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2017年11月30日 (木)

鉱工業生産指数(IIP)は堅調な伸びを続ける!

本日、経済産業省から10月の鉱工業生産指数 (IIP)が公表されています。季節調整済みの系列で前月比+0.5%の小幅な増産を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の鉱工業生産、前月比0.5%上昇 基調判断は「持ち直し」で据え置き
経済産業省が30日発表した10月の鉱工業生産指数(2010年=100、季節調整済み、速報値)は103.0と、前月に比べ0.5%上昇した。上昇は2カ月ぶり。設備投資に向けられる資本財や、原材料として投入される生産財が全体をけん引しプラスとなったが、QUICKがまとめた民間予測の中央値(前月比2.0%上昇)は下回った。経産省は生産の基調判断を「持ち直しの動き」に据え置いた。
全15業種のうち8業種で前月を上回った。最も上昇に寄与したのは電気機械工業(2.5%上昇)。半導体・IC測定器や開閉制御装置に加え、冬に向けてエアコンの生産も伸びた。輸送機械工業は0.7%上昇した。駆動伝導・操縦装置部品や船用ディーゼル機関などがけん引した。汎用・生産用・業務用機械工業(0.7%上昇)ではフラットパネル・ディスプレー製造装置などが好調だった。
一方、低下したのは6業種だった。最も低下に寄与したのは化学工業で2.9%低下だった。合成洗剤や合成ゴムなどの品目が落ち込んだ。石油・石炭製品工業(6.4%低下)も低下に寄与した。電子部品・デバイス工業(0.6%低下)は液晶素子や半導体集積回路などスマホやタブレット端末に使われる電子部品の生産が伸び悩んだ。窯業・土石製品工業は前月比横ばいだった。
出荷指数は0.5%低下の98.8だった。2017年5月(98.2)以来の低水準。在庫指数は3.1%上昇の110.6と6カ月ぶりにプラスとなった。在庫率指数も3.5%上昇の114.2だった。
メーカーの先行き予測をまとめた製造工業生産予測調査では、11月が2.8%上昇、12月は3.5%上昇となった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、鉱工業生産と出荷のグラフは以下の通りです。上は2010年=100となる鉱工業生産指数そのものであり、下のパネルは輸送機械を除く資本財出荷と耐久消費財出荷のそれぞれの指数です。いずれも季節調整済みの系列であり、影を付けた期間は景気後退期を示しています。

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ということで、前回の鉱工業生産統計の公表時において、製造工業生産予測調査では10月は前月比で+4.7%との結果が出ており、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでも中央値で+2.0%、レンジでも1.1~3.4%の増産が見込まれていたんですが、結果的に、+0.5%増のやや物足りない統計に終わりました。特に、生産は増加したものの、出荷が前月比で▲0.5%の減少を記録しており、差引きで在庫が積み上がっている、もしくは、積み増されている状況です。やや下振れした印象があったので、例の自動車の最終検査における無資格検査問題で10月下旬から一部メーカーが出荷を停止し、それに合わせて生産も減産に入った影響が頭に浮かんだんですが、大きな影響はなかったと受け止められています。例えば、産業別に詳しく見ると、輸送機械の10月の生産は前月比で+0.7%の増産、出荷は+1.0%増となっています。ただし、さらに詳細には、乗用車の生産・出荷が増加したというよりは、駆動伝導・操縦装置部品などの伸びのようですから、無資格検査問題がなければ生産も出荷もさらにプラス幅が大きかった可能性も否定できないものの、少なくとも、この無資格検査問題による生産・出荷への影響は決して長期に及ぶことはないと考えられます。ですから、それほど信頼性は高くない統計とはいえ、製造工業生産予測調査では11月+2.8%、12月+3.5%のそれぞれ増産を見込んでおり、うち、輸送機械は11月+2.1%、12月+3.4%のそれぞれ増産となっていて、いわゆる「挽回生産」の動きは見られません。
先行きについては、世界経済の回復に伴う輸出の増加や国内でも耐久消費財の買い替えサイクルの復活などから、引き続き、緩やかな増産が見込まれますが、来月12月にも米国連邦準備制度理事会(FED)が連邦公開市場委員会(FOMC)で追加利上げに踏み切る可能性が高く、海外経済の先行きはFEDの出口戦略に従ってリスクがないとはいえないものの、現時点で利用可能な情報を総合すれば、米国の利上げはかなり緩やかなペースで実施されると考えられ、大きな混乱は生じないものと想定してよさそうに私は考えています。少なくとも、米国経済への大きな下押し圧力になる可能性は小さい一方で、新興国や途上国における資金フローにどのような影響を及ぼすかは、やや見通しがたい要素を含んでいるような気がしてなりません。

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2017年11月29日 (水)

1年振りに前年同月比がマイナスに落ち込んだ商業販売統計の小売業販売額は消費の停滞を象徴しているのか?

本日、経済産業省から10月の商業販売統計が公表されています。ヘッドラインとなる小売販売額は季節調整していない原系列の統計で前年同月比▲0.2%減の11兆5330億円と昨年2016年10月以来1年振りにマイナスを示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の小売販売額、前年比0.2%減 天候不順で客足伸びず
経済産業省が29日発表した10月の商業動態統計(速報)によると、小売業販売額は前年同月比0.2%減の11兆5330億円だった。12カ月ぶりに前年実績を下回った。天候不順で客足が伸び悩んだ。経産省は小売業の基調判断を「持ち直しの動きがみられる」で据え置いた。
業種別でみると、最も減少寄与度が高かったのは飲食料品小売業で、前年同月と比べて1.5%減少した。前年より野菜の相場が下がったことが影響した。次に寄与度が高かった機械器具小売業は0.9%減となった。米アップルのスマートフォン「iPhone(アイフォーン)」の新機種発売を前に買い控えが起きたようだ。
大型小売店の販売額は、百貨店とスーパーの合計で0.5%減の1兆5889億円だった。既存店ベースでは0.7%減となった。百貨店は全店ベースで1.5%減少した。天候不順に加え、土曜日が前年より1日少なかったことも響いた。
コンビニエンスストアの販売額は0.6%増の9982億円だった。加熱式タバコやCD・ゲームソフトがけん引した。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、商業販売統計のグラフは以下の通りです。上のパネルは季節調整していない小売販売額の前年同月比増減率を、下は季節調整指数をそのまま、それぞれプロットしています。影を付けた期間は景気後退期です。

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ということで、季節調整していない前年同月比上昇率で見て、引き続き、自動車小売業が+3.2%の増加と堅調な動きを示している一方で、引用した記事にもある通り、天候要因と土曜日が少ない曜日要因も含めて、飲食料品小売業が▲1.5%のマイナスを示したほか、新型iPhone待ちで機械器具小売業も▲0.9%の減少となっています。所得は個人単位で賃金の上昇がほとんどない一方で、雇用者の増加、特に、正規雇用者の増加でマクロの所得は増加していますし、今年の冬のボーナスはそれなりに増加しそうですから、所得要因から消費が減少に転ずる可能性は小さいと私は考えています。季節調整済みの系列で見た前月比も横ばいですし、過度の我が国の消費が停滞しているような悲観論は不要ではないかと思います。ただし、消費者物価上昇率を考え合わせると、実質の消費はほぼ▲1%の減少を示したともいえ、それなりの落ち込み幅ではないかと受け止めています。ボーナスの出方も見つつ、11~12月の統計も注視したいと思います。

最後に、米国では先週の感謝祭の次のブラック・フライデイから始まったクリスマス商戦が好調のようです。11月28日付けの全米小売業協会(NRF)の記者発表資料によれば、11月23日の感謝祭から27日のサイバー・マンデイまでの5日間で、174百万人が実店舗もしくはオンラインで買い物を行ったようです。NRFの事前の予想では164百万人でしたので、この事前予想を上回り好調な滑り出しと受け止められています。同じ5日間の1人当たりショッピング額も335.47に上っており、年齢階層別では25-34歳の年長ミレニアル世代が419.52ドルと、もっとも高額のショッピングをしています。以下のフラッシュはNRFのサイトにアップされているものをシェアして単純に3枚並べています。





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2017年11月28日 (火)

経済協力開発機構(OECD)による「経済見通し」OECD Economic Outlook やいかに?

日本時間の今夜、先ほど午後7時に経済協力開発機構(OECD)から「経済見通し」OECD Economic Outlook が明らかにされています。実は、先週の11月23日の時点で Special Chapter として第2章 Resilience in a time of high debt が公表されており、法人税制による借り入れへ依存するバイアスの削減や equity finance へのインセンティブの強化などを分析結果の政策提言として明らかにしていたんですが、経済見通しについては、ホンのつい先ほど公表されたばかりですので、Key Messages とテーブルを引用して簡単に済ませておきたいと思います。まず、OECDのサイトにアップされている記者向け資料から Key Messages を引用すると以下の通りです。

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次に、OECDのサイトから Real GDP Growth の総括表を引用すると以下の通りです。取り急ぎ、日本の成長率は2017年が+1.5%、2018年+1.2%、2019年+1.0%と順調に潜在成長率をやや上回る成長が続くと見込んでいます。今年2017年6月の年央見通しからは、2017年については+0.1%ポイント、2018年は+0.2%ポイント上方改定されています。

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ついでながら、Chapter 2 Resilience in a time of high debt から法人税制における借り入れへのバイアスの指標につき Figure 2.21. Debt bias in corporate tax systems を引用すると上の通りです。フランスと米国に次いで日本の法人税制は借り入れに依存するバイアスが大きいことが示されています。

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2017年11月27日 (月)

企業向けサービス物価(SPPI)上昇率は+1%に達しないか?

本日、日銀から10月の企業向けサービス物価指数 (SPPI)が公表されています。ヘッドラインSPPIの前年同月比上昇率は+0.8%、国際運輸を除くコアSPPIも+0.7%と、上昇幅は前月から大きな変化なく、引き続き、+1%近いプラスで推移しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業向けサービス価格、前年比0.8%上昇 輸送費上昇が寄与
日銀が27日発表した10月の企業向けサービス価格指数(2010年平均=100)は104.0で、前年同月比0.8%上昇した。前年比の上昇は52カ月連続。前月比でも0.2%の上昇と2カ月連続の上昇となった。人手不足に伴う人件費の上昇や燃料高で、宅配便など道路貨物輸送関連の価格が上昇した。
トラック運転手の不足によるコスト増の転嫁が進む宅配便などの価格の上昇幅が拡大している。廃棄物処理などでも人件費の上昇が価格に反映されているという。「今後は物流費の上昇が、消費者向けの財やサービスの価格上昇に波及する可能性がある」(調査統計局)という。
企業向けサービス価格指数は輸送や通信など企業間で取引するサービスの価格水準を総合的に示す。対象の147品目のうち、前年比で価格が上昇したのは79品目、下落は30品目だった。上昇から下落の品目を引いた差は49品目で、9月の確報値(67品目)から18品目減った。物流関連の価格上昇の一方で、広告関連の価格などは低迷している。「高い収益の割に、企業の広告出稿の動きは弱い」(調査統計局)といい、業種ごとの価格動向には濃淡があるようだ。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、SPPI上昇率のグラフは以下の通りです。サービス物価(SPPI)と国際運輸を除くコアSPPIの上昇率とともに、企業物価(PPI)上昇率もプロットしてあります。SPPIとPPIの上昇率の目盛りが左右に分かれていますので注意が必要です。なお、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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サービス物価については人件費の占める比重が高く、賃金との連動性もそれだけ大きくなっていると私は考えて来たんですが、今年に入ってから前年同月比で+1%に近い上昇率を示しながらも、それ以上には達しなかったのは、逆から見て、それだけ賃金上昇が進んでいない、ということなんだろうと受け止めています。
景気敏感指標である広告が前年同月比への寄与度で▲0.14%を示しているほか、運輸・郵便は同じく寄与度ベースで+0.03%となっています。社会的にも話題になったアマゾンとヤマト運輸との価格交渉などで、人手不足に対応した輸送価格改定が部分的ながらも実施されそうですが、公式発表資料に加えて取材に基づく記事を読む限り、それが10月統計にはジワジワと波及しつつあるような印象です。しかし、それでも1%にも達しない上昇率ですから、現在の日本企業の設備投資や賃上げや広告などの行動パターンを考慮すれば、このあたりが限界なのかもしれません。
ただ、我が国の物価上昇率で+2%に達しない場合、それでも、もし諸外国が通常の国際基準のように+2%のインフレ目標を達成すると仮定すれば、購買力平価的に考えると円高方向の圧力がかかる可能性があります。雇用者への賃金はコストであるとしか企業には認識されていないのかもしれませんが、雇用者にとって賃金は同時に消費の源泉となる所得を形成するわけですし、然るべき水準の賃上げを行って国内経済を活性化させるだけでなく、為替の増価を防止する観点からも賃上げが望まれるところです。かつて賃金を倍増した米国フォードの例もあったそうですが、日本企業にはこういった観点に基づく最適化行動はムリで、あくまで、他社の賃上げを期待しつつ自社の賃上げを抑えるという囚人のジレンマに陥るタイプの合理性の持ち主なんでしょうか?

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2017年11月26日 (日)

特に体力の衰えを感じる今シーズンの冬!

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上の画像は、昨日の記事ですが、気象協会のサイトから引用しています。見ればそのままで、今週後半から気温が下がり、寒暖差も大きいので体調管理にご注意、ということのようです。
実は、今シーズンはかなり早い時期から気温が下がったので、ひょっとしたら寒い冬かもしれないと考え、3年振りくらいにダウンジャケットを出して着用に及ぼうかと考えていたんですが、周囲をそれとなく見回していたところ、現時点で私の観察する範囲では、中年以降の女性と高齢男性しかまだダウンを着用していないように見受けられます。もっとも、私もすぐに還暦を迎えますので、高齢男性のカテゴリーに入るんではないかと考えています。中年女性のダウンは、例の、ややウェウトを絞ったおばさんダウンです。それにしても、あれほど売れたウルトラライトダウンはどこに行ったのでしょうか。とはいえ、私の持っているダウンジャケットはほとんど一生モノで、40年以上も前の高校生のころに親に買ってもらったモコモコのダウンですから、ウルトラライトダウンのようにカッコよくはありません。
それにつけても還暦を前に、寒さに過剰なまでに反応し、体力の衰えを強く感じます。先日は、上の倅の大学祭に自転車で乗り付けたんですが、おそらく寄り道なしで往復30キロ少々、実際、かなり寄り道はしましたものの、それでも50キロには達していないと思われます。それでも、あそこまでヘトヘトになり、アレルギーのクシャミが悪化したのはショックでした。最近は週末にプールで泳いでも、ワンセット2時間で4キロ泳ぐのがせいぜいで、2~3年前までは2時間ではムリでも、少し2時間をオーバーすれば5キロは泳げていたのですが、最近ではその気力も体力もありません。もちろん、個人差が大きいので私の場合だけかもしれませんが、60歳定年制というのは実に絶妙なタイミングにセットしているものだ、と感心しています。

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2017年11月25日 (土)

今週の読書は統計研究会からちょうだいした経済学の学術書を含めて計6冊!

今週の読書は、先週の土曜日が雨がちだったので自転車で出かけられず、経済書が不足するかと心配しましたが、何と、統計研究会の設立70周年記念シンポジウムに招待されて聴講に行ったところ、記念品として統計に関する学術書を2冊もちょうだいしてしまいました。感謝感激です。以下の最初の2冊がそうです。本来であれば、ご寄贈書は別格で取り上げるべきなんでしょうが、まあ、私のほかの200人近いシンポジウム出席者にも記念品が渡っていたようですので、週末の読書感想文のブログに合わせて取り上げておきます。

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まず、福田慎一[編]『金融システムの制度設計』(有斐閣) です。編者は東京大学経済学部の研究者であり、マクロ経済分析の第一人者といっていいと思います。ですから、というわけでもないんですが、本書はほぼほぼ純粋な学術書と考えるべきです。もちろん、出版社のセールストークではビジネスマンも読者として想定しているような宣伝文句を使うことでしょうが、せめて、経済学部の学部上級生か、ひょっとしたら、大学院課程の院生レベルの理解力を必要とする読書になることは覚悟すべきです。という前置きをしつつ、2008年のリーマン・ショック前後の金融危機とそれに続く景気後退のショックを考慮しつつ、金融システムのあり方を一線の研究者がチャプターごとに考察を加えています。本書でも明らかにされているように、金融機関の自由をある意味で制限する規制を強化すれば、その裏側で経営の自由度が制限され、グローバル化の流れの中で環境変化に対応が難しくなる可能性が高まる一方で、規制を緩和して自由化を進め過ぎると金融危機などのショックに対して脆弱性を増す結果ともなりかねません。規制と自由化のトレードオフのはざまで、昭和初期の金融恐慌までも研究対象に加えつつ、定量分析と理論的なモデル分析を用いて、分析を加えています。私が知らなかっただけかもしれませんが、戦前期の金融はホントに自由というか、ほとんど規制のない世界で、銀行が保護されているわけでもないので、そもそも、銀行に預金するという行為自体がリスクを伴う経済活動だった、というのは知りませんでした。確かに、次の労働市場もそうですが、金融にしても、戦前期は規制のない自由な市場であり、その意味で、アングロ・サクソン的な資金調達市場で、株式購入も銀行預金も、同等ではないでしょうが、どちらもそれなりのリスクがあったわけですから、そういった歴史的な経路依存性ある中で、戦後の日本人がいまだに預金が大好きで、投資には及び腰、というのも、なかなか理解が進まないところです。最後に、私には第6章のバブルの理論的解明がとても面白く読めました。

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次に、川口大司[編]『日本の労働市場』(有斐閣) です。コチラの編者も東京大学経済学部の研究者であり、労働経済学の専門家です。本書も学術書であり、我が国の労働市場を中心として幅広い労働経済学のトピックについて一線の研究者がチャプターごとに執筆しています。特に、最後の第Ⅲ部の労働経済分析のフロンティアは類書に例がなく、ノーベル経済学賞を授賞されたサーチ理論から、実験経済学の手法を用いた労働経済学まで、なかなかヨソではお目にかかれない内容かもしれません。労働経済学については、私はいくつか思うところがあり、ポジティブな評価とネガティブな印象とどちらもありますが、まず、ポジティブな方から上げて行くと、やっぱり、経済学の中でデータがもっとも利用しやすい分野だという気がします。逆にいえば、私も雇用を重視するエコノミストなんですが、雇用と労働、それに賃金などは国民生活に直結しており、国民の関心が高く、それだけに各種の調査やデータ蒐集がなされているんだろうと思います。そして、経済学「中華思想」の中でも、特に労働経済学は中華思想的な広がりを持っている分野だという気がします。私なんぞの古い考えでは、労働経済学は野党側の企業とう雇われる側の労働者・雇用者の間で賃金をはじめとする労働条件をめぐって意思決定がなされるマイクロな経済学である、という印象を持っていましたが、生産性や失業率や賃金のマークアップに伴うインフレ率との関係などからマクロkウィ在学の中心課題に連なる一方で、格差・不平等や貧困はもちろん、地域経済問題まで幅広く取り扱える懐の深さを持っています。物理学に大統一理論というのがあって、何種類かの力を統一的に理解する努力がなされているようですが、経済学の大統一理論がもしできるとすれば、その中心は労働経済学かもしれません。ただ、ネガティブな印象がないわけでもなく、それはデータの利用可能性と裏腹の関係もあって、私も労働経済学分野でミンサー型賃金関数の論文を書きましたが、賃金センサスの個票を推計の元データとして利用しています。私レベルのエコノミストでもやっているくらいですので、労働経済学分析では統計の個票を用いる場合が少なくないんですが、そうなると、データへのアクセスがどこまで許容されるか、あるいは、データの利用可能性とともに科学としての再現可能性が担保されるか、といった問題があるような気がします。小保方さんのSTAP細胞と同じです。私の知る限り、論文で用いたデータと分析プログラムをwebサイトで公開して、化学的な再現性、というか、インチキをしていないという証明として用いているエコノミストは少なくないんですが、限られた研究者しか利用可能性のない個票データを分析に用いると、インチキが発生す林泉てぃぶがいくぶんなりとも高まる恐れがあるような気がします。ただ、最後になってしまいましたが、エビデンスに基づく経済政策を考える場合、労働経済学で多用されているようなデータや手法は不可欠であり、今後もこういった方面の経済学研究が進むんだろうとは思いますし、それはそれで評価されるべきとも受け止めています。

