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2018年10月20日 (土)

今週の読書は貧困に関する経済書をはじめ計7冊!!!

今週は貧困や開発に関する重厚な経済書をはじめ計7冊、以下の通りです。これから自転車で図書館を回りますが、来週はもっと読みそうな予感です。

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まず、マーティン・ラヴァリオン『貧困の経済学』上下(日本評論社) です。著者は、それほど有名ではありませんが、貧困や途上国開発に関する経済学の現場、特に、世銀のエコノミストを長く務め、現在は米国の大学の研究者をしています。邦訳タイトルは英語の原題そのままであり、The Economics of Poverty であり、オックスフォード大学出版局から2016年に刊行されています。上下巻通しでページ数がふられており、注や参考文献を除いても800ページを超える大分な著作です。極めて包括的な貧困に関する経済学を展開しています。通常、経済学は先進国経済を対象にしているんですが、先進国における貧困だけでなく、途上国における貧困や開発の問題も幅広く取り入れています。また、標準的な経済学だけでなく、マルクス主義的な経済学の視点にも配慮しているように見受けられました。ただ、BOXと称するコラムが余りに大量にあり、読みにくくなっている感は否めません。これだけ膨大なボリュームの本を読んでおいて、いくつかのトピックを取り上げるのは気が引けるんですが、ひとつはワシントン・コンセンサスについては肯定的な評価を下しています。まあ、ワシントンにある世銀のエコノミストを長らく務めて、まさにワシントン・コンセンサスを実践していたような人物ですから当然という気もします。また、これも当然のことながら、貧困は個人の自己責任に帰すべき問題ではなくマクロ経済や法制度や社会的な慣習も含めて、幅広く原因が散在しており解決策も多岐に渡る点は強調しています。理論やモデルだけでなく、実践的な個別事案の大作なども豊富に収録されていて、私にはとても勉強になりました。ただ、貧困というよりは開発経済学なんですが、昔から疑問に思っているところで、中国の成長や貧困削減は経済学的にどのように解釈されるのか、解釈すべきか、という問題には答えてくれていません。すなわち、アセモグル-ロビンソン的な inclusive な成長ではないですし、経済が豊かになっても一向に民主主義的な方向への変化は見られません。あの国は経済学の常識が成り立たないのでしょうか?

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/ 次に、服部暢達『ゴールドマン・サックスM&A戦記』(日経BP社) です。著者は、日産の技術者からMBAに留学した後、ゴールドマン・サックスに入社し、投資銀行業務、中でも、本書のタイトル通りにM&Aを中心とする業務に携わった経験がある人物です。なぜ、日産に入社したのかはそもそも不明なんですが、本書の中心となる経験はゴールドマン・サックスで積んだようですので、それなりに興味深い経験ではあります。しかも、私と同じくらいのそれなりの年令に達した人らしくなく、それほど「上から目線」でもなく、割合と、淡々と自分の経験を基にしたM&A活動について明らかにしており、それなりに好感が持てますし、読みやすくもあります。ただ、人生観は公務員の私なんぞと違って、いわゆる「ハイリスク・ハイリターン」型の人生を思考してきたような雰囲気があり、私の理解が及ばない点も少なからずあった気がします。日本の経営については、俗説ながら、ものづくりなどの現場は一流、経営は三流、などと揶揄される場合もありますが、本書の著者はM&A案件で接した経営者、何と、郵政省の事務次官経験者の通信会社社長も含めて、決して米国と見劣りすることはないと言明し、我が国経営者の質の高さも評価しています。おそらく、私もそうなんだろうと感じています。我々公務員もそうなんですが、我が国の経営者がボンクラではここまでの経済大国にはなれなかったでしょうから、歴史によって後付かもしれませんが、我が国企業の経営者は優秀であることは証明されているように私は感じています。繰り返しになりますが、人生観や処世術などの点では、私は理解できませんし、また、仮定を重ねて「ひょっとしたら」という程度のお話しではありますが、何かの歯車が狂っていれば、本書の著者はまったく違った人生を送っていた可能性がある一方で、私のような平々凡々たる公務員は、少々の歯車の狂いには動じない可能性が高い、という点も大いに感じてしまいました。それが人生観、世界観なんだろうという気がします。
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次に、湯澤規子『胃袋の近代』(名古屋大学出版会) です。著者は筑波大学の研究者であり、出版社から判断すれば学術書のように見受けられますが、食に関する近代日本の社会史であり、私のような専門外の一般読者にも十分タメになります。私が見た範囲でも、日経新聞読売新聞毎日新聞、などで書評に取り上げられていて、それなりに注目度が高いのかもしれません。ということで、明治後期ないし大正期の20世紀に入ってからくらいの我が国の食の社会史を跡付けています。ただし、家庭における食事ではなく、学校・工場やあるいは職場の寮の共同炊事、加えていわゆる外食の範囲の一膳飯屋などのいわゆる日常食であって、高級料亭などの非日常食は残飯屋を取り上げる際に登場するくらいです。ですから、地域的には学校や工場などの集中している都市部が中心になります。「同じ釜の飯を食う」という表現がありますが、集団で喫食し、食事だけでなく、文字通り寝食をともにするといった集団生活での食の役割などにも着目しています。もちろん、カロリー摂取だけでなく、衛生面での清潔性の確保も重要ですし、明治維新からの近代化という大きな流れの中で、江戸期にはなかった学校教育の推進や産業化の進展を支える背景としての食事の役割も目配りが行き届いています。細かな点かもしれませんが、在日朝鮮人と内地人とでおかずの盛りが違うとか、大阪で香々、東京で沢庵と呼ばれる漬物があらゆる外食に欠かせなかったとか、それなりに井戸端会議で取り上げることができるトピックも豊かです。

