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2018年11月10日 (土)

いろいろ事情があって今週の読書は計9冊読み飛ばす!!!

今週は経済書や話題の小説をはじめとして、計9冊とかなり大量に読みました。というのも、来週の予定を考えに入れると、今週中に読んでおきたい気がしたからです。今週も自転車で図書館回りを終えていますが、諸般の事情により来週の読書はちょっぴり抑える予定です。ついでながら、今週の読書感想文は読んだ本の数が多くて、感想文のボリュームは抑えてあります。

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まず、大矢野栄次『ケインズの経済学と現代マクロ経済学』(同文舘出版) です。作者は久留米大学の研究者です。冒頭のプロローグにあるんですが、「現代経済学の流れのなかで、唯一、現代の世界経済の考え方と経済政策の方向性を変革しうる経済学が『ケインズ経済学』であり、『ケインズ革命』の再認識であると考える」との意識から書き始めていますが、本書の中身は、大学の初学年ではないにしても2年生ないし学部レベルのケインズ経済学の解説に終止しています。それなりの数式の展開とグラフは判りやすく取りまとめられていますが、1970年台に石油危機に起因するインフレと景気後退のスタグフレーションにおいてケインズ経済学批判が生じ、そして、2008年のリーマン証券破綻から再び見直され始めた流れについてはもう少していねいに解説してほしかった気もします。

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次に、ルチアーノ・カノーヴァ『ポップな経済学』(ディスカヴァー・トゥエンティワン) です。著者はイタリアの行動経済学を専門とするエコノミストです。原書はミラノで2015年の出版ですから、ややトピックとしては古いものも含まれていて、逆に、新しい話題は抜けています。当然です。冒頭ではAIによる職の喪失から話を始め、行動経済学のナッジやゲーミフィケーションの活用、クラウドファンディングの台頭についてはやや唐突感もあるんですが、テクノロジーの進歩による情報カスケードによすフェイクニュースの蔓延、ビッグデータの活用、大学教育の変革などなど、どこまでポップかは議論あるかもしれませんが、それなりに興味深いトピックを論じています。繰り返しになりますが、2015年の出版ですので新しいトピックは抜けていますが、概括的な解説としてはいいセン行っている気がします。

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次に、本田由紀[編]『文系大学教育は仕事の役に立つのか』(ナカニシヤ出版) です。8人の研究者によるチャプターごとの論文集です。科研費を利用してマクロミルのネット調査からデータを収集し、かなり難しげな計量分析手法により、タイトルの文系大学教育と実務のレリバンスを探っています。ただ、自ら指摘しているように、あくまでアンケート対象者が役立ったと思っているかどうかのソフトデータであり、ホントに客観的なお役立ち度は計測しようがありません。その上、東大教育学部の研究者と大学院生が半分を占める執筆陣ですから、本書のタイトルの問いかけに対して否定的な回答が出るハズもありません。各章についても、ラーニング・ブリッジングといわれても、教育者により定義や受け止めは違うでしょうし、理系と文系の対比がありませんから、やや物足りない気もします。しかし、奨学金受給者が専門分野には熱心な学習姿勢を示しつつも、正規職員就職率には差が見られない、という計量分析結果については、やや悲しい気がしました。

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次に、持永大・村野正泰・土屋大洋『サイバー空間を支配する者』(日本経済新聞出版社) です。著者3人の打ち最初の2人は三菱総研の研究員で、最後の土屋先生は慶応義塾大学の研究者です。芸剤の先進国に限らず、新興国や途上国でも、国民生活も企業活動も、もちろん、政府に政策も、何らかの形でサイバー空間と関係を持たないわけには行かないような世界が形成されつつあります。そこでは、おどろおどろしくもサイバー攻撃、スパイ活動、情報操作、国家による機密・個人情報奪取、フェイクニュース、などなど、ポストトゥルース情報も含めて乱れ飛び、そしてグーグルを筆頭とするGAFA、あるいは、中国のバイドゥ、アリババ、テンセントのBATなどに象徴される巨大IT企業の台頭が見られます。そして、従来は、国家の中に企業や組織があり、その中に家計や個人が属していたという重層的な構造だったんですが、多国籍企業はいうまでもなく、個人までも国家や集団をまたいで組内する可能性が広がっています。私の専門がいながら、安全保障面でも、米国を始めとして軍にサイバー部隊を創設したり、何らかのサイバー攻撃を他国や他企業に仕かける例も報じられたりしています。こういった中で、サイバー空間の行方を決める支配的な要素として技術と情報を考えつつ、我が国がどのように関与すべきかを本書の著者は考えようとしています。ただ、私としては左翼の見方として対米従属に疑問を持つ見ながら、ここはサイバー空間においては米国に頼るしかないんではないか、という気もしないでもありません。

