかるところかもしれません。ということで、マクロミル・ホノテから働く男女を調査対象とした「バレンタイン実態調査2017」の結果が明らかにされています。まず、マクロミル・ホノテのサイトから調査のTOPICSを4点引用すると以下の通りです。

TOPICS
  • 働く男女のバレンタインチョコ購入実態、女性は80%、男性も4人に1人にあたる25%が購入!
  • 平均予算は 「4,347円」、2年で639円ダウン
  • バレンタインチョコは誰に贈る? 1位「本命チョコ」、2位「自分へのご褒美チョコ」、3位「家族へのファミチョコ」、
    手作り派は25%、買う派は75%
  • ライバルに差を付けろ! バレンタインに真似したい最新アイデア、ご紹介!

グラフをいくつか引用して、週末日曜日のブログらしく、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、マクロミル・ホノテのサイトから バレンタインチョコの購入率 を男女別にしたグラフを引用すると上の通りです。女性はさすがに80%を超えています。よく理解できないのが、男性でも4人に1人はバレンタイン・チョコを買っているという事実です。私は60年近い人生で、バレンタイン・チョコを自分で買ったことはありません。よく理解できないながら、女性からもらったと見栄を張るんでしょうか。20%の女性は、要するに、あげる相手がいないんでしょうか、それとも、バレンタイン・チョコなんぞを必要ともしない相手がいたりするんでしょうか?

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次に、マクロミル・ホノテのサイトから バレンタインチョコを贈る相手 のグラフを引用すると上の通りです。やっぱり本命チョコがトップで、2番目に多かったのご褒美チョコですから、バレンタインチョコを購入する人の実に半数が、自分のためにご褒美チョコを買うようです。先ほどの男性が買うのもひょっとしたらご褒美チョコなのかもしれません、と、今さらながらに思い返したりしています。そして、私も買おうかという気になりそうで少し怖いです。

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2017年1月28日 (土)

今週の読書はかなりがんばって9冊!

今週の読書は経済書に教養書や専門書など合わせて9冊です。それほどでもない気もしますが、1冊1冊がかなり難しくて分厚かったので、強烈に大量に読んだ気になりました。来週もそれ相応にありそうな予感です。

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まず、鈴木亘『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』(東洋経済) です。副題が「あいりん改革 3年8か月の全記録」となっており、大阪のあいりん地区の改革の記録となっています。「改革の記録」ですから、ある程度は、上から目線の自慢話であることは覚悟すべきですが、読む前に覚悟したほどひどくはなかったと思います。でも、所轄の警察署に対して府知事から府警本部長を通じたルートで協力を迫るなど、かなり露骨な自慢話も散見されることは確かです。ただ、上から目線も自慢話もひどくはありませんので、その点は評価しています。もっとも、私の読み方が浅くて不足しているのか、何がポイントなのかは不明でした。おそらく、マイクロな経済学の応用分野なんだろうと思いますが、やり方としては小泉内閣のころの経済財政諮問会議を運営した竹中大臣の手法を自慢げにまねているようです。役所や抵抗勢力を恣意的に設定し、ムリなくらいのビーンボールを投げて、落としどころに落とすという手法です。そのなかで、最終章や本書の結論部分がまちづくり会議の運営と改革の方針決定で終っているのも理解不能です。とても意地悪な見方をすれば、要するに、あいりん地区の改革案について会議を開催して、直接民主主義的に作文した、というのが成果というわけではないのだろうと思いますが、私の読解力が不足しています。薬物取引の取締りや不法投棄ごみの削減などの成果が冒頭に出て来ますが、それと改革方針の作文との関係も私は読み取れませんでした。誠にお恥ずかしい限りです。私の直感として、極めて単純なマクロ経済学的にいえば、途上国の経済開発・発展は、すべてではないとしても、ルイス的な2部門モデルに基づき資本蓄積を進めて生存部門から資本家部門に労働移動を進めつつ、資本家部門での生産性を向上させるため労働の質の向上のために教育や職業訓練を行う、という一方で、本書の対象とするような先進国での貧困政策は再分配が大きな役割を果たします。本書でも住宅局だったかどこだったかで、「100億200億持って来なはれ」との断りだった、という部分があったように記憶していますが、ある意味では正当です。加えて、一般的な貧困対策と異なり、あいりん地区改革などの場合は、いわゆるルンペン・プロレタリアートと称される反社会的な組織、ハッキリいえば暴力団などへの対応が全記録たる本書から抜け落ちているのはやや気がかりです。さらに、私の直感ですから、どこまで正しいかは必ずしも自信がないんですが、マイクロにインセンティブを設計しつつ貧困対策を進めるのは、場合によっては合成の誤謬を生じる場合もあります。本書でも、役所の役人を動かすためのインセンティブを分析し、縦割り行政についてはコラムで取引費用から説明を試みたりしていますが、著者や著者とともにあいりん地区改革に取り組んだ、本書でいうところの「7人の侍」のインセンティブ分析はスルーしているのも、私には少し違和感を持って受け止めました。この「7人の侍」のインセンティブを役人と同様に分析し、さらに、コラムで現状維持バイアスについて解説すれば、本書の評価はさらに高まりそうな気がします。でも、このままでも十分に貴重な記録だと私は受け止めています。

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次に、ピーター・レイシー/ヤコブ・ルトクヴィスト『サーキュラー・エコノミー』(日本経済新聞出版社) です。著者も訳者もアクセンチュアというコンサルタント会社に勤務しているようです。英語の原題はそのままであり、直訳すれば「循環型経済」ということになりそうな気がします。その趣旨は、家電や自動車のような耐久消費財が典型なんでしょうが、今までのように、短いサイクルで製品をグレードアップさせて買い替え需要を生み出そうとするんではなく、日本的な表現なら「静脈系」までを視野に入れて製品作りを行い、廃棄物を最小化させようとする生産活動や経済活動のことを指しているんだろうと理解しています。例えば、「耐久性が高く、モジュール化され、再生産が容易な製品」(p.256)といった視点です。そして、その発想の基をなしているのは、どうも、ローマ・クラブ流の「限りある資源」とか、マルサス的な経済学ということのようなんですが、逆から見て、そういった循環型社会に適した製品やサービスの方が、地球環境保護や何やといった関心を高めた消費者から支持されており、需要が見込めるという事情もあるような気がします。また、シェアリング・エコノミーとの親和性も悪くなく、例えば、その昔はステータス・シンボルの意味もあった自動車の稼働率は決してよくないことから、本書でも、消費者はドリルが欲しいのではなく、穴を開けたいのである、と表現しています。ただし、本書ではシェアリング・エコノミーによって収入が不安定デメリットの少ないワーキング・プアが生み出されるという指摘は正当である、としており、主としてウーバーの運転手側の利用者をタクシー運転手になぞらえているような気がしますが、それなりに正確な見方をしているように私は受け止めています。そして、もっとも私が評価するのは、著者が本書で指摘している循環型経済を実現するために重視する政策手段として、第12章で課税対象を労働から資源に転換することを上げています。ここはいかにもローマ・クラブ的という気もしますが、明記しておらず、著者自身も認識していない可能性が高いものの、現在の市場経済における資源へのプライシング(価格付け)が循環型経済やサステイナビリティの観点から「市場の失敗」を生じていることを直観的に理解しているんだろうという気がします。それを税制によって相対価格を変化させて、循環型経済やサステイナブルな方向に持って行こうという発想なんだろうと、多くではないにしても、一部のエコノミストは理解するだろうと私は考えます。こういった本書のエッセンスのほかは、いかにもコンサルタント会社らしく、延々と海外企業や政府の循環型経済実践例が並んでいます。それはそれで悪くないのかもしれません。

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次に、猪木武徳『自由の条件』(ミネルヴァ書房) です。著者は大阪大学の名誉教授であり、やや古い時代を代表するエコノミストです。出版社の月刊誌に連載されていたコラムを単行本にして出版されています。副題に見える通り、トクヴィルの『アメリカのデモクラシー』を中心に、民主制化の自由と平等を論じています。ただ、本書のタイトルの自由論について、J.S.ミル張りの議論を期待すると少し違和感あるかもしれません。そうではなく、本書の最初の方では民主制下の公共善を成す基礎的な条件をトクヴィルの著書を借りて米国に探りつつ、後ろの方では少し論点を変更して、逆に、民主制が学問・文化や尚武の精神にどのような影響を及ぼすか、という反対のルートについて論じています。ただ、この逆ルートについては著者は特に意識していないようにも見受けられます。いくつかの議論はあると思いますが、米国における民主制を補完する制度的な要件としてトクヴィルが上げている地方自治、結社、裁判の陪審制については、私は専門外ながら興味ある観点と受け止めました。また、メディアの役割も極めて常識的というか、ある意味ではありきたりの議論ながら、当然の筋道といえます。もっとも、英国や我が国では全国紙と地方紙が併存している一方で、米国にはほとんど全国紙は存在せず、ラジオやテレビの時代になって初めて全国レベルのメディアが誕生した点はもう少し議論されて然るべきかという気もします。また、トクヴィルにとって米国がかなり宗教的であったのが意外感を持って紹介されていますが、米州大陸は、主として中南米を念頭に置けば、カトリックにとっては宣教師による布教先であり、しゅごちて米国を念頭に置けば、清教徒にとっては本国における宗教的迫害からの避難先であったわけですから、欧州よりも宗教的な色彩が強いのは当然です。商業の拡大による国民性の違いに及ぼす影響もさることながら、製造業の発展によるマルクス的な規律が強化された国民性の進化、なども本書の視野に収めて欲しかった気がします。また、米国における学問の発展に寄与したのは英語という英国の下でかなりの程度に世界の共通語になった言語的な素地も見逃すべきではありません。そのあたりは、どうも行き届いていない印象があります。最後に、月刊誌の連載を単行本化したので致し方ない面もありますが、文章が荒っぽくて理解が進みにくくなっているような気がします。民主制とデモクラシーは使い分けているのか、それとも同義の言い換えなのか、ほかにも、月刊誌で月ごとに読んでいるのであればともかく、単行本にするに際しては編集者がもう少しキチンと修正すべきではないかという気もします。誤植も散見されます。「陸相」はその昔の陸軍大臣であって、自衛隊の階級は「陸将・陸将補」であろうと思います。

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次に、町田祐一『近代都市の下層社会』(法政大学出版局) です。著者は日大教員であり、歴史の研究者です。この著者の著書については『近代日本の就職難物語』を昨年2016年8月7日付けの読書感想文で取り上げています。本書もやや似通った分野であり、タイトルとは違って、あとがきのp.279にあるように、近代東京の職業紹介事業について取りまとめた学術書です。チャプターごとに基になる既発表論文が明らかにされています。ということで、口入れ業から始まって、浄土真宗や救世軍あるいはYMCAなどの宗教団体による職業紹介、そして、最後に、欧米を手本とした公的機関による職業紹介まで、明治末期から大正期にかけての近代東京における職業紹介の概要につき、各事業の成立と展開、国や自治体の政策などを体系的に検討し学術的に分析しています。ただ、現代のハローワークでもそうですが、こういった職業紹介事業では必ずしもステータスの高い職業が紹介されるとは限りません。本書が対象としている時代では、事務員や官吏などの紹介ではなく、人夫や女中の紹介などが中心を占めています。ですから、本書のタイトルのように、職業を紹介される前は下層社会を形成していたと考えるのもムリないところかもしれません。もともと、口入れ業と呼ぶのであればともかく、手配師と言えばほぼヤクザの世界ですし、本書の冒頭でも、ほぼ詐欺そのものといった桂庵=口入れ屋の実態が明らかにされています。ですから、かなり貧民対策に近い形で職業紹介が公的部門でなされたように考えられ、おそらく同時に職業訓練も提供されているような気がしますが、本書では職業訓練についてはスコープに入っていません。また、本書で少し残念に思うのは、経済社会の時代背景がまったく無視されていることです。短期的な景気循環に伴う労働需要の変動とともに、中長期的な経済発展に伴う需要される労働の質の高度化、それと同時並行的に進む教育制度の発達などの職業紹介の背景をなすような情報と切り離して職業紹介だけが単独で歴史的に跡付けて分析されていますので、読み物としては、すなわち、知らない時代の知らない事業ですから、新たな情報を得るための読み物としては、まずまずなのかもしれませんが、もっと職業紹介事業について広がりを持った政策論を展開するにはやや物足りない気もします。

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次に、ノミ・プリンス『大統領を操るバンカーたち』上下(早川書房) です。私が見た限りなんですが、今週日曜日の日経新聞で書評に取り上げられていました。著者は銀行勤務の経験もあるジャーナリストで、英語の原題は All the President's Bankers であり、2014年の出版です。タイトルから理解できる通り、ここ100年くらいを時間的視野に収めて米国大統領と米国の銀行・銀行家との関係を解き明かそうと試みています。巨大な金融機関の破綻はシステミック・リスクを引き起こしかねませんから、世界のほぼすべての国で銀行は強い規制を受ける産業であり、逆に、銀行は規制緩和によってより自由な経済活動を求める傾向があります。本書の上巻は第2次世界対戦くらいまでの期間を、下巻は戦後を対象としており、上巻の読ませどころは1929年からの世界恐慌なんですが、やはり、本格的に銀行業界が政治家を取り込み始めるのは戦後であり、下巻の展開がとても面白かったです。ケネディ大統領は銀行活動よりも国際収支の赤字によるドル流出に懸念を持ち、銀行業界との関係は必ずしも良好ではなかったとされており、暗殺との関係が記述ないものの、ニクソン大統領のドル兌換停止などの強い規制的な措置も銀行には評価されず、いずれもその後任者の銀行からの評価と比較対照されています。また、いわゆる米国の政府とビジネス界の「回転ドア」についても、政府と銀行の関係の深さを中心に取り上げられています。ジャーナリストの手になる本書ですから、どうしても人脈的な分析が中心になり、かつては、J.P.モルガンに代表されるような大金持ちの名望家層にほぼ独占されていた銀行経営者が、今ではそのような家系を必要としなくなった一方で、ストック・オプションをはじめとして従来では考えられないような高額の報酬を手にするようになった経緯なども明らかにされています。ただし、いくつか物足りない点もあり、いわゆる転換点における逆転の原因については、かなり原因は明白ではあるんですが、それだけに、もう少し丁寧に情報を収集して欲しかった気がします。第1に、英国と米国の逆転です。第1次大戦後に経済力の逆転があったのが背景になっていて、原因は明らかなんですが、英国側の情報も欲しい気がします。第2に、米国内の商業銀行と投資銀行の逆転です。本書にもある通り、ここ20年くらいはゴールドマン・サックスの天下となっており、かつてのモルガンなどの商業銀行から投資銀行に銀行業務の中心が移っていることは明らかです。本書でも明らかにされているレギュレーションQによる銀行預金金利の規制があった一方で、株式市場の発達とともに、日本的な用語で言えば「貯蓄から投資へ」米国家計の行動がシフトする中で、株式や債券への投資が厚みを増し、また、同時に当たらな資金調達手法のイノベーションもあって、銀行業務が商業銀行から投資銀行に移行しつつあるわけですが、すでに廃止されたとはいえ、グラス・スティーガル法の下で分離されていた商業銀行と投資銀行の思考や行動の様式の違いなどについても情報が欲しい気がします。

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次に、アダム・ロジャース『酒の科学』(白揚社) です。著者はジャーナリストであり、ワイアード誌の科学部門の編集者です。英語の原題は Proof: The Science of Booze であり、2014年に出版されています。酵母や糖をタイトルとする章から始まり、人類がまだ地上に現れる前から酵母が糖を分解して酒を造っていた点を強調するとともに、そのアルコール分を蒸留して別の酒にするのはごく最近の人類の発明であるとしています。その後、樽に詰めて熟成させブラウン・リカーを作り出し、香味をつけ、酒を飲んだ人間の体と脳がどうなるかを論じ、最後は二日酔いで締めくくっています。実は、個人的な生活の範囲ながら、私は職場の歓送迎会や忘年会などを別にすれば、家庭外で酒を飲むことはほとんどしません。ここ10年以上はないような気がします。また、家庭内でもほとんど酒は飲まなかったんですが、数年前に地方大学で教員をした際に飲むようになってしまいました。1年生から4年生まで少人数のゼミナールをそれぞれ担当していたところ、1年生向けの「教養セミナー」と称する授業だけがどうにも苦手で、昼食時に当時の経済学部長も同じだと言っていましたが、その教養セミナーの授業があった日はビールを飲むようになってしまいました。明らかにストレス解消を目的としていました。そして、東京に戻ってから、ここ3-4年で夏の間にナイターを見ながら缶ビールを飲む習慣がついてしまいました。まあ、専業主婦と学生の子供2人を養うに足るお給料を働いて稼いでいるんですから、ナイターをテレビ観戦して、ひいきの野球チームを応援しながら、350㎖か500㎖の缶ビールを飲んでいます。そして、この正月にも飲むようになってしまいました。このまめ酒を飲む機会が増え続ければアル中になってしまうかもしれないと危機感を持って本書を読み始めた次第です。でも、酒については科学的にも社会的にもまだまだ解明されていない点がたくさん残されており、ワインのテイスティングがいかに根拠ないものか、二日酔いに関する科学的な解明がまったくなされていない現状、などなど、それなりに勉強になりましたが、本書をちゃんと読みこなすには化学や生物学に関するそれなりの知識も必要かもしれません。次の『カフェインの真実』とは異なり、酒を否定したり批判したりする内容ではありません。むしろ、酒をそれなりに肯定的に評価する本だと受け止めています。

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次に、マリー・カーペンター『カフェインの真実』(白揚社) です。著者は科学ジャーナリストであり、アストロズのホームグラウンドが近いそうですから、」ヒューストン在住ではなかろうかと想像しています。英語の原題は CAFFEINATED であり、2014年に出版されています。タイトルから容易に想像される通り、カフェイン摂取に関してかなり批判的な内容となっています。まあ、いずれにせよ、「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉がありますが、カフェインにせよ、先ほどのお酒=アルコールにせよ、もちろん、塩や砂糖に至るまで、個人差があるとはいえ、ほどほどに取る分にはいいんでしょうが、摂取し過ぎると害をなすわけですし、おそらく、食べ物や飲み物については米国では摂取過多となっている場合が多いんではないかという気がします。特に、役所のオフィスでも、若い研究者が厳しい残業の後にエネジー・ドリンクのカンやビンが転がっていることもありますし、必要な時は必要だという気がするものの、依存し過ぎるのもよくないのは明らかです。本書でも戦時の米国の兵隊さんがコーヒーを大量に飲用してカフェインを摂取していた事実が跡付けられていますが、日本はもっとひどくて、戦時中から戦後の一時期まで覚醒剤を推奨していたかのごときノンフィクションも私は読んだことがあります。例えば、すべてではないにしても、特攻隊で死にに行く若い飛行兵に覚醒剤まがいの薬物を与えたり、銃後ですら現在のブラック企業も真っ青の軍需工場などで工員さんに眠気を克服するような薬物を与えて作業させていたような調査結果も見たりしたことがあります。戦後でも、「ヒロポン」と称された覚醒剤のような薬物が広く出回っていたとの記録もあるやに聞き及んでいます。フィクションですが、『オリンピックの身代金』なんかはそういった過酷な作業現場を舞台にしていたりするんではないでしょうか。というような脱線はここまでにして本書に戻ると、カフェイン含有飲料で大儲けする食品飲料会社と、それを規制しようとする政府当局の攻防戦も取り上げられていますが、少なくとも、肥満をはじめとする米国の保健・健康問題や医療問題、あるいは、食品問題に関しては、カフェインに矮小化することなく、さりながら、カフェインも忘れることなく、バランスを取った総合的なケアを必要としている気がします。もうひとつは、特許や知財関係の問題なのかもしれませんが、これだけ乱立しながらも、カフェイン含有飲料でここまで大儲けできる経済とは何なのか、が気にかかります。砂糖の摂取方なども含めて、消費者の意識が低いということなんでしょうか。それともうひとつは、日本でもノンアルコール・ビールが売れ始めているようですが、米国でもカフェイン抜きのいわゆるデカフェが国際会議などで出されるようになっています。タバコはもはや「悪役」として立派な地位を占めているようですし、これでカフェインが槍玉に上げられるとすれば、次は何なんでしょうか。私は食品行政などはトンと知りませんが、やや気にかかる点だったりします。