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次に、ジェームス K. ガルブレイス『不平等』(明石書店) です。著者はテキサス大学の研究者であり、かの有名なガルブレイスのご子息です。そうある名前ではないので、容易に想像はつくと思います。英語の原題は INEQUALITY であり、2014年の出版です。邦訳タイトルはそのままの直訳です。ということで、経済書なんですが、不平等についていろいろと取りとめもなくエッセイを書き散らしている印象です。真ん中くらいには不平等の測度に関するエッセイもありますし、不平等の解消に向けた政策についても論評を加えていますが、私の印象からすればまとまりなく、相互に矛盾を来しているような部分もあるように感じてしまいました。私にとって少しショックだったのは、ピケティ教授の不平等論に関して穏やかながら反論を加えている点です。特に、資産課税についての見解の不一致は、左派リベラルの中でも学術的な動向によっては格差や不平等に対する考え方がやや違うのは理解できるとしても、明確にこのような形で不平等是正に関する考えが分裂を来す可能性を見せつけられると、新自由主義的な経済学がまだまだ根強く生き残っている中で、少し不安を感じたりするのは私だけでしょうか。最後の方で、ロビー活動や政治献金などによって富が権力に転嫁するという主張が、極めて正しくも、なされているだけに、加えて、賃金や所得の不平等が資産の不平等に蓄積される前に何らかの対策が必要と考えられるだけに、なんとか不平等の是正を早期に政策として結実させていくという大団結の必要性を感じるのは私だけではないような気がします。さらに、拡張クズネッツ曲線を持ち出して、逆U字方ではなくさらにキュービックにN字方に再度反転する可能性を示しつつ、2000年代初めの10年間で不平等が縮小した点については、まだデータが不足するとしても、もう少し分析を加えて欲しかった気がします。内容的に、レベルからして、高校生や大学入学準備の年代、あるいは、大学初学年くらいの理解度で十分に読み解ける内容ですし、それなりの知識は身につくと思いますが、逆に、経験を積んだビジネスマンなどには物足りない印象かもしれません。でも、次へのステップという意味では意味ある読書のような気がします。

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次に、太田康夫『ギガマネー』(日本経済新聞出版社) です。著者は日本経済新聞のジャーナリストです。ということは軽く想像されますが、本書のサブタイトルは『富の支配者たちを狙え』となっており、これを見ても何の本かよく判りません。でも、要するに、世界の大富豪を対象にしたウェルス・マネージメントとか、プライベート・バンキングとか呼ばれるビジネスについて取材した結果が本書で明らかにされています。また、本書にもクレディ・スイスのリポートから引用されているように、いわゆるミリオネアと呼ばれる個人資産100万ドル超の富豪は世界に3000万人あまりいて、この階層が世界の全資産の半分近くを占めています。でも、マネーの世界は少し前まで日本のメガバンクのように、「メガ」の世界だったんですが、今では本書のタイトルのごとく「ギガ」の世界に入りつつあり、ミリオネアからビリオネアを対象とするビジネスの世界ではいっぱいあるようです。逆に、日本の銀行のように大富豪を相手にする資産運用の分野に競争力なく、ミリオネアから1桁ランクダウンした10万ドルくらいの準富豪層を相手のビジネスもあるようです。これくらいであれば、日本のサラリーマンも何とか相手にしてもらえるかもしれません。本書では、プライベート・バンクというか、そもそも銀行の先がけとなった業態を十字軍の留守を守るイタリアに求め、また、スイスや英国の伝統的なプライベート・バンクのビジネスを紹介しつつ、米国で独自に発達したプライベート・バンク、あるいは、米国発で世界に広まったヘッジファンドのビジネスの考察などなど、私のような薄給の公務員には手の届かない大富豪や超大富豪相手の資産運用ビジネスを明らかにしています。もちろん、パナマ文書で世間の目にもさらされたいくつかのビジネス、ないし、犯罪行為の実態も取り上げており、大富豪の資産を取り込むビジネスと、課税対象にしようと試みたり、あるいは、テロを始めとする犯罪行為を取り締まろうと奮闘する政府当局のせめぎあいなども興味深いところです。なお、日本の銀行でこういった富裕層の資産運用のビジネスが伸びないのは、マネーロンダリングなどの取締りを行う警察や課税当局などの「お上」に対して、銀行があまりに素直に情報開示に応じてしまうために、富裕層から信用されないのも一因、との本書の指摘には笑ってしまいました。どうしても統計的な把握は難しいでしょうから、こういった形で多角的に取材した結果を利用するしかないんですが、なかなかうまく取りまとめている気がします。

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次に、小泉和子『くらしの昭和史』(朝日新聞出版) です。著者は生活史の研究者だそうで、本書にもあるように、その昔の自宅を改造した昭和のくらし博物館の館長も務めていますが、私には実態は不明です。ということで、本書はくらしから見た昭和史と住まいから見た昭和史の2部構成となっていますが、第2部はほとんど著者自身の生活史ですので、あまり一般性のある昭和史ではないような気もします。というより、第1部もそれほど一般性があるわけではないものの、第2部になると、ほとんど著者の自伝になっています。第1部は衣食住のうち、住は第2部に譲られているので、衣食を中心に、病気や看護、それに少女や在日の人、さらに、しごとを中心に据えた構成となっています。ほとんど東京の山の手の生活史しかなく、地方の農村はいうに及ばず、東京の下町すらスコープに収めていないので、繰り返しになりますが、とても一般性ある歴史にはなっていないんですが、なかなか興味深い事実もいくつか盛り込まれています。家庭での食事が、個々人に供せられる箱善から、一家で囲むちゃぶ台になり、さらに、畳に座る生活からテーブルに食事を並べて椅子に座る生活に変化するのが昭和の時代ですから、かなり変化は激しいともいえます。もちろん、昭和の前の対象などと比べて長い時代であったともいえます。ですから、戦争に関するトピックがとてもたくさん出て来ます。判らなくもないんですが、やや「過ぎたるは及ばざるがごとし」を思い出してしまいました。戦争の生活史は「過ぎたる」の部分の代表であるとすれば、高度成長期の三種の神器、とか、3Cと称された生活家電の普及は「及ばざる」の典型例ではないかと思います。エコノミストとしては高度成長の中で、農村から都市部に雇用者として人々が移動し、ルイス的な二重経済が解消された点について、生活史の中でもっと追って欲しかった気もしますが、何といっても生活家電、すなわち、洗濯機、冷蔵庫、テレビ、電話、掃除機、アイロン、ヘアドライヤ、などなど、パソコンはたぶん平成になってからですので、職場におけるお仕事よりも家庭における家事の方が、昭和の時代を通じて変化が激しかったんではないか、というのが私の感想ですから、そういった家事に大きな変化をもたらした生活家電に関して、もっと着目すべきではないでしょうか。

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最後に、中川右介『江戸川乱歩と横溝正史』(集英社) です。著者は出版社の代表として音楽家や小説家の写真集やノンフィクションを手がけているようなんですが、不勉強にして私はよく知りません。ということで、タイトル通り、我が国の探偵小説ないし推理小説のいわゆる本格の黎明期の巨人2人、1900年をはさんで数歳違いのこの両巨頭を、盟友として、ライバルとして、お互い認め合い、時に対立しつつある不思議な友人関係も含めて取り上げています。そして、最後の方にはこの2人に、さらに横溝よりも数年遅い生まれの松本清張も絡んできます。特に、本書の表現で面白かったのは、同時代人ではない私には知り得なかった事実ですが、「江戸川乱歩と横溝正史 - 2人を太陽と月に喩えることができるかもしれない。乱歩が旺盛に書いている間、横溝は書かない。横溝が旺盛に書いていると、乱歩は沈黙する。天に太陽と月の両方が見える時間が短いのと同様に、二人がともに旺盛に探偵小説を書いている時期は、ごくごく短い」という一説です。私は知りませんでしたが、そうだったのかもしれません。推理小説、特に本格推理小説という点では、横溝正史の『本陣殺人事件』があまりに衝撃大きく印象的だったですし、私くらいの世代では本書にもある角川書店のメディアミクス、小説と映画のコラボが横溝作品を取り上げて大ヒットしたというのも事実ですが、私は江戸川乱歩の存在は我が国ミステリ界において揺るがないものと考えています。まず、デビューの短編「二銭銅貨」の暗号の謎解きの衝撃性がありますが、何といっても、乱歩のミステリ界への貢献は少年探偵団のシリーズです。私はこの年末年始くらいの読書はポプラ文庫から全26巻出ている少年探偵団のシリーズを読んでみようかと思っていますが、何といっても団塊の世代と、その10年後くらいの生まれの私なんぞの世代に対する乱歩は、この少年探偵団のシリーズの作家、という点に尽きます。その後の横溝正史のメディアミクスの成功も少年探偵団シリーズの読者に対する基礎があってのことではないでしょうか。今から考えれば、小学生の頃に読んだこのシリーズ、明智小五郎と小林少年が率いる少年探偵団に対するところの怪人20面相ないし40面相との対決は、ドラえもんの4次元ポケットから取り出される道具並みに荒唐無稽なシロモノでしたが、小学生や中学生に対する衝撃の大きさやその後の小説や読書に対する姿勢への影響力などから特筆すべきものと考えるべきです。各国のミステリ界に巨人は多くあれど、我が国ミステリ界で江戸川乱歩の地位を不動のものとし、彼をして独特の位置づけを得させているのは、横溝正史はじめほかの作家にはない少年探偵団のシリーズであったといえます。

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2017年11月24日 (金)

上の倅の大学祭に行く!

今日は、役所の方は溜まった年休を消化してお休みにし、上の倅の大学祭に行きました。上の倅も、下の倅も、文化祭は何度か行った記憶がありますが、大学祭は初めて訪れました。電車賃をケチったわけではないんですが、お天気もよく自転車で往復しました。体力の衰えはなはだしく、とっても疲れてしまいました。
私もその昔はそうだったんですが、倅どもは2人とも男子校で6年間を過ごし、特に上の倅は制服のある中学高校でしたので、同じような制服を着た男の子ばかりの文化祭を見慣れてしまっていて、女子大生がいたり、いろんな格好の学生がいたりと、それなりに新鮮な気もしました。でも、倅の演し物は新鮮味なく、相変わらずガンプラでした。4体出していました。以下の通りです。写真は上から順に、大学の正門を入ったところにある時計台、後4枚はガンプラで、ゾック、ジオング、キュベレイ、バイアラン・カスタムと並んでいます。カメラが悪いのか、腕前がダメなのか、インスタ映えしそうもありませんから、ブログにアップしておきます。どうでもいいことながら、他はともかく、時計台だけは我が母校の京大の方が立派だった気がします。

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2017年11月23日 (木)

世代論について考える!

少し前に、知り合いのエコノミストと米国トランプ政権の通商政策について、取りとめなくおしゃべりをしていた際に、最近の米国大統領はオバマ前大統領を別にすれば、というか、逆にいって、オバマ前大統領は偉大なる例外だったかもしれませんが、クリントン大統領からすべてベビーブーマーである、という事実を知りました。というか、教えてもらって、お手軽にネットで調べると、確かに、クリントン元大統領、ブッシュ元大統領、トランプ現大統領はそろって1946年生まれでした。ただ、オバマ大統領は1961年生まれですから、日本的な終戦直後の「団塊の世代」には入りませんが、米国のベビーブーマーの世代には入ります。ということで、私なりに各種の出展から調べ上げて総合的に勘案した米国の世代の呼び名をリストにすれば以下の通りです。

GenerationsYears
Puritan Generation1588 - 1617
Cavalier Generation1618 - 1648
Glorious Generation1648 - 1673
Enlightenment Generation1674 - 1700
Awakening Generation1701 - 1723
Liberty Generation1742 - 1766
Compromise Generation1767 - 1791
Transcendental Generation1792 - 1821
Gilded Generation1822 - 1842
Progressive Generation1843 - 1859
Missionary Generation1860 - 1882
Lost Generation1883 - 1899
G.I. Generation1900 - 1924
Silent Generation1925 - 1942
Baby Boomers1946 - 1964
Generation X1965 - 1980
Millennial Generation (Generation Y)1981 - 2000
Generation Z2001 - 2010

我が国ではここまで明確に定義されている世代論はなさそうな気もしますが、少なくとも終戦直後の数年間に生まれたベビーブーマーは「団塊の世代」とされていますし、我が家の倅どものような1990年代生まれの草食男子を中心に「さとり世代」という言葉もあります。また、「さとり世代」にかなり重なって、ゆとり教育を受けた世代という意味も込めて「ゆとり世代」というのも聞いたことがあります。他にもあるのかもしれませんが、私はよく知りません。逆に、日本における議論の場合、その時その時における中年、とか、50代男性、とかの年代論で議論を済ませているような気もします。
例えば、昨夜に続いてニッセイ基礎研のリポートを取り上げると、とってもタイトルがよかった「太りゆく男性とやせゆく女性」と題するリポートなんですが、11月11日付けの結婚記念日のブログにチラリと書いたごとく、そもそも我が家ではやせゆくのと太りゆくのの性別が反対だ、といった個別事情は別にして、リポートの最後の方に飲酒について「若者と中年男性の『アルコール離れ』、高齢男性と中高年女性では増加」とのセクションがあって、どうも、直観的ながら世代論・年代論に一部誤解を生じている可能性があるんではないかという気がします。というのは、中年男性のアルコール離れについては、アルコールを離れた人々、というか、それほど飲酒習慣のない人々が中年に達した、また、高齢男性については中年あるいはその前から飲酒していた人々が高齢に達した、ということなのではないかという気がします。すなわち、中年や高齢に達して、いきなり飲酒を始めた、止めたというライフサイクル上の変化ではないように感じます。ひょっとすれば、マクロのクロスセクションデータとパネルデータを混同している恐れはないでしょうか。
ということで、年代別に男性の喫煙率について、実にご都合主義的で適当な数値例を考えると、ある年に実施された1度目の調査で40歳代男性の喫煙率が20%で、50歳代が30%だと仮定して、その10年後に2度目の調査で50歳代の喫煙率が25%だとしたら、単純に10年間で50歳代男性の喫煙率が▲5%ポイント低下した、と結論できるかどうかは疑問です。1度目の調査の40歳代男性は喫煙率20%でしたが、10年後の2度目の調査では50歳代の年齢に達しており、その喫煙率が25%だというのは、喫煙者と非喫煙者で大きく死亡率が異なるとか、移民が大量に入ってきたとか、といった特殊なケースを別にすれば、1度目の調査の40歳代男性の20%から2度目の調査の50歳代男性の25%に喫煙率が上昇しているのではないでしょうか。キーワードを上げると、コーホートとして追えば、そういう結論になりそうな気がします。ですから、1度目の調査と2度目の調査の、一見すると同じ50歳代男性を単純に比較して、健康意識の高まりから喫煙率が▲5%ポイント低下した、という結論を出すと間違いのように私は考えますが、いかがでしょうか。もちろん、ニッセイ基礎研はキチンとしたシンクタンクで、データの扱いは私なんぞよりも正確でしょうから、私のリポートの読み方が浅くておかしいような気もしますが、少し違和感がある表現だった気がします。

最後の最後に、どうでもいいことながら、最近、鏡を見ていると私の面立ちが亡くなった父親にそっくりになって来た気がします。若いころから声はそっくりで、どちらが電話に出ているのか区別がつかない、とは聞き及んでいましたが、顔までそっくりになってしまいました。遺伝子、というか、DNAの影響力を思い知らされました。我が家の倅どもも、還暦を迎えるころには私と同じような顔になるんでしょうか。そうだとすれば、ややかわいそうな気がします。

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2017年11月22日 (水)

リクルートジョブズによるアルバイト・パートと派遣スタッフ平均時給やいかに?

来週の雇用統計の公表を前に、ごく簡単に、リクルートジョブズによる非正規雇用の時給調査、すなわち、アルバイト・パートと派遣スタッフの募集時平均時給の10月の調査結を見ておきたいと思います。

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ということで、上のグラフを見れば明らかなんですが、アルバイト・パートの平均時給は引き続き2%台で堅調に推移していて、特に10月統計では1,021円と2006年1月の統計開始以来の過去最高水準を記録した一方で、派遣スタッフの平均時給は1年間ややマイナスを記録する月が多く、すなわち、昨年2016年9月から今年2017年8月までの12か月のうち10か月で前年同月比マイナスとなっていましたが、直近のデータでは2017年9月は+2.6%、10月も+2.4%とジャンプアップしています。地域的には、関東、東海、関西で、少なくとも9月統計で大きくジャンプアップし10月統計はプラスながら9月よりは伸び率が縮小、という点で、特に大きな差はありません。でも、9~10月の足元で、東海圏の伸び率が高い一方で、関西圏は低い伸び率にとどまっています。まあ、従来からそうだといえば、そうなんですが、特に9~10月の足元ではこれが目立っている気がします。職種としてはデザイナー、Web関連、編集・制作・校正などのクリエイター系が+3.4%増と特に大きな伸びを示すとともに、医療介護・教育系が▲1.1%減と下げ幅を拡大しています。ボリュームの大きな職種だけに、全体への影響も小さくありません。給与水準が低い一方で求人ボリュームの大きな医療介護系が、全体としての派遣スタッフ給与の足を引っ張っているとの分析もありましたが、地域別、職種別の特徴、というか、格差が拡大したんではないかという見方も成り立つような気がします。

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ついでながら、国際通貨基金(IMF)の今週のグラフ Chart of the Week で高齢化社会において女性の労働参加がさらに必要 Chart of the Week: Women Workers Wanted in Japan とのコラムが取り上げられています。グラフを引用すると上の通りです。高齢化社会への解決策 Solution については "Encourage women to take on more full time work and have children." とされていて、一見して相反するこの2つの解決策、すなわち、フルタイムの職に就くことと子供を持つことは両立して可能である、と結論しています。

最後の最後に賃金や賃上げに関して、ニッセイ基礎研から「目指すべき賃上げ率は4%」と題するリポートが11月20日に出されています。私は、あっけにとられることもなく、あきれた顔をすることもなく、もちろん、苦笑することもなく、まったくその通りであるとほぼほぼ完全に4%に合意します。「ほぼほぼ」をつけたのは、ひょっとしたら、賃金水準が従来のトレンドに追いつくまで5%とか、6%でもいいくらいだと考えているからです。「賃上げの要求水準が低い」というのも、その通りだと思います。

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2017年11月21日 (火)

米国クリスマス商戦のゆくえやいかに?

今週は木曜日が米国の感謝祭の休日に当たり、金曜日がいわゆる Black Friday ですから、米国クリスマス商戦が始まります。米国経済の動向については、日本経済のみならず、世界経済全体への影響も大きいところ、全米小売業協会(NRF)の様相などにつき簡単に見ておきたいと思います。

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まず、上のグラフは全米小売業協会のサイトから引用しています。見れば明らかな通り、今年のクリスマス商戦の売り上げは "increase between 3.6 and 4 percent for a total of $678.75 billion to $682 billion" すなわち、6787.5~6820億ドル、昨年比で+3.6~4.0%の伸びと予想されており、全米小売業協会では「現実的でしっかりした基礎のある予想」としています。確かに、議会での減税法案の審議に関わらず、米国の雇用の伸びに支えられた消費は堅調であり、これくらいの売上げ増は十分可能性あるところかもしれません。ただ、全米小売業協会ではネット通販がどれくらい把握されているのか私は知りませんが、統計的な把握により数字が異なる可能性はあるものの、ビジネスの実態、というか、米国における消費の勢いはとても堅調という気はします。
最後に、下のフラッシュは全米小売業協会のサイトにあるものをシェアしています。この週末のブラック・フライデイ前日から来週月曜日のサイバー・マンデイまでの人出の予想です。ブラック・フライデイには1億人超の人々が買い物に繰り出すとともに、サイバー・マンデイも国民の半分近い人々がネット通販も含めて買い物を楽しむ、というわけですから、ほとんど国を挙げての大イベントなのだろうという気がします。

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2017年11月20日 (月)

貿易統計に見る我が国の輸出は順調に拡大中!

