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2019年3月16日 (土)

今週の読書は文庫本の海外ミステリをいくつか読んで計8冊!!!

今週は、経済書・ビジネス書は冒頭の自動車に関するCASE革命の本くらいで、ほかは数学は自然科学、さらに昨年話題になった海外ミステリの文庫本など、以下の通りの計8冊です。なお、すでにこの週末の図書館回りを終えており、来週も芥川賞受賞作や海外ミステリを含めて、数冊の読書に上りそうです。なお、来週は経済書もそれなりに読む予定です。

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まず、中西孝樹『CASE革命』(日本経済新聞出版社) です。著者は、自動車に関するリサーチを行う独立の研究機関の経営者であり、ジャーナリストのような面も持っているんではないかと私は受け止めています。タイトルの「CASE」とは、C=接続 connected、A=自動運転Autnomous、S=シェアリング&サービス Sharing and Service、E=電動化 Electric、の4つのキーワードの頭文字を並べたものです。ということで、自動車産業とは20世紀初頭のフォードT型車から始まって、ハイブリッド車や電気自動車が登場するまでは、例えば、レシプロ・エンジンにはさしたる大きな進化もなく、製品としても産業としても成熟の極みであって、コンピュータが登場した電機などとの差は明瞭だった気もしていたのですが、最近になって、ハイブリッドや電気自動車やさらには燃料電池車まで視野に入れれば駆動方式に大きな変化が見られるとともに、ソフト的にも自動運転の実証実験が次々に実行され、死者が出るたびに大きく報じられたりしていますし、さらに、MaaSやカーシェア、ライドシェアなどの自動車を資産として家庭に保有する以外のサービスの提供元として活用する方法の広がりなどが見られます。本書ではそういった自動車の製品と産業としての最近時点での方向をざっくりと取りまとめるとともに、将来的な方向性を2030年くらいまでを視野に入れて論じています。まあ、いつまでの賞味期限の出版か、私には判りませんし、時々刻々と情報はアップデートされるんでしょうが、現時点での私のような専門外の人間にはとても参考になります。特に、タイトルにありませんし、本書でも重きを置かれているわけではありませんが、人工知能=AIの活用が進めば、さらに自動車が大きな変化を見せる可能性が高まります。私自身は今ではすっかりペーパードライバーですが、その昔は自分で運転を楽しむ方でした。でも、自動運転が大きく普及すると、自動車の運転は現時点の乗馬のように、閉鎖空間でマニアだけが楽しむスポーツのような存在になるのかもしれません。その場合、自動車レースなどはどうなるのか、今の競馬のような位置づけなんでしょうか。また、先ほどの電機産業などと対比して、次々と新製品を生み出したイノベーションあふれる業界ではなく、自動車産業が今まで量的にのみ拡大してきたわけですが、ここに来て、大きなイノベーションを体現して産業としても製品としても大きな進化の段階にあり、逆に、今までこういった進化が出来なかったのはなぜなのか、本書のスコープは大きく超えてしまうものの、自動車産業だけでなく、製造業や産業一般のイノベーションの問題としても、私は興味あるところです。まさか、単なる巨大IT産業経営者の気まぐれ、というわけでもないんだろうと思います。

