5か月振りに黒字を記録した貿易統計の先行きをどう見るか?
本日、財務省から2月の貿易統計が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲1.2%減の6兆3843億円、輸入額は▲6.7%減の6兆453億円、差引き貿易収支は+3390億円の黒字を計上しています。原系列の貿易統計では5か月振りの黒字です。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
2月の貿易収支、5カ月ぶり黒字 対中輸出増は春節の影響
財務省が18日発表した2月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は3390億円の黒字だった。黒字は5カ月ぶり。輸出入ともに減少したが、原粗油など輸入の減少が大きかった。中国向け輸出は3カ月ぶりに増加したが春節の日並びの影響が大きい。
輸出額は前年同月比1.2%減の6兆3843億円だった。減少は3カ月連続。米国向け自動車やタイ向けの鉄鋼が減少した。
中国向け輸出額は1兆1397億円と5.5%増加した。増加は3カ月ぶり。1月や2月は中華圏の春節(旧正月)日程の影響が出やすく、1月はその春節の影響で大きく減少した。2月はその反動でプラスとなった。品目別で見ると半導体等製造装置や自動車がけん引した。財務省によると、対中国輸出は1月と2月を合算したベースで2兆979億円と前年同期比6.3%減少した。
輸入額は前年同月比6.7%減の6兆453億円。2カ月連続で減少した。原油安で原粗油や石油製品が減少した。2月の原粗油の円建て輸入単価は8.6%下落した。
対米国の貿易収支は6249億円の黒字で、黒字額は0.9%減少した。減少は2カ月ぶり。
2月の為替レート(税関長公示レート)は1ドル=109円66銭。前年同月に比べて0.4%円安・ドル高に振れた。
いつもの通り、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上下のパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、下は季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。

2月の5か月振りの貿易黒字は、私の目から見て、短期的な要因として、2月の中華圏の春節を見越しての生産調整の反動が2月に現れた点に加えて、国債商品市況の石油価格が徐々に下落する中で石油輸入額が減少しつつある点の2点の影響なんでしょうが、もうひとる忘れてならないのは、2月統計では貿易黒字を計上したとはいえ、中長期的に、先月まで我が国が4か月連続で貿易赤字を記録していた要因のひとつは、世界経済の景気低迷に比較すれば、相対的に我が国景気の減速度合いが小さいという可能性も忘れるべきではありません。後者のこの中長期的な景気局面の視点は見落としがちなので、強調しておく値打ちがあると私は考えています。従って、中華圏の春節という撹乱要因が終了すれば、我が国の貿易収支は安定して黒字に戻る、とは限りません。国債商品市況における石油価格や非鉄金属価格などの影響も無視できませんが、景気局面が世界経済全体の方がより速く悪化しているのは実感として私も感じていますし、我が国景気が世界経済の景気局面に比べて安定的であれば、逆に、その先で急速に日本の景気が悪化する局面が現れて、まあ、表現はおかしいですが、世界経済の景気局面に追いついてしまう場面があってもおかしくない可能性があります。

輸出をいくつかの角度から見たのが上のグラフです。上のパネルは季節調整していない原系列の輸出額の前年同期比伸び率を数量指数と価格指数で寄与度分解しており、まん中のパネルはその輸出数量指数の前年同期比とOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしていて、一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。ただし、まん中と一番下のパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。ということで、現時点での輸出を見る際の注意点は、中国の景気が上向いているにもかかわらず、まだOECD先行指数が前年同月比でマイナスのままですので、我が国からの輸出が減少を続けていて、先進国加盟国の集合体であるOECDの先行指数は前年同月比マイナス、かつ、下り坂でマイナス幅が拡大していますので、我が国の輸出にとっては中国向けと先進国向けのいずれも需要サイドで減少要因となっています。2月の中国向け輸出が伸びたとはいえ、引用した記事にもある通り、1~2月を合算したベースではまだ前年比マイナスのようですから、この先、貿易摩擦ももちろんですが、中国などの新興国も含めて世界経済の景気動向も注目です。
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