雇用保護規制を緩和すると何が起こるのか?
ちょうど1週間前の8月16日付けで、国際通貨基金(IMF)のスタッフによる以下の学術論文が公表されています。
タイトルからかなり明らかなんですが、1990年代初頭から先進国において傾向的に労働分配率が低下しているという定型化された事実につき分析を行っています。先進国26国の1970-2015年における主要な雇用保護法制に関する改革 ("major reforms to employment protection legislation") のデータセットを構築し、こういった改革に対する労働分配率の反応を分析しています。複雑なモデルや差の差分析 (differences-in-differences) などといった推計方法の計量経済学的な詳細については省略して、極めて安直に結論だけを引用すると、「先進国において雇用保護規制の緩和は15パーセントに相当する平均的な労働分配率の低下に寄与した可能性がある」("job protection deregulation may have contributed about 15 percent to the average labor share decline in advanced economies") と指摘しています。
下のグラフは、この論文の p.34 Figure 1. Cumulative Changes in Country Labor Shares Around Reform Years を引用しています。改革実施前後の-2年~+5年における労働分配率の変化をプロットしています。凡例の通り、緑色が改革実施国、赤が現状維持国です。
詳細は論文そのものを読むしかないんですが、格差の観点も含めて、ピケティ教授が展開した R > G の利子率が成長率を上回るため格差が広がったり労働分配率が低下したりする、という見方のほかにも、こういった制度論的な規制緩和の労働分配率低下効果は直観的には私の理解ととてもよくマッチします。ただ、そうでない方も多そうな気もします。歪ませて神学論争に発展させることなく、科学的客観的な分析が要請されます。
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