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2017年12月23日 (土)

今週の読書は経済書や小説を合わせて計6冊!

今週は経済経営関係の本に加えて、先週はなかった小説も少し読み始め、以下の通りの計6冊です。

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まず、斎藤史郎編著『逆説の日本経済論』(PHP研究所) です。著者は日本経済新聞をホームグラウンドとしていたジャーナリストです。本書では、タイトル通りに、通説もしくは俗説に近い経済学上の説について反論を加えているんですが、そこなジャーナリストらしく、学者さんを中心にインタビューした結果を収録しています。取り上げられているテーマは、「人口高齢化で日本は衰退の道を歩まざるを得ない」、「貿易黒字はプラスで貿易赤字はマイナス」、「株主主権は企業理論の基本である」、「超金融緩和は危機脱出の処方箋」、「円安下の株価上昇は企業業績の改善による」などであり、学者さんや経営者と対にして、いくつかテーマを例示的に並べれば、日本電産の永守重信社長は会社の所有者についての株主至上主義に反論し、マクロ経済学者の吉川洋教授は人口減少ペシズムは誤りと指摘し、財政学者の井堀利宏教授は社会保障給付抑制のための年齢階層別選挙区制の導入を主張し、会社法の専門家である上村達男教授は株主主権論を批判し、日銀副総裁だった武藤敏郎氏は中福祉・中負担は幻想であると喝破しています。私の勝手な読み方かもしれませんが、大雑把に真ん中くらいまで、具体的には、武藤氏のインタビューくらいまではそれなりに中身もあって、読み応えあるような気がしますが、後段になるに従って、やや「トンデモ」の色彩を帯び出し、インタビューそのものも短くなっていったような気がします。それぞれに主張があって、当然ながら、書物としては一貫性ないんですが、インタビューの結果を取りまとめただけですので仕方ない気がします。全体を通して読みつつ、それなりの取捨選択をする目は養っておきたいと思います。

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次に、水口剛『ESG投資』(日本経済新聞出版社) です。著者は高崎経済大学の研究者であり、本書のタイトルになっているESG投資は同時に責任投資とも称され、環境、社会、ガバナンスのヘッドレターを取っています。本書ではあまり出て来ませんが、国連が2015年に決定した持続可能な開発目標(SDGs)とも連携して、長期に渡る企業活動について、原始的な経済学の減速である利潤極大化を排除するわけではないものの、社会的な存在である企業活動について短期的な利潤極大化以外の活動を評価しようとする試みであり、本書のサブタイトルである「新しい資本主義のかたち」まで大風呂敷を広げるつもりはりませんが、その入り口にたどり着くためのひとつの要素かもしれないと私は考えています。従って、企業行動に対しては、単なる自社の雇用や調達だけでなく、いわゆるサプライ・チェーンの中に反社会的な要素、アジアでの調達における児童労働や奴隷労働、あるいは、アフリカにおける公害問題などなどのような例を抱えているかどうかについても自律的に目を光らせる必要があります。ただし、エコノミストとして2点注意しておきたいのは、ESG投資はおそらく企業だけでなく投資家も利する部分があって、決して企業利益とトレードオフの関係にはないと考えるべきですが、逆に、企業利益に余裕あるために、そして、その余裕はイノベーションなどの結果というよりも、独占や賃金圧縮などの決して好ましくない企業行動の結果として生み出されている可能性がある点は、投資家としても目を光らせておく必要があります。第2に、何らかのまやかし的なエセESG活動が横行して投資家の目を欺く可能性がある点です。ひと昔前にISO認証の取得が取引条件のようになったブームがありましたが、ESG活動についてはISO認証のようなサーティフケーションが不十分な気がします。その点を透明性高くESG活動に適用できるシステムが必要そうな気がします。

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次に、及川智早『日本神話はいかに描かれてきたか』(新潮選書) です。著者は古代文学ないし古代史の研究家であり、本書では文学的に文字で古代の神々がどのように表現されて来たか、ではなくむしろ、タイトル通りに、画像的にどのように描かれて来たかについて、雑誌の口絵や挿絵、絵葉書に双六、薬の包み紙などをはじめとする焦点の宣伝文句が記された引札などから絵画的、というか、画像的な描かれ方を研究した成果が収録されています。ですから、そんな紙の史料が残されているのは、せいぜいが明治期以降であり、主として20世紀初頭くらい、あるいは、昭和期以降くらいの画像資料をひも解いています。もちろん、浮世絵などの歴史的な江戸期、あるいはそれ以前の画像もないわけではありません。章別の構成として、イザナキとイザナミにカササギを加えた国作りの神話、ヤマタノヲロチ退治をいかに絵画的に表現するか、因幡の白ウサギの物語に出てくるのはワニかサメか、サルタヒコとアメノウズメによる夫婦和合のめでたい図像、みづらと呼ばれる髪形などを介した神武天皇の画像表現、朝鮮半島に攻め入った神功皇后の描かれ方、などなどです。特に、私が興味深かったのは、因幡の白ウサギに出てくるワニについては、ワニザメであって、日本には古代からワニは生息していなかったハズ、という論考ですが、実際に絵画的にワニの背中をウサギが飛び越える画像も同時に収録されていたりして、とても印象的でした。神話の軍国主義的な利用の話題もなくはないですが、別の面からの神話へのアプローチが中心です。