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最後に、マーチン・ボジョワルド『繰り返される宇宙』(白揚社) です。自然科学に関する白揚社の刊行物を今週は3冊も読みましたが、その締めくくりです。物理学、特に宇宙論については、生物学の進化論とともに経済学との親和性が高いと私は勝手に見なしているんですが、その宇宙論を展開しており、特に量子力学のひとつであるループ量子力学理論に基づく宇宙論を論じています。この理論を使うと何かいいところがあるのかといえば、ビッグバンやブラックホールなどの宇宙論における特異点を使うことなく、整合的に宇宙論が展開できる点にあります。とても昔の2010年3月23日付けの読書感想文で、モファット教授の『重力の再発見』を取り上げていますが、『重力の再発見』ではダークマターやダークエネルギーの存在が不要になり、同時に、本書と同じように特異点の仮定も不要となると記憶しています。経済学と物理学の親和性というか、勝手にエコノミストの方から親近感を持っているだけなんでしょうが、やっぱり、現実に即しながらもやや簡略化したモデルを用いて、モデルも含めて数学を多用した解法を用い、そして何よりも情報の生成される過程を決定論的ではなく確率論的に考えるという点で、一定の共通点はあるような気もします。他方で、物理学に特段の知識のない私のようなシロートにとっては、ビッグバンやブラックホールなどの特異点とか、ダークマターやダークエネルギーの方が惑星の重量よりも1-2桁多い、とか言われてしまうと、何やら理解不能なだけに、関西弁で言うところの「気色悪い」気がしてしまいます。そういった仮定を置かなくても宇宙を理解できるのであれば、その方が望ましいような気もしますし、他方、私も何度かこのブログで歴史観を披露していますが、歴史とはかなり一方的に進歩し、それを食い止めようとするのが保守で、さらに逆戻りさせようとするのが反動と呼ばれ、歴史の進歩はある程度は確率論的に微分法的式に乗りつつも、完全に微分方程式に従うのであれば、初期値さえ決まってしまえばアカシック・レコードやラプラスの悪魔のように、未来永劫までも決定されかねないので、歴史の流れに中には微分不可能で何らかのシフトとかジャンプと呼ばれる特異点のようなものがある、と考えています。その意味で特異点も私自身は容認しています。でも、時間の流れである歴史観と空間的な把握である宇宙論は、物理学的には同一で、例えば、ブラックホールでは時間と空間が入れ替わると言われており、また、私のようなシロートは、ビッグバンは時間の中の特異点で、ブラックホールは空間における特異点と考えていましたが、実は、本書を読めば、どちらも時間軸における特異点であることが理解できます、いや、理解できるというか、理解できないまでも、そう宣言されていて、物理学的には時間と空間はそれほど区別すべき要素ではないのかもしれませんが、やっぱり、私にとっては時間と空間は違うわけで、その意味で、歴史観と宇宙観の統合を図るべく、こういった物理学の宇宙論についても今後ともひも解きたいと思います。本書については、ほとんど中身が理解できなかったので、適当にごまかしています。悪しからず。

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2017年1月27日 (金)

消費者物価指数(CPI)はそろそろゼロからプラス領域に達するか?

本日、総務省統計局から昨年2016年12月の消費者物価指数(CPI)が公表されています。生鮮食品を除くコアCPIの前年同月比上昇率は▲0.2%と10か月連続でマイナスに落ち込んでいます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

16年消費者物価、4年ぶりマイナス 原油安響く
総務省が27日発表した2016年の全国消費者物価指数(CPI、15年=100)は値動きの大きな生鮮食品を除く総合指数が99.7と前の年と比べ0.3%下落した。下落は4年ぶり。原油安による電気代やガソリン価格の低下が響いた。同時に公表した16年12月は99.8と前年同月比0.2%の下落だった。
食料・エネルギーを除く「コアコア」の指数は100.3と前の年に比べ0.3%上昇した。宿泊料が2.3%、外国パック旅行費も4.9%それぞれ上がり、教養娯楽の指数が上昇した。衣料1.6%上がったことなども寄与した。生鮮食品を含む総合は99.9と0.1%下落した。生鮮食品を除く総合では全体の64.8%にあたる339品目が上昇、138品目が下落した。横ばいは46品目だった。
16年12月の生鮮食品を除く総合は10カ月連続で下落した。電気代が6.5%低下したことや携帯電話機の下落から通信が2.9%のマイナスになったことが下押しした。生鮮食品を含む総合は3カ月連続でプラスになった。トマトが61.9%上昇するなど生鮮野菜の高騰が続いていることが影響した。ガソリン指数が2年1カ月ぶりに前年同月を上回るなど価格上昇も後押しした。
東京都区部の1月のCPI(中旬速報値、15年=100)は生鮮食品を除く総合が99.1と、前年同月比で0.3%下落した。下落は11カ月連続。都市ガス代の低下などが響いた。生鮮食品を含む総合は99.5と前月に比べ0.1%上昇した。前年同月に価格が低下していたたまごやパン、めんつゆなど生鮮食品を除く食料が寄与した。
総務省は併せて17年1月分から新指数「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」を公表することを明らかにした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、いつもの消費者物価上昇率のグラフは下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIのそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。なお、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。なお、最近になって発見したんですが、酒類の扱いがビミョーに私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入らずコア財に含めています。念のため。

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日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスではコアCPIで見て前年同月比▲0.3%の下落でしたが、統計の実績では▲0.2%でしたし、春ころにはゼロないしプラスに転ずると見込むエコノミストが多そうな気がします。しかし、私はそう単純ではなかろうと受け止めています。というのも、石油価格下落の直接の影響はかなりの程度に剥落したんですが、他方で、その波及が間接的に現れている可能性がアチコチに見受けられるからです。例えば、直接の影響を見るとして、全国のコアCPI前年同月比上昇率に対する寄与度ベースで、エネルギーはもっともマイナスが大きかったという意味で直近のボトムは2016年3月の▲1.13%から、最新統計の12月には▲0.34%まで、ほぼ+0.8%ポイントの押し上げ要因となっていますが、逆に、コア財寄与度は2016年2月の+0.29%から12月には▲0.08%まで、▲0.4%ポイント近くの押し下げ要因となっており、エネルギー価格の下落率縮小の半分くらいを相殺してしまっています。同時に、食料は2016年2-3月の+0.42%から12月には+0.12%まで寄与度が縮小しており、これも▲0.3%ポイント押し下げ要因となっています。エネルギーの物価押上げ寄与度をコア財と食料でかなりの程度に相殺してしまっているわけですから、上のグラフに見られる通り、青い折れ線グラフのコアCPI上昇率のマイナス幅が縮小している一方で、食料とエネルギーを除くコアコアCPIの上昇率のプラス幅も大きく縮小し、上昇率がゼロに近づいているのが見て取れます。基本的には、年央までにコアCPI上昇率はゼロないしプラス領域に達する可能性が高いと私も考えていますが、国際商品市況における石油価格下落の影響の剥落が、エネルギー価格の下落をストップさせる一方で、ラグを伴ったエネルギー価格低下の波及効果がコア財に現れ始めており、石油価格にシンクロした物価上昇につながるという単純な構図ではないことは留意しておくべきでしょう。

最後に、3月3日公表の2017年1月の全国CPIから、「生鮮食品及びエネルギーを除く総合」指数の公表を開始すると、総務省統計局のサイトで明らかにされています。世間一般では、生鮮食品を除く総合をコアCPIと称して、広く参照されているところですが、新たな指標の公表に伴い、世間一般がどのように対応するかを見極めつつ、私のこのブログでも考えたいと思います。要するに、まあ、世間一般に従おうかと考えているわけです。

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2017年1月26日 (木)

3年連続でプラスの上昇を続ける企業向けサービス価格指数(SPPI)をどう見るか!

本日、日銀から昨年2016年12月の企業向けサービス物価指数(SPPI)が公表されています。前年同月比上昇率で見て、ヘッドラインSPPIは+0.4%、国際運輸を除くコアSPPIも+0.4%と、小幅ながら前月統計から上昇率が拡大しています。でも、誤差範囲かもしれません。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

企業向けサービス価格指数の上昇率、12月は0.4% 16年は0.3%に縮小
日銀が26日発表した2016年12月の企業向けサービス価格指数(2010年=100)速報値は103.4で、前年同月比0.4%上昇した。42カ月連続で前年を上回り、上昇率は11月確報値の0.3%から拡大した。前月比でも0.1%上昇した。燃料価格の上昇や為替の円安を受けて運輸関連の料金が上がったことなどが寄与した。
運輸関連では燃料費の上昇分が転嫁された。外貨建てで料金契約する外航貨物では、円安で円ベースの価格が上昇した。道路貨物・旅客ではバス運転手不足による人件費の上昇も料金を押し上げている。企業活動の活発化で東京など大都市圏のオフィス賃料も上昇しているという。
対象の147品目のうち、価格が上昇したのは52、下落した品目は55だった。上昇と下落の品目数の差は下落が13品目多かった11月から縮小した。日銀の調査統計局によると「人手や設備が不足する中でサービス価格も緩やかな上昇基調が続いている」としている。
同時に発表した16年通年の指数(2010年=100、速報値)は103.0で15年から0.3%上昇した。上昇は3年連続だが、伸び率は15年(1.1%上昇)から縮小した。世界的な荷動きの停滞や燃料価格の低迷による運輸関連の料金低迷で全体の上昇率が抑えられた。
一方、あらゆるモノがネットにつながる「IoT」や金融とIT(情報技術)を融合した「フィンテック」などの関連ソフトの受託開発や訪日外国人の増加に伴う宿泊サービスなどが全体を下支えした。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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引用した記事にもある通り、前年同月比の上昇プラスが続いていますが、極めて小幅なレンジでの変動であり、もともと物価は粘着性が強いわけで、どこまで統計的に有意な差で変動しているのかどうかは不明です。言い換えれば、測定誤差の可能性も否定できませんし、統計的な有意性のレンジを広げれば、ひょっとすれば実はマイナス、という可能性も、いちユーザである私のレベルでは否定できかねます。
かなり強い膠着状態にあった企業向けサービス物価ながら、前年同月比の11月から12月への前月差を見ると、ひとつには、国際商品市況における石油価格の上昇や円安を受けた運輸関係価格の上昇、というか、下落幅の縮小が寄与しています。もうひとつは、リースと不動産です。こちらは企業活動が活発な方向に向かう中での価格上昇と考えられます。ただ、広告については、新聞や雑誌などの媒体の広告が前年同月比マイナスを続けているのに対して、テレビとインターネットはプラスとなっており、媒体で少し差が出ています。もう少し長い目で見れば、サービス価格の構成比で人件費は無視できませんので、人手不足に伴う価格上昇が下支えする構図は変わらないと考えています。

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2017年1月25日 (水)

堅調に伸びる輸出を背景に黒字を続ける我が国貿易の先行きリスクやいかに?

本日、財務省から昨年2016年12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+5.4%増の6兆6790億円、輸入額は▲2.6%減の6兆375億円、差引き貿易収支は+6414億円の黒字を計上しています。なお、2016年通年の貿易収支は4兆741億円の黒字で、貿易黒字は6年振りです。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

16年の貿易黒字、4兆741億円 原油安で6年ぶり黒字
財務省が25日発表した2016年の貿易収支は4兆741億円の黒字(前年は2兆7916億円の赤字)だった。6年ぶりに黒字に転じた。原油や液化天然ガス(LNG)の価格下落で輸入額が前年を大幅に下回った。
16年通年の輸出額は前年比7.4%減の70兆392億円だった。輸出為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=108円95銭と前の年と比べ10.0%の円高となり、円建ての輸出額を押し下げた。品目別では韓国や台湾向けの鉄鋼などが減少した。輸入額は15.9%減の65兆9651億円だった。原粗油は32.4%減、LNGは40.4%減だった。
併せて発表した16年12月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6414億円の黒字(前年同月は1389億円の黒字)だった。貿易黒字は4カ月連続。QUICKがまとめた民間予測の中央値は2900億円の黒字だった。
16年12月の輸出額は前年同月比5.4%増の6兆6790億円だった。米国向けの自動車部品などが伸びた。自動車部品やスマートフォン(スマホ)用に電気回路などの機器が増加し中国への輸出額は単月として過去最大の1兆3013億円となった。輸入額は2.6%減の6兆375億円だった。

いつもの通り、年統計に重点が置かれているものの、まずまず包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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グラフから明らかに読み取れる通り、輸出入とも2016年年央に反転上昇局面に入っており、その中で2016年を通じて貿易は輸出が輸入を上回って黒字を計上しています。もちろん、報道で指摘されている通り、基本的には国際商品市況における石油価格の低迷に伴う輸入の減少が大きな要因であり、同時に輸出も停滞しているわけですから、パッと見では縮小均衡のように見えるのも確かです。ただし、我が国の輸出について、少なくとも最近時点では、後に詳しく見る通り、数量ベースで拡大を示しているのも事実です。季節調整済みの系列で見て、輸出額の直近のボトムは昨年2016年7月の5.66兆円であり、今日公表の12月統計では6.17兆円まで回復を示している一方で、輸入額のボトムは昨年2016年8月の5.33兆円と輸出額とは1か月ズレるものの、ほぼ昨年年央をボトムに、12月統計では5.81兆円まで増加しています。また、貿易収支も季節調整済みの系列では一昨年2015年11月から14か月連続で黒字を計上しており、最近数か月ではほぼ+3000-4000億円レベルの黒字を記録しています。かつて、サブプライム・バブル崩壊前のように月次で1兆円を超えるような貿易黒字を記録する勢いで輸出が増加する局面ではないと考えていますが、米国をはじめとして世界経済の緩やかな回復とともに、所得要因から我が国の輸出が伸びて貿易黒字を記録している、というのが私の印象です。ところが、先週就任したばかりのトランプ米国大統領は私とは異なる印象を持っているようで、我が国の貿易が黒字を計上している点をもって、何らかの貿易摩擦の火種を見つけ出そうとする可能性も否定できません。私は1990年代半ばのクリントン政権期に日米包括協議の交渉に引っ張り出されて、ある意味では、とても貴重な体験をしましたが、報道などを見る限り、またまた、貿易や通商に関して日米交渉が再開される可能性も報じられているところ、昨日の東証では自動車会社が軒並み株価を下げましたし、我が国貿易の先行きはやや不透明感が漂っている気がします。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。我が国の輸出額についてはここ数か月で数量が主導して急速な回復を示しているのが見て取れます。下の2枚のパネルから、OECD加盟の先進国向けの輸出数量は回復が緩やかなものの、中国向けについて季節調整していない原系列の輸出指数の前年同月比で見て、2016年11月+16.0%増の後、12月には+20.6%と急速な増加を示しています。この大きな伸びがどこまで持続可能なものかは不透明ながら、どうも、世界経済の回復・拡大に伴って我が国の輸出も伸びを高める局面に潮目が変わりつつあるのが見て取れるんではないかと思います。ただし、中期的には米国の通商政策の制約を受ける可能性は否定できません。

貿易をはじめとして、我が国経済の先行きのリスク要因としてもっとも大きいのは為替である、とこのブログなどを通じて私は指摘し続けて来ましたが、米国の通商政策という新たな制約条件が加わる中で、世界経済の回復・拡大とともに我が国の輸出も短期的には増加の方向にあると考えられるものの、逆に、好調に貿易黒字を計上すれば米国の通商政策による制約条件も強まる可能性も残されており、目先はともかく、中期的な先行き不透明感はまだ払拭されていないのかもしれません。例えば、引用した記事にもある通り、2016年の対世界全体の我が国の貿易黒字は+4.07兆である一方で、実は、対米黒字は+6.83兆に上っており、米国以外では▲3兆円近い赤字、例えば、対中国では▲4.65兆円の赤字を計上しながら、それを上回る対米黒字で補っている勘定ですから、この対米貿易黒字はトランプ新政権から見れば米国内の雇用を奪っているように見えかねない危険はあります。

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2017年1月24日 (火)

トランプ政権下で米国における影響力を増す人々はどういったグループと見られているのか?

トランプ米国大統領が先週金曜日に就任式を終えたばかりですが、その就任式前の調査ながら、ピュー・リサーチ・センターから1月18日付けで、トランプ政権下でどういったグループが影響力を増すか、などにつき、Public Sees Wealthy People, Corporations Gaining Influence in Trump Era と題する世論調査結果が明らかにされています。もちろん、pdfの全文リポートもアップされています。まず、ピュー・リサーチのサイトからリポートのサマリーの役目を果たしているように見える最初の3パラを引用すると以下の通りです。

As President-elect Donald Trump prepares to take office, the public has starkly different expectations about which groups in society will gain influence - and those that will lose influence - under his administration.
Nearly two-thirds of Americans (64%) say wealthy people will gain influence in Washington when Trump takes office. Just 8% say they will lose influence, while 27% expect the wealthy will not be affected.
In addition, about half of the public thinks whites (51%), men (51%) and conservative Christians (52%) will gain influence. Relatively small shares (no more than 15%) think any of these groups will lose clout in a Trump administration.

経済的な話題ではないかもしれませんが、新しい米国大統領の就任はエコノミストとしても注目されるところであり、いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Majorities expect the wealthy to gain influence - and the poor to lose influence - with Trump as president を引用しています。影響力を増しそうに考えられているのは、富裕層(64%)、保守的なキリスト教徒(52%)、白人と男性(ともに51%)、などであり、逆に、ヒスパニック(56%)や貧困層(55%)、あるいは、同性愛者(54%)は影響力を減じると見られています。面白いのは、あなたのような国民(People like yourself)は影響力を増す(27%)よりも減じる(40%)可能性の方が高いと考えられている点です。

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次に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Most Americans think corporations and the military will increase influence with Trump in the White House を引用しています。主として、組織や団体を見ているわけです。企業(74%)や軍(64%)が影響力を増す一方で、環境保護団体(60%)や労働組合(54%)が影響力を減じると見られています。まあ、これも妥当な気がします。前のグラフと結合させてしまった方がよかったかもしれません。

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最後に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Views about which groups will increase influence are similar for Trump as for Bush, but fewer expect children, older people, blacks to gain under Trump を引用しています。クリントン政権以降の歴代の大統領の傾向を見ているわけです。民主党の大統領と共和党の大統領が交互に並んでいるので一目瞭然なんですが、特に直近で前のオバマ前大統領と現在のトランプ大統領を比較すると、企業や軍が影響力を増す一方で、若年層と貧困層と黒人、あるいは、環境保護団体などがトランプ政権下では影響力を低下させると見られているのが明らかです。もちろん、こういった傾向は同じ共和党のブッシュ元大統領との比較でも同様なんですが、国民の目から見て、トランプ大統領の政権下ではさらにこういった共和党的な影響力のスウィングの度合いが大きい、と見られていることも確かです。

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2017年1月23日 (月)

今週末から始まる春節における訪日中国人消費動向予測やいかに?

