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2018年3月31日 (土)

今週の読書は印象的な経済書をはじめとして計6冊!

今週の読書は、オクスファム出身のエコノミストによる経済書をはじめとして、広い意味での歴史を解説した新書2冊を含めて計6冊を読みました。まあ、読書のボリュームとしてはいいセンではないかという気がします。

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まず、ケイト・ラワース『ドーナツ経済学が世界を救う』(河出書房新社) です。著者は英国の研究者であり、長らくオクスファムのエコノミストを務めていました。英語の原題は Doughnut Economics であり、邦訳タイトルはそのまんまです。2017年の出版です。極めて大胆に表現すれば、新しい経済学の構築を模索しています。先週の読書感想文で取り上げたユヌス教授のソーシャル・キャピタルに基づく経済学といい勝負で、基本的には、同じように貧困や不平等、あるいは、環境問題や途上国の経済開発などを視野に入れた新しい経済学だと言えます。それを視覚的にビジュアルに表現したのがドーナツであり、本書冒頭の p.18 に示されています。成長に指数関数を当てはめるのではなく、S字型のロジスティック曲線を適用し、ロストウ的な離陸をした経済は着陸もする、という考え方です。そして、現在の先進国はその着陸の準備段階という位置づけです。同時に、平均的な統計量としての成長ばかりではなく、分配にも目を配る必要があるというのが第7章でも主張されています。また、本書ではこういった視点を含めて7点の転換を主張しており、例えば、第3章では行動経済学や実験経済学、あるいは、ゲーム理論の成果も含めて、合理的な経済人から社会適用人への視点を変更した経済学を志向していたりします。とても素晴らしい視点の新しい経済学を目指しています。先週取り上げたユヌス教授の本とともに、私は2週連続で大きな感銘を受けました。

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次に、木内登英『金融政策の全論点』(東洋経済) です。著者は野村総研のエコノミストであり、本書の基となる公的活動としては、2012年から17年にかけて5年間、日銀政策委員を務めています。とても非凡なエコノミストなんですが、民主党内閣期に就任したものですから、その後の黒田総裁の下の日銀執行部の議案には反対する場面もあり、少し違った見方を示したような気がします。しかし、少なくとも私が認識している限り、公式のボード・ミーティングでは2%のインフレ目標に反対したのではなく、ごく初期の2年間での達成とか、その後の期限を切った目標達成に反対したのであって、いわゆる「拙速批判」ではあっても、2%のインフレ目標に反対したわけではないと受け止めています。本書は3部構成でタイトル通りの内容なんですが、いわゆる非伝統的金融政策、政府からの独立を含む日銀の役割、そして、ごく手短にフィンテックを取り上げています。私が強く疑問に感じたのは、日銀と金融政策をかなり国民生活や日本経済から遊離した観点を強調していることです。政府や内閣からの中央銀行の独立というのはインフレ抑制の観点から先進国では当然と考えるとしても、中央銀行や金融政策がその時々の国民生活や経済状況から無関係に運営されるはずはありません。しかし、本書の著者は、どうもその観点に近く、例えば、本書の著者に限りませんが、日銀財務についてバランスシートを膨らませ過ぎると債務超過に陥る、との指摘がなされる場合があるところ、こういった見方は国民生活や日本経済の実態から遊離した見方との批判は免れません。日銀財務の健全性と国民生活のどちらが重要なのか、もう一度考えてみるべきではないでしょうか。こういった日銀中心史観も、白川総裁時代で終了したと私は考えていたんですが、まだまだ大きな船が舵を切るには時間がかかるようです。

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次に、伊丹敬之『なぜ戦略の落とし穴にはまるのか』(日本経済新聞出版社) です。著者は著名な経営学者であり、一橋大学を退職してから国際大学学長を務めています。本書では、「戦略」というあいまいな表現ながら、何らかの企業行動を実行に移す際の落とし穴について論じています。第Ⅰ部が戦略を考え練り上げる際の思考プロセスの落とし穴、第Ⅱ部が戦略を実行する際の落とし穴、をそれぞれ論じています。具体的には、「ビジョンを描かず、現実ばかりを見る」、「不都合な真実を見ない」、「大きな真実が見えない」、「似て非なることを間違える」、「絞り込みが足りず、メリハリがない」、「事前の仕込みが足りない」などなど、落とし穴にはまるパターンとそれをどのように回避したり、リカバリしたりするかを解き明かそうと試みています。経営学の読み物としてはめずらしく、成功事例と失敗事例を割合とバランスよく取り上げています。でも、相変わらず、私の経営学不信の源のひとつなんですが、結果論で議論しているような気がします。基本はケーススタディですから、現実の事例をいかに解釈するかで勝負しているんですが、成功した例から成功の要因を引き出し、失敗事例からその要因を引き出そうとする限り、その逆はあり得ず、どこまで科学的な事例研究になっているかは私には計り知れません。すなわち、バックワードな研究になっていると考えざるを得ず、成功事例と同じ準備をしたところで、戦略が成功するかどうかは保証の限りではないような気がしなくもありません。