本日、財務省から10月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+14.0%増の6兆6931億円、輸入額も+18.9%増の6兆4077億円、差引き貿易収支は+2854億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の貿易収支、5カ月連続黒字 2854億円、円安で黒字幅縮小
財務省が20日発表した10月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は2854億円の黒字だった。貿易黒字は5カ月連続で、QUICKがまとめた市場予想の中心値(3300億円の黒字)は下回った。自動車など輸出は好調だったものの円安によって原油などの輸入額も押し上げられ、黒字幅は前年同月(4812億円の黒字)に比べ縮小した。
輸出額は前年同月比14.0%増の6兆6931億円と、11カ月連続で増加した。オーストラリア向けの自動車や中国向けの液晶デバイス製造装置、中国向けのプラスチック原料などが増加に寄与した。
地域別に見ると、対米国が7.1%増と9カ月連続で前年実績を上回った。自動車は落ち込んだが、航空機エンジン部品や掘削機などが補った。対欧州連合(EU)は15.8%増だった。対中国(26.0%増)が過去最高を更新するなど対アジアも18.9%増と好調を維持した。
一方、輸入額は18.9%増の6兆4077億円だった。10カ月連続で増加し、伸び率も2014年1月(25.1%増)に次ぐ高い水準だった。原油などの資源が値上がりしたうえ、為替も前年に比べ1割ほど円安方向に進み円建て価格が押し上げられた。米国からは液化プロパンの輸入が増えた。中国からは衣類やスマートフォン(スマホ)が伸び8カ月連続の貿易赤字だった。

いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。


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引用した記事にもある通り、季節調整していないベースの貿易収支は今年2017年6月から5か月連続で黒字を記録していますが、トレンドを見るための季節調整済みの系列だと2015年11月から24か月、すなわち、2年間貿易黒字が続いています。この間、我が国の貿易収支をスィングさせてきたのは国際商品市況における石油価格です。短期では石油需要は価格にそう弾力的であるとも思えず、国際商品市況における価格動向とともに為替水準によっても輸入額が変動することになります。現時点では、石油をはじめとする国際商品市況は、新興国、特に中国の景気回復を受けてジワジワと値を戻しており、為替もその昔からすれば円安水準となっています。ですから、石油価格と為替から輸入額は短期には上振れして、貿易黒字が縮小する可能性が十分ありますが、10月統計が明らかとなった現時点では、それ以上に、世界経済の回復・拡大を受けて我が国からの輸出が好調に推移している、と見るべきです。ただし、季節調整していない原系列の統計で見ている限り、先月も同じことを書いた記憶がありますが、半年近く連続しての貿易黒字はメディア受けする一方で、昨年2016年の年央から後半にかけて、すなわち、6月の英国国民投票によるBREXITと11月の米国大統領選挙のころには、経済外要因ながら、ポピュリズムの動向に伴って世界経済の先行き不透明感が増していた時期ですから、最近の統計にはその反動が反映されている可能性も否定できません。加えて、北朝鮮情勢次第では地政学的なリスクの顕在化も懸念されます。

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輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。9月統計の輸出は米国のハリケーンという特殊事情がありましたが、10月統計もその反動という要素は否定できません。ただ、さすがに米国の自動車販売がかなり急ピッチで拡大したことから、さらなる自動車輸出の伸びを期待するのは難しそうな気がします。ここも、お話しする人のポジション次第で、自動車輸出は伸び悩む、ともいえますし、伸びは鈍化しているものの、自動車輸出は高水準にある、ともいえます。ただ、自動車に限らず、先進国・新興国ともに世界経済は順調に回復・拡大しており、我が国の輸出も追い風に乗って緩やかな拡大を続ける方向にあると考えるべきです。

最後に、貿易だけでなく幅広く米国政策について考えると、実は、トランプ政権の通商政策が我が国の貿易のリスクになると私は考えていたんですが、そうではなく、貿易だけでなく幅広い観点からは、米国トランプ政権のエネルギー・環境政策こそが世界の大きなリスクになる可能性があると考えを改めました。私の専門外ながら、少し考えを巡らせたいと思っています。

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2017年11月19日 (日)

小曽根真 Dimensions を聞く!

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我が国を代表するジャズ・ピアニストのひとりである小曽根真の最新アルバム Dimensions を聞きました。今年2017年8月のリリースで、収録曲は以下の通りです。すべて小曽根自身のオリジナルであり、最後の9曲目は for Bill Evans とされていて、同名のアルバムがバイブのゲイリー・バートンとのデュエットで出ており、私は聞いたことがあります。

  1. Dues
  2. Wishy Washy
  3. Mirror Circle
  4. Silhouette
  5. Flores do Lírio
  6. M.C.J.
  7. Angel's Tear
  8. Tag Me, Tag You
  9. Time Thread

20年ほど前からそうなんですが、このアルバムも「小曽根真 The Trio」としてクレジットしています。ジャズの場合はトリオといえば、ほぼほぼピアノ・トリオなんでしょうが、自分自身で The Trio と称しているのは、私の印象では、キース・ジャレットのトリオ、すなわち、ベースのゲイリー・ピーコックとドラムスのジャック・デジョネットのトリオが思い浮かびます。1980年代からですので、30年をはるかに超えたトリオとしての音楽活動ではなかろうかと思います。ということで、前置きが長くなりましたが、やはり安定した実力を聞かせてくれます。ライナー・ノートは小曽根自身が書いており、20年を超える The Trio の活動を振り返り、ライブを推奨している一方で、この10年振りのレコーディングもなかなかの出来栄えです。ジャズ・ピアニストとして、ビル・エバンスにとって重要だったのが、短期間ながらスコット・ラファロが務めたベーシストであったように、小曽根にとってはドラマーのペンの役割が大きいような気もします。いずれにせよ、70歳を超えたキース・ジャレットに対して、小曽根はまだ50代半ばですから、今後ますますの活躍を期待しています。

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2017年11月18日 (土)

今週の読書は経済関連の本も多く計9冊!

今週の読書は経済や経営関係も多く、また、正面切っては健康問題を取り上げながらも、実は経済社会的な不平等とか貧困が健康の背景に存在する、といった指摘の鋭い本を含めて計9冊です。私の読書のベースは少し離れた図書館に、スポーツサイクリングの趣旨も含めて、週末に自転車で乗り付けて本を借りる、というスタイルですので、先週末のように3連休がいいお天気だったりすると、こんなに数を読むハメになったりします。逆に、今日のように土曜日が雨がちだと、来週の読書はショボいものになりかねません。

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まず、白井さゆり『東京五輪後の日本経済』(小学館) です。著者はエコノミストであり、1年半ほど前まで日銀政策委員を務めていたんですが、白川総裁のころの政策委員でしたので黒田総裁になってから金融緩和策に賛成票を投じないケースもあったりして、再任はされませんでした。もともとは国際通貨基金(IMF)のエコノミストなどをしていて、私の専門分野である開発経済学や政府開発援助の分野にも詳しく、私も何度かお話した記憶があるんですが、今はすっかり金融専門家のような立場で日銀政策議員経験者としての価値をフルに活かそうという姿勢をお持ちのようで、それはそれでいいことではないかと思います。ということで、ほぼ1年前にこのブログでも取り上げた前著の『超金融緩和からの脱却』が、その読書感想文でもお示ししましたが、日銀事務局から提示された日銀公式文書をきれいにエディットすれば、前著のような仕上がりになる、という意味で、黒田総裁の指揮下にある現在の日銀金融政策についての適確な解説書になっていた一方で、本書については、よくも悪くもエコノミストとしてのご自分の見方が示されているような気がします。例えば、本書の冒頭、黒田総裁の下での日銀の異次元緩和で景気がよくなった点については、不動産はアパート建設などでバブルっぽい雰囲気を感じつつも、株価についてはピーク時に遠く及ばないのでバブルではない、と直感的な判断を下しています。そうかな、という気もします。そして、これも根拠をお示しになることなく、東京オリンピック・パラリンピックの開催前に金融正常化が始まる、と予言しています。これもそうかもしれません。少なくとも、テイパリングは始まるような気もします。他の論点もいくつか拾おうと試みましたが、どうも雑駁な内容に終止している気がして、前著との差を感じずにはいられませんでした。まあ、その昔の日曜早朝のテレビ番組の「時事放談」くらいの内容であると、期待値を高くせずに読み始めるにはいいかもしれません。

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次に、八代尚宏『働き方改革の経済学』(日本評論社) です。著者は、私の先輩筋に当たる官庁出身の経済学者なんですが、何と申しましょうかで、今ごろこんなネオリベラリズム=新自由主義的な労働市場観を露わにした経済書はお目にかかれないような気がします。私はマルクス主義に見切りをつけて長いんですが、それにしても、ここまでむき出しで企業の論理に従った労働観もあり得ないような気がします。基本的に、労働市場改革は雇用の流動性をさらに増進させるものであるというのは判っていますが、本書ではもっぱらそれは資本の論理で企業の利益を高めるためのもののようです。例えば、女性雇用の促進や女性の管理職への登用にしても、女性の能力を活かし女性の生産性を高め幸福感の増進を図るのではなく、本書の著者の考えでは、企業の意思決定に偏りの内容にするためらしく、まあ、男性経営陣に彩りを添えるための方策のような位置づけなのかもしれません。何よりも、景気変動に対する雇用の調整という企業の論理が丸出しにされており、景気変動の際に雇用を守って労働者のスキルの低下を防止するという観点は本書にはまるでありません。特に私が懸念するのは、単なる景気循環における景気後退の期間だけでなく、何らかのショックの際に雇用をどうするかです。本書の著者のように企業の論理を振り回せば、雇用者を簡単に解雇できる制度がよくて、再雇用の際は政府の失業対策や職業訓練でもう一度スキルアップを図ってから企業に雇用されることを想定しているんではないかとすら思えてしまいます。いわゆる長期雇用の下でOJTによる企業スペシフィックなスキルの向上はもう多くを望めないにしても、企業は労働者のスキルアップにはコストをかけずに即戦力の労働者を雇用し、そして、景気が悪化すると、これまた、できるだけコスト小さく解雇できる、という点が本書の力点だろうと思います。そういった企業の論理むき出しの雇用観に対して、労働者のスキルを守り企業とともに労働者が共存共栄できる雇用制度改革の必要が求められているんだと私は思います。それにしても、繰り返しになりますが、企業の論理丸出しのレベルの低い経済学の本を読んでしまった後味の悪さだけが残りました。その昔に、消費者金融の有用性を論じたエコノミストもいましたが、決して消費者金融会社の利益を全面に押し出した論理ではなく、借りる方の流動性制約の緩和などの観点も含まれていて、一見するとそれらしく見えたものですが、本書については労働サイドの利益については、まったく省みることもなく、すべての労働市場改革を企業の利益に向けようとする意図があまりに明らかで、私にはうす気味悪くすら見えます。

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次に、テオ・コレイア『気まぐれ消費者』(日経BP社) です。著者はコンサルタント会社であるアクセンチュアの消費財・サービス業部門の取締役であり、30年超のキャリアがあるそうです。英語のタイトルは The Fluid Consumer であり、邦訳タイトルはかなり意訳しつつもよく意味を捉えているような気もします。なお、タイトルでは "Fluid" を「気まぐれ」と訳し、本文中では「液状」の語を当てています。2017年にドイツで出版されています。ということで、デジタル時代の消費者へのマーケティングについて論じていて、その特徴として、ブランドに対する忠誠が低い点を強調し、何かあれば、すぐにブランドを乗り換える、と主張しています。その原因を精査せずに論を進めていて、それはそれで怖い気もするんですが、インターネットが発達したデジタル時代に、ブランド・ロイヤルティの低い消費者となった大きな原因は情報の過多であろうと私は考えています。すなわち、消費の選択肢が多くなり過ぎているわけです。でも、この消費の選択肢の多さについては個別の企業ではどうすることも出来ませんから、まあ、何か政府の産業政策で強引にブランドの集約が出来ないわけでもないんでしょうが、取りあえず、企業に対する経営コンサルタントとして、ブランドン・ロイヤルティの低い消費者への対策を考えているんだろうという気がします。ただ、デジタル時代の消費者については、リアルな店舗での買い物からネット通販へのシフトを考えると、選択肢の大幅な増加に加えて、ロジスティックへの過度の依存も観察されると私は考えています。すなわち、消費者の選択肢が広がり、今までになかった消費生活が楽しめる一方で、運輸会社の負担が高まり、運輸会社はそれを運転手個人個人に転嫁している気がします。それが、アマゾンが大儲けをして、ヤマト運輸が価格改定に熱心で、運転手への未払い給与がかさんでいる原因のひとつではないでしょうか。そして、もうひとつの問題は、消費のための所得が不十分な水準に低下して行く可能性です。リアルな店舗で在庫を維持するコストよりも、大規模な倉庫で在庫を集中管理してロジスティック会社に輸送を請け負わせる方がコストが安いゆえにネット通販が繁盛しているわけですが、逆から見て、コストが低いということは賃金支払いが小さく消費者の所得が低くなってしまう可能性があるわけで、コストを切り詰めて消費の原資を小さくするという形で、現在の日本で見られるような合成の誤謬がネット時代には大きくなる恐れがあります。

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次に、ダニエル・コーエン『経済成長という呪い』(東洋経済) です。著者はフランスのパリ高等師範学校経済学部長であり、『ル・モンド』論説委員も務めていますが、エコノミストとしての基本はマルクス主義経済学者であり、私は何冊か読んでブログの読書感想文にもアップした記憶があります。フランス語の原題は Le Monde Est Clos et le Désir Infini であり、2015年の出版です。直訳すれば「世界は閉じており、欲望は無限」ということになります。邦訳タイトルは私にはややムリがあるような気もします。今まで私が読んだこの著者の本は作品社から出ているケースが多かった気がしますが、この本は東洋経済という経済のシーンではかなりメジャーな出版社からの発行です。ということで、マルキストにしてはかなり観念的な叙述が多い気もしますが、第1部と第2部と第3部に分かれており、第1部で大雑把な経済史をおさらいした後、第2部では理論的な側面も含めて経済学的な概括を行いつつ、最後に結論に至らず悲観的な結末が提示される、という構成になっているように私には見受けられました。テーマはポスト工業社会の進歩の方向であり、ケインズが予言したような1日3時間労働の社会がやって来そうもない中で、先進国では成長が大きく鈍化し、これから先の生活がどこに向かうのか、という点が関心の中心になります。私も同意しますが、本書ではいわゆるデジタル革命がポスト工業社会の画期的な生産性向上や高成長をもたらさなかったのは、どうやら事実ですし、先進国の多くのエコノミストが長期停滞 secular stagnation を話題にしているのも確かです。私にはよく判らないんですが、成長を諦めて何らかの別の価値観を基にした生活に「大転換」すべき、ということなんでしょうか。本書の著者は、定住と農業の開始といわゆる産業革命を2つのカギカッコ付きの「大転換」と考えているようですし、次の3番目の「大転換」はマルクス主義的な社会主義革命だったりするんでしょうか。それとも、デジタル革命ですらなしえなかった「大転換」が、とうとう、AIやロボットによるシンギュラリティで実現されるんでしょうか。そこまで本書の著者は踏み込んでいませんが、本書のような観念的で結論を明示することなく、悲観的っぽい方向性だけを示す本は日本人が大好きな気もします。

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次に、マイケル・マーモット『健康格差』(日本評論社) です。今週の読書ナンバーワンです。著者は英国生まれの研究者であり、世界医師会長を務めたり、女王から叙爵されたりしているエスタブリッシュメントの医師です。英語の原題は The Health Gap であり、邦訳タイトルはほぼほぼ直訳です。2015年の出版です。一応、医学博士が書いた健康格差に関する論考ながら、ほとんど経済書と考えてもよさそうな気がします。すなわち、本書でも強調されているように、決して病原菌やウィルスへの対処も健康維持に必要であり、銃刀などの規制を強化すれば死者やけが人が減る、といった事実を否定するつもりは毛頭ありませんが、健康に関しては経済社会的なバックグラウンドが重要である点をもっと我々は知るべきだと強く強く実感しました。開発経済学を専門分野とするエコノミストとして、大いに共感する部分がある本でした。喫煙はもちろん、過度の飲酒や運動不足などは健康を損ねるという認識は、かなり一般に広まっていることと思いますが、じつは、禁煙し飲酒を適度な範囲でおさめ、栄養バランスのよい食生活とストレスの少ない職業生活・家庭生活を送り、適度な運動を定期的に行うためには、それが途上国の国民ではなく、先進国においてであっても、それなりの所得の裏付けもしくは何らかの補助がなければ不可能だという事実から目を背けるべきではありません。その意味で、健康格差のバックグラウンドには所得の格差が存在し、あるいは、不健康の裏側には貧困が潜んでいると考えるべきです。もちろん、本書の著者は所得の格差を許容しないとは主張しませんが、所得が不平等であっても健康状態に関しては格差のない政策を探るべきであると強調しています。そして、本書の表紙見開きにあるように、世界中を巡り回っていろいろな健康に関する実例を収集し、判りやすく本書でひも解いています。エコノミストとしては、健康と富の因果関係について、p.111 で展開されている議論、すなわち、健康は富への投資である方が、その逆よりも方程式でモデル化しやすい、というあまり高尚ではないイデオロギーを少し恥ずかしく思わないでもないんですが、グレート・ギャッツビー曲線による貧困の世代間の継承、失業の健康への悪影響などなど、経済学を本書では後半に応用している点も忘れるべきではないと考えています。最後に、気になる点をひとつ。著者のグループは英国ロンドンのホワイトホール研究で、数多くの公務員を対象にした健康調査を実施しており、やはり裁量が大きい上級公務員は健康になりやすいバイアスがあると確認していますが、逆に、私のように出世できなかった公務員は裁量が小さい分、もっと出世した上級公務員よりも寿命が少し短かったりするんでしょうか?

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次に、スヴェン・スタインモ『政治経済の生態学』(岩波書店) です。著者は米国の政治学者なんですが、かなり経済学の分野でも有名で、その際は、公共経済学ということになるのかもしれません。実は、私が2008-10年に地方国立大学の経済学部教授として出向していた折に同僚だった財政学の先生との共著がこの著者には何本かあります。何と申しましょうかで、その同僚財政学の先生が准教授から教授に昇格なさる際の資格審査委員を、誠に僭越ながら、私が末席を占めていたものですから、その先生から提出された、か、あるいは、私か誰かが独自にネットで調べたか、の業績リストにあったような気がします。官界から学界に出向の形で経済学部の教授ポストに就いて、准教授の先生の教授昇格の資格審査をするなんて、今から考えると、誠に僭越極まりなく恥ずかしい限りです。本題に戻って、本書の英語の原題は The Evolution of Modern State であり、2010年の出版です。ということで、大きく脱線してしまいましたが、本書は英語の原タイトル通り、進化生物学をスウェーデン、日本、米国の3国に応用し、制度歴史学派の立場から政府や公共経済などを解き明かそうとの試みです。どちらかといえば、私はその試みは成功しているとも思えないんですが、少なくとも、学術初夏ならとても平易で判りやすい内容です。大雑把に、スウェーデンは北欧の高福祉国であり、その財源の必要性から高負担でもあると考えられています。そして、米国はその逆で、政府が社会保障により格差是正や最低限の国民生活を保証するのではなく、自己責任で生活するように求めるワイルドな国であり、日本はその中間という考えは必ずしも成立しませんが、税金を社会福祉ではなく土木と建設で国民に還元する土建国家、と本書ではみなされています。日本の高度成長期から続く二重経済とその解消に関する見方は秀逸であり、バブル経済崩壊後の1990年台の「失われた10年」についても的確に分析されており、まさに、進化生物学的な解明が判りやすくなされています。ただし、私の核心なんですが、本書でも、米国はもちろん、日本もスウェーデンにはなれない、という点は忘れるべきではありません。進化論的に日本とスウェーデンはもう分岐してしまったんですから、日本は独自に経済危機からの脱却や政府債務の解消などの問題解決の道を探らねばなりません。スウェーデンがどこまで参考になるかについては、大いにポジティブに考えるエコノミストもいますし、私も何人か知っていますが、私自身は疑問であると受け止めています。最後に、学術書なんですから、出版社のwebサイトに索引とともにpdfで置いてあるとはいえ、本文や注にある参考文献のリストは欲しかった気がします。

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次に、ウェンディ・ブラウン『いかにして民主主義は失われていくのか』(みすず書房) です。著者は米国カリフォルニア大学の旗艦校であるバークレイ校の研究者であり、政治学者です。英語の原題は Undoing the Demos であり、2015年の出版です。なお、訳者あとがきで Demos とは「『市民』『人民』あるいは『民衆』」とされているんですが、私の不確かな知識によれば、むしろ、家族よりは大きくて部族くらいの自治単位ではなかったかと記憶しています。違っているかもしれません。ということで、経済のひとつの考え方だと思われてきた新自由主義=ネオリベラリズムが民主主義を破壊するか、という論考です。その中心論点は、要するに、すべてを経済に還元する、というのが著者の結論のように見受けましたが、基本となるのがフーコーの考え方ですので、まあ、何と申しましょうかで、フランス的なポスト構造主義の影響なども残っており、非常に難解な部分がいくつか見受けられ、政治学という私の専門外の領域でもあり、必ずしも正しく解釈したかの自信はありません。マルクス主義の考えも色濃く反映されています。私のような開発経済学をひとつの専門とするエコノミストには、新自由主義といえば、ワシントン・コンセンサスが思い浮かびますし、一般的な経済学にとっても、規制緩和などで政府の市場介入を縮減するという意味で、あるいは、まったく逆に見えるものの、知的財産権の強烈な保護という別の経済政策も含めて、リバタリアンに近いような経済政策を、というか、経済政策の欠落を主張する考え方です。本書の例をいくつか引けば、教育投資で教養教育=リベラル・アーツから職業的な実務教育を重視してリターンを考えたり、人的資本として人間を稼ぎの元と考えたりするわけです。私はかなりの程度に本書の考えを理解するんですが、ひとつだけ大きな疑問があり、本書では新自由主義がいかに民主主義を破壊するかという点はいいとして、どのようなルートで破壊するかについて、ガバナンスと法の秩序と人的資本及び教育の3点を柱と考えているようなんですが、私は新自由主義的な経済政策の帰結としての格差の拡大が民主主義を破壊する点も考慮に入れるべきだと考えています。この点がスッポリと抜け落ちているのが不思議でなりません。