今週末の1月28日から中華圏の春節が始まり、通例であれば、1月27日から2月2日までの7日間がお休みらしいんですが、個の春節を前に1月18日付けで、トレンドExpressから訪日予定の中国人によるSNS上のクチコミをもとに、春節の時期における訪日中国人の消費動向予測が明らかにされています。一時の「爆買い」はかなり下火になったものの、春節の季節の中国人観光客の消費動向はまだまだ興味あるところ、図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、トレンドExpressのサイトから 2017年春節「行きたい」書き込み集計ランキング を引用しています。上位5位までは定番の都道府県がランクインする一方で、昨年の国慶節に比べ6位に広島県が、9位に福井県が食い込み、行き先の多様化が見られています。引き続き、関西圏の人気が高い一方で、東京都が順位を伸ばしているのは、初訪日の中国人観光客が増加している可能性があると分析しています。なお、広島県についての具体的な投稿を見ると、海・山などの自然、厳島神社の世界遺産などの観光資源やカキやお好み焼きなどのグルメに加え、アイドルコンサートや歴史に関する言及など多岐に渡り関心を集めていますし、福井県については寿司や越前蟹などについての書き込みが多く、グルメに注目が集まっていると指摘しています。

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次に、上のグラフは、トレンドExpressのサイトから 2017年春節に日本でしたいことランキング を引用しています。何といっても、買い物がトップでしたが、2位の雪や5位のスキーなどの季節要因も無視できません。なお、アクティビティのスキーよりも鑑賞の雪を見るが上位だったことから、SNSに写真を投稿することが好きな中国人の嗜好が指摘されています。買い物については図表はありませんが、1位化粧品、2位ベビー用品、3位健康食品・サプリメント、4位医薬品、5位生活用品など、引き続きドラッグストアが繁盛しそうなランキングです。ただし、9位の餅つきが初ランクインしていますが、中国では餅は蒸して成型し作るため、杵と臼を用いた餅つきは日本独自の文化と見なされているようですし、さらに最近の傾向として、いわゆるモノ消費ではないコト消費として、日本文化の体験が人気を集めており、10位以下にも民宿とかカプセルホテルに泊まりたい、あるいは、利き酒をしたい、日本料理を作りたいなどが上げられている、と指摘しています。

いわゆるビッグデータの分析の一種と見えなくもないんですが、この週末から始まる春節における訪日中国人観光客の動向をどこまで捉えられているのか、とても興味深いものがありました。

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2017年1月22日 (日)

日本気象協会による「2017年春の花粉飛散予測」やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、先週火曜日の1月17日に日本気象協会から、今シーズン第3回目の「2017年春の花粉飛散予測」が明らかにされています。下の画像は日本気象協会のサイトから2017年スギ花粉前線を引用しています。

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時期的には、この先1月下旬から2月にかけて、全国的にほぼ平年並みの気温になる見込みで、そのため、2017年春のスギ花粉の飛散開始は全国的に例年並み、つまり2月上旬には九州北部・中国・四国・東海地方の一部から花粉シーズンが始まり、関東甲信地方では2月中旬には花粉シーズンへ突入する見込みだそうです。飛散量としては、九州・四国・近畿・東海地方では高温・多照などの花芽が多く形成される気象条件がそろったため、多くの地域で花粉の飛散数は例年を上回り、前シーズンよりも非常に多い予想で、北陸・中国地方では前シーズンより多く、例年並みの飛散数でしょう。一方、東北・関東甲信地方では気温は高めだったものの曇りや雨の日も多かったため、飛散数は前シーズンより少なめで、例年と比べてもやや少なくなりそうな見込みです。私のような花粉アレルギー持ちにとって、まずまず、過ごしやすいシーズンにならんことを願っています。

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2017年1月21日 (土)

今週の読書は経済書や専門書に小説と新書も加えて計7冊!

今週の読書は以下の通り、経済書や専門書に小説と新書も加えて計7冊です。ただし、今週号の経済週刊誌のいくつかで書評が取り上げられた『大統領を操るバンカーたち』上下巻のうちの上巻を読み終えたんですが、タイムリミットで現時点ではまだ下巻が読めていません。さすがに、上巻だけの読書感想文は奇怪な気がしますので、上下巻セットで来週に回します。先週の8冊からはビミョーにペースダウンしたんですが、新書が3冊あって少し冊数としては多い気がしますが、心理的なボリュームとしては私はペースダウンしたつもりになっています。ただし、来週はドッと予約が回って来てしまいましたので、今日は自転車で取りに行くのがタイヘンそうな気がします。せっかく今週ペースダウンしたにもかかわらず、来週は大きくペースアップすること確実です。

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まず、小川光[編]『グローバル化とショック波及の経済学』(有斐閣) です。タイトル通りに、ショックの波及に関する定量分析を主たるテーマとしています。第1部は長期時系列データに基づく地域の対応分析であり、第2部では個別ショックへの対応分析を行っています。まず、第1部で、地域経済や市町村レベルでのショックに対する対応として、グローバルショックでは共通因子モデルの構造が変化したかどうかを実証し、最近時点に近くなるほど内需主導から外需依存を強め、その分だけショックの影響が大きくなっている点を示唆しています。財政ショックに対する自治体行動については私は少し異論があり、本書では投資的支出でショックへの調整を図っている点をサポートしていますが、逆から見れば、景気循環の振幅を大きくさせるような調整であり、私は支持できません。自治体財政のショック対応の国際比較は、制度面での違いを無視しており、どこまで評価できるか疑問です。ここまではいいんですが、第2部では自治体の予防接種政策は横並びかフリーライダーかを空間的自己回帰モデルで検証しており、モデルの選択が疑問です。ただ、リーマン・ショック後の金融円滑化施策については、都市と地方の効果の差はこんなもんだという気がします。また、自然災害ショックへの備えについて、銀行などの外部資金調達がより難しいと考えられる規模の小さな企業で保険の活用が進んでいないのは、そもそも、保険料支払いの資金アベイラビリティを無視した議論のように見受けられ、保険会社の提灯持ちであればともかく、これも疑問なしとしません。最後の南海トラフ地震への備えについては、徳島県阿南市の調査をもとに地震災害の要因などから家賃を推計しようと試みていますが、海岸性からの距離が津波災害への耐性を持っていて家賃に有意に効いているほかは、ほとんで意味のない回帰分析のように私には見えます。せっかく借りて読んだんですが、特に第2部はどこまで役に立つ分析なのか疑問だらけです。

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次に、ジョナサン・ウルフ『「正しい政策」がないならどうすべきか』(勁草書房) です。著者は長らくユニバーシティ・カレッジ・ロンドン哲学部教授を務め、現在はオックスフォード大学に移っている政治哲学を専門とする研究者であり、英語の原書は原題 Ethics and Public Policy として2011年に出版されています。ということで、数年前に米国のサンデル教授が正義論で脚光を浴びましたが、その流れで英国の哲学研究者が正義に関して論じた本書では、動物実験、ギャンブル、ドラッグ、安全性、犯罪と刑罰、健康、障碍、自由市場について論じ、最終第9章で結論を引き出しています。でも、ハッキリ言って、日本語タイトルは不可解です。エコノミストの目から見れば政策選択の理論を論じているように見え、哲学を論じた本書とのかい離が大きく誤解を与えかねないと危惧しています。動物実験だけを取り上げて、家畜を屠殺して食用に供する点はスルーしているのも奇妙な気がしますが、エコノミストの観点からは第2章のギャンブルと第3章のドラッグを興味深く読みました。特に、昨年はいわゆるカジノ法案と呼ばれたIR法案が国会で審議されましたし、ギャンブルとフドラッグについてはそれなりに経済学の視点も重要と考えます。しかし、まず考慮すべきは、市場経済というのは完全情報というあり得ないような強い前提でその効率性を成り立たせているわけで、ハイエクですら認めるように、完全な情報が利用可能であれば市場経済でも社会主義的な指令経済でも、あるいは他の資源配分システムでも、おそらく、効率的な資源配分が可能になることは間違いなく、論ずるに値しません。ですから、私がギャンブルについて感じているのは、はなはだ非合理的である、という1点です。確率的に損するに決まっているのにギャンブルするのは、まあ、社交場のお付き合いがあるからです。加えて、我が国のパチンコについては北朝鮮の核開発などへの資金を提供している可能性も考慮して、私は手を出していません。それから、ドラッグについては私は解禁するのも一案かと考えています。というのは、現在のように厳しい禁止下に置いて猛烈なプレミアムで価格が跳ね上げるんではなく、かつての専売制の下にあったタバコなどと同じように政府ないし公的機関の専売とし価格を引き下げた上で、ドラッグの使用者を把握して治療に差し向けるためです。ギャンブルも一定の中毒性を有しますが、ドラッグは完全に中毒を引き起こし医療機関による治療が必要です。それから、ギャンブルもドラッグも禁止している制度下では、どうしても非合法団体、特に日本の場合は暴力団の暗躍を招く原因となります。そのあたりを総合的に勘案した政策がセカンド・ベストとして採用されるような気がします。

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次に、エリック・ワイナー『世界しあわせ紀行』(ハヤカワ文庫NF) です。2012年出版の単行本が昨年2016年年央に文庫化されています。著者はジャーナリストで、ニューヨーク・タイムズをクビになり、全米公共ラジオ(NPR)などで世界のいくつかの国の海外駐在員を務めた経験があります。英語の原題は The Geography of Bliss であり、2008年に出版され、邦訳の単行本は2012年に刊行されています。昨年文庫本化されたものを取り上げています。ということで、タイトル通りに、幸福について考えるために世界中を旅行した紀行文です。訪問して本書に収録されているのは、最終章の著者の本国である米国を別にして、第1章のオランダから第9章のインドまで9か国です。オランダは世界降伏データベースを構築している学者を訪問し、その後、幸福度が高そうな欧州のスイスとアジアのブータンを訪れ、さらに、アイスランドをはさんで、金銭的に豊かなカタールとそうでないモルドヴァを比較し、アジアに戻ってタイ、そして、英国では幸福度の高くないスラウという街で6人の幸福学研究者が心理的傾向を変更させることを目指したBBCの実験を取材しています。ブータンは先年国王夫妻が来日した折にも話題になりましたが、国民総幸福量(GNH)なる指標で有名ですし、インドでは宗教的な短期セミナーを体験しつつ彼の国の幸福感は著者も謎であると認めていたりします。でも、最終的に、著者はタイ的な「マイペンライ(気にしない)」が幸福への近道ではなかろうかと示唆しているように私には読めました。ただ、幸福を個人的な状態と考えるだけでなく、英国におけるBBCの実験もそうで、功利主義的に幸福が可算かつ加算・減算できるものとして、政策目標とするのは不適当な気もしますが、何らかの方法によって世界全体の幸福度を高めることが望ましい、との著者の考えの方向は示唆されているような気がします。ただし、それを直接的にやってしまえばセロトニンを分泌する薬物を配布するのも一案となってしまい、本書でも、幸福感を感じるために食事も忘れて脳の一定の部分に電気を通じさせるスイッチを押し続けるマウスの事例が何度か批判的に引かれているのも事実です。このあたりの含意はビミョーなところがありますので、読み進むにはある程度の批判的な精神が必要かもしれません。

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次に、ウンベルト・エーコ『ヌメロ・ゼロ』(河出書房新社) です。昨年亡くなったエーコ教授の小説としての遺作に当たります。ただし、まだ邦訳されていない小説があり、La misteriosa fiamma della regina Loana 『女王ロアーナ、神秘の炎』は岩波書店から刊行予定らしいです。ということで、『薔薇の名前』で始まった小説のシリーズも、私はすべてこの著者の小説は邦訳されている限り読んだと思いますが、これで絶筆であり、遅い刊行の『バウドリーノ』や『プラハの墓地』ではよりエンタテインメント色をとよめ、本作ではさらにその傾向を強め、多くの読者が楽しめる小説になっているように私は受け止めています。舞台は1992年のミラノであり、主人公のコロンナは編集者として雇われ、「ドマーニ」と題する新しい日刊紙の発刊に向け、準備作業に入ります。出資者はコンメンダトールなるイタリアの勲位を持ち、業界では名を知られた人物であり、真実を暴く新聞を作るというのが表向きの理由となっているものの、じつは、触れられたくない裏話を取り上げるという脅しで、自社株を安く回してくれたり、名士仲間に入れてくれたり、といった日本の総会屋の雑誌や新聞に近い出版物であり、イタリア的には、というか、日本的にもそうで、ホントに出版される前に発刊取りやめになることが予想されるシロモノでだったりします。このため、コロンナの雇主は発刊準備から発刊中止に至るまでを小説に書いて売り出すことを思いつきます。すなわち、前評判をあおっておけば、いざ中止となった時の保険になると考え、ゴーストライターのコロンナを雇うわけです。他に6人ほどの記者を雇い、彼らには本当のことは伏せて、創刊準備号「ヌメロ・ゼロ」の編集会議を開きます。創刊準備号とはいっても、枝番まであって0-1号から0-12号までが計画されていたりします。そして、編集会議の内容をそのまま本にしようというわけです。ジャーナリズムを舞台に、その内幕を暴くのが著者の狙いなんでしょうし、小説のラストは、いかにもウラ情報を取るためにウラ社会との接点を持った記者の末路をあぶりだした形になるんですが、他方、労働騎士勲章を叙勲し、支持者にはイル・カヴァリエーレと呼ばれ、テレビと新聞の違いがありながら、ベルルスコーニ元首相を髣髴とさせる登場人物=出資者もあります。読ませどころは記事の作り方を話し合う日々の編集会議であり、著者自身の饒舌が乗り移ったかのように抱腹絶倒の怒涛の展開となり、記者達がトンデモな話をぶち上げたりします。いろいろと与太話が続く中で、特に私が印象に残ったのはムソリーニの最期に関するものですが、ほかにも風俗的というか、イタリア的な面白さがいっぱいです。このあたりは、『バウドリーノ』のホラ話に通ずるもの、というか、その現代版という気もします。

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次に、河村小百合『中央銀行は持ちこたえられるか』(集英社新書) です。著者は日銀出身の日本総研エコノミストであり、本書はいわゆる現在の黒い日銀の前の白い日銀のころの旧来に日銀理論を幅広く展開しています。日本総研がそもそも翁夫人の活動拠点ですから、そうなっているのかもしれません。私も気を付けているんですが、ものすごく「上から目線」で書かれた新書です。本書のタイトルとなっている「中央銀行は持ちこたえられるか」と同じタイトルを取っているのが第5章なのですが、基本的に、大規模な量的緩和による国債などの資産購入にともなう日銀の財務について「持ちこたえられるか」同化を懸念しているように読めます。ほかは、一貫して財政再建を訴えているわけで、判らないでもありません。というのも、財政は強制力を持って税を徴収したり、逆に公共事業を実施したり社会保障などで財政リソースをばらまいたり出来るんですが、金融については特に銀行が合理的な経済行動を取ってくれないと政策効果が発揮できません。ですから、市場メカニズムが正常に機能するよう、規制緩和や財政再建を力説するセントラル・バンカーが少なくないのは私も理解できます。でも、本書の最大の欠陥は、リフレ派の理論に基づいた現在の異次元緩和が日銀のインフレ目標の達成はおろか、ほとんど物価の上昇に寄与していない点につき、何らの分析や解釈を加えられていない点です。単なるお題目、というか、安倍総理ならば「レッテル貼り」と表現するかもしれませんが、単に日銀が債務超過になるかどうか、財政赤字が積み上がっているという事実関係のみを述べているに過ぎません。日銀財務が悪化して日銀職員のお給料にしわ寄せが行くのを懸念しているとも思えませんが、ちなみに、震災後に我々公務員のお給料は震災復興経費捻出のためにカットされたりした経験があります。それにしても、財政再建が出来ない政府が悪い、それを真っ当に伝えないメディアも悪い、正しいのは著者をはじめとする旧来の日銀理論の信奉者だけ、という、ものすごく視野狭く「上から目線」の新書です。著者あとがきなどを見ると、数十人を相手にした講演会の議事録を起こして書籍化したような印象を受けるんですが、興奮してやり過ぎたのかもしれません。もっとも、こういった新書が出ると「闘うリフレ派」のエコノミストも立ち向かう人が出るようなも気もします。でも、それは泥仕合になりかねないリスクをはらんでいそうな雰囲気を感じないでもありません。

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次に、水島治郎『ポピュリズムとは何か』(中公新書) です。著者は千葉大学の政治学の研究者です。昨年最大の話題のひとつであった米国大統領選におけるトランプ大統領の当選などの先進各国におけるポピュリズムの台頭について解説してくれています。私は1991-94年の3年余り南米はチリの首都であるサンティアゴに経済アタッシェとして大使館勤務を経験し、隣国アルゼンティンのポピュリズムなどもお話には聞いてきましたが、最近では欧州や米国でもポピュリズムの台頭が見られ、我が国でも大阪維新の会などがポピュリズム政党と見なされており、エコノミストの専門外ながら、とても参考になりました。本書でも定義されているように、ポピュリズムとは既存の政治家や官僚・企業経営者をはじめとするエリート層に対するアンチテーゼとして位置付けられ、幅広く国民の中から包摂されていないと感じられる階層の支持を受け、例えば、先進国でいえば、まさに米国のトランプ大統領の目指す政策、製造業のブルーカラーとして働く白人中年男性の利益を全面に打ち出すような政策を志向していると理解されています。ただし、日本ではほとんど実感ないんですが、そのために反移民政策、特に反イスラム政策を推進しかねない方向を志向しているようにも見えます。その理由がふるっていて、イスラム教は男女平等ではなく、反民主主義であるという民主主義やリベラルを標榜するポピュリズムが最近の傾向であると本書は指摘しています。かつてのナチスは授権法により民主主義を否定しましたが、その逆を行くと見せかけて反イスラムの方向を志向するもののようです。また、私はまったく専門外ですので、アウゼンティンのペロン党やフランスの人民戦線やその党首であるルペン女史くらいしか知らず、ほかは何の知識もなかったんですが、大陸ヨーロッパにおけるオーストリアの自由党やベルギーVBなどのポピュリスト政党の動向、あるいは、スイスの直接民主主義に基づく国民投票でいかにポピュリズム的な結果が示されるか、などの、まあ読み物も興味深く読めました。私がこのブログで何度か指摘した通り、良し悪しは別にして、間接民主制は、ある意味で、増税などの国民に不人気な政策を決定・実施する上で、別の視点に立って民意を「歪める」働きが求められる場合があるのも確かです。その昔には、 田原総一朗『頭のない鯨』(1997年)では、国民の不人気政策は「大蔵省が言っているから」というわけの判らない理由で、大蔵省が前面に立って悪役を務めることで政治家も言い訳して来た、と主張していたように記憶しています。我が国でもそういった「悪役」を務めて不人気政策を遂行することが出来なくなったわけで、その意味で、具体的かつ個別のポピュリスト政党を論じなくても、ポピュリズム的な政策形成への流れというものは出来ているような気がしますし、何らかのきっかけで政党として支持を集める素地もあるように感じます。最後に、先進国の中南米のポピュリズムの違いを論じて、伝統的な中南米のポピュリズムではエリート層への配分を中間層へ差し向けることを要求したのに対して、先進国でのポピュリズムは移民、特にイスラム系移民に向けられる分配リソースを中間層へ戻すべし、と主張する点にある、との指摘は新鮮でした。さらに、時代背景もあるんでしょうが、中年米のポピュリズムはバルコニーから集まった聴衆に対して演説するコミュニケーションである一方で、先進国はテレビやネットを活用する、というのも判る気がします。ポピュリストかどうかはビミョーなところですが、在チリ大使館に勤務していた折に、キューバの故カストロ議長が若かりしころの演説をビデオで見たことがあり、私はスペイン語は経済関係しか詳しくなかったものの、とても感激した記憶があります。「君だ!」といって聴衆の一角を指さすんですが、かなり角度的にムリがあったにもかかわらず、私自身が指差された気がしました。雄弁が求められる国民性だったのかもしれません。長々と書き連ねましたが、今週3冊読んだ新書の中では、私から見て一番の出来だった気がします。

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最後に、青木理『日本会議の正体』(平凡社新書) です。少し遅れて図書館の予約が回ってきましたが、日本会議に関する新書です。著者は共同通信のジャーナリストであり、本書のあとがきにも明記されている通り、日本会議に対しては批判的なまなざしを送っています。その上で、類書と同じような内容であり、発足当時の生長の家の強い影響や新党や仏教などの宗教との強い結びつき、憲法改正やその前段階としての教育基本法の改正に対する志向、夫婦別姓への反対などの伝統的な家族観などなどが明らかにされていますが、その意味ではありきたりな内容で、本書の大きな特徴は然るべき人物に対するインタビューをかなりナマな形で収録している点ではなかろうかという気がします。防衛大臣の稲田代議士まで登場します。私の考えは何度かこのブログでも明らかにしたつもりですが、私自身は進歩的かつリベラルな考えを有しており、進歩の反対が歴史を現時点で押しとどめようとする保守であり、もっと強烈なのが歴史を逆戻りさせようとする反動ないし復古というように捉えています。その意味で、日本会議は私の基本的な価値観の逆に当たっていると認識しています。ただし、それは歴史観と宗教観が大いに関係すると考えるべきです。すなわち、中国ほどではないにしても、日本でも円環的な歴史観を有している人は少なくなく、私のように直線的といわないまでも歴史の進歩が一方的かつ不可逆的と考える人は少ないかもしれません。一例としては、宗教的な輪廻転生が上げられます。私は浄土真宗の信者として、一方的というか、不可逆的な輪廻転生からの解脱と極楽浄土への生まれ変わりを信じていますが、来世の輪廻的な生まれ変わりを信じている人はいなさそうで、まだまだいる気がします。歴史の歯車を元に戻そうとすることは、私には無意味で不可解な努力だと見えるんですが、そういった努力をしている筆頭が日本会議だという気もします。私の理解を超えている組織・団体です。

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2017年1月20日 (金)

トランプ効果でエコノミスト誌のビッグマック指数はどう動いたか?