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次に、エミリー・ボイト『絶滅危惧種ビジネス』(原書房) です。著者は、米国のジャーナリストであり、サイエンス・ライターでもあります。本書の英語の原題は The Dragon behind the Glass であり、2016年の出版です。本書で著者はアロワナにまつわるビジネスを追跡するとともに、ハイコ・ブレハなる魚類を専門として前人未到の冒険をしている怪人物とともに、実際に特殊な野生のアロワナを求めて冒険に加わっています。その原資はピューリッツァー研修旅行奨学金だそうです。英語の原書のタイトルは、中国でアロワナを「龍魚」と称するところから由来しています。そして、邦訳本の表紙は、原書を踏襲して赤いアロワナをあしらったデザインとなっていますが、本書では「スーパーレッド」と呼ばれています。また、邦訳書の表紙では頭部が欠けていますが、本書を紹介しているNational Geographics のサイトでは、この真っ赤なアロワナの画像を見ることが出来ます。本書では、ワシントン条約で取引を禁止ないし制限された絶滅危惧種に指定されると、闇市場での取引価格が上昇し、むしろ、絶滅に至る可能性が高い、ないし、早まる、という仮説が提示されています。要するに、絶滅危惧種に指定されると希少性が広く認識されるため、価格が上昇するというメカニズムが発動する可能性は、確かにエコノミストでも否定しないだろうという気はします。そして、絶滅危惧種として指定されると、自然系に存在して、いわゆる野生の種は絶滅に向かう一方で、養殖の種が量産されて、世の中にはいっぱい出回る、と本書の著者は主張しています。そして、養殖の魚類と自然系の野生の魚類は、まったく違う生き物と認識すべきとも主張しています。すなわち、ダックスフントをツンドラに放り出すようなものであると表現しています。そして、本書では絶滅危惧種の魚を巡って犯罪行為が横行しているプロローグから始まって、本書の最終章のいくつかでは、冒険家とともに著者自身がアジアのアロワナを追っています。すなわち、ボルネオでスーパーレッドのアロワナを、政治体制も極めて閉鎖的なミャンマーでバティックアロワナをもとめ、ともに失敗した後、ブラジルのアマゾン川源流でシルバーアロワナを捕獲しています。そのあたりはサスペンス小説顔負けだったりします。

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次に、磯田道史『日本史の内幕』(中公新書) です。著者はメディアなどで人気の歴史研究者であり、今年のNHKの大河ドラマ「西郷どん」の時代考証を担当しているらしいです。書物としては、私は映画化もされた『武士の家計簿』を読んだ記憶があります。また、別の著者ながら、中公新書では『応仁の乱』のヒットを飛ばすなど、日本史の類書が話題となっていて、私の大学時代の専攻は基本的に西欧経済史なんですが、まあ、歴史は好きですので読んでみました。サブタイトルは『戦国女性の素顔から幕末・近代の謎まで』であり、著者が読み解いた古文書を手がかりに、主として、戦国時代に始まって織豊政権期から江戸幕府期、さらに、幕末期にかけての歴史のエピソードが60話以上収録されています。基本的に文学でいえば短編集であり、繰り返しになりますが、著者が読み込んだ古文書から日本史の裏側、というか、決して高校の教科書なんぞでは取り上げないようなトピックを選んで、なかなか興味深く仕立てあげています。

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最後に、小山慶太『<どんでん返し>の科学史』(中公新書) です。著者は早大出身の物理学系の研究者であり、本書のサブタイトル通りに、「蘇る錬金術、天動説、自然発生説」に加えて、不可秤量物質やエーテルなど、近代科学では一度否定されながら、何らかの意味で別の視点から復活した科学について取り上げています。一例として、本書の冒頭で取り上げられている錬金術については、近代科学の基礎を提供したといわれるほどの流行振りだったそうですが、まあ、「賢者の石」が空想的である限りにおいて、少なくとも化学的に混ぜたり熱したりという範囲では金は作り出せないことは科学的に明らかにされた一方で、原子レベルで電子と陽子と中性子を自由に操作できるのであれば金の元素は作り出せる可能性はあるわけで、ただ、市場価格と照らし合わせてペイしない、ということなんだろうと、科学のシロートである私なんぞは理解しています。別のトピックとしては、空間がエーテルで埋め尽くされている、という見方も、ダーク・エネルギーやダーク・マターに置き換えれば、決して的外れな主張ではなかったのかもしれません。アマゾンのレビューがとても高いのでご参考まで。

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