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次に、川端基夫『消費大陸アジア』(ちくま新書) です。著者は関西学院大学の研究者であり、アジア市場論などの専門家です。経済学というよりは経営学なのかもしれません。アジアでの工場立地などの生産活動ではなく、日本企業をはじめとするアジア市場での消費財やサービスの提供をテーマとしています。マクドナルドのようなマニュアルに基づいた世界中すべての国や地域での同一の消費財やサービスを提供する標準化戦略=グローバル戦略とともに、世界各国の実情に適合させた適応化戦略ローカル戦略を提唱しています。ですから、インドネシアでは日本市場におけるスポーツ時の喉の渇きを癒やす飲料としてのポカリスエットの販売戦略ではなく、デング熱に罹患した際などに準医療的な目的での渇きを緩和する飲料としての販売戦略での成功などの実例が本書には集められています。私も倅どもが小さいころに一家そろってインドネシアはジャカルタに3年間住まいし、ジャカルタに限らず、シンガポールやタイやマレーシアやと、東南アジア一帯を見て回った記憶がありますので、とても共感しつつ読み進むことが出来ました。マクドナルドの例を敷衍すると、年齢がバレてしまうものの、マクドナルドが京都に出来た、というか、京都で流行り出したのは、私が大学生になってからくらいだと記憶しており、同志社大学の斜向かいの今出川通り沿いのマクドナルドによくいったことを覚えていて、今では日本はマクドナルドは中高生が気軽に入れて食欲を満たすことのできる場でしかありませんが、たしかに、所得水準の違うインドネシアではマクドナルドに行くというのは、記念日とまではいわないにしても、ちょっと気取った出来事だと受け止められていた気がします。また、本書にもありますが、サンティアゴで外交官をしていた折にランチで行った日本食のお店で、ラーメンは明らかにスープの一種と現地人に認識されていたのも記憶しています。ですから、日本とは明らかに異なる意味付けを持って、日本と同じ消費財やサービスが受け入れられている、という実感があります。また、発展途上国から新興国に進化したアジア諸国で、中間層の拡大が広範に観察され、それに伴う消費活動の変化も実感できるのも事実です。私は経営には疎くて、どうすれば現地で受け入れられて売れるのかは判りかねますが、本書で指摘するように、確かに、日本とはビミョーに異なる意味づけでローカライズすれば、それにより受け入れられる余地は大いに広がるのだろうという点は理解できます。

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最後に、秋吉理香子ほか『共犯関係』(角川春樹事務所) です。5編の短編、もちろん、「共犯」をキーワードにした短編が収録されています。すなわち、秋吉理香子「Partners in Crime」、友井羊「Forever Friends」、似鳥鶏「美しき余命」、乾くるみ「カフカ的」、芦沢央「代償」です。なかなかの人気作家の競作です。中でも、3番目の似鳥鶏「美しき余命」が出色です。両親と妹を交通事故で亡くし、自身もその交通事故で余命のハッキリした障害、というか、病気に罹患した中学生の少年を主人公に、その中学生を引き取った親戚一家を舞台にしています。余命がハッキリしていた時には、とても親切で優しかった親戚一家なんですが、少年が奇跡にあって病気から回復したら、徐々に熱狂が覚めた、というか、最後は手のひらを返したようになってしまい、ラストはよほど鈍感でない限り読者にも想像できるものの、なかなか衝撃の締めくくりです。ほかの作品も、粗削りだったり、ミステリというよりはホラーだったりしますが、なかなか楽しめます。すなわち、W不倫が思いがけないラストで終る「Partners in Crime」、夏祭りの重要な役目をほっぽり出して少女が少年とともに街を出てしまう「Forever Friends」、高校時代の友人と再会した挙句に交換殺人を持ちかけられるホラー仕立ての「カフカ的」、自信作を書き上げたミステリ作家が妻に読んでもらうと意外な事実が判明する「代償」、といったラインナップです。

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2017年11月17日 (金)

勝手にランキングの年賀状に関する調査結果やいかに?

例年通り、2週間ほど前の11月1日から年賀状が発売され始めています。私は減少傾向が大きいとはいえ、毎年年賀状は出していますが、11月14日付けで勝手にランキングから年賀状に関する調査結果が明らかにされています。週末前の軽い話題として簡単に取り上げておきたいと思います。

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上のグラフは、年賀状を出す頻度について問うた結果について、勝手にランキングのサイトから引用しています。常識的に、毎年出しているが75.8%に上っています。私も毎年出しています。ただ、今はネット社会ですので、フラッシュを添付してメールで出したりするサービスが無料で提供されていたりして、一定数は年賀状を出さない人がいるのは理解します。

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上のグラフは、年賀状を出す枚数について問うた結果について、勝手にランキングのサイトから引用しています。せいぜい、20-30枚から50枚くらいが限度という気もします。私自身は30枚くらいではなかろうかと思います。その昔は、小さいころの子供達の写真を入れた年賀状を印刷する最低ロットが100枚だったりしたような気もしますが、今では、お手軽に自宅のプリンタで小ロットの印刷が可能になっていたりします。そろそろ、私も12月に入ったら年賀状を買い求めて、正月向けのめでたい画像を探そうと考えています。

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2017年11月16日 (木)

米国の雇用に関するピュー・リサーチ・センターの世論調査結果やいかに?

やや旧聞に属する話題かもしれませんが、私がよく参照している米国の世論調査機関であるピュー・リサーチ・センターから11月7日付けで Views of Job Situation Improve Sharply, but Many Still Say They're Falling Behind Financially と題して米国の雇用に関する世論調査結果が明らかにされています。米国のトランプ政権に対する厳しい見方も示されており、こういった海外のリポートに着目するのはこのブログの特徴のひとつですし、いくつかグラフを引用しつつ簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Public's views of local job availability are more positive than at any point since 2001 と題するグラフを引用しています。要するに、職探しの難易度を時系列で追っています。タイトル通り、最近時点ではとうとう「職は豊富にある」が50%と、2009年半ばから一貫して上昇を見せ、「職が探しにくい」の42%を上回りました。2001年初頭以来ということのようです。従って、量的に職はかなり見つけやすくなっているようです。

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続いて、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Nearly half say their incomes are 'falling behind' the cost of living と題するグラフを引用しています。量的に職が見つけやすいのであれば、次の観点は質的にお給料がどうか、ということになりますが、まだまだ最近時点でも、生計費に比べてお給料が「立ち遅れている」が半分近くあります。でも、まだまだ低い比率ながら、徐々に生計費よりお給料の方が「伸びが高い」の割合も増えつつあります。

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続いて、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから About half of the public says Trump's economic policies have had no effect と題するグラフを引用しています。タイトル通りに、ほぼ半数の回答者がトランプ政権の経済政策の影響力を否定しているわけですが、経済政策により「改善」したか、「悪化」したかについて回答者の属性別に見ると、人種別では、白人は「改善」の方が多い一方で、黒人やヒスパニックは「悪化」の方が割合高く、また、所得階級別では、高所得ほど「改善」が多く、低所得ほど「悪化」割合が高くなっていて、要するに、格差拡大の感覚が強まっていると私は受け止めています。

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最後に、上のグラフはピュー・リサーチのサイトから Public perception of economic conditions returns to mid-2000s levels を引用しています。米国経済の状態について、excellent と good を示しています。クリントン政権の8年間はグングンこの比率が上昇を示しましたが、ブッシュ政権の2期8年は波あるものの、最後はリーマン・ショックやその後の金融危機のためにボロボロになった印象です。オバマ政権の8年間は徐々に盛り返したものの、クリントン政権期の上昇気流には乗れませんでした。そして、トランプ政権は現時点では軽く右肩下がりの印象でしょうか。今後は期待出来るのか、出来ないのか。日本経済にとっても大きな関心事項かもしれません。

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2017年11月15日 (水)

7-9月期GDP速報1次QEは7四半期連続のプラス成長を記録!

本日、内閣府から7~9月期のGDP統計1次QEが公表されています。季節調整済みの前期比成長率は+0.3%、年率では+1.4%を記録しました。外需主導ながら、+1%をやや下回るといわれている潜在成長率を超えた高成長といえます。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

7-9月期GDP、年率1.4%増 外需がけん引、個人消費は減少
内閣府が15日発表した2017年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比0.3%増、年率換算では1.4%増だった。プラスは7四半期連続。輸出が増え、輸入が減り外需が伸びた。設備投資も堅調だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値は前期比0.4%増で年率では1.5%増だった。
生活実感に近い名目GDP成長率は前期比0.6%増、年率では2.5%増だった。名目は2四半期連続でプラスだった。
実質GDPの内訳は、内需が0.2%分の押し下げ効果、外需の寄与度は0.5%分のプラスだった。
項目別にみると、個人消費が0.5%減と、7四半期ぶりにマイナスだった。天候不順で衣料品などへの支出が低迷した。
輸出は1.5%増、輸入は1.6%減だった。米国向け自動車やアジアへの半導体などが伸びた。国内需要の低迷で輸入量が減少した。
設備投資は0.2%増と、4四半期連続でプラスだった。企業収益や景況感の改善を背景に企業の設備投資需要が高まった。住宅投資は0.9%減。公共投資は2.5%減。民間在庫の寄与度は0.2%のプラスだった。
総合的な物価の動きを示すGDPデフレーターは前年同期と比べてプラス0.1%だった。プラスは5四半期ぶり。輸入品目の動きを除いた国内需要デフレーターは0.5%のプラスだった。

ということで、いつもの通り、とても適確にいろんなことが取りまとめられた記事なんですが、次に、GDPコンポーネントごとの成長率や寄与度を表示したテーブルは以下の通りです。基本は、雇用者報酬を含めて季節調整済み実質系列の前期比をパーセント表示したものですが、表示の通り、名目GDPは実質ではなく名目ですし、GDPデフレータと内需デフレータだけは季節調整済み系列の前期比ではなく、伝統に従って季節調整していない原系列の前年同期比となっています。また、項目にアスタリスクを付して、数字がカッコに入っている民間在庫と内需寄与度・外需寄与度は前期比成長率に対する寄与度表示となっています。もちろん、計数には正確を期しているつもりですが、タイプミスもあり得ますので、データの完全性は無保証です。正確な計数は自己責任で最初にお示しした内閣府のリンク先からお願いします。

需要項目2016/7-92016/10-122017/1-32017/4-62017/7-9
国内総生産GDP+0.2+0.4+0.3+0.6+0.3
民間消費+0.4+0.1+0.4+0.7▲0.5
民間住宅+2.9+0.3+0.9+1.1▲0.9
民間設備▲0.1+1.9+0.5+0.5+0.2
民間在庫 *(▲0.5)(▲0.2)(▲0.2)(+0.0)(+0.2)
公的需要+0.2▲0.5+0.0+1.6▲0.6
内需寄与度 *(▲0.1)(+0.1)(+0.1)(+0.9)(▲0.2)
外需寄与度 *(+0.4)(+0.3)(+0.1)(▲0.2)(+0.5)
輸出+2.1+3.0+1.9▲0.2+1.5
輸入+0.1+1.2+1.4+1.4▲1.6
国内総所得 (GDI)+0.0+0.1▲0.1+0.7+0.4
国民総所得 (GNI)▲0.1+0.1+0.2+0.7+0.6
名目GDP+0.0+0.5▲0.0+0.6+0.6
雇用者報酬 (実質)+0.7▲0.2+0.3+1.0+0.5
GDPデフレータ▲0.1▲0.0▲0.8▲0.4+0.1
内需デフレータ▲0.8▲0.3+0.0+0.3+0.5

上のテーブルに加えて、いつもの需要項目別の寄与度を示したグラフは以下の通りです。青い折れ線でプロットした季節調整済みの前期比成長率に対して積上げ棒グラフが需要項目別の寄与を示しており、左軸の単位はパーセントです。グラフの色分けは凡例の通りとなっていますが、本日発表された7~9月期の最新データでは、前期比成長率が7四半期連続でプラスを示し、黒い外需(純輸出)が大きなプラスの寄与を示しているのが見て取れます。

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まず、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスでは、前期比成長率が+0.4%、年率+1.5%でしたので、やや下回ったとはいえ、ほぼジャストミートに近い気がします。7四半期連続のプラス成長は、少なくとも上のグラフでは現れませんので、10年振りよりもっと前なんだろうと思います。というか、私の目で統計表を確認したところ、1999年4~6月期から2001年1~3月期の足かけ3年8四半期連続でのプラス成長、ただし、プラス・ゼロ成長を含む、というのが見つかりました。私のことですから、ひょっとしたら見落としがあるかもしれませんが、たぶん、この期間以来の7四半期連続でのプラス成長なんではないかと思います。消費がマイナスで、その影響もあって内需がマイナスとなっている一方で、外需でプラス成長を確保している姿が示されています。従って、私の想像では、メディアの論調では、特に現在のアベノミクスを批判しようという意図があれば、4~6月期の内需主導成長が7~9月期には続かずに外需主導になった、と批判すればいいわけですし、逆に、アベノミクスを擁護しようとすれば、4~6月期と7~9月期をならして見れば、ということになるんではないかという気がします。ですから、何とでも評価できそうですし、例えば、証券会社の債券販売の営業マンであれば、前者のポジション・トークをして、金利は上がらず債券価格は上昇する、という営業活動も出来ますし、逆に、株式の営業マンなら、後者のならして見て日本経済は好調、という営業トークも出来そうです。ただ、7四半期連続でのプラス成長は日本経済の堅調な動きを反映していることは間違いなさそうです。消費はマイナスでしたが、引用した記事にもある通り、基本は、長雨や台風などの天候要因と私も考えています。というのも、消費の財別をもう少し詳細に見ると、減少しているのはサービスと耐久消費財であり、衣料品をはじめとする半耐久財と食料などの非耐久財は増加を示しています。急に消費が全体として冷え込んだわけではありませんし、ボーナスも増えそうですし、さらに、後で見るように、マクロでの所得のサポートはあると考えるべきです。ですから、ボーナス要因も含めた可能性として、10~12月期には消費が大きな増加を示す可能性があり、これまた「ならしてみれば」、ということになるかもしれません。

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上のグラフは、上のパネルでは実質の雇用者報酬の推移を、下は非居住者家計の購入、すなわち、いわゆるインバウンド消費の推移について、それぞれプロットしています。毎月勤労統計などを見る限り、マイクロな1人当たりの賃金についてはなかなか上昇の気配が見られないんですが、1人当たり賃金に雇用者数を乗じたマクロの雇用者報酬は着実に増加を示しています。上のグラフに見られる通りです。1人当たり賃金がそれほど増加していないわけですから、雇用者数の方が増加していることになります。私の見方としては、もちろん、人数ベースで雇用者数が増加している一方で、雇用の質として非正規雇用ではなく正規雇用の増加がマクロの雇用者報酬の増加に寄与しているように受け止めています。他方、一時は飛ぶ鳥を落とす勢いだったインバウンド消費は最近時点でかなり伸び悩みを見せているのが読み取れます。

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最後のグラフは上の通り、2000年以降の経常収支と経常収支の対GDP比の推移です。2011年の震災とそれに伴う原発停止に加え、国際商品市況における石油価格の上昇などから、一時、経常収支は赤字を計上していたんですが、最近時点の7~9月期には4%台半ばを記録しており、サブプライム・バブルの崩壊前の2007年くらいの水準に近づいています。1990年代半ばの米国クリントン政権期に日米包括協議に引っ張り出された私としては、やや懸念が募ります。

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2017年11月14日 (火)

この冬のボーナスは増えるのか?

先週のうちに、例年のシンクタンク4社から冬季ボーナスの予想が出そろいました。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、ネット上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると以下の表の通りです。ヘッドラインは私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しましたが、公務員のボーナスは制度的な要因が作用しますので、景気に敏感な民間ボーナスに関するものが中心です。ついでながら、支給総額に関する見通しも可能な範囲で併せて収録しています。特に、第一生命経済研のリポートは、来年度の賃金見通しまで幅広く言及してありましたので、超長めに取っています。なお、その他の機関についても、より詳細な情報にご興味ある向きは左側の機関名にリンクを張ってあります。リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、あるいは、ダウンロード出来ると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちに Acrobat Reader がインストールしてあって、別タブでリポートが読めるかもしれません。

機関名民間企業
(伸び率)
公務員
(伸び率)
ヘッドライン
日本総研37.3万円
(+0.8%)
73.1万円
(+3.7%)
今冬の賞与を展望すると、民間企業の一人当たり支給額は前年比+0.8%と年末賞与としては3年ぶりのプラスとなる見込み。
(略)
賞与支給総額は、同+2.9%増加する見込み。一人当たり支給額の増加は小幅ながら、支給労働者数が引き続き堅調に増加することが主因。
第一生命経済研37.3万円
(+0.8%)
n.a.増加が予想されるとはいえ、伸び率自体はそれほど高いわけではない。物価上昇率を考慮した実質賃金でみるとゼロ近傍の推移が続くものと思われる。17年度後半の景気も引き続き好調に推移する可能性が高いが、それはあくまで輸出の増加を背景とした企業部門主導の回復になるだろう。
賃金の回復が実現するのは18年度と予想している。17年の春闘は、物価が下落し企業業績も伸び悩んだ16年の結果を反映したことで物足りない結果に終わったが、18年の春闘では、物価が上昇し、企業収益も好調な17年の経済状況をベースに交渉が行われる。18年の春闘賃上げ率は17年対比で上昇する可能性が高いだろう。また、17年度の好調な企業業績を反映して18年のボーナスは夏・冬とも増加が予想される。18年については、物価上昇を上回る賃金増加が実現するとみられ、実質賃金も改善するだろう。遅ればせながら家計部門への景気回復の波及が進むことが期待できる。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング37.2万円
(+0.6%)
72.2万円
(+2.4%)
2017年冬の民間企業(調査産業計・事業所規模5人以上)のボーナスは、前年比+0.6%と小幅ながら3年ぶりに増加すると予想する。内外需要の回復を背景に企業業績の拡大が続いていることが押し上げ要因となる。
雇用者数の増加が続いており、ボーナスが支給される事業所で働く労働者の数も増加が見込まれる。冬のボーナスの支給労働者数は4,288万人(前年比+2.4%)に増加し、支給労働者割合も84.9%(前年差+0.1%ポイント)に上昇しよう。また、ボーナスの支給総額は16.0兆円(前年比+3.0%)に増加する見通しである。夏に続いて冬も支給総額が増加することは、個人消費にとって追い風となるだろう。
みずほ総研37.4万円
(+1.1%)
78.9万円
(+3.5%)
2017年冬の民間企業の一人当たりボーナス支給額を前年比+1.1%増と予想している。冬季ボーナスとしては3年ぶりに増加する見込みだ。
(略)
支給対象者についても、人材確保のための正社員化や非正社員の待遇改善の動きを受けて、増加が続くとみられる。実際、2017年入り後はパートタイム比率が低下傾向にあり、正社員化の動きが進んでいるようだ。その結果、支給総額(民間企業)は、前年比+3.6%と比較的高い伸びを見込んだ。
(略)
民間企業・公務員を合わせた冬季ボーナスの支給総額は、前年比+3.6%と前年(同+2.1%)から大きく伸びが高まるだろう。冬としては2014年以来の伸びとなり、当面の個人消費を下支えするとみている。

ということで、今冬のボーナスの支給額は、3年振りに1人当たり支給額が増加するとともに、支給対象者も増加し、従って、支給総額はかなりの増加を見せると見込まれています。ただし、上のテーブルのヘッドラインにはうまく取り込めなかったんですが、大手企業については伸び悩みないし悪化すら予想されている一方で、中堅企業や中小企業では堅調と見込まれています。どうしてかといえば、大企業ではに海外経済等の不透明感や円高の影響で伸び悩んだ昨年2016年の企業業績の結果が反映された一方で、中堅・中小企業では引き続き好調な企業業績と人手不足感の強まりとを背景に冬のボーナスも明確な増加を示すものと期待されています。従来、大企業ほどボーナスがいいとの見方もあったんですが、少なくとも、今冬のボーナスの前年からの変化については、大企業で伸び悩む一方で、中堅・中小企業では好調、という結果が出るように予想されています。そして、このボーナス支給の増加は少なくとも当面の消費をサポートするものと期待されています。もちろん、いわゆる恒常所得仮説からすれば、ボーナスは恒常所得の外数であって、消費に対しては大きな影響を及ぼすものではない、と考えられていますが、さはさりながら、なかなか賃金が上がらない中でボーナスが増えれば財布の紐が緩むのは当然だという気がします。
下のグラフは日本総研のリポートから引用しています。最近時点では、ボーナスだけでなく毎月のお給料も同じ傾向ではないかという気がしますが、1人当たりの支給額はそれほど大きく増加しないんですが、正社員化の進展や非正社員の待遇改善などにより支給対象者が増加する寄与が大きくなっており、マイクロな雇用者あたりの賃上げやボーナスの増加はやや伸び率が低いものの、マクロの支給総額はかなりの増加を示すようになっています。

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2017年11月13日 (月)

企業物価(PPI)は国内物価の前年同月比上昇率が3%を超えて拡大!

