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2017年7月22日 (土)

今週の読書はかなり経済書があって計6冊!

今週の読書は経済書もタップリと計6冊。以下の通りです。

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まず、藤井聡『プライマリー・バランス亡国論』(育鵬社) です。著者は都市社会工学専攻の京都大学教授ですが、現在は内閣官房参与として、ご専門の防災・減災ニューディール担当だけでなく、幅広く公共政策に関して現在の安倍内閣をサポートしているようです。本書ではタイトル通り、財政政策から幅広く経済ア制作一般について取り上げ、特に、基礎的財政収支=プライマリー・バランス(PB)を2020年度に黒字化との財政政策目標について、この目標は2010年の民主党政権の菅内閣のころのものであり、過度に財政を黒字化することから日本経済にはマイナスであり、もちろん、デフレ脱却にも逆行し、財政再建の目標と相反して、財政赤字を増加させかねないと主張しています。リフレ派のエコノミストである私の考えともかなりの程度に一致しており、実際に、民主党政権下で与野党合意した10%への消費税率引き上げについては、第2段階目の10%への引き上げが何度か先送りされたものの、第1段階での2014年4月時点での8%への引き上げで大きなダメージがあり、まだ消費が消費税引き上げ前の状態に戻っていないのも事実です。もちろん、放漫財政に堕することは避けねばならないとしても、現時点で、日銀の異次元緩和の下で量的緩和のために国債が大量に日銀に市場で買い上げられている状況では、我が国政府債務のサステイナビリティには特に問題もなく、過剰に消費税率を引き上げてまで財政再建に取り組むのは行き過ぎであり、従って、フローとしてのプライマリー・バランスの黒字化ではなく、ストックとしての政府債務残高のGDP比を安定させることをもって政府目標とすべき、というのは本書の主張です。ついでに、企業や政府の債務によって経済が成長する、とも主張されています。まったく私のその通りだと考えます。私の基本的な経済政策スタンスとして、ほぼほぼ100%本書の趣旨に賛同する、という前提の下で、いくつか指摘しておきたい点があります。というのは、第1に、1947年の第1回経済白書で「家計も企業も政府も赤字」という有名な表現がありますが、マクロ経済学的に家計部門、企業部門、政府部門、海外部門の4セクターの貯蓄投資バランスを純計するとゼロになります。データの制約がなければ、世界各国の貿易収支の純計がゼロになるのと同じ理屈です。ですから、政府や企業が債務を発生させて投資を行い、経済を成長させるためには何らかの貯蓄の原資が必要になります。第2に、私もその昔に大学の教員で出向していた際に、財政の持続可能性に関する紀要論文を取りまとめ、政府の目標とすべきはフローの財政バランス化、あるいは、ストックの政府債務残高か、と考えを巡らせましたが、やはり、ストックの政府債務残高の方が内生性が高く、すなわち、政府が政策変数として操作できるのはフローの財政バランスであって、その結果としてストックの政府債務残高が内生的に決まる、としか考えようがありませんでした。まあ、金融政策では、通常の場合、オペレーションを操作して金利を目標にするわけですから、本書のように内生性が高くても政府債務残高を目標にすべきという議論は十分に成り立ちますが、まずは、毎年の予算における財政バランスに目が行くのもあり得ることだという気はします。

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次に、田代毅『日本経済 最後の戦略』(日本経済新聞出版) です。著者はよく判らないんですが、経産研の研究者ということのようです。博士号の学位は取得していないのでポスドクでもなさそうですし、大学の教員でもないようです。よく判りません。とはいうものの、本書の主張もかなり幅広いものの、現在の政府の経済政策を多くの点でサポートしている分析を展開しています。特に、浜田教授がシムズ論文に触発されて、デフレ脱却における財政政策の役割を主張し始めていますが、本書の著者は明確に物価水準の財政理論 (Fiscal Theory of Price Level, FTPL)を支持しています。ただ、私も本書のタイトルにひかれて読み始めましたが、実は、日本経済の現在のパフォーマンスの低さは政府債務の累積から生じていると、私の目からは論証希薄でアプリオリに前提した上で、いかに債務の負担を軽減するか、というお話に終始しているようです。債務以外の成長論や金融財政政策以外の幅広い経済政策を取り上げているわけではありません。逆に、債務の重責からの脱却についてはとても幅広く考察を巡らせています。例えば、金融抑圧、資産課税、民営化などの政府資産売却、デフォルトや債務再編、インフレなど、普段あまりメディアや学界などでは議論されない選択肢があることを提示しています。官庁エコノミストとしては、実際の政策としては、手を付けにくい選択肢であるといわざるを得ません。また、ほぼ政府債務だけを成長の阻害要因としていますので、それ以外の人口動態とか通商政策などには目が向けられていません。ですから、第6章の財政余地の使い道などについても明確ではなく、子育てや少子化対策、あるいは、家族の支援などの高齢者への社会保障ではない社会保障、あるいは、インフラ整備などへの使途が考えられるんですが、そのあたりの分析は物足りないものがあります。また、債務危機に関してギリシアが何度か取り上げられていますが、私は内国通貨で発行されている国債については、日本の場合はサステイナビリティにはほとんど問題ない、と認識していますので、やや的外れな印象もありました。ただ、経済成長と財政再建はトレードオフではないと主張し、タブーを恐れず、あらゆる政策手段・目標を総動員して長期停滞から脱出すべく、クルーグマン教授の用語でいえば「脱出速度」を上げ、同時に、債務問題を解決するための手立てを探るという知的な取り組みはなかなかのものがあります。債務整理以外の問題が何も取り上げられていないのはやや物足りませんし、結論がややありきたりかもしれませんが、それなりにあらゆる選択をを考慮する頭の体操にはよさそうな気がします。繰り返しになりますが、官庁エコノミストには議論すらムリそうな主張も数多く含まれています。

