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2017年8月26日 (土)

今週の読書はいろいろ読んで計7冊!

今週は夏休みからお仕事に復帰して、それでも8月ですので、やや時間的な余裕もあり、7冊とついついオーバーペースになってしまいました。新書や文庫を含みますので、それほどのボリュームでもないんですが、来週はもう少しセーブしたいと思います。

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まず、山口一男『働き方の男女不平等』(日本経済新聞出版社) です。著者は米国シカゴ大学社会学教授ですが、研究内容はほとんど経済学といって差し支えありません。本書では、タイトル通り、男女間の労働市場における差別についてモデルを用いた理論分析と実証分析を行っています。基本的には、労働供給サイドではなく、企業側の女性労働の需要サイドの研究なんですが、途中で少し私も混乱を来してしまい、時間当たり賃金率なのか、時間当たり賃金率に労働時間を乗じた所得なのか、もしも後者であれば、単に女性を長時間働かせればOKということかもしれません。ただ、最終第8章で著者の考えが最後の最後に明らかにされるんですが、生産性と比較した賃金の機会の平等を考えるのであれば、統計的な差別を含めて、企業サイドの女性労働値の差別的取扱いに従って、機会の平等を確保しつつ結果の平等を達成できない事態が考えられるとした上で、結果としての平等を追求すべき著者の考えが明らかにされます。ホントの適材適所を実現し、性的な差別のない雇用環境を整え、各人が生産性や適正に従った労働を実行し、その労働に応じた賃金を受け取る、というのは確かに理想かもしれませんが、現在の制度学派的な思考の下では、ハッキリいって、労働や雇用の課題ではありません。所得はもちろん、ワークシェアリングを含めた分配の課題と考えるべきです。そして、理想の所得の分配が、理想的な労働や仕事の配分に基づいて実行されるかは、マルクス主義的に考えなくても、現行の制度下では実行可能かどうかは疑問です。ケインズの1日3時間労働とともに、のっとも理想的な雇用や労働の配分と所得の分配を実現するためには、現在の市場による資源配分ではない、別のシステム、ひょっとしたら、社会主義や共産主義かもしれませんが、たぶん、違うだろうと私は想像しています。そういった、別の次元を考える必要があるような気がしてなりません。

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次に、香取照幸『教養としての社会保障』(東洋経済) です。著者は厚生労働省、というか、厚生省出身の公務員で、現在はどこかの大使に転出していますが、小泉内閣のころに長らく官邸に詰めていたことを記憶しています。私もそのころ官邸勤務でした。ということで、タイトルからも理解できる通り、社会保障という場合、著者のように実務として関係する場合、そして、アカデミックな世界などで学問として関係する場合が多く、制度的に複雑なこともあって、身近な割には教養として接することはないような気もします。平易な表現とともに、国民各層が身近に接するマイクロな社会保障の面だけでなく、政府財政への影響なども含めたマクロの社会保障の両面を取り上げています。なかなかの良書だという気がしますが、難点もいくつかあります。まず、冒頭に社会保障に対する批判については教育の責任として文部科学省に責任を転嫁しています。私は冒頭のこの部分だけでかなり評価を落としているんではないか、と受け止めてしまいました。それから、ここまで社会保障を展開しているんですから、最近の話題としては人工知能(AI)やロボットの活用に伴うベーシック・インカムについてほとんど触れないのは、やはり、現時点での社会保障論としては物足りない気がします。

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次に、塚崎公義『経済暴論』(河出書房新社) です。著者は興銀の調査部から学界に転じたエコノミストのようです。実務家ご出身で大学院などのアカデミックな経歴ではありませんから、経済学部卒業ではなく法学部卒業だったりします。ということで、少し常識登攀するようないくつかの事実を平易に解説しています。ただし、私の目から見て、経済合理性に基づいて世間一般の常識と反する結果を導き出しているケース、例えば、埋没原価サンクコストの問題とか、組織への忠誠心と仕事のプロ意識のトレードオフとか、が取り上げられている一方で、行動経済学的な検知などから人間の非合理的な決定が世間一般の常識と反するケースを、特に区別せずに同一の「世間一般の常識と違う」というカテゴリーでくくっていますので、経済学的な素養があれば、逆に疑問に感じる場合もありそうな気がします。でも、本書の結論たる最終第6章の、特に、最後の数点の論点、すなわち、日銀が債務超過に陥っても問題ない、また、日本政府は破綻しない、あるいは、日本経済は労働力不足で黄金時代を迎える、などの論点は私もまったく同意します。ただ、黒田日銀の金融政策を「偽薬効果」と称しているのは、何らの根拠が示されておらずレッテル貼りに終わっているのが残念です。期待に働きかける金融政策に対する無理解が背景にあったりするんでしょうか?