本日、日銀から10月の企業物価 (PPI) が公表されています。ヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率は前月統計からやや上昇幅を拡大して+3.0%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の企業物価指数、前年比3.4%上昇、9年ぶり伸び率
日銀が13日に発表した10月の企業物価指数(2010年=100)は99.4で前年同月比で3.4%上昇した。上昇は10カ月連続。上昇率は市場予想の中央値(3.1%)を上回り、消費増税の影響を除くと08年10月(4.5%)以来9年ぶりの大きさとなった。世界経済の回復や産油国による減産を背景にした国際原油相場の持ち直しで、石油・石炭製品価格が上昇した。
前月比では0.3%上昇した。石油・石炭製品のほか、ナフサの相場上昇を背景にエチレンやプロピレンといった化学製品も値上がりした。堅調な世界景気や中国での環境規制による供給抑制を背景に銅やアルミニウムの国際相場が上昇し、銅地金やアルミニウム合金といった非鉄金属の価格も上昇した。農林水産物も値上がりした。飼料米への転作により食用米の供給減少で玄米や精米の価格が上がったほか、不漁で塩サケやイクラも値上がりした。
円ベースでの輸出物価指は前年比で9.7%上昇し、13年12月(12.7%)以来の高い伸び率となった。前月比では1.7%の上昇だった。化学製品や金属・同製品が値上がりした。輸入物価は前年比15.3%上昇し、伸び率は13年12月(17.8%)以来の大きさだった。前月比では2.6%上昇した。石油・石炭・天然ガスの価格上昇が大きく寄与した。
企業物価指数は企業間で売買するモノの価格動向を示す。公表している744品目のうち、前年同月比で上昇したのは378品目、下落は263品目となった。下落品目と上昇品目の差は115品目で、9月の確報値(110品目)から5品目増えた。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。次に、企業物価(PPI)上昇率のグラフは以下の通りです。上のパネルから順に、上のパネルは国内物価、輸出物価、輸入物価別の前年同月比上昇率、下は需要段階別の上昇率を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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ということで、PPIのヘッドラインとなる国内物価の前年同月比上昇率で見て、今年2017年1月に入ってプラスに転じ、+0.5%の上昇を示した後、いきなり2月には+1.1%の上昇と+1%に達し、さらに、4月には+2.1%の上昇と+2%に届き、前月の9月統計には+3.1%の上昇と+3%に乗せ、直近の10月統計では+3.4%にまで上昇幅が拡大しています。大きな上昇を示しているのがエネルギーと非鉄金属などの商品系ですので、国際商品市況における価格上昇の影響が大きいんですが、円安による国内価格押上げ圧力も見逃せません。例えば、国内物価のうちの石油・石炭製品は10月には前年同月比で+15.8%、また、非鉄金属は+22.4%の上昇をそれぞれ示しましたが、輸入物価のうちの石油・石炭・天然ガスの前年同月比は円ベースで+35.4%の上昇を示した一方で、契約通貨ベースでは+24.9%にとどまっていますし、同じく輸入物価の金属・同製品は円ベースで+30.3%の上昇ながら、契約通貨ベースでは+21.5%の上昇です。従って、石油をはじめとするエネルギーにせよ、非鉄などの金属にせよ、この円ベースと契約通貨ベースの上昇率の差の約+10%くらいは、主として円安による影響ということが考えられます。加えて、引用した記事にもある通り、農林水産物も上昇しており、+0.3%あった国内物価の前月比寄与度では玄米、精米、鶏卵などの農林水産物の寄与度は+0.08%に上っており、また、石油価格上昇の影響でエチレン、プロピレン、触媒などの化学製品も+0.07%の寄与を示しています。

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2017年11月12日 (日)

サンテFXネオのワンピースとのコラボ第2弾ゾロモデルを購入する!

6月28日付けのブログでも書きましたが、私の愛用しているサンテFXネオのワンピースとのコラボモデルのうち、6月に発売されたルフィーモデルに続いて、先週からゾロモデルも販売されています。私はルフィーモデルもそれなりに買い込んだんですが、どうせ必要になるからと考え、ゾロモデルもそれなりに買い込みました。
下の画像はサンテFXネオのサイトから引用しています。

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2017年11月11日 (土)

今週の読書も経済書は少ないながらも教養書や小説をがんばって計8冊!

今週は少し仕事の方に余裕があり、夜はせっせと読書に励んでしまいました。経済書らしい経済書は読まなかった気がしますが、地政学をはじめとして教養書・専門書の方はそれなりに読みましたし、小説と新書も2冊ずつ借りて読みました。計8冊、以下の通りです。

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まず、山田謙次『社会保障クライシス』(東洋経済) です。著者は野村総研で社会保障や医療・介護関係のコンサルタントを務めています。まあ、社会保障については、もっとも大口で所得に直接に影響を及ぼす年金ばかりが注目を集めていますが、本書では医療や介護に目を配り、2025年にはいわゆる団塊の世代がすべて75歳超になって後期高齢者になることから、現在の歳入構造のままでは政府財政が破たんするリスクがある、と警告を発しています。本書の冒頭で、そもそも、として、現在の政府の歳入と歳出の総額を上げていて、要するに、歳入、というか、国民の側から見た税負担はかなり低く抑えられている一方で、歳出は社会保障を中心に北欧などの高福祉国並みの規模になっている点を明らかにしています。一時、政府財政について「ワニの口」と称されていましたが、現在でも歳入と歳出のギャップは縮小しておらず、さらに、2025年には団塊の世代がすべて75歳超となり、医療と介護を中心に大きな公的負担の増加が見込まれる、と結論しています。200ページ余りの短い論考ですから、要約していえばそれだけです。本書の特徴のひとつとして、かなり判りやすく数字をキチンと上げている点があり、例えば、75歳超の後期高齢者になると、医療・介護費用がこれまでとは段違いに多くなる点については、医療費は全国民の平均は年間30万円程度である一方で、70歳で80万円、80歳になると90万円に上昇したり、加えて、介護が必要になる人の比率は、65歳では3%程度だが、75歳を過ぎると15%に上がり、80歳で30%、90歳で70%となる、などと解説を加えています。そして、恐ろしいのは、バブル崩壊後の就職氷河期・超氷河期に大学卒業がブチ当たり、正規の職を得られずに不本意非正規職員にとどまっている世代に、この大きな負担がシワ寄せされることです。そして、その上で、本書の著者はいくつかの解決策を提示しており、最大の解決策として国民負担率上昇の容認を上げています。明示的に、国民負担率をGDP比で60%まで許容すべきであると主張しているわけです。この負担サイドの解決策に加えて、給付サイドでは、現在のように自由に医療機関を選んで受診することを止めて、かかりつけ医の指示で受診する医療機関を指定するなど、医療提供体制の縮小を受忍する必要がある、としています。私の従来からの指摘として、マイクロな意思決定の歪みがマクロの不均衡につながっている点があり、それを付け加えておきたいと思います。本書とは直接の関係ありませんが、例えば、日本人は勤勉でよく働いて、統計には表れない生産性の高さを持っている一方で、企業サイドの資本の論理から非正規雇用を拡大して、個人及びマクロの労働力のデスキリングが進んでいるのは明白なんですが、少子高齢化についても、かなり近い減少を感じ取ることができます。すなわち、少子化の一員として、子どもや家族に対してはとても政府は厳しくて、社会保障の分け前もほとんど及ばないという事実がある一方で、高齢者にはとても手厚い社会保障が給付され、高齢者にオトクな経済社会体系ができ上がっています。子どもを出産して子育てするのに不利な社会経済である一方で、高齢者には優しい社会経済であるわけですから、少子高齢化がゆっくりと進むのは当然です。統計などでエビデンスを求めるのはムリなんですが、若者が東京に集まるのと同じ原理で、国民が子どもを産まなくなって高齢者に突き進む現象が観察されるわけですから、シルバー・デモクラシーに抗して社会保障のリソースを高齢者から子どもや家族に振り向ける政策が求められていると私は考えています。

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次に、高橋真理子『重力波発見!』(新潮選書) です。著者は東大理学部を卒業した朝日新聞の科学ジャーナリスト、なんですが、定年近い私よりもさらに年長そうなので、かなりのベテランなんだろうと思います。タイトル通りの内容で、約100年前にアインシュタインの一般相対性理論から予想された波である重力波についての解説です。そして、その前提として、ニュートンから始まる古典物理学や天文学、もちろん、アインシュタインの相対性理論から時間や暦の理論まで、一通りの基礎的な知識も前半部分で展開され、私のような専門外のシロートにも判りやすく工夫されている気がします。科学ジャーナリストとして、一般読者の受けがいいのは宇宙論と進化論であるとズバリといい切り、私もそうかという気がしてしまいます。重力波がどんなものかが分かれば、宇宙の成り立ちが理解できるといわれている点は理解した気になっていますが、誠に残念ながら、私には重力波の観測がどこまで重要な科学的事業であるかは判断できず、せいぜい、ノーベル賞に値する事業なんだと受け止めるくらいです。でも、重力波の基となる時空の歪み、そして、その時空とは何かについて、少しは理解が進んだ気がします。時間については、本書にもあるように、その昔は世界中で不定時だったわけで、日本の例なら、夜明けとともに日付が変わり、日暮れまでを等分していたわけです。もちろん、夜は夜で等分されていましたから、日の長い夏と逆の冬では時間の長さが違っていたわけですが、それは相対論的な違いではありません。それから、暦については、まさに権力の賜物であり、『天地明察』にある通りで、ユリウス暦とはローマ皇帝の権力の象徴でしょうし、グレゴリオ暦からは欧州中世における教会の知性と権力をうかがい知ることができます。なお、どうでもいいことながら、何かで読んだ不正確な記憶ながら、その昔は、というか、ローマ時代の前は月は1年に10か月だったところ、ひと月30日くらいにそろえるために、無理やりに1年12か月にしたらしいといわれています。2か月不足するので、7月にはジュリアス・シーザーの名が、8月にはアウグストス・オクタビアヌスが入れ込まれています。英語にも名残りがありますが、9月のSeptemberは明らかに「7」ですし、10月のOctoberも「8」です。タコをオクトパスと英語でいうのは足が8本だからです。さらにどうでもいいことながら、日本の数字の数え方は中国の影響で10進法ですが、英語は12進法で13からは10+3、というか、3+10のように表現しますが、ラテン語では15進法です。16から10+6で表現します。1年の月数を12としたのはひと月の日数が30日という区切りなんでしょうが、それをローマ時代に決めた後、その当時としては後進地域だった英語圏で数字の数え方が固まったような気がしないでもありません。たぶん、それまで英語圏では数字の数え方はとてもいい加減だったのではないかと勝手に想像しています。最後の最後に、私が知る限り、世界のかなり多くの言語圏で日本語でいう「新月」が誕生の意味、まさに「新しい」という意味で捉えられています。英語ではNew Moonといいますし、ラテン語でもご同様です。私はこの年になってもまだ知りませんが、満月を「新しい」と受け取る民族がどこかにいるような気もします。最後に、本書の書評に立ち戻って、なかなか私のようなシロートにも判りやすい良書だと思います。何かの折に触れた著名な物理学者、典型はニュートンとアインシュタインですが、も頻出して親しみを覚えるのは私だけではないような気がします。

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次に、ジェイムズ・スタヴリディス『海の地政学』(早川書房) です。著者は米国海軍の提督であり、NATO最高司令官も務めた海軍軍人出身です。もう一線を引退していますが、さすがに国際機関でも活躍しただけあって該博な地政学的センスは引けを取りません。どこまでホントか私は知りませんが、ヒラリー・クリントン上院議員が大統領候補となる際の副大統領候補最終6人にまで残り、また、トランプ新米国政権からは、国務長官ないしは国家情報長官のポストをと打診されたが断った、とのウワサもあったりするようです。ということで、本書は、まず、太平洋と大西洋から始まって、いくつかの地政学的に重要な海洋について歴史をたどっています。すなわち、地中海の覇権をめぐる古典古代におけるトルコとギリシア、あるいは、ギリシア諸国間、また、ローマとカルタゴなどの海戦、コロンブスやマゼランらに代表される大航海による新大陸などの発見、前世紀における太平洋を舞台にした日米の艦隊戦、台頭する中国や核・ミサイル開発を進める北朝鮮の動向などなど、古今東西の海事史に照らして地政学の観点から現下の国際情勢を見定め、安全保障にとどまらず、通商、資源・エネルギー、環境面にも目を配りつつ、海洋がいかに人類史を動かし、今後も重要であり続けるかを説き明かそうと試みています。地政学的な観点からは、いわゆるシーパワーとランドパワーがあり、日本はほぼほぼ後者になろうかと思うんですが、私なんぞも知らないことに、本書の著者によれば、日本は陸上自衛隊の支出を減らし、海上自衛隊の支出を増やしているそうです。また、専門外の私には及びもつかなかった視点として北極海の地政学的な重要性、特に、単純にこのまま地球温暖化が進むとすれば、2040-50年ころのは北極海がオープンな海になる可能性も否定できず、その地政学的な位置づけも論じています。そして、最後はシーパワーの重要性を強調するわけですが、「海を制するものは世界を制する」という安全保障の観点一点張りな論調ではなく、海を「世界公共財 (グローバル・コモンズ)」と捉えて、世界全体のネットワーク協力を勧めて締めくくっていたりします。基本的に、老人の回顧録的なエッセイなんですが、語っている内容は豊富です。ただ、最後に、基本的に米国の相対的な国力が低下し、平和維持活動などの「世界公共財 (グローバル・コモンズ)」を提供することが難しくなった現状を踏まえているんでしょうが、米国が関与したベトナム戦争は「世界公共財 (グローバル・コモンズ)」の提供だったのかどうかの視点はありません。当然ですが。

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次に、日本安全保障戦略研究所[編著]『中国の海洋侵出を抑え込む』(国書刊行会) です。著者は何人かいますが、防衛相や自衛隊関係の人ではないかと思います。タイトル通りに、いかにして中国の海洋進出を抑えるか、がテーマなんですが、決して日本単独ではなく、安保条約を結んでいる同盟国の米国はもちろん、自由と民主主義や法による統治などの価値観を同じくするオーストラリアやインド、さらには、ASEAN諸国も含めて、東アジアないしアジア広域の問題として取り上げています。そして、結論を先取りすれば、要するに、米国や世界の国連軍などの介入を待てる短期間は持ちこたえられるように軍備を拡大するとともに、有利な地政学的状況を作り出しておく、ということで、当然といえば当然の肩すかし回答なんですが、それに至る事実関係がそれなりに参考になるような気もします。例えば、世界とアジア・太平洋・インド地域の軍事バランス、中国周辺主要国の対中関係の現状、米国の対中軍事戦略および 作戦構想、さらに、中国の東シナ海と南シナ海における軍事力と戦略などに関して、私のような専門外のエコノミストには初出の気がします。お恥ずかしい話ですが、米国のリバランスとピボットが同じ意味で、欧州からアジアに戦略的リソースをシフトすることだとは私は知りませんでした。ただ、単に中国のことを考えればいいというものでもなく、自由と民主主義のサイドにいないロシアと、何といっても北朝鮮がかく乱要因として存在しており、なかなか先を読み切れないのも困りものです。最後に、現象面としては、尖閣諸島の例なんかを目の当たりにして、中国の海洋進出はとても判りやすいんですが、さらに突っ込んだ分析として、予防のためもあって、どうして中国が海洋進出するのか、という謎にも取り組んで欲しい気がします。本書では、中華帝国の再興くらいの誠に心許ない観念論で乗り切ろうとしているんですが、唯物論的に何の必要があって中国が海洋進出を試みているのか、エネルギーをはじめとする資源なのか、あるいは、他に経済外要因も含めて何かあるのか、私は興味があります。それにしても、専門外の私にの能力・理解力不足から、とても難しげな本だった気がします。

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次に、長岡弘樹『血縁』(集英社) です。著者は警察を舞台にしたミステリが人気の売れっ子作家です。私はこの作者の代表作のひとつである『傍聞き』や『教場』などを読んだことがあります。ということで、この作品は血縁や家族に関する短編ミステリ7編、すなわち、「文字盤」、「苦いカクテル」、「32-2」、「オンブタイ」、表題作の「血縁」、「ラストストロー」、「黄色い風船」が収録された短編集です。3作目の「オンブタイ」は何かのアンソロジーに収録されているのを読んだ記憶がありますので、今回はパスしました。冒頭作のタイトルである「文字盤」とは、言語障害者が意思表示のために使うコミュニケーション支援道具だそうで、コンビニ強盗の解決に役立ったりもします。次の「苦いカクテル」と「32-2」は、どちらも法律問題を題材にしており、前者はかつて読んだことのある三沢陽一の『致死量未満の殺人』とおなじようなストーリーで、後者は相続に絡んで推定死亡時刻を定めた民法の条文です。「オンブタイ」を飛ばして、「血縁」はミステリというよりホラーに近く、交換殺人を取り上げています。でも、姉が妹を亡きものとしようとする動機が私にはイマイチ理解不能でした。最後の2作「ラストストロー」と「黄色い風船」はいずれも刑務官、ないし、刑務官退職者が主人公で、なかなか含蓄鋭いストーリーです。「32-2」、「オンブタイ」、「血縁」をはじめとして、どうもイヤ味な人物が続々と登場し、読後感はそれほどよくなかった気がしますし、いつものことながら、いわゆる本格ミステリではなく、状況証拠の積み上げで確率的に犯人を指し示すのがこの作者の作品の特徴のひとつですから、やや物足りない読後感も同時にあったりします。殺人事件については、現実社会で観察される殺人は、この作品にあるように、血縁、というか、家族内での事件がもっとも、かつ、飛び抜けて多いといいます。まあ、座間の事件のようなのはレアケースなわけですので、この作品はかなり現実に即した、とはいわないまでも、現実的なプロットなのかもしれませんが、家族で殺し合う作品がいくつか含まれている分、読後感は悪いのかもしれません。

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次に、相場英雄『トップリーグ』(角川春樹事務所) です。著者は売れっ子のエンタメ作家です。そして、この作品では、役所の名前以外はすべて仮名、というか、架空の名前なんですが、テレビのニュースや新聞の報道にそれなりに接していれば、読めば自然と理解できるようになっています。三田電気という仮名で東芝の経理操作事件を取り上げた『不発弾』と題された前作から続いて、総理大臣は芦田首相ということなので、まあ、何と申しましょうかで、同じシリーズといえなくもありませんが、この作品では、戦後最大の疑獄のひとつであるロッキード事件が題材に取られています。田中元総理が渦中の人となり、商社のルートや右翼のルートなどの3ルートがあり、米国発の汚職事件で我が国の内閣が吹っ飛んだ事件でした。そのロッキード事件を背景に、2人のジャーナリストを主人公に、そして、現在の安倍内閣の官房長官を政界の要の人物に据え、物語は進みます。軽く想像される通り、ロッキード事件で解明され切らなかった右翼のルートが現在の政府首脳まで連綿と連なっている、という設定です。そして、タイトルのトップリーグとは、決して、ラグビーのリーグ戦ではなく、政治家に食い込んでいくジャーナリストの中でも、特に便宜を図ってもらえるインナーサークルの構成者と考えておけばよさそうですが、ラストでそのトップリーグにも、政界らしくというか何というか、表と裏があることが理解されます。命の危険まで感じながら取材と裏付けを続けるジャーナリストとアメとムチで迫る政界トップ、さらに、癒着といわれつつも情報を取るために政治家に密着するジャーナリスト、どこまでホントでどこからフィクションなのか、私ごときにはまったく判りません。まあ、キャリアの国家公務員でありながら、いわゆる高級官僚まで出世も出来ず、霞が関や永田町の上っ面だけしか私は知りませんのでムリもありません。そして、この作品の最大の特徴のひとつは、作者がラストをリドル・ストーリーに仕上げていることです。ストックトンの「女か虎か?」で有名な終わり方なんですが、取材と裏付けを進めた主人公のジャーナリストがアメとムチで迫る政府首脳に対して、報道するのか、あるいは、握り潰すのか、ラストが明らかにされていません。まあ、報道する道が選ばれれば、現実性に対する疑問が生じますし、逆に、握り潰す道が選ばれれば、ジャーナリストとしての矜持の問題が浮上します。いずれにせよ、どちらの結末にしようとも、一定割合の読者から疑問が呈されることになる可能性があり、その意味で無難な終わり方なのかもしれませんが、小説の作者として、何らかの結末を提示する勇気も欲しかった気もします。評価の分かれる終わり方と見なされるかもしれません。