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最新号のエコノミスト誌で為替の購買力平価の一種であるビッグマック指数が明らかにされています。エコノミスト誌のサイトから引用した画像は上の通り、昨年来のトランプ次期米国大統領への政策期待から生じているドル高を反映しているようです。下のフラッシュもエコノミスト誌のサイトに直リンしていたりします。

諸般の事情により、これだけです。週末前の軽い経済の話題でした。

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2017年1月19日 (木)

Oxfamによる格差に関する2017年版報告書「99%のための経済」やいかに?

やや旧聞に属する話題ですが、今週月曜日の1月16日に、世界経済フォーラムのダボス会議に先がけて、Oxfamから格差問題に関する最新の報告書「99%のための経済」An Economy for the 99% が明らかにされています。もちろん、pdfのリポートもアップされています。いくつかのメディアでは、Oxfamのプレスリリース「たった8人のトップ富裕者が世界の下位半分36億人と同じ資産を保有している」Just 8 men own same wealth as half the world をキャリーしているのを私も見かけました。まず、リポートの表紙から概要を引用すると以下の通りです。

An Economy for the 99%
New estimates show that just eight men own the same wealth as the poorest half of the world. As growth benefits the richest, the rest of society - especially the poorest - suffers. The very design of our economies and the principles of our economics have taken us to this extreme, unsustainable and unjust point. Our economy must stop excessively rewarding those at the top and start working for all people. Accountable and visionary governments, businesses that work in the interests of workers and producers, a valued environment, women's rights and a strong system of fair taxation, are central to this more human economy.

このパラグラフを見て、格差是正のために雇用の確保、環境の保護、女性の権利の尊重、公平な税制などのいくつかの主張も理解できるんですが、私の興味の範囲ながら、リポートからいくつか図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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上のテーブルは、リポート p.11 にある Box 1: Oxfam's wealth inequality calculations から Table 1: Share of wealth across the poorest 50% of the global population を引用しています。このブログの昨年2016年11月28日付けのエントリーで取り上げたところですが、クレディ・スイス証券から明らかにされている世界の富裕層の資産保有に関するリポート The Global Wealth Report 2016 などから試算を行っており、2014年1月時点ではトップ富裕者85人が世界の下位半分と同じ額の資産を保有しているとしていたところ、2015年10月時点では世界の富裕層1%とそうでない99%の資産額がほぼ等しいとの試算結果を得て、その時点では下位半分の資産が占める割合は0.7%だったものが、2016年データではさらに格差が広がり、世界の下位半分の資産はわずかに0.2%にしかならず、世界の富裕者上位8人とほぼ同額となったとの試算結果を明らかにしています。

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次に、上のグラフは、リポート p.16 から Figure 2: Apple minimizes material and labour costs to maximize its profits (Apple iPhone 2010) を引用しています。最新ではないんですが、2010年の iPhone 4 のコスト構造について、"Capturing Value in Global Networks: Apple's iPad and iPhone" と題する米国の研究者の学術論文から引用・再構成しています。労働者に支払われるのはわずがに5%余りに過ぎない一方で、Appleの利益は60%近くに達しています。賃金が上がらない反面、企業が内部留保を溜め込んで、配当や株価に反映して株主の利益となったり、ストック・オプションで経営者の懐を潤わしたりしているのが読み取れるデータです。日本企業も少なからず、同じような企業行動を取っていると私は考えています。

ここ数年で日本のみならず世界経済における格差や不平等は急速に拡大を見せています。Oxfamに指摘されるまでもなく、政府が取り組むべき優先順位の高い経済課題といえます。

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2017年1月18日 (水)

ダボス会議が始まり、世界経済フォーラム Grobal Risks Report 2017 やいかに?

遅ればせながら、なんですが、世界経済フォーラムの主宰するダボス会議が昨日1月17日から始まっており、その前段階で1月11日に Grobal Risks Report 2017 が明らかにされています。景気回復のペースが歴史的に鈍化していることを指摘しつつ、いくつかのリスクについて分析います。図表を引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、Grobal Risks Report 2017 からヘッドラインともいうべき The Global Risks Landscape 2017 のグラフを引用すると上の通りです。例年と同じように、横軸が発生の蓋然性、縦軸がダメージですから、右上に位置するほぼ一般的に「危ない」ということになり、左下はそれほどでもない、というように解釈できようかと思います。ですから、異常気象や自然災害が発生の蓋然性が高く、しかもインパクト大きいリスクとして認識されています。マーカが緑色なのは環境問題のカテゴリです。ほかに、社会問題のカテゴリを表す赤いマーカの難民問題、地政学のカテゴリのオレンジ色のマーカのテロリストの攻撃、技術問題のカテゴリを示す紫色のマーカのサイバー攻撃などが目立っています。他方、経済問題のカテゴリである青いマーカでは雇用問題や金融危機などが見受けられますが、先ほどのいくつかのリスクに比べてやや後景に退いているような印象です。

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次に、というか、最後に、同じく Grobal Risks Report 2017 p.44 から Figure 3.1.1: Perceived Benefits and Negative Consequences of 12 Emerging Technologies を引用すると上の通りです。技術進歩の光と影、と言いましょうか、横軸が利益、縦軸が否定的な結果をもたらす確率となっており、このグラフで言えば、右下に位置するほど利益が大きく否定的な影響が少ない、ということになり、逆は左上に位置すれば利益が少ない割にはリスクが大きく、また、右上に位置すれば「諸刃の剣」的に利益も大きいがリスクも大きく、まあ、少し言葉は違うかもしれませんが、ハイリスク・ハイリターン型の技術と考えてよさそうです。そして、最初のカテゴリ、すなわち、利益が大きくリスクが小さい典型はエネルギの採掘・保存・輸送となっています。シェール革命などが念頭にあるのかもしれません。そして、左上の利益が少ない割には危ない技術の典型がジオエンジニアリング、地球工学と称されることもありますが、私は専門外ながら、降雨をもたらしたりする技術ではないかと思います。よく知りません。そして、「諸刃の剣」型の危ないが利益も大きそうな技術の典型が人工知能(AI)とロボットであろうと示唆されています。まあ、そうなんでしょうね。うまく使えれば大きな利益が見込める一方で、雇用が奪われるだけでなく、もっと、何と言うか、現時点では予想もつかないタイプの不都合が生ずる可能性もあります。

ダボス会議は1月20日までの予定だそうです。

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2017年1月17日 (火)

国際通貨基金(IMF)による「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update やいかに?

昨日1月16日、国際通貨基金(IMF)から「世界経済見通し改定」World Economic Outlook Update が公表されています。ヘッドラインとなる世界の経済成長率見通しは、前回の昨年2016年10月時点から変更なく今年2017年+3.4%、来年2018年+3.6%と見込まれています。そのうちの日本経済の成長率は、2017年は前回から+0.2%ポイント上方改定され+0.8%と、来年2018年は+0.5%と見通されています。まず、IMFのリポートから最初のページのポイントを4点引用すると以下の通りです。

A Shifting Global Economic Landscape
  • After a lackluster outturn in 2016, economic activity is projected to pick up pace in 2017 and 2018, especially in emerging market and developing economies. However, there is a wide dispersion of possible outcomes around the projections, given uncertainty surrounding the policy stance of the incoming U.S. administration and its global ramifications. The assumptions underpinning the forecast should be more specific by the time of the April 2017 World Economic Outlook, as more clarity emerges on U.S. policies and their implications for the global economy.
  • With these caveats, aggregate growth estimates and projections for 2016-18 remain unchanged relative to the October 2016 World Economic Outlook. The outlook for advanced economies has improved for 2017-18, reflecting somewhat stronger activity in the second half of 2016 as well as a projected fiscal stimulus in the United States. Growth prospects have marginally worsened for emerging market and developing economies, where financial conditions have generally tightened. Near-term growth prospects were revised up for China, due to expected policy stimulus, but were revised down for a number of other large economies-most notably India, Brazil, and Mexico.
  • This forecast is based on the assumption of a changing policy mix under a new administration in the United States and its global spillovers. Staff now project some near-term fiscal stimulus and a less gradual normalization of monetary policy. This projection is consistent with the steepening U.S. yield curve, the rise in equity prices, and the sizable appreciation of the U.S. dollar since the November 8 election. This WEO forecast also incorporates a firming of oil prices following the agreement among OPEC members and several other major producers to limit supply.
  • While the balance of risks is viewed as being to the downside, there are also upside risks to near-term growth. Specifically, global activity could accelerate more strongly if policy stimulus turns out to be larger than currently projected in the United States or China. Notable negative risks to activity include a possible shift toward inward-looking policy platforms and protectionism, a sharper than expected tightening in global financial conditions that could interact with balance sheet weaknesses in parts of the euro area and in some emerging market economies, increased geopolitical tensions, and a more severe slowdown in China.

1ページ丸ごと引用しましたので、とても長くなりましたが、次に、IMFのブログから成長率見通しの総括表を引用すると以下の通りです。やや愛想なしですので、いつもの通り、画像をクリックするとpdfのリポートのうちの最後の7ページ目の Table 1. Overview of the World Economic Outlook Projections のページだけを抜き出したpdfファイルが別タブで開くようになっています。

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ということで、新興国や途上国を含めて、世界経済は2016年の成長率3.1%に比較して2017年は3.4%、さらに2018年には3.6%と成長率が年を追って緩やかに加速すると見込まれています。特に、米国では景気刺激策の採用により成長率が加速し、米国からの波及効果も見込めるんですが、現時点ではトランプ次期米国政権の政策動向がまだ不確定なので、詳細は4月の次回見通しで示す予定と表明されています。ただ、米国新政権の政策動向を勘案して、ラテンアメリカのメキシコとブラジルでは成長率は昨年10月時点の見通しから下方修正されており、特に、自動車産業の工場移転の取り止めなどからメキシコ経済への下押し圧力が強まっていることを織り込んでいます。我が国については、2008SNAの導入と国民経済計算の基準改定によって過去の成長率が上振れしたことや足元の経済の動向が好調であることなどから、今年2017年の成長率をわずかながら上方改定しています。
先行きリスクとしては、全体として下方リスクの方が大きいものの、米中の景気刺激策に伴う上方リスクも考えられるとしつつ、その下方リスクは、何といっても、米国新政権の内向き政策や保護主義の高まりなどが上げられており、米国の金利上昇が世界経済、特に、ユーロ圏と新興国の金融市場にバランスシートの脆弱性をもたらす可能性があると懸念を明らかにしており、中国の景気減速の深まりもリスクとして上げられています。従って、経済政策としては、引き続き、緩和的な金融政策とともに、財政余力ある場合は財政政策による弱者保護と中長期的な成長期待引上げのための支援が上げられると指摘しています。もちろん、貿易の保護仕儀に対する懸念もにじませています。

次に、目を国内経済に転じると、同じ1月16日に日銀から「地域経済報告」、いわゆる「さくらリポート」が明らかにされています。地域ごとの景気判断を見ると、全国9ブロックのうち、東北、関東甲信越、東海の3ブロックで引き上げられ、残る6ブロックは据え置かれています。以下のテーブルの通りです。

 2016年10月判断前回との比較2017年1月判断
北海道緩やかに回復している緩やかに回復している
東北生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、基調としては緩やかな回復を続けている緩やかな回復を続けている
北陸一部に鈍さがみられるものの、回復を続けている回復を続けている
関東甲信越輸出・生産面に新興国経済の減速に伴う影響などがみられるものの、緩やかな回復を続けている緩やかな回復を続けている
東海幾分ペースを鈍化させつつも緩やかに拡大している緩やかに拡大している
近畿緩やかに回復している緩やかに回復している
中国緩やかに回復している緩やかに回復している
四国緩やかな回復を続けている緩やかな回復を続けている
九州・沖縄熊本地震の影響が和らぐもとで、緩やかに回復している緩やかに回復している

地域ごとに景気判断が全体としてやや上向きに修正されていますから、景気拡大が地方にも広がっていることが実感されます。なお、前回の2016年10月リポートではトピックとしてインバウンド観光が取り上げられていましたが、今回のリポートでは住宅投資の動向と関連企業等の対応状況に焦点が当てられています。それから、どうでもいいことながら、政府で毎月出している「月例経済報告」というのがあり、いわゆる「月例文学」と称されるビミョーな言い回しが見られるんですが、日銀が出すリポートもご同様な気がします。景気回復に付される「緩やか」という形容詞ないし副詞は判らないでもないんですが、私も「緩やかに回復している」と「緩やかな回復を続けている」の違いは理解不能です。

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2017年1月16日 (月)

大きく減少した機械受注とマイナス幅が着実に縮小する企業物価(PPI)!

本日、内閣府から11月の機械受注が、また、日銀から12月の企業物価 (PPI)が、それぞれ公表されています。機械受注は変動の激しい船舶と電力を除くコア機械受注の季節調整済みの系列で見て、前月比▲5.1%減の8337億円を記録し、企業物価はヘッドラインの国内物価上昇率は前年同月比で▲1.2%の下落を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

機械受注、11月5.1%減 非製造業が落ち込む
内閣府が16日発表した11月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月比5.1%減の8337億円だった。2カ月ぶりに減った。QUICKが事前にまとめた民間予測の中央値(2.0%減)を下回った。先月に大きく伸びた非製造業が落ち込んだ。製造業は増加したものの補えなかった。
機械受注の基調判断は、過去3カ月の動向を踏まえ「持ち直しの動きに足踏みがみられる」に据え置いた。
製造業からの受注額は9.8%増の3635億円と4カ月ぶりに増加した。半導体製造装置や電子計算機が伸びた電気機械が68.0%増えた。原子力原動機などが好調だった非鉄金属は4.4倍になった。
非製造業からの受注額は9.4%減の4834億円と2カ月ぶりに減った。その他非製造業は前月の反動減が出て16.1%減少。鉄道車両や通信機が落ち込んだ運輸業・郵便業も12.5%減と振るわなかった。
前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は前年同月比10.4%増だった。内閣府は10-12月期見通しを前期比5.9%減としている。10-11月の実績を踏まえると、12月実績が前月比11.0%減で達成できる。内閣府は「四半期見通しを上回りそう」との見方を示した。
12月の企業物価指数 前年比1.2%下落 下落幅は7カ月連続縮小
日銀が16日に発表した2016年12月の国内企業物価指数(2010年平均=100、速報値)は99.7で、前年同月比で1.2%下落した。前年同月比の下落は21カ月連続だが、下げ幅は7カ月連続で縮小した。円安進行や原油など国際商品価格の上昇で、企業物価には下げ止まり感が強まっている。
前月比では0.6%上昇した。石油輸出国機構(OPEC)の減産合意による原油需給の引き締まり観測や米国と中国の財政拡大期待を背景に、原油や銅地金などの非鉄金属の国際相場が上昇したことが影響した。
円ベースの輸出物価は前年同月比で1.8%下落、前月比で5.3%上昇した。輸入物価は前年同月比で2.8%下落、前月比で4.9%上昇した。
企業物価指数は企業同士で売買するモノの価格動向を示す。公表している814品目のうち前年同月比で下落したのは478品目、上昇は250品目だった。下落と上昇の品目差は228品目で、11月の確報値(264品目)から縮小した。
日銀調査統計局は「トランプ次期政権の財政政策や中国の環境規制の行方に不透明感が強く、国際商品市況や為替相場の先行きが商品価格に与える影響を慎重に見極めないといけない」としている。
同時に発表した16年平均の国内企業物価指数(2010年平均=100、速報値)は99.2で前年比は3.4%下落した。中国などの新興国の経済減速を背景にした国際商品価格の低迷が響いた。市場予想よりも米国の利上げペースが鈍化し、為替相場が円高・ドル安基調だったことも輸入品の価格下落を通じた企業物価の押し下げ要因となった。16年の平均円相場は1ドル=108.84円と15年比で12円21銭の円高・ドル安だった。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は、その次の企業物価とも共通して、景気後退期を示しています。

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機械受注については、引用した記事にもある通り、コア機械受注が日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスの前月比▲2%減よりさらに減少幅が大きく出ています。もともと、10月統計で+4.1%とジャンプした反動が表れることは容易に想像されていたんですが、円安や株高が現れる前のトランプ次期米国大統領当選の初期ショック、すなわち、貿易制限的な政策に対する反応なのかもしれない、と考えてみたところ、どうも違う気がします。というのは、製造業で伸びて非製造業で減少を示しているからです。ですから、11月統計の機械受注は外的ショックとは大きな関係なく、自律的な動向を示している可能性も十分ありますし、私はそう見ています。結果として、10月に増加し11月に減少したわけで、もともと変動の激しい統計ですから、上のグラフのように移動平均で見るようにすべきであり、そのグラフではまだ太線の移動平均ラインは増勢を保っているように見えます。ただし、コア機械受注の外数ながら、外需と官公需は大きな増加を示しています。為替動向と経済政策動向に基づく増加であり、外需はコア機械受注の先行指標と見なされていることからも、機械受注の先行きを占う上で、決して悲観視する必要はないものと受け止めています。すなわち、11月統計については、減少幅を見れば悲観的な見方も出る可能性はありますが、それ相応に底堅い動きであると私は見ています。ですから、基本的なラインとしては、横ばいに近いながらも機械受注は増勢を保持する可能性が高いと考えています。

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次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは上の通りです。上のパネから順に、国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。上の2つのパネルで影をつけた部分は、景気後退期を示しています。ということで、企業物価(PPI)上昇率はここ数か月でかなりマイナス幅を縮小させています。すなわち、ヘッドラインの国内物価の前年同月比上昇率で見て、2016年5月が直近のボトムで▲4.4%の下落を示した後、7月までは▲4%台だったんですが、8-9月は▲3%台に下落幅を縮小させ、10-11月は▲2%台、そして、12月はとうとう▲1.2%を記録して、11月統計から一気に1%ポイントも下落幅を縮小させました。国際商品市況の石油価格と為替動向が大きな要因であり、ここ数か月で画期的に需給バランスが改善したと考えるエコノミストは少ない気がしますが、デフレ脱却に向けた動きは着実に進んでいると私は受け止めています。従って、企業物価(PPI)でも、消費者物価(CPI)でも、今年中にはマイナスを脱却する可能性が高いと私は予想しているんですが、日銀のインフレ目標である2%に達するためには、単に国際商品市況とか為替だけでなく、需給ギャップの改善も併せて、景気回復の動きを強める必要がありそうな気がします。

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2017年1月15日 (日)

大学生協連合会「2016年度保護者に聞く新入生調査」概要報告やいかに?

