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2017年4月20日 (木)

貿易統計に見る輸出はいよいよ拡大局面に入ったか?

本日、財務省から3月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+12.0%増の7兆2290億円、輸入額は+15.8%増の6兆6143億円、差引き貿易収支は+6147億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易黒字、6年ぶり 16年度4兆円、震災後で初 3月輸出は12%増
財務省が20日発表した3月の貿易統計速報(通関ベース)によると、輸出は前年同月比12.0%増の7兆2291億円で、リーマン・ショックのあった2008年9月以来の水準となった。中国向けの液晶デバイスなどがけん引し、アジア向けの輸出額が過去最高を記録した。2016年度の貿易収支は4兆69億円の黒字で、東日本大震災の前年にあたる2010年度以来、6年ぶりに黒字を確保した。
足元の輸出は好調だ。中国向けは、前年同月比16.4%増の1兆2995億円で、5カ月連続の増加。2月に春節(旧正月)休暇後の反動増があった分、減るだろうとの事前予想を覆し、過去2番目の水準になった。自動車部品や電気回路の機器などは4割増えた。中国向けに加えて、タイ向けの鉄鋼なども好調で、アジア全体では日本からの輸出額が過去最大となった。
輸出は米国・EU向けでも好調が続く。米国向けの輸出額は1兆3531億円と3.5%伸び、2カ月連続で増加した。日系企業の現地生産向け自動車部品や、原動機で2桁伸びた。EU向けはイタリアへの自動車輸出の伸びが寄与した。世界経済の追い風を受けて輸出に勢いがある。
一方、3月の輸入額は前年同月比15.8%増の6兆6144億円だった。原油市況が底入れし、サウジアラビアからの原油輸入額が増えた。オーストラリアからの石炭の輸入額が増えたことも影響した。輸出額から輸入額を引いた貿易収支は17.5%減の6147億円だった。2カ月連続の貿易黒字だが、好調な輸出を上回る輸入の伸びで、黒字額は縮小した。
財務省が同日発表した2016年度の貿易収支は4兆69億円の黒字で、東日本大震災以来、6年ぶりに黒字を確保した。東日本大震災以降は原子力発電所の停止で火力発電所向けの燃料輸入が増えていたが、原油相場の低迷と、16年度は対ドルで前年度比10%の円高になった影響で輸入額が減った。
16年度の輸出は3.5%減の71兆5247億円。米国やサウジアラビア向けの自動車、欧州向けの鉄鋼が減少した。輸入は10.2%減の67兆5179億円だった。マレーシアやカタールからの液化天然ガス(LNG)輸入額が減ったほか、サウジアラビアやアラブ首長国連邦(UAE)からの原油輸入が減った。
16年度の対米の貿易黒字は6兆6294億円で、5年ぶりに減少した。大型車や鉄鋼などの輸出が減少した。トランプ政権は日本を多額の貿易赤字相手国の一つとみなす。日本から米国向けは、16年度通期で見ると自動車輸出が減り、足元ではトランプ大統領の意に沿う形で、現地生産向けの部品が伸びる構図だ。

3月のデータが利用可能になったため、どうしても年度計数に目が行きがちで長めの記事となっているものの、3月の貿易統計に関しても最近の足元での輸出の堅調ぶりを報じた内容となっており、いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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まず、メディアで注目の年度計数ですが、震災前の2010年度から数えて6年振りに年度で貿易収支が黒字を記録しています。震災後のここ数年は原子力発電所の停止で火力発電所向けの燃料輸入が増えていたわけですが、すでに底を打ったとはいえ原油相場が低迷を続けるとともに、2016年度は対ドルで前年度比10%の円高になった影響で輸入額が減った影響が大きいと私は受け止めています。他方、輸出は足元で中国や先進国も含めて世界経済の回復ないし拡大から回復基調を続けています。ただし、引用した記事にもある通り、なぜか、対米国の貿易黒字は6兆円余りと水準は高いものの、2016年度は黒字幅が縮小しているようです。自動車輸出の減少に伴う黒字縮小であり、シェールガスやオイルの影響ではないと考えられています。3月については、引用した記事の見方とは異なり、中華圏の春節の影響で大幅な黒字となった2月の反動は、少なくとも季節調整済みの系列には着実に出ており、上のグラフの下のパネルに見られるように、季節調整済みの系列では3月の輸出額は2月から減少しています。このため、季節調整済みの系列では、2月の貿易黒字+6090億円に比較して、3月は+1722億円と急減を示しています。春節効果で大きな変動の見られる原系列ではなく、季節調整済みの系列では輸出の減少と貿易黒字の縮小が3月に観察されることは忘れるべきではありません。ですから、2016年度の貿易黒字は、ある意味では、世界経済の回復ないし拡大と我が国経済の足踏みを需要面のバックグラウンドにしていたわけですが、季節調整済み系列で見た3月統計ではそうなっていない、という点はエコノミストとしては確認しておいていいと私は考えています。我が国経済も回復ないし拡大の方向にある可能性が高いと考えるべきです。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。輸出額はハッキリと回復ないし拡大を示しており、その背景はOECD先行指数に見られる海外経済の回復による我が国輸出への需要拡大です。

なお、まだ1月ほど先のお話ですが、5月18日には1-3月期のGDP統計1次QEが内閣府から公表される予定となっており、貿易統計の結果から考え合わせると外需寄与度は輸出拡大により1次QEにはプラス寄与になることが見込まれるんではないかと私は考えています。

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