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次に、伊坂幸太郎『ホワイトラビット』(新潮社) です。著者はご存じ売れっ子のミステリ作家です。仙台在住であり、本書の舞台も仙台です。副業で探偵もやっている空き巣の黒澤の登場するシリーズです。時間的な流れが通常の通りに後に向かうだけでなく、前にさかのぼったりもしますし、また、語り手もパートごとに切り替わるとともに、第三者、というか、いわゆる神の声的な視点が入ったりもして、それなりに複雑で私の場合は読みこなすのがタイヘンだったです。それでも面白いですし、黒澤のシリーズらしく、どんでん返し、というのとは少し違う気もしますが、時間をさかのぼりつつ、ストーリーに関する今までの理解がひっくり返される、というか、作者がおそらく意図的に読者に対して目くらましを仕掛けているわけで、それがキチンと読みこなせれば、とても面白いですし、少なくとも私が読んだところでは、ストーリーや論理に破たんは見られず、仙台市北部の高級住宅街で生じたように見える立てこもり事件は、決して不自然な点がないとはいえないにしても、前後の整合性にほころびなく解決します。伊坂作品の大きな魅力であるシュールでおしゃれな会話、特徴ありつつも少しボケも含むキャラの設定、さらに、ばらまかれた前半部分の伏線の見事なまでの回収が、読んでいて快感を覚えます。しかも、星座のオリオン座の小説の『レ・ミゼラブル』に関するうんちくがアチコチにばらまかれ、今までに登場したことのない、というか、私は今野敏作品以外では読んだことのないSITを警察の中心に据えた伊坂ミステリです。私のようなファンであれば、あるいは、そうファンでなくても、必ず読んでおくべき作品だといえます。

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次に、久坂部羊『院長選挙』(幻冬舎) です。作者は、メジャーさの点では少しだけ海棠尊と仙川環に後れを取っているものの、医療ミステリ分野の売れっ子作家です。私も何冊か作品を拝読した経験があります。ということで、この作品は医療分野を舞台にしているものの、大きな大学病院の院長選挙をテーマにして、医者の人格についてコミカルに描き出しています。まずまず若い女性のノンフィクション・ライターを主人公にし、日本を代表し、医療レベルでは東大をも上回る、ということですから、慶応大学病院のような気もするんですが、まあ、小説ですので架空の大学病院を舞台に、変死した病院長のポストを巡って4人の副院長が選挙戦を繰り広げる、しかも、かなり誇張された医者の人格の歪みを選挙戦に持ち込んでネガティブ・キャンペーンなどを繰り返す、という作品です。院長候補の4人は、臓器のヒエラルキーをモットーとする心臓至上主義の循環器内科教授、手術の腕は天才的だが極端な内科嫌いで風呂好きの消化器外科教授、白内障患者を盛大に集めては手術し病院の収益の4割を上げる守銭奴の眼科教授、古い体制の改革を訴えいいにくいこともバンバン発言する若き整形外科教授、です。『神様のカルテ』などでも、医者は私のような平凡なサラリーマンなどよりも性格的にアクが強い、というか、悪く表現すれば人格的な歪みがある、かのようにコミカルに描き出されていますが、この作品ではさらに徹底して女好きや守銭奴的な性格をパワーアップして設定しています。看護師や検査師などのコメディカルもいっしょになって医者を手ひどく評価したりするんですが、中には高い評価を下す人もいたりします。とても現実とは思えず、それはそれで小説本来のデフォルメされた現実社会の投影なので、面白おかしく読める医療小説です。一応、ミステリになっているんですが、犯人探しは主眼ではありません。

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最後に、神永正博『現代暗号入門』(講談社ブルーバックス) です。著者は、もちろん、暗号の専門家なんですが、本書での表現によれば、日立製作所でのサラリーマン研究者からアカデミックな世界の研究者に転じています。現在の日常生活レベルでも暗号技術というのは重要な役割を果たしており、特に、ネット通販やネットバンキングはいうに及ばず、インターネットを通じた秘匿性ある通信では必要不可欠とすらいえます。その暗号技術について、本書の著者はもちろんディフェンダーのサイドにいるんですが、アタッカーのサイドの情報も含めて、その舞台裏を人名をキーワードにしつつ明らかにしています。本書は5章構成であり、その昔からある共通鍵方式、ハッシュ関数、公開鍵のうちでもRSA方式と楕円曲線方式に分割して解説し、最終章で暗号共通のトピックとしてサイドチャネルアタックについてハードウェアの脆弱性から暗号を解読する技術とその対策を解説しています。経済学部出身の私には、ハッキリいって、、難しかったです。半分も理解できた自信はありませんが、最新の暗号技術について、日々使っているものだけに、それなりの親しみを持つためにも、こういった情報を得ておくのも一案かもしれません。

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