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2019年6月 3日 (月)

順調な企業活動を反映する法人企業統計も米中貿易摩擦の影響はいかに?

本日、財務省から1~3月期の法人企業統計が公表されています。統計のヘッドラインは、季節調整していない原系列の統計で、売上高は10四半期連続の増収で前年同期比+3.0%増の372兆5,204億円、経常利益は2四半期振りの増益で+10.3%増の22兆2440億円、設備投資はソフトウェアを含むベースで製造業が+8.5%増、非製造業が+5.0%増となり、製造業と非製造業がともに伸びを示し、全産業では+6.1%増の15兆6763億円を記録しています。GDP統計の基礎となる季節調整済みの系列の設備投資についても前期比+1.1%増となっています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。

設備投資6.1%増 1-3月期、経常益は同期間で最高
財務省が3日発表した2019年1~3月期の法人企業統計によると、金融業・保険業を除く全産業の設備投資は前年同期比6.1%増の15兆6763億円だった。増加は10四半期連続で、1~3月期として過去3番目の高水準だった。製造業、非製造業ともに増加した。経常利益は10.3%増で、金額は同期間としては過去最高だった。
設備投資は製造業では8.5%増加した。化粧品や自動車向け素材の生産能力増強で化学は42.1%増、建設機械の生産能力増強投資で生産用機械は43.1%増だった。自動車向け部品用投資で金属製品は23.2%増だった。
非製造業の設備投資は前年同期を5.0%上回った。物品賃貸業が建設機械や情報通信機器などリース資産向け投資で47.7%、安全対策投資などを中心に運輸業、郵便業は12.9%増やした。
国内総生産(GDP)改定値を算出する基礎となる「ソフトウエアを除く全産業」の設備投資額は季節調整済みの前期比で1.1%増加した。製造業が前期比1.7%減少し、非製造業は2.8%増加した。
全産業ベースの経常利益は10.3%増の22兆2440億円と2期ぶりに増益となった。原材料コストの上昇で電気機械が31.2%減となるなど製造業は6.3%マイナスとなったものの、18.4%増と好調な非製造業の伸びが補った。イベント効果で来場者数が伸びたサービス業、都市再開発が貢献した建設業などが増益となった。
売上高は3.0%増と10期連続の増収となった。製造業は1.1%増、非製造業は3.7%増だった。
財務省は「月例経済報告の『景気は緩やかに回復している』という経済全体の動向を反映している」と説明した。
一方で、「製造業では少し傾向が変化している」と話し、電気機械で「中国経済の減速から電子部品の生産が減少している」といった声や輸送用機械で「中国向け部品を製造している工場の稼働率が低下している」といった声が出ていると語った。
同統計は資本金1000万円以上の企業収益や投資動向を集計した。今回の19年1~3月期の結果は、内閣府が10日発表する同期間のGDP改定値に反映される

いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がしますが、やや長くなってしまいました。次に、法人企業統計のヘッドラインに当たる売上げと経常利益と設備投資をプロットしたのが下のグラフです。色分けは凡例の通りです。ただし、グラフは季節調整済みの系列をプロットしています。季節調整していない原系列で記述された引用記事と少し印象が異なるかもしれません。影をつけた部分は景気後退期を示しています。

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上のグラフとベースを同じにして季節調整済の系列で考えると、昨年の我が国企業の動向は、マクロ経済とも一致して、2018年7~9月期に豪雨、台風、地震など相次ぐ自然災害により、GDPはマイナス成長を記録し、そのほか鉱工業生産指数などの経済統計も同様の傾向にあったんですが、法人企業統計では経常利益こそ前期から低下したものの、売上げは何とかプラスを維持して伸びを示しており、売上げと利益で乖離が生じた後、基本的に、2018年10~12月期統計でも同様の傾向は続き、季節調整済の前期比で見て、売上げは2018年7~9月期▲0.6%増、10~12月期▲0.7%増と、伸び率は大きく鈍化しましたが、プラスを継続している一方で、経常利益については2四半期連続で前期比マイナスを記録しています。その語、今年2019年に入って少し方向性に変化が見え、売上げがほぼ横ばいを続けていると見ても差し支えない範囲ながら、小さなマイナスを記録した一方で、経常利益は前期比+13.2%と前2期の反動とはいえ、大きな増加を示しています。ただし、製造業の利益はほぼほぼ横ばいの+0.9%増に対して、非製造業が+19.5%増を記録しています。国際商品市況の石油価格が昨年2018年10~12月期に底を打って反転上昇を始めたために、製造業では石油価格に起因するコストアップがあり、非製造業では人手不足に起因するコストアップがあるんではないかと、私は想像していましたが、非製造業では大きく利益幅が膨らんでいます。画期的な生産性の向上が非製造業であったとはとても思えませんが、情報を総合すると、「純粋持株会社」の大幅増益が原系列の統計で前年同期比+251.2%に達しており、特殊要因によって押し上げられた面がありそうです。大和総研のリポートに従えば、この純粋持株会社を除いたベースで見ると、非製造業の経常利益は前年同期比で+3.4%にとどまる、と試算されています。ただ、わずかな差でほぼ横ばいとはいえ、製造業と非製造業でプラスとマイナスに方向が割れたともいえるかもしれません。米中間の貿易摩擦がヒートアップすれば、製造業はさらに逆風が強まる可能性もある点は注意すべきです。

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続いて、上のグラフは私の方で擬似的に試算した労働分配率及び設備投資とキャッシュフローの比率、さらに、利益剰余金をプロットしています。労働分配率は分子が人件費、分母は経常利益と人件費と減価償却費の和です。特別損益は無視しています。また、キャッシュフローは法人に対する実効税率を50%と仮置きして経常利益の半分と減価償却費の和でキャッシュフローを算出した上で、このキャッシュフローを分母に、分子はいうまでもなく設備投資そのものです。この2つについては、季節変動をならすために後方4四半期の移動平均を合わせて示しています。利益剰余金は統計からそのまま取っています。ということで、上の2つのパネルでは、太線の移動平均のトレンドで見て、労働分配率はグラフにある1980年代半ば以降で歴史的に経験したことのない水準まで低下し上向く気配すらなくまだ下落の気配を見せていますし、キャッシュフローとの比率で見た設備投資は50%台後半で停滞し底ばっており、これまた、法人企業統計のデータが利用可能な期間ではほぼ最低の水準です。他方、いわゆる内部留保に当たる利益剰余金だけは、グングンと増加を示しています。これらのグラフに示された財務状況から考えれば、まだまだ雇用の質的な改善の重要なポイントである賃上げ、あるいは、設備投資も大いに可能な企業の財務内容ではないか、と私は期待しています。ですから、経済政策の観点から見て、官製春闘は終了したとはいえ、企業活動がここまで回復ないし拡大している中で、企業の余剰キャッシュを雇用者や広く国民に還元する政策が要請される段階に達しつつある可能性を指摘しておきたいと思います。

最後に、本日の法人企業統計などを受けて、来週月曜日の6月10日に内閣府から1~3月期のGDP統計2次QEが公表される予定となっています。素直に考えれば、設備投資が上方修正されて、それに応じて成長率もわずかながら上方改定されるんではないかと私は予想していますが、また、日を改めて取り上げたいと思います。

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