先週1月10日に大学生協連合会から「2016年度保護者に聞く新入生調査」概要報告が明らかにされています。昨年2016年に入学した新入生(学部生)の保護者を対象に、2016年4-5月にかけて調査が実施されています。一般的によくいわれる通り、受験から入学までにかかった費用がかなり高額化しており、受験・入学費用に貯蓄を切り崩す家庭が増加する一方で、決して使い勝手がよくないと見られている奨学金や学資保険は敬遠する傾向にあるようです。ほかに、私から見て興味深かったグラフを2枚ほど引用したいと思います。

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上のグラフは大学生協連合会のサイトから 心配なこと・就職や将来 (専攻別) を引用しています。ただ、誤解のないように繰り返しになりますが、調査対象は新入生の保護者であって、新入生ご本人ではありませんので、念のため。就職や将来については、リーマン・ショック直後の2009-10年ころにピークに達した後、緩やかに低下を示して、世間一般の景気のよさを反映していたように感じているんですが、なぜか、2016年は再び上昇に転じています。何か特殊要因があるのか、それともたまたまなのか、よく判りません。ちなみに、我が家の上の倅が大学に入学したのは2015年で、下の倅は2歳違いです。ご参考まで。なお、専攻別では、文系がもっとも心配の度合いが高く、理系は文系よりやや低く、医歯薬系はほとんど心配がない、という結果が示されています。まあ、そうなんでしょう。

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上のグラフは大学生協連合会のサイトから 入学式同行者 を引用しています。2011年に一時的な落ち込みが見られるのは震災の影響だという気がします。それを別にすれば、ここ数年でトレンドとして同行の割合が増加しています。父親よりも母親の同行の比率が高いのは当然かもしれません。というのも、一昨年の我が家の上の倅の入学式でも、上のグラフの世間一般の傾向と同じで、我が家からは女房が同行し、私は行きませんでした。思い起こせば、40年ほど前の私の京都大学の入学式にも母親が来てくれましたが、父親は入試の合格発表は受験生の私よりも早く見に行ったくせに、入学式の日は仕事だったような気がします。

うまく行けば、今年の4月は下の倅の大学入学式があるかもしれません。その場合、女房が行きそうな気がしますが、私はパスかもしれません。

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2017年1月14日 (土)

今週の読書は経済書をはじめとして専門書・教養書など計8冊!

今週は経済書をはじめとして、専門書・教養書とミステリの短編を収録したアンソロジーや野球に関する新書まで、計8冊を読みました。まあ、先週の読書感想文は早めにアップして営業日が1日多いので、こんなもんかという気もします。来週からはかなり確度高くペースダウンする予定です。今週の読書8冊は以下の通りです。

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まず、宮尾龍蔵『非伝統的金融政策』(有斐閣) です。著者は東大教授の研究者であり、昨年まで5年間に渡って日銀審議委員を務めていました。本書では、白川総裁とともに日銀にあった3年間と黒田総裁の下での2年間に及ぶ非伝統的な金融政策手段を分析しています。なお、どうでもいいことかもしれませんが、タイトルにより誤解を生じるといけないので、あくまで念のためにお断りしておくと、非伝統的なのは金融政策ではなく、金融政策の手段にかかる形容詞であり、金融政策で非伝統的な政策目標を目指すわけではなく、非伝統的な政策手段により伝統的な政策目標を目指すわけですので、大丈夫とは思いますが、念のために確認しておきます。ということで、まず、非伝統的な金融政策の政策手段として、著者が直接的に挙げているのとは別に私なりの解釈で分類すると、時間軸政策とも呼ばれるフォーワードガイダンス、これには金利と資産購入の2つのフォーワードガイダンスが含まれており、加えて、非伝統的な資産、すなわち、短期国債以外の長期国債とか株式とかの買い入れとバランスシート全体の拡大、そして、昨年から始まったマイナス金利について本書では分析を進めています。そして、各種の非伝統的金融政策の政策手段について、第2章で理論的なモデル分析を、第3章で実証的な数量分析を試み、非伝統的な金融政策手段は理論的に株価や為替のチャンネルを通じて効果があるとのモデル分析を明らかにするとともに、実証的にもGDPを引き上げたり物価を上昇させたりする効果があったと結論しています。まあ、当然、自然体で曇りのない目で日本経済を見ている限り常識的な結果であろうと私は受け止めています。その上で、第4章では2%物価目標は妥当であると結論し、第5章で懸念すべき副作用として、いわゆる「岩石理論」的なインフレ高騰、資産価格バブル、財政ファイナンスの3つのリスクを否定しています。第5章では副作用を軽く否定した後で、いわゆる長期停滞論を引き合いに出して、当時のセントルイス連銀ブラード総裁の2つの均衡論を考察し、現状では日本経済はデフレ均衡を脱しつつある、と結論しています。そして、第6章ではマイナス金利を俎上に載せています。最後の第7章では、日銀審議委員としての5年間を回顧しています。要するに、、極めて真っ当で、常識的かつ当然の結果が示されています。昨年2016年12月29日付けで取り上げた「戦うリフレ派」の岩石理論批判もよかったんですが、こういった真っ当な金融政策の解説書もいいもんだという気がします。

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次に、清田耕造『日本の比較優位』(慶應義塾大学出版会) です。著者は慶応大学の研究者であり、国際経済学を専門としているようです。本書ではタイトルの通り、いくつかバージョンのある貿易モデルのうち、主としてヘクシャー・オリーン型の比較優位について論じています。ただ単にモデルを論じているだけでなく、主として経済産業省の工業統計やJIPデータベースを用いた実証的な研究成果も示されています。既発表の論文と書き下ろしが半々くらいでしょうか。最近では経済学のジャーナルの査読を通ろうと思えば、何らかの実証が必要不可欠になっていますので、既発表論文を含む本書で実証結果が示されているのは当然かもしれません。ということで、比較優位という経済理論はリカードの昔にさかのぼり、とても理論的には評価されているモデルなんですが、実証的に正しいかかどうかについては疑問を呈されることもあります。特に、現実世界では経済学的に疑問の余地なく正しいとされている自由貿易すら実現されていないわけですから、比較優位についてもご同様です。本書では比較優位に産業構造を結び付けて、いくつかの実証研究成果を示しています。すなわち、「疑問の余地なく」ではないとしても、比較優位説は机上の空論ではなく妥当性が支持されると、既存研究ながら、何と、幕末明治維新前後の実証研究を紹介し、ほとんど貿易のなかった鎖国時代の日本と、貿易を開始し、しかも、関税自主権がなく自由貿易に近かった明治期の日本の貿易から比較優位説の妥当性を確認しています。また、米国に関するレオンティエフ・パラドックス、すなわち、世界でもっとも資本が豊富な米国がネットで資本集約財を輸入し、労働集約財を輸出しているとのパラドックスと同じように、戦後日本が非熟練労働力よりも熟練労働力の豊富な日本が、熟練労働集約財を輸入し非熟練労働集約財を輸出している、とか、エネルギーを産しない日本の輸出が必ずしもエネルギー節約的ではない、などを示しています。また、最後の第Ⅲ部ではアジアのいわゆる雁行形態発展論と日本国内の都道府県別の賃金と産業構造をそれぞれ実証しています。なお最後に、出版社からも明らかな通り、本書は学術書です。しかも、学部レベルではなく大学院博士前期課程くらいのレベルです。数式も少なくありませんし、データに基づくものではなく概念的なグラフもいくつか見受けられます。かなり専門分野に近い私でも、最後の第Ⅲ部を読みこなすのは骨が折れました。メモと鉛筆を持って数式をいっしょに解いて行くくらいでないと十分に読みこなせないかもしれません。読み進むには、脅かすわけではありませんが、それなりの覚悟が必要です。

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次に、スティーブン・ピンカー/マルコム・グラッドウェル/マット・リドレーほか『人類は絶滅を逃れられるのか』(ダイヤモンド社) です。誰が見ても、ハチャメチャで意味不明なタイトルなんですが、ムンク財団の主催でカナダのトロントで開催された2015年のディベートを収録しています。ディベートのテーマは「人類の未来は明るいか」ということで、将来に対する見方が楽観的か悲観的かについてのディベートです。上の表紙画像には3名の著者しか現れませんが、ピンカー+リドレーが楽観派で、グラッドウェル+ ボトンが悲観派です。結論を先取りすると、トロントの会場の聴衆はディベートが始まる前は楽観派が71%、悲観派が29%だったところ、ディベート終了時には楽観派が73%で悲観派が27%となり、ディベートは楽観派の勝利で終了しました。まあ、ディベートの中でも出て来るんですが、過去に比べた現時点までの人類史の実績を考えると、寿命が伸び、戦争・戦乱が減少し、消費生活が豊かになり、それらのバックグラウンドで技術が大きく進歩しているわけですから、どこからどう見ても人類史は、特に、戦後の50-70年では大きく楽観派が強調するような方向に進んでいる気がします。将来を悲観する要素としては、このディベートでも悲観墓強調した地球環境問題とわけの判らない病気のパンデミックくらいで、戦争、特に核戦力による戦争はかつての冷戦時代よりは確率が大きく減じた気がします。ディベートで出なかったポイントは、特に日本の例を引くまでもなく、先進国における人口減少問題ではなかろうかという気がします。移民の受け入れが少ない場合、欧州でもアジアでも、1人当りGDPで見て豊かないくつかの国で人口減少が始まっており、その中でも日本は飛び抜けて人口減少が大きな問題といえます。日本はすでに世界経済におけるメジャー・プレイヤーでなくなったとはいえ、悲観派が人口減少を取り上げなかったのはやや不思議な気がします。それと、ローマ・クラブ的な資源制約も着目されていません。その意味で、やや物足りないディベートだったかもしれませんが、私の考えとほぼ一致する方向の議論が圧勝している気もします。当然の結果かもしれません。

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次に、 御厨貴・芹川洋一『政治が危ない』(日本経済新聞出版社) です。著者は東大で長らく政治学の研究者だった学者と日経新聞のジャーナリストです。ともに東大法学部の同じゼミの同窓生で対談の形を取っており、少し前に日経プレミアムから本書の前作となる『日本政治 ひざ打ち問答』を出版していて、本書はその対談集の第2段となるようです。昨年年央まで3年半続き、今も継続中の安倍内閣と安倍総理について論ずるところから始めて、回顧を含めて政治家について談じ、天皇退位も含めて憲法について断じ、最後に、メディアについて論じ、その4章構成となっています。まあ、ジョークで「時事放談」ならぬ「爺放談」という言い方もありますが、好き放題、勝手放題、縦横無尽に政治を断じていますが、タイトルになっている危なさは、現在の安倍総理・安倍内閣の後継者問題に尽きるようです。かつては与党自民党の派閥が後継者を育てるシステムを有していたものの、小選挙区制で党執行部の権力が絶大になった一方で派閥の衰退が激しく、総理総裁の後継者が育ちにくい構造になっている、というのがタイトルの背景にある考えのようです。ある秘突然に日本の政治が崩壊するかもしれないとまで言い切っています。もちろん、繰り返しになりますが、それ以外にもワンサと山盛りの話題を詰め込んでいます。田中角栄ブームは昭和へのノスタルジーと同一視されているような気もしますし、鳩菅の民主党政権はボロクソです。私がもっとも共感したのは憲法論議の中で、天皇の退位を天皇自身が言い出したのは国政への関与に近く、憲法違反の疑いがある、との指摘です。私もまったく賛成で、そもそも、我が事ながら退位すら天皇は言い出すべきでなく、黙々と象徴の役割を果すべきであり、象徴の役割が出来ているかどうかは天皇自身ではなく内閣が判断すべき事項であると私は強く考えています。最後に、最近の政治家、主として総理大臣の演説で印象に残っているのは、私の場合、本書では取り上げられていませんが、2005年8月の郵政解散の際の当時の小泉総理のテレビ演説です。私は官房で大臣対応の職務にありましたから特にそう感じたのかもしれませんが、感銘を受けて記憶に強く残っています。

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次に、 ポール J. ナーイン『確率で読み解く日常の不思議』(共立出版) です。著者は米国の数学研究者であり、ニュー・ハンプシャ大学の名誉教授です。数学に関する一般向けの解説書やパズル所などを何冊か出版しています。本書の英語の原題は Will you be alive 10 years from now? であり、2014年の刊行です。日本語のタイトル通り、本書は確率論に関する一般向けの解説書なんですが、それでも微分積分に行列式を合わせて数式はいっぱい出て来ます。ただ、本書のひとつの特徴は、解析的にエレガントに式を展開して解くだけでなく、リカーシブに解くためのMATLABのサンプル・プログラムを同時にいくつかのトピックで示している点です。本書は、古典的な確率論パズルを示した序章のほかに、個別の確率論に関するテーマを取り上げた25章から成っていて、その25勝すべてにMATLABのサンプル・プログラムが示されているわけではありませんし、MATLABがそもそもかなり専門性の高い高級言語ですから、それほど本書の理解の助けになるとも思えませんが、私のようにBASICしか理解しない初級者でも割りと簡単に移植できそうなシンプルなプログラムの作りにしてくれているように感じます。テーマごとにいくつかとても意外な結果が出て来るんですが、まず、第1章の棒を折る問題がそうです。2つの印を棒に付けて、その棒をn個に折るとして、等間隔に折る場合とランダムに折る場合で、同じ小片に印がある確率はランダムに折る後者の方が2倍近く大きい、というのは意外な気がします。第11章の伝言ゲームにおける嘘つきの存在についても、嘘つきの存在確率が0と1でないなら、ほかのいかなる確率であっても、伝言ゲームの人数が大きくなれば、最後に正しく伝えられる確率は漸近的に1/2に近づきます。逆から言っても同じことで、正しく伝えられない確率も1/2に近づきます。これも意外な気がします。最後に、どうでもいいことながら、確率論の数学研究者は『パレード』誌のコラムニストであるマリリン・ヴォス・サヴァントを常に目の敵にしていて、本書でも彼女の間違いをいくつか指摘しています。でも、モンティ・ホール問題でマリリンが正しい結果を示し、多くの数学研究者が間違っていた点にはまったく口をつぐんでいます。とても興味深い点です。日本語のWikiPediaのモンティ・ホール問題へのリンクは以下の通りです。

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次に、ハリー G. フランクファート『ウンコな議論』(ちくま学芸文庫) です。2005年に出版された単行本が昨年ちくま文芸文庫として出されています。翻訳はクルーグマン教授の本でも有名な野村総研の山形浩生さんです。その長い長い訳者解説でも有名になった本ですが、その訳者解説では8-9割がタイトルにひかれたんではないかと想像していますが、私自身は昨年2016年10月29日付けで取り上げた『不平等論』の続きで読んでみました。ということで、翻訳ではすべてタイトル通りに「ウンコ」で統一しているんですが、私の決して上品でもない日常会話で使われる用語としては「クソ」とか「クソッタレ」に近い印象です。そして、訳者も認めているように、原文には「ウンコ」しかないのに訳者が「屁理屈」を勝手にくっつけている場合も少なくないように見受けられます。といのも、私はすべて読み切ったわけではありませんが、最後においてあるリンクからほぼ英語の原文がpdfで入手できます。それはともかく、本題に戻ると、「ウンコな議論」とは著者がいうに、お世辞やハッタリを含めて、ウソではないにしても誇張した表現ということになろうかという気がする。日本の仏教的な表現で言えば、いわゆる方便も含まれそうである。思い出すに、その昔の大学生だったころ、母校の京都大学経済学部の歴史的な大先生として河上肇教授が、その有名な言葉として「言うべくんば真実を語るべし、言うを得ざれば黙するに如かず」というのがあります。まあ、それとよく似た感慨かもしれません。ただ、訳者解説にもある通り、ウンコ議論のない簡潔な事実だけの議論は「身も蓋もない」と言われかねないだけに、世渡りの中では難しいところです。最後に、私はやや配慮なく本書をカフェで読もうとしてしまいました。かなり大きな活字で150ページ足らずの文庫本ですので、すぐに読めてしまうんですが、タイトルといい表紙画像といい、飲食店で読むのはややはばかられる気がしました。家でこっそりと読む本かもしれません。

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次に、日本推理作家協会[編]『殺意の隘路』(光文社) です。昨年2016年12月30日付けで取り上げた『悪意の迷路』と対をなす姉妹編のミステリを集めたアンソロジーであり、最近3年間に刊行された短編を集めて編集しています。上の表紙画像を見ても理解できる通り、売れっ子ミステリ作家が並んでいます。コピペで済ませる収録作品は、青崎有吾「もう一色選べる丼」、赤川次郎「もういいかい」、有栖川有栖「線路の国のアリス」、伊坂幸太郎「ルックスライク」、石持浅海「九尾の狐」、乾ルカ「黒い瞳の内」、恩田陸「柊と太陽」、北村薫「幻の追伸」、今野敏「人事」、長岡弘樹「夏の終わりの時間割」、初野晴「理由ありの旧校舎 -学園密室?-」、東野圭吾「ルーキー登場」、円居挽「定跡外の誘拐」、麻耶雄嵩「旧友」、若竹七海「副島さんは言っている 十月」の15編です。さすがに秀作そろいですので、伊坂作品と東野作品は私は既読でした。でも、私の限りある記憶力からして、ほぼ初見と同じように楽しめたのはやや悲しかった気がします。赤川作品や長岡作品のように小学生くらいのかなり小さな子供を主人公にした作品もあれば、今野作品や若竹作品のようにオッサンばかりの登場人物の小説もあります。有栖川作品のように時間の観念が不明の作品もあれば、乾作品のようにとても長い時間を短編で取りまとめた作品もあります。必ずしも謎解きばかりではないんですが、とても楽しめる短編集でした。

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最後に、小林信也『「野球」の真髄』(集英社新書) です。著者はスポーツライターであるとともに、中学生の硬式野球であるリトルシニアの野球チームの監督をしていたりするそうで、その野球に対する思い込みを一気に弾けさせたような本です。私より数歳年長であり、ジャイアンツの長島選手が活躍した時期の、どちらかと言えば後半を体感として知っている世代です。私もそれに近い世代なんですが、地域的な特徴から、私は特に長島選手に憧れを持ったりはしませんでした。もちろん、私も阪神タイガースには熱い愛情を注ぎ続けていますし、少なくとも観戦するスポーツとしては野球にもっとも重きを置いているのも確かです。念のため。とは言え、なかなか興味深い本でした。例えば、他の球技と違って、野球だけは生死観があって、アウトになる打者とセーフになる打者の違いがあって、セーフになって生き残る打者は塁上でランナーになる、とか、投手だけは試合と同列に勝ち負けがつく、といった指摘は新鮮でした。ただ、とても大きな誤解もいくつか散見されます。例えば、ほかの球技と違って野球では守備側がボールを支配する、としているんですが、野球の前身であるクリケットに対する無理解からの記述としか思えません。すなわち、誤解を恐れず単純化して言えば、クリケットとは野球の投手に当たるボウラーがボールを投げて、野球なら捕手のいる位置に置かれた木製のウィケットを壊しに行くという暴力的な競技であって、それを阻止すべくバットを振るのがバッツマン、つまり野球の打者なわけです。ですから、クリケットではボールを持ってウィケットを壊しに行くボウラーの方が攻撃なわけで、野球に取り入れられて攻撃と守備がなぜか逆転してしまったんですが、クリケットを判っていれば抱かざる疑問のような気もします。まあ、インチキのお話も古くて新しいところながら、なぜか歴史に残る八百長事件は取り上げられておらず、本書の中では第2章の古き佳き野球の時代が読みどころかもしれません。

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2017年1月13日 (金)

明日から始まるセンター試験に向けてガンバレ受験生!