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次に、ミカエル・ロネー『ぼくと数学の旅に出よう』(NHK出版) です。著者はフランス出身の数学者、専門分野は確率論で、本書のフランス語の原題は Le Grand Roman des Maths であり、2016年の出版です。自然科学の分野の学問領域では、いわゆる実験のような科学の実践があるんですが、社会科学、特に経済学では最近流行りの実験経済学などの一部を除けば実験がそれほど出来ないわけですし、また、自然科学でも数学については実験のような実践手段はなさそうに思えます。ということで、本書では邦訳タイトルに「旅」が入っていますが、旅をしつつ、何らかの数学の実践を盛り込もうと試みています。もっとも、実際には数学というよりも物理学とか天文学ではなかろうか、という例も散見されます。ただ、実践的な数学だけでなく、ほかの物理学とか化学などと違って、数学は高度に抽象化されているわけですから、定義、公理、定理の証明に一見すれば少し矛盾があるようなパラドックスなどまで、幅広く数学的な論理性を追求する姿勢も見せています。また、無限小という普通は取り上げないような数学概念を章として独立させて扱い、ピアソン-ジョルダン測度に代わって、極限関数の積分を可能とするルベーグ測度を実にうまく説明しています。また、ゲーデルの不完全性定理についても、無矛盾性と完全性が同時に成り立つことがない、という観点から、これまた実にうまく説明しています。物理学におけるハイゼンベルクの不確定性定理は位置と運動が同時に決定できない、ということですし、経済学におけるアローの不完全性定理は、私の学生時代には非独裁制が排除されないと飲み方が多かった記憶がありますが、現在では推移律が成り立たないと解釈されますし、専門外の私のようなシロートに、こういった判りやすい説明は歓迎です。ただ、最後に、20世紀初頭のヒルベルトの23問題を取り上げるのであれば、クレイのミレニアム懸賞問題についても言及が欲しかった気がします。実践の数学として暗号を取り上げないというのは、それなりの筆者の見識のような気もしますが、ミレニアム懸賞問題は数学実践として欠かせないと私は考えています。

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次に、リック・エドワーズ & マイケル・ブルックス『すごく科学的』(草思社) です。著者はいずれも英国出身で、テレビ司会者と科学ジャーナリストです。英語の原題は Science(ish) であり、2017年の出版です。副題にも見られる通り、SF映画から最新科学の解説を試みており、取り上げられているSF映画と科学テーマを書き出すと、「オデッセイ」から宇宙や他の惑星での生活について、「ジュラシックパーク」から恐竜や遺伝子について、「インターステラー」からブラックホールについて、「猿の惑星」から進化論や遺伝子について、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」からタイムマシンやタイムトラベルについて、「28日後...」からウィルスの脅威やゾンビについて、「マトリックス」からシミュレーション世界について、「ガタカ」から遺伝子やデザイナーベビーについて、「エクス・マキナ」から人工知能AIについて、「エイリアン」から地球外生命体について、ということになります。私も実は感じていたんですが、四次元ポケットから飛び出すドラえもんの道具となれば、かなりの程度に荒唐無稽ながら子供心に訴えるものがある一方で、これらのSF映画に応用されている科学はかなりの程度に大人に対して真実性をもって訴えかける部分が少なくありませんSF映画で科学を語るというのは、ありそうでなかったアイデアかも知れませんし、ジャーナリスト系の2人の著者ですので、科学者が書いた場合に比べて不正確かもしれませんが、それなりに判りやすく仕上がっているような気もします。また、取り上げられた映画について私なりに論評を加えてお口、。私は少なくとも冒頭の2作品、すなわち、「オデッセイ」と「ジュラシックパーク」については原作となる小説も読み、映画も見ていますし、「バック・トゥ・ザ・フューチャー」の映画も見ています。また、ウィルスとゾンビについては「バイオハザード」でお願いしたかった気がします。ただ、シミュレーション社会ということになれば、やっぱり「マトリックス」なんでしょうね。映画化されていないんですが、「リング」の貞子シリーズの「ループ」も悪くないような気がします。最後に、私はジャズファンで、よくCDSのジャケ買い、なんて言葉があったりするんですが、本書については表紙デザインで少し損をしている気がします。もっと壮大な宇宙をイメージするイラストなんぞはダメなんでしょうか?