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次に、古谷経衡『「意識高い系」の研究』(文春新書) です。著者は論評活動をしているライターのようで、多数の著書があるらしいですが、私は初めて読みました。なかなか、簡潔かつ的確に要点を把握しており、それを、実例に即して展開していることから、私のような意識の低い読者にもよく理解できた気がします。ただ、私は「系」という感じ、というか、言葉は、英語でいうシステムであって、太陽に対する太陽系のように理解しており、本書のように何かの接尾辞として「もどき」を表現するのは慣れていなかったので、最初は少し戸惑った気がします。本書では「意識高い系」の生態や考え方を批判的に分析していますが、まず、その特徴として、いわゆるリア充との対比を試みていて、リア充がスクール・カースト上で支配階級に属し、それゆえに、土地を離れる必要もなく、地元密着の土着系(この「系」はシステムであって、もどきではない)であるのに対して、意識高い系はスクール・カーストでは中途階級であったのが最大の特徴で、それゆえに、リセットのために上京したり、あるいは、もともと東京であっても大学入学を機にリセットする下剋上的な姿勢がある、というもので、さらに加えて、意識高い系は具体的なものを忌避して抽象的なイメージに逃げ込み、泥臭く努力する姿勢を嫌う、という点を上げています。そして、当然のことながら、事故に対する主観的な評価が、周囲からの客観的な評価に比較してべらぼうに高い、という点は忘れるわけにはいきません。もともとは、2008年のリーマン・ショック後の2009年の就職戦線に出て来た一部大学生のグループらしいんですが、私の周囲の中年に達したビジネスマンにも同じような傾向を持つ人物は決していないわけではないような気もします。私自身は世代的にSNSで自分のキャリアを盛るようなことを、SNSがなかったという意味でそもそも出来なかったわけですし、一応、小さな進学校の弱小とはいえ運動部の主将を務め、成績は冴えませんでしたが、スクール・カーストの中途階級ではなかったように思います。かといって、生まれ育った京都の地から上京して就職して、そろそろ定年を迎えようというわけですから、リア充でもありません。ただ、泥臭く努力することはもう出来ない年齢に達した気もします。たぶん、我が家の本家筋で、私と同じ世代の従弟が京大医学部を出て医者をやっているんですが、彼なんぞが本書でいう土着リア充の典型ではないかという気もします。それにしても、ハイカルの文学やエッセイだけでなく、サブカルのマンガや映画、もちろん、SNSをはじめとするネット情報など、とてもたんねんに渉猟して情報を集めた上での、なかなか鋭い指摘をいくつか含む分析を展開した本だった気がします。私は新書は中途半端な気がして、あまり読まないんですが、こういった本はとても興味深く読めました。

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最後に、旦部幸博『珈琲の世界史』(講談社現代新書) です。著者はバイオ系の研究者であり、この私のブログの昨年2016年5月14日付けの読書感想文で取り上げたブルーバックスの『コーヒーの科学』の著者でもあります。ということで、タイトル通りに、コーヒーの歴史をひも解いています。何となくのイメージながら、緑茶や紅茶などのお茶、あるいは、お酒という名称で一括りにしたアルコール飲料などに比べて、コーヒーはかなり歴史が浅い印象があります。本書でも起源はともかく、歴史としてはせいぜい数百年、アフリカのエチオピアを起源に、欧州からインドネシアや米州大陸をはじめとして世界各地に広まっています。Out of Africa というタイトルの映画がありましたが、ホモ・サピエンスの我々現生人類と同じでアフリカから世界に広まった飲み物です。タイトルは世界史なんですが、高校の社会かよろしく、1章を割いて日本史も語られています。著者によれば、日本におけるコーヒーはガラパゴスのように独自の進化を遂げているようです。そして、前世紀終わりから21世紀にかけてはスターバックスなどのスペシャルティ・コーヒーの時代に入ります。私はコーヒーはかなり好きで、京都出身ですのでウィンナ・コーヒーで有名なイノダがコーヒーショップとして馴染みがあるんですが、いわゆるチェーンの喫茶店としては、ドメなチェーンとして古くはUCC上島珈琲、今ではコメダ珈琲や星乃珈琲など、我が家の周囲にもいくつか喫茶店があります。もちろん、海外資本としてはスターバックスが有名で、青山在住のころには徒歩圏内に3-4軒もあったりしました。こういった喫茶店、カフェに入ってひたすら読書したりしています。また、子供達がジャカルタ育ちなもので、温かい飲み物を飲むのは我が家では女房だけで、よく見かけるタワー型の魔法瓶すらなく、子供達や私は冷たい飲み物限定だったりするんですが、少なくとも私はオフィスではホットのコーヒーを飲みます。1日2~3杯は飲むような気がします。本書の著者も冒頭に書いていますが、歴史だけでなく、好きなコーヒーのうんちく話を少し知っていれば、プラセボ効果よろしくコーヒーがさらにおいしくなるような気がします。

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今日は結婚記念日!

今日は結婚記念日です。
上の倅が来月で21歳の誕生日を迎えるわけですから、結婚生活も20年を大きく過ぎ、最近ではもうすっかり夫婦の会話も短くなったり、あるいは、ほとんどなくなったりしました。今週半ばの会話では、夕食の後片付けをしている女房を私がマジマジと見て「太ったな」というと、女房の方は「前から太ってるのよ」と回答してきました。すぐに会話は途切れました。
恒例のくす玉を置いておきますので、めでたいとお考えの向きはクリックして割って下されば幸いです。

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2017年11月10日 (金)

来週公表予定の1次QE予想は7四半期連続のプラス成長か?

先週火曜日の鉱工業生産指数(IIP)や雇用統計などで、ほぼ必要な統計が出そろい、来週の11月15日に7~9月期GDP速報1次QEが内閣府より公表される予定となっています。すでに、シンクタンクなどによる1次QE予想が出そろっています。いつもの通り、顧客向けのニューズレターなどのクローズな形で届くものは別にして、web 上でオープンに公開されているリポートに限って取りまとめると下の表の通りです。ヘッドラインの欄は私の趣味でリポートから特徴的な文言を選択しています。可能な範囲で、足元の7~9月期以降の景気動向を重視して拾おうとしています。明示的に取り上げているシンクタンクは、テーブルの上から4機関、すなわち、日本総研、大和総研、みずほ総研とニッセイ基礎研なんですが、続く2機関、第一生命経済研と伊藤忠経済研のリポートにも何らかの先行きに関する言及があり、ほとんど1次QE予想だけで終始していたのは三菱系2機関だけでした。いずれにせよ、より詳細な情報にご興味ある向きは一番左列の機関名にリンクを張ってありますから、リンクが切れていなければ、pdf 形式のリポートが別タブで開いたり、ダウンロード出来たりすると思います。"pdf" が何のことか分からない人は諦めるしかないんですが、もしも、このブログの管理人を信頼しているんであれば、あくまで自己責任でクリックしてみましょう。本人が知らないうちにAcrobat Reader がインストールしてあって、別タブが開いてリポートが読めるかもしれません。なお、どうでもいいことながら、前回までリポートがオープンにされていた三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所については、「レポートを閲覧いただくには、当社の口座およびオンライントレードの契約が必要」ということになったらしく、私には利用可能でなくなってしまいました。悪しからず。

機関名実質GDP成長率
(前期比年率)
ヘッドライン
日本総研+0.4%
(+1.6%)
10~12月期を展望すると、国内需要については、高水準の企業収益を背景に、設備投資が底堅く推移するとみられるほか、個人消費も、雇用所得環境の改善や株価の上昇に伴う資産効果などを下支えに、再び緩やかな増加基調に復帰する見込み。輸出も、世界的な設備投資意欲の改善などを背景に、増加基調が続く見通し。新型スマートフォン関連の電子部品の需要動向や、自動車メーカーの不正検査問題が、サプライヤーを含めた企業の生産活動に与える影響などが懸念されるものの、底堅い内外需を背景に、プラス成長となる見込み。
大和総研+0.2%
(+1.0%)
先行きの日本経済は、基調として足下の緩やかな拡大が継続するとみている。個人消費を中心とした内需は一進一退ながら堅調な推移が続くと同時に、世界経済の回復を背景とした外需の拡大が日本経済の成長を支えるだろう。ただし、FedやECBの出口戦略に伴う外需の下振れリスクには警戒が必要である。
みずほ総研+0.2%
(+0.9%)
10~12月期以降を展望すると、海外経済の回復を背景に輸出の増勢が続くとともに、内需も再び増加基調に復することで、日本経済は緩やかな回復基調を維持するとみている。
ニッセイ基礎研+0.4%
(+1.5%)
先行きについては、輸出が底堅さを維持する中、企業収益の改善を背景に設備投資の伸びが高まることが予想される。一方、名目賃金の伸び悩みや物価上昇に伴う実質所得の低迷から家計部門は厳しい状況が続きそうだ。2017年度中は企業部門(輸出+設備投資)が経済成長の中心となる可能性が高い。
第一生命経済研+0.4%
(+1.6%)
4~6月期の段階では、輸出の牽引力が落ちてきた一方で内需の回復力が増してきたとの声も聞かれたが、7~9月期と均してみれば、結局のところ輸出は海外経済の回復を背景に引き続き増加、個人消費は緩やかな持ち直しにとどまるといった形になる。企業部門主導での成長が続いているという評価になるだろう。先行きもこうした構図が続くとみられ、輸出と設備投資を中心にした企業部門主導の景気回復が続くとみられる。
伊藤忠経済研+0.5%
(+2.2%)
今後も輸出は拡大基調を維持し景気回復を後押しする一方、設備投資の拡大は循環的にピークアウトする可能性もあるため、日本経済が回復基調を維持するためには個人消費の復調が不可欠であり、その条件が賃金の十分な上昇である状況に変化はない。
三菱UFJリサーチ&コンサルティング+0.4%
(+1.5%)
2017年7~9月期の実質GDP成長率は、前期比+0.4%(年率換算+1.5%)と7四半期連続でプラスとなったと見込まれる。景気が持ち直していることを確認する結果となろうが、内需の伸びは弱く、外需主導での成長となった模様である。
三菱総研+0.4%
(+1.6%)
2017年7-9月期の実質GDPは、季節調整済前期比+0.4%(年率+1.6%)と7四半期連続のプラス成長を予測する。前期の反動もあり内需は横ばいにとどまるものの、好調な輸出を背景に外需が増加したと予想する。

ということで、多くのシンクタンクでは7四半期連続のプラス成長と、順調な景気拡大を見込んでいるようです。ただし、成長の牽引役については、今年2017年4~6月期は外需寄与度がほぼほぼゼロの内需主導型の成長を達成した後に、7~9月期では、逆に、内需の寄与度がほぼほぼゼロで外需主導型の経済成長になっているのが特徴的であり、シンクタンクによっては温度差があるんですが、7~9月期の外需主導型成長について批判的なシンクタンクがある一方で、4~6月期と7~9月期をならしてみてOKとするシンクタンクがあるのも確かです。上のテーブルに取り上げたシンクタンクの中でいえば、前者の典型は三菱UFJリサーチ&コンサルティングであり、後者の典型は第一生命経済研です。どちらに重点を置くかについては、エコノミストの考え方次第なんですが、四半期ごとに経済成長の内容を吟味する考え方はそれなりに重要な気もしますが、少しやり過ぎのキライもあるのかもしれません。いずれにせよ、目先の先行きについても緩やかながら回復・拡大基調が継続するという見方が多いように私は受け止めています。ただし、家計の消費は停滞気味であり、企業部門主導の成長が見込まれています。
下のグラフは、いつもお世話になっているニッセイ基礎研のサイトから引用しています。

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2017年11月 9日 (木)

大きく減少した機械受注と着実な上昇を続ける景気ウォッチャーと黒字が拡大する経常収支!

本日、内閣府から9月の機械受注が、また、同じく内閣府から10月の景気ウォッチャーが、さらに、財務省から9月の経常収支が、それぞれ公表されています。機械受注では変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注の季節調整済みの系列で見て前月比前月比▲8.1%減の8105億円を記録し、景気ウォッチャーでは季節調整済みの系列の現状判断DIが前月から+0.9ポイント上昇して52.2を、先行き判断DIは+3.9ポイントも大きく上昇して54.9を、それぞれ示し、また、経常収支は季節調整していない原系列の統計で+2兆2712億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の機械受注8.1%減、製造業が反動減、非製造業も低調
内閣府が9日発表した9月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標とされる「船舶・電力除く民需」の受注額(季節調整値)は、前月と比べ8.1%減の8105億円と3カ月ぶりに減少した。製造業が前月の大幅増の反動で減少したほか、非製造業も低調だった。ただ、内閣府は基調判断を「持ち直しの動きがみられる」に据え置いた。
製造業は5.1%減の3921億円だった。前月に堅調だった食品製造業を中心に減少が目立ち、全体の重荷になった。汎用・生産用機械は運搬用機械や工作機械が減少した。
非製造業は11.1%減の4329億円だった。4カ月ぶりに前月を下回った。金融業・保険業のネットワークやシステム関連機器の受注が低調で、国内の鉄道車両の受注も一服した。
10~12月期の見通しは前期比3.5%減となった。7~9月期にスマートフォン向けなどが堅調だった半導体製造装置を中心に、製造業で慎重な見方が出た。非製造業は9月に大きく落ち込んだものの、建設業などで持ち直しの期待があるという。10~12月期の業種別の見通しは、製造業が9.4%減、非製造業が0.9%増だった。
10月の街角景気、現状判断指数が2カ月連続改善 好業績支え
内閣府が9日発表した10月の景気ウオッチャー調査(街角景気)によると、街角の景気実感を示す現状判断指数(季節調整済み)は前月比0.9ポイント上昇の52.2と2カ月連続で改善し、2014年3月以来の高さとなった。国内企業の堅調な業績推移を受けて企業動向が大幅に上向き、雇用も一段と上昇した。先行きも楽観的な見方が目立ち、内閣府は基調判断を「着実に持ち直している」で据え置いた。
部門別にみると企業動向が4.1ポイント改善し56.4、雇用は3.3ポイント改善し60.3と、それぞれ上昇した。半面、家計動向は台風の影響などで0.5ポイント低下の49.6とやや弱含んだ。
街角では企業動向について「取引先から売り上げ減少等のマイナス要因を聞くことがない」(九州の金融業)など、業績改善を指摘する声が多かった。「北米向け多目的スポーツ車(SUV)の輸出が好調」(北関東の輸送用機械器具製造業)など、良好な外需も意識された。雇用は「求人数の増加が顕著で、正社員求人も増加している」(九州の職業安定所)との指摘があった。小幅に下げた家計動向では台風の影響で客足が鈍化したとの声があった。
2~3カ月後を占う先行き判断指数は3.9ポイント上昇の54.9。台風の悪影響の一巡や株高による富裕層の消費拡大が、百貨店など小売り関連の見通し改善につながった。家計関連が4.2ポイント上昇の54.4となるなど、企業動向、雇用を含む3指標がそろって上昇した。
9月の経常収支、2兆2712億円の黒字 9月として10年ぶり黒字幅
財務省が9日発表した9月の国際収支状況(速報)によると、海外との総合的な取引状況を示す経常収支は2兆2712億円の黒字だった。黒字は39カ月連続で、前年同月に比べて4069億円黒字額が拡大した。黒字額は9月としては2007年(2兆8814億円)以来10年ぶりの高水準だった。貿易黒字の拡大や第1次所得収支の大幅黒字が寄与した。
貿易収支は8522億円の黒字と前年同月に比べて黒字額が1850億円拡大した。原動機や半導体電子部品の好調で輸出が14.4%伸びた。原粗油や石炭などエネルギー関連の増加で輸入も12.7%伸びたが、輸出が上回った。
第1次所得収支は1兆7025億円の黒字と、黒字幅が1925億円拡大した。円安を背景に海外子会社から受け取る配当金が増えた。
サービス収支は758億円の赤字と、赤字幅が171億円縮小した。訪日外国人の増加を背景に旅行収支が1002億円の黒字と9月としての過去最高を記録。知的財産権使用料の受け取りが増加したことも寄与した。
同時に発表した17年度上半期(4~9月)の経常収支は11兆5339億円の黒字だった。前年同期に比べて黒字額が1兆2094億円拡大し、同期間としては07年度(12兆4816億円の黒字)以来の高水準だった。貿易収支は2兆6869億円の黒字、第1次所得収支は10兆3823億円の黒字だった。旅行収支は8429億円の黒字と半期ベースで過去最高となった。

いつもながら、よく取りまとめられた記事だという気がします。でもさすがに、統計に関する記事を3本も並べると、とても長くなってしまいました。次に、機械受注のグラフは以下の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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コア機械受注については、季節調整済みの系列の前月比で見て、7月+8.0%増、8月+3.4%増を受けての反動減もあって9月統計では▲8.1%減と落ち込みましたが、季節調整済みの四半期系列でならして見ると、前期比で今年に入ってからは1~3月期▲1.4%減、4~6月期▲4.7%減の後、7~9月期は+4.7%増を記録したものの、10~12月期の見通しは▲3.5%減と見込まれており、10~12月期は特に製造業で大きく落ち込む見通しとなっています。9月統計の実績と10~12月期の見通しを受けて、引用した記事にもある通り、統計作成官庁である内閣府は基調判断を「持ち直しの動き」で据え置いています。先月に「足踏み」から「持ち直しの動き」へと明確に1ノッチ引き上げたところなので、なかなか難しいところですが、少なくとも統計を素直に見る限り、また、上のグラフを単純に見れば、それほど上向く気配もなく、ならせば2015年くらいから横ばいなんではないか、と私は受け止めています。ただし、足元や目先ではなく来年度以降について考えると、全体として業種横断的に、労働需給のひっ迫を背景とした合理化・省力化投資が見込まれる一方で、業種別には、製造業では更新投資とともに、維持・補修に関する投資が期待されるものの、能力増強に対する投資意欲は高くないように見受けられ、本格的な設備投資の増加には、輸出も含めて、さらなる需要の盛り上がりが必要であり、他方、非製造業ではインバウンド消費への対応や2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けたインフラ整備向けの投資が増加すると見込まれます。ですから、決して先行きについて悲観はしているわけではないんですが、足元から目先の年内くらいは一進一退の動きが続くんではないかと私は見込んでいます。ただ、グラフは示しませんが、四半期データが利用可能となり、達成率も明らかにされましたが、7~9月期のコア機械受注の達成率は約100%であり、エコノミストの経験則である90%ラインを割るような局面ではありません。ご参考まで。

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続いて、景気ウォッチャーのグラフは下の通りです。現状判断DIと先行き判断DIをプロットしています。いずれも季節調整済みの系列です。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期です。供給サイドの典型的なマインド指標である景気ウォッチャーですが、かなり高い水準を続けており、この好調なマインドが景気の回復・拡大を支えている面もあります。ただ、私の直観的な観察結果として、2015年中くらいまでは景気ウォッチャーにおいて家計部門と企業部門の差は大きくなかったんですが、昨年2016年に入ってから家計部門と企業部門で差がつき始め、この2017年10月統計ではかなり差が拡大したんではないかと懸念しています。すなわち、6か月ごとくらいに現状判断DIを見ていくと、2年前の2015年10月時点では家計動向関連50.6に対して、企業動向関連49.4だったんですが、1年半前の2016年4月には家計38.7、企業43.2と逆転し、1年前の2016年10月には家計46.6と企業50.4にともに改善を示しつつ、差も縮小したんですが、直近の2017年10月統計では家計49.6と企業56.4と大きな差がついてしまいました。街角景気はかなり正確で、私の直観でも現在のいざなぎ超え確実の景気拡大は家計部門ではなく企業部門が牽引しています。企業行政はかなり好調で内部留保は積み上がっているんですが、賃金で家計に還元して消費の原資として購買力をつけたり、あるいは、設備投資により企業間や産業間で好調な企業業績がスピルオーバーしたりしてはいないように見受けられます。家計にとっては、景気ウォッチャーの第3のコンポーネントである雇用関連が、2017年10月には現状判断DIがとうとう60に乗せるほどの好調なのが救いなんですが、囚人のジレンマのように各企業がひたすら内部留保を溜め込むばかりで、賃金にも、設備投資にもスピルオーバーを試みない現状をどのように打破するかが、景気回復・拡大をさらに息の長いものとするために考えなければならないのかもしれません。

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最後に、経常収支のグラフは上の通りです。青い折れ線グラフが経常収支の推移を示し、その内訳が積上げ棒グラフとなっています。色分けは凡例の通りです。上のグラフは季節調整済みの系列をプロットしている一方で、引用した記事は季節調整していない原系列の統計に基づいているため、少し印象が異なるかもしれません。引用した記事にもある通り、貿易黒字と1次所得収支の黒字が大きくなっています。円安に伴って円建て額が膨らんだことに加え、引用した記事にもある通り、インバウンド消費により旅行収支につれてサービス収支が改善しています。震災や国際商品市況における石油価格の上昇などから、経常収支は赤字化したり、あるいは、黒字幅が大きく縮小していましたが、すっかり震災前の水準に戻ったように見受けられます。ただし、米国のトランプ大統領はすでに日本を離れましたが、かつての勢いある経済を擁していた日本でしたら対外摩擦になりかねないほどの黒字を積み上げている気がします。7~9月期のGDP統計は来週水曜日11月15日の公表ですが、おそらく、7~9月期における経常収支のGDP比は4%を超えているんではないかと思います。サブプライム・バブル期末期の2007年ころの+5%近い水準には達しませんが、1990年代半ばの当時の米国クリントン政権期に日米包括協議に引っ張り出された私としては、やや気にかかるところです。

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2017年11月 8日 (水)

9月の景気動向指数は下降するも景気拡大期間はいざなぎ超えを確認!