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次に、 谷口明丈・須藤功[編]『現代アメリカ経済史』(有斐閣) です。アメリカ経済史学会のメンバー17人が序章と終章を除く17章のチャプターごとに執筆した本です。タイトルそのまんまなんですが、副題は『「問題大国」の出現』とされています。17章をズラズラと並べるわけにもいきませんから、4部構成となっていて、第1部 経済と経済政策、第2部 金融市場と金融政策、第3部 企業と経営、第4部 社会保障・労働と経済思想、となっているんですが、最後の第17章のように、苦しい配置になっているチャプターもあります。年代の範囲は1929年の大恐慌やニュー・ディールあたりから、2008年のリーマン・ショックまでをカバーしています。ハッキリいって、チャプターごとに精粗まちまちで、マルクス『資本論』やレーニン『帝国主義論』が参考文献に出るようなチャプターもあれば、歴史かどうか疑わしい、例えば、第17章などもあります。チャプターごとに読者の方でも参考になったり、興味を持てたりするかしないか、いろいろとありなんだろうと思いますので、私のようにそれなりの時間をかけて通して読むというよりも、ひょっとしたら、興味あるチャプターを拾い読みするべきなのかもしれません。なお、私の場合、第1部では反トラスト政策の変遷が興味ありましたが、スタンダード・オイルの成立などを考えると、1929年からではなく1880年ころから追って欲しかった気もします。第2部の金融は概ね出来がよかったです。第3部はともかく、第4部は経済史のカテゴリーに収まり切らない気もしましたが、現在の米国の経済的な格差を考えると、もっと注目していい分野かもしれません。伝統的なマルクス主義的経済史の考えによれば、原始共産制から始まって、古典古代の奴隷制、中世の農奴制、そして、近代以降のブルジョワ資本主義から、革命があるとすれば、社会主義や共産主義に歴史は進むんでしょうが、米国の場合は、おそらく、近代資本主義からいきなり始まるんではないかという気がします。最後に、経済史の範疇ではありませんが、教育についてはもっと掘り下げた歴史的な分析が欲しい気がします。500ページを超えるボリュームで、さすがの私も読み切るのにかなり時間がかかってしまいました。ただ、悲しいながら、ノートを取りながらていねいに読むタイプの学術書ではありません。これも、ハッキリいって、学術書としての出来はそれほどオススメ出来ません。

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次に、小林由美『超一極集中社会アメリカの暴走』(新潮社) です。著者はよく判らないながら、金融機関でエコノミストをしていたようです。もう定年近い私よりもさらに年長の方のようです。10年ほど前に『超・格差社会アメリカの真実』というタイトルの本も出版されているようですから、米国における格差について長らく着目されているようです。ただ、経済学的な鋭い分析はありませんので、一般読者には判りやすい可能性がある一方で、例えば、エコノミストの目から見たりすれば、ややデータに基づく検証が少なくて情緒的な印象が残るかもしれません。出だしが、「0.1%」対「99.9%」ですから、ウォール街を占拠せよのオキュパイ運動の1%をさらに情緒的に細かくした印象を私は持ちました。こういった経済学的ではなく、単なる表現上の強調には私は感心しません。現在の米国で所得や富が一極集中しているのは、エコノミストでなくてもかなり多くの人々がすでに知っている、というか、少なくとも日本人でも知識としてはあるわけですから、本書のようにその実態を伝えないのであれば、著者のようにメディアから知ることのできる一般論を羅列するのではなく、ジャーナリスト的にもっと取材に基づく確固たる事実を、たとえバイアスがあったとしても、もっと個別の事実を集めるべきだったような気がします。昨年お米国大統領選挙で、あるいは、民主党の予備選挙でサンダース候補があそこまで食い下がった要因、そして、何よりもトランプ米国大統領が当選した背景など、格差とどのような関係にあり、本書のチャプターのタイトルを用いれば、ウォールストリートの強欲資本主義、あるいは、シリコンバレーの技術革新、などなどとどのような関係を見極めるべきか、知りたいところです。私自身は本書の著者の主張と相通ずるところがあり、現在の米国の混乱や不安定、典型的にはトランプ大統領誕生を支えた移民に対する排斥感情など、こういった考えは現在までの政治の怠慢、ないし、不作為から生じており、政治がキチンと向き合えば、そして、政府が適切な政策を採用すれば、完全なる解決とまではいわないにしても、それなりの緩和措置は可能なハズだと、本書の後半の底流をなしていますし、私もそう考えています。しかし、現時点では、英国がEU脱退を国民投票で決めたり、米国にトランプ大統領が誕生した一方で、フランスのマカロン大統領の当選のように、ポピュリズム一色で反民主主義的な傾向が一直線に進むわけではありません。米国だけを見ていれば、本書のように「メガトレンド」と感じてしまうのかもしれませんが、まだまだ先進国の中にも捨てたものじゃない国は残っています。

