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2019年5月22日 (水)

黒字が大きく減少した4月の貿易統計と2か月連続で増加した機械受注をどう見るか?

本日、財務省から4月の貿易統計が、また、内閣府から3月の機械受注が、それぞれ公表されています。貿易統計については、季節調整していない原系列の統計で見て、輸出額は前年同月比▲2.4%減の6兆6588億円、輸入額も▲6.3%減の1兆2329億円、差引き貿易収支は+604億円の黒字を計上しています。また、機械受注のうち変動の激しい船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て前月比+3.8%増の8688億円を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

貿易黒字9割減 4月604億円、中国向け輸出6.3%減少
財務省が22日発表した4月の貿易統計(速報、通関ベース)によると、輸出額から輸入額を差し引いた貿易収支は604億円の黒字だった。3カ月連続の黒字だが、前年同月に比べると黒字幅は9割縮小した。前月と比べても9割ほど縮小した。注目された中国向け輸出は液晶デバイス製造向けの半導体等製造装置が低迷し、前年同月比6.3%減と落ち込んだ。これを受け、世界全体の輸出額も5カ月連続の減少となった。
世界全体の輸出額は前年同月比2.4%減の6兆6588億円だった。中国向けの半導体等製造装置のほか、タンカーなど船舶輸出の減少が影響した。輸入額は6.4%増の6兆5983億円だった。イランからの原粗油のほか、中国からのパソコンや携帯電話の輸入が増えた。
中国向けの輸出額は1兆2329億円と6.3%減少した。自動車輸出は増えたものの、半導体等製造装置や半導体等電子部品などの輸出減が大きく、輸出額は2カ月連続の減少となった。
対米国の貿易収支は7232億円の黒字で、黒字額は17.7%増加した。増加は2カ月連続。自動車や半導体等製造装置の輸出が増えた。
4月の為替レート(税関長公示レート)は1ドル=111円18銭。前年同月に比べ4.6%の円安・ドル高に振れた。
3月の機械受注、3.8%増 建設機械などの大型受注
内閣府が22日発表した3月の機械受注統計によると、民間設備投資の先行指標である「船舶・電力を除く民需」の受注額(季節調整済み)は前月比3.8%増の8688億円だった。QUICKがまとめた民間予測の中央値(0.0%)を上回り、2カ月連続で上昇した。建設機械などの大型案件の受注があったことが寄与した。
製造業の受注額は前月比11.4%減の3440億円だった。2カ月ぶりの減少で、17業種のうち7業種で減少した。「造船業」で2月に大型案件を受注した反動があったことや「その他輸送用機械」で鉄道車両などの受注が低調だった。
半面、非製造業は13.4%増の5117億円と、3カ月ぶりに前月を上回った。「建設業」で建設機械の大型受注があったことが寄与した。
前年同月比での「船舶・電力を除く民需」の受注額(原数値)は0.7%減だった。受注総額は1.0%減の2兆2542億円。外需の受注額は1兆734億円で、官公需の受注額は1523億円だった。内閣府は基調判断を「足踏みがみられる」に据え置いた。
1▲3月期では前期比3.2%減と、2期連続の減少だった。製造業は7.7%減、非製造業は0.3%減だった。
4▲6月期は前期比15.7%増の見通し。製造業は11.7%増、非製造業は18.8%増を見込んでいる。内閣府によると、5月に表面化した米中貿易摩擦の影響については「織り込んでいない」としている。
2018年度の受注額は前年度比2.8%増の10兆4364億円で、2年ぶりの上昇に転じた。
機械受注は機械メーカー280社が受注した生産設備用機械の金額を集計した統計。受注した機械は6カ月ほど後に納入され、設備投資額に計上されるため、設備投資の先行きを示す指標となる。

長くなりましたが、いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。次に、貿易統計のグラフは以下の通りです。上2つのパネルとも月次の輸出入を折れ線グラフで、その差額である貿易収支を棒グラフで、それぞれプロットしていますが、一番上のパネルは季節調整していない原系列の統計であり、その下の2番めのパネルは季節調整済みの系列です。輸出入の色分けは凡例の通りです。下2つのパネルはともに季節調整していない原系列の輸出数量指数の前年同期比伸び率をOECD先行指数の前年同月比を並べてプロットしています。3番目のパネルは我が国の輸出数量指数とOECD諸国の先行指数のいずれも前年同月比であり、4番めの一番下のパネルはOECD先行指数のうちの中国の国別指数の前年同月比と我が国から中国への輸出の数量指数の前年同月比を並べています。影を付けた部分は我が国の景気後退期です。ただし、3~4番めのパネルのOECD先行指数はともに1か月のリードを取っており、また、左右のスケールが異なる点は注意が必要です。

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ということで、引用した記事にもある通り、季節調整していない原系列の統計で見ると貿易収支は大きく減少したとはいえ黒字なんですが、傾向を把握できる季節調整済みの系列の統計では昨年2018年年央の7月からほぼほぼ一貫して赤字が続いています。例外は、中華圏の春節による撹乱があった今年2019年2月統計だけです。GDP統計の基礎となる経常収支の方は直接投資収益などの第1次所得収支がコンスタントに黒字を稼ぎ出しているので、毎月1~2兆円の黒字を計上している一方で、通関統計の貿易収支は国際商品市況における石油価格の上昇による輸入額が増加しているの加えて、先進各国や中国の景気減速により輸出額が減少しており、差し引き貿易黒字は縮小ないし赤字となる傾向にあります。もちろん、我が国の場合は初期条件、というか、どこに初期条件を設定するかにもよりますが、従来から貿易黒字を計上してきていたので、まだ貿易黒字が縮小する段階なのかもしれませんが、石油価格は再上昇をはじめており、米中貿易摩擦の影響により世界経済の低迷が続けば、この傾向はさらに明確になると考えるべきです。さらにさらに、で、引用した記事の最後のパラにもある通り、円レートは対ドルでやや円高を示しているようですが、対ドルで円高でないとしても、中国の人民元が貿易摩擦の影響などから、かなりの減価を示しており、円レートは対ドルで見るよりも実効レートではさらに円高となっている可能性があります。心理的に株価にもインパクトあるとはいえ、為替相場は直接には貿易と物価に影響が大きいことはいうまでもありません。

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続いて、機械受注のグラフは上の通りです。上のパネルは船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注とその6か月後方移動平均を、下は需要者別の機械受注を、それぞれプロットしています。色分けは凡例の通りであり、影をつけた部分は景気後退期を示しています。船舶と電力を除く民需で定義されるコア機械受注は、季節調整済みの系列で見て、2月の+1.8%増に続いて、3月直近統計では+3.8%増と、2か月連続の増加を示しています。ただし、引用した記事にもある通り、ややイレギュラーな大型案件があったような報道ですし、貿易摩擦の影響の大きい製造業では▲11.4%減、逆に、人手不足の影響の大きい非製造業では+13.4%増と明暗が別れています。また、4~6月見通しを見るとコア機械受注で前期比+15.7%増の2兆9,236億円と見込まれていますが、つい最近のこの5月から再燃した米中貿易摩擦の影響が考慮されていないようですから、かなり割り引いて考える必要があるかもしれません。先行きについては、それほどしっかりした根拠があるわけではありませんが、私の見る限りでは、4~6月見通しのような四半期ベースで2ケタ増が続くとは考えられず、貿易摩擦のため製造業でややマイナス、人手不足のため非製造業でややプラス、といったところでしょから、合わせて横ばい近傍の動きになりそうな気がします。繰り返しになりますが、それほどの根拠はありません。

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