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次に、有栖川有栖『濱地健三郎の霊なる事件簿』(角川書店) です。作者はご存じ関西系の新本格派ミステリの代表的な作者の1人です。法月綸太郎や綾辻行人など私の出身の京都大学ではなく、同志社大学のご出身だと記憶しています。この作品は作者あとがきによれば怪談という位置づけのようですが、依然、『幻坂』に2話ほど収録されてうぃた主人公を心霊探偵として前面に押し出して、事件解明に当たるミステリ風な短編を収録しています。オカルトものとして怪奇現象の解明や除霊などをするものとしては、櫛木理宇「ホーンテッド・キャンパス」がありますが、それほど心霊現象を全面に押し出したものではなく、心霊現象をヒントに実際の人間の犯罪行為を解明するというパターンが多かったような気がします。また、オカルト探偵といえば、エドワード D. ホックの作になるサイモン・アークがいますが、サイモン・アークは超常現象に見える事件ながらm実は物理法則に即した、というか、決して超常現象ではない事件を解明しますので、かなり違います。ということで、本書は、決して、殺された被害者の例から犯人を聞き出すという安直なミステリではなく、新本格の旗手の手になるミステリです。それから、次の真梨幸子のイヤミスとついつい読み比べて比較してしまうんですが、やっぱり、法月綸太郎とかこの作者の作品は文体がとても上品です。それだけ読みやすいともいえます。

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次に、真梨幸子『祝言島』(小学館) です。作者はイヤミスの女王のひとりであり、主として女のいやらしさを盛り込んで読後感の悪いミステリを書く作家です。とはいいつつ、私はかなりこの作家は評価しており、出来る限り新刊書を読もうと努力しています。本書は、作中では小笠原諸島の南端付近にあって、すでに地図からは抹消されているタイトルの島にまつわる物語ですが、主たる舞台は東京です。1964年の東京オリンピックの直前に祝言島の火山が噴火し、島民は青山の都営住宅に避難した、という設定になっています。そこから、40年余の後の2006年12月1日に東京で3人の人物が連続して殺され、未解決となっている「12月1日連続殺人事件」をからめて、独特の異様なストーリを紡ぎ出しています。ミステリである限り、殺人などの違法行為は当然に物語に含まれますが、この作品ではかつてのロボトミー手術などの集団による不法行為が盛り込まれており、その点にやや違和感を覚えました。また、トランスセクシュアルの存在も盛り込んでいますが、真梨作品としてはそれほどの出来とは思えませんでした。たしかに、グロテスクでエロの要素もあるんですが、私自身の読書の傾向として、ややロボトミーで読む気をなくした気がします。

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次に、吉川洋・八田達夫{編著}『「エイジノミクス」で日本は蘇る』(NHK出版新書) です。著者・編者は高名なマクロ経済学者ですが、野村総研や三菱総研のスタッフも執筆陣に加わっています。高齢化が進展して経済の将来に悲観的な見方が広がる中で、敢然とこの見方に挑戦し、高齢化をイノベーションの好機と捉え、日本経済の明るい先行きを示しています。具体的には、本書のp.30の図用に従って、財・サービスのイノベーション+制度のイノベーション×病弱な人+健康な人、2×2の4つのマトリクスに従って、以下第2章から5章まで4章に渡って各論が展開されます。基本的には、ベンチャー資本などによる新たな革新の方向性をかなり拡大解釈しているだけなんですが、やっぱり、こういったイノベーションに関するケーススタディでは、当然ながら、成功例ばかりがクローズアップされ、成功例の裏側にその数倍数十倍数百倍の失敗例が隠されていることが忘れられていることは覚悟しておくべきです。まあ、統計の分析とケーススタディの違いです。本書で取り上げられているイノベーションのシーズがどこまで現実に開花するかは私にも不明ですが、高齢化が決して経済成長にマイナスばかりではない、という点は特に強調されるべきであろうと思います。

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最後に、泡坂妻夫・折原一ほか『THE 密室』(実業之日本社文庫) です。推理小説の中でも、密室をテーマとしたアンソロジーです。収録作品は、飛鳥高「犯罪の場」、鮎川哲也「白い密室」、泡坂妻夫「球形の楽園」、折原一「不透明な密室」、陳舜臣「梨の花」、山村正夫「降霊術」、山村美紗「ストリーカーが死んだ」の7つの短編であり、作者の氏名の50音順で収録されています。それほどレベルは高くありませんが、それぞれに特徴的な密室事件の解明が図られています。江戸川乱歩などのその昔から、縁の下や屋根裏などのある日本家屋の特徴として、密室が成立しにくいといわれ続けていますが、それなりにバリエーションに富んだ短編ミステリを収録しています。ただし、繰り返しになりますが、それほどレベルは高くない上に、それほど新しくもないので、もっと本格的に密室を読みたい向きには、ナルスジャックと組む前のボアローの編集になる『殺人者なき6つの殺人』の方がいいかもしれません。もっとも、コチラもそれほどレベルは高くありません。

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