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明日の土曜日とその次の日曜日は2日に渡ってセンター試験が実施されます。我が家では、10年近く前に私が地方大学の教員で単身赴任で出向した際に2度ほど試験監督を務め、一昨年は上の倅が受験しており、さらに、今年は下の倅の大学受験が控えています。広い日本で天候はまちまちでしょうが、我が家の周辺は寒いながらも冬晴れが続いています。
大学によっては定員割れして、受験生のほぼ全員が合格するケースもあろうかと想像する一方で、まだまだ、大学全入には届きませんから、上の画像で合格招き猫をArtBankのサイトから引用しながら、それでも合格だけを祈念するのは無責任と考えますので、後悔のないように持てる実力のすべてを出し切ることを願っています。

がんばれ受験生!

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2017年1月12日 (木)

やや停滞を示す景気ウォッチャーと順調に黒字を続ける経常収支!

本日、内閣府から12月の景気ウォッチャーが、また、財務省から11月の経常収支が、それぞれ公表されています。季節調整済みの系列で見て、景気ウォッチャーの現状判断DIは前月比横ばいの51.4を、また、先行き判断DIは前月比▲0.4ポイント低下の50.9を、それぞれ記録し、経常収支は季節調整していない原系列の統計で1兆4155億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の街角景気、現状判断指数横ばい 先行きは6カ月ぶり悪化
内閣府が12日発表した2016年12月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整値)は51.4と前月比横ばいだった。内閣府は基調判断を「着実に持ち直している」で据え置いた。
部門別にみると、企業動向と雇用が上昇した半面、家計動向が低下した。企業動向では、製造業と非製造業ともに上昇した。街角では「自動車メーカーの生産が堅調で、取引先の部品メーカーの受注も安定してきている」(東海・金融)との声があった。一方、家計動向では小売りと住宅が低下。「相変わらず低調な状態は続いている」(九州・一般小売店)という。
2-3カ月後の先行きを聞いた先行き判断指数(季節調整値)は、前月から0.4ポイント低下の50.9だった。悪化は6カ月ぶり。家計動向と企業動向が低下した。企業では「鋼材の値上がりが予想され、価格転嫁が遅れる分だけ収益が落ち込む」(近畿・金属製品製造業)との声が聞かれた。家計では「1月に就任する米国の次期大統領の言動が気にかかる」(東北・スーパー)との見方もあった。
11月の経常収支、1兆4155億円の黒字 07年以来9年ぶり高水準
財務省が12日発表した2016年11月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は1兆4155億円の黒字だった。前年同月に比べて3095億円黒字幅を拡大した。黒字は29カ月連続。11月としては2007年(1兆6678億円の黒字)以来9年ぶりの黒字額となった。原油安と円高を背景に貿易収支が黒字転換したことなどが寄与した。
貿易収支は3134億円の黒字(前年同期は3041億円の赤字)だった。原油や液化天然ガス(LNG)など燃料価格の下落で輸入額が5兆5770億円と10.7%減少。円高で外貨建ての円換算の輸入額も目減りした。自動車や鉄鋼の低迷で輸出額も5兆8904億円と0.8%減少したが、輸入の落ち込みが上回った。
サービス収支は738億円の黒字(前年同期は603億円の黒字)だった。「その他業務サービス」で大口の受け取りがあった。旅行収支は訪日外国人の1人あたりの消費額減少で黒字幅を縮小した。
第1次所得収支は1兆2032億円の黒字だった。円高で企業が海外事業への投資で受け取る配当金や証券投資からの収益が目減りし、前年同月(1兆5338億円の黒字)から黒字幅を縮小した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、2つの統計を並べるとどうしても長くなってしまいがちです。続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りです。また、影をつけた部分はいずれも景気後退期です。

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景気ウォッチャーの現状判断DIは家計動向関連で下がった一方で、企業動向関連では製造業・非製造業ともに上昇を示しています。ただ、家計動向関連でも、小売関連が低下した一方で、飲食関連とサービス関連は上昇しています。また、企業動向関連の中でも、ともに上昇ながら、製造業よりも非製造業の方が上昇幅が大きくなっています。なかなかに複雑な動きを示しており、年末12月ですから仕方ないところではありますが、極めて大雑把に考えると、家計についても企業についても、モノの物販よりもサービスの方に重点があったのかもしれません。ただ、前月比マイナスの家計動向関連ながら、雇用関連は引き続きプラスですし、全体のDIの水準もこの統計にしてはめずらしく50を2か月連続で超えるという高い水準にあります。ですから、私としては大きな懸念は持っていません。先行き動向DIは家計動向関連だけでなく、企業動向関連も前月比マイナスとなったため、全体でも前月から低下を示しましたが、先行きでも雇用関連はかなり強含みで推移しています。現状判断DIが停滞を示し、先行き判断DIが低下したのは、国際商品市況における石油価格などの上昇に連動して、国内でも燃油価格などコストの上昇が目に見える形で発生し始めた影響ではないかと私は想像しています。石油価格は上がっても下がっても、日本経済にいろんな影響を及ぼすようです。

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次に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれませんが、経常収支についてもほぼ震災前の水準に戻った、と私は受け止めています。なお、為替相場はトランプ効果でかなり円安が進んだように感じられますが、財務省のサイトによれば、インターバンクのドル・円相場は1ドル当たり108.18円と、前年同月の122.54円から11.7%の円高となっています。また、原油価格もドルベースでは1バレル当たり49.08ドルで前年同月比で見て+3.3%の上昇なんですが、円高で相殺されて円ベースではキロリットル当たり32,412円と▲10.5%の下落だったりします。ただ、上のグラフの黒い棒に見られるように、こういった為替相場や原油価格の動向ながら、貿易収支は急速に黒字化の方向に向かっているように見受けられます。

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2017年1月11日 (水)

President Obama's Farewell Address

Hello Chicago!

It's good to be home. My fellow Americans, Michelle and I have been so touched by all the well-wishes we've received over the past few weeks. But tonight it's my turn to say thanks. Whether we've seen eye-to-eye or rarely agreed at all, my conversations with you, the American people - in living rooms and schools; at farms and on factory floors; at diners and on distant outposts - are what have kept me honest, kept me inspired, and kept me going. Every day, I learned from you. You made me a better President, and you made me a better man.

I first came to Chicago when I was in my early twenties, still trying to figure out who I was; still searching for a purpose to my life. It was in neighborhoods not far from here where I began working with church groups in the shadows of closed steel mills. It was on these streets where I witnessed the power of faith, and the quiet dignity of working people in the face of struggle and loss. This is where I learned that change only happens when ordinary people get involved, get engaged, and come together to demand it.

After eight years as your President, I still believe that. And it's not just my belief. It's the beating heart of our American idea - our bold experiment in self-government.

It's the conviction that we are all created equal, endowed by our Creator with certain unalienable rights, among them life, liberty, and the pursuit of happiness.

It's the insistence that these rights, while self-evident, have never been self-executing; that We, the People, through the instrument of our democracy, can form a more perfect union.

This is the great gift our Founders gave us. The freedom to chase our individual dreams through our sweat, toil, and imagination - and the imperative to strive together as well, to achieve a greater good.

For 240 years, our nation's call to citizenship has given work and purpose to each new generation. It's what led patriots to choose republic over tyranny, pioneers to trek west, slaves to brave that makeshift railroad to freedom. It's what pulled immigrants and refugees across oceans and the Rio Grande, pushed women to reach for the ballot, powered workers to organize. It's why GIs gave their lives at Omaha Beach and Iwo Jima; Iraq and Afghanistan - and why men and women from Selma to Stonewall were prepared to give theirs as well.

So that's what we mean when we say America is exceptional. Not that our nation has been flawless from the start, but that we have shown the capacity to change, and make life better for those who follow.

Yes, our progress has been uneven. The work of democracy has always been hard, contentious and sometimes bloody. For every two steps forward, it often feels we take one step back. But the long sweep of America has been defined by forward motion, a constant widening of our founding creed to embrace all, and not just some.

If I had told you eight years ago that America would reverse a great recession, reboot our auto industry, and unleash the longest stretch of job creation in our history . if I had told you that we would open up a new chapter with the Cuban people, shut down Iran's nuclear weapons program without firing a shot, and take out the mastermind of 9/11 . if I had told you that we would win marriage equality, and secure the right to health insurance for another 20 million of our fellow citizens - you might have said our sights were set a little too high.

But that's what we did. That's what you did. You were the change. You answered people's hopes, and because of you, by almost every measure, America is a better, stronger place than it was when we started.

In ten days, the world will witness a hallmark of our democracy: the peaceful transfer of power from one freely-elected president to the next. I committed to President-Elect Trump that my administration would ensure the smoothest possible transition, just as President Bush did for me. Because it's up to all of us to make sure our government can help us meet the many challenges we still face.

We have what we need to do so. After all, we remain the wealthiest, most powerful, and most respected nation on Earth. Our youth and drive, our diversity and openness, our boundless capacity for risk and reinvention mean that the future should be ours.

But that potential will be realized only if our democracy works. Only if our politics reflects the decency of the people. Only if all of us, regardless of our party affiliation or particular interest, help restore the sense of common purpose that we so badly need right now.

That's what I want to focus on tonight - the state of our democracy.

Understand, democracy does not require uniformity. Our founders quarreled and compromised, and expected us to do the same. But they knew that democracy does require a basic sense of solidarity - the idea that for all our outward differences, we are all in this together; that we rise or fall as one.

There have been moments throughout our history that threatened to rupture that solidarity. The beginning of this century has been one of those times. A shrinking world, growing inequality; demographic change and the specter of terrorism - these forces haven't just tested our security and prosperity, but our democracy as well. And how we meet these challenges to our democracy will determine our ability to educate our kids, and create good jobs, and protect our homeland.

In other words, it will determine our future.

Our democracy won't work without a sense that everyone has economic opportunity. Today, the economy is growing again; wages, incomes, home values, and retirement accounts are rising again; poverty is falling again. The wealthy are paying a fairer share of taxes even as the stock market shatters records. The unemployment rate is near a ten-year low. The uninsured rate has never, ever been lower. Health care costs are rising at the slowest rate in fifty years. And if anyone can put together a plan that is demonstrably better than the improvements we've made to our health care system - that covers as many people at less cost - I will publicly support it.

That, after all, is why we serve - to make people's lives better, not worse.

But for all the real progress we've made, we know it's not enough. Our economy doesn't work as well or grow as fast when a few prosper at the expense of a growing middle class. But stark inequality is also corrosive to our democratic principles. While the top one percent has amassed a bigger share of wealth and income, too many families, in inner cities and rural counties, have been left behind - the laid-off factory worker; the waitress and health care worker who struggle to pay the bills - convinced that the game is fixed against them, that their government only serves the interests of the powerful - a recipe for more cynicism and polarization in our politics.

There are no quick fixes to this long-term trend. I agree that our trade should be fair and not just free. But the next wave of economic dislocation won't come from overseas. It will come from the relentless pace of automation that makes many good, middle-class jobs obsolete.

And so we must forge a new social compact - to guarantee all our kids the education they need; to give workers the power to unionize for better wages; to update the social safety net to reflect the way we live now and make more reforms to the tax code so corporations and individuals who reap the most from the new economy don't avoid their obligations to the country that's made their success possible. We can argue about how to best achieve these goals. But we can't be complacent about the goals themselves. For if we don't create opportunity for all people, the disaffection and division that has stalled our progress will only sharpen in years to come.

There's a second threat to our democracy - one as old as our nation itself. After my election, there was talk of a post-racial America. Such a vision, however well-intended, was never realistic. For race remains a potent and often divisive force in our society. I've lived long enough to know that race relations are better than they were ten, or twenty, or thirty years ago - you can see it not just in statistics, but in the attitudes of young Americans across the political spectrum.

But we're not where we need to be. All of us have more work to do. After all, if every economic issue is framed as a struggle between a hardworking white middle class and undeserving minorities, then workers of all shades will be left fighting for scraps while the wealthy withdraw further into their private enclaves. If we decline to invest in the children of immigrants, just because they don't look like us, we diminish the prospects of our own children - because those brown kids will represent a larger share of America's workforce. And our economy doesn't have to be a zero-sum game. Last year, incomes rose for all races, all age groups, for men and for women.

Going forward, we must uphold laws against discrimination - in hiring, in housing, in education and the criminal justice system. That's what our Constitution and highest ideals require. But laws alone won't be enough. Hearts must change. If our democracy is to work in this increasingly diverse nation, each one of us must try to heed the advice of one of the great characters in American fiction, Atticus Finch, who said "You never really understand a person until you consider things from his point of view.until you climb into his skin and walk around in it."

For blacks and other minorities, it means tying our own struggles for justice to the challenges that a lot of people in this country face - the refugee, the immigrant, the rural poor, the transgender American, and also the middle-aged white man who from the outside may seem like he's got all the advantages, but who's seen his world upended by economic, cultural, and technological change.

For white Americans, it means acknowledging that the effects of slavery and Jim Crow didn't suddenly vanish in the '60s; that when minority groups voice discontent, they're not just engaging in reverse racism or practicing political correctness; that when they wage peaceful protest, they're not demanding special treatment, but the equal treatment our Founders promised.

For native-born Americans, it means reminding ourselves that the stereotypes about immigrants today were said, almost word for word, about the Irish, Italians, and Poles. America wasn't weakened by the presence of these newcomers; they embraced this nation's creed, and it was strengthened.

So regardless of the station we occupy; we have to try harder; to start with the premise that each of our fellow citizens loves this country just as much as we do; that they value hard work and family like we do; that their children are just as curious and hopeful and worthy of love as our own.

None of this is easy. For too many of us, it's become safer to retreat into our own bubbles, whether in our neighborhoods or college campuses or places of worship or our social media feeds, surrounded by people who look like us and share the same political outlook and never challenge our assumptions. The rise of naked partisanship, increasing economic and regional stratification, the splintering of our media into a channel for every taste - all this makes this great sorting seem natural, even inevitable. And increasingly, we become so secure in our bubbles that we accept only information, whether true or not, that fits our opinions, instead of basing our opinions on the evidence that's out there.

This trend represents a third threat to our democracy. Politics is a battle of ideas; in the course of a healthy debate, we'll prioritize different goals, and the different means of reaching them. But without some common baseline of facts; without a willingness to admit new information, and concede that your opponent is making a fair point, and that science and reason matter, we'll keep talking past each other, making common ground and compromise impossible.

Isn't that part of what makes politics so dispiriting? How can elected officials rage about deficits when we propose to spend money on preschool for kids, but not when we're cutting taxes for corporations? How do we excuse ethical lapses in our own party, but pounce when the other party does the same thing? It's not just dishonest, this selective sorting of the facts; it's self-defeating. Because as my mother used to tell me, reality has a way of catching up with you.

Take the challenge of climate change. In just eight years, we've halved our dependence on foreign oil, doubled our renewable energy, and led the world to an agreement that has the promise to save this planet. But without bolder action, our children won't have time to debate the existence of climate change; they'll be busy dealing with its effects: environmental disasters, economic disruptions, and waves of climate refugees seeking sanctuary.

Now, we can and should argue about the best approach to the problem. But to simply deny the problem not only betrays future generations; it betrays the essential spirit of innovation and practical problem-solving that guided our Founders.

It's that spirit, born of the Enlightenment, that made us an economic powerhouse - the spirit that took flight at Kitty Hawk and Cape Canaveral; the spirit that that cures disease and put a computer in every pocket.

It's that spirit - a faith in reason, and enterprise, and the primacy of right over might, that allowed us to resist the lure of fascism and tyranny during the Great Depression, and build a post-World War II order with other democracies, an order based not just on military power or national affiliations but on principles - the rule of law, human rights, freedoms of religion, speech, assembly, and an independent press.

That order is now being challenged - first by violent fanatics who claim to speak for Islam; more recently by autocrats in foreign capitals who see free markets, open democracies, and civil society itself as a threat to their power. The peril each poses to our democracy is more far-reaching than a car bomb or a missile. It represents the fear of change; the fear of people who look or speak or pray differently; a contempt for the rule of law that holds leaders accountable; an intolerance of dissent and free thought; a belief that the sword or the gun or the bomb or propaganda machine is the ultimate arbiter of what's true and what's right.

Because of the extraordinary courage of our men and women in uniform, and the intelligence officers, law enforcement, and diplomats who support them, no foreign terrorist organization has successfully planned and executed an attack on our homeland these past eight years; and although Boston and Orlando remind us of how dangerous radicalization can be, our law enforcement agencies are more effective and vigilant than ever. We've taken out tens of thousands of terrorists - including Osama bin Laden. The global coalition we're leading against ISIL has taken out their leaders, and taken away about half their territory. ISIL will be destroyed, and no one who threatens America will ever be safe. To all who serve, it has been the honor of my lifetime to be your Commander-in-Chief.

But protecting our way of life requires more than our military. Democracy can buckle when we give in to fear. So just as we, as citizens, must remain vigilant against external aggression, we must guard against a weakening of the values that make us who we are. That's why, for the past eight years, I've worked to put the fight against terrorism on a firm legal footing. That's why we've ended torture, worked to close Gitmo, and reform our laws governing surveillance to protect privacy and civil liberties. That's why I reject discrimination against Muslim Americans. That's why we cannot withdraw from global fights - to expand democracy, and human rights, women's rights, and LGBT rights - no matter how imperfect our efforts, no matter how expedient ignoring such values may seem. For the fight against extremism and intolerance and sectarianism are of a piece with the fight against authoritarianism and nationalist aggression. If the scope of freedom and respect for the rule of law shrinks around the world, the likelihood of war within and between nations increases, and our own freedoms will eventually be threatened.

So let's be vigilant, but not afraid. ISIL will try to kill innocent people. But they cannot defeat America unless we betray our Constitution and our principles in the fight. Rivals like Russia or China cannot match our influence around the world - unless we give up what we stand for, and turn ourselves into just another big country that bullies smaller neighbors.

Which brings me to my final point - our democracy is threatened whenever we take it for granted. All of us, regardless of party, should throw ourselves into the task of rebuilding our democratic institutions. When voting rates are some of the lowest among advanced democracies, we should make it easier, not harder, to vote. When trust in our institutions is low, we should reduce the corrosive influence of money in our politics, and insist on the principles of transparency and ethics in public service. When Congress is dysfunctional, we should draw our districts to encourage politicians to cater to common sense and not rigid extremes.

And all of this depends on our participation; on each of us accepting the responsibility of citizenship, regardless of which way the pendulum of power swings.

Our Constitution is a remarkable, beautiful gift. But it's really just a piece of parchment. It has no power on its own. We, the people, give it power - with our participation, and the choices we make. Whether or not we stand up for our freedoms. Whether or not we respect and enforce the rule of law. America is no fragile thing. But the gains of our long journey to freedom are not assured.

In his own farewell address, George Washington wrote that self-government is the underpinning of our safety, prosperity, and liberty, but "from different causes and from different quarters much pains will be taken.to weaken in your minds the conviction of this truth;" that we should preserve it with "jealous anxiety;" that we should reject "the first dawning of every attempt to alienate any portion of our country from the rest or to enfeeble the sacred ties" that make us one.

We weaken those ties when we allow our political dialogue to become so corrosive that people of good character are turned off from public service; so coarse with rancor that Americans with whom we disagree are not just misguided, but somehow malevolent. We weaken those ties when we define some of us as more American than others; when we write off the whole system as inevitably corrupt, and blame the leaders we elect without examining our own role in electing them.

It falls to each of us to be those anxious, jealous guardians of our democracy; to embrace the joyous task we've been given to continually try to improve this great nation of ours. Because for all our outward differences, we all share the same proud title: Citizen.

Ultimately, that's what our democracy demands. It needs you. Not just when there's an election, not just when your own narrow interest is at stake, but over the full span of a lifetime. If you're tired of arguing with strangers on the internet, try to talk with one in real life. If something needs fixing, lace up your shoes and do some organizing. If you're disappointed by your elected officials, grab a clipboard, get some signatures, and run for office yourself. Show up. Dive in. Persevere. Sometimes you'll win. Sometimes you'll lose. Presuming a reservoir of goodness in others can be a risk, and there will be times when the process disappoints you. But for those of us fortunate enough to have been a part of this work, to see it up close, let me tell you, it can energize and inspire. And more often than not, your faith in America - and in Americans - will be confirmed.