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次に、野中郁次郎『知的機動力の本質』(中央公論新社) です。著者は、旧日本軍の敗因を分析したベストセラーである『失敗の本質』の著者の1人であり、一橋大学の名誉教授です。本書は中公新書で出版された『アメリカ海兵隊』の続編だそうですが、私は余りにも専門外なので読んでいません。ということで、タイトルがとても魅力的だったので借りて読みましたが、要するに、米国海兵隊の提灯持ちをしているだけのような気がします。米国海兵隊のどこが知的であり、どこが機動的なのかはまったく理解できませんでしたし、当然、知的であったり、機動的であったりする要因も見当たりませんでした。まあ、米国海兵隊が世界水準からみても最強の軍隊のひとつである点は、専門外の私でもほのかに理解できる気がしますし、その強さについて歴史的な観点も含めた分析も有益かもしれませんが、これが我が国の企業経営に役立つ、米国海兵隊が我が国企業のロールモデルになる、とは私のようなシロートからは考えられません。せいぜいが、精神論的な役割くらいではないでしょうか。まずもって、私が奇異に感じるのは米国海兵隊というのは戦闘や武力行使を行う集団であって、政治や外交の一部としての戦争を行う集団ではない、と私は考えています。シビリアン・コントロールを持ち出すまでもなく、クレマンソーではないですが、「戦争は将軍に委ねるにはあまりに重大な問題だ」ということであり、戦争を遂行するのはあくまで政治家であり、戦争の中の戦闘行為を行うのが軍隊である、と私は考えています。そういった観点は本書にはまったく見られません。逆に、とぼけたことに、消防士がいるから火事があるのではないとうそぶいていますが、戦争は軍隊があるから誘発される場合があり、なぜなら、戦争は単なる戦闘行為ではなく、武力をもって行う政治や外交の延長だからです。繰り返しですが、米国海兵隊が最強の軍隊のひとつである認めるにやぶさかではないものの、知的であるのは戦闘行為の基になる戦争を遂行する政治や外交レベルが知的なのだからであり、機動的なのは先進工業国である米国の製造業が軍隊を機動的に運送する手段を提供するからです。いずれも米国海兵隊に付属する特徴かもしれませんが、本書のように米国海兵隊を政治や外交、あるいは、国内産業から切り離して論ずるのは意味がないと私は考えています。昨日金曜日夜の時点でアマゾンの書評も意見が分かれており、星5ツが2人、途中がなくて、星1ツが1人です。私は星1ツの書評に同意する部分が多いような気がします。

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最後に、荒居蘭ほか『ショートショートの宝箱』(光文社文庫) です。30のショートショートが収録されています。作者もほぼほぼシロートに近い駆け出し作家から、それなりに名の知れた小説家まで、とても幅広く、もちろん、作品の傾向も星新一もどきのSF、あるいは、ホラー、ちゃんと完結していないもののミステリ、さらに、青春や家族や恋愛やといったフツーの小説のテーマまで、極めてバラエティ豊かに収録しています。たぶん、涙が止まらないといった泣けるお話はなかったように思いますが、心温まるストーリー、思わず吹き出すような滑稽さ、ほっこりしたり、ジーンと来たり、やや意外な結末に驚いたり、1話5分ほどで読み切れるボリュームですから、深く感情移入することはできない可能性もありますが、ごく日常の時間潰しにはもってこいです。電車で読んだり、待合わせや病院の待ち時間に楽しんだり、夜寝る前のひとときなど、私のような活字中毒の人間が細切れの時間を有効に活用するためにあるような本だという気がします。スマホではなく、読書で時間潰しする人向けです。また、私はごく平板に読み切ってしまいましたが、お気に入りの作品を探すのもひとつの手かもしれません。

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