今年最後の読書感想文はアジア開発銀行50年史など計6冊!
今年2018年最後の読書感想文のブログです。何といっても目玉はアジア開発銀行(ADB)50年史です。私はドライな人間ですから、どうということはありませんが、熱血漢であれば涙なしには読めない感動モノです。それから、年末年始休みに合わせたわけでもないんですが、何となくフィクションの小説が増えた気がします。いろいろと取りそろえて以下の6冊です。
まず、ピーター・マッコーリー『アジアはいかに発展したか』(勁草書房) です。著者はオーストラリアのエコノミストであり、やや判りにくいタイトルなんですが、上の表紙画像の英語の原題である "50 Years of the Asian Development Bank" にうかがえる通り、本書はマニラに本部を置く国際機関であるアジア開発銀行(ADB)の50年史です。ですから、まあいってみれば、社史と同じで基本的に提灯本ではあるんですが、私の専門分野とも近く、アジア各国の経済発展の歴史をコンパクトに取りまとめていますので、オススメです。歴代の総裁に対する提灯持ちの姿勢は別としても、世銀や国際通貨基金(IMF)などのワシントン・コンセンサスに従った制作決定や業務運営と異なって、アジア開発銀行(ADB)ではもっとアジア的な色彩が強いのは事実ですし、その意味で、本書では世銀・IMFは国際収支への支援であるのに対して、ADBは医療などの社会政策や教育も含めた財政支援を重視した、というのは事実なんだろうと思います。巻末資料も豊富です。
次に、オーナ・ハサウェイ & スコット・シャピーロ『逆転の大戦争史』(文藝春秋) です。著者は2人共米国イェール大学法学部の研究者であり、専門分野は国際法と法哲学ということのようです。英語の原題は The Internationalists であり、2017年の出版です。ということで、中世の絶対王政期から以降の現在までの期間における戦争に関する国際法の歴史について概観しています。オランダのグロティウスによる戦時国際法の確立から、基本的に、勝者の理屈が通る世界だった戦争に関する国際法なんですが、1928年のパリ不戦協定によって、それまでの帝国主義的な領土分割の結果が固定され、それ以降の侵略戦争に対する風当たりが厳しくなった点を跡づけています。その点で、日本も着目されており、満州国の成立とそれを否定するリットン調査団は、そういった世界的な風潮の最初の兆候であったと振り返っています。特に、1928年のパリ不戦協定から第2時世界大戦を経て、戦争や領土獲得を目的とした征服が大きく減じた点をパリ不戦協定の功績として着目しています。私は、進歩主義者として、こういった画期を考えるのではなく、世界の進歩の方向がそうであった、としか思えませんが、まあ、興味深い歴史的論考だと思います。
次に、澤野由明『澤野工房物語』(DU BOOKS) です。私は音楽の方ではもっぱらにモダン・ジャズばかり聞いていますので、この澤野工房という欧州ジャズの、しかも、ピアノを中心に制作しているマイナー・レーベルは当然に知っています。私が聞いたのは、本書でも紹介されているウラディミール・シャフラノフにトヌー・ナイソー、そして、もちろん、山中千尋の初期作品です。シャフラノフや山中千尋はメジャーに移籍してしまいましたが、少なくとも、山中千尋については、私は移籍前後の、澤野工房でいえば「マドリガル」、あるいは、メジャー移籍後のヴァーヴでのデビュー第1弾「アウトサイド・バイ・ザ・スウィング」をもっとも高く評価しています。ジャズのマイナー・レーベルといえば、本場米国のアルフレッド・ライオン による「ブルーノート」、オリン・キープニュースによる「リバーサイド」、ボブ・ウェインストックによる「プレスティッジ」がとても有名なんですが、かのマイルス・デイビスがプレステッジからメジャーのCBSコロンビアに移籍する直前のマラソンセッションなども有名です。それはともかく、欧州のピアノ・ジャズが多いとは感じていましたが、澤野工房が兄弟2人で大阪の新世界と欧州に展開していたとか、元は履き物屋さんだったとか、知らない話題も満載で、とても楽しむことができました。
次に、伊坂幸太郎『フーガはユーガ』(実業之日本社) です。作者はご存じの通りの売れっ子のミステリ作家で、数多くのエンタメ小説をモノにしていて、本書は最新作です。兄優我と弟風我の2人が、誕生日に2時間おきに入れ替わるというオカルト的な現象をアレンジして、優我がそれをテレビで取り上げてもらうべくジャーナリストにモノローグするという形でストーリーが進みます。父親のDVから始まって、暗くてノワールなトピックも盛り込みながら、独特の伊坂ワールドが展開されます。時折挟まれる優我の嘘が混じる旨のモノローグもあって、どこまでがホントで、どこからがウソなのか、瞬間移動もウソなんではないか、と思わせつつ、最後に大きなどんでん返しが待っています。なかなか、痛快でスピード感あふれるストーリーなんですが、ひとつだけ、同じような不可解なオカルト的な現象が生じる西澤康彦の『7回死んだ男』では、「反復落し穴」という独特のネーミングを用いています。本書でも双子の瞬間移動に何か特徴的な名前を付けて欲しかった気もします。
次に、宇佐美まこと『骨を弔う』(小学館) です。今年2018年最大の話題を提供したミステリの1冊ではないでしょうか。ようやく図書館の予約が回ってきました。ということで、小学校高学年10歳過ぎくらいの仲良し同級生の男子3人女子2人の5人による秘密の行動の謎を、その中の1人である男子が解き明かそうと試みます。小学生の男女数名の仲良しグループの再会、ということになれば、スティーヴン・キングの『It』を思い出してしまいましたが、非科学的なホラーの要素はありません。それよりも、私の限られた読書経験の範囲からすれば、柴田よしきの『激流』っぽい気もしなくもありません。それにしても、評判に違わずなかなかの出来の小説です。個々人の名をタイトルにした章に合わせた文体の書き分けはまだしっくり来ておらず、一部に違和感が残るものの、プロット、とうか、構成はとても目を見張るモノがありました。ただ、最終章は蛇足というよりも、ムダそのものです。一気にストーリー全体がウソっぽくなってしまっています。文庫本に収録する際には削除すべきかもしれません。
最後に、湊かなえ『ブロードキャスト』(角川書店) です。作者はご存じ売れっ子のミステリ作家です。とても明るい青春小説です。ただ、主人公が中学3年生から高校1年生の1年足らずの期間ですので、やや幼い気もします。従って、恋愛感情などは表には現れません。ということで、中学まで陸上の駅伝などの長距離走者だった主人公が、高校の合格発表の帰り道で交通事故にあって陸上を諦めて放送部の部活を始め、陸上部の駅伝で果たせなかった全国大会出場を目指す、というストーリーです。主人公は陸上でも、本書のタイトルとなった放送部でも目標となり、よき刺激を受けるライバルや友人に恵まれ、のびのびと高校生活を送ります。ただ、陸上を諦める大きな原因となった交通事故については、もう少し詳細を明らかにして欲しかった気がします。でも、私は今もってこの作品を読んだ後でも、この作者の最高傑作はデビュー作の『告白』だと思っているんですが、一連のモノローグの暗い物語から、次々に新境地を拓く作者に注目しているのも事実です。
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