毎月勤労統計に見る賃金の減少は何を意味するのか?
本日、厚生労働省から7月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から▲1.0%減を示し、また、現金給与指数のうちのきまって支給する給与は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.5%増となった一方で、ボーナスなどの特別に支払われた給与が大きく減少したため、現金給与総額のは▲0.3%減を記録しています。さらに、消費者物価が上昇を示していますので、現金給与総額を消費者物価でデフレートした実質賃金は前年同月比で▲0.8%の大きなマイナスとなっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
名目賃金、7月0.3%減 1年2カ月ぶりマイナス
ボーナス減響く
厚生労働省が6日発表した7月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、労働者1人あたりの名目賃金にあたる現金給与総額は37万1808円と前年同月比0.3%減少した。前年同月を下回るのは1年2カ月ぶり。夏のボーナスが減ったことが要因だ。物価上昇分を差し引いた実質賃金は0.8%減少した。
名目の給与総額のうち、基本給にあたる所定内給与は前年同月比0.5%増の24万2487円と4カ月連続で増加。一方、ボーナスなどにあたる「特別に支払われた給与」は2.2%減の11万156円だった。夏のボーナスが飲食サービス業で前年同月比23.0%減と大幅に減少し、賃金全体を押し下げた。
実質賃金の減少は2カ月連続。減少幅は15年6月以来2年1カ月ぶりの大きさだ。消費者物価指数(持ち家の帰属家賃を除く総合)が0.6%上昇したことで、実質賃金を名目賃金よりさらに押し下げた。
厚労省は「基本給は上昇傾向が続いており、給与総額の減少は一時的ではないか」との見方を示した。また速報段階ではボーナス分を集計できていない事業所もあり、確報値で変動する可能性がある。
やや賃金に関して集中的に報じている印象がありますが、まずまずよく取りまとめられている気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。
上のグラフに沿って見ていくと、まず、景気と連動性の高い製造業の残業時間については、鉱工業生産指数(IIP)とほぼ連動して7月は減少に転じています。次に、報道でも注目を集めた賃金ですが、前年同月比で見て、現金給与総額で▲0.3%減、内訳をもう少し詳しく見ると、所定内給与は+0.5%増、所定外給与は+0.1%増、所定内給与と所定外給与を合わせたきまって支給する給与は+0.5%増ながら、ボーナスなどの特別に支払われた給与が▲2.2%減となっていて、全体をマイナスにしています。消費への影響が大きく、経済学的にいわゆる恒常所得と呼ばれる部分の賃金は名目で増加しているんですが、ボーナスなどの臨時的な賃金部分が減少しているわけです。ですから、各家計にとって名目値では賃金や所得は増加の印象があると考えられますが、デフレ脱却に向けて消費者物価が上昇を始めていますので、物価上昇でデフレートした賃金はマイナスを示したままであることも確かです。ただ、上のグラフのうちの最後のパネルに見られる通り、パートタイム労働者の伸び率がかなり鈍化して、各企業はフルタイム雇用者の増加を目指し始めているように見えます。ですから、労働者がパートタイムからフルタイムにシフトすることにより、マイクロな賃金を集計したマクロの所得については、決してマイクロな労働者ごとに観察されるほどは悪化していない、と私は受け止めています。もちろん、9月1日に公表された法人企業統計に見る通り、企業が収益力を高める一方で労働分配率は低下を続けていますから、上のグラフの3番目のパネルに見られる通り、季節調整済みの系列で賃金を見ても、なかなかリーマン・ショック前の水準に戻りそうにありません。ただ、先行きに関しては、人手不足の進行とともにサービス業などで賃金上昇につながる可能性も大きくなっており、消費を牽引する所得の増加に期待が持てると私は考えています。
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