Mine sure has been. Over the course of these eight years, I've seen the hopeful faces of young graduates and our newest military officers. I've mourned with grieving families searching for answers, and found grace in Charleston church. I've seen our scientists help a paralyzed man regain his sense of touch, and our wounded warriors walk again. I've seen our doctors and volunteers rebuild after earthquakes and stop pandemics in their tracks. I've seen the youngest of children remind us of our obligations to care for refugees, to work in peace, and above all to look out for each other.

That faith I placed all those years ago, not far from here, in the power of ordinary Americans to bring about change - that faith has been rewarded in ways I couldn't possibly have imagined. I hope yours has, too. Some of you here tonight or watching at home were there with us in 2004, in 2008, in 2012 - and maybe you still can't believe we pulled this whole thing off.

You're not the only ones. Michelle - for the past twenty-five years, you've been not only my wife and mother of my children, but my best friend. You took on a role you didn't ask for and made it your own with grace and grit and style and good humor. You made the White House a place that belongs to everybody. And a new generation sets its sights higher because it has you as a role model. You've made me proud. You've made the country proud.

Malia and Sasha, under the strangest of circumstances, you have become two amazing young women, smart and beautiful, but more importantly, kind and thoughtful and full of passion. You wore the burden of years in the spotlight so easily. Of all that I've done in my life, I'm most proud to be your dad.

To Joe Biden, the scrappy kid from Scranton who became Delaware's favorite son: you were the first choice I made as a nominee, and the best. Not just because you have been a great Vice President, but because in the bargain, I gained a brother. We love you and Jill like family, and your friendship has been one of the great joys of our life.

To my remarkable staff: For eight years - and for some of you, a whole lot more - I've drawn from your energy, and tried to reflect back what you displayed every day: heart, and character, and idealism. I've watched you grow up, get married, have kids, and start incredible new journeys of your own. Even when times got tough and frustrating, you never let Washington get the better of you. The only thing that makes me prouder than all the good we've done is the thought of all the remarkable things you'll achieve from here.

And to all of you out there - every organizer who moved to an unfamiliar town and kind family who welcomed them in, every volunteer who knocked on doors, every young person who cast a ballot for the first time, every American who lived and breathed the hard work of change - you are the best supporters and organizers anyone could hope for, and I will forever be grateful. Because yes, you changed the world.

That's why I leave this stage tonight even more optimistic about this country than I was when we started. Because I know our work has not only helped so many Americans; it has inspired so many Americans - especially so many young people out there - to believe you can make a difference; to hitch your wagon to something bigger than yourselves. This generation coming up - unselfish, altruistic, creative, patriotic - I've seen you in every corner of the country. You believe in a fair, just, inclusive America; you know that constant change has been America's hallmark, something not to fear but to embrace, and you are willing to carry this hard work of democracy forward. You'll soon outnumber any of us, and I believe as a result that the future is in good hands.

My fellow Americans, it has been the honor of my life to serve you. I won't stop; in fact, I will be right there with you, as a citizen, for all my days that remain. For now, whether you're young or young at heart, I do have one final ask of you as your President - the same thing I asked when you took a chance on me eight years ago.

I am asking you to believe. Not in my ability to bring about change - but in yours.

I am asking you to hold fast to that faith written into our founding documents; that idea whispered by slaves and abolitionists; that spirit sung by immigrants and homesteaders and those who marched for justice; that creed reaffirmed by those who planted flags from foreign battlefields to the surface of the moon; a creed at the core of every American whose story is not yet written:

Yes, We Can.

Yes, We Did.

Yes, We Can.

Thank you. God bless you. And may God continue to bless the United States of America.

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景気動向指数の改善はどこまでホンモノか?

本日、内閣府から昨年2016年11月の景気動向指数が公表されています。CI一致指数は前月比+1.6ポイント上昇の115.1を示した一方で、CI先行指数は+1.9ポイント上昇の102.7を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

11月の景気一致指数、1.6ポイント上昇 2年8カ月ぶり高水準
内閣府が11日発表した2016年11月の景気動向指数(CI、10年=100)速報値は、景気の現状を示す一致指数が前月比1.6ポイント上昇し115.1だった。3カ月連続で上昇し、14年3月の117.8以来2年8カ月ぶりの水準に達した。原油価格の上昇に伴い商業販売額(卸売業)が大きく伸びた。鉱工業用生産財出荷指数や商業販売額(小売業)も上昇した。
内閣府は一致指数の動きから機械的に求める景気の基調判断を「改善を示している」に据え置いた。前月から比較可能な8指標のうち6つがプラスに寄与した。
数カ月先の景気を示す先行指数は1.9ポイント上昇の102.7になった。上昇は2カ月連続。鉱工業用生産財在庫率指数や日経商品指数、最終需要財在庫率指数などが寄与した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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先月の統計公表時はOECDのPISAと重なって、グラフを示しただけだったんですが、先月2016年10月統計から統計作成官庁である内閣府では景気の基調判断について9月統計の「足踏み」を10月統計から「改善」に1ノッチ引き上げており、今月11月統計でも据え置かれています。ほぼ基調判断は定義で決まるんですが、「改善」の定義は原則として3か月以上連続して、3か月後方移動平均が上昇しており、かつ、当月の前月差の符号がプラス、ということですので、これを先月公表時から満たすこととなったわけです。11月統計を詳しく見ると、一致指数でプラスの寄与が大きいのは、寄与度が大きい順に、商業販売額(卸売業)(前年同月比)、鉱工業用生産財出荷指数、生産指数(鉱工業)となっており、逆にもっともマイナス寄与度が大きいのは耐久消費財出荷指数となっています。ただし、卸売業の商業販売統計は、引用した記事にもある通り、国際商品市況の石油価格の上昇に伴う名目値の伸びですので、ホントに景気動向と考えるのかどうかは疑問が残らないでもありません。同様に、先行指数の寄与度を見ると、プラス寄与は大きい順に、鉱工業用生産財在庫率指数、日経商品指数(42種総合)、最終需要財在庫率指数、となっており、逆にマイナス寄与は、消費者態度指数がもっとも大きくなっています。内部留保を溜めまくっている企業部門と、そのあおりを受けて賃上げがかなわずに消費が伸び悩んでいる家計部門がクッキリと分かれた形に見えなくもありません。ただ、一致指数に採用されている商業販売額(小売業)(前年同月比)は3か月連続でプラス寄与を示していますので、最近時点での消費者態度指数の改善と明日公表の景気ウォッチャーなどを総合して、消費もそろそろ底入れに向かっている可能性はあると私は考えています。

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2017年1月10日 (火)

大きく上昇した12月の消費者態度指数はトランプ効果か?

本日、内閣府から昨年2016年12月の消費者態度指数が公表されています。前月比+2.2ポイント上昇の43.1を記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

12月の消費者態度指数、3年3カ月ぶり高水準 円安・株高効果
内閣府が10日発表した2016年12月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比2.2ポイント上昇の43.1だった。東京五輪開催が決まった2013年9月(45.4)以来3年3カ月ぶりの高水準だった。円安・株高による資産効果で消費者心理が上向いた。前月を上回ったのは3カ月ぶり。
指数を構成する4つの指標全てが改善した。生鮮野菜の高騰に一服感が出つつあることもあって「暮らし向き」は42.0と前月に比べて1.9ポイント上昇した。円安による企業収益の改善期待から「収入の増え方」や「雇用環境」も上昇した。
内閣府は消費者心理の基調判断を「持ち直しのテンポが緩やかになっている」で据え置いた。1年後の物価見通しは「上昇する」と答えた比率(原数値)は前月と同じ74.2%だった。
調査基準日は12月15日。全国8400世帯が対象で、有効回答数は5535世帯、回答率は65.9%だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、消費者態度指数のグラフは以下の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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消費者態度指数は昨年2016年10-11月と2か月連続で低下し、9月以降の天候不順に伴う野菜などの価格高騰が主因ではないかと言われていましたが、私の見るところ、野菜価格はさほど低下していないにもかかわらず、12月指数がこの2か月分の低下幅を取り戻すくらいに上昇したのは、基本的に、トランプ効果による円安と株価の上昇による影響ではないかと考えています。消費者態度指数を構成する各コンポーネントについて前月差で見ると、雇用環境が+3.2ポイント上昇し45.7、耐久消費財の買い時判断が+2.3ポイント上昇し42.8、暮らし向きが+1.9ポイント上昇し+42.0、収入の増え方が+1.5ポイント上昇し41.9となっています。また、資産価値に関する意識指標は、前月差+3.0ポイント上昇し43.1となっていることから、暮らし向きや収入の増え方以上に資産価値の上昇幅が大きく、資産価値の指標は消費者態度指数に入っていないものの、直接的に消費者態度指数を引き上げた雇用とともに、統計外で何らかのバックグラウンドとして影響力を持ったんではないかと、私は想像しています。ただ、トランプ効果であるとすれば、決してサステイナブルではなく一過性の可能性もあるわけで、だからというわけでもないんでしょうが、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府の基調判断は「持ち直しのテンポが緩やかになっている」で据え置かれています。消費者マインドについては、基本的に上向く方向にあると私は考えているものの、明後日に同じ内閣府から公表される景気ウォッチャーも併せてチェックしておきたいと思います。

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2017年1月 9日 (月)

マクロミル「2017年 新成人に関する調査」の結果やいかに?

今日は成人の日の祝日です。我が家も上の倅が昨年12月に20歳を迎え、今日は成人の日の式典か何かに出席するんだろうと想像していますが、実はよく知らなかったりします。
ということで、毎年の定点調査でマクロミルの「2017年 新成人に関する調査」の結果が1月4日に明らかにされています。今年の新成人はどのような趣味・嗜好、考え方の特徴があるのでしょうか、ということで、マクロミル・ホノテのサイトからTOPICSを7点引用すると以下の通りです。

TPOICS
  • 「日本の未来は明るい」33%、2014年をピークに減少。
  • 東日本大震災後、顕著に低下し続ける政治経済への関心、6年連続で減少トレンド。
  • スマホ所有率、「iPhone」が「Android」を大きく引き離し、その差は22%に。
  • SNS利用率、1位「LINE」93%、2位「Twitter」78%で、いずれもこの5年で最高。「Instagram」が「Facebook」を追い抜き36%で3位に上昇
  • ニュースや話題を得る手段、「テレビ」が90%で最も多く、信頼度もトップ。「個人投稿のSNS」は手段としては2位につけるも、利用者の信頼度はワースト2
  • 2017年新成人の何でもYES or NO!
  • 活躍を期待する新成人ランキング 1位は体操「白井健三」、2位はスキージャンプ「高梨沙羅」。トップ2はいずれもオリンピック選手がランクインし、3位を大きく引き離す

まあ、後ろの方の項目はどうでもいいような気がするんですが、恒例であるとともに、今年は我が家の上の倅も成人式を迎えるという意味で、めでたい思いもあり、マクロミル・ホノテのサイトからグラフを引用しつつ、少し熱心に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから「日本の未来」についての問いに対する回答結果を引用しています。まあ、こんなもんですかね。2014年がなぜか特異な結果を示しているような気もしますし、もしもそうだとすれば、ここ3年ほどは平均的なのかもしれません。2014年は消費税率の引き上げ直前のいわゆる駆け込み需要で世間が勘違いしていたのかもしれませんし、新成人がそれに影響を受けていた可能性もあります。

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次に、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから政治、選挙、経済、外交への関心度についての問いに対する回答結果を引用しています。これも、まあ、こんなもんですかね。極めて大雑把ながら、震災のあった2011年をピークに政治、選挙、経済、外交への関心度は傾向的に低下しているように見受けられます。ただ、「関心がある」と「やや関心がある」の合計で見ると、政治や選挙については昨年の新成人からやや盛り返してきており、18歳選挙権の効果ではなかろうかと私は考えています。

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次に、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから情報を得るものと信頼度についての問いに対する回答結果を引用しています。やっぱり、常識的な結果であり、テレビが情報元としてもっとも頻度高く接しているようで、信頼性はテレビと新聞が高いという結果です。逆に、SNSやブログについては個人が投稿した情報は信頼性低く、ダイレクトメールと同等のように見なされています。「百聞は一見にしかず」といいますので、レアケースとしても「実際に見た」が選択肢に欲しかった気がします。

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最後に、上のグラフはマクロミル・ホノテのサイトから2017年成人の何でも YES or NO! の回答結果を引用しています。やっぱり、常識的な結果であり、貯蓄を重視して堅実かつ一般常識を大切にしつつも、出世よりもプライベートを重視して競争は苦手な草食系が過半を占め、でもでもで、環境にはそれほど配慮なく、LGBT への理解もそれほど高くない、という結果です。ただし、これも米国大統領選挙と同じで「カッコよく」回答している可能性があるので、ブラッドリー効果はあるかもしれません。

最後の最後に、グラフの飲用は省略しましたが、パソコンは少数派ではないまでも、ジリジリと保有比率を下げていて、その分、というか、何というか、スマホが肉薄して来ています。SNS では LINE と Twitter が高い利用率を示しており、さらに増加の勢いもあるんですが、Facebook は凋落を示して Instagram にも抜かれていたりします。いろいろと勉強になりました。

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2017年1月 8日 (日)

トレンド総研による「2017年トレンド予測」やいかに?

かなり旧聞に属する話題かもしれませんが、トレンド総研から「2017年トレンド予測」の結果が昨年2016年12月27日に明らかにされています。2部構成であり、最初はネットにおけるアンケートで今年2017年の注目のイベントやトピックスを取りまとめ、第2部ではトレンド総研にて今年2017年の流行を予想しています。まず、アンケートによる今年2017年に注目されるイベント・トピックスのトップテンをリポートから引用すると以下の通りです。

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まあ、トランプ米国大統領の就任が何といってもトップでしょう。これは鉄板です。ただ、昨年2016年12月20日付けで取り上げたプレミアムフライデーが何と3位に入っています。私自身はこの制度の認知度をとても懸念したんですが、知らなかったのは私だけかもしれません。楽しみにしているサラリーマンも少なくないような気がします。また、うまく画像として引用できなかったんですが、今年2017年の流行予想のうち、私が注目したのは、食の分野でフランス流の食事スタイル、世界初の全自動衣類折りたたみ機ランドロイドや衣類リフレッシュ機器LGスタイラーなどの家事をラクにしてくれるロボット家電、さらに、「STAY (ステイ)」と「VACATION (バケーション)」を組み合わせた造語「ステイケーション」と呼ばれる家の中や近場でバケーション気分を味わう新しい余暇の過ごし方、などです。

参考になったようなならないような、果たして、これらの予想は実現されるんでしょうか、その結果やいかに?

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2017年1月 7日 (土)

米国雇用統計の雇用増加はほぼ巡航速度に戻り金融政策動向には中立的か?

日本時間の昨夜、米国労働省から昨年2016年12月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数の増加幅は+156千人増とひとつの目安となる+200千人増の水準には達せず、ほぼ巡航速度に近い増加に戻ったように見受けられます。他方、失業率はさすがに前月から0.1%ポイント上がって4.7%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、New York Times のサイトから最初の5パラだけ記事を引用すると以下の通りです。

Hiring Is Tepid, but Jobs Report Shows Sustained Wage Growth
It has been a long time coming - eight years, in fact - but the economic recovery is finally showing up in the average American worker’s paycheck in a big way.
There have been plenty of winners in the recovery, which began in mid-2009: companies, homeowners, investors and, especially, households at the apex of the economic pyramid. But the paucity of gains in take-home pay has stoked anxiety and frustration for many others, a factor in the wave of discontent that President-elect Donald J. Trump rode to victory in November.
But even as Mr. Trump prepares to succeed President Obama in two weeks, the Labor Department reported on Friday that average hourly earnings rose by 2.9 percent last year, the best annual performance since the recovery began.
And many economists expect the trend to gain momentum this year, as a tighter labor market forces employers to pay more to hire and retain workers. "This is a turning point for the overall economy," said Diane Swonk, a veteran independent economist in Chicago.
While wage growth was robust last year, government data for December showed a more tepid increase in employment, with 156,000 jobs added during the month, and a slight uptick in the unemployment rate to 4.7 percent.

この後、さらにエコノミストなどへのインタビューや米国大統領選へのインプリケーションの分析が続きます。包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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雇用増加幅は市場の事前コンセンサスでは180千人程度と私は聞いていましたので、やや下回った気がしないでもないものの、他方、先月11月の統計が当初発表の+178千人増から+204千人増に大幅に上方改定されていますので、その分を加味すればトントンというところかもしれません。失業率は11月に一気に0.3%ポイント下げた反動の意味合いもあり、5%をゆうに下回る水準で非常に低くなっています。ですから、総じて見れば米国雇用は堅調そのものと考えるべきです。米国の労働市場はほぼ完全雇用に近づいたと考えるべきであり、下の時間当たり賃金のグラフを見ても、やや上昇テンポを上げているように見えます。

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ということで、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、ほぼ底ばい状態が続いている印象ですが、それでも、12月の前年比上昇率は+2.9%を記録し、2009年6月以来7年半振りの高い伸びを示しています。一時の日本や欧州のように底割れしてデフレに陥ることはほぼなくなり、逆に、トランプ次期米国大統領の5500億ドルのインフラ投資や、まだ内容はそれほど明らかではないものの、近く打ち出されるであろう製造業振興政策などを考え合わせると、それなりのインフレ圧力になる可能性が否定できません。米国連邦準備制度理事会(FED)は2017年中に3回の利上げペースを示唆していますが、あるいは、この年3回の利上げのペースがスピードアップする可能性もあり得るものと考えるべきです。

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2017年1月 6日 (金)

毎月勤労統計に見る賃金は上昇の気配もなく派遣スタッフも賃金上昇は停滞か?

