今週の読書はいろいろ読んで計7冊!
今週の読者はいつも通り脈絡なく読み飛ばして、以下の計7冊です。すでに図書館を自転車で回って来たんですが、来週も同じくらいの分量を読みそうな予感です。
まず、鷲田祐一[編著]『インドネシアはポスト・チャイナとなるのか』(同文舘出版) です。著者は一橋大学商学部の研究者ですが、学生などといっしょに執筆にあたっています。対象となる国は明らかにインドネシアなんですが、一橋大学のアジア的雁行形態論の流れの中で、先行する日本や中国との比較も大いに盛り込まれています。すなわち、日本はポストモダンの位置にあり、中国はモダンからポストモダンへの移行期にあり、インドネシアはモダンの最終段階にあることから、西洋的でまだ画一化された安価な大量生産品が売れる、といった見方です。そして、このインドネシアの歴史的な発展段階を米国マサチューセッツ工科大学のハックス教授らの提唱するデルタモデルなる戦略論フレームワークに沿って説明しようと試みています。私は商学やマーケティングは専門外なので、このあたりでボロを出さないうちに終わっておきます。
次に、小谷敏『怠ける権利!』(高文研) です。著者は大妻女子大学の研究者であり、社会学のご専門ではないかという気がします。本書では、19世紀末に活動したフランスの社会主義者であるラファルグの考えを基本に、1日3時間労働を提唱したり、エコノミストの間では有名なケインズの「わが孫たちの経済的可能性」にも言及しつつ、「過労死」という言葉が世界的に日本語のままで通用するようになった悲しい我が国の労働事情を勘案しつつ、タイトル通りの怠ける権利や1日3時間労働で済ませる方策について考えを巡らせています。そして、最後の方でその解決策のひとつとしてベーシック・インカムが登場します。もともとそれほど勤勉ではないというのもありますが、私も命を失うくらいであれば怠ける方がまだマシな気がします。キリスト教プロテスタント的な勤労の概念に真っ向から反論する頼もしい議論です。
次に、ジョニー ボール『数学の歴史物語』(SBクリエイティブ) です。著者は、想像外だったんですが、コメディアンであり、テレビ司会者の仕事から数学に興味を持ったようです。ただ、惜しむらくは、確かに数学の歴史を追おうとはしているものの、数学ではない物理学や化学、あるいは、天文学などの分野が大いに紛れ込んでいるほか、ニュートンの時代くらいまでの近代レベルの数学にとどまっています。すなわち、ガウスやリーマン、あるいは、ヒルベルトなどの名前こそ触れられていますが、彼らの業績はまったくスルーされていて、リーマン積分の限界を克服したルベーグ積分については人名すら取り上げられていません。中国の数学にはホンの少しだけ触れていますが、目は行き届いていませんし、やや仕上がりが雑な気がします。
次に、前川喜平『面従腹背』(毎日新聞出版) です。話題になったモリカケ問題の主管官庁であった文部科学省の次官経験者の半分くらいの自伝です。かなり、忠実にご自身の半生を追っていますが、間もなく定年を迎える私自身の公務員人生を振り返って、こういった人物と仕事していたら、上司であっても、部下であっても、とてもストレスが溜まったのではないか、という気がします。要するに、「面従腹背」とは私のような京都人からすれば、嘘をついている、日会員証です。でも、公務員としてのトップである事務次官まで上り詰めたわけですので、それはそれで不思議な気もします。
次に、薬丸岳『刑事の怒り』(講談社) です。作者は売れっ子のミステリ作家であり、本書は人気の夏目刑事シリーズ最新刊です。4編の中短編から成り、それぞれのタイトルは「黄昏」、「生贄」、「異邦人」、「刑事の怒り」となっています。冒頭に収録されている「黄昏」だけは、何かのアンソロジーで読んだ記憶がありました。なお、夏目刑事は池袋から錦糸町に異動になり、表紙画像に見られる通り、スカイツリーのあるあたりをホームグラウンドにした捜査活動になります。病院での医療関係者による殺人事件など、場所には関係ないながらも、最近の社会的な事件を背景にした作品も含まれていて、相変わらず、いい出来に仕上がっています。
次に、筒井忠清『戦前日本のポピュリズム』(中公新書) です。著者は引退したとはいえ京都大学の研究者を長らく務めた近現代史歴史学者であり、歴史社会学の方面の大家です。ここ何年かの米国のトランプ大統領の誕生や英国のBREXIT国民投票、あるいは、ドイツ以外の大陸欧州における反移民を標榜する右翼政党の進出など、ポピュリスト的な政治動向が強くなる中で、新書のタイトル通りに、戦前の我が国のポピュリズムを歴史的にひもといています。すなわち、日露戦争直後の和平を不満とする日比谷焼き打ち事件、朴烈怪写真事件、軍縮交渉に関連した統帥権干犯事件、あるいは、高校でも習うような天皇機関説などなど、最終的に国際連盟を脱退し戦争に突き進んでしまう我が国の政治的なポピュリズムの傾向を歴史的に跡づけています。
最後に、マージェリー・アリンガム『ホワイトコテージの殺人』(創元推理文庫) です。作者は前世紀初頭の英国ビクトリ女王時代末期1904年に生まれた女性推理作家であり、この作品の舞台は1920年代後半の戦間期の英国です。1928年の出版であり、この作家のデビュー作です。とても評判が悪い、というよりも、誰からも憎まれていて殺人を犯しそうな動機ある人物が周囲にウジャウジャいる悪漢が銃で殺された犯人探しです。動機ある人物がいっぱいいますので、ホワイダニットは成り立ちそうもありませんし、テーブルクロスが焼け焦げていてテーブル上に置かれた散弾銃での殺人であってハウダニットも明らか、ということで、フーダニットだけが成り立つんですが、推理小説の初期作品で、チンパンジーだか何かのサルだかが人の入れない隙間から入り込んで密室殺人を完成させた、というのがありましたが、この作品もそれに近いです。クリスティのレベルの作品を期待して読むとガッカリします。
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