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2017年10月19日 (木)

ハリケーンの影響で9月貿易統計の米国向け自動車輸出が伸び悩む!

本日、財務省から9月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+14.1%増の6兆8110億円、輸入額も+12.0%増の6兆1408億円、差引き貿易収支は+6702億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の貿易収支、4カ月連続黒字 6702億円 米向け半導体製造装置など堅調
財務省が19日発表した9月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は6702億円の黒字だった。貿易黒字は4カ月連続。QUICKがまとめた市場予想の中央値は5600億円の黒字だった。米国向けの半導体製造装置など輸出の伸びが輸入の伸びを上回り、前年同月(4866億円の黒字)より黒字幅が拡大した。
輸出額は前年同月比14.1%増の6兆8110億円と、10カ月連続で増加した。9月の為替レート(税関長公示レートの平均値)が1ドル=109.48円と前年同月から7.5%の円安となり、円建ての輸出額を押し上げたことも寄与した。
地域別に見ると、対米国が11.1%増と8カ月連続で前年実績を上回った。半導体などの製造装置や車両エンジンの増加が寄与した。対欧州連合(EU)は11.5%増、中国を含む対アジアも18.7%増となった。
輸入額は12.0%増の6兆1408億円だった。資源価格の上昇や円安で原粗油や石炭などが増加したほか、医薬品も伸びた。対米国ではエネルギー関連のほかスケソウダラのすり身などの輸入が増加したが、3カ月連続の貿易黒字だった。対中国はパソコンやテレビの輸入が増加し、7カ月連続の貿易赤字。対EUは2カ月ぶりに貿易黒字となった。
同時に発表した2017年度上半期(17年4~9月)の貿易収支は1兆9190億円の黒字だった。黒字は4期連続。輸出は前年同期比12.8%増の38兆3738億円、輸入は15.3%増の36兆4549億円だった。輸出は米国向け自動車や中国向け電子部品などが伸びた一方、輸入も石炭や液化天然ガス(LNG)などエネルギー関連が伸びたため6期ぶりに増加し、貿易黒字は前年同期から20.3%縮小した。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

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貿易収支を算出するもととなる輸出額と輸入額を数量要因と価格要因に分解すると、輸出額の数量要因は米国向け輸出などが落ち込んで、輸出額の増加幅が縮小しており、他方、輸入額は数量要因が小幅な減少に転じる中で、輸入価格が高水準を維持したことで輸入金額全体のプラス幅は小幅な縮小にとどまっています。引用した記事にもある通り、9月の税関長公示レートは1ドル109.48円と、前年比+7.5%の円安水準であったことから輸出入額ともに円建てで少し膨らんでいます。為替の価格要因だけでなく、所得要因についても、世界経済の順調な回復・拡大に伴って、我が国の輸出がまさに主力輸出品である自動車などで伸びている一方で、我が国の景気も順調な回復・拡大の軌道にあり、従って、輸入額も国内経済活動に応じた伸びを示しており、輸出と輸入がともに拡大する好ましい局面に入りつつあるんではないかと私は受け止めています。4か月連続の貿易黒字はメディア受けする一方で、昨年2016年の年央から後半にかけて、すなわち、6月の英国国民投票によるBREXITと11月の米国大統領選挙のころには、経済外要因ながら、ポピュリズムの動向に伴って世界経済の先行き不透明感が増していた時期ですから、今年2017年にはその反動も感じられます。もっとも、北朝鮮情勢次第では地政学的なリスクの顕在化も懸念されます。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。輸出については、9月の輸出額の伸び率が8月を下回りましたが、基本的に、米国のハリケーンの影響であろうと私は考えています。例えば、米国向け輸出を品目別に原系列の統計の前年同月比で見て、引用した記事にもある通り、半導体等製造装置などの一般機械は+21.0%の伸びを示した一方で、自動車などの輸送機械はわずかに+1.2%にとどまっています。米国向けの電気機械輸出でも、一般消費者向けなどの音響・映像機器が▲17.8%と減少を示した一方で、事業者向けなどの重電機器は+40.0%の伸びを示しています。ハリケーンの影響に伴う米国消費の低迷が我が国の輸出にも現れていると私は受け止めていますが、逆に、極めて一時的な影響でしょうから、天候要因さえ元に戻れば輸出も増加に転じる可能性が高い、と考えるべきです。

最後に、米国で金融正常化に伴う金利引上げが議論され、さらに、イェレン議長の後任の連邦準備制度理事会(FED)議長もそろそろノミネートされるかもしれず、為替が動くことも含めて、金融要因から何らかの貿易への影響が生じるリスクについて忘れるべきではないと思います。

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