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次に、ミシェル・フロケ『悲しきアメリカ』(蒼天社出版) です。著者はフランスのテレビのジャーナリストです。対米5年間の経験から本書を取りまとめています。フランス語の原題は Triste Amérique であり、2016年の出版です。タイトルは、レヴィ-ストロースの『悲しき熱帯』 Triste Tropiques を踏まえていることは明らかです。ということで、シリオンバレーの華やかなGAFAといった先進企業や強力な軍隊などの裏側にある米国の素顔、それも決して自慢できるものではない負の面を明らかにしようと試みています。出版社のサイトにかなり詳細な目次がありますので、それを一瞥するだけでもっ十分な気がしますが、まあ、取り上げられている項目はそれほど新規なものではなく、かなりありきたりです。しかも、編集者の能力の限界か、あるいは、著者のこだわりか、トピックが脈絡なく、せめてもう少し章の順番くらい考えればいいのに、と思わないでもありません。取り上げられているトピックは貧困や格差の経済的な問題、黒人やネイティブ・アメリカンの差別の問題、ファストフードなどの食品の工業化による肥満などの健康問題、ラストベルトなどにおける産業の衰退、銃社会における犯罪やひいては戦争の問題、そして、最後に、オバマ前大統領政権下における成果に対する疑問、現在のトランプ政権への批判、などなどとなっていますが、それなりにジャーナリストの取材に基づき、既存文献などからの引用で補強はされていますが、繰り返しになるものの、今までのいくつかの論調をなぞったものであり、新規性はありませんし、加えて、所得格差や貧困などの経済的な問題と薬物や犯罪の問題などが、かなり明瞭にまちまちで議論が展開されているため、これらの問題の本質が総合的に把握されることもなく、悪くいえば、問題の本質をつかみそこねているようにすら見えます。宗教の問題も取り上げられていますが、個々人の価値観の問題と社会的な構造問題は、いわゆる「鶏と卵」のように、どちらがどちらの原因や結果となっているといいわけではなく、一体となって分かちがたく因果を形成しているよう気もしますし、逆に、やはり経済や所得の問題がまず解決されるべきである、というエコノミスト的な見方も成り立ちます。ジャーナリストとして議論する題材を提供したことは大いに評価しますが、やや中途半端で踏み込み不足の感もあります。

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次に、井上章一『大阪的』(幻冬舎新書) です。著者は関西ネタのエッセイで有名な井上センセです。最近では『京都ぎらい』がベストセラーになった記憶があります。本書は、産経新聞大阪夕刊に連載されていたコラムを集めたものです。どうでもいいことながら、東京版では産経新聞は夕刊を出していないような気がするんですが、大阪版では夕刊があるんだと気づいてしまいました。ということで、、上の表紙画像にあるように、基本は、大阪的な「おもろいおばはん」に関するエッセイなんですが、それは1章だけで終わってしまっており、残りの2章から9章は大阪をはじめとする関西の文化一般に関するエッセイです。いつも通りに、さすがに研究者だけあって、調べがよく行き届いています。大阪的な「おもろいおばはん」は中年女性に限ったことではなく、男性も含めて、大阪弁の響きも含めて、ユーモアやウィットに飛んだ会話ができる大阪人あるいは関西人一般に対する印象であり、テレビがそれを増幅している、と著者は分析しています。それから、相変わらず、阪神タイガースに対する鋭い分析が見られ、私も目から鱗が落ちたんですが、関西であっても1960年代くらいまではテレビで放送されるジャイアンツのファンが多数を占めていた、というのは事実のような実感を私も持っています。そして、京都在住だった私の目にはそれほど明らかではなかったんですが、1968年に開局し、1969年から阪神のナイターしあいを試合開始から試合終了まで中継し始めたサンテレビの影響が大きく、一気に関西で阪神ファンが増えた、と分析しています。加えて、1971年からABS朝日放送のラジオで中村鋭一が「六甲おろし」を歌いまくったのも一因、と主張しています。実に、そうかも知れません。私の小学校高学年から中学生のころですので、うすらぼんやりながら、そのような記憶があります。また、神戸と亡命ロシア人の関係については、お節の通り、洋菓子のパルナスやモロゾフなどのロシア名のお店が頭に浮かびます。音楽もそうかも知れません。また、言葉については「がめつい」という形容詞が戦後の造語であって、決して関西伝来の言葉ではないというのは初めて知りました。ちょっとびっくりです。また、芦屋や岡本あたりの山の手の標準語に近い柔らかな関西弁については、今やノーベル文学賞候補に擬せられる村上春樹を上げて欲しかった気がします。

