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2017年5月13日 (土)

今週の読書は経済書や専門書に小説と新書まで合わせて計8冊!

今週の読書はやや先週よりも増えて、学術書である経済書に加えて、ノンフィクションの専門書に小説と新書まで合わせて計8冊でした。以下の通りです。

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まず、鍋島直樹『ポスト・ケインズ派経済学』(名古屋大学出版会) です。著者は名古屋大学の研究者であり、出版社と考え併せても、学術書であることは明らかですので、それなりの覚悟で読み進む必要があると思います。いくつか書き下ろしの章があるとはいえ、ほとんどの章は既発表の論文で構成されています。ただ、本書でも指摘している通り、「ポスト・ケインズ派経済学」という一派があるのかどうかは疑わしく、そこはマルクス主義経済学とは一線を画します。もっとも、ケインズによってマクロ経済学が創始されたわけでしょうから、私のような開発経済学を専門とするエコノミストも含めて、成長や物価、開発などをマクロの立場から研究・分析する一派は広い意味でのポスト・ケインジアンと読んでも差し支えないような気もします。ということで、本書ではケインズ経済学あるいはポスト・ケインズ経済学の主要な特徴として、有効需要の理論を上げています。私なんぞは価格の硬直性と考えないでもないんですが、まあ、いいとします。その上で、ニュー・コンセンサス・モデルにおける余りに実物的な均衡理論を批判し、需要の増加が物価を引き上げるだけに終わって、産出水準を引き上げない点を疑問視するとともに、マクロ経済における投資の役割と、それゆえの公共投資委員会の設立をもくろんだケインズの意図などを解説してくれています。また、古典派的な貨幣ベール論を廃し、金融政策の基礎を与えたケインズ経済学の評価を確立します。最後の第4部では、カレツキがケインズとは独立に同じ結論に足していた可能性を議論しています。また、最近のことですので、サブプライム・バブル崩壊に関連して、独自にケインズ経済学をひも解いたミンスキーの金融不安定仮説についても触れています。全体として、右派的・保守的な新自由主義経済理論に代わって、左派的かつリベラルなケインズ経済学・ポスト・ケインズ経済学の確立に向けた議論が展開されています。ただ、少し不満だったのは、もっと不平等や格差に関する議論が欲しかった気がします。最終的には成長に収斂する可能性は高いものの、経済学や経済政策を評価する軸として、格差是正がどのような位置を占めるか、不平等の是正をどう進めるべきか、などなどの議論につなげる観点が少し稀薄ではないか、と私は受け止めてしまいました。

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次に、加藤創太・小林慶一郎[編]『財政と民主主義』(日本経済新聞出版社) です。編者・著者は官庁出身の研究者が多く並んでいた気がします。日銀出身者もいたりします。人材豊富なのかもしれません。本書は東京財団の研究活動の成果とされています。ということで、本書では財政政策が民主主義下における決定による何らかの歪み、特に、財政の膨張や財政収支の赤字化のバイアスを持つ可能性を議論し、可能な範囲でその是正策を展開しています。すなわち、経済政策の代表格として金融政策が政府から独立した中央銀行によって運営されている一方で、本書が対象とする財政政策は歳入・歳出が予算として議会で議決される必要があり、その意味では、強い民主主義下での決定ともいえます。本書の何人かの論者は、暗示的ながら、欧州などにおける財政に関する独立組織を例示して、財政政策についても金融政策と同じように、専門家による運営を示唆している場合もありますが、私はまったく逆の主張であり、金融政策も民主主義下では国民の意思を無視しえないと考えていますので、ノッケから本書とは逆の立場に近いことを実感しました。しかし、第2章ではシルバー民主主義のバイアスが実証的に確認されており、その意味では私の主張に近いチャプターもあったりします。財政赤字を問題視し、アプリオリに財政収支均衡を政策目標とするのであれば、本書のような議論もあり得ることとは思いますが、財政政策の目標というそもそも論を開始した議論を本書では展開しているので、かなり空回りした印象があります。すなわち、財政政策の主要な機能としては通常の教科書的には3点上げられており、第1に資源配分の改善、すなわち、公共財の供給、第2に所得の再分配、すなわち、格差の是正、第3にマクロ経済の安定、となります。その中で、財政政策が民主主義下で赤字化しやすいバイアスを持つ可能性は、ブキャナン・タロックも論じている通りであり、私も否定しないものの、こういった財政政策の機能を無視する形で財政規模の縮小や収支均衡を論じても仕方ないんではないか、というのが私の感想です。財政赤字を回避したければ、いろんな方法があり得ますが、その際の財政政策の国民生活への影響や上に上げた財政政策の機能に対する何らかのトレードオフがあるのかどうか、そういった視点なしに単なる財政の収支均衡だけを論じても何の意味もないんではないかと危惧します。