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次に、デズモンド・モリス『デズモンド・モリスの猫の美術史』(エクスナレッジ) です。猫がペットとして飼われ出したのは古代のエジプトという説がありますが、本書では、そのエジプトの猫の少し前あたりから、猫を題材にした美術史を回顧しています。すなわち、古代の旧石器時代の猫から始まって、我が国でも有名な美術家といえるレオナルド・ダビンチを筆頭にマネ、モネ、ゴーギャン、ロートレック、クレー、ピカソ、ルソー、ウォーホルなどなどの猫の絵画を、フルカラーで収録しています。250ページ近くのボリュームに130点余りの猫の絵画を収録して、税抜きながら1900円という価格は、それなりにお買い得感もあるような気がします。ごくごく古代では人間の狩りを手助けする猫の姿も描かれていますが、気まぐれを身上とする猫のことですから、それほど人間の生産活動に役立っている姿は多くありません。中世は魔女とセットにされて迫害されたりもしていたりします。私は基本的に犬派ではなく、圧倒的に猫派であって、今年に入ってからも、3月3日付けの読書感想文で、タッカー『猫はこうして地球を征服した』を取り上げたりしていますし、なかなか本書も愛着を覚えるものです。最後になりましたが、我が日本代表として猫の絵画が取り上げられているのは、浮世絵の葛飾北斎、歌川国芳、菱田春草のほか、近代洋画家の藤田嗣治などです。

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次に、瀧澤弘和『現代経済学』(中公新書) です。著者は中央大学の研究者であり、上の表紙画像に見られる通り、本書の副題はゲーム理論・行動経済学・制度論となっています。ですから、経済学のメインストリームであるミクロ経済学やマクロ経済学にとどまらず、ゲーム理論、行動経済学や神経経済学などの大きな最近の流れを見据え、実験や制度、経済史といった重要な領域についても解説を加えています。多様化した経済社会を分析する経済学の見取り図を示すべく幅広いトピックに焦点を当てています。ただ、私は経済学には、というか、少なくともマクロ経済学には、かなりの有用性があると考える一方で、やや制約を強調しているような気もします。例えば、今週のニッセイ基礎研の中期見通しを取り上げた際に、日銀物価目標は10年しても到達しない、という結論がありましたが、そういったことです。マイクロな経済学が実験経済学の手法を含めて、さまざまな展開をしている一方で、マクロ経済学は政策科学として万能ではないのは当然としても、少なくとも、雇用の確保などでは国民生活に大きな寄与をしている点は忘れるべきではありません。最後に、大きな経済学の流れを展開するには、新書という媒体は良し悪しなんですが、コンパクトに理解するには決して悪くないような気がします。

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最後に、<" title="ジェフリー・アーチャー『嘘ばっかり』(新潮文庫)">ジェフリー・アーチャー『嘘ばっかり』(新潮文庫) です。作者はご存じの英国の国会議員であり、売れっ子の小説家です。この作品は15編の短編を収録していて、それぞれ、時代背景が決して同じではなく、地域的にも欧州内ではありますが、英国にとどまらずフランスやイタリアなどなど多彩な短編を収録しています。特に、今までにない趣向としては、オー・ヘンリーの「運命の道」のように、作家が結末をひとつに決めかねて、3つの結末を用意した「生涯の休日」が目立ちます。ただ、オーヘンリーの短編と違い、というか、短編で有名なサキに近く、すべてがハッピーエンドで終わるわけでもなく、かなり皮肉の効いた仕上がりとなっています。私が最初にこの作家の連作短編集で読んだ『100万ドルを取り返せ!』のように、脱法的に金儲けをする短編、例えば、「上級副支店長」なんかも印象的でしたが、欧州各国の国際性や戦争と平和について考えさせられる「コイン・トス」が本書では私の一番のお気に入りかもしれません。

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