本日、内閣府から8月の景気動向指数が公表されています。CI先行指数は前月比▲0.6ポイント上昇して106.6を、CI一致指数も▲1.9ポイント下降して115.8を、それぞれ記録しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

景気拡大、いざなぎ超え確認 9月動向指数「改善」
2012年12月に始まった今の景気拡大の長さが高度成長期の「いざなぎ景気」を超え、戦後2番目の長さになった。内閣府は8日発表した9月の景気動向指数(CI、2010年=100)の基調判断を最も強気の「改善を示している」に11カ月連続で据え置いた。公式には時間をおいて判断するが、暫定的に今の景気拡大は9月で58カ月間に達した。
CIは生産や雇用などの経済指標の動きを総合して算出し、景気の方向感を示す。景気回復の期間などは正式には専門家でつくる内閣府の研究会が決めるが、内閣府はCIをもとに毎月、景気の基調を機械的に判断している。
茂木敏充経済財政・再生相は9月25日の月例経済報告で既に現在の景気は「いざなぎ景気を超えた可能性がある」との認識を示していた。今回の景気動向指数の判断により、これが暫定的に確認された。
いざなぎ景気は1965年11月から70年7月まで57カ月間続いた。今の景気拡大が2019年1月まで続けば、02年2月から73カ月間続いた戦後最長の景気回復を抜くことになる。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、下のグラフは景気動向指数です。上のパネルはCI一致指数と先行指数を、下のパネルはDI一致指数をそれぞれプロットしています。影をつけた期間は景気後退期を示しています。

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ついつい、メディアの論調の尻馬に乗ったタイトルを採用してしまいましたが、実は、私は景気拡大期間がいざなぎ景気を超えたかどうかとか、ましてや戦後最長かどうか、にはそれほど興味はないものの、まあ、景気拡大期間が短いよりは長い方が好ましく、逆に、景気後退期間は短い方が好ましい点については、ほとんどすべてのエコノミストが一般論として同意するんではないかと思います。「ほとんどすべて」であって、「すべて」ではないのは、いまだに清算主義的な考えを持つ人もいなくはなく、景気後退期間が十分な期間あって、例えば、非効率な企業の市場からの退出などが、次の景気拡大期を健全なものにする、という考え方が一掃されたわけではないからです。私は企業部門もさることながら、雇用へのダメージの方をより重視するタイプのエコノミストですので、景気後退期間は短く浅い方が望ましいと考えています。ということで、本来の目的に立ち返って、9月の景気動向指数を概観しておくと、実は、9月統計はCI一致指数、CI先行指数とも下降を示しています。一致指数については、トレンド成分だけの寄与の項目を除いてプラス寄与は商業販売額(小売業)(前年同月比)だけとなっており、投資財出荷指数(除輸送機械)、鉱工業用生産財出荷指数、耐久消費財出荷指数、生産指数(鉱工業)、有効求人倍率(除学卒)などが、この順で軒並みマイナス寄与しています。先行指数については一致指数ほど極端ではありませんが、それでも、日経商品指数(42種総合)、消費者態度指数、新設住宅着工床面積、マネーストック(M2)(前年同月比)などがプラス寄与している一方で、中小企業売上げ見通しDI、最終需要財在庫率指数、鉱工業用生産財在庫率指数、新規求人数(除学卒)がマイナス寄与となっています。また、内閣府が公表している「『CIによる景気の基調判断』の基準」に従えば、景気拡大の基準は「原則として3か月以上連続して、3か月後方 移動平均が上昇」なんですが、実は、9月統計のCI一致指数の3か月後方移動平均の前月差は8月統計の+0.63から大きく低下して▲0.33を記録しています。ただ、「拡大」の次のステージである「足踏み」の定義が「3か月後方移動平均(前月差)の符号がマイナスに変化し、マイナス幅(1か月、2か月または3か月の累積)が1標準偏差分以上」ということですので、前半の符号のマイナス変化は当てはまるものの、後半のマイナス幅基準が1標準偏差に達しない、ということなんだろうと認識しています。

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2017年11月 7日 (火)

毎月勤労統計に見る実質賃金は上昇に至らず4か月連続で前年比マイナス!

本日、厚生労働省から9月の毎月勤労統計が公表されています。景気動向に敏感な製造業の所定外労働時間指数は季節調整済みの系列で前月から+0.6%増を示し、また、現金給与指数は季節調整していない原系列の前年同月比で+0.9%増となった一方で、現金給与総額を消費者物価(CPI)でデフレートした実質賃金は前年同月比で▲0.1%のマイナスとなっています。さらに、今年2017年の夏季賞与についても統計が明らかにされており、5人以上事業所で+0.4%と低い伸びにとどまっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

9月の実質賃金0.1%減、4カ月連続マイナス
厚生労働省が7日発表した9月の毎月勤労統計調査(速報値、従業員5人以上)によると、物価変動の影響を除いた実質賃金は前年同月比で0.1%減少した。4カ月連続でマイナスだった。賃金の増加が物価上昇になお追いつかない現状を映す。厚労省が同日公表した2017年夏のボーナスは36万6502円となり、前年比0.4%増加した。
9月の名目賃金にあたる従業員1人当たりの現金給与総額は26万7427円と、前年同月に比べ0.9%増えた。16年7月(1.2%増)以来、1年2カ月ぶりの増加幅となった。他方、9月の消費者物価指数が0.9%上昇となったため、結果として実質賃金を押し下げた。
名目賃金の内訳をみると、基本給にあたる所定内給与が前年同月比0.7%増の24万2143円だった。残業代を示す所定外給与は0.9%増。その他特別に支払われた給与は前年同月比で11.6%増加した。
夏のボーナスは人手不足が深刻な中小企業を中心に増えた。事業所の規模別にみると、従業員が5~29人の事業所では前年比2.0%増、30~99人の事業所では3.6%増となった。規模が500人以上の事業所は2.8%減った。業種別では医療・福祉(前年比2.8%増)や教育・学習支援業(1.5%増)などで増加が目立った。

やや賃金に関して集中的に報じている印象がありますが、まずまずよく取りまとめられている気がします。続いて、毎月勤労統計のグラフは以下の通りです。上から順に、1番上のパネルは製造業の所定外労働時間指数の季節調整済み系列を、次の2番目のパネルは調査産業計の賃金、すなわち、現金給与総額ときまって支給する給与のそれぞれの季節調整していない原系列の前年同月比を、3番目のパネルはこれらの季節調整済み指数をそのまま、そして、1番下のパネルはいわゆるフルタイムの一般労働者とパートタイム労働者の就業形態別の原系列の雇用の前年同月比の伸び率の推移を、それぞれプロットしています。いずれも、影をつけた期間は景気後退期です。

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ということで、上のグラフに沿って見ていくと、まず、景気と連動性の高い製造業の残業時間については、鉱工業生産指数(IIP)とほぼ連動して9月は増加に転じています。次に、報道でも注目を集めた賃金については、名目賃金は前年同月比で上昇しています。ただ、本格的なデフレ脱却はまだながら消費者物価(CPI)が上昇していることから、実質賃金はわずかながら前年から減少しており、引用した記事に盛る通り、4か月連続のマイナスです。ただ、上のグラフのうちの最後のパネルに見られる通り、パートタイム労働者の伸び率がかなり鈍化して、フルタイム雇用者の増加が始まっているように見えます。ですから、労働者がパートタイムからフルタイムにシフトすることにより、マイクロな労働者1人当たり賃金がそれほど上昇しなくても、マクロの所得については、それなりの上昇を示す可能性が大きいと私は受け止めています。もちろん、企業が収益力を高める一方で労働分配率は低下を続けていますから、上のグラフの3番目のパネルに見られる通り、季節調整済みの系列で賃金を見ても、なかなかリーマン・ショック前の水準に戻りそうにありません。先行きに関しては、人手不足の進行とともに非製造業などで賃金上昇につながる可能性も大きくなっており、消費を牽引する所得の増加に期待が持てると私は考えています。マインドは株価の上昇とともに、かなり上向いてきており、冬のボーナスをはじめとして、所得のサポートあれば消費はさらに伸びを高めるんではないかと予想しています。

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11月公表の毎月勤労統計では、恒例により夏季賞与の統計が明らかにされています。上から順に、ボーナスの増減、産業別の伸び率、産業別の支給額です。2017年夏の賞与は+0.4%増と、昨年2016年の+2.3%には遠く及びませんでした。2番目のパネルを見て判る通り、もっとも伸びが大きかったのが生活関連サービス等、逆に、もっとも下げ幅が大きかったのが飲食サービス等なんですが、ともに支給額では大きくありません。そろそろ、冬のボーナスの予想がいくつかのシンクタンクから明らかにされる季節になって来ました。例年のペースなら今週中には出そろうんではないかと思います。また、日を改めて取り上げたいと思います。

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2017年11月 6日 (月)

インテージ調査による「スマートテレビのログデータから見た都道府県別視聴実態」の結果やいかに?

3連休も終わって、お天気がよくて外出も多かったんですが、やっぱり、テレビもよく見ました。渡しの場合は日本シリーズのテレビ観戦だったんですが、昨日は駅伝もやっていたようですし、スポーツの空きが花盛りなのかもしれません。ということで、大手調査会社のインテージから10月31日に、「スマートテレビのログデータから見た都道府県別視聴実態」の結果が明らかにされています。図表を引用しつつ、簡単に取り上げておきたいと思います。

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まず、上のグラフは、インテージのサイトから 都道府県別テレビの総接触率 の地図を引用しています。平たくいえば、色が濃いほどテレビをよく見ている、ということなんだろうと思います。トップスリーは、北海道が26%で6時間8分、宮城県が24%で5時間50分、秋田県が同じく24%ながら5時間49分、となっており、逆にテレビを見ている時間が短いのが、鳥取県が17%で4時間5分、福井県が19%で4時間35分、宮崎県が20%で4時間41分、となっています。最長の北海道と最短の鳥取県では2時間超の差があり、北海道の人は平均的に鳥取県の人の1.5倍ほどの時間テレビを見ているわけです。何を見ているかにもよるんでしょうが、大宅壮一がテレビを称して「一億総白痴化」と称していますから、何となくイメージは湧きます。

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次に、上のグラフは、インテージのサイトから 時間帯別テレビの総接触率 のグラフを引用しています。全国平均と北海道に次ぐ第22位の総接触率の秋田県をプロットしています。見れば判る通り、朝の7時台と夜の20時台にピークがあり、お昼の12時台にも小さなピークがあります。それぞれ、通勤・通学前の朝の支度時間帯と夜の夕食後の一家団欒のひととき、加えて昼休みなんだろうと理解しています。赤いラインの秋田県は3つのピークすべてで全国を上回っていて、ほかの時間帯でもおおむね全国よりも高い接触率なんですが、唯一、深夜だけは下回っています。青森県のデータによれば、青森県は早寝も早起きも全国一番だそうで、そのあたりが影響しているのかもしれません。

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最後に、上のグラフは、インテージのサイトから 2017年夏の甲子園決勝の接触率 のグラフを引用しています。全国平均と決勝進出校の地元である広島県と埼玉県の数字です。何となくのイメージながら、一般論として、プロ野球球団もある広島県の方が首都圏の埼玉県よりも野球に熱心な気もしますが、地元校の大量得点のあたりから埼玉県でも熱が入り始め、試合終了直前はかなりのテレビ接触率を上げています。これも判る気がします。

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2017年11月 5日 (日)

「ジャズ100年のヒット曲」Anniversary of Jazz を聞く!

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「ジャズ100年のヒット曲」Anniversary of Jazz を聞きました。2枚組CDで曲の構成は以下の通りです。

  • Disk 1 (Jazz Originals)
    1. Don't Know Why/Norah Jones
    2. Misty/Erroll Garner
    3. Maiden Voyage/Herbie Hancock
    4. Waltz for Debby/Bill Evans
    5. St. Thomas/Sonny Rollins
    6. Moanin'/Art Blakey and the Jazz Messengers
    7. Now's the Time/Charlie Parker
    8. Cleopatra's Dream/Bud Powell
    9. The Sidewinder/Lee Morgan
    10. Spain/Chick Corea
    11. The Girl from Ipanema/Stan Getz
  • Disk 2 (Jazz Standard)
    1. April in Paris/Count Basie
    2. Sing, Sing, Sing/Benny Goodman
    3. Take the "A" Train/Clifford Brown and Max Roach
    4. Say It (Over and Over Again)/John Coltrane
    5. What a Wonderful World/Louis Armstrong
    6. Autumn Leaves/Cannonball Adderley
    7. Days of Wine and Roses/Oscar Peterson
    8. You'd Be So Nice to Come Home to/Helen Merrill
    9. My Funny Valentine/Chet Baker
    10. A Lover's Concerto/Sarah Vaughan
    11. Unforgettable/Nat "King" Cole
    12. The Look of Love/Diana Krall
    13. Mack the Knife/Ella Fitzgerald
    14. Satin Doll/McCoy Tyner

1917年というのは、オリジナル・ディキシーランド・ジャズ・バンドが初めて「ジャズ」という単語を明記した商業用レコードを録音したらしく、これがジャズの起源として考えられているそうです。上のように、流石に比較的新しい、というか、どうしても音源の関係だと思うんですが、モダンジャズからコンテンポラリー中心に、豪華なコンピレーション・アルバムとなっています。ただ、理由は不明ですが、Bluesette に収録されている Five Spot after Dark が抜けているのは私には理解不能です。アルバムCD1枚に縮められても収録すべき名曲です。それから、女性ボーカルが多く収録されているのは日本人の好みなんだろうと理解しています。冒頭のノラ・ジョーンズとか、ダイアナ・クラールなんて、サラ・ボーンやエラ・フィッツジェラルドと並べて聴くような名曲なんでしょうか。私には判りかねます。エラの「マック・ザ・ナイフ」は貴志祐介の『悪の教典』で、 蓮実がよく口ずさんでいた曲だとされていて、下の倅と私で図書館からCDを借りて聞いた記憶があります。このCDに収録されているベルリンでのライブだったハズです。

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2017年11月 4日 (土)

今週の読書はなぜか大量に8冊を読み切る!

台風が来なかった週末に、久し振りに自転車で図書館を回りました。今週の読書はなぜか大量に8冊に上っています。以下の通りです。

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まず、ポール・メイソン『ポストキャピタリズム』(東洋経済) です。著者は英国のジャーナリストです。かなりの年輩ではないかと読んでいて感じました。英語の原題は POSTCAPITALISM であり、邦訳タイトルはそのまんまです。原書は2015年の出版です。ということで、当然ながら、資本主義を生産様式として捉え、単なる市場における資源配分という経済学的な側面だけではなく、生産を中心とする社会的なシステムとして考えれば、資本主義の後釜はすでに250年ほど前にマルクスが提唱したごとく社会主義であり、さらのその先には共産主義が控えている、と考えられなくもありませんが、1990年代に入ってソ連が崩壊し、中国は社会主義なのか、という疑問がある中で、もはや、マルクス的な社会主義、というか、その移行過程についてはかなりの程度に否定されたと考えるべきです。ただし、本書では、古典派経済学のスミスやリカード、あるいは、マルクス的な労働価値説を援用しつつ、最終第10章で提唱されているように、「プロジェクト・ゼロ」=資本主義以後の世界として、限界費用ゼロに基づく新しいポスト資本主義の経済を描き出しています。すなわち、機械や製品の製造コストは限界的にゼロであり、労働時間も限りなくゼロに近づくことから、生活必需品や公共サービスも無料にし、民営化をやめ、国有化へ移行した上で、公共インフラを低コストで提供し、単なる賃金上昇よりも公平な財の再分配を重視し、さらに、ベーシック・インカムで最低限の生活を保障するとともに、劣悪な仕事を駆逐し、並行通貨や時間銀行、協同組合、自己管理型のオンライン空間などを促しつつ、経済活動に信用貸しや貨幣そのものが占める役割がずっと小さくなる社会の実現を目指す、としています。資本論全3巻をその昔に読破し、その他のマルクス主義文献もいくつかはひも解いた私から見て、かなりユートピアンな内容だという気もします。少し前に流行った単なるインセンティブによって、このような経済社会が資本主義に続いて自然発生的に実現するハズもなく、だから、マルクスは暴力革命とその後のプロレタリアート独裁を主張したわけで、要は、移行の問題ではなかろうかという気もします。私の歴史観からしても、歴史は円環的ではなく一直線に進み、生産力の向上の結果、かなり多数の財・サービスの価格がゼロになる経済社会は、確かに、近い将来に見通せる段階まで来ています。マルクス的な世界に近い気もします。ただ、それをどのように実現し、資本主義からポスト資本主義にどう移行するか、私はまだ決定打を持っていません。

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次に、朱寧『中国バブルはなぜつぶれないのか』(日本経済新聞出版社) です。著者は、中国の上海交通大学の研究者であり、行動ファイナンス、投資論、コーポレートファイナンス、アジア金融市場論を専門としているようです。原典は中国語で書かれており、邦訳書は英語版からの翻訳だそうです。中国語の原題は『剛性泡沫』であり、2016年の出版です。シラー教授が序文を寄稿しています。ということで、現在の中国経済のバブルについて、株式市場、土地神話に始まって、その他の金融資産市場及び実物資産市場における通常の価格決定メカニズムでは合理的な説明の出来な異様な資産価格形成について、そして、その広がりについて概観しつつ、そのバブルの原因について分析を加えています。すなわち、共産党が指導する中央政府が主導し、地方政府、国有銀行、国有企業、民間経済界も加わって、合成の誤謬を含みつつも各地方政府における経済成長を最大の目標とし、たとえ資産市場でバブルが発生していたとしても、それを政府が暗黙に保証し、しかも、「大きすぎてつぶせない」仕組みまで動員して、バブルがどんどん膨らんで行く様子が活写されています。特に、私の印象に残ったのは、事業や組織を生産することは「悪」であり、倒産・破産したり、債務支払いをデフォルトするのは大きな恥であり、メンツが潰れる、と捉える前近代的な経済観がまだ中国で主流となっている点です。西欧でも実際に存在したとはいえ、前近代的な債務奴隷の世界を思い起こさせます。事業や企業の健全な発展のための破産法制、チャプター11がもっとも整っている米国などとは大きく異なります。実は、今世紀はじめに私がジャカルタに駐在してODA事業に携わっていた折にも、インドネシアに破産法制を導入しようとしているJICA専門家がいました。私は専門外ですので、横からチラチラと眺めていただけですが、途上国では破産法制はまだまだ未整備であることは事実ですし、中国もその例から漏れないんだろうと思います。著者の見方では、経済成長最大化のために、バブルが崩壊しないように政府が暗黙の保証でサポートしていて、本来破裂するはずのバブルがなかなか崩壊しないのが現在の中国バブルの特徴、ということなんですが、それでも、その強靭なバブル、本書の中国語タイトルである「剛性泡沫」であっても、決して永遠にサステイナブルであるわけはなく、いつかはバブルが崩壊せざるを得ず、それは時間の問題である、と警告するのが本書、というか、著者の主張なんだろうと受け止めています。結論は平凡ながら、中国経済のバブルの現状について把握するのに適当な本ではないかと思います。