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次に、アンソニー・ホロヴィッツ『カササギ殺人事件』上下(創元推理文庫) です。昨年我が国で出版された海外ミステリの四冠制覇に輝くベストセラーです。著者はヤングアダルト作品を手がけたほか、人気テレビドラマの脚本もモノにしていたりしますが、私が読んだ記憶があるのは、いわゆるパスティーシュばかりで、ホームズものの『絹の家』と『モリアーティ』、ジェームズ・ボンドの『007 逆襲のトリガー』の3冊であり、少なくともホームズものはやや血なまぐさい殺人事件やビクトリア時代にふさわしくない社会風俗なんぞが飛び出して、ちょっと違和感を覚えなくもありませんでした。でも、007ものは、最新映画の主演であるダニエル・クレイグのようなやんちゃな主役であればOKだという気はしました。英語の原題は The Magpie Murders であり、2017年の出版です。邦訳タイトルはほぼほぼ直訳です。ということで、この作品はメタな構造になっており、現代ロンドンを舞台にした出版界の殺人事件と、その出版会社で出しているミステリである約60年前の1955年の田舎の准男爵邸を舞台にする事件の両方の謎解きが楽しめます。本書の宣伝にある「名探偵アティカス・ピュント」というのは、実際には出版会社が出している小説の中で活躍する探偵であって、本書でダイレクトに扱っている現代ロンドンを舞台とする殺人事件は、その作者の担当編集者が謎解きに挑みます。どこまでホントかはやや疑わしいんですが、現代ロンドンの殺人事件と小説中の殺人事件が、ほどよく絡み合っていたりします。近年にない大傑作とは思いませんが、それなりに水準の高いミステリであることは受賞歴から見ても明らかです。

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最後に、ピーター・スワンソン『そしてミランダを殺す』(創元推理文庫) です。『カササギ殺人事件』が昨年の海外ミステリの各賞総なめであったのに対して、この作品は多くのランキングで2位につけていました。作者は長編ミステリ2作目だそうです。英語の原題は The Kind Worth Killing であり、2015年の出版です。邦訳タイトルは、あまりのセンスなさに私は呆れてしまいました。ということで、ロンドンのヒースロー空港のラウンジで出会った男女が男の妻を殺害するという点で意気投合し、米国への帰りの飛行機の中で計画を練る、という出だしで始まります。この女の方がサイコパスなんですが、男の方の浮気されたから妻を殺す、という発想にも少し飛躍があるような気がします。ところが、逆に男が妻の陰謀で殺されてしまい、その妻も同じ実行犯の手で殺され、その実行犯も姿を消す、という極めて複雑怪奇な人間関係の中で、そのカラクリに気づいた刑事が独断で捜査を進めてサイコパスの黒幕を尾行するうちに、刑事の方の異常性が浮かび上がって、などなど、基本的に倒叙ミステリであって、謎解きはほぼほぼないに等しいながら、極めて複雑で不可解な構造が解き明かされます。そして、真相にもっとも近づいた刑事は逆に異常と見なされ、サイコパスの黒幕は無事に逃げおおせる、という結末となるような示唆が示されています。かなりいい出来のミステリなんですが、私が最近ここ数年で読んだミステリの中では『ゴーン・ガール』に類似し、かつそれに次ぐくらいの不可解なミステリだった気がします。最後に、主犯的な主人公を務める女性が逃げ切るというのも似通った結末のように感じました。これまた、『ゴーン・ガール』と同じように、ミステリというよりは、サイコスリラーと呼ぶほうが似つかわしいのかもしれません。翻訳がいいのでスラスラ読めるんですが、映像向きだという気もします。

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