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次に、八代充史『日本的雇用制度はどこへ向かうのか』(中央経済社) です。著者は慶応大学の研究者であり、本書ではホワイトカラーの人事管理、特に、同一産業・同一市場で競争している企業の人的資源管理は、日系、米系等の資本国籍間の人材獲得競争を通じて一定方向に収斂するのか、あるいは異なったままなのか、という、雇用制度間競争の視点から日本的雇用制度にアプローチを試みています。産業としては投資銀行を取り上げており、市場としては英国のロンドンと東京に着目しています。なお、最終章は自動車産業を取り上げているんですが、投資銀行と対比させて、我が国の得意分野、というか、比較優位のある産業の代表として概観していると考えた方がよさそうで、本格的に自動車産業のホワイトカラーの人事管理を分析しているわけでもなさそうな気がします。ということで、本書の分析の対象として中心となるのは投資銀行なんですが、典型的な産業と呼びうるかどうかには私は疑問を持っています。すなわち、マクラガンのサーベイに代表されるように、賃金調査が行き届いており、業界の平均的な賃金水準が一目で明らかになっており、しかも、歩合制セールスマンよろしく、ホワイトカラー労働者各個人の売上げや収益への貢献がかなりの程度に明確だからです。本書が対象とするホワイトカラーの人事管理は、あくまで、企業のフロントとなる営業部門であり、もっとも人事管理の分析で難しいそうな間接部門、典型的には総務や人事や経理などのホワイトカラーの生産性分析や、それに基づく人事管理賃金設定などに関する分析ではありません。ただ、資本基準で収斂するのか、市場基準で収斂するのか、とくに、日系投資銀行の人事管理について、統計分析ではなく、ヒアリングという代表制に疑問の残る手法ながら、ある程度の傾向を明らかにしたのは、それなりに評価すべきかもしれません。ただ、限界の方を強く感じるのは私だけではなかろうという気がします。

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次に、山口敬之『暗闘』(幻冬舎) です。今年4月1日付けの読書感想文で取り上げた『総理』と同じ著者により、同じ出版社から出されていて、続編といえます。著者はTBSの政治部の記者であり本書も基本的に取材に基づくノンフィクションと考えられます。本書では第2次安倍内閣以降の現内閣の外交政策に焦点を当てています。基本的に、従来からの職業外交官、すなわち、外務省のお膳立てによる外交について、特に対中国外交については、ほぼ相手国の言いなりになった主体性のない外交として廃され、国益を重視した主体性があって官邸主導の外交を進めようとする意気込みに満ちています。その昔であれば、諸外国のことについては政治家には情報が少なく、在外公館のネットワークを持つ職業外交官の方に比較優位があったのかもしれませんが、情報については政治家でも遜色なく入手できるようになり、しかも、組織的な外交というよりは首脳間の人間的な信頼関係に基づく外交が目指されるようになった結果として、政治主導・官邸主導の外交の現在があるといえるんですが、著者はそこまでの目配りは行き届いていません。ページ数で数えたボリュームとしては、当然ながら、ほぼ半分が対米外交に割かれていて、残りを中国とロシアが占めています。本書も示唆されている通り、ロシアと中国では世界経済に占めるウェイトが桁違いなんですが、我が国の場合は北方領土問題が残されており、まだ平和条約が未締結となっているわけで、欧米外交に占めるロシアの比重よりは重いものがあるのは理解すべきです。さいごに、時期的な関係で仕方ないんでしょうが、やはり、北朝鮮の瀬戸際外交と挑発については十分な紙幅が割かれていません。次の課題なのかもしれません。

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次に、塩田武士『罪の声』(講談社) です。2017年本屋大賞にて第3位にして、第7回山田風太郎賞受賞作品ですから、とても話題の小説です。作者は関西系の新聞社のジャーナリスト出身だったと思うんですが、私はデビュー作の『盤上のアルファ』と『女神のタクト』ほか何冊か読んだ記憶があります。この作品は、グリコ森永事件を下敷きにして、ノンフィクションっぽく仕上げた小説だと私は受け止めています。どこまで真実に基づいていて、どこからが著者の創作なのかは、もちろん、明らかではありません。江戸期のナントカ草紙みたいなものではないかと思います。グリコ森永事件はギンガ萬堂事件と表記され、かい人21面相はくら魔天狗と変えられています。犯人一味の家族が追うラインとジャーナリストが追うラインの2ラインありますが、真実に近づくにつれて2つのラインは交わっていっしょになります。当然です。プロローグとエピローグが別にあるものの全7章構成となっていて、第6章の後半で事件のほぼほぼ全貌が犯人一味のひとりからジャーナリストに語られる一方で、犯人一味のうちのある家族のその後について第7章で明らかにされます。まあ、常識的なセンですが、犯人一味は経済ヤクザ、警官崩れ、裏社会のフィクサー、過激派学生のなれの果て、また、在日やエセ同和などからなり、事件の前面に押し出された身代金まがいの金銭目的ではなく、株式の仕手戦での利益を少なくとも目的のひとつとしている点が明らかにされます。第3章や第4章くらいまでの前半は、個人が追いかけるラインはともかく、ジャーナリストが追いかけるラインは英国まで取材に行ったりして、緻密に構成されて緊張感も高く、それなりに読者をワクワクさせるものがあるんですが、後半に入って、特に第6章で英国にいる犯人一味のひとりがQ&Aで事件の全貌を明らかにするところは、いかにも「アッサリと自供した」という感じで、物語が進むに従って、作者の筆の疲れもあったのかもしれませんが、ストーリーの進み方が荒っぽくなった印象があります。特に、真実を追いかけるジャーナリストが何の妨害工作や危険にも出会わずに、割と一直線に真実に近づいて行くのが、何やら物足りないと感じる人も少なくなさそうな気がします。とても面白い着想なんですが、筆力や表現力ではなく、ストーリーの構成にもう一工夫あったら、さらに出来がよくなるような気がします。でも、ノンフィクションというか、真実に近い内容を含んでいると想像させるに足る小説です。