本日、厚生労働省から昨年2016年11月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から▲0.2%減と、生産が回付器季調に戻ったにもかかわらず、派生需要としての労働の残業が増えていないのは少し違和感があります。一方で、現金給与指数のうちの所定内給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.4%の伸びとなっています。ただし、ヘッドラインの消費者物価がこの秋の天候不順で野菜の高騰を受けて11月は上昇していますので、物価上昇を差し引いた実質賃金は減少に転じています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

実質賃金、11カ月ぶりマイナス 11月0.2%減
厚生労働省が6日に発表した11月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月と比べて0.2%減った。マイナスとなるのは11カ月ぶり。名目でみた賃金は人手不足などを背景に緩やかに増加しているが、伸びは小幅で勢いを欠く状況が続いている。
名目にあたる現金給与総額は27万4778円で、前年同月比0.2%増と伸びは限定的だった。増加は2カ月連続。名目の給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は24万377円で、0.4%増えた。増加は5カ月連続。一般労働者は0.3%増、パートタイム労働者は0.2%増えた。
物価が動いた影響を除いた実質賃金は家計の購買力を測る指標。消費者物価指数が前年同月と比べて0.4%上昇したことが実質で見た賃金の減少につながった。
安倍政権は経済界に4年連続となる賃上げを求めている。賃上げを起点として個人消費を上向かせ、経済の底上げにつなげる考えだ。しかし今年は原油高や円安などの市場環境の変化に伴い、物価に上げ圧力がかかるとみられている。
物価上昇分を加味すれば賃金は増えづらい状況が続く可能性があり「実質賃金のマイナスは一時的とみられるが、上昇の勢いは落ちる」(SMBC日興証券の宮前耕也シニアエコノミスト)という指摘がある。
残業代などにあたる所定外給与は1.3%減った。所定外労働時間の減少が影響した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額と所定内給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、1番下の3番目のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

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11月の鉱工業生産指数(IIP)の統計で伸びを示した生産と所定外労働時間が逆方向に動いているのが気にかからないわけでもありませんが、取りあえず、単月の動きですのでもう少しならして傾向を見るべきではないかという気がします。また、賃金については基本的に名目で私は見ているんですが、いわゆる恒常所得部分の所定内賃金については、ほぼ安定的に前年比でプラスを記録するようになったと受け止めています。ただし、引用した記事にある通り、ヘッドラインの消費者物価上昇率でデフレートした実質賃金は、天候不順に起因する野菜価格の高騰などから、最近時点で急ブレーキがかかっているのも事実です。直近統計の11月速報ではとうとう前年から伸びがマイナスになってしまいました。このあたりは消費者マインドの低迷にもつながりかねないとと私は考えています。ただ、上のグラフのうちでも一番下のパネルに示された通り、フルタイムの一般労働者の増加率がパート労働者の伸びを上回り始めました。現在のほぼ完全雇用に近い労働市場の帰結は賃金ではなく、正規雇用の増加という形で雇用の質の向上がもたらされるのかもしれません。

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最後に、上のグラフはリクルートジョブズが毎月明らかにしている派遣スタッフ募集時平均時給調査を時系列でプロットしています。見れば明らかな通り、昨年2016年7月までは名目の前年同月比で順調な時給アップが観察されていたんですが、昨年後半にこれまた急ブレーキがかかってしまい、直近の11月は前年比でマイナスを示しています。職種ではSEやプログラマなどのIT・技術系とデザイナーなどのクリエイティブ系が、また、地域では関東圏と関西圏が、それぞれマイナスを記録し始めているようです。逆に、職種ではオフィスワーク系と営業・販売・サービス系が、また、地域では東海圏がまだマイナスにはなっていません。ただし、グラフは省略しますが、同じリクルートジョブズによるアルバイト・パート募集時平均時給調査では、ここ1年以上に渡ってコンスタントに前年比2%程度の時給アップを記録し続けています。何が起こっているのか、現時点で私は情報を持ち合わせませんが、パート・アルバイト以外、正規雇用でも非正規雇用のうちの派遣スタッフでも賃上げが進まなくなっている現状をどう考えるのかのひとつの材料ではないかと受け止めています。

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2017年1月 5日 (木)

今週の読書を早めにアップする!

今週の読書です。というよりも、年末年始休み後半のエンタメ小説を中心とした読書です。新書も何冊か読みました。通常、読書感想文は土曜日にアップするんですが、今週は米国の雇用統計が公表される週ですので、読書感想文は早めにアップしておきます。明日からは経済評論をはじめとして本格的に従来のブログ記事に復帰する予定です。

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まず、高嶋哲夫『電王』(幻冬舎) です。著者は売れっ子のエンタメ作家であり、私はこの作者のすべてではないにしても、かなり多くの作品を読んでいるつもりです。台風の大雨や富士山噴火、さらに、感染症のパンデミックなどの自然災害を中心とするパニック小説の作品が多いような気がします。この作品は、将棋の奨励会でともに腕を磨いた小学生の同級生2人の天才を主人公とする小説です。裕福な企業経営者の一家に生まれ育った少年は将棋を離れて大学から数学やプログラミングに進み、人工知能(AI)の将来を担う若き学者として世界に令名が知れ渡る一方で、中卒からプロ棋士となった天才少年も2度に渡って将棋界のタイトルを総なめにした七冠を達成しています。そして、バックグラウンドでは企業経営を巡って疑心暗鬼の買収・資本提携・技術提携などの情報戦もが繰り広げられています。最後は2人の天災が将棋でぶつかり合います。すなわち、主人公の1人の学者の開発した電脳将棋プログラムともうひとりの主人公の将棋名人の対戦で幕を閉じます。勝敗は明らかにされません。ということで、エンタメ小説として、それほど完成度は高くありませんが、なかなかおもしろかったりします。もちろん、この作家の得意分野の災害パニック小説と同じで、ほぼほぼあり得ない設定なんですが、そうはいいつつも、ネコ型の子守りロボットが未来からタイムマシンでやって来て四次元ポケットからいろんな不思議な道具を取り出すのは、まったくあり得ないわけですから、年末年始休みに時間潰しで読むようなエンタメ小説としてはなかなかいい出来ではなかったか、という気がします。

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次に、米澤穂信『いまさら翼といわれても』(角川書店) です。古典部シリーズ第6巻最新刊であり、『野性時代』と『文芸カドカワ』に掲載された表題作他5編を収録した短編集です。主人公の折木奉太郎、古典部部長の千反田える、そして、古典部部員である福部里志と伊原摩耶花の4人が通っている神山高校古典部を主たる舞台にした青春小説でもあり、ちょっとした謎解きのミステリだったりもします。収録作品は「箱の中の欠落」、「鏡には映らない」、「連峰は晴れているか」、「わたしたちの伝説の一冊」、「長い休日」、「いまさら翼といわれても」となっていて、4人が高校2年生に進級してからその夏休みくらいまでの時間軸のお話しとなっています。長編では欠落していたいくつかの重要なパーツがあきらかにされます。すなわち、摩耶花がどうして漫画研究会をやめたのか、また、奉太郎のモットーが「やらなくていいことなら、やらない。やらなければいけないことなら手短に。」となったのか理由を小学生のころにさかのぼって述懐する、といったものです。今回、私は古典部シリーズ既刊の5冊を読み返してしまいました。そのうち、『氷菓』、『愚者のエンドロール』、『クドリャフカの順番』の3冊は明らかに読んでいた記憶があります。しかし、短編集の『遠まわりする雛』と直前の長編の『ふたりの距離の概算』は未読でした。ただ、『遠まわりする雛』の中の校内放送からケメルマンの「9マイルは遠すぎる」のように紙幣贋造事件を導き出す短編だけは、何かのアンソロジーで読んだ記憶がありました。この短編集もそれなりに面白いんですが、最初の『氷菓』からしてそうだったんですが、話が重いです。表題作の「いまさら翼といわれても」なんぞは、私のような人間には想像もできない重さだろうという気がします。同じ作者の作品で同じようように高校生を主人公にした小市民シリーズも明らかな犯罪行為に足を踏み入れますので、それはそれで重い気がしたんですが、このシリーズも犯罪行為ほどではないとしても、かなり重いテーマを扱っていますので、私のような年齢の読者であればともかく、ホントに主人公と同じような高校生くらいが軽く読み飛ばす小説ではないような気がします。

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次に、柚月裕子『あしたの君へ』(文藝春秋) です。作者はミステリ作家であり、佐方検事シリーズの短編が私は好きで、ドラマ化されていたり、あるいは、いくつか文学賞も受賞していると思いますが、この作品も短編集ながら、家庭裁判所調査官補を主人公にした少年少女の触法行為や両親の離婚などを扱っています。収録作品は「背負う者」、「抱かれる者」、「縋る者」、「責める者」、「迷う者」の6話ですが、最初の「背負う者」は『先週の読書感想部mで取り上げた『悪意の迷路』に収録されていました。これも短編集ながら、家庭裁判所の調査官補が主人公ですからテーマが重いです。実は、私事ながら、私が高校生の時に進路を考えて、当時は頭のいい高校生は、理系では医学部を志望して、当然ながら医者を目指し、文系では法学部から弁護士や裁判官などの法曹界を目指す、というのが見かけられたんですが、私の場合は医者にしても、法曹界にしても、当時の田舎の高校生からすれば、どうも人生の暗い面を見るような気がして、結局、経済学部を志望したという経験があります。まさにちょうど、そういった人生の暗い面を小説に起こしているような気もします。もちろん、大切で重要な事項であり、未成年が触法行為というか、犯罪を犯したり、夫婦が離婚したり、という人生の暗い面の背景を鋭くえぐるタイプの小説です。脳天気に笑って読み進めるような小説ではありませんが、謎解きめいて人生の暗い面の背景に何があるのかが鮮やかに示されたりもします。その意味ではそれなりの上質のミステリかも知れません。検事ほどエラくない調査官補が主人公ですから、その分は親しみやすいストーリーになっているかもしれません。同じシリーズの続編が出版されたりしたら、たぶん、私は読みたくなるんだろうという気がします。なお、同じ作者の最新刊が『慈雨』と題してすでに出版されています。警察官を定年で退官した男性を主人公とする長編ミステリのようで、私はまだ図書館の予約の順番が回って来ていません。

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次に、高村薫『土の記』上下巻(新潮社) です。著者はもうベテランの域に達したミステリ作家なんですが、本書はミステリではないという位置づけになっています。ただし、というか何というか、私は最近ではこの作者の作品は、ほぼ合田雄一郎シリーズしか読んでいなかったりしますが、最近作の『太陽を曳く馬』とか、『冷血』とかの文体はこの作品と同じだと受止めています。ですから、扱っている内容が、警視庁の警部が犯罪行為の解明に当たるというミステリに対して、この作品では、70過ぎの平凡な男性が極めて淡々と奈良に在住してシャープを定年退職し農業にいそしむという小説に仕上がっているだけで、私には大きな違和感はなく読み進むことが出来ました。私は奈良の中学校・高校に通っていましたし、馴染みのある地名がいっぱい出て来ました。ちなみに、私の出身高校の名も出て来ますし、その高校の同級生の一家が代々経営する最中とか、そうめんの銘柄も出ています。ということで、主人公の勤務していたシャープという企業名を含めて、割と堂々と実在する学校や企業などの固有名詞を引き合いに出して、奈良在住の田舎の生活を活写しています。そして、亡くなった主人公の女房は70近くになっても浮気をしていたり、行方不明の大昔の人が大雨の後の土砂崩れで死体が出て来たりと、また、最後の行方不明者の記述なんかもミステリ、というか、ホラーじみた田舎生活を暗示しないでもないんですが、基本はミステリでもホラーでもないような気がします。そして、そういった主人公の農業を主体とする田舎生活に比べて、娘は東京で離婚してニューヨーク生活で新しくアイルランド系の獣医と再婚したり、その娘、すなわち、主人公の孫が夏休みに奈良に期てテニス三昧の生活を送ったりと、決して田舎生活の描写だけに終始した小説ではありません。まあ、好き嫌いはあると思いますし、繰り返しになりますが、合田雄一郎シリーズとの連続性は大いに感じられます。書評を読んで読むかどうかを決めるべき作品ではなかろうかという気がします。

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次に、井上智洋『人工知能と経済の未来』(文春新書) です。著者は若手のマクロ経済学者です。早大大学院では若田部先生あたりを指導教員にしていたような雰囲気が、本書から私には読み取れました。ということで、新年早々ですが、ここ数年で一番の新書でした。かなり前に、大阪大学の堂目教授が書いた『アダム・スミス』という中公新書を読んで、2008年5月26日付けで読書感想文を書きましたが、それに匹敵する内容だった気がします。本書では、前半部分でAIの進歩などを概観しつつ、今世紀半ばにはほぼ90パーセントくらいの雇用が失われる可能性があるとし、その対策としてベーシック・インカムの導入を主張しています。要するに、ごく短く書くとそういうことです。もちろん、AIについても、現在かなりの程度に実用化されている特殊な用途に特化したAIと人間の知能に極めて近い全脳的なAIはまったく違うとか、経済についても平均年齢が上がって資産が増加すると成長に対する志向が衰退するとか、生産性の伸びに応じた貨幣を供給して需要不足を金融政策で創出する必要性とか、正確でありかつ、なかなか興味深い視点を提供しています。でも、何といっても労働が機械化されて雇用が激減する経済ではマルクス的な階級観からすれば労働者階級がいなくなって、資本家階級しか残らないということであり、その場合は、生活保護におけるミーンズ・テストで行政コストをかけるよりは、ベーシック・インカムで最低限の生活を保証する方が適切、という視点には驚きつつも、大いに同意してしまいました。特に、p.219にはベーシック・インカムの賛同するエコノミストが何人か上げられていて、私の尊敬する人が少なくないのには感激してしまいました。ただ、私自身はケインズ的にワークシェアリングで各個人の労働時間を劇的に減らすとか、マルクス的に中央集権指令経済にはしないまでも社会主義的な道も、国民の選択としてあり得るではないか、という気はします。大いにします。

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次に、中野信子『サイコパス』(文春新書) です。著者は脳科学者で、医学博士の学位を持っています。本書は、タイトル通りというか、サイコパスに関する諸説を並べていますが、例えば、サイコパスは遺伝で先天的に受け継がれるのか、あるいは、後天的に社会や家族の中で形成されるのか、また、サイコパスを見抜くための身体的特徴などといわれると、大昔のロンブローゾ的な決めつけの失敗を思い出しかねないんですが、繰り返しになるものの、いろいろと心理学や脳科学の立場から諸説が展開されています。その中で、その昔にはエリートなんぞと呼ばれた社会的地位の高い人にサイコパス的な特報を見出す下りがあります。当然といえば当然なんですが、社会的な地位が高い、というか、出世した人は、まあ、よくない表現かもしれませんが、それなりに「腹黒い』要素を正確的に持っていなければならないような気もしますし、そうであれば、サイコパス的な要素をいくぶんなりとも持っているような気もします。ただし、私が大きな疑問とするのは、サイコパス、というか、ソシオパスは医学的ないし心理学的な脳科学の対象なのかどうか、という点です。すなわち、私自身はサイコパスというよりも、ソシオパスと表現すべきと考えており、すぐれて社会的な存在なんではないかと受け止めています。例えば、家畜を屠殺するのとペットを虐待するのは、社会的な位置づけの違い以外の何物でもありません。家畜でもなく愛玩動物でもないクジラを食べるかどうかを考えれば明らかです。ですから、医学的・心理学的に科学の装いを持ってロンブローゾ的にサイコパスを論じるのは少し私には危なっかしい議論に思えてなりません。十分な警戒心を持って読むべき本ではないかと思います。少なくとも、決して本書の内容を鵜呑みにすべきではないでしょう。

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最後に、冷泉彰彦『トランプ大統領の衝撃』(幻冬舎新書) です。著者はジャーナリストのようです。割と早く、昨年の年内に読んだんですが、大いに期待外れでしたので、読書感想文としては最後に持って来ました。やや意外感を持って受け止められた昨年11月の米国大統領選挙のトランプ次期大統領の当選について、何らかのジャーナリストらしい分析や、事実の発見があるのかと思いましたが、何もありません。米国の共和党と民主党の両党の予備選挙から、11月の米国大統領選挙にかけて、著者が何らかの媒体に寄稿して来たコラムや記事の断片を、特に何の工夫もなく、ダラダラとクロノロジカルにつなぎ合わせただけの代物です。政策分析というよりは、選挙手法・選挙のやり方に関する論評はそれなりに含まれていますが、選挙システムが日米で大きく異なりますから、それほど印象的でもありませんし、だからどうなのか、トランプ次期大統領に何かが有利に働いたのか、といわれれば、とくにそういった分析もなされていません。まあ、便乗商法の一種で出版されたと考えるべきかもしれません。なお、本書を離れて、私の見方ですが、トランプ次期大統領の当選は、米国の民主党から黒人大統領が生まれ、さらに今回も女性の候補を出して来て、政治的なマイノリティの候補、あるいは、政治的な正確さ political correctiness がかなり極限までリベラル化された反動ではないか、少なくとも、ひとつの要因ではないか、と考えています。振り子が逆に振れたわけです。そして、世論調査の結果と少しズレがあったのはブラッドリー効果ではなかったのか、と受け止めています。いずれにせよ、もう、就任式まであとわずかですから、話題の閣僚や在日大使などの人事だけでなく、実際の政策動向に関する情報が欲しいところです。日本経済は再び相対的に米国と比べて小さくなり、その昔の「米国がくしゃみをすれば日本が風邪をひく」という状態になっていることを忘れるべきではありません。

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2017年1月 4日 (水)

今日はご用始め!

今日は、役所的にいえばご用始めです。でも、今はこの用語は少数派となっていて、仕事始めの方が多数派なのかもしれません。というのも、NHK放送文化研究所のサイトによれば、ご用始めではなく仕事始めと言い習わすようにしている旨が明らかにされています。
帰省をはじめとする旅行などもあって、私のオフィスでもまだ全員がそろっていたわけではありませんが、私は出勤しました。今年も1年、お国のためにお仕事します。

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2017年1月 3日 (火)

正月3日目もまったり過ごす!

お正月は覚悟はしていましたが、どこに行っても混み合っています。
銀座や渋谷なんぞは国籍を問わず人でいっぱいでした。その中で、都心のオフィス街のカフェは比較的空いていることを実感しました。もっとも、丸の内はそれなりのショッピング街でもありますのでダメですが、国家公務員である私のホームグランドである霞が関周辺はお正月の穴場かもしれません。今日行ったカフェは、普段のお昼休みは行列ができるんですが、今日はガラガラでした。行ってませんが、ひょっっとしたら、本郷あたりの大学街もそうかもしれません。

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2017年1月 2日 (月)

正月2日目はまったり過ごす!

昨日は初詣とか、我が家の周辺だけを少し出歩いたんですが、今日は電車に乗って少し都心まで足を延ばしてみました。昨日の我が家周辺の駅前商店街でも感じたことですが、その昔の私が小学生のころは、正月3が日くらいは店やさんもお休みだったような気がするんですが、今や元旦から開けているところも少なくないように見受けられます。電車・バスは当然として、また、私の小学生のころにはなかったコンビニも開けていているのは判るんですが、スーパーやドラッグストアなどの、特にチェーン店はほぼ元日から開いていますし、同じくチェーンのファストフード店も元日から営業のように見受けられます。さすがに、我が家が使っているクリーニング店は家族営業のようで、正月5日から営業との貼り紙を見かけましたが、それ以外のチェーン店では元日営業もめずらしくないように感じました。
昨年2016年12月20日に取り上げたプレミアムフライデーも、早帰りして買い物やレジャーを楽しむ側とそれらのサービスを提供する側の格差の問題をやや軽視しているような気がしてなりません。私の父親は休日やお正月にも出勤するようなタイプのサービス業でしたので、私はカレンダー通りに休める公務員になったというひとつの要因でもありましたが、ネットも含めた通販であれば買い物も格差なしと考えていいのかという問題ではなく、すべてとはいわないまでも、多くの国民が等しくアクセスできる何らかのお楽しみ、というか、何というか、レジャー的な要素のある何かがあるかどうか、今一度考えるべき時期ではないでしょうか?

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2017年1月 1日 (日)

初詣に出かける!

穏やかないいお正月です。近くの神社に初詣に行きました。我が家は少し前まで一家そろって初詣に出かけていたんですが、すでに下の倅ですら選挙権を持つ年齢に達し、昨年から一家バラバラで初詣に出かけています。行きは昨年買い求めた破魔矢を持ってお焚きあげにお供えし、帰りは新しい破魔矢を買い求めていますので、行きも帰りも往復とも破魔矢を持っての初詣でした。下の写真の通り、おみくじは吉でした。
それはそうと、昨日、大晦日に正月3が日向けにお菓子を買い込んだんですが、早くも昨夜の紅白歌合戦から食べ始め、今日ですべて食べ尽くしてしまいました。体重が激増しそうな予感です。
下の写真は初詣に行った片田舎の神社とおみくじです。

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紅白歌合戦は椎名林檎の圧勝!

もう寝ようと思ったんですが、昨年の紅白は例年になく熱心に見てしまいました。

椎名林檎の圧勝だった気がします。都庁前の熱唱は記憶に残りそうな気もします。「時よ止まれ」でストップした都庁前の人々も印象的でした。
でも、その少し前にバイオリンの三浦文彰が登場したのには驚きました。ピアノの金子三勇士とともに、注目のアーティストです。

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明けましておめでとうございます!

あけましておめでとうございます。

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新しい年2017年が先ほど明け、エコノミストの端くれとして、少しでも日本と世界の経済が上向き、国民生活が豊かになることを祈念しております。毎年、同じ願いだったりします。
それでは、そろそろ寝ます。おやすみなさい。

なお、上の画像はART BANKのサイトから借用しています。

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