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次に、アンドリュー・キーン『インターネットは自由を奪う』(早川書房) です。邦訳者のあとがきによれば、著者は英国生まれのIT系企業家、著述家、コメンテータだそうで、現在は米国在住です。英語の原題は The Internet Is Not the Answer であり、ハードバック版が2014年の出版なんですが、邦訳は2015年出版のペーパーバック版を底本としています。ということで、やや邦訳タイトルは本書の全貌を網羅しているとはいえず、かなり狭い分野に限定しているようなきらいがあるんですが、要するに、インターネットに対するアンチな本です。もともと、インターネットについては民主的な幅広い参加が望めるメディアとして注目され、格差解消などに役立つ可能性が指摘され、本書では何の注目もされていませんが、私の専門分野である開発経済学などでは、世銀が「世界開発報告」2016年版で「デジタル化がもたらす恩恵」を取り上げたりもしています。しかし、同時に、勝者総取りのスーパースター経済学により格差が逆に拡大したり、プライバシーをはじめとして個人情報を含めた巨大なデータベースがかつての冷戦下での東独の秘密警察にたとえられたりと、逆に経済社会にマイナスの影響を及ぼしていると本書の著者は主張しています。そして、それらのマイナスの影響の解消のため、私が今まで接したことのない解決策が提示されており、歴史を待って人類の側でデータ量を積み上げる、という主張です。私が今まで何かにつけて接してきた中で、金融経済の弊害やインターネットをはじめとする情報化社会のマイナスの面などについて、それをさらなる技術進歩で乗り越えようという考えは、今までなかったような気がするだけに、かなり新鮮でした。ただ、それがホントに解決策になるかどうかは歴史が進まないと判りません。メディアの例を引くと、新聞などの印刷物に対して、音声で伝えるラジオ、さらに動画で伝えるテレビなどが技術進歩の結果として現れましたが、それが何らかのソルーションになったかどうかは評価の分かれるところかもしれません。まあ、本書でも指摘されているように、地道に反トラスト法なんぞをテコに、かつてのAT&Tに対峙したように巨大企業の分割、というのもアジェンダに上るのかもしれません。

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次に、スディール・ヴェンカテッシュ『社会学者がニューヨークの地下経済に潜入してみた』(東洋経済) です。著者はコロンビア大学の社会学教授であり、本書に従えば、潜入中に終身在職権=テニュアを取得しています。アーバン・ジャスティス・センター(UJC)におけるセックス・ワーカー・プロジェクトの一環でのフィールドワークです。著者はコロンビア大学に移る前のシカゴにおいて、全米一の規模の公営団地であるロバート・テイラー・ホームズでの麻薬密売人に密着したフィールドワークで一躍有名になっています。邦訳書は『ヤバい社会学』として、同じ出版社から2009年に出ています。本書は、タイトルから明らかな通り、舞台をニューヨークに移し、ターゲットも売春婦としたフィールドワークの結果に基づくノンフィクションのリポートであり、学術書ではありません。英語の原題は Floating City であり、2013年の出版です。なお、英語の原題の "floating" は本書では「たゆたう」と邦訳されています。ということで、私はこの著者の前著は読んでいませんが、ホンワカと認識していた社会学のフィールドワークの結果を興味深く拝読しました。おそらく、前著の麻薬の密売人と違って、売春婦はかなりグローバルな存在であり、世界中のほぼすべての国や地域で少なくとも同じような性風俗産業は観察されるのではないかと思います。売春婦の中でも、下層の立ちん坊からデートクラブのコールガールまで、社会階層、というか、少なくとも所得においては決して下層とはいえず、中流以上の稼ぎのある売春婦も含めて、その実態を社会学の見地から明らかにしようと試みたフィールドワークの記録です。私自身はエコノミストですから、社会学と経済学の違いもわずかながら理解しているつもりですが、本書では pp.282-83 にかけて展開されています。いかにしてマイクロな人が階級、特に所得階級を決定するかについて、学歴とか、経験とか、何らかの知識やノウハウなんかを特定すべく、出来ることであれば統計的な検定に耐えられるサンプル、本書で「n」と称されている人数を確保し、特定化を試みることでしょう。著者は本書で社会学の2大派閥について同じような視点から触れており、エコノミストのやり方は著者の命名によれば科学派、ということになります。それに対して、著者のようなフィールドワークが配置されているわけです。そして、著者が明らかにしているように、経済学の中でも私の専門とする開発経済学の対象である発展途上国ではフィールドワークも大いに有効であろうと思います。誠に残念な点は、私自身が開発経済学の専門でありながら科学派に属していることです。比較的最近、というか、今年になってから読んだ中で、割合と同じような傾向のある本としては、1月28日付けの読書感想文で取り上げた『経済学者 日本の最貧困地域に挑む』があるんですが、上から目線で、救ってやる、助けてやるといったエラそうな手柄話もなく、ニューヨークの売春婦に寄り添う、とまではいいませんが、同じ目線で何らかの出口を探る学究的なまなざしが好感持てます。

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次に、フランス・ドゥ・ヴァール『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(紀伊國屋書店) です。著者はオランダ生まれで、博士号の学位取得の後に米国に移った進化認知学の専門家です。英語の原題は Are We Smart Enough to Know How Smart Animals Are? であり、邦訳タイトルはほぼ直訳気味です。冒頭に、二派物語と題する章が置かれており、行動学派のように、動物には人間のような感情・認知・情動といったものはなく、ひたすら本能に従って生きている、と考える一派がある一方で、著者のように認知学派的に、霊長類はいうに及ばず、動物や、無脊椎銅動物、さらに、昆虫にすら何らかの認知行動や情動があると考える一派があるようです。そして、著者は p.351 において、エコノミストにもおなじみのヒュームの言葉を借りて「動物の内面も私たちの内面と似ていると判断する」として、多くの動物には認知や情動があるものとして、その例をしつこいくらいに上げています。同時に、我が母校の京都大学霊長類研究所の今西教授他の研究成果も数多く肯定的に引用されています。シロートながら私の考えるに、キリスト教的な魂の救済という宗教的バックボーンと、東洋的というか、日本でいうところの山川草木悉皆成仏のようなアニミズムに近い宗教観の差ではないかという気がします。すなわり、キリスト教的には魂を持って行動している生き物は人間だけであり、それゆえに、最後の審判では魂が救われるわけですが、日本では人間に限らず、妖怪のような存在まで含めて、生き物はすべて何らかの意義ある存在であり、決して人間を澄天とするヒエラルキーで世界が構成されているわけではない、と考えます。ですから、そして、現在の科学界の見立てでは、東洋的な人間を特別視しない世界観、宗教観がむしろキリスト教よりも科学的である、ということなんだろうという気がします。日本人には何をいまさら、という感がありますが、論旨が明快で判りやすく好感を持てる教養書です。専門外の読者にも一読の価値があります。ただ、神経系を含めて、そもそも人間にどうして認知や情動があるのかが完全には解明されていない現状で、どこまで動物の認知や情動を認めることに意味がるのか、という疑問は残ります。

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次に、佐々木彈『統計は暴走する』(中公新書ラクレ) です。著者は東大社研教授であり、専門は経済学だと思うんですが、やや期待外れの悪書でした。とてつもない上から目線で、要するに、統計を基礎にして論じている、あるいは、説得しようとしている内容について、それが著者の気に入らない主張であれば、論難する、という著書であり、著者が論難している議論よりさらにムリのある主張がツッコミどころ満載で取り上げられています。要するに、著者がこの本でいいたいことは、世論調査や統計の裏付けがあろうとなかろうと、著者の気に入った常識であればOKである一方で、どんな統計処理をシていても著者が気に入らなければNG、ということに尽きるような気がします。それ以外の論点はありえません。およそ、雑でガサツで特段の根拠ない議論が堂々巡りで展開されています。いくつか例を上げておくと、第4章で展開されているような二酸化炭素と地球温暖化の関係、喫煙と発がんの関係などは、どの等な統計を持ってどちらからどちらの方向の相関ないし因果を論証しても、著者が気に入る唯一のルート、すなわち、二酸化炭素は地球温暖化を促進し、喫煙は発がん確率を高める、という因果関係意外はすべて否定されるべきもののようです。そして、その著者の考えるカギカッコ付きの「正しい因果関係」は本書では何ら論証されていません。どうも、著者の考えはアプリオリに正しいと前提されているようです。私が本書を読んだ限り、「暴走」しているのは統計ではなくて、本書の著者のような気がします。よくこんな内容を東大社研の連続セミナーで取り上げたもんだと感心しています。十分批判的な目で読書できる自身がない場合はパスするのが賢明のような気がしますが、怖いもの見たさの読書を否定するつもりはありません。

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次に、日本再建イニシアティブ『現代日本の地政学』(中公新書) です。見ての通りの地政学と地経学に基づき、13章に渡って日本が直面するリスクについて、各専門分野の著者が解説を加えています。すなわち、第1部では安全保障について、米国のアジア太平洋戦略、中国の海洋進出、不安定な朝鮮半島のリスク、中国外交、ロシア、トランプ政権下の米国、そして第2部では地球規模のリスク要因として、エネルギー、サイバー攻撃、気候変動、トランポ政権の経済政策、中国の一帯一路戦略とAIIBの展開、ポストTPPの通称戦略、地政学と地経学などなど、興味あるテーマが並んでいます。現時点での日本のリスクは、何といっても、安全保障面では、いわゆる核の傘を含めて、全面的に米国に依存しつつ、経済学的には中国への依存をじわじわと強めている点です。米国の安全保障政策・戦略についても、オバマ政権期にピボットとか、リバランスと称して、アジア太平洋の重視に戦略を転換しましたが、トランプ政権における安全保障についてはまだ不明な点が多く残されています。安倍総理との首脳間の信頼関係は強いように見受けられますが、政府としての組織の間での協力関係はどうなんでしょうか。この方面の知識は私には皆無に近く、まったくのシロートなのがお恥ずかしい限りなんですが、北朝鮮は本書では「すぐ崩壊しそうにない」(第3章冒頭のp.47) なんでしょうか。私はすでに末期症状に入っているような気になっていたんですが、謎が深まる限りです。TPPについては、私はまったく先行きの見通しをもてません。ただ、本書ではTPPにまだご執心で、日EUの経済連携協定については無視されていたりします。どうしてもこういったテーマになると、米中に加えて朝鮮半島には注目するものの、なぜか、欧州は軽視されがちになるような気がします。

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最後に、若竹七海『静かな炎天』(文春文庫) です。この作者の葉村晶シリーズの最新刊の短編集です。10年余振りのシリーズだと思ったんですが、2014年に『さよならの手口』と題する長編が出版されていたらしく、大慌てで併せて読みました。いずれも文春文庫からの出版です。なお、本作『静かな炎天』の前に出版されている同じシリーズについては、『さよならの手口』も含めて、『プレゼント』、『依頼人は死んだ』、『悪いうさぎ』はすべて私は読んでいます。主人公の葉村晶は女性探偵なんですが、シリーズ物としてとてもめずらしいことに、ほぼほぼ実際の出版と整合的に年令を重ねて行きます。最初の短編集は『プレゼント』であり、小林刑事シリーズの短編と交互に並んでいた記憶があるんですが、葉村晶のデビューは20歳代半ばか後半でした。そして、読み逃していて大慌てで読んだ『さよならの手口』では40代に入っており、この作品では40代も半ばの設定で、40肩で苦しんでいたりします。この短編集では5話目の「血の凶作」が私は一番おもしろかったです。そして、改めて、このシリーズの場合は、長編ではなく短編がいいと強く感じました。長編最新作の『さよならの手口』の文庫版解説にも明記されていたんですが、長編だとついついややこしい、というか、いくつか複数の謎を織り込まれてしまい、通常のミステリなら3-4作品くらいの謎が『さよならの手口』には詰め込まれています。それを評価する読書子もいるんでしょうが、少なくともミステリの場合は「オッカムの剃刀」よろしく、単純な謎解きの方が私は好きです。単なる好き嫌いのお話なんですが、複雑な謎を長々と解き明かされて喜ぶんではなく、シンプルな謎解きを、まさにカミソリのようにスパッと提示される方がミステリの醍醐味だと思います。最後に、このシリーズの主人公の女性探偵である葉村晶は、出版社の謳い文句によれば「不運な探偵」ということになっており、特のこの作品の最終話の「聖夜プラス1」が典型なんですが、私はこういうのを不運とはいわずに、単なるお人好しではないか、と受け止めています。ご参考まで。

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2017年11月 3日 (金)

米国雇用統計は先月のハリケーンの反動で雇用者の大幅増を記録!

本日、米国労働省から10月の米国雇用統計が公表されています。非農業雇用者数は前月統計から+261千人増と、市場の事前コンセンサスだった+300千人超の増加には及びませんでしたが、先月の雇用統計に大きな影響を与えたハリケーンからのリバウンドで大きく増加を示しています。他方、失業率は前月からさらに▲0.1%ポイント下がって4.1%を記録しています。いずれも季節調整済みの系列です。まず、長くなるのを覚悟の上で、Los Angeles Times のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

U.S. employers add 261,000 jobs in October as hiring rebounds following hurricanes
U.S. employment snapped back last month after Hurricanes Harvey and Irma depressed payrolls in September, suggesting that the long expansion in the labor market remains solid, according to government data released Friday.
The nation's jobless rate fell a notch further in October, to a 17-year low of 4.1%, although not for the right reason: There was a large drop in the size of the labor force.
The unemployment figure has fallen sharply this year, from 4.8% in January. But even as the labor market has tightened, wage growth has remained stubbornly subdued.
Average hourly earnings for all private-sector workers dropped a penny in October, to $26.53, after jumping 12 cents in the prior month. Over the last 12 months, average pay for workers has risen just 2.4%.
Last month's job growth of 261,000 was less than the 310,000 or so that analysts were expecting, but the September payroll change was revised higher - from a loss of 33,000 jobs initially reported to a small gain of 18,000. Job growth for August also was stronger than previously estimated.
Taking the last three months together, employers added on average 162,000 jobs a month. That is down slightly from last year and the first half of this year, but still well above what's needed to absorb the natural increase in the workforce population.
The storms that swept Texas and Florida took a particularly big toll on employment at restaurants and bars, but most of those losses were reversed last month as workers returned to their jobs.
There was also robust hiring last month at higher-paying professional and business services. Healthcare had a solid month, and manufacturing employment rose by 24,000 across various industries. Manufacturing has added 156,000 jobs since last November, the Labor Department said.

長くなりましたが、金融政策動向も含めて、包括的によく取りまとめられている印象です。続いて、いつもの米国雇用統計のグラフは下の通りです。上のパネルは非農業部門雇用者数の前月差増減の推移とそのうちの民間部門、下のパネルは失業率です。いずれも季節調整済みの系列であり、影をつけた部分は景気後退期です。全体の雇用者増減とそのうちの民間部門は、2010年のセンサスの際にかなり乖離したものの、その後は大きな差は生じていません。

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要するに、9月統計におけるハリケーンの雇用への悪影響のリバウンドが10月統計に出たわけで、さらに加えて、9月統計も非農業部門雇用者数の前月差がマイナスからプラスに上方修正されていますので、9月の雇用者増+18千人と10月の+261千人をならせば、月当たりで約+140千人増ということになります。少しさかのぼってみて、8月の+208千人増には及びませんが、7月の+124千人像を超えた水準といえます。例えば、ハリケーンの影響をもっとも強く受けた産業のひとつである Leisure and hospitality では、9月が▲102千人減の後、10月統計では+106千人増と見事なリバウンドを見せています。ですから、この9月と10月をならしてみた雇用者増と失業率の水準を考え合わせると、おそらく、米国連邦準備制度理事会(FED)が12月の公開市場委員会(FOMC)で利上げ、という市場の予想になるんだろうという気がします。ひょっとしたら、パウエル理事の次期議長への指名も隠し味になっているのかもしれません。

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最後に、時間当たり賃金の前年同月比上昇率は上のグラフの通りです。ならして見て、底ばい状態を脱して少し上向きに転じつつも、もう一段の加速が見られないと考えられてきましたが、それでも、10月は前年同月比で+2.4%の上昇を見せています。日本だけでなく、米国でも賃金がなかなか伸びない構造になってしまったといわれつつも、物価上昇を上回る賃金上昇が続いているわけですから、生産性の向上で物価に波及させることなく賃金上昇を吸収しているとはいえ、金融政策の発動が必要とされる場面なのかもしれません。

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2017年11月 2日 (木)

消費者態度指数は2か月連続で上昇し基調判断は「持ち直し」へ!

本日、内閣府から10月の消費者態度指数が公表されています。前月から+0.6ポイント上昇し44.5を記録しています。統計作成官庁の内閣府では基調判断を「ほぼ横ばい」から「持ち直している」へ上方修正しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

10月の消費者態度指数、4年1カ月ぶり高水準 株高が貢献
内閣府が2日発表した10月の消費動向調査によると、消費者心理を示す一般世帯の消費者態度指数(季節調整値)は前月比0.6ポイント上昇の44.5だった。上昇は2カ月連続。株価上昇などを受け心理が好転した。前月は0.6ポイント上昇の43.9だった。内閣府は消費者心理の基調判断を前月までの「ほぼ横ばいとなっている」から「持ち直している」へ上方修正した。
10月は日経平均株価が2万円を上回って上昇を続けたなか、資産効果などで消費者の心理が改善した。指数の水準は2013年9月以来4年1カ月ぶりの高さとなった。
指数を構成する意識指標は「暮らし向き」「収入の増え方」「雇用環境」「耐久消費財の買い時判断」のすべてが前月を上回った。
1年後の物価見通し(2人以上世帯)については「上昇する」と答えた割合(原数値)は前月より1.3ポイント高い77.5%と3カ月連続で上昇した。「低下する」との見通しは2カ月ぶりに低下し、「変わらない」は横ばいだった。調査基準日は10月15日。調査は全国8400世帯が対象で、有効回答数は5858世帯(回答率69.7%)だった。

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、消費者態度指数のグラフは上の通りです。ピンクで示したやや薄い折れ線は訪問調査で実施され、最近時点のより濃い赤の折れ線は郵送調査で実施されています。また、影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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消費者態度指数については、先日の鉱工業生産指数と同じで、今年に入ってから隔月で上げ下げを繰り返していたんですが、9月10月と2か月連続で上昇を示しました。統計作成官庁である内閣府が基調判断を上方修正したのも理由のあることです。すなわち、引用した記事にもある通り、指数の水準は2013年9月以来4年1か月振りの水準に達していますし、加えて、消費者態度指数のコンポーネントである「暮らし向き」、「収入の増え方」、「雇用環境」、「耐久消費財の買い時判断」の4項目すべてが前月差でプラスを記録しています。もちろん、コンポーネントごとに温度差はあり、前月差では暮らし向きが+0.5ポイント、収入の増え方が+0.7ポイント、の2項目は標準的な上げ幅であるのに対して、雇用環境が+0.9ポイントと大きく上げた一方で、耐久消費財の買い時判断は+0.1ポイントに終わっています。耐久消費財の買い替えサイクルの復活とそれに伴う価格下落のストップが何らかの影響を及ぼしている可能性はありますが、家計消費の源泉である所得を稼ぎ出す雇用環境に対するマインド向上は評価すべきだという気がします。最後に、報道にある株高の影響は、当然に考えられるんですが、どこまでの寄与があったのか、なかったのか、記者会見で統計作成官庁からのリップサービスだけでは、何ともいえない気がします。

来週あたりに、いくつかのシンクタンクから冬季ボーナスの予想が明らかにされることと思いますが、なかなか強いマインドを背景にボーナスがたんまり出ると消費は活気づきそうな気もします。先日10月20日付けで、ニッセイ基礎研の「中期経済見通し」を取り上げた際にも強調しておいたように、現在の消費の低迷は、家計の節約志向や将来不安に伴う過剰貯蓄ではなく、可処分所得の伸び悩みが原因である、と私は考えています。所得のサポートがあれば、消費はさらに伸びると考えるべきです。

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2017年11月 1日 (水)

東洋経済オンライン「志願者数が多い大学ランキング」トップ100やいかに?

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先週10月27日付けで、東洋経済オンラインに「志願者数が多い大学ランキング」トップ100と題する記事がアップされています。トップ100のうちの1~35位を東洋経済オンラインのサイトから引用すると上の通りです。すべて私立大学となっていて、国立大学では65位に千葉大学がランクインしています。我が母校の京都大学は89位だったりします。来年の受験シーズンには、我が家の下の倅は上の表に上げられた35位までにランクインしている大学をいくつか受験するんではなかろうか、という気がしています。

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