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次に、中山七理『翼がなくても』(双葉社) です。オリンピックを視野に入れた女子アスリート、陸上短距離200メートルの実業団選手が、隣家で引きこもりになっている幼馴染みの運転する自動車にひかれて陸上選手の生命である足を切断してしまうところからストーリーが始まります。そして、その加害者の幼馴染みが自宅で刃物により殺害されます。他方、オリンピックからパラリンピックに目標を切り替えて、高価な義足を購入して専任のスタッフ体制を充実させて、ひたすら邁進する主人公の女性アスリートの姿に共感を覚えるものの、殺人事件の謎解きミステリとしては凡庸といわざるを得ません。私自身は、この作者の岬洋介シリーズとヒポクラテスのシリーズは何冊か読んでいる一方で、悪徳弁護士を主人公とする御子柴礼司シリーズと刑事を主人公とする刑事犬養隼人シリーズはほとんど読んでいないんですが、この作品は謎解きのミステリが凡庸であることを作者自身も理解しているためか、キャストは豪華な布陣となっていて、シリーズ主人公の御子柴礼司と犬養隼人がダブルキャストで登場します。主人公の女性アスリートが次々と高額の資金を必要とする障害者スポーツ向けの用具やスタッフを準備するのと殺人事件の謎解きが表裏をなしているわけですが、ミステリとしても、障害者スポーツ小説としても、凡庸極まりなく、かなり物足りない、というよりも、むしろ、ガッカリさせられた気がします。

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次に、森永卓郎『消費税は下げられる!』(角川新書) です。著者はテレビなどでもおなじみのJT出身のエコノミストです。財務省の宣伝工作で「常識」とすらなっている感がありますが、日本の財政は先進国の中では最も不健全で借金頼みになっている、という事実について反論し、よくあるパターンながら、債権債務のネットで見るとか、いろいろと数字を示した後で、本筋の日本の財政が日銀のQQEにより超健全になり、サステイナビリティに何ら問題がない、という結論が示されます。ここまでなら、今までに出版されたいくつかの書籍と同じ主張です。この先が本書の特徴であり、日本の財政は決して悪くないのだから、消費税は下げられるし、消費税を下げれば現在の消費の停滞は打破できる、と主張します。まあ、その通りです。単に、消費税は下げられる、というだけではタイトルを見ただけでも得られる情報なんですが、消費税以外にも、かなり具体的な政策提言が含まれており、特に、第4章の税・財政改革の諸提案だけでも読むに値すると思います。いかに現行の制度が富裕層に有利で格差を助長するものとなっているか、についても理解が深まるような気がします。全体として、かなりリフレ派の発想に近い、すなわち、正統派の経済学に基づいている、と私は受け止めています。

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最後に、常見陽平『なぜ、残業はなくならないのか』(祥伝社新書) です。著者はリクルート出身の研究者らしいんですが、私はよく知りません。問いがタイトルになっていて、その回答は私には明らかなんですが、どうしても、質的な回答にならなければ得心が行かないということなんだろうと受け止めています。すなわち、私の目から見て、非正規の季節雇用がこれだけ増加しても残業があるのは、業務に対して雇用者が不足していて、量的に業務量とそれを実行すべき雇用者がアンバランスだからです。それを何とか生産性やカギカッコ付きの「質的な改善」で乗り切ろうということなんですが、ある程度までは出来るとは考えられるものの、業務を減らすか雇用を増やすかしか根本的な解決がないのに、なぜかその周辺をグルグルと回って、本質的な解決を提示せずに済むように取り計らっているようです。政府の働き方改革の中で、本書にも取り上げられている電通の過労自死事件があり、上辺だけ夜の10次で仕事を終えても、業務量としてせねばならない仕事がある限り、お持ち帰りのサービス残業をせざるを得ません。ですから、雇用を増加させるのがもっとも根本的な解決なんですが、そうすると雇用コストが上昇しますから、そこで初めて業務の削減に目が行く、ということなんだろうと思います。ヤマト運輸の現在のやり方ですし、本書でも最後の方は業務を厳選するという方向性も示されています。いずれにせよ、このタイトルの本書がこの内容ですから、ワーク・ライフ・バランスの取れた日本の未来はいつになればやって来るのか、とても不安な気がします。

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