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次に、ジェイムズ Q. ウィットマン『ヒトラーのモデルはアメリカだった』(みすず書房) です。著者はイェール大学ロースクールの研究者です。英語の原題は Hitler's American Model であり、年の出版です。米国での出版ですから、ドイツで発禁処分となっている『わが闘争』からの引用もいくつかなされていたりします。タイトルから容易に想像される通り、ユダヤ人への差別、というには余りにも過酷な内容を含め、ナチスの悪名高いニュルンベルク諸法のモデルが、実に不都合な事実ながら、自由と民主主義を掲げた連合国の盟主たる米国の有色人種を差別する諸法にあった、という内容です。ジム・クロウ法とか、ワン・ドロップ・ルールなど、1950~60年代の公民権運動のころまで、堂々と黒人やネイティブ・アメリカンは差別されていたわけで、それなりの研究の蓄積もありますので、特別な視点ではないような気もしますが、2016年大統領選挙でのトランプ大統領の当選などを踏まえて、こういった差別をキチンと考え直そうという動向は米国だけでなく、日本も含む世界全体をいい方向に導くような気がします。

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次に、平野啓一郎『ある男』(文藝春秋) です。弁護士を主人公に、林業に従事する中年男性が事故で亡くなったところ、兄が来て写真を見て「これは弟ではない」と言い出し、そこから未亡人の依頼を受けて弁護士の調査が始まります。もちろん、戸籍の違法な取得や交換が背景にあるわけですが、例えば、宮部みゆきの『火車』のように、決して、ミステリとして謎解きが主体のストーリー展開ではなく、登場する人々の人生について深く考えさせられる純文学といえます。調査する弁護士は、まったく人種的な違和感ないものの、在日三世で高校生の時に日本人に帰化しているという経歴を持ちますし、中年以降くらいの人間が過去に背負ってきたものと人間そのものの関係、さらに、『火車』では借金が問題となるわけですが、本作では殺人犯の子供から逃れるための戸籍の違法な取引が取り上げられています。こういった、ひとりの人間を形作るさまざまな要素を秘等ひとつていねいに解き明かし、人間の本質とは何か、について深く考えさせられます。ただし、私はこの作者の作品としては『マチネの終わりに』の方が好きです。でも、来秋の映画封切りだそうですが、たぶん、見ないような気がします。

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次に、三浦しをん『愛なき世界』(中央公論新社) です。作者は私も大好きな直木賞作家であり、私は特に彼女の青春物語を高く評価しています。この作品も青春物語であり、舞台は東京は本郷の国立T大学とその近くの洋食屋さんであり、主人公はT大の生物科学科で研究する女性の大学院生とその院生に恋する洋食屋の男性のコックさんです。まあ、場所まで明らかにしているんですから、東大でいいような気もしますが、早大出身の作者の矜持なのかもしれません。タイトルは、ズバリ、植物の世界を表しています。コックさんは2度に渡って大学院生に恋を告白するんですが、大学院生は研究対象である植物への一途な情熱から断ります。そして、最後は、研究対象である植物への情熱こそ愛であるとお互いに認識し、新たな関係構築が始まるところでストーリーは終わっています。一体、どのような終わり方をするんだろうかとハラハラと読み進みましたが、この作者らしく、とてもポ前向きで明るくジティブな結末です。この作者の作品の中では、直木賞を授賞された『まほろ駅前多田便利軒』などよりも、私は『風が強く吹いている』や『舟を編む』が好きなんですが、この作品もとても好きになりそうです。

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次に、堂場瞬一『焦土の刑事』(講談社) です。終戦の年の1945年から翌年くらいの東京は銀座などの都心を舞台に、刑事を主人公に据えて殺人事件の舞台裏を暴こうとします。終戦前の段階で、東京が空襲された後の防空壕に他殺の女性の死体が相次いで発見されたにもかかわらず、所轄の警察署による捜査が注されて、事件のもみ消しが図られます。そして、その殺人事件は終戦後も続きます。特高警察や戦時下の異常な体験などの時代背景も外連味いっぱいなんですが、最後の解決は何とも尻すぼみに終わります。特高警察や検閲への抗議、あるいは、殺人事件のもみ消しなどは吹き飛んで、実につまらない解決にたどり着きます。大いに期待外れのミステリでした。

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最後に、久原穏『「働き方改革」の嘘』(集英社新書) です。著者は東京新聞・中日新聞のジャーナリストであり、本書は取材に基づき、現在の安倍政権が進める「働き方改革」とは労働者・雇用者サイドに立ったものではなく、残業を含めて使用者サイドに長時間労働を可能にするものだという結論を導いています。そして、最後の解決策がやや寂しいんですが、人を大切にする企業活動を推奨し、「官制春闘」といった言葉を引きつつ、労使自治による雇用問題の解決を促しています。私が考えるに、現在の我が国における長時間労働、いわゆるサービス残業を含めた長時間労働は、マルクス主義経済学の視点からは絶対的剰余価値の生産にほかならず、諸外国の例は必ずしも私は詳しくありませんが、もしも先進国の中で我が国が突出しているのであれば、我が国労使の力関係を示すものであるともいえますし、逆に、政治的に使用者サイドを支援せねばならないくらいの力関係ともいえます。いずれにせよ、長時間労働の問題と現在国会で議論が始まろうとしている外国人労働者の受入れは、基本的に、まったく同じ問題であり、抜本的な解決策の提示が難しいながら、エコノミストの間でも考えるべき課題といえます。

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