貿易統計に見る輸出は着実に増加し我が国産業の競争力を示す!
本日、財務省から昨年2017年12月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+9.3%増の7兆3021億円、輸入額も+14.9%増の6兆9431億円、差引き貿易収支は+3590億円の黒字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
アジア向け輸出が過去最大 貿易黒字17年2.9兆円
財務省が24日発表した貿易統計速報(通関ベース)によると、2017年の輸出額は16年比で11.8%増え78兆2897億円だった。2年ぶりに増加した。中国を含むアジア向けにスマートフォン(スマホ)に使う液晶デバイスなどを製造する半導体製造装置が大きく伸びた。年間の輸出額は中国、中国を含むアジアともに過去最大だった。
輸出額から輸入額を差し引いた17年の貿易収支は25.1%減の2兆9910億円。2年連続で黒字を確保したものの、黒字幅は縮小した。
中国を含むアジア向け輸出は15.7%増の42兆9252億円、中国向けは20.5%増の14兆8914億円と、ともに2桁の伸びを確保した。けん引役は半導体製造装置で、アジア向けで3割超、中国向けで5割近く伸びた。高機能なスマホやあらゆるモノがネットにつながる「IoT」の普及に伴い、中国や韓国などで半導体の生産能力増強や高度化が進んだ。
米国向け輸出は6.8%増の15兆1110億円で2年ぶりに増加した。大型の自動車の輸出が伸びた。欧州連合(EU)向けも自動車が伸びて8.5%増の8兆6572億円だった。
17年の輸入額は全体で14%増の75兆2986億円となり3年ぶりに増加した。原油価格の上昇を背景に、原粗油の輸入額が29.3%増と4年ぶりに伸びた結果、輸入額を押し上げた。
17年12月単月の輸出額は前年同月比9.3%増の7兆3021億円。日系のメーカーが現地生産を終了した影響で、オーストラリア向けの自動車輸出が増えた。輸入額は14.9%増の6兆9431億円。貿易収支は3590億円と7カ月連続の黒字だが、黒字額は43.5%減った。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。でも、通年の統計が出ると、ソチラに焦点が移り、12月統計は最後のパラで報じられるにとどまっています。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

通年の年次貿易統計にまず着目すると、よく知られている通り、2011年3月の震災から原発が停止し始め、発電向けも含めて石油やLNGの輸入が量的に増加するだけでなく、当時の国際商品市況の動向も石油価格上昇の地合いにあったことなどから、2011-15年まで貿易赤字が続きました。最大の赤字を記録したのは2014年の▲12.8兆円でしたが、その次の2016年には赤字はわずかに▲2.8兆円に縮小し、2016-17年は貿易黒字に戻り、2016年+4.0兆円、2017年+3.0兆円を記録しています。引用した記事にもある通り、2017年は輸出額が+11.8%増加した一方で、輸入額はこれを上回る+15.8%の増加を示しましたので、貿易黒字は2017年には前年から縮小しました。要するに、国際商品市況における石油価格の上昇などから輸入額が増加した結果であると私は受け止めています。アジア向けの輸出が+15.7%増加し、中でも中国向けは+20.5%増ですし、米国向けも+6.8%増、EU向けも+8.5%増を示しており、我が国の輸出は堅調に推移しています。また、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは貿易黒字5300億円でしたので、実績はこれを下回りましたが、特段の懸念材料とも思えません。

輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、繰り返しになりますが、2017年通年の輸出の統計を見ると、引用した記事にもある通り、アジア向けの輸出が+15.7%増加し、中でも中国向けは+20.5%増ですし、米国向けも+6.8%増、EU向けも+8.5%増を示しており、世界で我が国の競争力が示されていると考えるべきです。満1年を迎えた米国のトランプ政権についても、いきなりTPPからの離脱を決めるなど、我が国からの輸出などの貿易を阻害する可能性ある通商政策に対する懸念がありましたが、逆に、減税法案の議会通過により米国景気が上振れて、我が国からの輸出の増加が期待される様相を呈していますし、少なくとも現時点で、未実現だったTPP離脱のほかにトランプ政権の政策が通商阻害要因になっていないと考えるべきです。もっとも、先の話は判りません。アメリカ・ファーストで通商疎外的な政策が台頭する可能性もあります。ただ、それを別にすれば、我が国からの輸出については、先行きも、国際通貨基金(IMF)から示された「世界経済見通し改定」などを見る限り、世界経済も我が国経済も引き続き順調な成長経路をたどると見込まれており、為替動向も安定的に推移していることから、所得面からも価格面からも我が国の輸出は緩やかに増加を示すと期待してよさそうです。
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