赤字を記録した5月の貿易統計は原油高の影響か?
本日、財務省から5月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比+8.1%増の6兆3233億円、輸入額も+14.0%増の6兆9016億円、差引き貿易収支は▲5783億円の赤字を計上しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
5月の貿易収支、3カ月ぶり赤字 原油高などで
財務省が18日発表した5月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は5783億円の赤字だった。赤字は3カ月ぶり。前年同月に比べて赤字額は2.8倍になった。輸出入ともに増加したが、原油高などを背景に輸入の伸びが上回った。
輸入額は14.0%増の6兆9016億円だった。2カ月連続で増加し、5月としては過去最高となった。原油価格の上昇を受けて原粗油が増加。航空機類や医薬品といった品目の伸びも寄与した。
輸入額を国・地域別でみると、米国、欧州連合(EU)、アジア、中国がそれぞれ5月としての最高額を記録した。原粗油の輸入額は前年同月比28.6%増の6794億円。円建ての輸入通関単価は28.1%上昇した。
輸出額は8.1%増の6兆3233億円。18カ月連続で増加した。自動車や半導体等製造装置の増加がけん引した。
5月の為替レート(税関長公示レートの平均値)は1ドル=109.08円。前年同月に比べて2.1%円高・ドル安方向に振れた。
対米国の貿易収支は3407億円の黒字で黒字額は17.3%減少した。減少は2カ月ぶり。対EUは1238億円の赤字、対アジアは3459億円の黒字、対中国は2802億円の赤字だった。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

上のグラフを見ても判る通り、今年に入ってから、輸出額と輸入額がかなり近接して来ており、従って、貿易収支は黒字になったり、赤字になったりと、決して、従来のように黒字一辺倒とか、赤字一辺倒という形にはなっていません。そして、下のパネルの季節調整済み系列のグラフを見る限り、赤い折れ線の輸入額の伸びが続いている一方で、青い折れ線の輸出額が伸び悩んでいることが貿易収支の動向に寄与していることは明らかです。輸入の増加が続いているのは国際商品市況における石油価格の上昇が要因となっており、例えば、もっとも直近で利用可能な5月統計で、原油及び粗油の輸入額は季節調整していない原系列の前年同月比で+28.6%の増加を見せているものの、数量の伸びはわずかに+0.4%にしか過ぎません。大部分が国際商品市況における石油価格動向に伴う名目値の変動であり、数量ベースでは大きな変動ではない、ということが出来ます。ただし、引用した記事にもある通り、ジワジワと円高が進行しており、輸出入に対する為替の影響が出始めている可能性も否定できません。

ということで、輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。輸出については、今年になってから中華圏の春節効果により大きな変動があった後、OECD先行指数に基づく海外の需要動向を見ると、中国では上り坂、OECD加盟国では下り坂となっています。5月の貿易統計については、4月に船舶の大型案件があった反動を指摘するエコノミストもいますが、2017年のデータに基づいて極めて大雑把にいって、アジアへの輸出が年間43兆円、そのうち中国向けが15兆円、先進国が北米の16兆円と西欧の9兆円を合わせて25兆円ですから、最近時点での貿易収支を見る限り、上向きの中国需要動向と伸び悩む先進国需要がその時々によって我が国輸出に影響を及ぼしている、ということになります。もちろん、中長期的には米国を起点とする貿易制限的な通商政策の方向性も気にかかるところです。
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