消費者物価(CPI)上昇率はなぜ縮小したのか?
本日、総務省統計局から8月の消費者物価指数 (CPI) が公表されています。季節調整していない原系列の統計で見て、CPIのうち生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPIの前年同月比上昇率は前月から少し縮小して+0.5%を示しています。まず、日経新聞のサイトから記事を引用すると以下の通りです。
8月全国消費者物価、0.5%上昇 2年1カ月ぶり低調
総務省が20日発表した8月の全国消費者物価指数(CPI、2015年=100)は、生鮮食品を除く総合指数が101.7と前年同月比0.5%上昇した。プラスは32カ月連続だが、2017年7月(0.5%上昇)以来、2年1カ月ぶりの低い伸びとなった。QUICKがまとめた市場予想の中央値は0.5%の上昇だった。7月は0.6%上昇だった。
原材料価格の上昇傾向を受け、菓子類など生鮮食品を除く食料品の上昇が目立ち、全体を押し上げた。人件費の高騰を値上げに転嫁する動きが目立つ外食も、上昇に寄与した。電気代も高止まりが続いているほか、新商品が発売された電気掃除機や冷蔵庫などの家庭用耐久財も上昇が目立った。総務省は「増税前の駆け込み需要が出ているかはわからない」との見解を示した。
半面、大手各社に値下げ圧力が強まっている携帯電話の通信料が物価を押し下げたほか、ガソリン価格の下落も影響した。総務省は、足元で不安定になっている原油価格の動向について「物価に原油価格の動きが反映されるまでにはタイムラグがある。中東情勢を見て動向を短期的に判断することは難しい」とした。
生鮮食品を除く総合では298品目が上昇した。下落は164品目、横ばいは61品目だった。総務省は「緩やかな上昇が続いている」との見方を据え置いた。
生鮮食品とエネルギーを除く総合指数は101.7と前年同月比0.6%上昇した。生鮮食品を含む総合は101.8と0.3%上昇した。トマトやキュウリなど生鮮野菜の値下がりが物価上昇を抑えた。
いつもながら、包括的によく取りまとめられた記事だという気がします。続いて、いつもの消費者物価(CPI)上昇率のグラフは以下の通りです。折れ線グラフが凡例の色分けに従って生鮮食品を除く全国のコアCPI上昇率と食料とエネルギーを除く全国コアコアCPIと東京都区部のコアCPIそれぞれの上昇率を示しており、積上げ棒グラフは全国のコアCPI上昇率に対する寄与度となっています。エネルギーと食料とサービスとコア財の4分割です。加えて、いつものお断りですが、いずれも総務省統計局の発表する丸めた小数点以下1位の指数を基に私の方で算出しています。丸めない指数で計算している統計局公表の上昇率や寄与度とはビミョーに異なっている可能性があります。さらに、酒類の扱いも私の試算と総務省統計局で異なっており、私の寄与度試算ではメンドウなので、酒類(全国のウェイト1.2%弱)は通常の食料には入れずにコア財に含めています。政府の公表数値を入手したい向きには、総務省統計局のサイトから引用することをオススメします。
ということで、引用した記事にもある通り、日経・QUICKによる市場の事前コンセンサスは+0.4~+0.6%のレンジで中心値が+0.5%でしたので、ジャストミートしたといえます。上のグラフから明らかなように、紺色の折れ線で示したコアCPI上昇率、すなわち、生鮮食品を除く総合で定義されるコアCPI上昇率は今年2019年上半期の34月の前年同月比上昇率+0.9%をピークに、ジワジワと上昇幅を縮小させ、8月には+0.5%に達したわけですが、食品とエネルギーを除くコアコアCPI上昇率、上のグラフで赤い折れ線については、同じように4月の+0.4%が高いといえば高いんですが、5月から直近統計が利用可能な8月まで+0.3%の上昇が続いており、コアCPIの▲0.3%ポイントの縮小幅に比較して、わずかに▲0.1%ポイントの縮小と、少し動きに違いがあります。要するに、8月統計までのコアCPI上昇率の縮小はエネルギー価格の影響が大きい、ということになります。ですから、先月7月統計ではエネルギーの前年同月比上昇率は+0.6%とギリギリながらプラスだったんですが、本日公表の8月統計では▲0.3%の下落と、とうとうマイナスに転じてしまいました。前年同月比で見て、ガソリンの▲4.8%下落、灯油の▲1.3%下落が目につきます。ただ、エネルギー価格の動向については、国際商品市況における石油価格の影響が大きく、先日のサウジアラビアの石油施設に対する不可解な攻撃などを見るにつけ、私ごときエコノミストにはまったく予想もつきません。ただ、明らかなのは、10月から消費税率が引き上げられますので、消費税を含む物価上昇率は確実に上昇幅を拡大することになります。なお、日銀が7月31日に公表した「経済・物価情勢の展望 (展望レポート)」では、p.4 の脚注6で、「税率引き上げが軽減税率適用品目以外の課税品目にフル転嫁されると仮定して機械的に計算すると、2019年10月以降の消費者物価前年比(除く生鮮食品)は+1.0%ポイント押し上げられる」との試算を示しています。同時に同じ脚注で、教育無償化政策により2019年度▲0.3%ポイント、2019年度▲0.4%ポイント、それぞれ、押し下げられると見込んでいることも明らかにしています。
従来から、金融政策よりも石油価格に左右されがちな我が国物価動向なんですが、今週になって米国連邦準備理事会(FED)は米国連邦公開市場委員会(FOMC)にて、フェデラルファンド金利の引き下げを決めた一方で、日銀金融政策決定会合では金融政策は基本的に現状維持となっています。消費税率の引き上げを目前に、金融政策は動きようがなかった気もしますが、10月以降の景気も見極めつつ、インフレ目標の達成に必要な金融政策が望まれます。
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